外伝2『太平洋戦争編』
第十九話


――科学技術の発展は前時代の常識を覆す。扶桑皇国海軍の水雷戦隊がレーダーの普及で過去の遺物とされ、空母機動部隊の護衛として回された艦も多かった。それは次世代水雷戦隊旗艦として生み出された阿賀野型軽巡も例外でなく、同三番艦『矢矧』はミッドチルダ動乱を生き延び、優先して改装を受け、主砲はデモイン級の技術の応用で生み出された速射砲へ強化され、酸素魚雷を降ろして、短魚雷を積む、高射砲、機銃のCIWS、RAMへの換装、艦橋構造物、機関の換装などが実施された。結果、当時、艦齢が5年以下であった阿賀野型は、矢矧に施された改装図面で新造もされ、太平洋戦争中には、増産艦含めて、8隻前後が軍に在籍しており、最後の『純正日本式乙巡』として、空母機動部隊の直掩艦や、小規模艦隊旗艦として運用されていた。



「あれが矢矧かぁ。随分と変わっちまったな」

黒江達がジェット戦闘機で出撃したのと同じ時刻、西沢、菅野、芳佳らを中心にしたウィッチ隊は軍港付近の警備も兼ねて、震電改二で出撃していた。西沢は坂本や竹井の評と裏腹に、前線指揮官としての才覚が新たに芽生えたか、屈指の問題児である菅野を手懐けている事から、武子と黒江からは『菅野の面倒は任せた!』と丸投げされている。

「そうですねえ。近代装備が取っ付けられたから、原型残ってませんし」

「CIWSやら、RAMやら、横文字を羅列されると分かんねーが、要は戦後世代の自動化された武器ってやつだろ、黒田」

「そうですよ。あれにするだけで、防空能力がグンと上がりますよ」

「射手連中が嘆くのも分かるぜ。『俺たちの仕事が減った』って」

「それは分かります」

艦の対空戦闘要員は近代化の急速な進展で、大きく削減され、この時期には、旧来のやり方の要員は『残存する旧式艦の自衛要員』、『Mk33 3インチ砲の操作要員』とされていた。特に機銃要員は『俺達の訓練は何だったんだ?』と不満を漏らしており、その不満をどうやって抑えるかが課題で、海防艦に回したりしているのが現状だった。それに西沢は触れた。西沢も、世代的に『横文字』に弱いのがわかる。

「オマケに、相手はジェットに護衛されてるデカブツってんだろ?時代は変わるもんだ。ちょっと前までは、650も出れば『高速機』ってたのに」

「ジェットと言っても、ストライカーはまだ遷音速ですからね。向こうの戦闘機は超音速機もチラホラ出始めてますから、速度差の一撃離脱戦法は使えません。巴戦に持ち込みましょう」

「だな。こっちのストライカーに携行するミサイルはまだ開発以前の問題だ。お前ら、ADENの弾を無駄撃ちすんなよ。一撃で仕留めろ」

「了解」

この時、芳佳の護衛兼菅野の三番機として活動していたのが、芳佳の妹弟子に当たる『服部静夏』だった。彼女も実働二年目を迎え、正式に空軍へ移籍した。芳佳の護衛を期待されており、芳佳と組む機会が多かった。芳佳共々、菅野の護衛も兼任しており、343空出身でも『最強のトリオ』と言われていた。

「よし、行くぞ!」

西沢の指揮で、全機が高度12000に上がる。ジェットなので、高度限界がレシプロに比べて飛躍し、高高度戦闘も当たり前となっていた。なので、全員が防寒対策をきちんとしている。ましてや、この時代、ストライカー携行型の小型空対空ミサイルなど影も形もないので、ウィッチ用に多めに携行弾数を多くしたADEN機関砲がウィッチの主武器とされていたのである。

「西沢中尉、下方に敵重爆!」

「大きい……まるでクジラね……」

「ハッ。なら、あたし達はそのクジラを狩るシャチか鮫だと思えよ?全機、突撃だ!」

西沢は豪放な性格であるが、戦闘面では、実は意外と綿密な攻撃をかける性格である。今回も頭脳的な攻撃を仕掛けた。この時、現地の判断で西沢の護衛に静夏がつけられ、菅野と芳佳が編隊のアタック要員になり、攻撃の先頭は菅野と芳佳が口火を切った。

「落ちやがれ!」

「やああああっ!」

芳佳と菅野が同時にADENを斉射し、B36を穴ぼこにし、落伍させる。爆撃機の弾幕は防御方陣編隊を積んでいる事、一機につき、機銃16門の苛烈なものだ。芳佳と菅野は爆撃機の射手に顔が見える距離で悠然と通過していき、息のあったコンビネーションを見せる。静夏は改めて、二人の熟練したコンビネーションと戦術を目の当たりにし、圧倒される。

「服部、付いて来い!」

「は、はい!」

西沢に率いられ、静夏もB36に突撃する。弾幕をくぐり抜け、西沢の状況援護を行う。西沢は速度差を活かし、ジェットエンジンエンジンナセルを盾に利用しての刀による近接攻撃に入る。推進式プロペラの風の影響を受けない主翼の上に立ち、そこへ刀を突き入れ、燃料系が構造的にある主翼部から魔力を送り込んで、敵を爆破する。しかしこれは手間がかかるため、二機目からは主翼の下側からタンクや燃料配管をぶった切る戦法に変え、爆撃隊を震え上がらせる。

「あらよっと!」

四機目は、ジェットナセルのパイロンを切り落として、自ら刀を担いで、機体に向かって主翼を前後に切り分けるという離れ業すら披露し、静夏を呆然とさせる。

「凄い……これがリバウの魔王……」

西沢はその異名で以って知られていた。まさのその裏付けとなる、獅子奮迅ぶりだ。坂本の話では『指揮官に向いていない』との事だが、それからの年月の経過を考慮に入れていないか、あるいは若かれし頃からの先入観からなのだろうと考える。

「あの、中尉」

「何だ?」

「坂本少佐や竹井少佐が前に言っていたんですが……」

「あー……若い時の事だろ?あいつはあたしと話したの、一昨年くらいが最後だったし、その時も長くは話してねーからな。リバウを離れてから、現地のおっちゃん達に言われて、いやいや教官とか押し付けられたんだよ。それで経験積んだよ」

「なるほど」

坂本と竹井が、自分を若い時のままのイメージで見ていることが改めて示されると、西沢は肩を落とした。

(あれからもう、10年近いんだぞ?ったく、帰ったら電話で、あいつらに文句でも言おうかな?)

と、考えるのであった。




――戦いはまだまだ続く。護衛戦闘機とドッグファイトにもつれ込んだ菅野と芳佳は遷音速機ではあったが、敵の超音速機と言えど、空戦機動を行うと音速を維持できないという弱点を思い出し、落としていく。

「当たって!!」

芳佳はF-11改の一機に、ADENを撃ちこむ。F-11は大威力の弾丸に貫かれ、バランスを崩し、高度を下げていく。ややあって、射出座席が打ち出され、パイロットが脱出していく。

「……良かった、脱出できたんだ」

ほっと胸を撫で下ろす芳佳。『敵は倒すが、なるべくなら殺したくはない』という信念が窺える。芳佳は脱出の間を敵に与えるという優しさを見せる事が多く、そこは、生来の気質の他に、人間の敵には紳士的な対応を見せた、バルクホルンの影響を感じさせる。

「おりゃあ!」

菅野は固有魔法の『圧縮式超硬度防御魔方陣』を拳を覆う形で展開、ピンポイントバリアパンチを見舞い、力技でF-11を落とす。菅野は格闘戦では扶桑ウィッチ中、十指に入ると評されるため、むしろこちらのほうが得意である。

「おっし、どんどんきやがれ!」

「大丈夫ですか、菅野さん」

「何、ヘでもねーよ。行くぜ宮藤!」

吠える菅野。闘争心の塊である彼女に引っ張られ、芳佳にもその気質が少しづつ伝染しつつあった。






――この時、投入されたB-36はおおよそ40機前後。3つの方面に分けて侵入したが、64戦隊の邀撃に遭い、2つの方面で苦戦したが、第三方面は高度を一気に下げる事で、数機が護衛機ごと市街地に侵入に成功、低高度からナパーム弾での爆撃を敢行。空襲警報が鳴り響く中、新京の郊外市街地を焼いていく。不幸にも、木造住宅が多い地域は地獄絵図だった。この時期、21世紀以降のような鉄筋コンクリート造の民家は新京や東京などの大都市でさえも、中心市街地などにしか無く、しかもテストケースであるため、多くが華族や高級軍人、政治家、資産家の邸宅が大半であったのが災いし、一般人の住宅は大正期までの名残りを残す木造住宅が多かったのも、被害を拡大する要因となった。これはティターンズが初めて間接的に行わせた無差別殺戮であった。

「うわああ……」

「ぎゃあああ……」

「熱い、熱いよぉ……」

火災は、逃げ惑う全ての人間の命を奪う。火災旋風による窒息死、炎に巻かれての焼死など、誰もが目を背けたくなる惨状を出現させる。それは大抵の場合の歴史で出現する『日本本土空襲』の帳尻合わせとも言えた。


「少数機でここまでの戦果とはな、さすがはコンベアだ」

「機長、どうします?」

「ついてきた各機はこのまま爆撃を続行!迎撃機が更に上がるまでに、所定の戦果を挙げるぞ!」

B-36第4編隊は、所定の戦果を挙げるべく、更に爆撃を続ける。一機あたり21トンもの焼夷弾、ナパーム弾を絨毯爆撃していく様は圧巻の一言。郊外市街地は区役所に電話が有った事が幸いし、軍へ通報に成功。ちょうどストライカーの整備が終わったばかりの智子と武子は自らスクランブルした。

「私が出るわ!ストライカーの用意はできてるわね?」

「ハッ」

整備兵は答える。隊長陣のストライカーはバッチリ整備していると。それに頷き、武子は震電改二を履き、智子とともに、ADENと刀を携行して発進した。

「武子、デスクワークで鈍っちゃいないでしょうね?」

「私を誰だと思ってるの?あなた達と違って、デスクワーク続きだったけど、ちゃんと鍛えてるんだから」

武子は智子の一言に不満そうだった。ここ数年はISのテストパイロットをしているものの、実戦に出た回数は多くないからだ。だが、武子は武子なりの努力を続けており、最近はすっかり黒江へ譲った感が強い、『智子の相棒』ポジをいつでも担えるように特訓していたのだ。

「それに、あなたと士官候補生時代から、組んできたのは誰だったかしら?

「なら大丈夫ね。行くわよ、武子」

「ええ!」

武子は歴史改変で三羽烏のメンバーから外れたものの、強い意志により、改変以前の記憶を保持している。智子の軍入隊の経緯が改変後は『ストレートな航空士官学校卒』から『陸軍少女飛行兵』上がりに変わり、それを経由しての士官候補生入りとなった後も、武子と出会う運命そのものに変わりは無かった。武子はそれを知った瞬間、胸を撫で下ろした。そして、三羽烏による歴史改変の結果を受け入れ、三羽烏に改変時の記憶が戻った後は、その最大の理解者として生き、現在では三羽烏に最も近い立場の士官としての評判が立っている。

――なお、武子はこの頃には、固有魔法の三次元空間把握能力が、未来世界で言うところのニュータイプ能力へ昇華していたため、ISにフィン・ファンネルを搭載しており、その武装のフィン・ファンネル及び、ファンネルミサイルだけを召喚してのオールレンジ攻撃も可能である。

「さて、アムロ少佐に習ったファンネルを使う時が来たわね」

「あなた、ISにフィン・ファンネルでも積んだの?」

「フィン・ファンネルの他には、ファンネルミサイルもあるわよ。使い方は習ったから、いつでも使えるわ」

「それ、箒の仲間が聞いたら泣くわよ?その子は訓練積んで、ようやくらしいし」

「基礎技術力が違うからしょうがないわね、その辺は。未来世界のサイコミュは操作にタイムラグもないし、有機的に動けるから、BT兵器が見劣りするのは仕方がないわよ。」

セシリア・オルコットのブルーティアーズはある意味では、ジオンが確立した『オールレンジ攻撃端末』に比して未成熟な面が多く、本体と端末が同時に別々の行動を取ることは現状、不可能である。セシリアは送られてきた映像で見た、第二次ネオ・ジオン戦争の際の、νガンダムとサザビーのファンネルの撃ち合いを見て切歯扼腕し、『ロボットがこれほどの撃ち合いを……!?』と圧倒され、『本体と端末が別々に行動しての攻撃ができるなんて、ずるいですわ〜!』と、大いに嘆いたと伝えられている。武子もそれは聞き及んでおり、セシリアへ同情した。ちなみに、当のセシリア当人は、訓練中にクシャミし、総合的な練度不足を理由に、デザリウム戦役中はとうとう派遣されなかった事、箒との差ををぼやいていたりする。

――その様子はこちら。

(箒さんは凄い事をなさって来て、また戻っていった。私以上にオールレンジ攻撃に熟達した上に、あの黄金の鎧を引っさげて……。あの鎧は何なんですの?ISの攻撃を物ともせず、しかも一撃で無人ISを破壊できる力を与えるなんて……!反則ですわ、反則!)

セシリアは箒が引っさげてきた黄金聖衣に圧倒されると同時に、箒がISのハイパーセンサーの反応速度すらも凌駕する速度で動き、技を繰り出しただけで『地形を変えるほどの爆発』が起きる攻撃を身につけた事をしばらく信じられなかった。しかも、オリンポス十二神が実在し、その内の知恵と戦いの女神『アテナ』に仕えるようになったと話していた事を考える。

(箒さんは神の使徒に……。……という事は……?)

聖闘士を使徒と解釈したセシリア。そこである事に気づく。元々、その方面に日本人より詳しいお国柄のイギリス人である都合上、ある程度、箒に待ち受けるであろう過酷な運命を予期していた。それは箒自身も予期せぬ事であり、数十年後にそれに気づく事になるが、それはまた別の話。

「向こう側の世界のオールレンジ攻撃端末の思想は随分と進んでいるのですね……本体と端末が完全に別行動でも、戦闘行為が行える。まさにオールレンジ攻撃の理想形ですわね。でも、長年の内に、戦場での相対的優位性は薄れてきているらしい時代を迎えているのですね……」

セシリアは、この時、圭子から送られた『歴代オールレンジ攻撃可能なMS・MAの戦闘映像』を視聴していた。時代が進むにつれ、大型兵器の武装から、通常サイズのモビルスーツの主兵装、副兵装へ変遷していく技術的進歩、連邦軍が初採用した『フィン・ファンネル』を持ち、戦場で一騎当千の活躍を見せた『νガンダム』の強さ、オールレンジ攻撃を受けた際の連邦軍の対処マニュアル、歴代ガンダムパイロットの取った対処法などが記録されており、23世紀初頭の段階では、オールレンジ攻撃のそれ単体では優位性を保てなくきている時代を迎えている事を実感した。


「今更、接近戦に取り組んだ所で、たかが知れてますし、どうしましょう……」

そう。彼女の最近の悩みどころは、『接近戦に持ち込まれると為す術がない』という点だ。手段は無いわけではないが、殆ど使っていない故に、呼び出しに時間がかかる、自身の技能の都合で『死に装備』と化しているし、存在そのものも忘れていた始末。しかも、別世界で製造されている機体の操者は『フィン・ファンネル』を活用して戦果を挙げているという報に焦りを感じる。

「本国は二号機を奪われた事で、私にデータ収集を催促し始めましたし、ああ〜!いったいどうすればいいんですのぉ〜!」

本国からの催促と、未来世界のファンネルの存在により、自身のアイデンティティが侵されている事に焦りを見せるセシリア。彼女の明日はどうなるのか?




――その『操者』である、武子はB36を落としまくる。B-36の第4編隊長の『ジミー・ドーリットル大佐』は奇しくも、史実同様に日本(扶桑)本土空襲に先鞭をつける名誉を賜ったものの、史実と正反対に、迎撃機に追われていた。

「Shit!なんだ、あのウィッチが放ってくる『子機』は!?』」

ドゥーリットル大佐は、編隊を痛撃してくる、武子のフィン・ファンネルに驚愕していた。コンベアの巨体をアメのように溶かすビームを放ち、しかも、ウィッチ本体と別行動出来るそれは、まさに『超兵器』。武子の華麗な刀捌きも影響し、彼らに鮮烈な印象を与えた。

「智子、一番機は鹵獲するわよ。どうやら指揮官はドゥーリットル大佐らしいわ」

「ドゥーリットルだって?あの、日本本土空襲に先鞭をつけたっていう……。そいつは面白いわね。エンジンを何発か止めて、不時着にでも追い込む?」

「それだと危険があるから、投降に追い込むしか無いわね。呼びかけてみて」

「わかったわ。……あー、B36編隊長のドゥーリットル大佐へ告げる。。貴機以外の友軍は撃墜済みよ。貴機にはもう逃げ場はない。直ちに最寄りの飛行場に着陸し、投降されたし。これは警告である。繰り返す……」

智子はドゥーリットル機以外のB36を護衛機ごと、歴史改変時にも使った固有魔法『加速』(シャーリーのそれとは別の原理で、持続性は無いが、瞬間的な加速力で勝る)瞬殺し、ドゥーリットルを脅す。それは史実で東京へ初空襲を行った事へのお返しとも取れる脅しだった。ドゥーリットル大佐はこれに心を折られ、投降を決断。機体を最寄りの最大飛行場であった『新京国際空港』へ着陸させる。直ぐ様、同空港は軍と警察が封鎖し(そうしなければ、暴徒化した民衆に殺害される可能性が高かったため)、ドゥーリットル大佐らを捕虜収容所へ護送した。新京初空襲は、一街区間の焼失、おおよそ1500人の死者、2000人の怪我人を出す結果に終わったが、B36の能力を考慮すれば、『最低限の被害』で済んだと言える。翌日、軍は新京の住民の怒りを鎮める目的を兼ねて、B-36の詳細を公表した。翌日の新聞記事の一面は『新京、敵最新鋭超重爆の爆撃を受ける!』一色に染まり、空軍当局者の解説付きで、性能詳細が記された。その顛末に、武子と智子はプロパガンダも兼ねて授与された部隊感状に溜息をつきつつも、業務に戻った。



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