外伝その215『勇壮2』


――扶桑海軍は大鳳/雲龍の量産が強引に差止められ、陸軍も暁部隊が海軍に転属させられたため、まるゆ、あきつ丸の同型艦、大鳳/雲龍の増産用に確保していた資材はより大型で世代の進んだ空母や強襲揚陸艦用の資材や戦車の生産に使われた。船や戦車の新型への性急な交代に反対する声を押し切って行われた施策は、結果的に扶桑軍の駒不足の一因となった。陸軍は海軍の協力無しには外地に船で戦力の展開は困難になったし、海軍も商船護衛に任務が割り当てられ、それに水雷戦隊や軽空母のすべてが割り当てられたため、事実上、第3艦隊と第1艦隊のみが連合艦隊実働戦力とされるほどに駒不足になっていた。ダイ・アナザー・デイに派遣している戦力こそが1945年夏時点の実働戦力の全てであったし、他は尽くがFARM中か、建造中であった――





――日本連邦は旧日本軍式空母の廃棄と改装で国会が荒れるほどだった。『旧日本軍式空母はレシプロ機前提のポンコツ空母だから、全廃でいいでしょ』とする意見が多数であったが、現地での空母ウィッチの行き場問題、ジェット機空母はレシプロ機時代の空母より格段に高価であり、おいそれと量産できない事(排水量が60000トンで中型扱い)、アメリカのような空母機動部隊を目指すなら10万トン級が理想とされることなどもあり、結局、旧軍式で最有力とされた三隻をFARMしていた扶桑のメンツを考慮し、三隻はそのまま維持、それ以外は全て除籍も検討された。この事がウィッチのクーデターを招いたが、日本がクーデター軍を徹底的に潰したことで海軍ウィッチ部隊も形骸化し、結果、太平洋戦争は『空軍の戦』と評されるほど、空軍の独壇場というべき様相になる。また、この時に『大鳳型航空母艦二番艦〜五番艦』が没ったため、大鳳が浮いてしまうと懸念されたが、『翔鶴型航空母艦三番艦として処理しよう』ということで妥協された。日本は大鳳にまつわる逸話や、船体規模の小ささから、量産を差止め、4万5000トン級の改良型も没にした。その代案が『ミッドウェイの最終改装図面を流用した65000トン級空母三隻から四隻の建造』である。これは扶桑自前で超大型空母の建造は10年から20年以上のノウハウの蓄積が必要とされたことや段階的ステップの必要性から、改信濃型航空母艦の提案を13号型巡洋戦艦の船体や竜骨をベースにして、アングルド・デッキ装備の戦後型として建造する事で妥協された。この過程で、空母飛行甲板への魔術処理(ウィッチ運用には必須の処理だが、近代空母には不要とされる)が省略される事になった。これはウィッチ運用は強襲揚陸艦でなされる事となり、ウィッチの空母運用が縮小される(ウィッチ運用装備が除去される)表れであった。既にM動乱を最後に三空母からは取り外され、マイティウィッチーズの母艦としての指定もすべて外された。これは太平洋戦争を睨んでの措置で、既にウィッチの軍事的価値が低下していた(同時に、かつての奇跡を起こせるのが、一握りの英雄級ウィッチのみである事も判明し、ウィッチの組織的運用への魅力が減じた)証でもある。――











――それに従って、ダイ・アナザー・デイ当時に運用されたレシプロ戦闘機の戦力向上策はかなり本腰を入れて行われ、配備機の少なからずには『水エタノール噴射装置』が現地改修も含めて装備され、その関係でエンジン製造は継続された。水エタノール噴射装置の真価を出すには精度の良い部品と『熟練整備員』が必要になるし、部品交換頻度も上がる。そのための部品が必要になったので、エンジン製造の取りやめが中止されたのだ。また、場繋ぎでキ100が量産されたのも要因である。この余波で疾風の製造中止の検討(実際は性能を史実よりに是正した二型が完成しつつあったので、ある種の救済措置が取られた)、飛燕の製造中止が決められた。既に200機程度が完成していた三式二型はすべてが五式に改造された。三式二型受領予定の244Fは実際には百舌鳥を受け取り、その他の部隊も五式を受領した。しかし、『現地でライセンス元のエンジンに載せ替える』改造が横行していた三式と違い、稼働率がレイブンズも絶賛するレベルで上がっているため、百舌鳥は短期間に大量生産され、瞬く間に扶桑陸軍最後のレシプロ戦闘機(戦闘脚)の座を得る。ダイ・アナザー・デイでも緊急に500機が動員され、義勇兵も使用した。疾風が200機程度であるのに比べると雲泥の差だが、義勇兵は『三機の84より一機の100』と口を揃えるため、長島飛行機は屈辱を味わった。実際、疾風はハ43搭載型に転換した事による、整備要領の変化に整備員が戸惑い、機体も現地改修も多いために整備教育が追いついておらず、百舌鳥は新規制作ながら、手慣れた金星エンジンを使用している事から、整備員の負担も大きくない。また、ダイナミック・バランサーのエンジンへの搭載が促進され、大馬力機の振動問題が解決される恩恵により、雷電の配備が拡大する。ジェット機までの場繋ぎ兼数合わせで配備されていき、結果、ジェット機化されし震電を除けば、雷電は史実と反対にそれなりに生産され、場繋ぎの意図を超えて活躍する。紫電改も制空戦闘機としてのジェット機までの繋ぎ兼数合わせ目的での配備ではあるものの、零式後継の重責を担う。結果的に言うなら、クーデターに与したメーカーに川滝があったのは、液冷エンジンへの日本側の決定的不信を扶桑軍部が拭えなかった不手際に由来する。もちろん、扶桑は日本より液冷エンジンの整備力が上かつ、基礎工業力の差と資源の有無の差もあり、液冷エンジンにさほど抵抗感は無いが、日本は飛燕があまりにお涙頂戴な稼働率だったという記録の武器を使い、五式戦の大量生産を強引に決めさせた。ウィッチ・クーデターに意外に多くの軍需産業が与したのは、日本や未来世界の介入で官民一体プロジェクトの少なからずが潰れたからで、誉の量産頓挫、橘花、震電、梅花、桜花の調達中止はその最たる例だった。また、扶桑も将来的な高高度迎撃機にはジェット機に決定していたが、梅花、桜花、橘花の出来があまり良くないのもあり、『当分は先』と見積もっていたところはある。それをB29や36と戦うのを前提に、鬼の首を取ったように叩かれては立つ瀬がない。そのメーカーの猛反発がクーデターを助長したのも事実である。従って、その救済措置兼現地雇用の維持が問題になり、震電改二が計画承認された。日本側がメーカーの技術者個人で参加したというところに困惑しているところに、扶桑空軍がつけ込んで承認されたプロジェクトであったのだ。また、後の空軍による宇宙戦艦の調達は、陸軍がまるゆやあきつ丸の量産頓挫に抗議したが、『陸軍が海軍持つのか?あぁん?』と恫喝され、泣き寝入りしたことでの戦力輸送能力の海軍依存を懸念する陸軍高官らを宥める目的もあったりする。川滝のみならず、長島、宮菱、山西など、扶桑軍需産業の8割からクーデター軍に接触した技術者が生じ、その混乱により、震電改二はそれとは無縁の筑柴で初期段階の開発が行われたのだ――



――45年8月。ダイ・アナザー・デイが激烈を極めている時分、扶桑本土では、芳佳の婚約者にして、宮藤博士の腹心の技師(結婚後の名は宮藤吾郎との事)の現地からの指示により、ボディのみが完成済みの二号機を使っての開発が始まっていた。横須賀航空隊が全完成状態の一号機の提供を拒んだからで、この拒否が後に、天皇陛下によりテスト部隊の消滅の大義名分に使用される。これにより、不敬罪適応が恐れられたのも、横須賀航空隊出身者がその後に釈明に追われた理由だ。志賀はその場に居合わせなかった幸運もあり、咎を受けなかったが、芳佳へ送る予定の試作震電ストライカーがどういうわけか、一緒くたに焼却された事に愕然とし、それが後に彼女を傭兵の道へ進ませるのだ。これに吾郎技師も茫然自失に陥り、義憤に駆られた小園大佐が焼却した中堅ウィッチ達を殴打するに至る。この焼却事件は黒江のラインで知らされた天皇陛下をも大いに憤慨させ、源田に『テスト部隊は作んなくてよろしい』と漏らすに至る。震電改二はこの焼却事件により、一から図面を起こすことになった他、レシプロストライカーとしての震電は採用されたが、調達不能に陥る。芳佳が烈風改で場繋ぎを行ったのは、こうした機材の都合もある。次元震パニックが起こった際に、B世界の震電に予備部品を用意できないとされる遠因にもなる。源田は後に、『試験はしないと新しい装備が開発できないので開発試験は各軍と命令系統が別になる組織に必要な人員、パイロット等を出向させる方式にしましょう、下手に軍内部の組織だから膿が溜まるのかもしれません』と上奏し、64F内部に準備組織を置いた後、戦争後半に実働に至る。(正式発足は戦後だが)その初仕事がライノの試験であったという――


――戦地 芳佳のいる駐屯地――

「参ったね。この分だと、アニメみたいに震電は貰えそうにないか」

「仕方があるない。横空が意固地になっている。もしもの事もあり得るから、烈風を改造して、君用にチューンナップしておいた」

吾郎技師と芳佳はダイ・アナザー・デイの途中で婚約した。彼は宮藤一郎技師の最後の愛弟子であるので、技師としても一級である。烈風はロール速度が紫電改より遅いという難点があったため、完成していた200機は受領したウィッチ個人好みのカスタマイズが施されている。芳佳はその中でも先鋭的なチューンナップであり、翼端を削り、翼端版(ウィングレットを装着してロール速度を速めている。また、飛行呪符発生装置を試作の二重反転呪符に取り替えている。また、エンジンも限界までチューンナップされており、2400HPを叩き出す。震電の代替品としての用意であるが、コリコリのチューンナップがなされたため、エンジン以外は既成品であるB世界の震電よりも優れた点が多い。その先鋭的チューンナップはやがて、B世界の501転移後の模擬空戦で坂本の紫電改、B世界の芳佳自身の震電を圧倒する一幕を現出させる。

「タイムテレビで先取りで、パニックの様子見たけどさー。貴方のチューンアップ、向こうの坂本さんが腰抜かしてたよ」

「ハハハ、やはりか。それを見越してチューンしたのだ。基礎体力が違う。向こうのマ43は2100HP、こっちは2400HPに出力増強装置付きだ」

その様子は如何ななものか。吾郎技師に見せる芳佳。


――1947年 次元震パニックが起こった後――

「そっちの宮藤は震電じゃなく、何を使用して戦った?」

「紫電改を45年の途中まで、作戦中に烈風のチューンアップ機を受領して、今はそれを使っている。こっちの宮藤は結婚しててな。宮菱の技師とめでたくゴールイン、その彼がチューンアップした」

黒江が坂本Bに説明する。芳佳はA世界では結婚しており、その夫が技師であり、チューンアップした烈風を使用していると。

「これだ。烈風ベースだが、ウイングレットと層流翼仕上げの逆ガル翼、2400HPのエンジンに出力増強装置をつけたから、外見からかなり変わってる」

「逆ガル翼自体は変わんないんだな」

「層流翼に全取っ替えすることも考えたが、元々、逆ガル翼前提だから、翼の仕上げを良くして、外側を層流翼仕立てにして、層流翼要素入れたほうが安上がりだったそうだ」

「2500馬力級エンジン、扶桑にあったか?」

「リベリオンの分裂した方から取り寄せたエンジンを載っけたそうだ。だから、元の烈風ストライカーと違うだろ?」

「そうだな。なんの機体から分捕った?」

「リベリオン最新鋭の攻撃ストライカーのA-1の試作機から分捕った。量産型は2700馬力出せるから、お役御免になったそうだ」

「リベリオンのエンジンをよく調達できたな?」

「こっちだと、震電が量産頓挫したからな。宮藤の魔力の制御がマ43でもきつくなってきたが、マ44は中止されてたから、R-3350を載っけたんだ。烈風は調達が中止された時に200機がラインから出てたから、改造して使おうって話になった。その内の一機だよ」

「見たこともないエンブレムがあるな」

「こっちでの501の編成改編後のエンブレムだよ。それとラウンデルが日の丸に変わってるから、わかりやすいな」

烈風改には真501のエンブレムと、A世界での芳佳のパーソナルエンブレムが描かれていた。芳佳のパーソナルエンブレムはB世界での使い魔を単純に描いたものではなく、鞘におさめた刀を加えた使い魔が描かれているものだ。

「これがそちらでの宮藤のパーソナルエンブレムか?」

「こっちじゃ金鵄勲章もらってる撃墜王だしな。気質が変わったのさ」

芳佳は覚醒を挟んで、気質が別人になっている。パーソナルエンブレムも変えたのは、自分は以前とは別人に等しいという自覚によるものだ。この時に坂本は芳佳を海軍に慰留している。

「しかし、刀だと?信じられん。あいつ、ウチでは使った事もないぞ」

「こっちじゃ、智子の奴とガキの時に会ってて、仕込まれたんだそうだ。それで今じゃ『空の宮本武蔵』だ」

「『智子』だと?お前、ここだとあいつと親しいのか?」

「バディだよ。事変時は鳴らしたんだぞ」

「こちらだと転出したから、あいつと組んだ機会は少なかったし、親しくしてた記憶がないぞ?お前」

「こっちじゃ、『レイブンズ』だしな。智子とは付き合いなげぇんだ」

B世界では基本的に、黒江は坂本とは親しいが、智子との関係が『かつての同僚』でしかない。その前提があるため、A部隊での悪友ぶりは信じられないと言わんばかりだ。しかし、A世界では家族であり、ほぼ義理の姉妹に等しい関係となっている。智子が黒江に対して、姉のように振る舞っているのは、黒江の精神年齢も絡んでいるので複雑である。

「しかし、お前のほうが年上だろ?何故あいつはお前に年上のように接する?」

「義理の姉妹みたいな関係だよ。オレ、一番下なんだよな」

「俺?徹子を思い出す物言いだな」

「あ、やっぱり。言うと思ったぜ」

黒江は家族としての関係ではレイブンズでは末っ子ポジであり、真面目な次女ポジの智子、自由奔放で、ガンクレイジーな長女が圭子だ。圭子は素を出したら桂子の方に大いに腰を抜かされったり、そのあまりのフリーダムぶりで501Bを大いに震え上がらせている。特にタンクトップとホットパンツとタトゥー姿を見せたら、ミーナBの目が点になり、ラルを爆笑させている。休暇中の服装が突き抜けているため、ペリーヌBはその『どう見ても堅気に見えない』雰囲気から怯えてしまったが、物動じないのはルッキーニBだ。これはB世界では桂子とは会っていない事もあるが、圭子がノリの良い性格になっているため、ルッキーニのいたずらに比較的寛容なのも大きい。ミーナBはラルが立場では上なのに、圭子には目下として接する理由を尋ねた。空軍総監の立場でありながら、レイブンズに諂うような態度を取るのか。

「ハハ、なぜかって?私は悪童として名を知られているが、この方たちは悪党だぞ?機材を軍を超えて調達できる裁量権を持ち、人事権も行使できるんだ。私はガランド閣下やこの方達の使いっ走りにすぎん若造さ。それに、アレに勝てると思うか?世界初のウルトラエース、聖剣保持者、拳銃使い……おまけに圭子閣下はその昔、『扶桑陸軍の狂気』と渾名され、モンティが『血塗れの処刑人』と言ってはばからないんだぞ?」

圭子の武勇伝はミーナBも映像で見たが、まさしく『生死の境に愉悦を見出し、血と硝煙の気焔を好む』戦闘狂。怪異相手だろうが、人間相手であろうが二丁拳銃でなぎ倒し、見たこともない銃による近接格闘術(ガン=カタ)を使用する。おまけに見る者の覚悟を決めさせる射抜くような視線と眼光。ミーナBは納得せざるを得ない。更にサーニャとルッキーニの変化。アインツベルンの名跡を継いだ伯爵。この衝撃も大きかった。

「ミーナが驚いていた。サーニャが九条家とアインツベルン家の跡取りだと?どっちが正しいんだ?」

「両方だ。それぞれ別の名前で戸籍を持ったしな」

「待て待て。サーニャは?華族で、貴族になったのか?」

「どっちも由緒正しいぞ」

カールスラントのアインツベルン家は由緒正しい伯爵家だが、1940年代には故あって途絶えていた。だが、カールスラント皇帝がサーニャの大ファンであることから、彼自らが名跡を継がせた。その際に得た名がイリヤスフィール・フォン・アインツベルンである。これは公式には『途絶える際に夭折した当時の当主の息女達』の名を頂いたという事になっている。クロも同様である。在りし日は王室とかなり親しい関係だったアインツベルン家。そのため、サーニャとルッキーニに与えたのは、彼の気遣いでありつつ、アインツベルンの再興を願ったヴィルヘルム二世の願いを叶えるためだったりする。

「しかし、扶桑の華族としてでは行動しにくいぞ?特に九条家など…」

「だからこそのアインツベルンの家名だ。むしろそっちがメインだ」

坂本は九条公爵家の事を知っているため、黒江に指摘するが、イリヤとしてのほうが多いという事情を話す。アインツベルンの方が諸外国ではむしろ威光があるために動きやすいのだ。九条しのぶは軍楽隊用、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは戦闘用かつ、表立った活動用の身分である。

「エイラは知っているのか?」

「あいつ、今は南洋島の駐在武官だ。サーニャの亡命を知って、志願したんだよ」

「それはいいが、なんで九条家のほうが位が上なのに、アインツベルン伯爵家の名を使う?」

「あそこ、公家だろ?武門に手を出すと不相応って言われるんだよ、扶桑で」

「確かに、安土の頃は藤家長者の家柄だったが…?」

「公家でも武門の家はあるが、あそこ、昔から五摂家だったろ?公爵だと、行動に制限かかるから、伯爵の身分のほうが動きやすいんだよ」

「あいつ、どこであんな強さを?」

「英霊の強さを擬似的に得られるからな。お前は三羽烏として鳴らしてから衰えた自覚あるだろ?」

「空では衰えたが、剣技はリバウの頃から腕を上げていた。それをああもあっさり折られるとは。三羽烏の立つ瀬がない」

「この世界じゃ、俺たちが三羽烏で鳴らしたから、安心しろ」

「慢心か?」

「多少なりとも慢心するのが王者の風格ってもんだろ?」

「やれやれ。勝って兜の緒を締めよとか言うだろ?」

「オレたちは故あって、歳も食わけりゃ、宇宙が消えようが死ねないようになった体でな。そうでもしなけりゃ、落ち着いて生活できねえよ」

自分の地位に慢心しているように見えるのは演技と本気が半々だ。黒江は特に、戦っていないと虚無感に囚われやすい精神状態であるため、最近は慢心しているように見える振る舞いも多い。不死者になった故に抱える哀しみ。それを受け止めてくれるドラえもんとのび太は、黒江にとっては家族扱いだ。黒江は基本的に勝敗がかかるとスイッチが入るため、戦場やレース場、釣り堀、ゲームなどでは慢心しない。普段がほぼ無敵に近いので、負けるかも知れない緊張感を得るため、ここ数年はオートレースやモトクロスレース、パリ・ダカールラリーにのめっている。2016年度から出場し、上位20位くらいで完走している。また、2018年は赤城山ロードレースにも出場し、2019年は東京マラソンに応募するらしい。

「最近はスポーツや麻雀して緊張感を保つようにしてる。不死になると、どんな事でも死なねぇし、死ねねぇしな」

Gウィッチは原爆や水爆は愚か、惑星破壊プロトンミサイルであろうと死なない。宇宙空間でも生きられるし、宇宙が消滅しようとも生存する。不死というのはそういうものだ。

「それじゃお前、生身で宇宙に…?」

「月だったら自分で散歩感覚だよ。たかが36万キロくらいなら、最悪、自分ですぐ行けるしな」

黒江は黄金聖闘士であるため、その気になれば、月程度は近所の散歩感覚である。もちろん、ある程度の準備は必要だが。

「水星とかには行かねぇよ。極端だし、宇宙基地もねぇし」

「まぁ、水星はな。冥王星には行かないか?」

「あそこ、未来に分かるが、最果てじゃなくなるぜ」

「何?」

「天文学の進歩で冥王星より先に惑星がいくつもあるのが判明してな。その内の地球型惑星には宇宙基地はある」

これは未来世界でのことだが、ウィッチ世界でも、星の配置自体はほぼ同じであり、冥王星より先にはいくつか惑星がある。冥王星型天体と言うべきか。23世紀世界で判明したが、ガイアを含め、太陽系はおおよそ46億年前までに爆発で滅んだ先代の太陽系の残骸から生まれた星系であるので、先代太陽系はそれなりの太陽系を形成していたのである。ドラえもんが調べたところ、おおよそ60億年ほど前には『爆発しそうな赤色巨星』とその周りの惑星が存在しており、その巨星が46億年前までに消滅し、その先代太陽系の名残りが現太陽系外縁部の惑星ではないかとしている。現太陽系が形成され、アースの人々に東西冷戦時代まで認知されなかったのがガイアで、文明の進歩も同等である。ただし、宇宙時代以降は別理論のもとに進歩したらしく、MSは存在せず、波動エンジンもタキオン粒子前提の理論ではない。ガイアは艦艇と宇宙戦闘機メインの軍備であり、ラウンドバーニアンと言われる兵器はあるが、MSほどは普及していない。地上ではコンバットアーマーが使用されているらしいので、そこもアースとガイアの細かな違いだ。

「そっちは宇宙に行ってるのか?」

「バカみたいに科学が進んだ別世界との交流で宇宙に進出したのさ、この世界。携帯電話は軍人に限られるけど、普及したしな」

「携帯電話ぁ?」

「ほれ、黒電話があるだろ?あの機能を手のひらサイズに落とし込んだ代物だ。オレたちの生活必需品だ」

A世界では、より文明が進歩している時代の人間たちとの交流により、携帯電話が輸入され、47年度には軍人用に普及している。これは文明の進歩を近道することに反対する論調はありつつも、ティターンズやバダンへの対抗上、どうしても必要とされたための折衷策だった。黒江達はちょくちょく21世紀と23世紀に行っているため、軍で最も早く使いこなした。また、イリジウムタイプの衛星電話が次世代軍用通信機代わりに普及していたりする。

「うーん。その割にストライカーはあまり進歩してないか?」

「ジェットストライカーは航続距離の問題があるからな」

「航続距離?」

「次世代の魔導理論は完成したんだが、エンジンの製造能力がそれに追いついてなくてな。メッサーよりは安定して飛べるが」

第二世代宮藤理論は完成したものの、エンジンとして形にするには、素材の進歩が追いついていないとし、その最初の適応機であるF-104ストライカーは試作機の粋を出ていない。

「その最初の試作機は出来上がったが、作戦行動可能時間が短いから、迎撃機としてしか運用できんという見積もりが出てる」

ダイ・アナザー・デイでの持ち込み機で明らかになったその問題は、47年度の魔導エンジン技術者を悩ませていた。そのため、F-4ストライカーは増槽タンクも兼ねた武装ユニットを装備させる事になり、F-15の世代では、ガンダムF91を参考にしたレイアウトに進歩している。

「お前には見せておく。後世のジェットストライカー。オレたちの専用機として、別の時間軸から確保した3世代先のストライカーだ」

黒江がダイ・アナザー・デイ中に持ってこさせた、F-15J。退役時の新鋭機であり、翼、麗子、澪の時代では型落ち品である。舟形の武装ユニットが復活した前世代と違い、第三世代宮藤理論が適応され、この時代に比較的近い構成に回帰したモデルだ。武装ユニットはF91のヴェスバーのようなレイアウトであり、主翼や胴体にミサイルを携行する。実機をユニットに落とし込んだ形状ではなく、MSやISに近いレイアウトになっているのは、実機を落とし込む形状では、エンジンノズルに異物を吸い込む危険が指摘されたからだ。

「戦闘機を落とし込んだ形で無くなったのは、ジェットのエンジンノズルに異物が入ると不味いから、未来の機動兵器を参考にしたんだ。それと武装の重装備化もあるからな」

「装甲服を着込むようなスタイルだな」

「それに近い。第三世代宮藤理論は舟形武装ユニットが扱いにくいっていうんで研究がされた理論だしな。燃費も格段に良くなってるし、機動性で未来の機動兵器に追いついた」

第三世代宮藤理論の確立により、ようやく機動性で未来の戦闘機に並べたストライカー。ヘリのような機動が可能と言っても、この時代はまだそんなマニューバーを行う者は一部に限られていたし、必要性もないとされていた。

「追いついたとは?既に戦闘機より複雑なマニューバーができるはずだぞ」

「それは『できる』ってだけで、『やれる』のとは別問題だ」

黒江はダイ・アナザー・デイ中に見ているが、未来のみならず、同時代の戦闘機相手にすら『怪異とのマニュアル通りの戦法を行い、返り討ちにあった』ことはダイ・アナザー・デイでは日常茶飯事であった。特にP-47戦闘機はその強度により、並のウィッチでは急降下で追いすがれ、ユニットを破壊される例が多く報告されていた。これは機体強度が傑出していた証であり、山越技師はP-47をあらゆる面で圧倒せんとキ99を設計した。キ99で判明したのは『性能で圧倒しようとしたら、レシプロ戦闘機では割に合わない』事である。キ99は試作段階で18気筒2列空冷星型エンジンをタンデム2基搭載という無茶ぶりで、黒江を呆れさせている。ストライカーへのスピンオフも検討されており、一時は『キ99勝利』の声も上がっていた。黒江は『専任整備員が死んだらどうするんだ』と、採用に反対しており、黒江の提言ということで、キ99は採用されず、クーデター事件で散華している。

「P-47って戦闘機知ってるか?」

「ああ、リベリオンが開発したばかりの機体だろ。こちらではな」

「そいつは急降下で逃げるウィッチを狩りまくったもんだから、対応できる術があるオレたちにお鉢が回ってきてな。P-47に対抗するための戦闘機がコンペに出されるほどだった。

「こちらでは聞いたことないな」

「あくまで、こっちで『対抗上必要になった』から作られた戦闘機だしな。結局、ジェット機までの場つなぎ目的に使うにゃ高価だってんで、採用されなかった。性能面は最高級だが、整備を考えてなくてな。エンジンをタンデムだぞ、タンデム。前線で維持できっかよ」

「うーむ…整備はわからんなぁ」

「お前、整備に口出ししてないのか?」

「ミーナが厳命していたから、あまり口出しできなかった。ほとんどシャーリーに任せっきりだ。ブリタニアにいた時よりはマシになったが。そちらでは変わったそうだな。羨ましいよ」

「まぁ、それなりに苦労したけどな。整備のご機嫌取らねぇと、エンジントラブル起こされて落とされるからな。気ぃ使っとけ。実際、それで死んだのも多い」

「うーむ…。私達がウィッチで、特権階級だから大目に見られていたと?」

「そうだ。特権が取り払われたら、パイロットと一緒の兵種だ。オレたちのこの世界は異世界との接触による超科学の力で取り払われたから、それへの反発が起こってクーデターが起こった。更に言えば、オレみたいな出戻りは歓迎されなかったのさ」

「バカな、ガランド閣下やルーデル大佐がおられるだろう」

「オレは審査部に行ってたし、更に言えば、44年まで教官任務だったから、実戦に戻ったのは45年だ。あのお二方みたいに前線にいたわけじゃねぇ」

黒江の戦いに身を置く事への強迫観念の根源はグレーテ・ゴロプの精神攻撃もあるが、大半は審査部時代のいじめに根ざしている。黒江が子供っぽくなったのは、審査部の古参達の『輝かしい前歴と天皇陛下の寵愛を受けている』事への嫉妬による、ものすごく陰湿ないじめを封印時に受けたのも関係している。そのいじめは話を聞いた黒田が大いに憤慨して、吉田茂に訴えるほどのものであり、天皇陛下自らが陸軍航空総監部高官を呼びつけて叱責する事態になった。航空総監部は源田実の猛抗議やら、小園大佐の殴り込みを宥めるのに躍起になり、厄介払いも兼ねて、江藤の同期『坂川大佐』の要請という形で、47Fに送られた。そこで酷使された後に教官として505に配属になり、ゴロプの策略でいじめにあったことでG化を起こし、ゴロプは行方を眩ませた。黒江はその悲劇で、智子と同一の状態に戻った事が解ったため、源田は三人を未来世界に送り込むように動き、レイブンズを再結成させて一時帰国させた。ここまでがダイ・アナザー・デイまでの大まかな流れだ。源田の誤算は一つ。海軍343空を母体にして新生64Fを作る意思を見せた際、志賀などが猛反発した点だ。RやGを含めたベテランと若手の混合によるボトムアップ。そのテストケースを真501は兼ねていた。だが、それにさえミーナが反発した。

「2年前。まだ今の状態になる前のミーナは親父さんが構想していた『統合戦闘航空軍』に猛反対した」

「お前らの年齢は45年で、穴拭でも21だ。飛べるエクスウィッチの監査官でも送ってくると思ったんだろ。あいつはラルに人員を何度か取られているしな」

「下原だろ?諏訪の長女の代わりだろ、確か」

「ああ。山本閣下の『やって見せ、やらせてみせて、褒めてやり。現場での教育が出来なきゃ次を担う者なぞ見つからんぞ』というお言葉を聞かせてなだめたが。それで宮藤をスカウトする方向に持っていったが、私も文句言ったぞ」

「あいつは人員や物資の横領得意だしな。今はやんなくなったがな。立場上」

「あいつ、そっちだとなぜ、空軍総監に?」

「閣下の義理のお子さんやお孫さんの関係で、職を辞すると言ってて、それで後任探しが始まったんだが、エディタ・ノイマン大佐が外交上のトラブル起こしたから、妥協で選ばれた」

「外交上?」

「デロス島に遺跡あったろ?怪異が出たから、遺跡の破壊やむなしとしたら、可哀想そうなくらい叩かれて、降格処分と作戦飛行禁止数ヶ月と左遷だ」

ノイマンはA世界ではデロス島のことで大尉への降格、軍籍剥奪までギリシャの圧力とユネスコの猛抗議で俎上に載せられ、そのショックで精神を病んだ。マルセイユの猛抗議でユネスコとギリシャの圧力は収まったが、もはや空軍総監にはできなくなり、ラルに白羽の矢が立った。ラルはそれを引き受けた。実質的に中間管理職であるものの、与えられる権限は強大であり、反発していたミーナを抑え込むのに有効に働いた。

「ひどいな。そこまでするか?」

「抗議した方は軍籍抹消を言ってきたんだ。それに比べれば穏便だ。ただし、現場が大荒れなんで、ハルトマンを大佐にしたが」

「あいつをなぜ」

「撃墜スコアの再査定で上がったのがハルトマンなんだよ」

「再査定とは」

「なんて言えばいいか…。スコアの粉飾疑惑が湧いてな。それでカールスラントの連中、最大でマイナス50は差っ引かれた」

「バルクホルンとハルトマンも?」

「あいつらのJG52中心の疑惑だったからな。結局、ハルトマンは却って増えて、バルクホルンは若手時代の20機くらいで収まった。勲章の取り消しは現場の士気に関わるから、昇進で誤魔化してた」

「それで大佐に?」

「ノイマン大佐の一件でウィッチに相当な反発があったし、502のサーシャ大尉がサーニャの一件でエイラと問題起こしてたから本国に帰してな。代わりにフーベルタを転属させて、ヨハンナ・ウィーゼを呼び寄せて、構想を実現させた」

「ほとんど、カールスラントで固められてるじゃないか」

「そのバランス取りで俺等がいるんだよ。ブリタニアはエリザベス・F・ビューリングを送って一応の威厳は保った」

「彼女、ここでは現役なのか?」

「智子の変化を感じ取ったから、引退を取りやめて軍に留まってたのさ。智子のバディはオレ、フジ、ケイを除けば、彼女しかできないからな」

坂本Bのいた世界と違い、世界情勢がかつてのエースたちのカムバックを促したA世界。坂本Bは複雑な表情であった。かつて、坂本Aが転生前に黒江の復帰に際して見せたような哀しげな顔だった。


――タイムテレビで流れるこの映像は、先取りで見た芳佳を苦笑いさせた。坂本はどこの世界でも、自分が襷を引き継いだ世代のウィッチの復帰は心苦しいらしい。自分が襷を渡した世代である芳佳の『復活』を褒め称える描写がアニメであるので、下手すれば矛盾と責められかねない。実際に前史ではそうだった。

「前史だと、ここが責められたんだよな。坂本さん、後輩の起こした奇跡に寛容だけど、自分の先輩が起こすと別の反応を見せる。矛盾って叩かれた。あの時の釈明は可哀想だったな。今回は自分がその立場で開き直ってるからいいけど」

「まぁ。まさか、アニメで自分の悪あがきを見せられた上に、君が奇跡を起こした映像を見させられたんだ。劣等感があったんだろうね」

吾郎技師はそう推測した。坂本は転生前はBに似た感情を奥底で抱いており、黒江の周囲への依存を断ち切らせるとの意図で数十年後に喧嘩をしたが、それが裏目に出て、自分の後半生そのものを暗転させた。黒江への劣等感がなかったというのは嘘だろうと。

「劣等感?」

「坂本少佐は転生前、黒江閣下がまた英雄に戻っていくのに多分、どこかで嫉妬心を抱いていたんだろう。そうでなければ、数十年後にいきなりあのような真似はせんよ」

「あれは菅野さんを瞬間湯沸かし器にしたからね。その時の負傷が健康を損ねる要因なのも皮肉なもんだね。黒江さんの『あーや』をまた表に出しちゃったもの。菅野さんが怒るのも無理ない」

「あの人は意固地なところがあった。今回は学んで謙虚になったから良かったよ。メーカーから不興も買わず、無難にテストパイロットしている」

「黒江さんを見習ったそうだよ。黒江さん、テストパイロット上がりだしね」

「まずは満足。ただ、君は震電のことを諦めてくれ。B世界のを使わせてもらう以外にはない」

「分かってるさー。B世界のあたし、驚くだろうなー。所帯持ちになるし」

「皆が腰を抜かすさ。それと、君の親友の美遊・エーデルフェルトもね」

「美遊はその前にミニー・ビショップ氏への説明だなぁ。菓子折り持っていくように、閣下にアドバイスしといて」

「わかった」

「美遊ちゃん、妹か娘みたいな感覚になっちゃってちょっと物足りないんだよねー」

何かを抱き、揉むような動きの芳佳。根本的におっぱい星人なのは変わりないが、公然とするのが角谷杏としてのメンタルが反映されている。

「その手やめ、って本当に欲望の方向性は相変わらずぶれて無いなぁ」

苦笑する吾郎技師。

「そうでなかったら、あたしじゃないさ。世の中はあたしら『G』を必ずしも歓迎しちゃいない。なら、別世界の『魔神皇帝』達の力を借りてでも、世界の全てを破壊して、全てを繋ぐさ」

「いっそのこと、ベル・スタア強盗団みたいに敵の列車でもジャックするかい?」

「あの漫画、読んだんだ」

「お義母さんに婚約の挨拶しにいった時にね。未来から持ち込んだのかい」

「21世紀からさ。漫画はこの時代、あまり公にできない趣味だしね」

「そのうち、アニメが入って来れば、年寄り連中も見方を変えるさ。重要な外貨獲得の資金源になるし、リベリオンの独占している市場に風穴を開けられるからね。それに、リベリオンの亡命連中はアメリカからの輸入映画でいくらでも娯楽を見いだせる。ウォルト・ディ○ニーも亡命してくれば、質がいいアニメを作れるさ」

「銃器はどうなると思う?」

「現地の商売の都合で、登録制になる程度だろう。日本連邦になったとは言え、連中が扶桑に直接の干渉は出来ん」

銃器は扶桑の国民に配慮し、登録制にして一定の規制をかけることになるが、軍隊の制式拳銃は官給規定がなく、士官などは自費購入が当たり前であったための措置でもある。自衛隊のP220に統一する動きもあったが、現地の士官事情に配慮し、一定の自由度を与える事になった。そのために圭子のソードカトラスが羨望を浴びたのだ。制式拳銃の規定が厳格化する前に用意されたものなら、お咎め無し。その期限の前に購入した拳銃が多いのは、拳銃の自費購入が将校のステータスだった扶桑の事情に由来する。日本側は困ったが、厳格化する前の購入であれば、勤務で使える規定だし、弾の規格は自衛隊と同じ自動拳銃も多い。弾薬規定に『9mmパラベラム弾を使用する』というものが書かれていたため、ワルサーP38が一番人気であった。黒江や智子、圭子はベレッタベースの改造銃であるが、圭子はソードカトラスなので、自衛隊でも話題だ。ブローニングハイパワーも人気であるが、ドイツびいきが多かった扶桑軍将校も自弁ではブローニングハイパワーを選んだ。ブローニングハイパワーは人気はあるが、ベルギカが陥落した後、ブリタニアに亡命しており、生産数が落ちていたので調達は難しかったが、ブリタニアが生産を促進させたため、それなりに出回った。芳佳は圭子がいる都合でベレッタだが。

「ケイさんがいるから、ベレッタ買ったよ。整備とか丸投げするから、ケイさんに合わせた」

「君は剣で間に合うしね」

「持ってても威嚇にしか使わないしね。今じゃ前史みたいなことは言わないけど、慣れてないからね」

「戦車砲には慣れてるくせに」

「それは無しね」

芳佳は大洗女子学園のセーラー服姿にベレッタを携帯し、刀を帯刀する姿で勤務している。これはいつものセーラー服の替えが敵の流れ弾で焼かれたので、緊急で大洗女子学園のセーラー服に着替えていた。緊急だったので、校章などはそのまま。実にアンバランスさがある。

「君、そろそろ士官用にしたら?」

「それがさ、今すぐに用意できないとかで無理なんだよねー。本国から持ってきたのはさっきの流れ弾で燃えたし」

「それで勤務するのかい」

「緊急だし、隊長が嬉しがるからねー」

「シスコンだなぁ、あの隊長」

ミーナが喜んだので、当面は大洗女子学園の制服を臨時で使用するとした芳佳。ミーナも空軍の制服ではなく、黒森峰女学園のパンツァージャケットで勤務しているので、覚醒後はフリーダムなミーナ。しかし、後で、芳佳は坂本に『三種の上着なら酒保に在庫有るから、急いで買ってこい!それとジェット使うなら化繊の防寒ジャケット買ってこい!』とお叱りを受けたという。ただし、第三種軍装はカーキ色なので、日本側に不評であったというが、日本独自の様式なので、あまり強くは言えなかったという。芳佳はこの後、紆余曲折を経て、留学頓挫の意趣返しで空軍に移籍する事を選択したため、海軍第三種軍装を着たのはこの時が最初で最後となった。坂本は遺留していた上、上層部に掛け合って、規定を作らせたので、46年からの一時期にショックのあまりに荒れてしまい、数ヶ月の謹慎処分を食らったという。(根拠となる規定が廃止されたため、書類上は口頭注意相当とされた)扶桑軍では謹慎処分の規定があったが、日本側が自衛隊に合わせるための廃止したため、坂本は戦功も上げていたのと、ウィッチ出身の軍人であり、替えが効かないため、免職が事実上できない(通常の軍人と違い、ウィッチ出身者はものすごく希少であったため、)謹慎処分はウィッチ出身軍人への処分の上で便利に使われた。また、『有事』が迫ってきていたため、自衛隊も将官と佐官の高齢者への退職勧奨どころの話でも無くなってきた事情も絡んでいた。そのため、自衛官(扶桑軍人)の退職勧奨は当面の間見送りとされる。有事には経験豊富な者が必要にされるからで、また、大量に将官がいる扶桑軍人とのバランス取りの都合により、日本連邦軍将官として、戦争中まで勤務した自衛官高官は多い。また、海援隊への天下りが第二海軍化で事実上の規制がなされるため、転職の宛もないので、Rウィッチ化して軍隊に居続けるウィッチも多数であった。太平洋戦争までに扶桑の軍事関連社会の人員の需要と供給のバランスが日本系勢力の予期せぬ策動で大きく崩れたため、軍ウィッチは事実上、Gウィッチたちが絶対的存在となるピラミッド型人事構造になっていき、反Gウィッチ派の思惑と裏腹に、軍ウィッチ社会は太平洋戦争という有事で、Gウィッチという絶対的存在が指揮統制する階層社会となっていくのである。



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