外伝その286『転生者と艦娘2』


――ウィッチ世界では、パナマ運河が史実と地形が違う都合で有効性が低く、南米周りか、北極圏経由ルートが主流のままであった。日本側の懸念は杞憂と言えるが、日本側は太平洋戦争での教訓から、同盟国のグランドフリート(キングス・ユニオン連合艦隊)を『旧式化したオンボロの寄せ集め』と侮蔑し、宛にしない風潮が強かった。その点は衰え始めた帝国の行く末を知るが故の見下しに近い。元々、英国は21世紀時点では往年に比して、見る影もないほど海軍力が減退していたため、その状態に陥る直前の時期の陣容を見下した考えだが、第二次世界大戦当時はまだまだ、大英帝国海軍が健在であった頃である。アメリカが異常なのであり、第二次世界大戦当時は10隻を超える戦艦と空母航空団を有する、文字通りの外洋海軍だったのである。加えて、いくらリベリオン艦隊でも、南米大陸周りのルートをするのが主流である以上、艦隊規模での回航には時間がかかる。グランドフリートの軍事的圧力は無視できないものであり、日本の悲観論者の言う『連合艦隊と英国海軍が束になったところで、戦時体制下の米国海軍に勝てない』は暴論に近い。自由リベリオンがリベリオン太平洋艦隊と陸軍、陸軍航空軍(数ヶ月後に空軍として独立)の精鋭の大半で構成されている以上、敵の数は多くとも烏合の衆である。それはマリアナ沖海戦当時の第一機動艦隊の搭乗員が烏合の衆であったことで証明済みである。――


「さて、この地点には当分は近づかないだろうから、あたしは芳佳の姿に戻って空戦してくる。この体本来の姿を取って、たまには家族を安心させないと不味いしね」

「紫電改だっけ?」

「今は烈風。婚約してる旦那の整備のね。こう見えても、数年したら結婚控えてるんだ」

キュアハッピーは変身を解き、芳佳の姿に戻り、ピーチに自分が婚約済みである事を告げる。既に宮菱重工業の技師(前世での夫で、転生者でもある)と婚約済みであり、婚約指輪も見せる。

「嘘ぉ〜!その姿だと、芳佳ちゃんだっけ…。婚約指輪までもらってるの?」

「旦那が三菱の軍用機設計部門にいる技師でね。この時代での富裕層だからだけど。ばーちゃんが和式望んでるんだけど、和式は面倒だし、洋式でやりたいんだよね」

「あ、それわかる〜」

「和服は着付けとか面倒だしね」

年頃の娘(川内は精神年齢的意味だが)トークで盛り上がる三人。芳佳/みゆきは結婚式を洋式でやりたいとする希望を持つが、祖母が和式を所望している。数年かけて祖母と交渉した末に、双方の願いの兼ね合いで洋式主体の神父を神主に置き換えた折衷式の結婚式になったという。

「んじゃ、ジープで戻ろう」

川内の提案で、川内が鹵獲していたジープで基地へ戻る三人。ピーチも変身を解いており、軍服姿を見せる。

「うーん。ブッキーはともかく、美希たんやせつなが見たら笑われるよねぇ、これ。まさか旧日本軍の軍服を着るなんて、思ってもみなかった」

「私はいまんとこは海軍だから、セーラー服でもいいんだけど、ラブちゃんは陸軍だしねぇ」

「綾香さんはどうして、これを着てないの?」

「あの人は空自の自衛官でもあるから、そっち優先なんだよね。ま、半分は旧軍の軍服がダサいせいだろうけど」

黒江は正式な式典では空自の制服を着用するようになっていたので、扶桑陸軍の軍服を公の場で着用はしなくなった。ラブも名目上とは言え、航空ウィッチの扱いであるので、軍服に航空胸章がついている。これ自体は大戦開戦後に制定されたものだが、より後に制定された航空用特別胸章(空中勤務者用)が統廃合されたため、空中勤務者のみが淡紺青絨の台地にデフォルメされた鷲のデザインの胸章をつけられるように統一された。これは空軍設立後も引き継がれる。ウィッチとパイロットの区分が曖昧になっていった後はウィッチ胸章も次第に廃止されていったため、この時代のみ、黒江のように『航空胸章、航空用特別胸章、ウィッチ胸章』の3つを佩用する者がチラホラいた。また、艦娘のように、普段の服装が軍装の代わりとして認められている例もある。また、この時代はウィッチと通常兵器の実力が交錯する最初の時代であり、第一世代宮藤理論の限界が見え始めた頃でもある。実働部隊が64F/501のみに陥っていたので表面化はしなかったが、通常兵器が短時間で飛躍的に強化されていく問題は深刻な問題である事には変わりなかった。F8Fのみならず、F2G、P-80、B-36も現われたからだ。開発が終わり、生産が軌道に乗った機体を順に出しているらしい。現地で紫電改/烈風の改良型開発も行われているし、B-36への迎撃はレシプロ戦闘機では不可能になったことで、ジェット戦闘機の投入も拡大されている。(Me262の生産がドイツの主導で中止された影響で、カールスラントはジェット戦闘機の調達が困難に陥り、第二世代型のTa183の配備もF-86に押される形で進まず、カールスラントはドイツ主導での強引な軍縮に苦しめられていた。この軍縮政策の失敗の余波で、日本連邦がリベリオンと軍拡競争を繰り広げる羽目になった)

「ん、ハチロクだ。元・空自の連中の操縦だな」

「ほんと、ドイツの連中は何考えてるんだろうね」

「ユーロファイターでも買わせようとしてるんじゃない?初期型のジェット戦闘機より、ユーロファイター買ったほうがいいけど、今のドイツ軍は整備力が馬鹿みたいに悪いからなぁ。カールスラントの熟練者を使うつもりなんだろうが、人員削減が強引すぎるからな」

「やれやれ。ドイツの連中も日本の左翼並だなぁ」

「節度はまだ、ドイツのほうがマシだな。日本の市民団体はリンチまでやらかす上、騒音問題起こすし」

芳佳と川内は呆れるが、日本人のノイジーマイノリティの声の大きさは世界でも有数である事は褒められたことではない。陸では優位、海では互角、空では物量に押されぎみである。そんな前線の現状を顧みずに予備人員の確保をあからさまに妨害したため、64/501での日本の野党と防衛省の背広組の評判は最悪だ。また、明野飛行学校の防空戦闘体制/実戦配置が解除されたため、学校から分離して、501と数部隊の予備人員として送り込まれるはずだった数十名のウィッチの処遇が宙に浮いてしまった。自主的にやってきた10数人以外は地球連邦軍による臨時措置で別戦線に送られた幸運な者を除くと、南洋島で軟禁に等しい生活を送るしかなかった。明野飛行学校としても、年齢的に高齢の教官、助教に最後の見せ場を与えようとしたことが否定されてしまった上、作戦部隊との分離がなかった事にされたため、64結成の反対派が多かった。からは『64に高練度の人員を集中させる事に反対である』とする意見を出したり、『明野の教官や助教、海軍の後方基地の教官を交代で送りこむべし』と説く高官も存在した。しかし、日本は貴重な熟練者の一括運用による効果の高さを理由に、批判を一蹴する。全戦線から引き抜いた熟練者を一つの部隊で一括管理する事は批判が大きい表れだった。しかし、日本が実戦経験豊富な者を後方で遊ばせる事を許さなかった事は批判も大きかったため、結局、熟練兵は精鋭部隊に優先配置という条項が出来上がり、その影響で64が加速度的に肥大化し、『特別編成』とされたのだ。

「軍隊って、上の都合で下っ端が振り回されるんだね」

「政治家や官僚のさじ加減で全体が振り回される組織なんだよ、軍隊ってのは。特に中間管理職の佐官と尉官は上のしわ寄せがもろに来るから、予算確保の大義名分に使える戦果を上に突きつけないと、ろくに予備人員も送ってもらえないんだよね」

芳佳はラブに、自分は中間管理職であると告げる。64では実質として参謀であるし、501内部でもそれなりの立場を得ている。芳佳は本来、リーネの後に入隊した新人であるが、転生者特権で中尉に昇進し、軍医学校入学予定である。戦功で兵科士官となり、その後に軍医資格を得るが、留学の頓挫を理由に、空軍へ移籍する事となる。(曰く、留学さえできれば、海軍残留の意思はあったとの事)。

「そのために『ウチの部隊』が?」

「最強の部隊作って、戦線の火消し役にするのが本当の狙いさ。国際貢献活動って触れ込みの統合戦闘航空団がほとんど廃止されたから、それからあぶれた人材の受け皿でもあるんだよ。8つあった部隊の内、6つが廃止されて、1個は完全に活動停止状態。それに派遣される予定だったけど、宙に浮いた比較的若い連中や、その部隊にいた連中をウチが引き取ったって奴さ。だから、501とウチを一緒くたに扱って運用してんの、上は。予備要員もそうすれば確保できるしね」

「いくら軍隊だからって、ウチの管理職の人達、過労死してるレベルだよね?夜でも呼び出されてるし」

「前線の参謀がほとんどいないからさ。史実の失敗を挙げ連ねて、大本営の参謀を更迭しまくったら、前線に送り込める参謀がいなくなっちゃったってオチさ。で、文句言ったら、自衛隊の幹部自衛官で穴埋めするって返事がやっと返ってきたそうな」



「自衛隊って、いるの?送り込める中間管理職の人」

「いるにはいるけど、自衛隊の人達のご先祖様の世代の軍人と仕事するのかって反対論が強くてね。中より外で強くてね。こっちが苦情出すまで、そういう議論もさせてくれなかったんだよねー」

――芳佳が愚痴るように、日本には生存する元日本軍人や左派を中心に、日本軍でのエリート層だった将校達への反発が強く、恩賜組、大本営参謀、少尉以上の兵科士官(海軍)の横暴が槍玉に挙げられた。軍規そのものが改正され、海軍士官は下士官以下の制裁の仲裁の義務強化、特務士官へ敬意を払う事が明確に軍規化され、心労で倒れる者が続出した。陸軍は前線指揮官が尊ばれる風潮が生まれ、参謀職が名ばかりになってしまった。そのため、日本人の持つ『将校は前線で戦うべし』という認識に沿う有能な前線指揮官が出世しやすい土壌が出来上がり、また、それまでの『大佐』に代わり、前線指揮官の最高階級が『准将』となり、それまで大佐で留め置かれていた功ある前線指揮官達が一斉に任じられ、扶桑皇国軍人の将官と佐官の人員バランスが変化した。また、黒江達の公式スコアが更新され、『事変での未確認戦果が確認された』という体裁で布告されるが、1937年当時に三桁のスコアが挙げられるのかと疑問視された流れで、人事課はかつてのミスを責められたという。江藤は予定された人事が見送りになり、戦争中は参謀のままで留め置かれることになった。同時に、軍に残っていた同期らと共に『報告義務違反』の罰を受けた。復帰早々に訓告は酷ではあったが、事変当時は合法かつ慣例として行われていた事であった事であるがため、訓告という形で裁いたのだ。(江藤の場合、細かい個人戦果を未公表とした事も訓告の対象で、武子を庇っての処罰であったが、個人戦果をすべて公表して、銃後の戦意高揚をしなければ、航空関係の予算確保が覚束なくなった時代を嘆いたという)――

「戦後日本は軍事を軽視するからね。連邦って形でこっちにも口出ししてくるから、どんな方法でもいいから、予算を確保しないといけない。ドイツが口出しして軍縮させてるカールスラントはあと10年もすれば、空軍は今の半分以下の規模になる上、稼働率も下がる。だから、外圧で今の規模を保たせるしか、扶桑軍が今の規模で居続ける方法はないのさ」

「ドラえもんの世界の日本ってどうなったの、芳佳ちゃん」

「技術革新の繰り返しで、21世紀終わりから22世紀初頭に特異点が見えてくるとまで言われるくらいの科学力を得て、死人も生き返らせられるし、タイムマシンで時間旅行すら想いのままって社会を作ったんだけど、技術的特異点って言って、人工知能が人間を超える事を恐れた西洋諸国が意図的に戦争を引き起こして、技術の退化を狙った。その戦争は最初の目的が忘れ去られるくらいの年月の間、ずっと続いたし、その途中で周辺の平行世界が融合する現象も起こってね。戦争が終わった後の世界は民生技術が60年分以上退化した代わりに、戦争に使われる技術だけが異常に発達した世界に変わっちゃっていたわけ」


「ガンダムとかマジンガーはその?」

「うん。技術的にはね。無人兵器がBC兵器同然の扱いだから、ドラえもん君みたいなロボットの大量生産は困難らしいよ。だけど、人が少ない移民船団や移民星との兼ね合いで、半自律って形でかろうじて許されてるわけ。だから、ドラえもんくんって意外に命狙われてるんだよ、過激派の宇宙居住者に」

「ジオンとか?」

「そうそう。連中は地球連邦が特異点に近い時代って言われてる、2125年以前の技術力を取り戻す事を異常に恐れてる。だから、その遺産を持ってるドラえもん君を殺すことに血道を挙げてる。Mr.東郷が23世紀に雇われたのは、ドラえもん君を守り、ジオニズムの終わりを見せるためって話もある」

21世紀の依頼とは別に、23世紀からのゴルゴへの依頼があると言及する芳佳。23世紀の宇宙大航海時代に相応しくない思想である『ジオニズム』を終焉させる事。フル・フロンタルとして生まれるはずであった『シャア・アズナブルの姿に似せた強化人間クローン』を抹殺した事はその依頼によるものだ。地球連邦政府は宇宙大航海時代に入るにつれ、ジオン・ダイクンが提唱し、ザビ家が歪めたジオニズムの根絶を狙うようになっていた。ウッソ・エヴィンのように『地球生まれのニュータイプ』が出現している時代にあっては、『時代遅れの思想』というのが地球連邦寄りのスペースノイドに至るまでの認識となりつつあった。この事は、かつてはスペースノイドを席巻したはずのジオニズムのアングラ化が既に始まっていた事を妙実に示す事実であり、シャア・アズナブル自身が『ネオ・ジオンの命運はもはや、それほど長くはあるまい』と内心で考えるに至っている表れである。ただし、陳腐化したコスモ貴族主義やマリア主義よりは人気を保っているのも事実ではあり、かつてのエゥーゴがロンド・ベルになった事に反目した元エゥーゴ出身者が『ヌーベル・エゥーゴ』を旗揚げしたし、ハマーン時代のネオ・ジオン残党は『ムーンクライシス計画』を立案中との噂である。

「古いネオ・ジオンの生き残りが月にテロ仕掛けるって話がスペースノイドの間で噂になってんだよね。23世紀の関心事は最近はそれさ。これが起こると、ジオン系の連中は地球圏での居場所を無くす。サイコマシンの規制強化が提案されたって話だけど、ネオ・ジオングの計画がバレたし、月を爆破する計画が公になれば、ジオンに何の発言力もなくなるからね。せいぜい、今以上の軍事利用の停止と精神治療とかでの研究継続で落ち着くだろうね」

「サイコマシン?」

「サイコフレームを組み込んだMSのことさ。人智を超えたから規制しない?って話だけどさ、イルミダスやマゾーン相手に戦うには必要な力だし、『道具は使う人次第』なんだけどねぇ。それにゲッターロボのほうがよっぽど危険さ。将来的にゲッターエンペラーだし、そのエンペラーになったら、宇宙制覇し始めるんだしさ」

ゲッターロボの最終進化『ゲッターエンペラー』のことに触れ、ラブにサイコフレームの規制強化は軍からの反発で通らないだろう事を言う芳佳。ゲッターエンペラーやZマジンガーを知る者にとっては、サイコマシンなどは児戯にも等しいとし、アムロ・レイのハイνの配備問題にも繋がるため、ジオン穏健派と折り合わない可能性が大きい。バイオセンサーとコンピュータを単純に改良するだけでは、サイコフレームほどの追従性は確保出来ないからだ。

「ベクトラ級宇宙空母も建造中だから、連邦軍。ガトランティス戦の事もあって、軍事に金を惜しむって考えが消えてるから、21世紀日本の考えは理解しがたいんだよね」

「まあ、宇宙戦争を経験しちゃえばね」

「まあ、ゲッターエンペラーを知っちゃえば、ヱルトリウムだろうが、ベクトラだろうが安いもんさ。ゲッターエンペラーなんて、ゲットマシンで地球から火星までが中に入るし」

「嘘ぉ…」

「合体したら太陽系まるごと入る大きさだし、しかもそれで進化途中だよ。ゲッターロボGが到達する最強の進化にして、神通力を得たゲッターロボ。これこそ危ないマシンさ。サイコマシンなんて、ゲッターエンペラーに比べれば可愛いもんさ」

ゲッターロボGが進化を続けた末に到達するゲッターエンペラー。それに比べれば、連邦宇宙軍が建造中のベクトラ級宇宙空母や就役済みのヱルトリウムは可愛いものだと、芳佳は言う。ガトランティスは多数の波動砲を退け、テレサの特攻でやっと倒せたため、そのトラウマが23世紀の地球連邦軍には強いのだ。

「地球連邦軍はなんだかんだで危機的状況には慣れっこだし、ヴァールシンドロームにも耐性がある体質の人も地球本星に多いからね。もし、ウィンダミア王国ってところが喧嘩を売ったら、ゲッターエンペラーが時間を超えて干渉して、星系ごと腕で握り潰すなんて事もあり得るからね。政府は穏便に済ませたいって聞くな。だけど、あの方面の地球連邦軍には馬鹿が多いからなぁ」

「なんかで読んだっけ。ゲッターエンペラーは地球人類以外スレイヤーだって」

「実際は地球人類とそれに味方する種族以外のスレイヤーさ。地球生まれのスーパーロボットだし。地球に牙を拔いたが最後さ。エンペラーは敵性文明を根絶やしにするからね。だから、イルミダスだって、マゾーンだって、、政府を骨抜きにすることで抑えようとしたからね」

「地球侵略を成功寸前にしたのはガトランティスだけ?」

「だね。テレサって最後の不確定要素が連中を破滅に追いやったから、地球人は侵略には苛烈に対応するのさ。教訓でね。ウィンダミアはそれを分かってない。同じ地球人のジオンもね。ジオンもロンド・ベルが本腰を入れれば、二、三回の会戦でジリ貧だ。月を爆破なんてしようとしたら、サイド3とスイートウォーターは軍が制圧するに決まってる。うちの不満分子も同じだよ。過激な事を計画してる割に、お上が同情してくれるって楽観的に考えてる。でも、武力で出てきた連中は決起、武力制圧しか考えてないんだよねー」

芳佳はジオンやクロスボーン・バンガード、ひいては扶桑の反G派の共通点をラブに語る。芳佳として、」というよりは角谷杏として語ったという印象の強いものだった。実際、反G派はクロスボーン・バンガードやジオンのように、勝利後の具体的政治ビジョンを持っているとは言えない集団である。当時、軍部から一掃されつつある『戦闘機無用論』、『戦艦無用論』、『空母無用論』の残党が手を組んでいると思われ、統一されたドクトリンで動く集団ではない。21世紀以降の洗練されきった戦闘ドクトリンを有した側からすれば、数日もあれば打倒できるだけの惰弱な集団である。(政治的には、山本五十六や大西瀧治郎の提唱した戦闘機無用論が否定され、海軍航空隊の空軍への取り込みが予定されていて、その阻止のために決起するという面もあったが、実際には空自の反対でそれは回避されているし、むしろ戦闘機搭乗員の増員が安定するまで、海軍航空を温存するのが決められていた)

「ま、何にしろ、軍はこれで改革派が実権を握るさ。23世紀までの記録でだいたいの方針を決めやすくなるからね。クーデター派がいなくなれば、黒江さん達への陰口も減ると思うよ。オヤジさんへの陰口もね。戦後の記憶持ちだし、失敗の記憶があるから、次で最適な選択ができる。未来は変えていいもんさ。ジャンヌさんに言ってやったけど」

「ジャンヌ・ダルク、かぁ。カチカチのカトリック教徒ってイメージが有るなぁ」

「『未来を知って動き、未来を知って動かない。私はそれは、人間ではないと思います』って言うもんだから、ちょっとムカついてさー。ちょっと弄ってあげた。んじゃ、前と同じことして死んでいけってのかって話になるし」

ジャンヌは元来、未来を知った上で流れを変えようとする動きに否定的であったが、のび太が『自分の死がいつかさえ、小学生のうちに知ってしまったが、それでも未来をよくしようとしている』事を引き合いに出されて、発言を批判される事が多かった。また、ルナマリアの肉体を素体にして蘇ったため、変則的な形で叶った『ステラ・ルーシェの救済』にシンが喜ぶ光景を否定することへの罪悪感もあってか、『未来は神に決められたものではない』現実に悩む生真面目さがある。そのため、当人も最近は処方面の批判や陰口を吹っ切ったらしき振る舞いも増え、生前とは異なり、聖女と呼ばれる事を否定するなどの人間臭さを出し始め、素体となったルナマリアとジャンヌ・ダルクとしての神託を受ける前の振る舞いの折衷的なものに落ち着きつつある。

「ドラえもんとのび太くんの事があるし、言ってやったのさ。奴さん、半泣きだったよ。ま、他の人にも言われてたみたいだから、拗ねちゃったけどね。奴さんにはいい薬だよ。未来は切り開くものだからね。たとえ転生しても、ね」

「まあ、タイムマシンで未来を変えるってのは想定外だろうし、英霊だから、ただの狂ってる無学の狂信者だって批判もあるしね、ジャンヌ・ダルク」

「そういうもんさ、他の世界との交流ってのは。時空管理局だって、自分達が数あるミッドチルダの一つに過ぎなくて、もっと上の力を持つ世界が地球の派生世界にあるなんてのは思いもよらない事実だよ。この世界も数ある『ストライクウィッチーズの世界』の一つに過ぎないし、ラブちゃんやのぞみちゃんの世界も数ある『プリキュアの世界』の一派生にすぎないんだ」

「次元世界ってのは広いんだね、川内ちゃん」

「そういう事。なのはたちも今回に出会うことになる『別世界の自分達にどうやってドヤ顔で混ざろうか』なんて考えてるけど、もし、ラブちゃんがプリキュアの仲間を探そうとしたら、転生前の世界出身とは限らないよ。のぞみちゃんにとってのりんちゃんみたいに」

「そっか、そういう考えもあるよねぇ」

ラブは納得し、頷く。実際、夏木りんはのぞみとは別世界の住民であったため、ラブにとっての蒼乃美希や山吹祈里(それぞれ、キュアベリーとキュアパイン)も同じようになる可能性がある。ただし、元々が『イース』であり、別世界の住人であった『東せつな』のみはラブにとっての生前そのままの存在であるパターンもあり得る。

「あ、せつなは元々、別世界の住人だったよ?それはどうなるの?」

「うーん。実際会ってみないと、その辺はわかんないよ。下手すると、なのはみたいに、自分で自分を助けるって事も考えられるし。のぞみちゃんはその辺は覚悟してるみたいだけどね」

「そうすると、どうなるの?」

「理想的な構図は最終的な最強フォームで通常フォームの自分達を颯爽と救うもんだね。のぞみちゃん達が初めて、ミルキィローズに会った時みたいな。ま、この場合、間違いなくドッペルゲンガーとか言われるのは覚悟しとくんだね。時間軸も読めないからね、行った先の世界」

「のぞみちゃん、どうするんだろう」

「過去の自分が倒されるのは良いもんじゃないしね。あの子は二年戦ってたから、どこに行くのかって問題にもなると思う。それにあの子は自分を追い込む特訓で、シャイニングドリームに任意でなれるようになったから、時間軸によってはパワーバランスを大きく崩すよ」

「あたしが序盤からキュアエンジェルになるようなもんだよね、パワーバランス的に。」

川内とラブの言う通り、理想的と言える登場の仕方は最強フォームで介入することだが、そうなると時間軸によってはパワーバランスを大きく崩すのは容易に想像できる。しかし、敵に何者かによるテコ入れが入った場合などにもっとも有効な手ではある。のぞみは『それ』を覚悟の上で介入する腹積もりであり、シャイニングドリームとその先の形態で別の自分達を助けるつもりであると、川内によって語られる。

「のぞみちゃんは大人になった後は、後悔したくないって考えで動くからね。あたしがサポートするしかない、か。」

「あの子は大人になった後、相当に後悔するようなことあったんだろうね。あたしも後輩として、出張るちゃないね」

芳佳も星空みゆきとしての決意を見せ、ジープを運転する川内もなんとなくほっこりした表情だ。仮面ライダー龍騎/城戸真司じゃないが、『プリキュアは助け合い』ということだろう。のぞみはプリキュアに戻りたいとする生前の晩年期の願望を叶えたが、生前の成人後の苦難からか、どこか自らを顧みないで、戦いに身を投じる危うさが見え隠れしており、幼馴染のりんに心配されているし、後輩にあたるプリキュア達にも心配されている。偉大な初代プリキュアの背中を追いかけ、なおかつ最初に転生したプリキュアとしてのプレッシャーを気にしていると思われる姿は周囲を心配させるほどに『焦り』を感じさせていたのだ。



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