外伝2『太平洋戦争編』
四十九話『我が心、明鏡止水』


――1948年の盛夏、ティターンズと連邦軍の戦いがウィッチ世界の破滅を招くと判断されたか、シャッフル同盟が正式に介入した。その内のキングオブハートのドモン・カッシュが来訪した。ドモンはなのはが弟子入りしていた事もあり、以前から知己であり、即座に戦闘にゴッドガンダムで介入し、その強さを見せつけた。


『ここは俺に任せてもらおう!!』

「ど、ドモンさん!来てたんですか?」

『詳しい事情は後だ。あいつを倒せばいいんだろう?』

「は、はい!」

ティターンズとの戦争中も怪異は出続けたものの、個体数が減り続けており、最近は出現そのものが珍しいとさえ言われていた。が、その能力は飛躍を遂げており、なのはが出張る必要が生じるほどだった。そこにドモンはやってきたのである。

『俺のこの手が真っ赤に燃える!!勝利をつかめと轟き叫ぶぅ!」

ゴッドガンダムがハイパーモードになり、ゴッドフィンガー使用に伴い、プロテクターが右手を覆う。ゴッドガンダムの周りにはオーラが可視化する。

「あのガンダム、魔力を!?」

「いや、あれは『気』だよ、静夏。ゴッドガンダムは普通のガンダムじゃない。人機一体の、スーパーロボットに近い位置づけなんだ。あれ、競技用なんだよな……一応」

「なぁ!?き、競技用!?」

「っても、競技の名を借りた、コロニーの代理戦争に近いんだよな。ガンダムファイト。だから、モビルトレースシステムなんて最高峰の技術が使われてるんだよ」

西沢も、なのはに続いて補足する。ゴッドガンダムはそもそも、『ガンダム』であるが、使用目的は全く異なる。ガンダムファイト。コロニーの『合法的』な代理戦争目的で造られたもので、ドモンの師の『東方不敗マスターアジア』も実は元々は日本人であり、第7回ガンダムファイトのネオジャパン代表ファイターだった過去を持つ。ドモンもその事は詳しくは知らされていなかったらしく、ドモンが拾われた時にマスター・アジアは壮年であった事もあり、第7回大会のガンダムファイターだった過去と結びつかなかった。彼の本名はシュウジ・クロス。第7回ガンダムファイトにネオジャパン代表のヤマトガンダムのファイターであった男だ。ネオジャパンを、当時の巨悪との戦闘により、仕方なくガンダムファイト決勝戦に不参加であったので、祖国を放逐された後、ネオホンコンに拾われ、第12回大会にガンダムファイトの方向性是正も兼ねて『東方不敗マスターアジア』として参戦、優勝している。なお、青年から壮年になるまで、主に宇宙で戦っていたので、第12回大会時には肉体は40代になっており、その時期に病を得たと思われる。なお、若き日のマスター・アジアを導いたのも、ゲルマン忍法の継承者であった『ウォルフ・ハインリッヒ』であり、師弟でゲルマン忍法と縁がある。(そのウォルフは後世のシュバルツの素体になった『老年のファイター』とする説がある)

『ばぁぁくねつ!!ゴッドフィンガーァァァ……石破!!天驚ぉぉぉぉけぇぇぇぇん!!』

石破天驚拳を放ち、怪異を粉砕するゴッドガンダム。地面に着地する時には仁王立ちのポーズを決めており、メチャメチャに格好いい。サイズはF91より多少大きい程度だが、ゴッドガンダムの端正なプロポーションもあり、サイズのことなど忘れるほどに格好いい。そのため、拍手喝采である。

「あのガンダム、中のパイロットの動きをそのまま再現してるんですか!?」

「そうだぜ。モビルファイターって分類だから、構造も普通のMSよりも人体に近く作られてるし、拳法の動きを完璧に再現できるってわけだ」

静夏に西沢が解説する。モビルファイターは特殊な機体なのだが、その分、ポーズにも乗り手のセンスが表れる。ドモンはその点、キングオブハートであり、ガンダムファイト優勝者なので、見栄えするポーズを取れる。と、いうよりは芯の通った力強い佇まいである。

『なのは、それに義子。事情はウチのカミさんを通して聞いている。今日から厄介になるぜ』

「ドモンさん、レインさんと結婚して数年でしょう?なんで急に?もしかして、喧嘩したんすか?」

『ま、まぁな。つい、売り言葉に買い言葉で……』

「ドモンさん、口下手ですねぇ」

『その辺は、な……』

なのはと西沢は普通にドモンと会話する。ドモンはシャッフル同盟の公用もあるが、妻のレインと喧嘩したらしき事を示唆した。ドモンは年齢こそ20代だが、所々で少年のように未成熟で、純真なところもある。デビルガンダム打倒の際の一世一代の告白は語り草だが、早くもレイン・ミカムラに頭が上がらない様子が伺える事から、家庭人としては普通の青年であるのが分かる。基地への帰還後、ドモンは『圭子に技を教えたのは俺だ。なのはを教えてる時、あいつが混ざりたいと言いだしてな』と、静夏とひかりに語りだす。

――帰還後――

「圭子が俺に教えを請いたのは、ちょうどメカトピア戦が終わって間もない頃だ。あいつはウィッチとしての力が無かったら、自分は無力な女の子でしかないと気づいていてな。なのはの莫大な魔力への憧れ、それと嫉妬が自分を歪ませてしまう可能性に気づいた。それで、流派東方不敗の門戸を叩いたんだろう」

「ケイさんはあたしとの素養の差に悩んでましたからね」

「それと、お前が魔力阻害対策で格闘技習いたいって来たのも同時期だったかな?修行先にいきなり現れたのは驚いたが」

「はい。あの頃はまだ、小学生でした」

「懐かしいな。それから俺は、自分自身の鍛錬も兼ねて、二人を鍛え始めた。それからこっちの時間で数年ほど、俺は二人に厳しい修行を化した。お前より、圭子のほうが熱入っていたぞ」

「ケイさん、あたしより修行に入れ込んでましたから。あたしは学校があるんで、短期に集中的でしたけど、ケイさん、ドモンさんについていきましたからね」

「そうだな。お前らの覚えが早いのに、こっちは驚いたぞ。それで、圭子となのはをグランドキャニオンに行かせて、明鏡止水の心を会得させた上で、石破天驚拳を伝授した」

「ゴッドガンダムで斬りかかられるから、慌てましたよ?」

「俺もシュバルツ・ブルーダーに同じことをされ、境地に開眼したからな。同じことをするのは当然だろう?」

ドモンはマスター・アジアの教えは守りつつも、人に教える時のやり方に、シュバルツ・ブルーダーのやり方を取り入れたのが分かる。両名の修行期間は合計で1年半ほど。ドラえもんにタイムマシンで送ってもらうほどに長く辛い修行であったが、元々の素養と、超人的な努力の甲斐あり、流派東方不敗を会得。両名が石破天驚拳などを使用できるようになったというわけだ。

「お二人が流派東方不敗の技を使った記録があるのは、そういうわけだったんですか」

「そうだ。ケイさんのほうが頻度高いと思うな。ケイさん、ウィッチとしては狙撃特化に等しかったからな」

「あいつは狙撃の精度こそ高いが、それ以外の技能は、当時の平均値より多少いい程度だからな。アクロバット飛行に失敗したのは、智子への嫉妬が、奴の心を曇らせていたのもあるだろうが、技量に見合わない技をしたからだろう」

ドモンは冷静に、圭子の飛行技能を分析していた。ドモンの見立てだと、スリーレイブンズの個人としての飛行技能では、黒江が最も高く、次に智子、最後に圭子とした。圭子は巴戦になると、経験が二人に比して不足している事から、ドモンからすれば、『悪手』を打つ確率が格段に高い。そのため、圭子が習得後、格闘戦を好む傾向が表れたのは、苦手意識を克服した表れだろう。

「だから、間合いの見極めと踏み込み、体捌きは徹底して仕込んだ。」

「それであの時、ケイがあんたの技を放った訳か。何年か経って、ようやく謎が解けた」

「どういうことですか、マルセイユ中佐」

「あれは、私がまだ中尉だった頃だから、6年くらい前になるか?」

「ああ、あの時の事を覚えてたのか、マルセイユ」

「私の使い魔が死んだ時だったからな、覚えているさ」

それは1942年頃の事。歴史改変の影響で、マルセイユの使い魔が死んだ出来事にドモンが関係していた、となったのだ。

「あの時はメッサーのG型のテストをしていたんだが、エンジンが冷却能力の不足で出火してな。それでケイが助けにいったんだが、ケイの様子がおかしくなってな」

「おかしくなった?」

「今だから分かるんだが、たぶん、私が危機に瀕した事が、ケイの魂にかかっていた枷を外したんだろう。口調が荒くなってたからな、あの時」

マルセイユが語る、その時の圭子は、明らかに感情が暴走しており、アフリカでの普段の穏やかな人柄からは考えられないほどに荒い口調になっており、(無我夢中だったせいか、その当人には記憶がない)マルセイユが驚くほどだった。これはマルセイユが危機に瀕した事で、感情と記憶の枷が僅かに外れた事による暴走状態であり、圭子の戦闘能力を現役絶頂期時の状態にまで引き上げていた。当然、当時のライーサや真美が呆気にとられるほどの強さを見せ、立ち塞がる怪異を有象無象の如く撃ち倒していった。

「どけぇぇえええ!!」

キ61の現地改修エンジンをフルドライブさせられるほどに漲る魔力、武器を的確に使う(理性が消えているわけではないため)その姿は、正しく往時のスリーレイブンズが一人、加東圭子そのものだった。

「そこに俺が迷いこんできたってわけか?」

「そういうことだ。あんた、やりたい放題だったろ?普通の刀で怪異を斬っちゃうわ、拳で装甲をぶち抜くわ……」

「明鏡止水の心得を以てすれば、どうということはないさ。ゴッドガンダム使ったのはやり過ぎだったか?」

「いや、あの時は助かったよ。戦艦の船体を外殻に使った怪異なんて、当時のどんなウィッチでも倒せないからな」

マルセイユは圭子と共に、その際にドモンが呼び出したゴッドガンダムを目撃している。その時の衝撃は相当だったようで、今では話の種にしている。

『出ろぉォォ!ゴッォォォッドガンダァァァム!』

フィンガースナップをパッチーンと鳴らし、凄いのを呼び出す光景は、当時14歳のマルセイユの心に深く感銘を与えたようで、48年度の現在では、ドモンのファンである。

「あの時はゴッドスラッシュで一刀両断したんだったな。お前が剣を習う動機というのは、まぁ、間違いなく俺だな」

「は、ハハ……」

「お前の噂を聞いた時は尊大な態度の奴だと思ったが、中々どうして、可愛いところがあると来たもんだ」

ドモンは友人関係にある者、仲間関係にある者には気さくな一面を見せる。また、シュバルツ・ブルーダーの形見となった日本刀を相変わらず背負っている。

「で、今じゃお前が若い連中の面倒をこうして見てるわけか。俺に取っては、それほど経ってはいないんだが、次元の違いだな」

「そうだな。今じゃあんたの年に追いついたからな。普通だったら引っ込んでる年齢だよ、ウィッチとしちゃ」

それは『戸籍上の年齢』の事だが、マルセイユは20を超えても、第一線に留まっている事を家族から相当につつかれている。マルセイユの家族の中で、味方なのは、カールスラント陸軍の高官である父の『ジークフリート』である。彼が他の家族の反対を押さえつける事で、ハンナは軍人でいられるのだ。実は、実の父親と母親は離婚し、ハンナは母親に引き取られたので、養成学校に入る寸前までは義父の性を名乗っていたが、養成学校に入る際に自分の意志で、マルセイユ性を名乗った。それが現在まで続いている。そのため、義父よりも実父を愛しているのだが、悲劇が起こった。マルセイユがそのキャリアの絶頂を迎えつつあった45年、実父のジークフリートは対ティターンズ戦で行方不明となってしまったのだ。それはアフリカ陥落と時を同じくしての出来事で、衝撃のあまりに半狂乱になり、酒に逃げるようになってしまった。それ故、ハルトマンと圭子に縋るようになったマルセイユの精神が安定したのも、ハルトマンと圭子、ライーサの献身あっての事だ。それと、間接的にはドモンのおかげであったりする。

「親父が死んだ後、私が退役しないことに腹を立てた母さんをハルトマンが説得してくれたからこそ、私はここにいれるんだ。ドモンさん。お願いだ、私に流派東方不敗を教えてくれ!もうアフリカを守れなかった時の無力感や、親父を失った喪失感は味わいたくないんだ!」

マルセイユが人目もはばからず、人に教えを請う。その事は周囲に衝撃を与えていた。

「そうか、お前もか」

「え……?」

「俺は前のガンダムファイトで、父親とレイン、シャッフル同盟の皆以外の親しい者達を失った。仕方がないとは言え、兄と師はこの手にかけ、母はネオジャパンの軍人の策略で殺されている。何も、お前だけではないということさ。そういう感情を味わったのは」

ドモンはマルセイユの心情を理解していた。兄のキョウジ、第二の師であったシュバルツ、東方不敗マスターアジアと、自身が大切と思ってきた者達を理不尽に奪われたり、その手にかけている。そのため、マルセイユの心情を最も理解していた。

「よし。まずは模範演武といくか。おい、なのは。あれをやるぞ」

「んじゃ、行きますか。恥ずかしいけど」

「気を高める儀式だ、恥ずかしいくらいでちょうど良いんだ」

「そうですかね……」

と、いうわけで、一同の前でなのはは、ドモンと共に、流派東方不敗の模範演武を行う。

『流派東方不敗は!!』

『王者の風よ!!』

『全新系列!!』

『天破侠乱!』

『見よ!!東方は赤く燃えているぅぅぅぅ!!』

二人は演武により、気が高まり、周りには二人の背後に炎が舞うように見える。凄まじい拳の応酬と二人の動きに、ひかりと静夏の若手二人組は圧倒される。

「これが流派東方不敗……これがウィッチでない人の動きと言うの……」
?」

静夏はなのはとドモンの演武に圧倒される。もはや常識がまるごと吹き飛びそうな勢いである。


「動き自体はウィッチもそれ以外も人体で有る限りたいして変わらん、タイミングと身のこなし、そしてそれを確実に捉える眼と落ち着いて判断出来る精神。 それが揃えられるかって事だ」


と、カッコよく演武を終えるが、不意にドアが吹き飛び、一人の少女が姿を見せる。


「あたしを自由にしやがれぇええええ!!」

「な、なんだ?あのマジンガーZのコスプレみたいなの着てるのは」

「あれがマジンガーZEROから生まれ落ちた『善性の象徴』、Zの人化体の『Zちゃん』です!」

「なんだって、マジンガーZだと!?」

突如として現れたZちゃん。目覚めてからずっと調べられっぱなしであり、いい加減にキレたらしく、しょっぱらからロケットパンチ(手袋飛ばしだが)を飛ばす。これにドモンはすぐに対応し、ロケットパンチを受け止め、投げ返す。が、次の攻撃は光子力ビームであった。

「あ、バカ!室内で光子力ビームを撃つやつがあるか!……ならば!」

明鏡止水の境地の刀でビームを反射する。当然ながら、基地は大惨事だ。

「あー、武子さん見たら泡吹きますよ、これ」

「あいつには俺から事情を話しておくさ!……いかん、ブレストファイヤーだ!お前ら、シールドを使え!」

ブレストファイヤーを室内で撃つなと、この時、なのはとマルセイユは呆れ、西沢も苦笑いだ。若手二人組は展開の急さ加減についてこれず、呆気にとられている。

「こうなれば、気絶させるしかないな……。俺のこの手が光って唸る!お前を倒せと、輝き叫ぶ!!」

ドモンはゴッドフィンガーとシャイニングフィンガーを生身でも放つ事が可能だ。特に後者は威力を調整する事で気絶させる用途に使えるので、生身ではシャイニングフィンガーを多用している。

『ひぃぃっさつ!!シャァァイニングゥ!!フィッガ――!!』

ドモンは技名を叫ぶ際、『ン』のところの発音が聞き取れないか、意図的にしていないのか、このような発音になる。シャイニングフィンガーはエネルギーとして撃つことも出来るが、ここは王道のアイアンクローで放ち、Zちゃんを脇づかみする。

「悪いが、少し眠っていてもらうぞ!!」

「う、ああ……」

ドモンの強烈な気はZちゃんを気絶に追い込む。が、先程の一撃で執務室はズタボロになってしまい、穴が空いたり、壁が溶けていた。この日の夜の定時連絡の際、武子は私物のフルーツが『焼きフルーツ』になってしまっていたり、自分の執務室が穴ぼこになっている光景に目を回し、ドモンに怒るが、『俺のせいではないぞ。Zの人化体とも言うべき子供に文句を言え!』と返される。

『ど、ドモンさん!私のコンタックスは無事ですか!?』

『いや、ブレストファイヤーの余波で外装が一部焦げている。今、フィルムが無事か調べている』

『そんなぁ〜……』

へたり込む武子。が、なのはが『タイムふろしきで直しますから…』とフォローする。

『フルーツはもったいないんで、あたし達で始末しちゃいました』

『ち、ちょっとぉ〜〜!?』

とことんついていない武子。腹痛は起こすわ、せっかく溜め込んだフルーツは食われるわ、カメラは焦げる。後日、武子はZちゃんに制裁も兼ねて、Zちゃんを鍛えるのだが、それは別の話。ドモンの来訪は、意外なハプニングで幕を開けるのだった。



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