外伝その199『GET WILD5』


――地球連邦軍はダイ・アナザー・デイの屋台骨を支えていた。部隊のみならず、資材を提供し、連合軍を支えていたのである。連合軍はダイ・アナザー・デイが膠着状態に入ったのを期に、ブリタニア本土から新鋭戦艦を回航し、撃沈されたアンソンの穴埋めを行っていた。アンソンはラ級「モンタナ」に敗北し、撃沈されたのだが、比較的新型の戦艦が失われた事が、チャーチルの怒りに火をつけた――

――連合軍参謀本部『サンダーボール』――

「アンソンの穴埋めに、できたてホヤホヤの新型艦だと?」

「チャーチル閣下肝いりだよ。最も、我々としては想定内の損害だが」

「キングジョージは軍縮条約の申し子だからな」

参謀本部では、第一回目の海戦でアンソンが失われた事を『想定内』とするほど予測されていたことであるのが分かる。キングジョージは機関性能が設計想定より悪い、バルバス・バウを導入していないために速力も出にくい(良く言えば保守的)。そういった技術的難点が多く、ブリタニアの機関技術が当時の水準から言えば、遅れ気味という事を示している。また、キングジョージの建造時は軍縮条約を推進したせいで、リベリオンや扶桑に差をつけられ始めており、扶桑が大和を作った事はブリタニア海軍を憤慨させた。大和は軍縮条約を気にせずに『移動司令部』を意図して大型化したため、扶桑も当初は積極投入は意図していなかった。しかし、艦娘大和が活躍した事、大和の艦影を目撃されたことで、レイブンズが主砲以外のスペックを扶桑での数値ではなく、日本側の数値でリークしたことが各国海軍を慌てさせた。そのため、キングジョージ以外は対大和を意識しての開発だった。無論、キングジョージの上位艦としてライオン級は用意されていたが、ブリタニアとしては、大和の真のスペックの前に『見劣りする』と判明したのが政治的打撃と取られた。無論、扶桑も日本との接触で『改大和型戦艦の設計案の『バイタルパートの装甲削減』を鬼の首を取ったように批判されたのだが。(これで造船技術者の心に火がついた扶桑は性能の強化に針が振り切れ、ついには21世紀の熱核兵器でびくともしないフネに行き着く)扶桑は批判を受け、改大和型戦艦の案を放棄し、次期戦艦の試案である超大和を復活させ、空母の大型化路線確定に困惑する空母閥を尻目に、大艦巨砲主義の極致に行き着く。その結果が三笠であり、播磨であり、それらを超える『敷島』である。

「扶桑は大艦巨砲主義の針が振り切れていないか?」

「空母の大型化で水上艦隊一個を養う以上の維持費がかかるからと言って、戦艦に金を注ぎ込んだそうだ。おかげで主砲はとうとう56cm砲だ」

「56cmだと!?」

「おまけにいざとなれば、衝撃波砲機能も使えるそうだから、攻撃力は下手な原子力潜水艦以上だ」

「で、結局、問題になった装甲は?」

「装甲を未来の超合金にして、多重空間・複合装甲にしたそうだ」

「贅沢だな」

「日本を納得させるには、熱核兵器に耐える防御力を持つのが条件だそうだ」

参謀たちは、三笠から敷島に施された防御力がこの時代からすれば、オーバースペックそのものである事に言及する。熱核兵器に対する異常な怯え。そもそも海上の戦術兵器に熱核兵器を使うことは非効率とされていた。長門が犠牲になった実験の結果、戦艦は熱核兵器の直撃に耐えうる。放射能汚染を考えると、21世紀の熱核兵器は使用が封じられているに等しいため、三笠型やレトロフィットされし大和型は21世紀の兵器では致命傷は与えられないのだ。

「やれやれ。熱核兵器に耐えられる防御力など、過剰性能だと思うが…」

「日本は映画やアニメのイメージに毒されているのさ。特に戦艦や重巡が絶えた世界だしな、向こうは」

「やれやれ。ミサイル万能論ってやつか?」

「ミサイルは戦艦のような目標は想定外だし、重巡が対応できる限界だ。向こうはミサイルで致命傷を陸奥にも与えられない事に憤り、海上幕僚長を更迭しようとしたそうだ」

「信じられんな」

「結局、自衛隊の対潜能力と最新技術による対空能力が加えられた戦艦は撃沈そのものは甚だ困難だと判明して、向こうも種別のBBを復活させたそうだ。重巡はミサイルへの換装を提案してきたが、結局、艦砲とミサイルの組み合わせで落ち着いた。問題は超甲巡だ。戦艦寄りにしようとする動きがある」

「なぜだ?」

「アラスカ級が中途半端だったから、どうせ似たような事になるとかで…。それで60口径16インチの研究を進めさせているそうだ」

「あれは巡洋艦で指揮しきれない規模の水雷戦隊や空母の直掩目的で造ったはずだ。なぜ戦艦に先祖返りさせる」

「アイオワと鉢合わせしたらどうする!…だそうだ。向こうは悲観的すぎる。いくらコテンパンに叩き潰された過去があるからって…」

日本は『お前たちが楽観論に縋ったせいで、都市は焼かれ、300万の人々が死んだんだぞ!』と責め立て、何かの分野で相手を圧倒しないと気が済まない質を持っており、これが超甲巡を戦艦に先祖返りさせようとする動きに繋がっていた。超甲巡は速力重視のため、250mの船体を持っており、長門型戦艦より長さでは上回っていた事もあり、機関を強化し、砲を砲の換装限界である『41cm砲』まで強化するプランが現実味を帯びていた。これは現代海軍の水雷戦隊旗艦に重巡以上の大きさの船は過剰であるとする例が南米にある事から、戦艦枠に放り込もうとしたからである。しかし、超甲巡の装甲は昨今の流行りである『16インチ対応防御』ではないため、部内では非現実的なプランとされている。(元々が12インチから13インチ対応であるので)そのため、戦艦サイズの重巡と考える扶桑と、『ここまでデカイと巡洋戦艦や』の日本財務省とで一悶着が起こっている。そのため、妥協案として『主砲は換装しないが、基本14in対応で機関部が16in対応可能な複合装甲化』というプランになり、フェイルセーフとして、戦艦に打撃を与えられる対艦ミサイルを装備することで決着した。竣工時は直立式マストだったが、ミサイル装備時に改装大和型と同型のマストに交換され、外観的偽装の意図が図られる事となる。

「どおりで、超甲巡の投入が見送られたはずだ」

「ミサイル装備のテストに手間取っているようだ。魚雷装備予定場所に対艦ミサイルを置こうとしたらしいがな」

超甲巡は日本では魚雷装備は見送られたが、扶桑では採用されており、酸素魚雷が装備される予定であった。そこにミサイルランチャーを置こうとしたが、余裕が思ったより無く、VLS方式になり、改装が必要になったので、ダイ・アナザー・デイには間に合わないとされた。そのため、主砲のさらなる換装前である大和型を二隻、新鋭戦艦である播磨型をどうにか動員したのが実情である。播磨と越後は三連想五基の砲塔であり、第一砲塔が水をかぶる心配がある。そのため、第二生産ロットでは主砲が一基反対向きにされている。(波をかぶるなどの問題が韓国遠征などで判明したため、三番艦以降は修正された図面で建造される。改良型は高雄型重巡洋艦の配置が参考にされたという。)

「その代わりに播磨型を?」

「能登はラ級に切り替えられそうだが、美濃は間に合ったからな。プロメテウスの護衛艦として使う」

扶桑も艦隊増援として、播磨型三番艦になった美濃(三連装四基案だったが、美濃ともう一隻も土壇場で五基の維持案になった)を送り出した。350mの船体を持ち、当時世界最大級の戦艦。そうプロパガンダされている。美濃は主砲配置が高雄型重巡洋艦を参考にされており、その大まかな配置を受け継ぐ。この配置は成功であり、まるっきり高雄型重巡洋艦の配置であり、防御力の相対的向上に繋がった。そのため、大和型の発展形である事が容易に分かる播磨と越後と比較し、『戦艦になった高雄型重巡洋艦』の体裁を持つ。(改装後の大和型と同デザインだが、コンパクト化された艦橋構造物などの特徴もあり、高雄型重巡洋艦の乗員の転属先にもなった)そのため、能登の完成は待ち望まれていたが、ラ級への転用予定に回されたため、単艦で出撃となったわけだ。(他の同型艦は工事が60%台であった)美濃は主砲塔を四基に減らす案が有力であったが、土壇場で五基維持に切り替えられたための高雄型重巡洋艦の配置を登板させたという経緯がある。主砲配置の改良は必須だったからである。播磨と越後はオーソドックスな配置であるが、問題がないわけでなく、前部第三砲塔付近が『弱点』である。その改良のためと、砲塔を減らすメリットが無いのと船体の配置修正で大きくバランスを変えずに済む選択を扶桑艦政本部と地球連邦軍が取った船体が高雄型重巡洋艦の配置を参考にする事だった。これは用兵側(宇垣纏などに代表される大砲屋と言われし提督)が『火力・火力・か・り・ょ・く!』という意見を強固に持っていたせいである。(『…然るに大火力を持って殲滅するのが良策かと』とする参謀も多い)最も、三連装五基のインパクトは強く、韓国への軍事制裁では『大和より強くて砲の数が多い!』と有無を言わさない圧力に繋がったりしている。そのため、砲の数を減らすメリットはないとされた。その論調を強く推したのが、扶桑海軍の大砲屋が時代を担うエースと期待する『大田勲』少将。扶桑海軍の海兵44期。松田千秋の同期である、当時としては若めの提督である。小柄でガッシリした四角い顔のやたら怒鳴るが部下や同僚に気遣いを忘れぬ男。だが、生来の大雑把さと不器用さから理解される事は少なく、同期の松田千秋が理解者であった。副官は優男で、ストレスが溜まるとキレる『信師幹保(しんしみきやす)』中佐。大田少将に振り回されている男で、気弱な性格だが、キレると怖いと評判で、芳佳曰く『ああいうタイプの扱いはたいへんなんだよねー』との事。なお、彼等の配置はダイ・アナザー・デイ時点では、二水戦司令部で、同隊司令の経験者の田中頼三中将は『配置間違っとる』とぼやいたというほど、大田少将は砲撃フェチであるからだ。経歴もバリバリの大砲屋であり、かつては長門や陸奥の砲塔長の経験すらある。その経験上、俗に言う赤レンガの勤務経験は皆無ながら、少将に出世できたのは奇跡とは、井上成美の談。ミッドチルダ動乱がなければ、大佐止まりだったろうと宇垣纏も言っており、ミッドチルダ動乱での海戦時に何かかしらの戦功を立てているのは確実である。

「大田少将が美濃の艦長を志望されたそうだが、二水戦に決まったばかりなので、駄目になったそうだ」

「ああ、あのマッド・アドミラル」

「あの人、不思議な経歴の持ち主で、下駄履きを自分で動かすほどだ。美濃に乗りたがったそうだ」

「同期の松田提督が今、手柄を立てておられるからな」

マッド・アドミラル。それが大田勲のあだ名で、機銃指揮官から出世していき、パイロット資格も有している経歴からマッドとあだ名されている。『俺に撃たせろぉぉぉ!』というのも日常茶飯事で、砲術の天才と若き日には謳われた。

「あの人、下駄履き自分で飛ばすから零観で司令部に突撃しかねんぞ」

「なんで自分で飛ばせるの?」

「艦長拝命する前の一時期基地水偵隊の司令やってて教わって資格取ったとか」

「で、神通嬢はなんと?」

「頼むから水雷突撃してくださぁ〜い!とか言って泣いとるそうだ」

大田の着任以後、砲撃一辺倒になってしまい、水雷突撃の訓練の機会が減ったため、艦娘神通は涙目である。大田のアクの強さに振り回されるのは神通としては珍しい。そのため、パイロット資格を取り、ロスマンと風神雷神コンビを組む川内はかなり気楽な立場だが、妹の神通は心労で胃痛の日々だ。二水戦といえば水雷突撃。田中頼三や木村中将の頃はその訓練に明け暮れたのだが…。

「川内嬢は気楽だよなー」

「三水戦だった上、今は64に頼まれて現地でパイロットしてるから、アイドルしてる妹よりも気楽に動いてるんじゃないか?」

那珂が広報部付きで多忙なので、長姉の川内が一番気楽な立場におり、ロスマンと風神雷神コンビを組んで、ちゃっかり撃墜王の名誉に預かっている。川内は『北島雷奈』という名を変身時には使っており、紫電改のマキ世界で立場を得ている。そのため、最近は元の容姿に戻っても、学ランを羽織っている。ロスマンに付き合ったためだが、最近は板についたのか、ロスマンを『風神』と呼び、ロスマンも川内を『雷神』と呼び合い、黒江に爆笑されている。伯爵は、ロスマンがスケバンになりきったのを『父親に勝つためと、ひかりちゃんって子に冷たくしたってアニメの場面で落ち込んだせいだよね』と分析し、ハルトマンに伝えている。ある意味、ロスマンが矢島風子になりきったのは『享楽家としての自分を知ってもらいたい』強い願望もあったからで、実際に風子としては、享楽的な面が多く出ている。伯爵はロスマンの変化を『アニメを気にしすぎなんだよ、先生』としつつ、父親の厳格さには同情している。ロスマンは本来、教え子に基本的に優しかったので、アニメでの『教え子が一人潰れただけで、新人を遠ざける』描写を父親に見られる事を恐れていた。父親も教育畑にいた軍人だったからだ。士官学校入校拒否やアニメの事が知られ、父親に折檻された時、智子が助けた。それ以来、智子に心酔している。智子はハルカが仕事の時は落ち着いてくれた事に安堵しているが、ロスマンに心酔されたのは意外な出来事だった。そのため、智子はロスマンを遊撃隊に引き入れ、現在では幹部に食い込んでいたりする。それを聞いた黒江は『やったね!智子ちゃん。遊撃隊メンバーが増えたよ!』とあーや時の声色でからかい、智子は『おいバカやめろ』と変身時の声色でツッコんでいる。ロスマンは立場は黒江に近いが、智子の信奉者者になったため、色々複雑である。また、艦娘日向に『私と瑞雲の素晴らしさを説こう!』と智子共々誘われている。日向は瑞雲大好きが高じて新興宗教でも立ち上げそうな勢いでハマっており、陸奥が『ホンモノだわ…』と引くレベルである。(長門はなんと、ハマり始めていた)陸奥やビスマルクなどからは『なんとかしてぇ〜!』と泣きつかれており、智子はロスマンを引き連れ、日向を止めようと画策中だ。なお、止められるはずのタカオは『日向を止めるのは任せたわ!』と、小学生のび太の授業参観を理由に逃亡しており、智子は『あんの乙女プラグイン重巡ー!』とキレていたりする。タカオのお目付け役の伊402はこれに苦笑いで、イオナの双子の姉妹らしい風貌と声だが、かなり人間臭く、『諦めろ、智子…』と言い、『アンタ、イオナと違って俗っぽいわねぇ』と言われている。双子の姉妹であるイオナが神秘的雰囲気を持っているのと対照的に、妹の402は『俗っぽい』。主婦のような性格で、面倒見がいい事から、お母さんと言われやすい。また、イオナと同じ声色なので、ミーナ(まほ)の愛でる対象に入っており、レイブンズに『お前らなんとかしてくれー!』と泣きついている。イオナが紋切り型の物言いなのに比べると、ジョークも織り交ぜる『人間味』があるので、イオナより接しやすいとレイブンズに好評である。そもそも伊400型姉妹は三つ子であり、イオナは401、402は末の妹だ。強いキャラがあるため、最近はレイブンズに重宝されており、イオナの影武者としても活動するなど、活発に行動している。また、元々、タカオや瑞鶴のお目付け役である事から『お母さん』とあだ名されており、野比玉子の前に『タカオの母』を名乗って顔出しもしたほどだ。因みに、彼女たちの実艦に当たる『伊400型潜水艦』は日本では伊405潜まで起工されており、ウィッチ世界でも、409潜までが既に起工済みだったし、403潜から405潜までは訓練中であった。日本側は所謂、潜水空母が過渡期のカテゴリであること、静粛性の問題から、『そうりゅう型潜水艦に置き換えて』退役と予定を立てた。だが、水上機(晴嵐)でなく、ウィッチ運用前提に改設計されており、その発進方法はVLSに酷似していた事から、ウィッチ閥の猛反対があった。ウィッチ輸送に潜水艦を使うのはウィッチ世界では普通の選択肢だが、ヘッジホッグやスキッドなどの対潜兵器の登場を知る日本側が強引に差止めた(後に、リベリオンがアスロックで大量にウィッチ輸送艦運用のガトー級を失う)。21世紀基準のアスロックや対潜ヘリを大量に配備する事などから、潜水艦でウィッチ輸送は避けたかったのだ。(富嶽などを母機にする、パラサイトウィッチが増えたのもそれと時を同じくする)海自型潜水艦ばかりを揃えると、時間がかかるため、旧軍式潜水艦で一番マシな性能である400型を近代化し、ウィッチ運用能力の構造を応用し、攻撃潜水艦に改装する艦と、ジェットストライカー運用ウィッチを配置する潜水空母としての二通りのプランがこれから実行される。B案は軍のウィッチ組織保全の名目を成立させるための捨てプランと見なされていたが、ウィッチ閥が時代と共に、Gウィッチ閥に吸収される過程でGウィッチを戦場に送り込む手段の一つとされていく。

「今は近代化があちらこちらで行われているからな。南洋島で高速道路が造られ始めてるし、本土も用地買収に入ったし、青函トンネルも計画策定に入ったそうだ」

「弾丸列車は?」

「本土に爆撃機を近づけなきゃいいとして、向こうの新幹線をベースにするそうな」

「で、どこを走らせるんだ?本土は電化がまだ…」

「電化が進んでる南洋で試験して、その間に本土路線を改良して、浦塩と樺太まで走らすそうな?」

「MSを使って一気にやるのか」

「おそらく。東海道新幹線は来年に着工し、山陽が50年くらいの着工を見込んでいる。用地買収を数年で済ませてかららしいからな」

「東海道はえらくスムーズだな?」

「元は昭和30年代をめどに東海道新幹線を通す計画だから、予め買っといたそうな」

「問題は山陽、博多、北海道か」

「それらは50年代に開業させたいそうだ。そのために軍の予算は減らすそうな」

「大丈夫か?」

「どうせ戦時になれば、予算額は増えるから、減らされたとは感じないさ。臨時予算も刷るだろうしな」



当時、扶桑は大正末期からの夢であった弾丸列車計画をかなり具体化させており、爆撃による変電設備の破壊を恐れた軍部の要請で、蒸気機関車であるあじあ号の発展形を使うつもりであったが、軍部が日本の強烈な圧力で要請を引っ込めたことで、日本新幹線が使われる事になった。(つまり、野党などが本土爆撃は軍部の怠慢と叩いたのだ。衛星軌道のミサイルすら迎撃できる弾道弾迎撃網を持ち込む、戦闘機のジェット化で阻止できるとしたためだ。そのため、弾丸列車は扶桑新幹線と名を変え、新幹線車両前提の幹線として整備されていく。史実と異なり、朝鮮半島に繋げない事などの点もあり、路線整備や扶桑用車両の製造などから、10年から20年単位のスパンが予定された。また、新幹線を扶桑で通らすテストのため、南洋島横断鉄道に2019年時点での標準新幹線『N700系』を走行させてみる、また2019年には廃用されつつある『E4系』を主な試験車両に用いるなどの試験が行われる。扶桑向けは技術格差や現地の保守の観点から、0系の図面を提供する案が有力であったが、扶桑の技術が思ったより高い事から、一世代新しい100系の図面の提供に変わる。扶桑新幹線は0系ではなく、100系からのスタートというのにマニアから賛否両論だったが、あじあ号からして史実より高性能なため、0系では物足りないだろうという結論に達したという。(後に開業記念と称し、0系新幹線のレプリカを走らせたが、大盛況だったという)扶桑が戦時になり、青天井の予算を与えて路線を敷設していった事、南洋島横断鉄道の機関車に老朽化した個体が生じ始め、その代替車両が必要な事から、南洋島横断鉄道が事実上の試験路線の役目を果たす。また、本土の輸送量増強の意図もあり、『E4系新幹線』が世界を渡る最初の新幹線となった。意外なことだが、雪に対応するため、200系後期型ベースの新幹線が扶桑本土で一番最初に使用される新幹線となった。路線の改良と敷設の関係から、南洋島横断鉄道での『弾丸特急列車』という種別で200系ベースの扶桑製車両が1949年度に運用開始されるのが、扶桑新幹線の出発点とされる。蒸気機関車が当たり前な中にセンセーショナルに現れし新幹線車両はスタイリッシュであると同時に、ウィッチ世界鉄道業界を大きく揺るがす。ブリタニアの誇るマラード号を旧時代の遺物とするに値する高性能を達成していたからだ。1940年代当時、マラード号はブリタニアの威信のシンボルでもあり、クイーンエリザベスUが『ブリタニア海軍、未だ意気軒昂』のシンボルなら、マラード号は鉄道発祥の国の威信の象徴とされていた。それを超えるモノが電車で現れたので、ブリタニアも慌てたという。設計ポテンシャルとしては250キロ出せるが、南洋島の既存路線は弾丸列車の登場を見越してはいたが、その想定より新幹線が速かったので、路線強度の限界から、最大速度200キロ程度で運転された。また、南洋新島と本島を繋ぐ路線では新規敷設のため、存分に走らせられるとされた。路線はあじあ号用の高架路線が南洋島横断鉄道の既存路線で使用され、新島との連絡線では新規に高架線が敷設された。連絡線の完成は54年頃であり、戦時中の青天井の予算が効いたのだった。南洋島は新島と海底トンネルや釣り橋で連絡できた事から、行政区が新島を自由リベリオン政府の管轄かつ、扶桑としては南洋庁傘下となる再編が実行される。これは自由リベリオンの本土帰還を想定した枠組みで、公には自由リベリオンが南洋新島を租借している扱いである。新島は少年のび太、少年スネ夫、ドラえもんのプロデュースで『リベリオンの主要都市と観光名所をまとめて置いた』町並みであり、ニューヨーク相当は海軍工廠まで再現してある。東京都くらいの面積がリトルニューヨークになるとの事であるが、スネ夫のこだわりにより、高層ビル群はバッチリそのまま配置されており、東京都ほどの面積と言っても、23区ほどだと、実際の半分の面積なのだが、それでも一応は広めだ。ただし、マグマを引っ張らないと必要面積を達成できない可能性があったので、南洋島温泉地の温泉の温度が下がり、ドラえもんは『一応は無理がかからない様に気を付けたけど周りのマグマを引っ張って来ないと必要な面積が足りなくなったかも知れないんで温泉地の皆さんにはご迷惑をかけたかも、ごめんなさい』と声明を出し、扶桑政府も補償金を出したという。

「新島はどのくらい広いんだ?」

「今の所は関東平野だ。彼等が周囲のマグマ溜まりを刺激したから、もしかすると、今よりもっと新島ができて、将来的に大陸になるかも知れん」

「ああ、あり得るな。あの一帯は古代アケーリアスの次元を超えた資源集積地の名残りという説が有力だからな」

「これで向こうの日本のように、ベビーブーム世代の高齢化で経済が傾く心配はなくなるな」

「向こうはこっちの経済は無関心に近いが、軍事には口出ししてくる。それが今度できる国防省でも嫌われとるそうだ」

「彼等は何を考えてるんだ?」

「専守防衛だそうだ。怪異相手には通じんよ」

日本の左派は専守防衛を扶桑に押し付けようとし、外征装備の撤廃すら迫ったが、怪異という相手には専守防衛が通じないため、泣く泣く諦めざるを得なかったが、旧式兵器を強引に廃棄させていた。この弊害はすぐに生じ、太平洋戦争開戦時の決定的な駒不足に繋がり、塹壕戦に引きずり込まれる要因なので、野党は塹壕戦への批判に恐怖し、軍事に口出しできなくなったという。

「で、旧式兵器を廃棄って、なんでだ」

「戦艦や巡洋艦とかを除いては自衛隊兵器に統一したいって向こうの財務や背広組が言ってるそうだ。奴さんは『どーせ、チトもチリもパーシングには対抗できないんだから』とかって。馬鹿にしとる」

「チトやチリは我々の最新鋭だぞ。それにパーシングは重戦車で、中戦車じゃないだろ」

「向こうが『いーや、近いうちに中戦車になる!』とか喚いたんだ。友人なんて、それで泣かされた」

当時、扶桑は参謀たちなどは楽観的な見方が主流だったが、日本側では悲観的にモノを考える。その違いにより、M26パーシング重戦車への見方も違い、日本は『M4の後継ぎになる戦車だから、今後は90ミリ砲でないと戦力にならない』と悲観的、扶桑はリベリオンの戦車駆逐車のドクトリンから楽観的であったが、扶桑は太平洋戦争の敗北を前面に押し出す形で押し切られる事が多かった。

「戦車や艦艇は艦船は製造や建造、その訓練にかかる時間が馬鹿にならん!何でも新型に即時交換すれば良いというものでは無いんだ、それが解っとらん!」

「向こうはバンザイ・クリフの悲劇やフィリピン、ニューギニアの地獄を喚き立てるから新型こそ正義と考えておる。戦車なんて、120ミリ砲搭載を考えろとアッパーで殴られた機甲本部のお偉いさんもいる」

日本は島嶼戦での連戦連敗の記憶があるので、相手を蹂躙する火力に執着している。防空部隊に『高度10000のB-29を落とせる高射砲が主力?どうせそうじゃないだろ』と恫喝する議員すらいる。また、高射砲部隊も地対空誘導弾や三式12cm高射砲、五式15cm高射砲の配備を命じられ、野戦高射砲はどうするのかという問題に突き当たったりしている。(野戦防空の問題は重大なもので、64Fでは、数年後に備え、デストロイド『ディフェンダー』を調達していた。64Fは防空用デストロイドを野戦高射砲の代わりにする事にしており、ディフェンダー、ファランクスを数年後に基地に多数配備する事になる。ただし、これは機材の調達特権のある64にのみ許される贅沢であるので、自衛隊の03式中距離地対空誘導弾などが使用されたという)そのため、史実では対日戦で鉄壁を誇ったB-29もこれら超兵器の前ではカトンボかハエの様相であり、太平洋戦争ではB-36やB-47に比較的早期に置き換えられていく。そのため、主力として活躍したのはダイ・アナザー・デイからの数年間のみになるなど、史実と異なる戦歴になったという。これは零戦や隼も同様で、第一線機と事実上扱われる最初で最後の戦がダイ・アナザー・デイである。腕の立つ義勇兵が好んで使用したこともあり、戦史にその名を刻む。生産数の多くはダイ・アナザー・デイで消耗しているが、義勇兵が操縦することで生存率は意外に高かった。だが、水エタノール噴射装置でエンジンの消耗率が高いため、メーカーもてんやわんやであった。(現地改造で零戦に積んだ例も多く、これにより、栄エンジンの部品在庫管理が重要になったので、再生産が促進され、ダイ・アナザー・デイでの従軍機用に一定のラインは1949年頃まで生き続ける。日本で黒江の訴訟の際の弁護を担当してくれた老弁護士も、孫に事務所を譲って引退した後に義勇兵となり、21歳ほどに若返ってダイ・アナザー・デイに従軍しており、日本軍からの復員時の階級で従軍し、鍾馗部隊を率いていた。)



――戦場――

戦場では、元日本軍義勇兵、元自衛官義勇兵が戦線を下支えしており、日本軍義勇兵達は元・所属部隊のマーキングを使用しており、扶桑では現存しない飛行戦隊や航空隊の塗装も認められていた。所属部隊が扶桑に存在していても、識別塗装が尾翼にされることで見分けがされており、黒江の弁護団長だった『彼』は47Fのマーキングを施した鍾馗に乗っていた。また、黒江の同位体と面識が戦中にあったので、黒江を『空将補』と呼んでいる。

「空将補、44ですが、こっちのは出足もいいし、エンジンが一発でかかるのがいいですねぇ」

「こっちだと三型が造られてるからな。疾風がウィッチ支援用だから、それを補う目的で代替機として用意されたんだ」

黒江はある日、知り合いの多い義勇兵部隊の様子を見に行っていた。鍾馗は老朽化を理由に初期型が下げられる一方、2000馬力級エンジンを積んだ三型が『ウィッチ支援用』を兼ねていた疾風の戦闘機用途代替機として生産されていたので、それが生き残っていた。三型のスペックは史実の疾風の良好な個体のスペックに多少の下駄を履かせたもので、ほぼ史実の疾風と一致するスペックである。特徴的な頭でっかちはエンジンの換装による小型化で消えており、外観は疾風に近くなっている。その事からも事実上の疾風の戦闘機用途代替機に指定されていたが、基本設計の古さ、疾風の史実寄りの改良がなされる事を理由に、近い内に調達打ち切りが通達されている。(疾風は改良というよりは、性能を史実通りに戻す方が正しく、日本側の想定ほど戦闘性能が上がらなかったので、日本側は不採用に傾いたが、用兵側の要望で採用。これは燃料タンクを弾倉にしたり、防弾装備を強化したら、フル装備状態では695キロと、日本側の期待外れの数値であったからだが、機体は長島飛行機が既に100機単位で生産していたので、しょうがなく採用された。700キロの速度は軽荷状態で記録されているが)

「お偉方はシーフューリーに対抗できるのを求めたそうだけど、あれは格上のエンジンなんだし、性能差はしかたがないですよ」

「当たり前だ。あれは2500HP出せるエンジン積んでるんだ。ハ43よりもワンランク上だ。それを超えるにゃ、ハ44かターボプロップエンジンしかねぇよ」

「ハ44は中止ですよね?」

「ああ、だから、ターボプロップエンジン化だろうな。そうでないとシーフューリーは超えられん」

当時、ブリタニア空軍では、既存機材の更新の声に応え、スピットファイア系統の発展型として『スパイトフル』が生産準備段階にあった。スピットファイアが老朽化してきたからだ。当時としては極限に近い高性能であるが、如何せん航続距離が900キロ台であり、扶桑でなら局地戦闘機にもなれない航続距離である。

「あ、空将補。ブリタニアがスパイトフルを本当に量産しちゃいますよ」

「ブフォ!?あれを!?マジで!?」

「大マジですよ」

当時、ブリタニア空軍はジェット機への抵抗が強かった上、既存機材のレベル向上を求める声のほうが大きく、空軍はスピットファイアの後継機『スパイトフル』を用意していた。だが、日本から見れば『徒花の機体』でしかない。日本からすれば『フューリーを量産しろよ』と言いたい機体でしかないが、『スピットファイアの会社が作るものなので』とするバイアスがかかっていた。複数の選択肢を残して置くための国策開発でもあるが、日本の介入で史実の最適解を選びがちになる扶桑には羨ましい限りである。(実際、震電改二の開発は扶桑の軍需産業のメンツを立てるためのお情けと見る者が多い。日本は最適解以外を許さない傾向があり、震電改二も『たかが知れている』と反対論が主流であったが、山本五十六が『ウチの軍需産業に目標を与えるべきだ』と言ったことで開発が許された)

「いいなー。うちなんて、震電、天雷、梅花……橘花まで中止指令だ。横空が発狂してるっつーし」

黒江が愚痴るように、史実で失敗したり、特攻機と同じ名称の機体は即刻中止指令が出ており、無茶苦茶であると嘆いていた。そのため、震電の焼却事件は必然であり、実行犯に一時、極刑が下されたのも無理からぬ事だ。(実行犯は震電については奮進機に切り替えるための中止指令であると知らなかったと弁明し、ストライカーのエンジン『マ43特ル』の図面も焼いてしまった事は小園の殴打で事の重大さを知り、崩れ落ちたという。そのため、旭光の開発が促進される)

「空将補、貴方の副官の子のストライカー、ですか?紫電改から替え時では?」

「烈風に変える。震電は回せないらしいからな」

前史では使用していなかったが、今回は震電がその後に失われた事もあり、旭光までの繋ぎで烈風を使用する事になる芳佳。烈風はストライカーとしては調達停止扱いだが、エースパイロットに一部納入されていたため、カスタム機としての扱いで個別の改造を受けて使用されていた。芳佳のものは特にカスタムされており、ロール速度改善、エンジンの換装などでほぼ別機に等しかった。烈風ストライカーは空軍設立後、余っていた個体が陸軍出身者にも回され、扱いやすさでは紫電改より良好であったが、『吊るし』では紫電改の後塵を拝する事から、黒江は『晩年のコルト・パイソンかよ』と評したという。実際、調達中止時のマ43は極初期型であり、載せ替えなければ紫電改最終型に全てで劣るからだ。制式型予定であった一一型相当で投入した若本は比較的原型があるほうで、芳佳に至っては、受け止める魔力の都合で、ほぼ別機に等しい。黒江達は五式を使用したので、烈風は使用しなかったが、64でも烈風ストライカーは旭光配備までの期間、使用されたのである。あくまで繋ぎであるため、使用期間は極めて短く、後世に『幻のストライカー』とされるのだった。(戦後の現存数が極めて少ないため)

「烈風はそもそもが200機しかないっていうから、海軍系エースが使用して終わりの線が良好なんだよ」

「空将補は使わないので?」

「そもそも零式使った経験がないからなー。紫電改なら経験があるんだけど」

「空将補は陸軍出とは言え、紫電改は乗ったので?」

「本国にいた時に、疾風との比較実験に付き合わされてな。あ、ドイツの友人がキ44を褒めてた」

「ああ、あの学ラン羽織ってるスケバンっぽいドイツの銀髪ねーちゃん」

ロスマンは元の容姿に戻っても、学帽と学ランのスケバンファッションを通すようになり、私服も石神女子のセーラー服になっていた。黒江は爆笑しているが、ロスマンとしては大真面目である。元の容姿と不釣り合いな日本的学ランと学帽、セーラー服を着込み、下駄で歩くバンカラファッションであるので、伯爵は大笑いである。一人称も『ワシ』、あるいは『あっし』であるので、矢島風子としてのキャラを維持していると言える。

「あいつ、療養として、とある世界の日本の高校にいかせたら、スケバンになって帰って来てさ。部隊は爆笑の渦だよ」

「でしょうね」

「キ44を出足がいいし、横方向の運動性があるから、メッサーより自由度高い空戦できるって、べた褒めしてるんだ、そいつ」

「でしょうね。元々、巴戦を避ける飛行機として造ったら、巴戦も欧米のより、よほどこなせるのが分かって増産されましたからね。メッサーやフォッケに乗ってると、日本機は羨ましがられるでしょうな。防弾以外」

「防弾は技術力差が出たからな。ウチのは現地で取り外す例が多かったのが、戦闘機同士の空戦が普通になると、皆つけ始めた。だから内蔵式が増えたんだよな、防弾装甲」

戦闘機同士の空戦が普通に生起する時代を迎えると、皆、怪異との空戦想定で外していた防弾装備を手のひら返しでつけるようになり、その様子をGウィッチは半ば冷めた目で見ている。なお、戦闘機対ウィッチの空戦は避けられる傾向があるため、Gウィッチ以外には経験していない。これは通常部隊では倫理的に対戦闘機戦は難しく、真501でさえ、Gではない面々から異論が出た(それが二度の査問で厳しく問われた)ほどである。リーネが美遊に、サーニャがイリヤになったのも、その折り合いをつけるためである。(因みに、実機の紫電改、烈風、雷電はそのあたりの構造で史実と別物であり、その頑強性は30ミリ砲に耐えるほどだ)

「あ、サイレンだ」

「空将補はどうします?」

「おっちゃんの予備の44はあるか?それで出る。エンジンは回しとけ!」

黒江は実機での空戦は積極的に行う質であり、特に扱いなれているキ43からキ100を好んで使用しており、ストレス解消にしていた。飛んでストレス解消というのは、イサム・ダイソン直伝のストレス解消法らしい。そのうち、石神女子の助っ人になるつもりであるなど、茶目っ気溢れるのも特徴だ。その技能は当然ながら、調にも引き継がれているため、見せてはいないが、航空機を自分で動かせる事になる。こうしたところで黒江はパイロット気質が染みついており、それは調にも伝染したため、SONGにいることを『窮屈』と感じたのも、姿を消した理由に入るのかも知れない。



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