外伝2『太平洋戦争編』
三十五話『作戦の胎動』



――1948年初夏の段階を以て、大戦は序盤戦を終え、激戦期を迎えた。そのため、それまで影武者扱いだった平行時空の芳佳達も、防空戦に駆り出されていた。その中で最も活躍した部類に入るのが、坂本Bであった。坂本Bは1945年夏の段階で未だ現役であり、尚且つ烈風丸が破壊された際にその蓄積された魔力を得た事により、絶頂期の魔力量を取り戻し、体内にあったリンカーコアが活性化したためで、Aと違い、戦い続ける道を選んだためもあり、坂本の経歴のいくつかは、同位体の『B』の戦果が入っていた。


――坂本Bは、A世界で言うところの『クロウズ』(海軍における『三羽烏』の通称)時代の神通力を取り戻し、Aが末期に数回使用しただけの『秘剣・雲耀』を駆使し、Aの『戦果』という形でだが、スコアを上げていた。


「うーむ。なんか罪悪感があるぞ、黒江」

「ここのお前の挙げた戦果として記録されるけど、正確には違うしなぁ」

「私の知るお前は……言ってはなんだが、ブランクが長いからな。まだ実戦には出せんよ」

「だよなぁ。模擬戦を昨日にしてさ、いっちょ揉んでやったんだ。そうしたら怖がらせちまって、泣かれちまったよ」

「雲耀を使う時のお前は鬼気迫ってるからな―」

「うぅ……やりにくいぜ、ったく」

黒江の場合、AとBには、戦闘時の『気質』に大きな差異がある。Aは『戦うことが自らの存在意義の証明である』ため、戦闘時にはウォーモンガーとも取れる狂奔の雰囲気も漂う。Bはあくまで、ステレオタイプ的な『勇猛なウィッチ』の範疇に収まるため、Aの持つ狂奔に圧倒されるのである。Aはどんな苦境でも、強い生存本能に由来する逆転の一打を見せるため、同じ人物でありながら、実質はBと『別人』と言える。

「言葉づかいもまるで別人のように違うからな、お前らは。穴拭から話を聞いたが、別の自分を怯えさせるなよ。後々会ったら、怖がってたぞ」

「あー、ホテルのあれか。すまん、やりすぎた」

「お前な、こっちの穴拭とお前とは接点が薄かったんだから、無茶言うな。確かあの頃、お前は第二中隊で、しかも江藤さんの護衛だったから、それほど親しくないし、しかも途中で47Fに送られたからな」

黒江Aがホテルで激怒した事件の後、『被害者』の黒江Bは怯えきっており、智子Bも失禁寸前なほどに恐怖を感じた。黒江Aの怒髪天はそれほどにインパクトがあったのだ。坂本Bは話を聞き、黒江Aが持つ『脆さ』を悟った。それは『親友や直接の先輩後輩を擬似的な家族と認識する事』で、精神の安定が保たれていると。

「それは分かっちゃいたんだが……あん時は、『あいつ』が智子を邪険に扱ってるように見えて、頭にカーッと血が登っちまって……」

「向こうが戸惑っていたぞ?特に穴拭がな。『なんで、向こうの綾香が怒ったのか、直ぐには分からなかった』って。それは当然だ。こちらでは加東を通してしか、お前と穴拭には繋がりはない。だが、お前に取っては『家族』だ。その気持ちは分かるよ。宮藤と私との繋がりも、ここでは醇子というワンクッションを置いているから、私の知る形でないが、どうしても、な」

坂本Bは黒江Aの心情を汲みとった上で、行動を諌めた。坂本Bは、精神面では黒江Aよりも『大人』であるのが分かる。これは精神と肉体が釣り合っている坂本Bと、若返った体の影響で精神が再構築され、死後においても、実質、『思春期の少女』に戻っている(1945年当時のマルセイユやハルトマンと同程度)ために『青臭さ』を見せる事も多い黒江Aとの違いだった。

「お前は1944年後半以後とそれ以前の一時期とで、実質的に別人になったと聞いた。穴拭と馬が合いだしたのも、そのためだろう?」

「気がついたら、あいつがそばにいたんだ。私は『昔』、誰とでも組めるって事で、隊長の護衛もやらされた。お前も知ってるだろう?あいつにはフジがいた、ヒガシがいた。だけど、私には『相棒』って言える奴はいなかった。そのせいもあるのかな?教えてた部隊がやられて……生き残ってからよ、『怖くなった』んだよ、そばに誰もいない事に。それで『智子』に縋っちまったんだ……」

黒江Aは自嘲しつつ話す。なぜ、自分が歴史改変を行ってまで、『相棒』を持ちたかったのか。それを智子が何故、了承してくれたのか。智子がそれを敢えて受け入れ、黒江の『面倒』を見るようになったのかを。自分は、終生の相棒がいた智子や坂本に羨望を抱いていた。それ故、偶然にロンド・ベルにいた智子を話し相手から始める形で引き込んだ一方、本来の智子の大親友の武子への強烈な罪悪感が根底にあり、武子の相棒になり得る逸材を発掘する事に血道を挙げ、奔走した。それで託したのが檜中尉である。彼女は武子を生涯守り抜き、退役後も付き添い、実質的に武子の最期も、武子の孫の美奈子と共に看取る事になる。


「お前は『相棒』には恵まれなかったからな。欲しかった事に気づいてしまったんだな?相棒が」

「そうなんだ。気づいたら、智子を『相棒』と思うようになってた。あいつはフジの相棒なんだ、って最初のうちは自分に言い聞かせていたけど……」

それは若返った体で過ごす内に、いつしか『家族が欲しい』という、相棒よりも更に上の次元の願望を持つようになった自分の思いの吐露だった。それはこの世界に於いては、母親から虐待を受けた事を発端に、成人した後の理性で押さえ込んでいた原初の願望が表に出たからであった。この頃になると、既に父親は他界しているため、母親へ愛憎入り混じる感情を持っている事から、『心から笑いあえるいい意味での家族が欲しい』という想いが黒江の心を覆っていた。幼少期に自分の処遇を巡って父母が対立した事、自分の存在意義は『母親の夢を叶える事なのか』と嘆いていた悲しい過去から、自分の存在を見てくれ、自分と一緒に『笑ってくれる』存在が欲しかったのだ。それが『軍隊であり、戦友』であり、『相棒』なのだ。それ故、再会した智子に自分の存在意義を『肯定』してもらいたかったのだ。

「お前は自分を認めてもらいたかったんだな。身近な誰かに。それと、共に笑って、泣いてくれる人も」

坂本Bの指摘は的確だった。黒江Aは、兄弟はいるが、『孤独』だった。輪の中心になれても、輪に入れない。軍隊に入っても、大人びた外見から、期待される役割はストッパーであった。それ故、実は改変前から、好きに出来る智子を羨ましがっていたのだ。

「お前はなりたかったんだろう?穴拭のような人間に。いや、あいつのようなポジションに、と言うべきか。何も言わないでいい。こういう感情は吐き出した方が楽になれる」

「坂本……」

「何、泣きたい時は思い切り泣けばいい。誰だって、泣きたい時はある。それに、空では誰も見ていない」

「……ありがとよ」

黒江Aは、坂本Bにありのままの自分をさらけ出す。そして、Aにはできない事である、『慰める』役を買って出た。それは坂本Bだからこそ出来る芸当でもあった。坂本Aが青臭さを残し、長期スパンの計画を『読み間違えた事』で失敗を犯すのとは対照的に、Bは歳相応に成熟しており、黒江Aの心の澱を多少は拭えた。それが二人の坂本が図らずしも、死後の精神が宿る彼女の心に希望ををもたらしたのだ。

「ここの私から聞いたが、お前は強くあろうとした。それがここの私に間違った人物像を抱かせたんだろう。お前の本質はか弱い女の子だ。だが、必要上、その心に『強い人間』の仮面を被せて生きてきた。それ故の無理が生じているのが現在だろう。子供の頃の心理的外傷を周囲に隠してきた故か、妙に目立ちたがりだしな。俗に言う『英雄症候群』の毛がある。まぁ、これは環境的要因だから省くが、お前は本質的に好奇心旺盛な女の子なんだよ」

「その通りだ。『死んで』も変わんなかったのはそのあたりだ。それを分かっていてくれたのは家族じゃ、親父と三番目の兄貴だけだ。お袋はガキの頃から嫌いだったからな……。傲慢で、疑り深くて、それでいて、あの歌劇団に入りたかった夢を捨てられなくて……」

「だが、それでいて、お袋さんに認められたかったところもあったんだろう?そうでなければ、英才教育に耐えられるものか」

「ああ。偶然、私に音楽的才能が引き継がれていたから、お袋が高い金払って受けさせたレッスンはこなしたよ、一通り。もし、軍にいかなければ作詞家にでもなれたかもしんねーな。ありゃ私が小学校に行ってた時だから、20年代の末か、30年代の頭だったか?滋野清子って知ってるか?」

「ああ、前大戦の時の扶桑人唯一の撃墜王で、男爵だった?」

「その人が、私の通ってた小学校で公演した事が一回あってな。それで初めて、ウィッチになりたいって気持ちが湧いたんだ。すんげーかんどーしたの覚える。死んだ親父にそれを話したら、『そうかそうか、ウィッチになったら国家に奉公するのだぞ♪』って喜んでくれてさ」

――ガリア軍の記録によると、そのエクスウィッチは、ガリア陸軍航空隊(現・空軍)に第一次大戦中に所属し、扶桑史上初の撃墜王であった華族の当主であった。その死没年は1932年となっており、そこから逆算すると、そのエピソードがあったのは、彼女が健康を損ねる前の1927年から1930年と推測出来る――


――その彼女の話に感動し、父親が元は薩摩武士の家系だった故、ウィッチに肯定的であった事もあり、黒江が『覚醒した』際、父親が一番喜んでくれたのだ。だが、母親はそれを認めず、またも折檻した。その時に兄達がが庇ってくれたのだが、傷心の黒江は家を飛び出し、そのまま航空士官学校の試験に応募、合格して『家出』した。そのため、母親との間にシコリができ、和解した今でも、母親をどこかで嫌っている要因と言えた。

「お袋もやっと私を認めてはくれた。が、やっぱ許せないんだわ、どこかで。お袋が苦労かけなければ、親父は……って思うんだ」

「お前は父親っ子だった。それをお袋さんは認めたくなかったんだろう。三人も男を産んで、ようやく生まれたお前に期待をかけてしまった。それが暴走したんだろう。多分、三人のお兄さん方はお前の『味方』だよ。軍の入隊の書類とか思い出してみろ」

「あ、あ――!そう言えば、上の兄貴と親父の名前が……」

「お兄さん方にもっと頼ってやれ。親父さんの遺志を受け継いでいるのは彼らだ。きっと力になってくれるさ」

「で、でもなぁ。上の兄貴はちょっと……。なんだか怖い印象あるし、もう子供も二人いるし」

「ハッハッハ。なんだ、その歳で『おばちゃん』か!」

「る、るせーな、もう!」

赤面する黒江。この年にもなると、長兄には二人目の子供が生まれていた。(後に問題を起こしたのは、この更に弟の末っ子)。そのため、喪に服した後に、兄への誕生祝いで出費が嵩んでしまい、最近は趣味に回せていない。

「お前だって、この世界だと、もうお姉さんに子供が出来るくせに」

「何!?私に姉だと!?」

「……もしかして、お前。そっちだと『一人っ子』とか?」

「下にはいるが、上にはいないぞ……」

「不思議なもんだな、こうも違うたぁ……」

――平行世界では、兄弟姉妹の構成や道筋も違う。坂本の場合、A世界では『歳の離れた姉』がいるが、B世界ではその反対に『歳の離れた妹』がいる。黒江の場合は、家族の構成は同じであったが、長兄が扶桑海事変の戦災で死亡しているという違いがあった。他のケースでは、智子が『一人っ子』であったり、圭子は下の兄弟姉妹がいる『長子』だったりしていた。そのため、全てが同じというわけではない同位体の仮説が裏付けられた――



「ん?ヒガシか。どうした。……何ぃ!?」

「どうした?」

「今度の反攻作戦に使うはずの物資と兵器の集積地が数個あるんだが、その内の一つの場所が漏れて、マスドライバーの質量攻撃で潰された!クソッ!どこで漏れた!?」

「質量攻撃!?」

「宇宙から何か質量を持つ物体を弾頭に見立てて地上に打ち出す方法だ。打ち出す方法さえありゃ、強力な戦略兵器になる。宇宙空間から数キロメーターのモノが落っこちりゃ、恐竜が滅びるんだからな!」

ティターンズは、21世紀日本の左派を操り、防衛省にいる反戦自衛官を使い、反攻作戦の概要を一部入手。そこから得られた情報で、物資集積地を攻撃。同集積地を付近の市街地ごと吹き飛ばした。この攻撃は大量虐殺そのものであり、一瞬で数十万の人間と、扶桑軍が必死に溜め込んだ兵器や物資の多くが塵となった。外縁部にあった旧式兵器の一部は無事であったが、性能的にとても使い物にならないものばかりであった。この攻撃で八九式中戦車のほぼ全て、九七式中戦車旧砲塔車の全てが失われ、一式中戦車、三式中戦車の生産数の四分の一が一瞬で失われてしまい、物量で攻めるプランは事実上頓挫してしまった。これにより、地下深くに物資集積させるプランが採択された他、21世紀日本にその旨を急ぎ、問い合わせた。慌てた政府と防衛省と公安警察が調査をした結果、当時の左派政権の大物が絡んでいた事が判明する。その事が判明し、白日の下に晒されたのは、2011年の3月12日。東北の大地震で日本が揺れていた時である。折しも学園都市がロシアと戦線を交えていたのもあり、左派政権はその無能ぶりを露呈する。また、政権の官房長官経験者の一人が『扶桑の文化大革命のためには、向こうの人間が数十万死のうが……』と漏らしていた事が判明すると、扶桑との外交問題化を恐れた左派はその人物と事件の実行役の反戦自衛官を切り捨て、保身に走る。防衛省内部でも、扶桑との関係を大事にする制服組の勢力が背広組と逆転しだし、扶桑への償いとばかりに陸海空自衛隊の合同部隊を『留学』の名目で送り出す案が出されるほどだった。左派はこの事件がきっかけで、ティターンズとの関係を続けられなくなり、政権から失墜。政権交代と同時に、扶桑への救援物資を『償い』も兼ねて増大。留学名目での自衛官派遣と、74式戦車のみならず、旧式化し始めた90式戦車も送り込み、実験も兼ねて、機動戦闘車も送り込んだ。だが、機動戦闘車については扶桑では不評であり、これがきっかけで同車の自衛隊での調達中止に繋がった。火力面は申し分ないが、防御力がウィッチの銃なら容易に貫通される程度しかなかった事もあり、蜂の巣にされて破壊される例が多かったのだ。(陸戦ウィッチに近接戦に持ち込まれた場合、無力に等しく、中には12.7ミリの強化弾頭を魔力で更に強化し、二丁で接射して、強引に蜂の巣にする芸当もされた)遠距離から滅多打ちにすればいいのだが、中にはエンジン部を超遠距離から狙撃し、沈黙させる猛者もいたため、ヒットアンドアウェイの戦法での戦果とイーブンであった。そのため、直ぐに装甲強化型の開発がなされ、そちらが主力になったという。財務省から「高い金で欠陥品を作ったのかね?」と嫌味を言われた防衛省は『被害の多くは待ち伏せによるものであり、同車の価値の否定には繋がらない』と反論する一幕があったという。なお、機動戦闘車への狙撃にはボフォース40ミリ砲の徹甲弾が使用されており、魔力による威力倍加もあり、実質は高初速の50ミリ砲を食らったも同然であった。機動戦闘車と言えども、流石にウィッチのボフォースによる狙撃(固有魔法でのドリル効果で装甲を穿つ)耐えられなかったのが分かる。もちろん、そのような狙撃の芸当が可能な猛者は少数だったが、魔力による電装品の異常でエンジン停止などが起きた他、500キロ爆弾を航空ウィッチが真上から落としたり、ボフォースで砲塔天蓋を狙撃するという方法で阻止される事例も増えた。その事から、機動戦闘車の運用には87式自走高射機関砲の護衛が必須とされたという。


――バグラチオン作戦は第二プランに切り替えられ、量での対抗が不可能となったため、質での対抗に切り替えられ、自衛隊式兵器が多く使われる事になり、投入予定の主力部隊の装備は自衛隊の装備であり、21世紀時点の技術だった。自衛隊の部隊も『扶桑軍の定数』に加えられており、質量攻撃で失われたモノを陸海空自衛隊と地球連邦軍が補うという形で決着し、扶桑陸軍の兵器はこの時に一気に更新される。空軍も運用ドクトリンがリベリオン式に統一され、ティターンズへの対抗を強く意識したモノとなる。飛行64戦隊はマスドライバー潰しの作戦行動に動く事となり、そこで宇宙艦隊戦を経験する事になる。


――アルバトロス 艦橋

「大気圏離脱完了。宇宙空間に出ました」

「各員、対空警戒を厳に。敵にはもう捕捉されていると見るべきよ」

「了解」

と、艦橋要員は武子含め、デザリウム戦役で連邦軍の宇宙戦艦の危機に触れたことのある『経験者』であるが、パイロット要員には今回が宇宙空間の経験が初の者も多かった。特に、訓練途上の雁渕孝美は自分が『定数合わせ』で選ばれたことを自覚していた。

――艦内――

「先輩、なんで私が選ばれたんですか?MSの練度は……」

「人数合わせと言ったところだ。MS操縦経験者は重宝されるから、今すぐに連れていける奴はお前含めて数人いたから、連れてきたわけだ」

「あの、いいんですか?」

「なに、お前は艦の直掩でいい。攻撃は私達の仕事だ。MS操縦をよく勉強しておけ」

「り、了解」

雁渕は戸惑う日々であった。引退を取りやめ、妹を引き連れ、海軍から空軍へ移籍したまでは良かったが、どういうわけか、MSに乗って戦う事になったのだ。

「うーん。どうしてこうなったんだろう……」

「今は普通にいってれば、お前の妹も脂が乗りきって、下り坂に入っていく時期だ。それを思えば、今の状況に感謝してるベテランも多い。本来なら、去年あたりまでに世代交代してるはずだしな、エースの多くは。それに、連邦との交流で問題になったしな。短期促成世代の弊害が」

「短期促成……先輩は3年ほどの教育期間があった世代でしたっけ」

「そうだ。お前の代になると、一年半以下だ。だから、『必要最低限』しかこなせないと問題になっているんだ。それと、リウィッチ化で階級昇進速度も緩められる。今までみたいに『長くて10年』って縛りも消えたからな。それに、連邦とあちらこちらで衝突があったしな」

「そうなんですか?」

「そうだ。連邦と揉め事起こして、二階級降格になったウィッチもいるそうだ。それを鑑みて、平時に戻った暁には『佐官教育』を厳格にするそうだ。だから今の『荒くれ者』の多くは、今のうちに出世しておかないと、大尉止まりだ」

「厳しいですね」

「佐官になると、作戦単位の指揮官になるからな。それくらいは当然だ。威張りくさってたウィッチは、負け戦の時に一般兵士からリンチされて、そのまま引退を余儀なくされた例もあるんだぜ」

「肝に銘じておきます」



――ウィッチの昇進速度も、この頃から緩められ始めていた。これは戦線のあちらこちらで『合理的判断で戦線の集中を図る』連邦軍と、『自分達がいなくなれば、護る者がいなくなる!』と、感情論と地理的要因でモノをいうウィッチ達とが衝突する事例が多く、佐官ウィッチが尉官へ『降格』させられる事すら起こった。その結果、佐官以降の昇進速度を通常軍人よりは早い程度に『緩める』事になった。坂本Aは周囲との衝突、ミーナは上層部への不信による、スリーレイブンズへの背信行為(疑惑は晴れたが)で、一時は尉官へ降格させるという議論が生じたのは異端ではなく、あちらこちらで起こり、実際に、連邦軍からの抗議で、その問題を起こした中佐が大尉にまで落とされた事例も存在する。(実際に士官が不始末で一兵卒にまで降格されて退役した事例は存在する)坂本とミーナは危うく、その一歩手前だったのだ。そのため、二人の出世は『大佐』で止まる。(ミーナの場合は『リウィッチ化での体質』も大きいが)そのため、スリーレイブンズの昇進速度は『格別に早い』のだ。また、一般兵士も未来兵器の普及により、『戦力』と見なされるようになったのも、昇進速度の均衡化が叫ばれた要因だった。それと『男女平等』の観点から、21世紀の女性らから『特別視されているので、不平等だ』という論が出たのもあり、その折衷案であった。そのため、この時代から、ウィッチであっても『尉官から佐官への昇進が一番の壁』と言われるようになる。佐官教育が厳しくなった都合、大尉で軍歴を終えるウィッチも増えていく。そのため、この時代は叩き上げの特務士官が最も多かった時代なのだ――





――この頃のウィッチ達の多くは1944年から45年までの負け戦の生き残りであり、ひどい負け戦を経験した事で、ウィッチの力を疑問視する風潮が最も強かった。その一方で、自らを蹂躙した元凶の超兵器に対しての対抗心も強く、機動兵器搭乗志願も最も多かった。そのため、この時代のウィッチは多かれ少なかれ、機動兵器の搭乗資格を保有していた。比率としてはVF/TMSが最も高く、次に通常MSが来るのだが……


「なんじゃこりゃぁああああ!?ライトニングガンダムだぞ!?リガズィ・カスタムって聞いたぞ、おい!!」

と、格納庫で代替機が違う事で絶叫を上げた黒江。それは同じZ系でも、リ・ガズィの系統をよりZに先祖返りさせたような機構を持ち、尚且つ、アニメの正伝では登場していない機体のライトニングガンダム、しかもそのフルバーニアンだった。射撃戦主体の機体なので、黒江との愛称はよくなく、むしろ圭子向けだ。リ・ガズィカスタムとは、RとGしか一致していないので、ワケガワカラナイヨ状態の黒江。圭子が問い合わせたところ、次の事が判明した。扶桑軍の担当者が書類にバターを落としてしまい、その判読に苦労したため、リ・ガズィカスタムでなく、ライトニングガンダムが送られてきたのだ。そのため、機種転換訓練に苦労する羽目となったとか。







――自衛官が二次大戦相当の世界で実戦経験を積み、21世紀日本の研究が軍事に応用されていくことを快く思わない日本の大学研究者から、扶桑へ抗議がなされたが、当然ながら、『軍事研究と民間研究の線引は困難である。第一、インターネットも軍事研究からのスピンオフであろう?』という最もな反論が出された。更に学園都市で非人道的研究を平然と行っている事も指摘され、日本はあらゆる面で『戦後日本の姿勢』を正された。その結果、日本で陸海空自衛隊を軍へ昇格させる議論が湧くと同時に、学園都市が極東ロシア軍を叩いている内に、北方領土を取り戻そうとする動きも生じる。実際、学園都市の部隊は見事、極東ロシア軍を駆逐していたため、和平で北方領土の返還を持ち出すべきだとする世論があった。ロシア軍も極東方面軍が壊滅に等しい損害を被り、(美琴が一個軍団を無力化したなど)事実上、ウラジオストック方面の防衛が不可能となったなどの要因で、極東方面の領土を一部譲ってでも、モスクワを無傷でいさせる事を優先したロシア政府は、和平の折にウラジオストックの日本編入と、北方領土の返還を日本政府に申し出る事で学園都市から国土を守る選択を取ったのである。それを了承した日本政府は『浦塩市』としての統治を2014年から開始すると決定した。市内の592069人の内の多くは市内への残留を望み、在日ロシア人となることを選んだ。これは多くが敗戦したロシアに失望していた事、日本が寛大な統治を行うことを期待しての事で、事がそのように上手く行ったのは、扶桑と因果が『繋がった』ためだった。そのため、扶桑の太平洋戦争は、学園都市の引き起こした戦争、更に21世紀中盤に時空流入現象と並び、『地球連邦の事実上の支配者』への道を決定づける事になるのだった。





――飛行64F主力が宇宙に出た後の後衛は主に第三・第四中隊が担当した。その中には雁渕の妹であるひかりも含まれており、カールスラントよりやってきた撃墜王達の薫陶を受け、実力を上げ、統合戦闘航空団に配されるに値する力に達しつつあった。そのため、菅野の飛行小隊の四番機に配される事も検討されているとか――


――南洋島には、欧州に殆どケリがついた(ロマーニャ最終決戦で欧州の怪異の巣の多くがすっからかんになったり、物理的に消滅させられたため)事もあり、多くの撃墜王が集結。太平洋戦争に『従軍』した。ハルトマンを筆頭に、ハインリーケ、バルクホルン、マルセイユ、ルーデルと言った超大物の四人が真っ先に太平洋戦争に参戦したのを皮切りに、カールスラントのエースの半数近くは激戦地へ送り込まれた。また、この辞令はグンドュラ・ラルが発したものである。アドルフィーネ・ガランドは電撃的に退役を発表。事後をグンドゥラ・ラルへ託すための残務整理を行っていた。ラルは記者会見の場で電撃的に指名され、流石にパニクった。何せ、いきなり数十人はいる先任をぶっ飛ばしての指名で、皇帝も承認済みという。そのため、階級は特進でガランドと同等の中将へ昇進した。501時代の上官のミーナよりも高い階級に、一夜にして任ぜられたため、後ろめたさもある。そのため、ハインリーケとマルセイユ、ハルトマン、バルクホルン、ルーデルに南洋島勤務を通達した。

「『閣下』、作戦会議のお時間です」

「閣下か。私はそれほど大層な人物ではないさ、だが、アドルフィーネ閣下直々の指名とあれば……。いくそ、ロスマン」

「はい」

ロスマンは教育総監に任ぜられたが、その階級は特務大尉である。正式な着任まではまだ相当官待遇にはならない。そのため、ラルの秘書を個人的に務めていた。ガランドからラルへカールスラント軍の政権交代が起こった事は内外へ驚きを以て迎えられておいた。何故、以前から後継者と目されていたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケでなく、グンドュラ・ラルを指名したのか。その理由は青さを残すミーナより、現実主義者のラルのほうが真に『上に立つべき人物』である事、ミーナは極度のストレスにさらされると暴走する暴発性を他国軍から危険視された事もあるが、ミーナを鍛え直したいガランドの意思をラルが引き継ぎ、ガランドが最後に留学の辞令を発し、その事務処理が後任者としての最初の仕事であった。リウィッチ化し、腰の痛みも消えたため、ガランド以上に最前線に出るのを好む司令官となったという。前任者のガランドは隠居生活を楽しむため、実は扶桑の南洋島に極秘で渡航しており、一軒家で束の間の南国ライフを楽しんでいたが、扶桑軍に見つかり、その流れでカールスラントの特務機関の長に任ぜられてしまう。その流れで飛行64Fの基地にオフィスを構え、宇宙から帰ってきたスリーレイブンズを驚かすのだった――



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