外伝その283『限界を超えろ』


――歴代プリキュアで何故、プリキュア5が最初に現れたのか?のぞみの来世が錦であるという輪廻転生上の関係性もあるが、出身世界での人生があまり報われなかった事、歴代プリキュアで一番にこの世への未練が強かった事、神々にとっての『可能性のドア』が残されていた事が転生の理由となった。のぞみと同世代〜比較的近い世代のプリキュア達が相次いで転生したのも、実のところは彼女が『心の底で友達を求めていた』というのが真相だった。圭子はそれを悟っており、フレデリカと別れた後、レーシングカーの整備講習を受けた後ののぞみを連れ出し、現地の人里離れた丘に連れていき、のぞみにりんが心配しているものを吐き出させるとし、模擬戦闘訓練と称して戦った。圭子は数度の転生でゲッター線を制御したばかりでなく、光戦隊マスクマンの力の根源『オーラパワー』を身に着けていたため、二つの力を複合させた戦闘術を披露。黒江や智子と違う方向性での強さを見せた――

「わりぃな。こっちも色々とバケモンと戦ってきたんだ。転生したてのガキに遅れはとらねぇぜ!」

圭子はキュアドリームに変身している状態ののぞみのパンチを事もなげに受け止め、強烈な膝蹴りを仕返す。そこから連続で膝蹴りを見舞った後に正拳突きを食らわせた。腹に見事にクリティカルヒットである。圭子は基本的に武術の師が流竜馬やレッドマスク/タケルだったりと、意外なことに空手の使い手であったため、意外なことに構えは空手のものだ。ただし、いずれも実戦前提の流派であるので、21世紀現在のものより攻撃が苛烈である。また、圭子はゲッター線の使者の側面もあるがため、攻撃力は流竜馬同様、爬虫人類撲殺レベルのもので、攻撃が当たった場合の地面の陥没具合はミルキィローズを素で凌駕し、ドモン・カッシュに比肩する。

「嘘ぉ!?み、ミルキィローズ以上のパワーを変身もしないで!?」

「あたしが聖闘士にならなかった理由はこれだ。もうゲッター線の先約が入ってたんだよ。しからば、見せてやるぜ」

圭子はブラックゲッター(敷島博士案)の姿を好むが、竜馬案とのキメラとなる。体を変異させ、首元に黒いボロボロのマントが出現し、右腕はドリルになる。左腕にはゲッターレザーとスパイクが形成され、双方のブラックゲッターを混ぜた姿となる。瞳は高濃度ゲッター線に魅入られたような渦巻き模様になっており、身体からは緑のオーラを発している。

『暗黒乱舞!』

「!?」

目にも留まらぬ速さで圭子は暗黒乱舞をかけた。ドリルと拳で滅多打ちし、最後に膝蹴りを突き上げの態勢から見舞い、ドリルロックバスターでぶっ飛ばす。その間、ものの数秒。

「か、かはっ…!ケイさんもこんな強いなんて…!」

「だから、江藤隊長に疑惑の目で見られたって言ったろ、若い時に」

「もしかして、先輩方全員、事変でチートしてたんですか」

「アホが。大攻勢受けた時以外はやっちゃいねぇよ。普通にやってもトップ3独占できたしよ」

ドリームの指摘を否定はしないが、大攻勢を受けた時などの緊急時のみだと注釈をつける圭子。実際、テクニックを応用すれば、普段の戦闘に勝てたのが事変だ。ただし、クーデター勃発時は全力で処理したため、昭和天皇がそれで惚れ込んでいたのも事実だ。

「あん時のクーデター、それとウラジオストクへの攻勢阻止、最終決戦の三つくらいだぞ?全力で殺ったの。あん時のクーデターでお上に気に入られたのは収穫だったぜ?」

「つか、その三つで三桁稼いでません!?」

「仕方がねぇよ。ウラジオん時は隊長が予想外の事態で狼狽してたし、北郷さんの言うことにも耳を貸さないくらいテンパってたから、まっつぁんの指示仰いで、三人でぶちのめしただけだ」

圭子の語るところによれば、当時、ウラジオストクの陥落は確実視され、陸軍最新鋭(当時)の九七式中装甲脚(戦車)の役立たずぶりが露呈し、撤退の方針が決まっていたのを、圭子が素を出して江藤を脅し、三人でウラジオストクに向かう陸戦怪異の胸に立ち向かった。その後詰めが赤松と黒田だったという。この時にリミッターを外し、戦場で蹂躙と言えるほどに暴れまわった五人の姿は伝説となったが、当時の武子にいらぬ危惧を抱かせた功罪もある。

「あれ、黒田先輩達は?」

「後詰めだよ、後詰め。江藤隊長や武子が喚いてたから、抑え役に回した。ぶっちゃけ三人もいれば、ウラジオストクへ南下してきた一団にはおつりがきたしな」

実際、黄金聖闘士が二人もいれば、二つの大陸の全土を制圧できるので、ウラジオストクへ南下する怪異の軍団は空戦型を勘定に入れても余裕綽々であった。この時に援護に駆けつけた坂本が額に薄い傷を作ったのである。黒江のエクスカリバーの余波で破壊された、遺棄されていた砲の破片で傷を作り、智子の治癒魔法で薄くしたが、勲章として消していない。その出来事を圭子はミーナの覚醒の誘発に使ったのだ。

「ただ、ファイヤーブラスターで怪異薙ぎ払ってる智子を未覚醒だった当時の武子が見てよ。それで智子をスオムスに行かせる決心したんだよ。あたしが最初に覚醒したから、あいつがまだ目覚めてない時にちょいと脅してやった」

「どんな?」

「簡単だ。『智子をスオムスだぁ?なんて辺鄙なところに送りやがったんだ、あぁ?』って。あいつが覚醒するには時間があるの知ってたから、からかったんだよ」

「泣きますよ、その口調じゃ」

「案の定、ものすごく泣かれたよ。確か、『あなた達はいくら強くても、チームプレーを知らないのよ!』だったか?泣き声で言われるもんだから気まずくてな」

未覚醒だった当時の武子は圭子の荒々しさを受け入れられないところがあると同時に、智子の身を案じた真意を圭子にまで否定されたことでパニックになり、電話口で泣きながら声を荒げるという珍しい姿を見せた。武子は覚醒後は個人戦果と集団戦果の両立を図る上での天才と呼ばれているが、中尉時代までは集団戦果にこだわるあまりに顰蹙を裏で買っていた。その事に打ちのめされている時期に圭子が覚醒後の状態で電話したものだから、ヒステリックに喚く姿さえ見せ、圭子は逆に呆気にとられた。

「それを考えりゃ、体が出来上がる前に無理したんで数年封印状態になったのは失敗かもなぁ。結局は世代間対立の火種を周りが善意で動いた結果、あちらこちらにばらまいただけだったし」

乾いた笑みを浮かべる。世代間対立の元凶は武子の進言、江藤の申告の注釈を確認しなかった参謀本部の失態、公認スコアをカールスラントの俊英達が追い抜いていった、他国のほうが真実を報告していたなどの要因が絡み合って生じた事であるため、武子一人の問題では無くなっている。昭和天皇はクーデターの折に全力を見ているため、東條の失脚後は全幅の信頼を寄せており、スオムスに智子が行ったことを武子を欧州から呼び出して問いただすほどに入れ込んでいる。武子の覚醒の誘発はそれが第一歩となった。運悪く、圭子はその直後に電話をかけたので、当たられたのだ。親や親族からも叱責されたからだろう。

「運の悪い事に、電話をかける数時間前、お上が智子のことを知って、参謀本部を問いただしたから、顔面蒼白で欧州から呼び戻して、皇居でお上に問いただされてたんだと。それでヒスられた」

「智子先輩、当時は一番の人気者でしたしね。お上も入れ込んでたってのは、お姉ちゃんから聞いてましたけど」

「あとで聞いたが、最悪のタイミングだったらしくてよ。お上に呼びだし食らったんで、家族に泣かれるわ、親類に国賊とか罵られたそうだ。それであたしの電話だ。導火線に火をつけちまった」

頭をかきながら、困ったような顔を見せた圭子。真意を必死に説明したことでその場は放免になったが、世代間対立の火種を作ってしまったと、後で後悔している武子。その責任を負うがため、将官になる資格はないとしていたが、皇室を守るためにそうなるしかなかったため、武子は生真面目すぎだと言われるのだ。

「隊長って、生真面目をこじらせてません?実直を通り越して融通がきかないって感じに」

「生前は料理ができない、洗濯物をしたらもっと増やすって嘆かれてたお前には言われたくないと思うぜ」

「うぅ。過去バレがこんなに広まってるなんてぇ〜!」

「いや、自衛隊の大きい友達連中はみんな知ってるぜ?何言ってんだ、お前」

「ど、どこまでバレてるんですか!?」

「最初の戦いの時の『ココ』への告白じみたラブシーンとか、お菓子の国で歴代唯一のキスシーンやらかしたところとかだよ」

ドリームは結婚に至った世界線があるほど、明確に恋人と言える間柄になった妖精がいる。相手が人間形態になっていたとはいえ、キスシーンまでやらかした功績があるのは、後にも先にものぞみだけだ。

『…え、えぇ〜〜!』

「いいか?今更なんだがお前らプリキュアってのはな。小さな少女の憧れ、大きなお友達の情愛の対象なんだ。プリキュアの力ってのはそういう皆の心が支えてくれてるんだ、知られてるのは有名税として諦めろ、現役中とそれに関わるエピソードはバレてるからな、全部」

「それじゃ、あーんなことやこーんな事も!?」

「みゆきがDVD持ってる時点で気づけよ、アホ」

「ね、ネットでエゴサしてみます!」

圭子のタブレットでエゴサーチしてみるが、圭子の言う通り、ココとのキスシーンの動画があるわ、現役時代のあらゆる出来事の画像や動画が死ぬほどヒットし、更には自衛隊音楽隊のプリキュアオープニングレドレーの映像でとどめを刺され、衝撃のあまりに突っ伏す。

「う、嘘でしょ〜……ココとの事はみんなにも言わなかったのに〜!あの時は必死だったんですよ!ココの洗脳を解きたくて!」

「恋心は否定しないんだな」

「お母さんに言えない関係なのは分かってましたよ、表向きは教師と生徒だったし、そもそもの種族も違うから、実ることはないってのも分かってました。だけど、りんちゃんのいた世界のわたしはそれを選んだ…。羨ましいです。記憶はあっても、ここにいる私の体験じゃないですし…」

「それが記憶の統合だ。あたしも他の世界の記憶はあるし、綾香もだ。ただ、あいつの場合、その記憶から来る除け者感を嫌ってたかあいつ、毒親が母親でな、母性愛を得られなかった事がコンプレックスなんだよ、今でもな。母親は女優にならなかった娘を勘当しようとして、家中巻き込んだ大騒動を起こしたこともあるほどの人物でな。あいつがはっきりと嫌うのも分かるよ。嫌味ったらしくて、若い頃に財産目当てで綾香の親父を捕まえたのがありありとわかる」

圭子にはっきりと断言されるほど、黒江の母は若き日の夢を娘に託そうとし、思い通りにならないと投げだし、ウィッチになったことで勘当しようとしたほどに傲慢であった。ただ、それは黒江の父が彼女の夢に理解を示さず、娘を生むための道具として見ていたという致命的ミスのせいでもある。祖母はその事を憂いながら、死の床についた。夫への復讐方法が娘の冷遇であったが、綾香のコンプレックスを決定づけた点では、子孫達に『大罪人』と断じられてもいる。転生を重ねていくにつれ、元々の大人びたキャラが消え、今の子供じみてもいるキャラへと変わったのが黒江だ。二重人格の名残りでキレると怖い性格になり、心を開くと、とことん信頼する。それはのび太を『家族』と認識し、その子孫達を支援していることからも分かる。のび太は友情は間違いなく裏切らない。のび太自身が義侠心に溢れ、代々の子孫もほどよくのび太の優しさと義侠心を受け継いでいる。黒江がのび太にすがる理由は一つ。のび太、ひいてはのび太以降の代々の野比家にすがる理由は『自分の家庭で与えられなかった温かさ、笑いあえる環境が野比家にある』からなのだ。黒江家は裕福ではあったが、父と兄たちの努力を無にするような母親の厳格な英才教育で不和が顕著に表れ、黒江が小学校六年当時には近所で噂になるほどの夫婦喧嘩の日々であった事、母親が黒江のウィッチ覚醒を罵った事が原因で、家の評判を落とすなど、最悪に近い家庭環境であった。黒江は『身内でなきゃ、とっくに見放してるよ、おふくろのこと』と公言し、赤松を母のように慕っている。自分を可愛がっていた祖母の死後は母親との仲は険悪であった。その家庭環境が野比家の暖かさを求める(ひいては普通の家庭的幸福)理由なのは、社会的地位は高いものの、家庭的には底辺に近い事が黒江の不幸だったと言える。実に個人的と言えば、個人的だが、意外な人間性の表れである。

「黒江先輩への陰口が三人の中で一番ひどいってのは…」

「そう。世渡り上手なくせに、永遠の子供心の象徴ののび太と擬似的に家族関係を持ってることへの嫉妬や嘲りだ」

「どういう事なんです?」

「のび太は『人間』だろ?あたしらは末端とは言え、神だ。神は感情を持つな、駒として人間を見ろっていう宗教的悪感情からの陰口、神のくせに人間の時の生活を捨てられない者としてのレッテル張り。挙げるとキリがねぇよ」

「ひどすぎますよ、それ!」

「実際は神だって人間社会に溶け込んでるんだぜ?ゼウスは甲児の成れの果てだし、女神のヘラはさやかの後身だぞ?」

ここで、ゼウスの妻『ヘラ』は甲児の後の妻『弓さやか』の後身である事が語られる。オリンポスの神々は人間出身者が意外に多いのだ。

「だーかーら、レッテル張りは何の意味もねぇわけだ。最高神が元人間なんだぞ?オリンポスは。ハーデス、つまり闇の帝王もミケーネ帝国の最後の皇帝だった存在だぞ」

「つまり、オリンポスは…」

「神になった人間達の築いた地であり、秩序だって事だ。日本神話も大首領が造らせた神話だしな」

ウラノス、ガイアも肉体を有している事から、少なくとも神に至った人間達がオリンポスを築いたのは確かだろう。この時点で明らかだが、ZEROの意思云々以前のレベルで兜甲児は不滅の力を得ると言える。はーちゃん(キュアフェリーチェ)がZEROに敗れたのは、大地母神見習いであった事、ZEROに対抗できるだけの神通力をまだ持っていなかったのが原因である。

「さて、お前はまだセブンセンシズに至ったばかりだ。ドラゴンボールで言うところの身勝手の極意に相当する境地がナインセンシズなんだが、そこまで至れば、独力でアテナエクスクラメーション級のパワーを持てる」

「セブンセンシズにたどり着いただけでも、すごいんじゃ」

「黄金聖闘士になる裁定条件だが、デスマスクを見ろ、デスマスクを。あじゃぱ〜要員なんだぞ、あいつ。日本全国の蟹座の男子を絶望させた前科がある」

デスマスクが何故、黄金聖闘士になれたのか不思議だと見られている。蟹座は時たま教皇も輩出した星座だが、デスマスクは当代最弱の黄金聖闘士とされるほどの噛ませ犬である。その理由は慢心もあるが、デスマスクが冥界波以外の積尸気の闘技を持っていなかった事も関係する。多くの平行世界でデスマスクは紫龍に常に倒されるし、蘇っても前座扱いである。デスマスクは『素質はあったが、それを磨き終わらない内にサガの乱に遭遇したのが不幸であった』とは老師の評価だ。

「セブンセンシズにたどり着いただけで満足するなよ?デスマスクはそれで破滅した。先の扉はまだまだある。スーパープリキュアの限界を超えろ。ウルトラプリキュアを目指せ」

「ウルトラ……プリキュア」

「便宜的にそう呼べ。ハイパーでも意味は同じだ。とにかく、素で因果律操作の影響がない初代と違って、スプラッシュスター以降は『初代の魂から生まれた、初代を超え、後継するための派生存在』なのは確かだしな。次からは全力で来い。あたしも全力を見せる」

「全力……」

『チェーンジ!!ゲッタァァァ!アーク!!』

圭子は全力をフルに出せる現時点での限界モードであり、もっとも高いゲッター戦闘値を誇る『ゲッターアーク』モードを見せた。背中のマントが剣の後背輪を形作る形状のウイングに変形し、身体の各部の形状と意匠がアークのそれに変わる。真ゲッターの戦闘値を維持しつつ、長期戦向きの特性を持つゲッターロボの力を発現させた。

『バトルショットカッター!』

圭子の腕に巻き付いている最終型のゲッターレザーたる『バトルショットカッター』が瞬時に展開され、キュアドリームの体を瞬時に斬り裂く。『ピッ』という効果音で傷が入って行き、派手に鮮血を吹き出させる。

「今の一瞬で……う、うぐ……!だけど、これがわたしに課せられた使命なら!」

『おおおおおおおおああああああっ!燃えろ、わたしの小宇宙ぉ――!』

自己の意志での初めての小宇宙の燃焼から、シャイニングドリームへの変化を起こすキュアドリーム。この時点の力では、黒田との特訓で見せた『シャイニング・ウイングドリーム』には至らないが、通常のシャイニングドリームに祈り無しで変身できるようにはなった。この時点でプリキュア5では最高位の戦闘力を持つと言えるのだが。

『スターライトフルーレ!』

『ダブルトマホーク!』

二人は武器を召喚し、ぶつかりあった。速度で圭子に分があり、防でシャイニングドリームに分があったが、ここまで高い次元だと、些細な違いである。剣と斧という得物の差はあれど、技はほぼ同等であり、『プリキュア・スターライトソリューション』を躱す圭子、ゲッタービームを避け、フルーレでトマホークに立ち向かうシャイニングドリーム。二人の戦いは白熱する。やがて、得物の攻撃が無意味であると判断した両者はステゴロでの戦いに移行。ドラゴンボールさながらのスウェーなどを応用した回避、拳のぶつけ合いで衝撃波が散り、余波だけで地面が陥没する。ガンダムファイターがまま見せるような光景だ。

『これでどうだ!炸裂・ガイアクラッシャー!』

地面に拳を打ちつけ、大地を隆起させる圭子。アルゴ・ガルスキーの技をいつの間にか覚えていたらしく、ガイアクラッシャーを使う。地形を変え、隆起させるこの技。シャイニングドリームは生前の教師時代の若手時代にゲーセンで見た技で対抗した。

『プリキュア・パゥアーゲイザァァァ!!』

至近距離まで接近する必要があるが、地割れを起こし、パワーの奔流を浴びせる点で意表を突く。生前とは無関係かつ、プリキュアを出自に持たない大技であり、さすがの圭子も空高く吹き飛ばされる。

『へえ。おっさんホイホイやりやがって。なら、同じ系統で、シャーリーも使う技を!陽炎の舞!』

シャーリー(北条響)がやる技の一つが陽炎の舞である。印を結んで炎を発生させ、相手を炎で焼き払う。忍術の心得がある圭子は使用可能である。そこからのシャーリーが奥の手の一つと、北条響の因子が目覚める前から語った大技。

『超必殺・忍蜂!』

空中で側転し、肘打ちで突進してから乱打を浴びせる。超必殺の場合は炎を纏っている。圭子はシャーリーのそれを見て覚えていた。もはやなにかのトンチ合戦のようにも思えるが、北条響が『不知火流忍術』をどういうわけか習得していた間接的証明でもある。

『ぐぬぬ……その路線で来るなら、見せてやる!草薙の拳を!!』

「お前、生前、格ゲーのコアなゲーマーだっただろ!」

圭子も思わずツッコミを入れた。のぞみは生前の教師時代のある時期、ストレス発散のために格ゲーをやり始めたとは言ったが、いつしかコアなゲーマーになっていたのだと分かるような口ぶりである。

『でりゃああああ!』

その場で肘を打ってから裏拳のように腕を伸ばし、炎を纏い1回転して舞い上がる。シャーリー(北条響)の会得している忍術と同じ出自の武術の技で、『百式・鬼焼き』と呼ばれる。炎を扱う技なので、本来はドリームの領分ではない。

「わたしの拳は……ナパームより熱いですよ?」

「りんが見たら驚天動地ものだぞ、草薙流を使うのかよ!!」

「良いじゃないですか、黒江先輩が波動拳をネタにしてるんだしー!」

「炎なんて、本来はルージュの領分だろうに。泣くぞ?」

「りんちゃんには後で見せます。生前の技がバレてるんだし、こうなったら開き直りです」

「柔らかいデザインのシャイニングドリームで草薙流かよ。面白い組み合わせにしたもんだ。綾香が喜ぶぜ」

「これ、物理的な発火現象なんで、超パワー関係無いですよ?『わたしにできる事』を見いだせましたよ、先輩」


「…っし、今の動画、早速撮ったから、りんに送信っと」

「早っ!?」

ちゃっかりと録画した動画をりんに送る圭子。動画を見たりんはその瞬間、のぞみが炎を操ることに驚天動地となり、その驚いた時の声で部屋のガラスにヒビが入ったとか。

「先輩、どこにカメラ仕込んでるんです?」

「気がつかねぇか?首元に仕込んであるんだよ。光子力研究所の使う極小型カメラ」

よく見てみると、圭子は首元に極小型カメラをつけていた。光子力研究所製のスパイカメラで、弓さやか曰く、M粒子対応型らしい。模擬戦闘訓練の動画をりんへいきなり送れた理由はそれだったのだ。

「こうなったら、やけくそで秘奥義出します!」

「なら、こっちもサンダーボンバーで…」

二人が秘奥義の態勢に入ろうとした瞬間、夏木りんの『ちょ――っと待ったぁ――ッ!』という怒号が飛んだ。映像を見て、落ち着きを取り戻し、とっさにタブレットへ電話をかけたのだ。スピーカーをオンにしていたので、怒号が響いたわけだ。唐突ではあるが、小休止となった。



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