外伝その204『大空中戦15』


――扶桑皇国海軍は黒田の言う通り、ダイ・アナザー・デイが終わり次第、正式に日本側が『空軍を発足させたい』と意思を表明したことへ、部内から反発が生じた。人事案が海軍航空を死に体に追い込むほどの引き抜きであるからだが、日本側は民航を勃興させたい思惑があるため、海軍航空の7割の人員を空軍に引き抜く事を、陸上基地の確保とバーターで認めさせたい。しかし、部内では『海軍航空を死に体にする気か!』と猛反発がある。この反発がクーデターに繋がり、結局はその事への徹底した粛清人事でウィッチ隊の形骸化を招く事になるが、海上幕僚長と航空幕僚長が更迭を覚悟で、『空母航空団は専門性が高い空母発着を訓練に取り入れるのだから訓練の質と量の維持持には専門の部隊が必用』と政府を説得し、米海軍第七艦隊司令長官も同様に助言し、なんとか空母航空団そのものは維持された。だが、人事異動はそのまま実行されたため、完全な再建には5年以上の月日を要する事となった。しかし、パイロットの質の問題から、日本側からあ号作戦が引き合いに出され、投入を心配されたので、エースパイロット部隊である64Fは終戦まで空母航空団任務も行うこととなっていく。これは後に、日本側の清書ミスである事が判明する。航空幕僚長は『601には手を出すな』と釘を刺していたのだが、実際に発令されし人事異動に愕然とし、『なんだこれは!これでは出動の度にJTF組まねば空母航空団が維持出来んぞ!誰だ、601空解体とかした馬鹿は!』と防衛省に怒鳴り込んだが、結果は背広組がメンツ論を振りかざして覆らず、それも64Fの負担が増した要因だ。航空幕僚長の危惧は的中し、統合任務部隊の名目で空母航空団任務も背負わされた64Fはどんどん部隊規模が肥大化し、『特別編成航空師団』へと巨大化していく。終戦時には、昭和天皇が専任部隊を『いじめの温床になり得る』と危惧し、64の兼任を望んだため、テスト部署も抱えていたので、空軍で最大規模の実働部隊となっていた。そのため、64Fは基本的に太平洋戦争時の『特別編成航空師団』の編成が常態になっていく事になる――






――カールスラントも同様に混乱が生じていた。次期空軍総監の有力候補と目されたエディタ・ノイマンが、21世紀ギリシャとユネスコからの猛抗議と、ドイツ連邦共和国からの『世界遺産条約違反だろう!』との圧力で、中央から事実上の追放をされたことで、消去法で『悪童』と言われるウィッチ『グンドュラ・ラル』をガランド後継の次期空軍総監にせざるを得なくなっていたし、ハルトマンやマルセイユなど、『素行に問題がある』とされる士官を、ノイマンの追放の埋め合わせに高級将校へ昇進させるしかなくなる(ドイツ連邦共和国から『撃墜スコアの粉飾疑惑』が持ち上がり、エースパイロットの認定スコアを平均で50以上も割き引く事になったが、授与した勲章を取り消すと現場の士気に関わるため、スコアに応じて昇進させる事で人事バランスを取り、また、勲章の取り消しをしないことにはなった)。その両国の混乱は結果的にレイブンズのスコアを際立たせる事になった。(これに激怒したカールスラント皇帝が『そっちでどうあろうと此方では『世界遺産』など制定されておらんわ!そちらの都合だけで物申すではない!』と発言するが、ドイツの左派などは『そんな事言うと革命を起こしてやるぞ!お前ら流浪の民にしてやろうか!』と挑発し、一時は険悪ムードになったが、見かねた地球連邦軍が国際連合の名のもとにドイツに介入し、統制を行う。その結果、ドイツ左派政権を崩壊に追い込む事になる。この混乱を収めた地球連邦軍の戦力は衛星守備艦隊レベルの戦力(内訳は主力戦艦級が二個戦隊、パトロール艦が2隻、駆逐艦16隻)で、その軍事力で砲艦外交を行い、ドイツ中道派に連邦化を進めさせ、混乱を鎮めるように通達を出し、結果、ドイツ領邦連邦が成立した。)因みに、それまで300機撃墜とされたバルクホルンもJG52の粉飾疑惑に巻き込まれてしまう。認定撃墜スコアが記録のある150機程度に落ちてしまったので、現場が余計に混乱した。その混乱に対応するため、連合軍はレイブンズの追加スコアを歓迎したのだ。(特に、黒江はエクスカリバーとエアを持つため、絶対的存在の演出にはもってこいであった。バルクホルンは結局、相互確認されているスコアが大半であり、減った数は若手時代の20機ほど。猛抗議をバルクホルンが加えたため、階級を上げてご機嫌取りを行い、ルーデルとハルトマンは未確認戦果がどんどん増えて、スコアが却って増えたので、この二名については勲章が増えただけ)ハルトマンとバルクホルンの実力に疑問符がついた事は連合軍には好ましくないため、カールスラントが独占していた撃墜スコアランキングは書き換えられ、扶桑の撃墜王が多く食い込んでいく。レイブンズは1937年から1939年頃までは、文字通りに世界最高であった事も確定したので、当時に除け者扱いだった江藤はカールスラントが作り出した『撃墜王ランキング』の文化に恨み節を吐いたという。――











――彼女は空軍軍人に転じた後は積極的に撃墜王を宣伝してゆくが、ダイ・アナザー・デイ時は精神的に若く、事変の時に除け者扱いだった事に衝撃を受けていた。そのために恨み節を吐いていた。黒田も『隊長は青いんだよなぁ』とぼやいており、江藤は45年当時で20代後半。まだまだ青さが残る年齢であり、転生で成熟した元部下や教官に見下されていたのではないか、とする被害妄想も入っていた節がある。G化は起こったが、数回も転生した他のG達に比べると、どうしても青臭さを多分に残している。黒江達が数回の転生で敵へは情け容赦がない面を見せたり、リーネが美遊として戦う選択をし、サーニャがイリヤになることを選ぶなどの行動に比べると、どうにも青臭さを感じさせる――

「なんだよー!お前ら黄金バ○トみたいな事、本当にやらかせるじゃないかー!」

「いい年して拗ねないでくださいよ、隊長ー」

「何やっとるんだ、三十路近い女子がみっともない」

智子と赤松にも呆れられるほど拗ねまくりの江藤。まるでおもちゃを買ってもらえない時の子供だが、江藤は本当に拗ねていた。転生で記憶が蘇ったため、二回も除け者にされた事に気づいたのだ。

「転生したのなら、今のお前にもできるはずだが…」

「ふーんだ…」

「大先生、こりゃかなりの重症ですよ」

調にもこう言われるので、江藤の拗ねぶりは相当だ。

「まったく、おもちゃを買ってもらえない五才児みたいな真似をしおってからに…」

飾緒を持つ参謀のやることではないので、赤松も困った様子だ。空気が江藤の周りだけ淀んでいるので、赤松も頭を抱える。

「北郷さんに回収してもらいます?これじゃ戦力になりませんよ…」

「うーむ。北郷さんに回収を頼むとするかの」

転生で記憶が蘇ったはいいが、同時に強い疎外感に囚われた江藤は完全に落ち込んでしまい、戦力外の様相であった。この中では一番の若輩者である調にそう言われるほど、江藤は置物状態であった。そのため、赤松は自身が仕えた経験のある北郷に連絡を取る。赤松が明確に目下の態度を取るのは、親しい関係者では、自身の上官であった北郷のみだ。

「何、敏子が落ち込んで置物になったぁ?どういうことだ、赤松」

「それがですね。転生で記憶が蘇ったら、二回も除け者扱いだった事に気づいて、小僧のように拗ねてんですよ」

「うーむ。後で私が喝を入れてやるが、害はないからしばらくは放っておくしかなかろう。一時間で回収しに行く」

北郷も大尉時代にかけて赤松を従卒にしていたので、目上として接する。電話口で頭を抱えているのが見て取れるようなため息混じりの声だ。

「頼みます」

「敏子め、迷惑をかけおって……後はこちらで処理する」

北郷は通信を終える。江藤に喝を入れる事を明言して。とりあえず、江藤を智子が安全なところに運び、圭子と黒江が前線を歴代ヒーローや英霊と共に切り開く。休暇など影も形もないため、黒江は容姿を素の容姿に戻していないし、智子もストレス発散と言わんばかりに覚醒状態になっているため、青髪と銀の瞳の状態である。圭子もレヴィ状態になっており、休暇が遠い戦闘状態の中でも少しでも気分を和らげるための策である。

「ボウズ!許可するから、ライトニングフレイムで道路を掃除してやれ!レヴィは対物ライフルでも使え!」

「了解っす!」

「わかったぜ、姉御!」

赤松の指示に従い、黒江は超光速のライトニングプラズマたる『ライトニングフレイム』を放つ。その威力で怪人軍団のみならず、機械獣も蹴散らす。レヴィも九七式自動砲を持ち出し、それを撃ちまくる。

「よし、俺たちもやるぞ!」

歴代戦隊レッドの内、バズーカ持ちである戦隊のレッド達がそれぞれの持つバズーカの部品を自分達のパワーで一つのバズーカに作り変える。マスクマンのジェットカノンをベースに連装にしたような外見のバズーカになり、弾丸はチェンジマンのパワーバズーカのアースフォースをオーラパワーとGTバズーカのエンジンで増幅したエネルギーにライブマンの超獣パワーを混ぜたものが使用され、それが放たれる。実に豪華な攻撃で、威力は凄まじいの一言だ。

「あいつら、これで減らねーって、どんな物量してやがる」

黒江は愚痴るが、怪人軍団は時空魔方陣でいくらでも戦闘員含めて補充が効くため、ほぼ休み無しで補充されるので、それを断ち切るには、それを操るデルザー軍団を撤退に追い込むしかないが、デルザー軍団はチェスで言うところのキング、将棋の王将のようにガッチリ守られており、そこまで道を切り開くのは容易なことではない。たとえ、黒江達がナインセンシズに達していおうと、ヒーロー達やマジンカイザーの助けがあろうと。

「とにかく倒しまくれ、いつか道は拓ける!」

二号ライダーに激を飛ばされる黒江。怪人軍団は歴代組織の雑多な寄せ集めで、知性がないことも含めても、その数は脅威だ。知性がない分、獣性だけで襲いかかられるため、殺るか殺られるかの二択である。光速移動も戦闘員がそれこそ雲霞の如く湧くために使えないのもあり、さしもの黒江達も苦戦を余儀なくされている。

「こいつら、いくら倒してもキリがない!」

「弱音を吐くな、イリヤ!こんなのは序の口だぞ!エクスカリバーは撃てるか?」

「魔力の再供給に時間が……」

「チッ!こうも数が多いと、航空支援も焼け石に水だ…」

航空支援も、空自の12機のファントムUを動員しても効果は限定的であり、焼け石に水。ここまでの物量では、米軍にA-10かアパッチを動員してもらったほうがまだいい。

「航空支援を頼むか?」

「空自は12機だから、全力出撃は8機だ。それじゃ焼け石に水だ。米軍に仕事与えてやった方がまだいいぜ、レヴィ」

「デイジーカッターでも投下してもらうか?」

「バカ、無線が死ぬだろ。米空軍には私が話す。奴らに近接航空支援の訓練の機会を与えてやろう」

黒江はこういう近接航空支援は空自よりも米空軍に頼んだ方が効果抜群であることを自衛官として自覚している。空自は一個飛行隊丸ごとの派遣がそもそも国会で紛糾した末に、日本連邦憲章違反であるとする与党の答弁で、ようやくF-4EJ改が派遣された経緯がある。それとて、現場は米軍がテストも兼ねて、当時の最新鋭機を使用しているのに比べると、政治に振り回されたと航空誌でも呆れられている。野党としては『12機の超音速ジェット機は40機のゼロ戦に勝る』というのが拠り所だった。しかし、2018年以降の時点ではF-4は老朽化しており、更に元々、対地攻撃能力は支援戦闘機が担うという導入時のドクトリンにより、対地攻撃能力は限定的であるので、黒江は対地攻撃には使えないと判断した。(能力は改修で向上したが、数が8機では焼け石に水だ)そのため、黒江は空自よりも米空軍を呼ぶつもりであった。

「それならついでによ、パイロットは居るからVF転換課程の連中出すか?バトロイドがまだシミュレータだがファイターとガウォークなら、実戦に出しても問題はないレベルだしよ」

「おお、それだ!搭載兵器の規格は変わってねぇから米空軍に混じって参加させようぜ」

――ダイ・アナザー・デイの模様が伝えられると、野党は防衛省制服組からの苦情に自分達が苦慮する羽目となった。全力出撃が8機では、数が戦力とされる第二次大戦型の空の戦場では焼け石に水である。そのため、30機以上を送り込んだ米軍に混じって参加するなどの運用や防空任務が主であり、黒江達が今、求めている任務では些か物量不足である。もちろん、対艦ミサイルという銛で、巡洋艦や駆逐艦というクジラを仕留める殊勲は挙げているので、目的の半分は果たしている。だが、老朽化したF-4EJ改よりも、F-2を派遣したい声は制服組に多かった。より攻撃能力に優れ、その目的が開発理由に入っているF-2の実戦証明をしたい声が旧・支援戦闘機部隊出身者から多かった。しかし、背広組やその他の制服組は『F-2は大震災で機数減ってるし、本土防空の主力の一角も担ってるから引き抜かれたくない』と反対したが、黒江が23世紀で造られたレプリカを使用したことで問題が起きた。黒江がレプリカとは言え、F-2を使用し、能力を証明した事は米軍から『出し惜しみ』と揶揄される事態になったのだ。武子も一機を確保しているため、米軍に『エースに特別な機体を用意する余裕があるのか?』と穿った見方をされてしまった空自。黒江は『23世紀のレプリカだよ、レプリカ。ガワはF-2だけど、中身はVFだよ』と釈明している。本当に空自はF-2を一機も派遣していないが、黒江と武子が隊のパーソナルエンブレムを描いて使用した事は背広組を慌てさせた。因みに、黒江に実際に見せてもらった隊員は『コクピットは別物で、VFの未来型ですよ。羨ましい!』と言っている。エンジンは空自がF-4を派遣したのを受けて、VF-19Fのものへ換装している。レプリカであるのを示すための策であるが、現実問題として、F-4の増強はF-35Aへの機種変更が始まったために難しくなったという事情が入り始めた。その事情を鑑み、現地派遣部隊はコスモタイガーやVF-1EXの使用が許可された。ただし、機種変更でF-4は余るため、なし崩し的に増強がなされるのも事実だが、用途廃止予定の機体であるので、一年ほどで寿命がくると見積もられており、現地調達機が増えていく。タイムふろしきで2000時間ほど機体の経年劣化を巻き戻す手もあるため、なんだかんだで空自は面目を保てたという――










――連絡を受けた空自の航空基地では、地球連邦軍から供与されたVF-1に火が入れられていく。往年のF-14を機体の空力モデルにした設計ながら、だいぶ小型化されたシルエットを持つ。熱核タービン機であるので、武装の補充以外に基地に戻る必要はない。ガンポッドの装弾数が通常航空機としても少ない難点があるが、実戦ではそれほど問題視されていない。レーザー機銃があるからで、ガンボットの装弾問題も後継機で改善されてはいる。(新鋭機ではビームガンボットである)また、ミサイルなどの規格は基本的に21世紀から不変であるため、21世紀の武装も使用できた。また、運用の利点として、熱核タービンは通常のジェットより噴射で発生する熱の温度が格段に低いので、町中でのホバリングも可能である。(ハリアーなどでは不整地の基地での運用ができなかった)そのため、21世紀には夢物語の『STOVL機の前線の不整地の基地での運用』はVF-1で実現している。また、アクティブステルスの搭載でパッシブステルス機のように機体形状の縛りが緩くなったのもあり、VF-1をトムキャットを連想させるシルエットにさせた。21世紀の軍隊が血眼になって研究していたものの完成品が載せられているのも魅力である。VF-1はOTMを除くと、オーソドックスな機体であるので、空自の整備力なら維持は可能だ。11以降は流石に機材が世代交代するため、整備要領を一から教導しなければならないため、自衛官が再教育無しで扱える限界は『VF-4/VF-5000まで』と定められた。そして、訓練途上ながら、腕っこきのパイロット達が米軍に混じって、航空支援に参加した――




それから十数分して、米軍の攻撃機や戦闘機に混じって、大気圏内仕様のVF-1が飛来する。機体色は空自海洋迷彩である。まだバトロイド形態の訓練は終わっていないが、ファイターとガウォークであれば問題は無く、米軍の攻撃機たちと共に一斉にミサイルを発射する。米軍も近接航空支援の訓練と言わんばかりに大盤振る舞いで兵器を撃ちまくり、戦闘員であれば、A-10の30ミリ砲は脅威である。また、米軍はガンシップも持ち出したようで、AC-130が榴弾砲を放つ。古典的だが、近接航空支援の最たるものである。また、この世界においてはティターンズが行ったのが最初の大口径砲での近接航空支援である。元々、ガンシップはショッカーのテロ活動に対抗する意図もあって調達されたので、旋回しつつ、105ミリ榴弾砲を連射する様子は、この時代の軍事関係者には凄まじい猛威に写っている。


「今頃、パリでド・ゴールが血の涙流してるだろうよ」

黒江は壮観ですらある光景にそう感想を漏らす。ド・ゴールは自国の惨状を顧みない軍備再建計画を立てている事は黒田からのルートで知っており、良き家庭人を演出してるが、軍人としての観点で軍事再建を優先しているため、いずれ扶桑と衝突するであろう事は、彼が大戦艦を無理に作ろうとしている点からしても明らかである。しかし、ド・ゴールは既に、大和型戦艦に勝てる気がしないと悟ってはいたので、後の衝突は軍事大国の地位を郷愁する世論がド・ゴールを動かして実現させた悪夢である。ド・ゴールはこの頃の戦線を見てきたので、日本連邦の隔絶した軍事力を知っているが、側近に重軍主義者がいたことがガリアの国際的地位を辱める事になるのだ。

「今回もアルジェリア戦争起きるかしらね」

「起きるだろ?ド・ゴールの周りの側近が鉱物資源が無くなったガリアを食わせるために鉱物資源が必要とか宣うに決まってる」

智子にそう言う黒江。前史同様、アルジェリアは民族自決が怪異がいる手前、不可能であるので、扶桑に組み込まれるのを望むのは目に見えていた。前史での日本側(特に左派)の落胆ぶりを黒江は記憶していたので、アルジェリアが扶桑の海外領に転ずる結末になるとも言う。ウィッチ世界で植民地が完全な独立を選ばない背景には『怪異の脅威』がある。ブリタニアになびく可能性のほうが現実的だが、前史では何故か、扶桑に靡いた。民族自決が怪異という存在がいる限り不可能なため、ウィッチ世界は国際秩序が第二次大戦前の状況で止まっていたのだ。

「今回は共同統治にするかもな。前史で左翼が騒いだ事は吉田の翁に伝えてあるし、オラーシャのことで連中はうかつに動けなくなってるしな」

日本の左派は左派的思想の持ち主が共産革命を起こし、オラーシャ帝国を半死半生に追い込んだという事件が報道されるにつれ、その行動を縮小していった。2018年の年末と2019年の年始はこのニュースでもちきりであり、オラーシャに大粛清の嵐が吹き荒れ、今やオラーシャは国家運営が覚束無いレベルにまで知識層が減少している事は日本の左派に事の重大さを認識させた。日本のある年老いた学生運動上がりのコミュニストがオラーシャに渡り、中華人民共和国の非公式の資金援助と物資援助、学生運動上がり故の扇動家としての才能で『反皇室、反ウィッチ』を掲げ、人民の名のもとに蜂起。疲弊していたオラーシャ軍に蜂起を止める手段はなかった。貴族が史実ほど腐敗していないためと、識字率の問題で史実ほどの熱気はないが、元々、迷信深いオラーシャ人の猜疑心を煽ることに切り替えることで革命を大規模化させ、最盛期はモスクワに迫る勢いであった。事態を重く見た地球連邦軍が『オラーシャ皇室の要請』で介入、革命を鎮めたが、オラーシャはサーニャを失うという人材的大打撃を被った他、サーシャが新皇帝の私的な理由で称号や勲章剥奪の後、僻地へ追放される(新皇帝が若く、サーニャの大ファンだったのもサーシャの立場を悪くしたし、501から解任されたという国家的恥を晒した事も心象を悪くした)事になる。

「サーシャの奴、あれで新皇帝に目の敵にされて、申し開きもないまま僻地に追放だからな。ジューコフ将軍が説き伏せないと、往時の地位には戻れんだろう」

サーシャは中尉への降格、名誉剥奪などの屈辱を味わい、この頃には僻地送りにされていた。サーニャと揉めたことで、エイラの怒りを買い、ジーナ・プレディによる意見具申がサーシャを解任する決定打となり、後任には、元503幹部のフーベルタ・フォン・ボニンが宛てられている。そのため、現在の501幹部はその過半数がカールスラントと扶桑のエースである。また、ブリタニアはキングス・ユニオン体制下で501の理事国の地位をアフリカ陥落とウォーロックの事などを理由に放棄したため、その状況を示すかのように、カールスラントと扶桑軍人が要職を独占している。また、結果的にカールスラントは撃墜王の名誉回復の意図もあり、意図的にかつてのJG52の主要メンバーを集め、扶桑もレイブンズなどを配置したため、その二国が現在の理事国である。政治的には、元JG52の経歴詐称疑惑を晴らすためと、レイブンズへのカウンターである。自国では太平洋戦争開戦前まで低評価になっていたレイブンズも、他国、特にガランドがいるカールスラントは自国のトップ20に確実に入る強者達を配置して『ようやく釣り合いが取れる』と見られていた。その理由は黒江が多用する『約束された勝利の剣』、『エヌマ・エリシュ』の存在が大きい。共に聖剣や神剣であるからだ。自国ではその事が隠されたため、黒江や智子の戦間期の冷遇に繋がったが、他国では畏敬の対象にされていた。(江藤が記者会見でマスコミに批判されたのは、他国で伝説視される力を隠したという点もあるため、可哀想と言えば可哀想である)なお、エヌマ・エリシュは威力がありすぎるため、事変の時は使用していなかったが、ダイ・アナザー・デイ直前に初披露した。黒江は天の理を以てエヌマ・エリシュを使用したので、その威力は約束された勝利の剣の比ですらない。それを報道班が報じたものだから、江藤は不幸にも、昭和天皇に申し開きをしたり、梅津美治郎から記者会見を押し付けられるなど、踏んだり蹴ったりであった。扶桑の『都合の悪いことを押し付けられた』被害者が江藤なら、カールスラントはエディタ・ノイマンだ。江藤はこれから名誉回復の道が比較的拓けているが、エディタはギリシャやユネスコからの猛批判に耐えかえ、鬱病に罹患してしまったため、中佐に降格した後はしばらくは辺境の航空団司令の座に甘んじる事になる。彼女の降格が中佐への降格で済んだのは、地球連邦軍の執り成しとマルセイユの嘆願によるものだ。彼女は地上からの指揮管制能力に長けていたため、才能を惜しんだ軍部が地球連邦軍の執り成しを大義名分に、中佐への降格と左遷、数ヶ月の飛行禁止と減俸で済ませたのである。この処分が現場を萎縮させたのは事実なので、ハルトマンとマルセイユを作戦終了後に大佐にする人事で混乱を鎮めようとしているのが現状だった。こうした混乱を抱え込んだカールスラントが領邦連邦に同意したのは、地球連邦が受けた損害の埋め合わせを約束したからでもある。

「今回はカールスラントに混乱が起きたけど、ノイマン大佐も可哀想に」

「しゃーない。この時代は世界遺産なんて概念がなかったんだ。それを後世の倫理で理不尽に叩けば、当然、抗議が起きる。ドイツは王朝を滅ぼしてやろうかと脅したら、地球連邦軍の砲艦外交食らったから、自業自得だな」

「砲艦外交ぉ?」

「主力戦艦級をベルリン上空に出現させたそうだ。アメリカに使った手はドイツには通じないから、ペリーよろしくの方法を使ったそうな」

古典的だが、砲艦外交は効果がある。宇宙戦艦を用いる方法は『SFチック』だという批判もあったが、分かりやすいビジュアルである。特に『戦艦らしい形状』のドレッドノート級は力のわかりやすい見本である。宇宙戦艦というのはある意味、21世紀の技術では脅威なのだ。ドレッドノート級は初期タイプは単独での長距離航行能力を備えていなかったが、最終型では居住空間を中心に大幅に改良されている。ドレッドノートはヤマトに比して小柄の450mほどで、ガイアのそれより必要上、大型である。使用技術の違いもあるが、ガイアが外宇宙進出から間もないのに対し、アースは外宇宙に版図を広げる星間国家だ。

「そいや、今回のアンドロメダ、何百mだ?」

「前史で350だったけど、今回は700mあるとか?」

「でかすぎね?」

「前史の倍寸で考えていいとか、アムロさん言ってたわよ、波動エンジン艦艇」

「うっそだろ」

「だからラー・カイラムでも二等戦艦らしいわよー」

「500mある戦艦が二等かよ」

「どうも某世界のアニメ劇中のサイズにシンクロしてるらしいのよねー、時空管理局のメカニック曰く。なのはたちの部下のあの子、興奮してたわよ」

「えーと、シャリオだっけ?シャーリーだとこっちのシャーリーと混ざる」

「ええ」

「あいつ、マルセイユに声似てたような」

「あの子のほうが高めよ。マルセイユはもう少しひねくれてる感じの声だし」

「確かに。美遊が懐かしい感じがするとか言ったが、もしかして」

「そのまさかでしょーね」

「あいつも声似てるの多いなー。十字教のあのねーちんとか」

「でも、米軍もすごいやる気だわねぇ。地形変わるわよ」

「私のエヌマ・エリシュやエクスカリバーよりは優しいさ。お前もオーロラエクスキューションとか習熟度上げろよなー」

「私は焔と併用するから、凍気の制御がねぇ」

「応用なんだし、早く覚えろよなー。カミュと氷河に失礼だろ」

「わーってるって。アンタって昔から求道者なんだから」

「こう見えても、シュラの先代、山羊座の以蔵の魄を持つ身なんでな

「それ言うなら、あたしだってカミュの先代、ミストリアの魄を受け継いだ身じゃん」

「お前、昔からカッコいいとこガキどもに見せようとしても、ヘタレ要素あんからなー」

「何よそれー!」

「根本的にドジっ子だって、麗子が笑ってたぞ」

「あ・の・ガ・キァアアアッ!」

自分の養子に笑われたため、怒る智子。そういうところは姉の子孫なのだ。一方のケイは転生後は戦闘に滾る一方、智子のドジのフォローは黒江に丸投げしており、そこも戦闘狂の評判が立つ理由である。銃器を持たせたら無敵である一方、近寄り難い狂気を漂わすため、今回は『血塗れの処刑人』とモントゴメリーに渾名され、連合軍で畏れられた。また、変身時のタトゥーもその雰囲気を醸し出すのに一役買っており、江藤もそれを心底恐れている節を覗かせる。

「テメーら、なーに立ち話してやがる」

「スイッチ入ったな?ガキどもがいたらションベン漏らすぜ?」

「御託並べてる暇あったら雑魚共を掃除しろよな」

「へいへい。お前、モンティをブルらせたそーじゃねぇか」

「あの紅茶野郎にあたしの本気を見せてやっただけだっつーの。向こうで30体をピンでぶっ殺してやったもんだから、マイルズがブルりやがったけどな」

圭子は温厚な人格と戦闘狂かつ銃撃狂の人格を使い分けているが、今回は後者が素であり、兄たちを『兄貴』で呼称を統一しているのがその証明だ。

「ケイさん、のび太くんから預かったSMGです」

「あ?M10かよ。まぁ、この手のはVz61もそうだけど、射程みじけーんだよな」

「至近距離でばらまくのがSMGの目的だろ」

調から自動砲に変わる銃を受け取る。二丁拳銃に適するよう改造されている個体だ。

「私はVz61使います」

「連射速度はいいが、そいつは射程短いぞ。至近距離で撃てよ」

「分かってます。のび太くんから使い方教わってますから」

シンフォギアでテロリストなどに愛用されしSMGを使用するのもなんとも言い難いものがある。

「ばーちゃん、なんで、シンフォギアで実銃を使わせんの?」

「そりゃお前、あるものは何でも使え、だ。アームドギアに頼る前に覚えるべきものを覚えろ」

クリスに言う圭子。黒江がそうだったが、シンフォギアを展開していても、実銃を使うことを好んでおり、黒江は現地で米兵から銃を奪って応戦したことがあり、調ものび太から訓練を受け、ダイ・アナザー・デイまでにはガンフーやガン=カタを身に着けている。クリスは例外的に圭子が『ばーちゃん』呼びを許している人物だが、戸籍上の年齢差がひ孫と曾祖母くらいあるからだろう。

「いいか、目ん玉かっぽじて、あたしと調の動きを見て参考にしろ。映画を参考すんのもいいが、実際は映画みてーに上手くいかないから、見るより体に覚えさせろ、血と汗の結晶って奴だ」

「お、おう……。つーか、なんでお前、普通にサブマシンガンのマガジン装填できんだよ!」

「訓練して、撃ち合い経験済みですよ、先輩」

「くぅ〜銃器はあたしの専売特許なんだっつーにぃ!」

クリスはアクの強い面々に振り回されがちである。最も、見かけが年下だが、実際は同年代のイリヤもいるので、この場では子供扱いである。調がシンフォギア姿で銃を操るというのもミスマッチ感溢れるが、なんとも言えない迫力がある。

「鉄砲の弾を鼻歌混じりにくぐり抜けられる様になりゃ聖闘士までもうすぐ、だぜ?」

「嬉しいような、嬉しくないような…」

「切歌が必死こいて訓練してるけどな、お前は銃器扱える分、基礎は有利だぞ?」

「うーん…」

「のび太はワンホールショットとか普通にガキンチョの時にこなせてた。今、ドラえもんといる大人のあいつは数キロの狙撃を成功させてるプロだぞ。羨ましく思わねぇのか?」

「数kmぉ!?普通のスコープとかで!?」

「3キロくらいなら高速で動く目標に当てられるんだぞ、あいつ」

「なんだよぉ、それ!」

「要するに、鉄砲に専売も特許もねぇ、射つか射たないかそれだけだ」

「決めてきましたね、ケイさん」

「銃使いの流儀ってのはそういうもんだ」

「ガンスリンガー……」

「クソッタレな世界で自分の存在を証明する手段は引き金を引くことだ。相手よりも零コンマ秒早く。その時に自分の存在に意味を得られるのさ」

圭子は銃使いの矜持を教える。圭子は相手より早く引き金を引くことに血道を挙げてきたため、自分のそれを訓練無しで上回るのび太には心底敬服している。そのため、訓練を積み、プロとして成長した青年のび太に敬意を払っている様子を垣間見せた。

「のび太みてぇに弾道予測や相手の未来位置誘導を神業にしろってわけじゃねぇが、相手の銃口の位置から弾道予測できるようにはなれ。そうでねぇと、シンフォギア無しには生き残れねぇぞ」

「あたしはシンフォギア装者だけど、それ以外は普通の高校生だぞ!?そこまで求めるのかよ!?」

「少なくとも、そういう状況には慣れとけ。いいな」

「うぅ…わかったよ」

クリスは見どころがあるためか、人格を切り替えていても、面倒見がいい所を見せる圭子。彼女の事をこの姿で『圭子さん』と呼ぶのは響だけだが、これは素の容姿で出会ったからだ。圭子を追う調の背中に黒江が成り代わっていた時同様の感覚を覚えたが、不思議そうな感覚を覚える。

「シンフォギアに適応出来てるなら扉は開いてなくても鍵自体は開いているはずだ、あとはどう扉を開くかだけだ、足掻くのは無駄じゃねぇぞ」

微笑む圭子。変身していても、こうして素の優しさが出る事もあるので、『姐様は優しい人ですよ』と調は言う。それが圭子の人間的魅力であり、なんだかんだで素の母性も残っているのだ。こうした滲み出る優しさこそ、口は悪くとも、多くから慕われる理由であり、レイブンズのなんだかんだで取りまとめ役である所以だった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.