外伝2『太平洋戦争編』
行間『未来からの贈り物』


――扶桑皇国軍は地球連邦軍及び、米軍・自衛隊の援助を強力に受けたが、問題は早期に現れるであろう第三世代ジェット戦闘機への対策であったが、亡命リベリオン軍には高価なF-4系列をいっぺんには調達出来るほどの資金はないため、米軍に『安価な機体』を依頼した。米軍は『F-5G』という名目で、F-20『タイガーシャーク』の設計図と製造権を与え、その製造を援助する方法で援助を行った。同機は亡命リベリオン軍の有する初期のジェット機を代替する新鋭機として、1947年度より緊急生産され、翌年には二個航空隊が稼動状態にあった。シャーリーはその第3号機を受領しており、同機を愛用していた。


――黒江達が休暇を取っていた日、シャーリーは本国軍の機体を血祭りに挙げ、戦闘機乗りとしても、エースの条件を満たした。シャーリーは『タイガーシャーク』を絶賛し、早期増産を具申し、それが認められた。シャーリーは今や少佐に昇進しており、ウィッチとしての速度記録も有する『世界最速の女』である。

「こちらシャーロット。敵航空隊を落としたぜ。一匹残さず、地面とキスさせてやったぞ」

「ご苦労様、帰投したら、ルメイ閣下が勲章与えるそうよ」

「おっちゃんもオーバーだな、ハハハ」

亡命リベリオン空軍の司令官は『カーチス・ルメイ』に交代していた。日本と米国からは嫌われ者であるが、亡命リベリオンでは一定の人望があった。そのため、形式上は64戦隊との共同戦線という形なので、頻繁に顔を出し、亡命してきたウィッチとパイロットを64F共々、訓練で徹底的にしごいた。その甲斐あり、64Fと亡命リベリオン空軍主力は『一騎当千』の腕前を誇るようになっていた。そのシゴキはスリーレイブンズと、空軍に移籍したクロウズの一部メンバーをして、『死ぬ〜〜!!』と言わしめるほどにきついものであった。その訓練の成果によるものか、亡命リベリオン空軍主力と飛行64Fの作戦成功率は異常までに高い水準であり、当時に扶桑で第二の精鋭とされた、飛行47Fと50Fの有に倍以上を誇ったとされる。また、爆撃任務ではルメイ譲りの『皆殺し』戦術を取るため、本国軍/ティターンズからは恐れられた。その一端がルメイとルーデルが手を組んで、その編成に協力した『魔弾隊』という対地攻撃班で、ルーデルがその指揮を行った。ルーデルは二代目スリーレイブンズに頼み込む形で、自身が生み出す最強の対地掃射型ジェットストライカー『A-10』を未来からちょろまかし、それを隊員に装備させ、対地掃射を『楽しんだ』。隊員は多国籍かつ、ウォーモンガーな者で固められており、尚且つA-10を『先行装備』したので、戦車と陸戦ウィッチの死神と恐れられている。

「魔弾隊の編成、あれ絶対、大佐の趣味だろ」

「ええ。あの人、自分の身の心配より爆撃任務だもの。しかも綾香達の子孫を脅して、A-10をちょろまかしたのよ?あれはもう完全に趣味ね」

武子はルーデルの管理とした隊の対地スコアが並外れており、短期間で挙げたスコアは確認できただけで、『火砲(100mm口径以上) 150門、装甲車・トラック、800台以上』と凄まじいモノで、さしものリベリオン軍も顔色を失うほどの戦果だ。しかもその内の多くをルーデル本人が挙げている事に呆れていた。自身が将来に生み出すストライカーを『自ら戦争中に使う』というウルトラCは、黒江達でさえ考えつかなかったのだ。これを期に、スリーレイブンズも『その手があったか!』と追従し、本来は70年代以後に就役するF-15Jを、その時の自らの地位を利用してちょろまかす。しかも飛行隊単位で。なので、64Fの整備班には『未来から連れて来た』整備班も定数に入っている。

「おかげで、綾香や智子が似たような事を始めちゃってね。イーグルを持ち込んできたのよ。流石に目眩がしたわ」

「チートだな、おい」

「ええ。整備班も連れて来ちゃってね。しょうがないから面倒見てるわ。まぁ、今のジェットじゃ芳佳の魔力を早晩、受け止められなくなるのは分かるけど」

「待て待て、どうやって持ち込んだんだ?フエルミラーじゃ反転しちまうぜ」

「合成鉱山の素を借りて、基地に鉱山作ったのよ……だから、ザックザック掘り出して来てね……」


なんと、ドラえもんの道具である、『合成鉱山の素』をスペアポケットから取り出し、青年のび太に使わせる形で、F-15を大量に調達したのだ。せっかく調達したので、極秘に『運用』を始めてしまったのだ。宮藤理論の集大成であり、腰部の武器ユニット装備の第一世代型でもある同機を『実機の戦闘機』のついでに調達し、新撰組に配備させたのだ。ファントムストライカーでないのは、『自分達が未来でヒーヒー言う運命である』のを知っている故で、より次世代のイーグルにしたのだ。イーグルはロマーニャ最終決戦の折に、使用した事があるので、その癖を掴んでいたのも、選んだ要因だった。そのため、64Fは『第二次世界大戦の戦場で湾岸戦争してる』状態と、他部隊から揶揄された。が、そのおかげで戦線の維持ができていたのも事実だった。

「あんたらチートしまくってるなぁ。今の時代にイーグルを持ち出すなんて、『一人だけズルして無敵モード』だろー!」

「貴方達だって、F-5G使ってるじゃないの。お互い様よ」

と、すっかり『無敵モード』という用語をスラスラ言え、その意味を理解できるまでになっているシャーリーと武子。他部隊の娯楽が時代相応のものなのに対し、64Fは21世紀の日本と同レベルの娯楽施設が基地に完備されている。リウィッチは未来生活体験済みの者であるので、その生活体験を維持するためというのが、完備の名目である。そのため、隊の個人の部屋には映像機器、TVゲーム機などが置かれている。芳佳もこれまでの生活でそれらに慣れたため、意外に活用している。『将軍らの息抜き』を名目に『カジノ』まであるので、この頃の空軍軍人らはウィッチ・リウィッチ・男性軍人を問わず、娯楽が充実している64F配属を望む事が多かった。他の部隊も隊の『士気の維持』を名目に娯楽施設の建設を要求するが、空軍上層部は『全ての部隊に娯楽施設の充実は不可能』と回答した。64Fは『リウィッチ運用部隊も兼ねているための特別措置である』とも回答した。これは当時、64Fがリウィッチ化した者の唯一の受け皿であった事を題目にした『言い逃れ』ともとれたが、当時は44年からの『現役世代とリウィッチ世代の衝突』の火種が燻っていた時代であり、現に新生501に於いて、スリーレイブンズとミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとの間にそれが起こっていた。その出来事も、この通達に説得力を与えていた。特に現役復帰したスリーレイブンズへ疑念を抱いていた者は、世代交代で伝説が忘れ去られつつあった事もあり、扶桑内部でもかなりおり、彼女達がその力を振るうまで『昔の人達の大ぼら』と捉える現役世代も多かった。これは世代交代が進み、かつての戦を知る者が減っていたためで、当時に新兵だったクロウズが『引退』間近とされるほどの年月の経過によるものだった。もちろん、クロウズの伝説も薄らぎ始めた時代なので、スリーレイブンズの威光は『遥か昔の出来事』扱いだった。スリーレイブンズの現役復帰を歓迎する者は往時を知っていた者に限られ、世代が坂本よりも一個下で、更に志願年度が1939〜40年頃のミーナが知らないのも無理からぬ事だった。

「そう言えば、一つ聞いていいかい、武子さん。なんでミーナ隊長は、綾香さん達を煙たがったんだろう」

「ああ、多分、現役世代の古参によくあったあれだと思うわ。私達が10代だった頃の怪異は今より倒しやすかったのよ。だから、見下されてるって感じた事あるのよね、私も。ミーナの場合は別のことも理由があると思うわ」

「別のこと?」

「エーリカも言っていたけど、ミーナは坂本にある種の好意を抱いていたんじゃないかしら」

「GLかよ」

「そう言わないの。10代にはよくある事よ、割と。私も若い頃には先輩に憧れた事はあるから。自分が築いた『家族』関係を壊されると怯えたってのが本当のところね。後は……そうね。501が設立された時のメンバーは殆ど残ってないでしょ?言うならば、上級司令部への不信ね」

「ああ、それか。なら、あたしも何度か見た。あたしが入った当初は理不尽な命令出されて、抵抗してたしな、隊長」

「特に501は初期、バルクホルンがクレーム出してメンバーを転出させたって話もあるから、バルクホルンを諌めてくれなかった事を恨んでたみたいでね」

「マジか……。あいつ、初めて会った時の印象良くなかったけど、そんな馬鹿してたのか」

「エーリカからの証言よ。ガランド閣下も、それでバルクホルンの素行調査をしていた事もあるみたいで」

バルクホルンは精神の均衡が崩れ、『冷徹な軍人』を装っていた頃は『死に急ぎ屋の問題児』と見られ、ガランドは現役時代、バルクホルンの素行調査をしていた事があると告白した。そのため、現在における『リーダーシップを取れ、尚且つ人当たりの良い軍人』という人物像へ変貌した事に驚いたと、スリーレイブンズとハルトマンへ語っている。

「ぶっちゃけ言うと、今の性格になったのは、芳佳のおかげね。あの子が来たから、バルクホルンの本来の人物像が表れたのよ」

「バルクホルンの奴、よく出世できたよなぁ。それ聞くと」

「多分、それは本人も意識してると思うわ。連絡先が分かった唯一の初期メンバーのラウラ・トート中尉に『手紙で侘びた』そうだし。聞くと、かなり情緒不安定だったらしいから、あの子」

バルクホルンはクリスが昏睡状態だった時期、非常に情緒不安定で、ガランドも問題視するほどに死に急いでいた。坂本は「『扶桑には“親が死んでも食休み”という格言がある。 休むことも戦いの内、疲れを残して無様を晒し犬死にするのは価値がないという事だ。 良く食べ、良く休み、良く戦え、妹が目覚めるまで死ねんだろう?」と煽って見せる事で、バルクホルンを働らせたが、情緒不安定さ故、メンバーを数人ほど坂本の着任前に『精神的に潰し』、それ以後もラウラを転出させた。そのため、旧オストマルクからはかなり睨まれている。バルクホルンはその時の記憶がかなり薄らいでしまった(封印したいらしい)ものの、ラウラ・トートへの罪悪感はあったらしく、正式に侘びた。ラウラは初期メンバーの中ではほぼ唯一、501在籍経験者であると公言したウィッチとなった。

「501は宮藤が来たことで、一つになったってか。ん?そいや、『一時的な増員はあっても、恒久的な増員はないだろう』って、北郷さんが来た時に言ってたような……」

「そこよ。ロマーニャの時に502の直枝とか、綾香達が一気に増員されたでしょ?それに反対意見出してたみたいで」

「出してたのか?」

「ええ。後でルーデル大佐から聞いた話だけど、『なぜ502を解散させて、501に取り込むのが急に決まったのか?』って問い合わせたって」

――ロマーニャに501が配置された際、オラーシャ方面の502を転出させ、501と合併させるという案が通り、通達された際、新たに上官になったルーデルに問い合わせたミーナ。ルーデルは『連邦軍の参陣で、オラーシャ方面に統合戦闘航空団をいくつも置く必要が無くなったのと、504の壊滅とアフリカ方面の戦況が悪化しつつあるための対策である』と、淡々と返事を返した。ルーデルは極秘事項であるが、北極圏の巣をスーパー戦隊の歴代スーパーロボットの必殺技の連打で破壊したため、いくつかの統合戦闘航空団の存在意義が薄れ、敢えて維持する必要が無くなったためだと言った。504・505の壊滅と、503と508の敗走、506の活動凍結により、連合軍は統合戦闘航空団の過半数を動かせなくなった。更にティターンズの正体が明るみになった事で、『分散配置は各個撃破の原因になる』と問題視されたのである。

「理由聞いて納得してけど、やはり煮え切らなかったみたいね。それで綾香と智子が来たから、年齢から『エクスウィッチの管理官』と早合点したと、本人が言ってたわ」

「おいおいおい、管理官って、普通は30代以上がするような仕事だろ?」

「外見と年齢が釣り合わないのを、魔力のせいと早合点したみたいなのよね」

「――はぁ。なんだよ、そういう事だったのかよ……リウィッチって、本当に極秘事項だったのな」

「ええ。本当は混乱を招くからって、当分は伏せておくつもりだったらしいわ。でも、綾香達とミーナの例を代表に、あちらこちらで問題があった上に、若手の志願が落ち込んだから、公表に動いたのよ」

リウィッチの詳細は、ロマーニャ最終決戦前後に開示された。それは黒江達が好き勝手暴れた事の説明ともなり、新生501の全員が納得した。特に智子の覚醒の存在は、坂本と竹井などの扶桑海事変の当事者以外は知らなかった(ビューリングはいらん子時代、その片鱗は見たが、一時的な暴走と判断していた)上、いらん子中隊の管理を務めていたスオムス軍が恨み節を漏らすほどのインパクトだった。

「智子が一番大変だったみたい。あの子、覚醒を得たから、スオムスから恨み節吐かれたらしくてね」

「ああ、あのバトル漫画の変身みたいな能力」

「なんとか私が誤魔化しの方便を考えてあげたわ。あの子、慌てると駄目だし」

「へー、なんて」

「映画撮影中の事故で記憶障害を起こしてたって。綾香が歴史改変やらかした帳尻合わせで、本当に記憶は封印されてたから、嘘ではないわね」

「確かに。んじゃあと10分で着陸だから、管制とのチャンネルに切り替えますわ」

「了解」


――この頃になると、黒江は極一部の『妹分』/『家族』と見なすウィッチには歴史改変を行った事を明かしており、彼女達は黒江の『弱さ』と真意を知っていたので、それを受け入れた。武子とシャーリーもその一人だ。特に『智子の親友兼バディ』のポジションを奪った形の武子には、改めて許しを請うため、土下座までした。それは黒江が心に決めていた『禊ぎ』であった。黒江は罵倒さえ覚悟していた。それは改変前の二人の関係をよく知っていたためであったが、武子は『あなたが望んだことでしょう?それに、智子と親友である記録は無くなっても、心に刻んだ記憶は永遠不滅よ。あなたに親友ができた事の方が嬉しいわ』とだけ言った。その返しに感極まり、『フ、フジぃぃぃ〜〜!』と、武子を思い切り抱きしめ、泣いた。武子は優しい笑顔で、黒江を抱きとめてやった。武子はこれ以後、圭子と並び、黒江と智子の『姉』的なポジションを確立していく事になる。また、その直後、黒江と『最後の別れ』ができなかった事を詫びるかのような一言を発した。

「え……?」

一瞬だったが、武子は確かに、『最後の別れが出来なくてごめんなさいね』と呟いた。黒江は一瞬、硬直してしまった。それは未来、いや、自身の死の様子を知っていなければ知りようがないはずの一言だ。

「ふ、フジ……今のは……?」

「なんでもないわ」

武子は誤魔化したが、黒江はどうしても気になった。武子も『自分と同じような事になったのか?』と。その要素は充分にある。そして、後日に問い詰めると、武子は真相を告げた。

「んじゃ何か!?少なくても、智子の昇神が始まった段階でお前も……!?」

「……ええ」

「バカヤロー!!それなら、なんでもっと早く!」

「確証が持てなかったのよ。ここが本当に『生前に過ごした時間』かどうかね。でも、あなたのおかげで全てが繋がったわ」

黒江は膨れている。同様の立場であるのなら、もっと早い段階で協力し、有効な手を打てたであろう事項があったからである。武子はそんな黒江をなだめる。リウィッチ化後の性質からか、武子の方が精神的に大人であるため、傍から見れば武子のほうが年上に見えるので、さながら、膨れる妹をなだめる姉である。

「あの時はごめんなさい。突然だったから」

「心臓が悪くなってたんなら、なんで相談しなかったんだ!?私がどうにかしてやれたのに!」

黒江は武子の死に直面した際、激しく狼狽し、号泣した。そして、『無理矢理にでも23世紀の病院に入院させていれば、もっと生きれたかもしれなかったのに』と後悔していたため、長年の間に溜め込んでいた感情をぶつけた。武子は『黒江が自分に生きていて欲しかった』と理解し、気まずい顔を見せた。心臓病に罹患してしまった事を告げていなかったからだ。

「いつからだ!?いつから心臓を!」

「96年あたりからよ。その年の夏に心臓発作起こしたのよ、実は」

「なっ!?」

武子は長年の苦労が祟り、晩年は体調を崩しがちになった。その破局が99年の晩冬であり、当人にとっても『突然』であった。当人の口から『96年に心臓発作を起こし、その時に死期を悟った』事が明かされる。それを知らされた黒江は愕然とした。自分には何も知らされていなかったからだ。

「あなたに知らせたら、考えられるだけの手で生かそうとするでしょう?でも、私はあなたにそれをさせたくなかった」

「……!」

「泣かないの。晩年に約束したことが守れなかった事は謝るわ、坂本と同じように。坂本も言ったでしょう?埋め合わせはすると。だから、黙認したのよ。あなたが合成鉱山の素でイーグルのストライカーとその武器を鉱山で掘り出した事」

「んならよ、今日の飯おごれよ!こっちはお前にバレないか冷や冷やもんだったんだぞ〜〜!」

「拗ねない、拗ねない。全く、子供なんだから」

どことなく、二人の最終的な関係を連想させる構図だった。黒江が精神の再構築で、精神年齢が再構築以前より『若々しくなった』ためだろうか、武子は実年齢は下ながら、姉のように振る舞う。それは黒江が心の何処かで求めていた『光景』かもしれない――


――武子からの贈り物はそれだけではなかった。武子は死を経た事で『気の制御』を完全にモノにしており、(生前に容姿を衰えさせなかったのは、気の制御の恩恵である)それまで圭子のみであった『オーラパワー』の制御を可能にしていた事だ。武子の場合は『マスキーブレード』を用いるため、彼女はマスクマンとライブマンの二代のスーパー戦隊の技を身に着けた事になる。そのため、武子はライブマンから送られた『ファルコンセイバー』、マスクマンからの『マスキーブレード』のレプリカを使い分けて戦うようになる。それは黒江と坂本が休暇を取る前の戦闘で証明された。


――戦場――

『マスキーブレードッ!!』

武子はおもむろにマスキーブレードを取り出す。光戦隊マスクマンのレッドマスク=タケルが使うものと同型のものであるので、そのことを知る圭子は驚愕する。

「マスキーブレード!?あなた、いつの間にそれを!?」

「説明は後でするわ!……はぁああああっ!」

武子は九字護身法の印を結び、オーラパワーを発現させる。それを刀身を包むようにして固形化させ、一気に相手ウィッチへと振り下ろす。

『マスキークラァァシュ!!』

オーラパワーに包まれた刀身は、巴戦の相手であったリベリオンのウィッチを一刀両断する。シールドごと、だ。

「ウィッチをウィッチが殺すのか……?」

「お生憎様だけど、国土を犯し、別世界の悪人達の走狗に成り下がった貴方達にかける慈悲はないわ、落ちなさい」

と、敵に対しては情け容赦がない事を示す一言を発する。武子はこの戦争で、敵から『ウィッチ殺しのウィッチ』と名指しされ多額の賞金がかけられる事になるが、その最初の事例だった。ウィッチは死傷率が一般兵士より遥かに低いのだが、スリーレイブンズや武子のように、『相手を殺す』意図を持って、オーラパワーや魔力攻撃、小宇宙などを使うと、その生存率は一気に低下する。64Fを攻撃する任務につくリベリオンウィッチは『遺書』を書かされるようになり、いつしか相対するに相応の練度を持つ部隊の創立が叫ばれるようになる。

「あなたがそれなら、あたしは!」

圭子もオーラパワーを発動させ、ウィッチ同士の空戦の漁夫の利を狙って現れた怪異を鉄拳オーラギャラクシーで両断する。その時に雁渕が『待ってください!コアの細かい位置を識別していません!』と止めたが、圭子は『要するに、大まかに中央部にあるんだろう!?入れ子構造のコアだろうが、このオーラギャラクシーは全てを斬り裂く!!』と、オーラギャラクシーを決める。力技で切り裂いたので、雁渕は唖然とする。

「……もう、なんでもありですね」

と、乾いた笑い声をあげる雁渕。コアの大まかな位置しか分かっていなくても、スリーレイブンズと武子は『外殻ごと、デュアルコア・ネウロイ(コアを二重構造にすることで、ミサイルなどへの攻撃に、ある一定の耐久性を得た怪異。1946年度から出現し始めた)を物理的に倒せる』事が示されたので、坂本の下位互換の魔眼(彼女のもう一つの固有魔法の絶対魔眼は覚醒に再分類され、更に進化の方向性がその方向になったので、この頃には『魔眼』としての使用は不安定化し、本人も使用を取りやめている)しか持たない自らに一種のコンプレックスを抱くようになった。しかも、スリーレイブンズや武子のように、個人単位での近接戦闘に優れているわけでもなく、未来で戦争に従軍したとは言え、優れたスコアを残しているわけではない事も、自信があったはずの自らに疑念を抱くきっかけだった。そのあたりは、自身の妹と似た者同士である事の証明だった。

「雁渕、あの人達はバケモンだが、最初からああだったわけじゃねぇ。……追いつこうぜ。本当ならあの人達は……、この時期だと『戦わなくても良かった』はすの人たちなんだからよ」

菅野がフォローを入れる。菅野は『管野と違う』立ち位置で雁渕には接し、同格・同期として接している。スリーレイブンズ世代の者達は本来、後輩達へバトンを渡して久しいはずだが、ティターンズとの戦争がそれを変えてしまった。菅野は『1944年当時の若手』として、自分の世代の多くの腰抜け加減に憤っており、それが率先して未来行きなどを志願した理由となっている。その事への責任感を『1944年時の中尉以上の階級の者』の少なからずが持っていた。菅野も例外ではない。

「あ、そうだ。鉄也さんとお前、知り合いなんだろ?お前、メカトピア戦の時、どういうキャラだったんだよ」

雁渕は未来で戦った際、キャラが違っていた事を剣鉄也が気になっていて、菅野に言ったのだ。雁渕は『海千山千だったから、無理して、軍人っぽいキャラを演じていた』と言い訳した。

「お前なぁ。そんな事無理にしなくても……」

「だって、ついたら数百年後の世界で、しかも戦争中なのよ!?怖かったんだから!」

呆れる菅野、赤面しながら膨れる雁渕。雁渕はその時にシャーリーやハルトマンとも会っているが、やはり後で、そのことをネタにされた。口調なども相当に無理して変えていたのがバレバレだったからだ。また、グレートマジンガーとマジンカイザーという二大スーパーロボットを目にし、更にデビルマジンガーとの死闘、のび太達の奮戦を目の当たりにした事もあり、雁渕は内心では『ハラハラ・ドキドキ』だった。


「まぁ、気持ちはわからないわけじゃないけどよ。俺は割とすぐに馴染んだな。VFの操縦資格持ってるし」

「え!?嘘でしょ、直枝」

「大マジだ。後で俺の機を見せるよ」

菅野はVFの操縦資格を持っている。相性が良かったのか、ヤマト乗艦時から『VF-19』系を愛用しており、この頃には最上位機のA型に乗り換えていた。もちろん、新基地にも持ち込んでいる。ニパがいないので、僚機を誰にするか悩んでいた。

「おー!そうだ。お前、今、MSの操縦課程取ってんだろ?だったら、ついでにVFの課程も取らねーか?ニパがいないから、武子さんから使用許可が下りにくくてよ」

「え!?わ、私が!?」

「頼む!宮藤は無理だし、かと言って、服部はますます無理だし……」

「わ、わかったわ。やってみるわ」

「存外に簡単だぜ。慣れれば、あたしでも動かせたしよ」

「西沢先輩」

「姉御」

なんと、西沢もいつの間にか資格持ちだった事を告げる。しかもTMS搭乗資格も得ているため、課程の完全修了を示す連邦軍の胸章をつけている。

「あー、姉御!いつの間に!」

「あたしはZ乗りもやれるし、VF乗りもやれるぜ。その気になりゃパイロットでやっていけるぜ〜」

西沢は自由奔放を『演じつつ』も、きちんと士官としての自覚も育っており、率先してパイロット資格課程を受講、その第一期卒業生にあたる。そのためか、キャラ付けしつつも、知的になった片鱗は見せており、芳佳・菅野・服部の三人の直接の上官にあたる(現在は特務少佐)事もあり、面倒見のよいところを見せている。

「雁渕、カンノの面倒を見てやれ。書類とテキスト一式はあたしが用意してやるから、帰ったら応募するように」

「は、はい……」

――と、いう事が起こったのである。その帰りに仮面ライダーディケイドが仮面ライダーカブトを引き連れて来訪し、南光太郎が南洋島についたわけである。ひかりがカブトに助けられたのが知らされたのは、その40分後の事であった。ちょうど、黒江と坂本が休暇を申請し、それが軍中央で処理されたのと同時刻であり、二人は武子の許可で、既にこの日の前の日の夕方から休暇を取り、新基地近くの駅から『あじあ号』に乗っていた。坂本はその数日前に智子も誘っていたが、あいにく、智子はローテーションの都合で、どうしても休暇が取れなかった。なので、当人はものすごく悔しがったという。



――40分後――

「な!?ひかりがなんで……え、仮面ライダーが?」

仮面ライダーカブトが現れ、雁渕ひかりを救った事が知らされ、姉の孝美は思わず、声を張り上げる。ここで雁渕は妹が奇兵隊の強行偵察班に志願した事を知らされ、驚愕する。

「あー、孝美。落ち着きなさい。はい、深呼吸」

圭子がパニクる孝美を諌め、自身が奇兵隊隊長からの電話を代わる。

「はい。電話代わりました、加東です……はい。はい。ごめんね。ウチの孝美がパニクっちゃって。……総司さんにはお礼を言付け頼むわ。あの人、オレ様キャラだけど、意外に人当たり良いから、身構えなくてもいいわよ。後で私からも電話入れるから。それじゃ」

と、電話を終えた。孝美は深呼吸しつつも、まだパニクり気味であり、『な、なんであの子が強行偵察班に!?』と目がぐるぐる巻きの状態であった。

「まぁ、強行偵察ってもドンパチするよりケツまくって逃げるのが仕事だから。今回は偶々よ。めったにあることじゃないわ。彩雲を使ってるから、怪異に滅多な事じゃ捕捉されないしね。それに今回は仮面ライダーカブトが来てくれたんだし、イーブンじゃない」

「仮面ライダーカブト……?」

「平成の7号ライダーよ。平成仮面ライダーの中でも高い戦闘能力を持ち、時空間に干渉しての加速能力も持つわ。あ、平成の意味は分かるわよね?」

「は、はい」

「妹の事が心配なのは分かるけど、ひかりちゃんの事をもっと信じてあげなさい。あの子は『あなたと一緒に飛びたい』ために、日々研鑽重ねているのよ?智子から聞いたけど、あなたはあの子を『籠の中の鳥』にしていたいの?それとも、ひかりちゃんに言った言葉は方便なの?」

「私は怖いんです、先輩。穴拭先輩にも言ったんですが、あの子は必ず無茶するはずで、本当は最前線にいてほしくないんです。でも、あの子に言った言葉は嘘じゃありません。だから、私は戦わなくてはならないんです」

「一人で考え込まないの。あの子はあの子なりの『空』を飛んでる。あなたも『妹にとっての理想の自分』じゃない『自分自身』を見つけなさい。先輩からの忠告つーか、アドバイスよ」

「加東先輩……」

扶桑空軍では基本、公的な場面以外では階級はあまり意識されないため、先任ウィッチを『先輩』と呼ぶことが多い。また、航空自衛隊に『副業』で属している者も多い為、空自の風土が持ち込まれ、それに近い文化を醸成させつつあった。ただし、海軍出身者は太巻き寿司やおにぎりを食べるので、大まかに二つの派閥ができた(64Fはハンバーガー派である)。空軍が世界最強の呼び名を得たのは、戦前の陸軍飛行戦隊の風土にその間接的後継者である空自の風習や風土が乗っかった事が大きかった。

「さて、食事に行きましょう。赤松大先輩に席取りは頼ん出るから」

空軍に移籍した赤松貞子は、1948年では実年齢が既に30オーバーとなっていた。64Fの影の番長ともされる影響力を持っており、スリーレイブンズも助言を乞う事が多い『姉御』であった。


「おー、加東。こっちだ」

「大先輩、ありがとうございます」

「な〜に、儂はお前らのように、軍学校での正規の士官教育は受けておらん『兵隊やくざ』だ。このくらいはな」

赤松は扶桑航空ウィッチの最古参でありながら、ヒットアンドアウェイ戦法にも理解を示し、雷電を乗りこなしていたことでも著名である。空自では、共同演習で黒江を従え、米軍トップガン達をいとも簡単に圧倒し、生え抜き空自隊員からは『いともたやすく行われるえげつない行為』と評されるほどの理不尽な強さを見せた。それでいて、教導にも高い適性を持つため、飛行教導群が時の防衛大臣や防衛省に『左遷』を猛抗議するほどの逸材でもある。

「大先輩、空自じゃ大暴れしたそうですね」

「おう。お前らにも見せたかったわい、イーグルでラプターを撃墜判定出したから、米空軍にラプターの生産中止の影響を生じさせたやもしれん」

赤松は実際、F-22を初見で『撃墜』するだけの戦技を持つ。黒江を僚機にしたのは、自分の機動に、生え抜き自衛隊員では追従不可能であるからだった。同機の生産中止の一因は『イーグルに乗った空自エースに連敗したから』という伝説を残し、それが連邦軍の時代まで言い伝えられるほどとなった。なお、米議会はこの事例を、『新型が値段相応の仕事しないなら旧式に高練度兵のせた方が良いんじゃね?」と解釈し、F-15系をその後も使い潰した。その影響は連邦軍にまで影響を残し、ジェガンが使われ続けている根拠になっているという、恐るべき影響を及ぼしたのだ。

「大先輩、何やらかしたんですか」

「何、ヤンキーの青二才共を揉んでやっただけだ。あれじゃ米空軍も相当に弛緩しておるわ。あくびが出おったわい」

赤松は清楚な外見に似合わず、おっさん系女子であるため、『残念美人』とも空自内では有名だ。

「まぁ、責任を感じてはおるよ。間接的にだが、連邦軍にジェガンを使い続けさせておるのは、儂と黒江のガキでやった結果を米議会に染み込ませたのが言い伝えられたせいだしの」

「大先輩、どんだけ暴れたんすか……」

「ラプターの運命を悪い方向に変えた程度だ。まぁ、あれも儂が乗れば、イーグルが9機でかかろうが、落とせたがな」

生産中止されたF-22だが、赤松が乗れば、設計の想定以上の強さを持つ。そのため、空自は正しく教訓を後世に活かし、連邦軍もそれを活かしたのだが、ジェガンの後継開発ではつまずきが続いている。これはジェガンが名機すぎたためでもある。

「連邦軍もそうだ。ジェガンはいい加減に変えたほうが良いと思うが、それを代替し得るポジションの新型機を中々作れんだろう?ジェガンは名機過ぎたと、儂は思っとる」

「ジェガンねぇ。」

「やられ役という印象があるじゃろう?乗ってみると、感想が変わるぞ。百式以上の基本性能と扱いやすさを両立させてたからな」

忘れられがちだが、旧式化して久しいジェガンも『グリプス戦役当時の百式』を上回るカタログスペックをマークしていた。その基本性能の高さが、後継開発のハードルを上げている感が強く、赤松はアナハイム・エレクトロニクスに同情していた。

「乗ったんですか?」

「おう。MS操縦資格はもうとっとるからな」

サンドイッチとハンバーガーを食べながら言う。圭子もこの豪胆さに憧れている。圭子は赤松のような肝っ玉が欲しいのか、赤松に教えを請いている。

「雁渕。お前の妹と会ったが、お前のようウィッチになりたいと言っとった。いい妹を持ったな」

「ありがとうございます」

「お前が手を回したんじゃろ?奇兵隊に回したのは。大方、黒江のガキに言うと殴られるから、穴拭のお嬢を仲介したな?」

「な、何故それを……」

「お前のあの子を見る目で分かった」

赤松は洞察力にも優れている。雁渕姉妹の気持ちのズレを一目見て悟り、言及したのだ。

「大先輩。誤解のないように言いますが、あの子は私の戦う理由なのです。あの子には、私が見たような地獄は味わって……」

「お前の言うことは分かるが、今の時勢では無茶な願いでしかないのは承知すべきだ。松田の撃墜が、お前にどのような影響を与えたのかは儂が口を挟むべき事ではないが、お前の気持ちは下手すれば、妹との確執になりかねんぞ」

赤松は、ひかりと孝美とに横たわる『意識の差』をはっきりと口にする。ひかりは『姉と一緒に戦えるウィッチとなりたい』という気持ちを持っており、赤松にその旨をはっきりと述べている。一方の孝美は『スリーレイブンズへのコンプレックス』や『妹が戦わずに済むために戦っているから、ひかりには安全な場所へ配置転換してほしい』事を望んでいる。そのスタンスの違いが確執になり得ると判断したのだろう。



――孝美は『本人が望んでいなかったにしろ、一族由来の膨大な魔力を持ち、すぐに統合戦闘航空団で活躍した』芳佳には、個人としての好感と、『軍人』としての反感が入り混じっている事もあり、妹に『高魔力の素養が発現しなかった』事を嘆き、当初は『軍隊を嫌っていた』とされる芳佳へ、少なからず反感を持っていた。妹が軍へ志願した後はその傾向が強まったものの、芳佳の人となりを知ることで、個人としては好感を抱くようになったという経緯がある。その反感が消え始めたのは、芳佳がロマーニャでひかりを守った事によるが、芳佳のウィッチとしてのスタンスそのものには反感はある。だが、能力と心情は同じ方向とは限らない。芳佳はウィッチとしての後方向きの属性を、剣技と膨大な魔力で補い、エースとなったのだ。スリーレイブンズとて、属性が前線向けではなかった黒江の例もある。

「雁渕。ウィッチとしての属性や信条が、能力と同じとは限らん。黒江のガキは、本来なら『後方でテストパイロットをしている』べき固有魔法だったし、加東も元は狙撃しか能がないようなウィッチだったのだぞ」

「大先輩、ちょっと間違いが」

「どこだ?」

「自分、ナイフ使えるんですけど―!」

圭子は元から『ナイフで接近戦に対応していた』事をアピールする。今では『接近戦好き』の風評もあるが、元々は遠距離支援で鳴らしたエースだ。

「お前、昔はあまり接近戦しなかったからの、すまんすまん、忘れておったわ」

「だ、大先輩ぃ〜〜!!」

膨れる圭子。

「雁渕、黒江のガキに言わなくて正解だ。もし、お前が奴に面と向かって言えば、ブチ切れて、足の甲に刀の鞘の切っ先落として叩き割るくらいの事はされるだろうからな」

「……」

青ざめる雁渕。赤松が断言するあたり、キレた黒江は赤松でも『制御しにくい』のだろう。淡々というのは、この問題には第三者の介入が必要であることを強調するためだろ

「奴は大人ぶってはいるが、本質的には10代のガキに毛が生えた程度だ。お前もさして変わりはない。奴は自分が認めた、あるいは自分を慕う者が誰かに貶される、暴力を受ける事は絶対に許さんという、ガキ大将気質だ。そこを刺激してみろ。お前は数ヶ月、病院で唸る羽目になるぞ」

赤松は黒江の本質を知っており、その上で『こき使っていた』。一度、統合参謀本部の参謀が黒江の部下を侮辱した時など、その参謀がズボンにシミを作るほど怯え、みっともない悲鳴をあげるほどの鬼の形相を見せ、赤松が止めなかったら、次元ごと屠られていたであろうほどの事態となった。そのため、統合参謀本部は、黒江には『当たらず触らず』のスタンスを取るようになる。戦後、特定の部隊に属さなかった時期があるのは、この事件が尾を引いていたからだ。

「……」

「奴をもっと知るべきだな、雁渕。奴は武人ではあるが、それは単なる一面で、戦人としての姿にすぎん」

「そうよ。あの子は一見すると、戦で生き生きとするような武人だけど、本質的には全く別よ」

黒江は、プロパガンダと戦歴により、『戦の中に生を見出し、それを愉悦とする薩摩人』のイメージが後輩達の間で根付いている。親しい友人や後輩らへ見せる『元気っ子』成分は知られていないのだ。菅野や芳佳を引き連れて、よく街を練り歩いているところは度々目撃されていたり、最新スイーツに目がない面もあるなど、『外見相応のところ』もい。

「そう言えば……この間、某チェーン店のアイスクリームを買ってきたら……。あれが先輩の本質だと?」

「それ以外の何だ?スリーレイブンズも、普段の姿は全く違うのだ。こいつみたいに空飛ぶのが好きなだけのヤツがトップエースだったりするしのう。カメラ小僧のくせに」

「大先輩ぃ……小僧ってなんですか、小僧って!」

「言うぞ?加藤の机から切手を失敬して、フォトコンテストに応募した事」

「うっ!」

赤松はしっかりと圭子が『悪さ』を働いている事は知っていた。圭子は鍛えた体で完璧なスニーキングをしたつもりだが、赤松はその上をいくため、一部始終を知っていた。


「あ、後で返してありますよぉ…勘弁してくだふぁい……」

と、自業自得とは言え、半泣きだ。

「と、まぁ。そういう事だ。それに、今の儂らには強力な味方もついておる。黒江の方面のツテで『戦女神』の加護もついておるから、妹や宮藤の事であまり考え込むな。それに、近接戦闘ができんのがコンプレックスなら、加東。お前、揉んでやれ」

「り、了解。よいしょっ」

「!?」

圭子はマスクマンから習った太極拳などの複合の演武を見せ、雁渕を地面に倒す。鮮やかな一撃だ。この世界においては太極拳・少林拳・カンフーなどの中国系武術の多くは、中華文化圏の壊滅と共に歴史の闇へ消え、または扶桑の空手や合気道に合流したりし、その形を失った。なので、それが脈々と続く世界における心得を、光戦隊マスクマンから教わった圭子は『オーラパワー』を操れるのだ。(その気になれば、グレートファイブに乗れる)

「久しぶりにやったけど、腕落ちてないようで、良かったwww」

「今のは?」

「この世界じゃ、とっくの昔に滅んだ国の拳法の触りよ。向こう行った時に教わってね。あたしは剣術ってタマじゃないからね」

圭子は剣術ではなく、体術を主に鍛える方向に行き、色々な流派を勉強し、体を鍛えた。(この際に、黒江や智子、坂本、ついでのバルクホルンをジープで追いかけたり、滝に打たせたという)

「フッ!」

圭子の寸止め足刀は、黒江ほどの鋭さはないが、それでも、兵士としては基礎訓練しか積んできていない者とは雲泥の差がある。言うなれば、『人を殺すための訓練を受けた上で、武術を鍛えた人間であれば、ウィッチでもやり方次第では倒せる』と言うものだ。実際、ティターンズの特殊部隊は『ユニットを履いていない時間を突き、基地に空挺降下して暗殺する』方法を用いたし、対人戦にウィッチが不慣れな事もあり、呆気なく熟練ウィッチが倒された例もある。また、元プロレスラーで、現役時代に凶悪パワーで知られた者を更に強化した『強化兵士』を用いる事で、怪力使いを強引にねじ伏せる、能力者である事を利用し、『武器やストライカーを自爆させ、遠距離で倒す』、『能力で洗脳して、同士討ちさせて全滅させる』、魔術でストライカーを纏えなくした上で、精神崩壊させる』といった、エグい方法もティターンズは用いている。このように、23世紀の人間が思いつくだけのあらゆる手段を講じてくるため、扶桑軍は劣勢を強いられてきたのだ。

「奴らに対抗するため……ですか?」

「そうだ。半分はティターンズ、もう半分は組織にね。ティターンズは神闘士も出してきたが、それは多くても10数人しかいない貴重な人材。多くは『普通の軍隊で、人を効率的に殺すための訓練を受けた兵隊』だ。私達は『人と戦うための訓練』は『教育期間中に、男性兵士に不平等感を感じさせない』という名目で、申し訳程度の訓練しか積んでいないが、あいつらは年単位で積んできてる。特殊部隊になると、信じられないような過酷な訓練を潜り抜けてきた。差が出て当たり前だ」

圭子は、黒江から『ネイビーシールズ』や『グリーンベレー』、『デルタフォース』と言った、名だたる特殊部隊の取材をしてこいと言われ、取材してきた。その訓練の過酷さは、旧軍の教育を受けた圭子も引くレベルであり、その系譜を受け継ぐ部隊を有しているのは、ティターンズも同じだった。(残党狩り専門部門であるので、選抜された者達によるコマンド部隊も有している)ウィッチはこうした部隊が活躍する事で、敗走を重ねているのだ。

「特殊部隊の隊員は高度200mのヘリからパラシュート降下訓練でパラシュートが開ききらない状態で落ちて無傷とかやらかす『タフガイ』だらけだ。それに対するべき私達はどうだ?魔法が行使できる以外は『普通の女の子』な事が当たり前だ。ティターンズは『陸自の第一空挺団』と降下猟兵の血を受け継いだ部隊を有している。それで『戦う前に無力化された部隊』も多いぞ」

「そう、ですね……私達の代以降は対人訓練は申し訳程度の時間しか訓練時間は…」

扶桑はウィッチの安定供給がなされているが、戦前においては、『訓練校を出た場合、一線で活動できる期間は最大で六〜七年、そうでなくても十年』というのが当たり前であった、。雁渕は早くに前線任務についたほうだが、ティターンズとの戦争がなければ、45年には退役後の生活を考え始めるように勧められる年齢層だった。戦争の激化で促成ウィッチが当たり前となったが、対人戦では仇となった。対人訓練を体に染み込ませた軍隊相手には、魔法を除けば、常人とさほど変わらない倫理観を持つウィッチ達は脆かった。

「加東の言う通り、今の戦争に求められるのは、騎士道精神でも、武士道精神でもない。『効率的に人を殺し、仲間の屍を踏み越えてでも、敵を打ち倒す』事だ。最も、どう戦おうと個人の勝手だが、お前は背負いすぎるのだ、雁渕。妹の理想に縛られていては、お前のためにも良くない」

「し、しかし!」

「お前は妹とは別の道を行け。『お前自身』を持つためにもな。あまり気負うと戦場に飲まれるぞ」

赤松はこう締めくくった。雁渕は『妹の憧れている偶像』であろうとするあまり、視野が狭ばっている。それが破局を招かないか、と心配している。

(黒江は仮面ライダー達と出会う事で『戦う意義と、自分の居場所』を新たに見出した。智子は『昇神する事で、自分の新たな存在意義を作っていった』。圭子は『現役に戻る事で、戦う理由を新たに見出し、二人を守るため』に命の炎を燃やしている。雁渕よ。傷つくことを恐れたら何も守れん。戦いでは、優しさよりも激しさが大事になるのだ……)

赤松は独白する。回りくどいが、要するに、雁渕に必要なのは『古ぼけた鎧』を脱ぎ去って、さっぱりする事なのだと。姉妹のすれ違いが破局を招いた例など、一般家庭でもごまんとある。雁渕にとっての古ぼけた鎧とは、『戦う理由』そのものであるはずのひかりなのだ。ひかりはもう、庇護すべき対象ではない。戦士なのだ。

「雁渕、人のために戦おうとするな、自分のために戦え。儂に言えるのはそれだけだ」

「ハッ……」

雁渕はこれ以後、赤松の言葉を噛み締めていき、菅野・芳佳のペアのローテーションに入る事で、宮藤芳佳という人間を知ろうとする。芳佳の人間性は妹に通じ、努力家である事などの共通点を知っていく事で、次第に芳佳への見方を変えていくのだった。また、この時の体験が孝美を『接近戦闘』に傾倒させていくきっかけでもあり、数ヶ月後、北郷が師範を務める講道館剣術の門戸を叩き、以後は芳佳を追いかけるように剣術に励む。なお、剣術習得後は『海の桃太郎』を自称するようになり、同系統の異名を持つ智子をライバル視するようになったという。



――そして――


「おい、お前ら。武子が呼んでるぞ」

不動明からの呼び出しで、赤松含め、武子の執務室に呼び出される。すると。

「新科学要塞研究所から連絡よ。『偉大な皇がそっちに派遣する。受け入れ準備せよ』と。

「グレートカイザーを?」

「そう。プロフェッサー・ランドウが百鬼帝国を事実上乗っ取って、ミケーネ残党と一緒に戦力をティターンズ側で送り込んだそうな」

「ティターンズの野郎共も節操がねぇぜ。生き残るためには、地下勢力とも組むたぁな」

明は呆れる。なりふり構わない点で、元同族のデーモン族を思わせたためだろう。

「でも、武子。闇の帝王には、もう殆ど戦闘獣は残っていないはずよ。鉄也さん達が殆ど倒したはずだし」

「ベガ星連合軍をも取り込んだそうよ。『マジンガーとゲッターの打倒』で」

プロフェッサー・ランドウ。百鬼帝国に拾われたマッド・サイエンティストだが、聖獣『ウザーラ』を真ゲッターロボGに破壊され、搭乗していたブライ大帝が瀕死の状態と成り果てたのを名目に、国を乗っ取ったという、戦国時代さながらの下克上を敢行した。また、その際にブライの治療と帝王ゴールの『再生』も同時に行い、共に『マジンガーとゲッターの打倒のため』に手を組み、百鬼帝国の資金力と資源、ミケーネとベガ星連合軍残存部隊の技術で『悪のゲッターロボ』の建造に取り掛かる。それは連邦軍も察知していて、グレートマジンカイザーの調整と、真ゲッターロボGのチェックを行っているのだ。

「奴ら、量産型グレートや量産型ドラゴンくらいは出してきそうだぞ。そうなったら、Gカイザーか真ドラゴンが必要になる。それにマジンガーZEROの動向も気がかりだ」

「あたしらが真ゲッターを動かしてもいいわよ。幸い、坂本も黒江ちゃんもゲッターを動かせる『状態』だしね。號達にはまだちょっと真ゲッターは早いしね」

現時点では真ゲッターロボは『開いている』。G・斬・ブラックといった他機種と比して、必要なゲッター線耐性と親和性が飛躍的に高いのもあり、ゲッターパイロットになれても、真ゲッターロボには乗れない事も多い。ただし、圭子や黒江、坂本と言った『昇神』組は既に『肉体は器に過ぎない』状態なので、その問題をクリアしており、乗りこなす事が可能である。

「私が乗ってもいいけど、おいそれ開けられないし、坂本かティアナにベアー号に乗ってもらうか。イーグルは綾香かあなたの持ち回りで?」

「そうね。黒江ちゃんなら、真ゲッタートマホークをソードトマホークに変形させられるから、黒江ちゃんを推すわ。それに、あたしがいなくなった後、特訓して真ドラゴンに乗ってたようだし」

「智子から聞いたわ。ショッキングな最期と言おうか、壮絶と言おうか……。自爆とはね。あの子を泣かせるんじゃないの」

「ああしないと倒せなかったし、あの子には悪いことしたわ。でも、あの子が結果として『成長できた』から、複雑だけど」

圭子を『失った』後の黒江は、残った命の炎を燃やし尽くすかのような苛烈な晩年を過ごす一方で、智子に先立たれた時は『私を一人ぼっちにしないでくれぇぇぇ……』と、遺骸にすがりついて泣き崩れたという。昇神は智子より遅く、黒江の復活時には、智子が復活済みであった。その時の様子は以下の通り。

――ウィッチ世界の23世紀の靖国神社――

黒江は時を隔てた、靖国神社で再び目を覚ました。時代が進み、未来世界と遜色ないまでに発展した帝都・東京の一角に変わらずにある靖国神社。その敷地内の桜の木の下に、黒江が最も会いたかった人物はいた。

「随分遅かったわね、綾香」

「智子……?」

昇神した影響か、戦闘時の使い魔の尻尾と耳がある姿だが、智子だった。往時と変わらぬ笑顔。最晩年に必死に堪えていた感情が溢れだし、途端に大泣きしながら、智子に抱きつく。

「わっ!?な、何よいきなり!?」

「会いたかったよぉ〜〜!!お前、いきなりじんぢまって、びとりぼっちになっちまってぇ〜〜!!」

声の殆どに濁点がつく勢いで号泣する黒江。子供に戻ったかのような号泣ぶりは、智子がほぼ唯一、晩年まで共にいてくれた『家族』であった故だろう。智子はなだめるのに苦労したが、泣いてスッキリしたあとは、生前の時のような会話を行う。

「何、翼はまだ生きてるって?」

「ええ。聖域で、老師ポジしてるわよ。翼の孫か曾孫が今は黄金聖闘士のはず」

黒江の大姪にして、義理の娘『翼』は聖闘士の任を21世紀に継いだため、そろそろ隠居のはずだ。最終的には、孫に地位を譲り、天秤へ転向したと聞いている。

「家帰ると、もれなく『大ばーちゃん』呼ばわりかよ。嫌だなーそれ」

「ゼータク言わないの。あたしだって復活したら、麗子の子孫達に『大お祖母様』って言われて、ガビーンとしたわよ」

穴拭家はこの頃、智子と麗子の戦功により、華族に列せられていた。叙爵が麗子の代で行われ、世襲してきているので、現在では『子爵』の爵位を持つ。その先祖の智子も、復活後は『智子猊下』と呼ばれている。

「麗子が叙爵受けたから、その先祖のあたしも『猊下』って呼ばれてるけど、最初から華族だったわけじゃないし、昔の暮らししてるわ。あんたの復活まで数十年は待ったわよ」


智子は当代当主の遠い先祖であるので、生前は爵位を受けていなかったが、復活後は神格であるため、公の場では猊下と呼ばれているが、大仰にすぎるので、普段はいつも通りの生活を送っている。神格になった後なので、使い魔と一体化したらしく、耳と尻尾は消せるが、公の場では出したままだ。

「でもよ、家に帰る事に抵抗ないのか?死んで数百年たってるんだぞ?」

「仕方がないじゃない。実家であることに変わりはないもの。麗子はまだ生きてるから、あの子に実家は仕切らせてるわ」

と、いう具合で23世紀で復活した後は、神格であるので、時間と次元の壁も容易に飛び越えられるようになった両者。智子と黒江がつるむ回数が増大したのは、その経緯があるからだった。

「――ってな感じで」

「へぇ。あの子、長く生きた割には泣き虫ねぇ」

「まぁ、仕方がないさ。200年も生きりゃ、肉親の全てと別れていくし、あたしらとも別れた。その体験もあって、意外に泣き虫なのよね」

「まぁ、あの子、『失いたくないって気持ち』が強いから、一度、何かを失ってしまうと脆いのよね。だから、仮面ライダーのみんなに縋ったんでしょうね」

黒江は精神の再構築の過程で脆い面を持ってしまったが、それは『人を信じられる』ようになった表れでもあった。これまで、『完全に心を許せる』相手に巡り会えなかったのが、黒江の不幸ではあった。が、歴史改変と未来行きで『パートナー』を得た事で、『真の意味での強さ』を手に入れたという等価交換が起こったのだ。

「この世界にはあなたや私のような『介入者』も多い。綾香が一番やらかしたけどね。歴史改変までやらかしたし。だけど、それは『あの子』が本当に望んだもの。複雑だわ」

「しゃーない。あの子は歴史改変を悪い方向じゃなく、いい方向にしようとしたもの。本当に努力してたから、責める権利はないわ。ドラえもん達がそうであるように」

武子は事実を知った。歴史改変を行った事に関しては複雑だが、黒江が『より良い方向にしようとした』ために、その気持ちに整理をつけたらしく、圭子の一言に頷いた。

「ん?これは?」

「改変で生じた影響のまとめよ。細かいところをあげると、意外に多いわよ」

「何々?『B世界を本来の流れに近い世界として、その違いを列記する……』」

連邦とティターンズが介入しなかった場合、501はやはりブリタニアの巣を開放し、502が東欧の巣の一つを潰すが、502は501ほどの勝率を挙げられていないため、『格下』と見られている事が分かった。506は活動以前からゴタゴタ、504はやはり壊滅と、501と502以外はめぼしい戦果を挙げていない事も分かった。

「この世界だと、連邦の庇護下に置かれた501以外はめぼしい戦果を挙げられず、501に半分以上が統合されたけど、もし、502が負けていたら、同じような事になったでしょうね。それと、クダのほうの直枝は、芳佳たちより『数ヶ月前』の時間軸の住人らしく、言うことにずれがあったわ」

「やはり。義子に聞き取りさせて正解だったな」

「そうね。あの子の言う事なら従うから、直枝。ただ、孝美へも執着あるみたいで、孝美がそっけない反応見せたら激怒したみたい」

「別人なんだから、しょうがないだろ?全く、クダの扱いには手を焼かされる」

「孝美も、ものすごく戸惑ってね。聞くと、孝美と『クダ』は先輩後輩の関係にあるらしくて、憧れていたみたい」

雁渕は芳佳との関係とは別に、『クダ』こと、管野直枝との関係に困っていた。それは孝美にとっては、直枝はあくまで『同期・同格のエースで、同僚』という認識であったのに対し、管野にとっては『相棒』と認識している、元・教官の戦友という差があった。そのため、雁渕は激昂したクダに殴られたという。とんだとばっちりである。そのため、管野は西沢の制止を必要としている。

「孝美も災難だな。こっちだと『菅野』とは『同期』という認識でしかないから、思い入れも何もないし」

「それで、何日か前、激昂して殴ったらしくてね。義子が止めなかったら、あの子、骨が折れてたかも」

「まさに、降って湧いた災難だな。『贈り物』っていうのは、いささか不運も混ざってるなぁ」

「そうねぇ。クダ達にとっては、ここはパンドラの箱に似てるかもね。関係も何も根本的に違うし、歴史も違う。『絶望が多く出たけど、希望もあった』のが救いかしら?」

「そうね。クダも、スガの姿見て、自分の振る舞いを考え直してるみたいだし、343空がどんな部隊で、『スガはどういう風に過ごしてたんだ?』って聞き回ってるみたい」

「クダは地獄を見てないもの。スガは地獄を見てきたから、343空の新撰組の隊長してたんだし、今も分隊長なんだから、当然か」

「クダはまだ『青い』もの。スガのように、熟練者になるべき経験もしてないし、指揮官としての素養も見受けられない」

「奴はスガとは違うタイプのウィッチになる。だが、それでいて、スガの姿を追いかけ始めてる。これも『帳尻あわせ』なんだろう」

「おそらく。だから、『この世界に来たことで共鳴が始まった』んだろう。不思議なもんだ」

武子と圭子は、お互いに『B世界の人間がA世界に来た場合、A世界の同位体の影響を受ける』事を自覚した。管野は菅野の影響で、明確に『指揮官』として振る舞う自分の姿を意識し始め、背中を追いかけ始めた。その結果、世話役の雁渕ひかりを『相棒』としようと考えている。これは姉の孝美とスガに目立った繋がりがない事を身を以て知ったためで、世話役となったひかりに親近感を覚えたためだろう。


――最も、管野がいなくなったB世界では、相棒と言えるニパが取り乱し、『カンノぉ〜〜、どこいっちまったんだよぉ〜〜!』と必死の捜索をしており、エイラとサーニャを強引に協力させてまで探させているし、同時期に黒江・圭子・智子の三人も消息不明となった事から、B世界の扶桑皇国軍令部・参謀本部は大パニックとなっていた。そのトドメが宮藤達の行方不明であり、大混乱に陥っていた。その混乱ぶりは、B世界の武子が智子の生死不明に取り乱すあまりに憔悴し、軍病院に入院してしまう、502が雁渕姉妹を管野の代替にせざるを得ないほどのものだった。B世界とA世界が初めて、お互いに連絡を取れたのは48年の事。フェイトが数年かけての調査の末、ようやく世界の特定に成功したのだ。

「全く、手間をかけさせる。やっと特定に成功した……」

そう愚痴るフェイト。獅子座の聖衣もちゃんと持ち込み、ボックスで運びつつ、ペテルブルグ市街に入る。すると。

「話には聞いていたが、本当に市街は空き家だな。まるで、ウチの廃棄都市のようだ」

フェイトの口調は『アイオリアの憑依』の影響により、彼が旅立った後も、その名残りにより、アイオリアとよく似たモノになっていた。(獅子の咆哮を!など)また、聖闘士になったため、見かけと反比例して『筋肉質』な肉体を持つ。

「お、あれは502……ニパとサーシャさんと……雁渕さんの妹か。どうやら、戦闘中のようだな」

上空を見ると、市街戦を行っているニパ達の姿を見る。自分の存在に気づいたのか、ニパが声をかけてくる。

「お〜い、そこの人〜!」

「……ニパか」

「え!?な、なんで私の名前を!?」

「私はよく知ってるよ。『カンノ』から話を聞いているんでな」

「カンノから!?カンノに会ったの!?」

「ああ……ニパ、避けろ!」

「!?」

フェイトに声をかけたニパが隙を見せたのを良いことに、マッハを超える速さでの弾頭を、怪異が打ち出してくる。ニパは反応が遅れるが……。

「やれやれ。索敵を怠ってるぞ、ニパ」

フェイトは何食わぬ顔で、超音速で突っ込んできた怪異の弾頭を片腕で受け止め、そのパワーで弾頭をそのまま砕く。ニパBは目が点になる。そして、フェイトは直ぐに発射台を特定し……。

『ライトニングボルト!!』

ライトニングボルトを打ち、怪異を破壊する。ニィッと微笑を浮かべ、同時に小宇宙を滾らせる。

「悪いが、ニパよ。お前の見せ場を取るぞ」

「え!?そ、あの!?

「レオ――ッ!」

黄金聖衣をマント付きで纏う。最近は魔導師+聖闘士の複合スタイルで戦うので、魔導師としてはなのはとはやて達以外に『ついてこれる』者はいなくなった。獅子座の黄金聖衣を纏ったフェイトの姿は『雷刃の獅子』に相応しいものとなる。

「さて。最近は運動不足だし、肩慣らしと行くか」

フェイトのスピードは軽く音速を超え、軽い蹴りですら『大地を割る』威力を持つ。黄金の甲冑を纏っただけで、回収部隊のアウロラ・ユーティライネンの最盛期を凌ぐ動きとパワーを見せるフェイトに、ニパは何がなんだかわからず、パニック状態になる。

『断て、獅子の大鎌!!ライトニングクラウン!!』

ライトニングクラウンで、敵陸戦怪異の一体を容易く屠る。コアが露出していない状態で、外殻ごと一刀両断した。しかも魔力を感じさせない『手刀』でだ。ニパはここまで来ると、まともな報告ができる状態でなくなる。見かねたサーシャがやってくるが、あまりに凄い光景のため、これまた固まる。次いで、フェイトはバルディッシュ・アサルト改を取り出す。

『モード天。行くぞっ!!』

フェイトは最近、バルディッシュ・アサルトで天羽々斬モードを使う際、コードを簡略化した『天』にしている。黄金聖闘士としての速度と魔導師としての強力な魔力を前提にした技。それは。

『秘剣!!雲耀ぉぉぉ!』

黒江と同様のものだが、黒江が斬艦刀状態で使うのを好むのに対し、フェイトは通常の日本刀の状態で放つ。エクスカリバーを上乗せする黒江とは違い、雷の破壊エネルギーを上乗せしている。

「何、あの技は……?」

「あの技は……その昔、扶桑にいたという剣豪ウィッチが用いたという『秘剣』……。と、言うことはあの人はウィッチなの……?」


サーシャは、世代的に黒江の絶頂期の姿は見ていないが、『扶桑海事変の際に、剣技で名を挙げた3人の若手ウィッチ(当時)』という形で、黒江たちのことを聞いていた。その中でも『勇猛果敢』で名が知れた者が用いていた奥義であると理解したようだ。

「え!?あの人、どう見ても欧州系ですよ!?それがどうして扶桑の奥義を!?」

ニパもサーシャもパニックだが、ひかり、さしずめ、ひかりBと呼ぶべきか……はその奥義を知っていた。

「あれはまさか『秘剣・雲耀』!?で、でも、あの技の継承者は扶桑海世代な上に、今はもう引退してるはず……!?」

「知ってるの、ひかり!?」

「は、はい。学校で、『校長先生』が扶桑海事変の特別授業した時に……。でも、そのウィッチはあの当時で『16歳』くらいで、今だと『あがってる』はずなんです。しかも、秘伝なんで、扶桑人でないと、継承できないはずですよ……!?」

継承者の名が出てこないあたり、聞いていて、A世界とB世界の差異を感じるフェイト。当人が聞いたら憤慨しそうな場面である。

(綾香さんがこの場にいたら怒りそうだ。スリーレイブンズの威光も今は昔ってか。あ、この世界だと、スリーレイブンズのメンバーに入ってないっけ。ややこしい)

黒江Bが言っていたが、Aが超絶有名人になっていて、スリーレイブンズのメンバーである事に戸惑っているとの事だ。フェイトが話を聞くと、『自分はいつから三羽烏になったの?』と真顔で聞いてくる程に狼狽えていた。Aのホテル事件の真相に辿りついたB。Aを『子供っぽい』と見ているが、スリーレイブンズであることを誇りにしているAが羨ましいとも取れる発言をフェイトに漏らしている。

(スリーレイブンズ、か。この単語を理解できる人は、この世界だと少ないだろうな。綾香さんと智子さんが好き勝手暴れたわけでもないしな)

フェイトは一人ごちる。スリーレイブンズの威光はB世界ではすっかり過去の遺物となっている事を実感し、黒江Aになんて報告しようか、考えるのだった――



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