外伝その181『大空中戦3』


――扶桑皇国と日本の連邦は扶桑を日本が振り回す構図が続き、結果的にはGウィッチに依存する体制になってしまった。軍部としてはGウィッチを軸にしたウィッチ組織の再構築を狙っていたが、ウィッチへの無理解が扶桑を却って混乱させた。また、クーデターの粛清人事の徹底が扶桑軍のウィッチ組織そのものをほぼ死に体も同然にしたため、ダイ・アナザー・デイ以来の『Gウィッチ依存』を決定的にしてしまった。坂本達の懸念以上に、日本は粛清人事を徹底したが、その伏線となる、ウィッチの昇進速度を緩めるのを提案するなど、ウィッチの名誉に無思慮な提案がダイ・アナザー・デイ時には既に出されていた。――



――2018年の年末――

日本連邦評議会は荒れていた。野党側代表者がウィッチを『特権階級』じみていると批判し、ジェンダーフリーや自衛官との昇進速度の均等性を盾に、ウィッチの昇進速度を自衛官より多少速い程度にしようと言い出したのだ。当然、扶桑側が反発したが、日本の野党からすれば、ジュネーブ条約の追加議定書、子供の人権条約違反になる存在でしか無いウィッチは邪魔なのだ。しかしながら、現地でのウィッチに対する無理解から来る発言であり、与党代表者からも諌められるほどであった。1945年当時、ウィッチは最低で一桁で志願、19で退役というのがサイクルのペースになっていたが、野党はこれを批判し、ウィッチを『金食い虫』とも批判した。

「我々の世界では、ウィッチは怪異と戦うための重要な戦力である。スタンドオフ兵器など無いし、ウィッチは10代の内しか奮えない力であり、黒江君達のような例は特殊な事例である」

梅津美治郎大将は日本の野党の代表者たちに毅然と言い放つ。国際条約違反の状態になるが、ウィッチの宿命としては仕方のないことだともいう。

「15歳以下のウィッチから軍籍を取り除くにしろ、その後の人事的損失はどうする?ジュネーブ条約の批准は分かるが、軍籍を取り除いたら、彼女達の親たちが暴動起こすよ?」

「軍から放逐すればいいでしょう?」

「士官学校や兵学校も出ている者たちも、かね?」

「私の祖父は陸士を出たが、大学をやり直して自衛隊に入っている!」

「では、どうする?この時代の農村出身者は高校にすら行けない財力だし、大学まで行くと、農村に嫌われ者になる」

「なぜです」

「知恵がつきすぎて、村の規律に疑問を持つからだよ。それに、条約では徴用、募集は軍人や兵士で有って、学生として軍の管理下の組織に居ることは問題にはならないはずだが?そうでなければ、各国の幼年学校や君達の工科学校の存在意義が成り立たないが」

「し、しかし!」

「それに、軍隊生活しか知らないウィッチたちをいきなり準備期間もなしに放逐したら、ベトナム帰還兵どころの問題ではなくなる」

「ベトナム帰還兵は〜……」

「帰還兵はどの戦争でも出る。それにウィッチは年齢がとにかく若いのだ。何の福利厚生もなしにすれば、軍部は国民から信用を無くす」

「敗北者の戦犯の分際で!」

「君は阿呆かね?君の言うことは双子の片割れが犯罪を犯したら、もう片方も裁けというようなものだ」

梅津美治郎は淡々という。顔を真赤にしている野党の代表者はまさに赤っ恥で済まない事態を引き起こしている。

「我々は大日本帝国陸海軍と似ているが、別の軍隊だ。これ以上の侮辱をするなら、貴方を名誉毀損で訴える用意がある」

梅津美治郎に対し、戦犯と罵った彼はその後、トカゲの尻尾切りで代表の地位を追われ、扶桑からの名誉毀損の訴訟で社会的信用も失う。評議会での議席を失うことを恐れた野党から切り捨てられたというべきか。また、野党の存在意義が連邦化による経済の奇跡的回復で希薄化しつつある時代に入った故の切り捨てであった。

「申し訳ありません。ですか、我々も生え抜き女性自衛官からの指摘や世論は無視するわけにも参りません。ウィッチの15歳以下は軍属の学生の身分とし、それまで有していた階級は相当官という形で給与の支払いを続け、数年間の再教育を経て、軍人に移行という形にしましょう。また、現場のウィッチのテストですが、不合格者への救済措置を講じる用意があります」

「そうでなければ困るよ。古参世代のウィッチは佐官に登りつめている。ペーパーテストと面接で悪い成績を出しただけで降格は反感を買う」

与党の代表者が触れた救済措置とは、勤務階級の維持を通達する事、佐官としての実務経験があれば、不合格でも講習という名目で資格を有するという事だ。

「適性検査という名目で行うだけですよ、古参については。実務経験もあるでしょうから、まず合格するでしょう。官僚が目指したのは尉官級の選別で、佐官に及ぶとは思いもよらなかったそうですし」

「やれやれ。おかげで海軍の中堅世代のウィッチが暴発しそうだよ」

山本五十六が愚痴る。

「ところで、その原因になると思われる、あの三人のプロパガンダを何故怠っていたのです?あれほどの俊英なら」

「江藤大佐がスコアを過少に申告していたのだ。彼女に悪気はないことは分かっている」

「おかげで私は尻ぬぐいをせねばならなくなったがね」

梅津も愚痴る。クーデターの発生の大本は江藤の過少申告にあるからで、天皇陛下も流石に苦言を呈したほどだ。

「これは我軍の情報統制の失敗でね。江藤大佐はあの三人を『まだ子供』と見ており、プロパガンダに用いられ始めたから、感状と金鵄勲章は与えてやるが、天狗にならないようにするという思惑を持っていた」

山本五十六の後任として、次期国防大臣に内定していた古賀峯一がいう。古賀曰く、江藤が若松に反論した事の一つとして、『転生者と分かっていたら、好きにさせたし、スコアを余計に盛ってやりました!』という稚拙な反論を挙げた。最も、半泣きで言ったので、若松は『盛るな!報告は正確にだ!』と起こっているが。

「小学生でも、もっとまともな反論で返せますよ。なんですか、その言い訳は」

「転生者と知らしていたら、正確なスコアを報告していたとする言い訳だよ。悪気が無いのは分かっていたが、影響が大きいので、前線送りにしてやった」

「良いのですか?」

「聖上も憂慮した事項なのでね。懲罰は科さないとな。現に、三人の赴任先で影響が生じていた」

「どのような?」

「かいつまんでいうと、300機撃墜のドイツの英雄達が遥かに及ばないとされた三人に、なぜ敬意を払うのかと、部隊で問題になってね。それで三人の往年の実力を見せるための手引きを行ったが、海軍の中堅が『他国への見栄』としか考えておらんのだ」

「なるほど、それで?」

「うむ。おかげで我々はクーデター対策に追われておるのだ。現地の部隊には直接対決の機会を設けるように通達は出したが、本格化する前にこの作戦にもつれ込んだのだ」

501にその通達が伝えられ、乖離剣エアやエクスカリバーを黒江が使った事は否応なしに実力を教えるものである。また、501の場合は黒江が幸いにも、仮面ライダー達とコネクションがあり、彼らの強大さがデモンストレーションされたのも良かった。だが、レイブンズの昔年の威光を知らぬ世代が海軍ウィッチの六割に達していた事、仮面ライダーらの戦いぶりを直接見れないものも多かった事、クロウズ絶頂期の名残りによる、反レイブンズ教育の名残りもあり、海軍は結局、クーデターを防ぎ得なかった。東二号作戦の意図はその防止の意図も多分にあったからだ。

「東二号作戦は陸軍と海軍の教官級の派遣で、黒江君達の交代要員を確保し、なおかつ、彼女達の戦果の突出を防ぐためでもあったのだ。しかし、君らのおかげで、我々はとんでもない不利益を被る」

「海軍として、あの三人の突出した戦果を嫌う理由は?良いではないか、エースの活躍は喜ばしいことだ」

警察庁長官がいう。

「警察庁長官、貴方も知っての通り、海軍航空隊はこれまで、部内で多量撃墜者は認められるが、建前として、個人戦果は求められない」

「海軍は良くも悪くも家族体質が強いんだよ。 だから部隊の戦果は誇るけど一人の武勇を称えるって発想が薄くてな」

「信じられませんな。マスコミにはあれほど宣伝しておいて、個人戦果を讃えないとは」

「国外に武威を示さないと、海軍のウィッチやパイロットが舐められるからだよ。我々もどうにかしようとしているがね」

「なら、金鵄勲章を辞退すればいいのでは?」

「そこが矛盾というものだ、警察庁長官。金鵄勲章はもらいたいという、な。それに積極的なのは陸軍だよ、海軍の戦果は終わりきった後で調整して発表する、陸軍は勝てば兎に角速報する」

「馬鹿げている。だからマスコミに叩かれるんですよ、貴方方海軍は」

「なら、慌てて武功章や功労賞を制定するのは、見栄ですかな?」

「そう言われても仕方ないが、我々としても、戦乱がここまで長引く上、リベリオンと間違いなく血みどろの戦をする羽目になるとは考えてもなかったのだ。金鵄勲章を戦後の授与にする方向になった以上、恩賜の軍刀や感状では釣り合わんのだ。空軍は陸軍の褒章制度を引き継いで作られ、大量に出るが、海軍はいない」

「それに良くも悪くも、って言ったでしょう?陸軍がやるのに海軍がやらないとはどういうことか?って始める連中が出てくるんだ、家族は一緒みたいな感覚で、国を御上を家父長とした一家と捉えるね」

「前時代的発想ですな」

「海軍航空はその矛盾を孕んだ組織なのですよ。だから、あなた達が決定した空軍の編成案が通ってしまった以上、移籍する海軍出身者にせめての名誉を与えたいのです」

「情けないですな。これでは戦国武将以下ですよ」

警察庁長官は鼻を鳴らし、海軍の風土を酷評した。既にメディアスクラムが海軍航空隊の風土に及んでいたこの頃、部内での反論もなされていた。『部内で多量撃墜者は一目置かれているし、統合戦闘航空団への派遣者に限って、スコアの公言を許しているし、全軍布告もしている!』という内容だ。例として、志賀が黒江と揉めた際に、『先輩はプロパガンダに持ち上げられたから、大きい顔していられるんですよ!』と言ってしまい、黒江を激怒させ、約束された勝利の剣を目の当たりにし、何も言えなくなり、『海軍は個人の総合戦績出してないだろうが!』と言われるままに怒られ、そのショックでシェルショックになりそうなほどであったように、拠り所がない自己申告に基づくものでしかない。

「詳報漁れば、誰が何機撃墜してるか判りますが、戦術情報の共有を出来ていないのは問題ですよ、閣下。今からでも空中勤務者の勉強会を開くように動いては」

「うむ…。黒江くんらの赴任先でそれが問題になり、結局は実力を見せないと掌握出来なかったからな。なんとかしてみよう」

「江藤大佐も諸報に記したのに、と愚痴ったように、我が軍は情報統制と共有が出来ないと誹りを受けている。よし、原則、空中勤務者の戦果は速報形式で公表だな。それと東二号作戦の参加者で、帰ってきたものは?」

「あきつ丸が帰港した段階では、予定の七割だと言うことです」

担当者の報告に顔を曇らせる、軍関係者。

「多いな…」

「もともと、数十人を送り込むつもりですので、現地へ強行的に発艦した最古参の10人以外の殆どが南洋に戻って来てしまってます。ウィッチ達が現地でスト起こしたと」

「うぅーむ。行けたのが、三人の元部下だった世代の最古参のみでは、中隊長級の交代は確保出来ても、それ以外が」

「現地からの追加電によれば、もう3人がついたと……」

「焼け石に水ではないか!」

元々は真501の全員の交代分を確保するつもりが、統合戦闘航空団一個分にギリギリセーフな人数では、中隊長級の三交代は叶っても、隊員が足りない。

「それと第三機械化歩兵師団丸ごとが宙に浮いてしまって…」

「あー!どうしてくれる!航空ウィッチは機材込みの40人の増援が13人!機械化装甲歩兵が師団丸ごとが機材ごと宙に浮いてしまったぞ!」

梅津美治郎が激怒する。これにより、現地の機材が枯渇間違いなしである上、敵は最新鋭戦車を多数運用している。それに対抗できるはずとされたなけなしの機材も送れなかった事を意味する。

「我々の陸自の指揮権を一時的にそちらに委ね、今からでもおおすみ型輸送艦でなんとかウィッチを運べるように致します」

「今から、激戦地にどうやって送るのだ」

「おおすみ型輸送艦の搭載艇である、『LCAC-1級』を使い、強行揚陸させるのです。我々は予てから、有事に備えた上陸作戦を練ってきました」

海自と陸自の幕僚長が自信を持って提案したこのプランは有事ということで、連邦評議会で決議され、その護衛に改装前の加賀型戦艦、飛鷹型航空母艦が欺瞞の意図も兼ねて、扶桑から出港、ゲート付近で海自艦隊と合流。数週間前後の予定で行程が組まれ、オペレーション『ビクトリーロード』というコードが自衛隊内で非公式に使われたという。部隊が行った、川を遡っての上陸は当時としては信じられない奇策で、リベリオン軍の戦線の隙を突いたという。




――圭子は自身の元部下達と再会していた。自衛隊から通達があり、そのため、寄り道していた――

「おー!テメェら来たのかー!」

「お久しぶりです、中隊長」

「笹内、お前、68に配属されていたはずって聞いたぜ?」

派遣ウィッチの代表者『笹内さと子』。菅野と同じウラル方面で活躍し、45年では同方面トップエースとして名を馳せている古参で、第1F〜旧64時代に圭子の部下であった。本来は68Fの予定メンバーだったが、箔付けに教員をしていて、東二号作戦に参加を命じられた経緯を持つ。しかし、MATの設立による大量移籍を原因に、同隊の設立がお流れになったため、この事を理由に、新64Fに引き込まれ、圭子の部下に落ち着くのである。

「はい。ですが、どうもMATのせいでそこの設立がお流れになって、加藤中隊長に拾われまして、またお世話になることに」

「中隊長、私もいますって」

「金田!お前もか!」

金田守実。扶桑海事変の初期の撃墜王『篠原弘子』大尉の僚機として名を馳せ、その後は旧64で黒江の中隊にいた経歴を持つ撃墜王。顔に古傷があるウィッチである。

「俺もいますって」

「お、何だ吉野。お前も来てやがったか!」

「はいっ!」

吉野好乃。圭子の護衛を務めていたウィッチの一人で、現在は『B公殺し』の異名で知られた、カールスラント方面のトップエースである。こうした、現在の戦線トップ級が慕うのがレイブンズなのだ。最古参級の教官は現在では現役で一番発言権があるが、部隊長をできる逸材ばかりである。しかし、MATの引き抜きがこうした人材の行き場を結果的に奪い、不憫に思った源田が64に集めていくのだ。彼女達の所属予定部隊がMATの巨大化で立ち消えとなるという悪影響も、新64をキマイラ隊もかくやのエース部隊とした原因である。源田の当初の発想こそ頓挫したが、結果的には日本にアピールできる『最強の部隊』が出来上がった事になる。

「武子の奴、お前らを引き込むつもりか?」

「源田参謀から既にそういう通達が来ました。中隊長、こりゃ中隊長が回される『新64』に入れってことじゃ」

「親父さん、当初のプランが駄目になったから、突き抜ける方向にシフトしたな」

「坂本のやつが反対しなかったって、本当ですかい?あいつにしては」

「いや、口じゃ違うことを言うが、裏じゃ共鳴してるんだよ、あの野郎。だから飛行長を引き受けてる」

「ほー。あいつにしては殊勝だな」

「リバウででかい面してたっていうじゃないですか、あのガキ」

坂本は念のため、Gウィッチであることを伏せるため、前史でのリバウ時代の態度をリバウ航空隊当時は演じていた。その時に源田と違うことを述べていたので、裏で繋がっている事は気づかれていない。彼女達は坂本よりも上の世代かつ、レイブンズの一期から二期下くらいの代のウィッチなので、坂本は子供扱いだ。

「501で苦労した分、大人になったんだろうよ。さて、お前らついてこい。そろそろ智子が帰ってくるはずだ」

「ウィッス」

皆、死線を越えてきたベテランであり、各戦線のトップエースであった経歴を保持する猛者だ。圭子の直接の部下だった者、黒江の部下だった者などがいるが、当時は中隊長の任ではなかった智子に仕えた者はこの場にはいないが、面識はある。最年少で18歳と、ウィッチとしては年齢層がおかしいが、彼女達は黒田の後輩でもあるので、黒田には全員が敬語を使ったりする。

「へー、黒田先輩、元鞘に戻ったんすか」

「綾香の秘書を兼任してるぜ、あいつ」

黒田は黒江の僚機。旧64の在籍者は皆、知っていることであり、元鞘という表現を使うほど、そういうイメージが根付いている。黒江の懐刀であり、事変の頃より暗躍していた、旧64きっての知恵者。圭子と彼女達の会話は凄まじい。

「旦那は赤松の姉御に可愛いがられてたけど、
今でも?」

「今は若の姉御がご執心だよ」

「マジかよ、あの姉御、旦那にご執心?」

「江藤隊長は哀れにも、姉御の怒りを買って、家が半壊だってよ」

「そんなに!ストイックな姉御のキャラでもなさそうだけどなぁ」

当の黒江は首をかしげているが、近頃は若松が自分に入れ込んでいる事の理由がわからない。ある時、黒江が『あじあ号に乗りたい』と言ったら、コネがある坂本に頼み込み、一等車のチケットを送るほど入れ込んでいる。若松が入れ込んでいる理由は圭子や智子でもわからず、知っているのは、同期の赤松のみである。実は若松の妹が黒江そっくりであるという、バルクホルンと同じ理由である。年が離れていたので、溺愛しているのもバルクホルンそっくりであり、赤松は分かっていて、若松を煽っている面があるが、流石に江藤を泣かせるほど怒ったのは予想外であった。


「状況は聞きましたが、混沌としてません?」

「21世紀の連中のご機嫌伺いをせにゃならねぇからな。だから、笹内、テメェらみてぇな腕利きが必要にされたんだ」

「分かっていますよ、中隊長」

圭子は元・部下達からはかつてと同じく、中隊長と呼ばれている。最も、立場はかつてと同じ中隊長で落ち着くので、変わらないが。

「しかし、何かの縁だな。テメェらとまた組むたぁな」

「中隊長はまだいい方じゃないですか。黒江の旦那なんて、審査部の存廃に絡んだから、前線で使い倒され通しじゃないですか」

「まーな。あいつの事は聞いたな?」

「ええ。忍者ですか、あの人は」

「あたしもだが、容姿は今じゃ意味をなさないぜ。好きに変えられるからな」

「あの時から中隊長達はぶっ飛んでましたから、もう驚かないっすよ」

吉野が言う。レイブンズに直接仕えていた世代の中で若い部類に入っていた彼女達も、今や最古参になっていた。それ故、海軍ウィッチの叛乱は止められないのである。レイブンズの威光も今や昔、ということだろうが、日本連邦にとっては都合が悪かった。それも、海軍ウィッチの悲劇であった。時代が英雄をまた求める時代になった事。それも反レイブンズ教育世代の悲劇である。

「さて、この辺だな」

パァっと光が走り、歪んだ空間から智子と門矢士が出てくる。用事を終えたらしい。

「あれ、圭子と……貴方達!?」

「知ってるのか?」

「昔の部下。圭子の愚連隊にいた連中よ」

「久しぶりですね、穴拭さん」

「貴方達が交代要員なの?」

「明野の教員してたら引っ張り出されたんですよ」

「うっそ、貴方達がトップなの、今は」

「ええ。私らは命令に背いて出て来たんで、除隊届を突きつけてから強行発艦したんですよ。同調したのは、同世代の連中しかいなかったんで、あの時と同じ面々に」

「……カールスラントが対抗して、52JGの連中を集めるはずだわ」

「本当は40人で、陸の機甲師団もついてくるはずだったんですよ?だけど、日本の滅茶苦茶な命令のせいで、13人ですよ」

「まぁ、あの時の面々が揃っただけでも良しとしましょう。宮藤理論第一世代の意地を見せてやろうじゃない」

やってこれた面々は第一戦隊から旧64時代を通して仕えた最古参であり、レイブンズの威光を間近で見てきた最年少世代である。それとその子飼いのウィッチが四人前後、慕ってついてきているので、世代的には18から21歳までと、ウィッチとしては高齢だが、経験値が溜まった世代である。そのため、事を知ったカールスラントが元52JGの面々を集めたのである。

「あ、智子さん。一人、ジャクがついてきちゃったみたいです」

「え?子供連れてきたの?」

「15の初陣のガキなんだけど、俺の部下の新人。ついてきちゃったみたいだ」

飛行中の仲間から連絡が入ったらしい吉野。

「しゃーないわね、面倒見ましょう。で、その子はどこの隊?」

「あー、11Fらしいです」

「503のあの子がいた部隊ね。綾香が顔効くから、断り入れておくわ」

「お前も大変だな」

「大変よ。激戦に新人は出したくないけど、芳佳の例もあるし、使ってみるわ」

智子は士にそう返す。芳佳のように、新人がすぐに戦力を担った例は数多いので、とりあえず使ってみると。

「そう言えば、守実。源田さんがマークしてる新人の身辺調査は終えた?」

「はい。服部静夏。現在、海軍兵学校三回生。成績優秀、この期で坂本が目をかけてる唯一無二の人材」

「あれ?三回生って事は三年生よね?」

「教育課程が在籍中に変わるので、実戦に出すために、三年生扱いにした世代です」

「ややこしいわね」

「一年半の在籍を終え、さあ卒業だーってところに、課程変更が言い渡された世代ですから、この世代は兵学校としての最後の代です」

46年には統合士官学校へ移行する予定であるため、海軍兵学校と陸軍士官学校卒の経歴がつくのは、現在に在籍中の期の世代が最後だ。

「うーん。坂本には?」

「伝えました。私からの電話だってんで、あの子、驚いてました」

「やれやれ。ついてきた子が当たりなことを祈ろう」

「まー、私らについてこれるから、少なくとも素質はあるかと」

こうして、第一戦隊からの古参達が集結しつつあるが、その中には、かつて、海援隊で名を馳せた、『鈴木穂積』の第二子『鈴木鷹穂』という人物がいた。世代的には黒江の二期下で、海援隊を祖母の代から支える家柄でありながら、軍隊に入った酔狂な人柄のウィッチである。容姿は穂積の若かりし頃の面影を彼女の子では最も色濃く受け継いでいるが、闘志は母親が霞む武闘派であり、海援隊に入るのではなく、軍隊に入った。そのため、旧64にも在籍していた。


「中隊長、第二陣、到着しました」

「鷹穂。お袋さんには断ってきたのか?」

「殴り合いになりました」

「あ、やっぱな」

海援隊への入隊が約束された家柄で、敢えて軍隊に入った。そのハンデもあり、姉妹たちから異端視された彼女だが、皮肉にも、姉妹たちの中で最も母親の生き写しに成長した。しかも海援隊要人護衛部の長の子でありながら、最前線で戦い、レイブンズに仕えた世代の中で俊英とされた。これは純粋に彼女の努力であった。そのため、30年前の母親と現在の彼女では、所属軍(彼女は陸軍に入った)以外は母親と瓜二つだ。

「親父さんは?」

「今はハワイの分艦隊で仕事ですよ。お祖父さんが家を潰してからは、借金返済に親父、奔走していたんで」

「海援隊も大変だよな。日本にあれこれ押し付けられて」

「レーダーやら船の年式の取っ替え引っ替えとかで、才谷さんが愚痴ってますよ」

「あそこ、第一次までの払い下げが多数派だし、比較的状態がいい古い艦隊型駆逐艦がやっとって感じで、空母の運用ノウハウもないからな」

海援隊は民間軍事業者故に、空母の運用にはまだ至っていなかったが、この後、海保長官が問題を起こした事で、半ば強制的に装備更新を迫られていく。そのため、多大な出費を強いられた才谷商会は、海保長官の喚き散らしに配慮し、海援隊実働部隊を第二海軍化させる事を決断し、戦時中からは第4の海防組織として知られていく。

「ええ。だから苦労してる感じですよ。空母の買い取りが上手くいかないみたいで」

「護衛空母が尽く、日本郵船に買い叩かれたからな」

「飛鷹型は諦めたみたいですね」

「元々、向こうの飛龍相当の空母として使うつもりで改造したから、新造船作ったほうが安いんだよ」

日本郵船は強引に飛鷹型の買い取りを迫り、海軍の関係者と口論になったが、もはや客船に戻せないので、泣く泣く諦め、他の護衛空母を大金払って買い戻して行ったので、海援隊向けの空母がないのだ。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。自由リベリオンの正規空母増産で不要になった護衛空母を払い下げしてくれたのである。そのため、その艦級で空母運用ノウハウを得た海援隊は戦争が激しくなる頃、雲龍型の行き場となるのである。空母の建艦競争が起こり、主力が史実信濃級以上の規模へと大きくなるからだ。

「母さんが見たら、今の戦にブルるでしょうね」

「今は分隊支援火器やアサルトライフルで弾をばらまくのが正義だしな」

穂積の若かりし頃はボルトアクション式が主力であり、機関砲も新兵器だった頃だ。だが、今は一歩兵がアサルトライフルやバトルライフルを有し、重機関銃や分隊支援火器で弾幕を張るような『生産力』がモノを言い、火力で敵を叩き潰す時代である。(最も、海援隊は陸戦装備の近代化では、同時代の陸軍より先んじていた歴史はある)その時代だからこそ、レイブンズの武勇が理想化されるのである。特に、レイブンズは自衛隊の近代戦術や戦略を扶桑に齎した張本人であり、黒江など、自衛隊でレンジャー資格を得たほどである。(防大在籍時、陸自が欲しがったほどに適正があったため。実際に戦時中、空挺団に仕込まれ、ますます凄いことになる)そのレイブンズが中世時代以前を彷彿とさせる『一騎当千』を実現させる。近代軍事組織の人間である三人が一騎当千を行うことは、英霊頼りという扶桑への悪評を吹き飛ばすに足る事実だ。

「だから、海軍連中が馬鹿考えるんですよ。近代軍事組織でそこまで飛び抜けて強いのはいらないって」

「かー!あいつらの村意識は反吐が出るぜ。このベレッタでど頭ぶっ飛ばしてやりてぇ」

「あれ、中隊長。そのベレッタ、新型?」

「正確にはベレッタじゃねーよ、ハンドメイドだ。似てるけどな。既成品じゃあたしの欲求満たせねぇから、ハンドメイドしてもらった。ベレッタのパーツ使ってるから、似てるのは当然だな」

圭子はこの時期には、ハンドメイドでわざわざ、『ソードカトラス』を用意するほどにガンクレイジーぶりが板についていた。ベースはベレッタでなく、PT92である。青年のび太が銃身の選別を行い、敷島博士が製造した凄い代物である。のび太は銃身のすり合わせのため、仕事で馴染みのガンスミス『デイブ・マッカートニー』に試作に相応しい製造精度のベース銃を見極めてもらうなど、入念な工程を挟んで、敷島博士が製造した。質の良いパーツが集められたため、命中率も既成品を遥かに超えており、今や、『扶桑軍の狂気』、『死刑執行人』、『二丁拳銃』の異名を持つ圭子のシンボルである。

「知り合いにちょっとネジが外れてるイカレポンチジジイの博士がいてな。そのジジイに用意してもらった。これ見せたら、ガキ共がびびった」

「ソードカトラスのエンブレム入れてて、ロングバレルの自動拳銃をこれ見よがしに見せりゃ、最近の子供はびびりますって」

圭子はキャラをオープンにしたら、501の若手から恐れられたが、元ノーブルのリベリオン組からは何故か『姉御』扱いである。

「タイ語の(まじない)文も雰囲気出してるしな、ハハッ!」

「ほんと、アンタ、二丁拳銃ねぇ」

「ギョーギのいい母ちゃんキャラだけじゃツマンネーだろ?」

転生しても、概ねキャラの変化が最小限の智子と、転生で針が振り切れた圭子の対比であった。圭子は今回、広報部で猫を被っていたか、記憶の封印がされていた時期を除いては、一貫してこの二丁拳銃キャラを維持している。マルセイユが『戦闘になると、ケイが張り切ってこわーい!』とハルトマンに愚痴る手紙を何通か出したが、黒田とのコンビはマルセイユとライーサすらドン引きレベルに強かったのだ。それは元部下たちには知れ渡っており、一同は諦めの境地である。そのため、この時期の連合軍の人事査定は『温厚そうな顔つきだが、一皮剥くと戦闘狂であるので、とにかく前線で戦わすべき』とされるほどで、モントゴメリーは『あいつは二丁拳銃を持つと、とにかく怖い』と人事記録に書き残している。モンティは三将軍の中で圭子のこの姿に最初に気づいたので、文章には恐れを垣間見せている。狙った獲物は逃さないという、デューク東郷張りの思想も影響し、『味方には優しいが、敵に認定されたら生き残る術は無い』と言われるほどだが、その例外がいるとすれば、デューク東郷くらいであり、圭子も『ゴルゴとだけはやりたくねぇ』と言っている。そのため、のび太が余計に高評価されるのだが、普段のうだつの上がらなさを知っているため、どうにも『大物』と見れないとぼやいている。のび太は大人になったら、静香に頭が上がらないため、周囲から『うだつの上がらない若手環境官僚』と見られている。だが、ゴルゴとかち合う時もあるため、『やりたかぁ無いけどかち合ったらしょうがないじゃない?』といい、ゴルゴものび太の存在を知ると、珍しく警戒するので、のび太は裏世界では、『ゴルゴに伍することが可能な超一流の掃除屋の日本青年』として知られる。

「ダチの銃使いを追っかけてるんだけどよ、どうにも大物と見れねぇ」

「?」

「いや、そいつのガキの頃から知ってるから、泣き虫で意気地なしで、ノロマのイメージが強くてよ、大人になってもなぁ」

「あー、分かります」

レイブンズ共通の認識だが、のび太の強さは認識してはいても、小学生時代のイメージがついて回るため、どうにも大物と見れないという理由を明らかにする。第一印象はついて回るが、のび太青年は小学生時代の面影を色濃く残しているため、圭子達はのび太を大物と見るより、友達と見ているらしい。だが、その『うだつの上がらない』雰囲気が刑事コロ○ボよろしく、成功の秘訣である(仕事時はハリー・キャ○ハンだが…)また、調に銃の知識を仕込み、後に現れる調Bを涙目にさせる。Aが『44マグナム』を持って見せ、ハリー・キャラ○ン張りに煽ってみせるからだ。Bは『月読』が名字であり、『月詠』の名字を持つAとは違う気質の持ち主である事、異なる成長を遂げた事もあり、シンフォギア姿でも、通常兵器を使用するAに恐れを持つようになる。(Aは騎士/兵士であるので、どのような武器でも使用する)その際に、切歌Bが目を回し、調Bはその違いに呆然となるのであるが、その元凶がのび太である事を知ると、のび太に抗議したとか。



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