外伝2『太平洋戦争編』
五十七話『新鋭VF』


――生身でも人外魔境になりつつある64Fだが、この際、機材も最優遇される事になったため、最新鋭可変戦闘機『VF-31』の本星仕様が配備された。主にエクスカリバーの代替機としてであった。酷使したため、機体各部に疲労が見られたからだ。そのため、世代交代により、YF-24世代の機体が多めとなった。

「エクスカリバーに操縦感覚を近くするために、エクスカリバーに近い前進翼にたって訳か」

「あなた方を満足させる運動性はこうでもしないと確保出来ませんでしたので。エンジンパワーは上げてあるので、29には及ばずとも、19や25より上になっています」

VF-31『ジークフリート』(先行生産型)。地球本国ではエクスカリバーが主力なため、それを代替する機体が求められているため、特別仕様のテストも兼ね、最初に生産された『カイロス』の性能を高め、より原型機に近い仕様にしたのが先行型ジークフリートだ。純然たる戦闘用なので、エクスカリバー用の武装を概ね引き継いでいるが、25以後の要素も多く、ビームガンポッドとビームソード装備となっていた。通常型のカイロスよりむしろ高コスト機然としており、ハイエンド機という方が正しいかもしれない。前進翼はVFにとっては『19』以後、高性能機の代名詞となっており、エース用という知名度もある。

「ありがとう。あとは整備班に講習を頼む」

と、新星インダストリーの担当者と別れる。元々が富嶽の後継機『飛天』の専用基地であった都合上、強力な掩体壕が構築されており、この時代最大のグランドスラム爆弾すらも跳ね返す。そこに重要機材は置かれていた。核兵器にも耐える強度だからだ。超合金Zを建材に使ったからで、より強大なB-36や52の絨毯爆撃、バンカーバスター爆弾でさえも跳ね返す耐弾性能を持つ格納庫になっている。


――これほどの優遇措置は、史実の343空が終戦寸前まで奮戦した事が由来で、特に日本人の少なからずが強く推している。『どうせこの時期の航空隊は烏合の衆なんだから、精鋭に全てを与えたほうがいい』という奴だ。史実での末期航空隊は櫛の歯が欠けたように熟練兵を喪失し、あたら特攻で人材を浪費するのみだったので、それをそのまま当てはめたのだろう。もちろん、それは追いつめられた大日本帝国の話であり、皇国ではない。なので、精鋭部隊に全てを与える事に反発を覚える者は多い。が、『史実で、この時期に存在した殆どの航空部隊には目立った戦績はない!』と強弁されては打つ手はなく、ジェット機は精鋭部隊と本土重要拠点を守備範囲に入れている航空隊へ配備の優遇措置が取られ、その他の地域では、旧式の零戦や隼も一部が残っているという両極端が生じていた。そのため、総合的戦闘力に差が生じている。

「黒江、ちょうど休暇取れたから報告しに来たぞ」

「おー、頼む」

「早速だが、田舎はかなり不満がっているぞ。キ84と紫電改すらなくて、零式とキ43を未だに使ってる部隊も結構残っとる」

「だろうな。主戦場から外れた田舎に新鋭機をおいても無駄っていう未来人の合理的精神だが、不公平感がある。それに、史実の日本軍航空隊が連戦連敗なのは、特攻で人材を浪費したのもあるが、海軍が陸上航空隊を重視しちまったせいだしな」

休暇でやってきた坂本の報告。未来人(21世紀日本)の多くから猛攻撃を加えられた扶桑皇国軍の航空行政はこれ以上ない混乱に陥り、空軍が海軍基地航空隊をごっそり持っていった事もあり、肝心の空母機動部隊の搭乗員の練度はあ号作戦当時の第一機動艦隊以下に落ち、作戦に耐えられなくなってしまった。特に、陸上航空隊重視の方針を打ち出し、『海軍の空軍化』を強く志向していた井上成美中将は空軍が本当に設立されたのは良いが、海軍の航空隊まで持っていかれるのは予定外だったとし、残された空母機動部隊の練度が見るに耐えないものになった事には不服そうだった。だが、戦前、『陸上航空基地は絶対に沈まない航空母艦である。航空母艦は運動力を有するから使用上便利ではあるが、極めて脆弱である。故に海軍航空兵力の主力は基地航空兵力であるべきである!』、『対米戦に於ては陸上基地は国防兵力の主力であって、太平洋に散在する島々は天与の宝で非常に大切なものである』と持論を公開していた事が、戦後の歴史により否定された事を槍玉に挙げられ、厳しく糾弾された。さすがの彼でも『負けたからって全て悪い事になるのかね?』と不満を顕にするほどで、彼の空軍移籍の動機にもなった。結果、空母部隊は史実通りの『外交的プレゼンスの中心』に位置づけられたが、熟練兵が払底しているという有様だった。当然、単独で作戦行動の全てがままならないため、海軍航空隊は面子を潰された格好になり、空軍にその埋め合わせを迫った。その結果が此度の作戦であり、64Fの空母乗艦である。作戦の結果により、空母機動部隊には熟練兵が必要不可欠であると中央に至るまでが認識し、以後、空軍の熟練兵が海軍空母に出向して任務につく事が公式に始められる。あ号作戦の事を口を酸っぱくして言われたので、空母乗艦の空軍兵には『実戦経験あり、飛行時間500時間超え』という条件がつけられるようになる。だが、当時は扶桑海事変から年月を経ていたため、実戦経験のある航空兵はパイロットには少なく、ウィッチを入れても、『あ号作戦当時の第一機動艦隊の空母を埋めるほどの人数には達しない』。それが重大な枷だった。その関係もあり、ジェットパイロットを兼任できるウィッチを有する64Fが断続的に投入される要因だった。

「お前らも大変だな。ここのところ、継続的に投入されてるだろ」

「海軍航空隊が某国のテロ攻撃やら、日本人の誹謗中傷で大打撃を被ったからなぁ。おかげで向こう半年は休暇棚上げだ」

「海兵隊まがいのことやらされてないか?陸戦で制圧とか」

「違いねぇ。だから、機材と人員の優遇措置で埋め合わせしてるつもりなんだろう。他の部隊から結構、中傷されてるんだがな」

「お前らへの中傷も内部から出てるしな。『源田の腰巾着』、『源田の犬』とか」

「親父さんを妬んでる海軍出身の阿呆共だろ?言わせておけ。そういう奴らは決まって無能なんだ」

源田実は功罪入り交じるが、空軍司令官として有能の一言であり、元が海軍軍人であるので、海軍との付き合いも程よく出来る。実際の関係は逆に、源田が三羽烏(スリーレイブンズ)の丁稚のようなもので、彼女らに最高の戦場を提供するというのが、源田の課せられた義務だった。スリーレイブンズが、後発のクロウズよりも政治的発言力があるのも、実績と政治力の賜物だ。


「だな。これは敵の鹵獲した文書だが、敵はアリューシャンルートで戦略爆撃機を飛ばしてるだろ?で、北海道の上空に差し掛かると、ドラケンが矢のように飛んでくるから、その空域を『サーブの懲罰』と呼んでいるらしい」

「『フォッカーの懲罰』じゃあるまいし」

と、若干呆れ気味の黒江。ドラケンはこの頃、扶桑の誇る局地戦闘機として猛威を奮っており、当時、リベリオン本国で普及していた『B-29』〜『B-47』を圧倒する華々しい戦果を記録していた。特に、北海道から北方領土の空域は『龍の顎』(ドラゴンバイト)と呼ばれ、爆撃機乗り達の恐怖の的であった。護衛戦闘機も自衛すらままならない性能差もあり、戦略爆撃機乗り達の間でもっとも畏れられていた。扶桑向けの機種は、扶桑の要望で機関砲弾が増量されており、ガンファイターとしても強化されているため、機関砲だけで当時の爆撃機の多くに一撃で致命打を与えられた。捕虜になった、B29のある搭乗員は捕虜になった際、こんな事を言い、周囲を笑わせた。『あんな高いところから攻撃してきて、あんな大口径砲を撃たれたら、池のアヒルみたいにやられちまう』と。これは当時の主力爆撃機の飛行高度である『高度9000mから10000m』を遥かに超える高度を悠然と飛行し、急降下でミサイルや機銃を浴びせてくるドラケンへの畏怖の比喩だった。

「こっちは?」

「本土の守護に回された『宮菱鉛筆』の敵前線での呼び名が載っている官報みたいなものだよ。『ランサー』だと」

「ほー。この時代は男の名前がコードネームに使われる事も多いっていうが、洒落たコードネームつけたな」

当時、主力戦闘機の一つだった『F-104』。首都圏防空部隊にも配備され、その活動を開始しており、F6F以前の機体も残っていた軽空母部隊から恐れられていた。戦闘機を無視し、目的の爆撃機にだけ攻撃を加えられる速度を有しているからだ。その槍のようなフォルムから、主に相対する側の兵士は『ランサー』と呼び、無線で『ミートボールの槍が飛んできた!』と警告するのが当たり前になりつつあった。

「この分だと、本当に震電改二の後継になる予定の『F-1』相当の国産の母体、ジャギュアじゃなくて、本当にX-27になったりして」

と、冗談めかして語る。実際、当時に震電改二の後継は模索され始め、F-1相当にあたる国産機が有力であった。その母体が問題だった。『F-1のロールスロイスは整備しやすいが、パワーがなかった』と、整備士などから助言された事もあり、史実の参考機であるジャギュアは候補から外されようとしていた。これに焦ったのがブリタニアだった。商機を逃してしまうからだ。F-1の情報をチャーチルは手に入れており、自国製エンジンの採用を期待していたからで、チャーチルはエンジンメーカーを視察し、暗に『商機を逃したくなければ、万全のサポートをせよ。帝国の沽券に関わる』と圧力をかけた。それに困惑したメーカーが扶桑に問い合わせをするという事態に発展した。その時、統合参謀本部にいた北郷章香は、先方の困惑をこう評した。『貴国が私共のエンジンを次期戦闘機に積むというのは本当か?』と電話をかけてきた時は思わず、『は?』と言ってしまった』と。チャーチルの凄まじい勇み足であった。しかしながら、それを聞いたイギリスが気まずく感じたのか、ロールスロイスが扶桑にエンジンのライセンスを提供する土壌にはなった。F-1は結局、派閥抗争の都合、二種類の機体を母体に試作される事になる。

「ああ、史実のF-1は対艦番長だろ?戦闘機閥から反対論があって、マルヨンの発展機のCL-1200を推す声があるみたいだ」

「戦闘機閥、雷撃機然としてる史実の仕様反対してるからな。この分だと、2つ採用もあり得るな」

「どういう事だ?」

「つまり、F/A-1って事で、両方の機体が採用されるかもって事だ。第3世代はマルチロール機の黎明期で、戦闘機としての能力は二義的だったし、両方の機体が別々に採用されるかもしれない」

当時、格闘戦に長けた震電改二の後継には同種の能力を備えるべきとする戦闘機閥と、マルチロール機を目指す艦爆/艦攻派の対立があり、F-1は立場的に微妙だった。戦時中の予算的余裕もあり、双方の主張通りの機体を作ってみようという事になり、史実通りの仕様『X-1A』、要撃機特化のCL-1200ベースの『X-1B』が作らされた。競作の結果、なんと戦時中で余裕があるため、双方が採用されたという。戦時予算で軍事費が増額されている故で、異例の事だった。これは扶桑の財力と政治的背景が日本とは違うので、軍事予算が通りやすい事も関係している。震電改二の要撃機としての後継としてF/A-1Bが量産され、A型は高等練習機と流星改、スカイレイダーの後継機としてそれぞれ、1949年度に生産が開始されたという。双方の本格配備は50年度だが、戦争後半の旧型機に代わる機体としての責務は果たし、一翼を担ったという。

「なるほどな。で、お前ら、暴れ過ぎだぞ?聖闘士としての力使ったから、捕虜が少なすぎて、情報集められんとか嘆いてたぞ?」

「生き残ってるの、下士官以下が多いからな〜。何もわからんだろうなぁ」

「穴拭も聖闘士なのか?」

「いや、あいつはややこしいからなぁ。うーん。神様になったっていうか」

「はぁ?」

「こっちが聞きてーくらいなんだけど、神様なんだよ」

そうとしか言えない。二度目の逆行で『神の一柱』に覚醒したであろう智子は恐らく、『不老不死』となり、セブンセンシズどころかエイトセンシズ、ナインセンシズの世界に突入している。黒江はそれを感じ取り、セブンセンシズの先にある世界はなおも広いことを実感していた。

「と、言うことはあいつ、これから歳も取らないし、地球が滅んでも生きてる事になるな。お前、とんでもないのに目覚めさせたな?」

「いやいやいや、私のせいじゃねーし!」

――智子は『肉体を持つ神』となった。使い魔と融合が二度の逆行で完了したのだ。その影響か、性格が明るくなっている。皆の前でウォー○マンを上機嫌で聞くなど、今までなら恥ずかしくてやらなかったはずだ。

「見ろ。ウォー○マンを上機嫌で聞くなど、私の知る限りじゃやらないはずだぞ。それがどうだ。ハチャメチャに上機嫌だぞ」

「お前からハチャメチャなんて単語が飛び出すたぁ思わんかったぜ」

「何を聞いてるんだ?」

「向こうのヒットナンバーだろう。あいつもだいぶハイカラになったしな」

「この時代からすればロックなんて珍しいんだし、ブリタニアのあの伝説的なグループの連中は、まだ子供だぞ?」

「ミーナが聞いたら眉ひそめるかもな。あいつは歌手志望だが、ポップ系ではないし」

「いや、そうでもないぞ?3年前の打ち上げの時、シャーリーがカラオケで向こうの最新ヒットチャートに載ってる曲歌っただろ?」

「ああ、『破滅の純情』だっけ?」

「その時、悔しそうな表情だったのを覚えてる。たぶん歌いたいんじゃないか?」

シャーリーは意外な事に、カラオケで高点数を叩き出せるという才能があった。

「リリー・マルレーンも、時代的にポップスって言えるかもしれんなぁ。で、あん時はシャーリーとか金剛とかの混成メンバーで『僕らの戦場』も歌ったな。たぶん、お株を奪われたと思ってるな、あいつ」

「歌はあいつのアイデンティティの一つでもあるからな。立場的に、未来のポップス系は歌えないとか思ってたような気がする。別にいいと思うんだがな。お前もハメ外してたし」

「どうせなら、別世界の歌姫っていう『ラクス・クライン』の歌でも歌えばよかったのに。声、似てるんだし」

その三年前のカラオケ大会は下馬評を覆す様相であった。ミーナは優勝間違いなしと踏んでいたが、強力なライバルは意外に多かった。まず、作詞の才能もあり、母親に英才教育を受け、更にオズマ・リーから嫌というほど、『Fボンバー』を聞かせられた黒江。次に、意外に歌が上手いバルクホルン、意外な隠し玉を引っさげてきたシャーリー、シェリル・ノームの楽曲で殴り込んできた智子など。

「そうだな……。さて、本題に入るぞ。空母機動部隊専門にされた海軍航空隊だが、肝心の空母着艦と洋上航法能力がない錬成途上の若手が80%超えで、まともな作戦遂行能力がないと、上が嘆いてる。空軍の海軍出身者返してくれとも泣いている」

「今更だな。こうなるのは分かってた事だろう?陸上基地にいた連中はこっちに行くと決まってたし」

「奴ら曰く、陸軍の飛行隊が母体だから、海軍の航空隊をあまり取らないと踏んでいたようだ」

「ハァ?アホか?陸上基地のはもれなく空軍の管轄になると官報にも書いてあったろ」

と、黒江ははっきりと『アホ』と言う。空軍は、海軍航空隊の陸上航空隊と陸軍飛行戦隊を以て編成されると、何度も官報や公式発表があったはずである。此度の海軍の嘆きは、ここ数年の海軍航空隊の組織整備が陸上基地中心であった故、その苦労して錬成した者達の全てを空軍へ持っていかれ、手元に残されたのは、『戦力にもならない若手』ばかりであるという無慈悲な現実の表れである。なので、空母教育に必要な教官級だけでも返せと嘆いているのだ。今更後戻りは出来ないので、暫定的な措置として『空軍の精鋭部隊は洋上勤務にも就く』とされた。その中でもっとも練度に優れる64が継続的に海兵隊まがいの仕事を押し付けられているのだ。現・64Fは旧陸海軍航空隊でそれぞれ、最強と名高い2つの部隊が合併し、統合戦闘航空団在籍経験者を複数有している事や、軍内で唯一の多国籍部隊でもある事、パイロットを兼任できるウィッチがいる事が理由だった。当時、未来兵器に精通するウィッチの大半は64Fの関係者で、未来兵器の運用ノウハウを唯一保持するというアドバンテージが、無茶な運用の原因だった。兵士はともかく、当時のウィッチには『人殺しへの嫌悪感』が根強く、サボタージュも当たり前だったのが、黒江たちから休暇を奪った。

「そうなんだが、どうも上は陸海の『共同任務部隊設立』で空軍の体を成せると思っとったみたいで、実際に出来たのが独立空軍だから慌てたみたいだ。自分達に指揮権がないからな」

「はぁ!?馬鹿じゃねーの?空軍って言ったら、独立組織だろう?ったく、楽観的すぎだぜ」

「だな。オマケに40年代からは士官級でも『必要最低限の教育しかさせないで任官した』だろ?そのせいで、ウィッチは未来兵器は愚か、レシプロ機の操縦も出来ないのが常態で、今更問題になってる。お前や私らの世代までは最小限度の訓練は受けただろ?」

「宮藤理論以前の舟型が残ってたしな」

宮藤理論登場前の空戦ストライカーは戦闘機と同じように、『乗る』ものだった。圭子と黒江が志願した頃は、それらが主流だった最後の時代で、候補生時代からキャリアの初期までは舟型を使っていた。智子と武子も訓練で使用したことがある。飛行機を動かせたウィッチは扶桑では概ね、智子/武子の世代が宮藤理論とのボーダーラインである。舟型は操作方法が飛行機と共通していて、戦法も飛行機に準じていたので、それを知る者にとっては『未来兵器』の操縦訓練でも役立った。特にVFの操縦に役立ち、スリーレイブンズは栄えある『VFのウイングマークを保有するウィッチの第一号』となった。最も、宮藤理論世代にも『エーリカ・ハルトマン』のように、剣術・操縦・砲術・医学などをマルチな才能で、尽く一流を極める者』はいる。

「それ以降にも、ハルトマンのように、後から手を出して一流になるのもいるからな」

「お前、根に持ってないか?ハルトマンが数年で自分より強くなったの」

「そりゃそうさ。私は小学校の頃から剣を握って、講道館で鍛錬に明け暮れていたんだぞ。師範代になれたのだって、つい最近の事だ。なのに、あいつは数年で次元世界で有数の実戦剣を極めた……。妬みたくもなるさ。が、アイツに追い越されない記録が一つあるから良いさ」

「そうだな。というわけで、こいつが送られてきたわけだ」

「VFの新型か。YF-30の制式型と聞いたが、これだとまるで19だな」

「前進翼だしな。原型のクリップトデルタ翼より、前進翼のほうが運動性確保出来るから、地球本星じゃ好まれてるんだよ」

「一応、流れを組んでるんだっけ」

「ああ。AVFの後継として『YF-24』が試作されて、そこから派生した機種の一つだ。だから、その子供の一つって言えるかもな」

VF-31は、YF-24を祖とする『レボリューションシリーズ』に分類される。度重なる防衛戦争により、その前に構想されていた『VF-171』と『ゴースト』の連携思想が否定され、地球本星では『有人兵器至上主義』とも言うべき風潮が生じ、『無人兵器を超える有人兵器を造る』事が目標にされたため、レボリューションシリーズが急速に台頭した。地球本星が都合よく狙われ続け、『人が血を流して戦うべき』だとする主張が主流になったため、移民星では当たり前のゴーストは、本星では数が少ない。これは真田志郎が本星艦隊の自動制御化に反対し、ガトランティス戦役でアンドロメダが撃沈されたのを引き合いに出し、以後も過度の自動化に反対した結果である。真田志郎の提言はゴーストの導入数にも影響を与えたので、本星軍は結果として、『有人部隊最強』となった。これは真田志郎、トレーズ・クシュリナーダ、東方不敗マスターアジアらの影響が大きかった故、無人兵器運用部門は『非人道的』、『マッドサイエンティストのおもちゃ』扱いで日陰者になっているが故の産物だった。もちろん、人的資源の損害から、ガトランティス戦役時の参謀長だった芹沢虎徹は『人的資源の喪失だからこその自動化ではないのか?武士道や騎士道被れ共が多すぎる』と、反対論を展開していた。これはトレーズ・クシュリナーダの『礼節を忘れた戦争は殺戮しか産まない』という格言、マスター・アジアの『我が身を傷めぬ勝利が何をもたらす!?所詮はただのゲームぞ!』との嘆き、真田志郎の『この船はただの戦闘マシーンだ。この船では敵に勝てない』という言葉を呪縛と考える者は連邦軍には少なからずいる。芹沢虎徹元・参謀長(更迭、降格、左遷のコンボ)の派閥がそれだ。


――当時、彼は中将でありながら、『本星防衛艦隊の艦艇の不備を知りながらもそのまま整備した』、『テレサのメッセージを軽視した』、『拡散波動砲を過信した』など、ガトランティス戦役の全責任を負わされ、スケープ・ゴート的に処罰され、少将に降格の後、全ての勲章剥奪と僻地のトリントン基地の司令に左遷させられた。これはヤマト乗員の少なからずから『テレサのメッセージを軽視した』と糾弾された事も関係しており、彼が過去、ヤマト計画に反対していた事もあり、まるでヒトラーだかスターリンだが、チャウシェスクだか、ポル・ポト扱いされていた。その扱いを不当とした彼は本来、強烈な愛国者であり、生粋のアースノイドなせいもあり、かつては親ティターンズ的と目されていた。(最も、元・上官の藤堂平九郎軍令部総長は「『金正日の尻尾』じゃないのかね?」と評し、意にも介していなかったが)その事もあり、ティターンズ残党の『良い金づる』だった。

「芹沢少将の派閥にプリベンターがさ入れを入れるそうだぞ。どうやら、旧・イズモ計画の人脈をティターンズ残党は資金源の一つにしてるそうだ」

「あのいかつい角刈り半白髪のジジイんとこか。いい上司ではあるらしーが、敵対者に傲慢不遜に振る舞いやがる。私も、一回立ち寄ったら、すんげ嫌味言われたぜ」

「だろうな。良い評判聴かんよ。ティターンズ系の機材の横流しとかの噂が絶えずある。プリベンターも決定的な証拠が出たらしく、とうとうやるらしい」

「あーあ、その前にネオ・ジオンだかに襲われて死んでくれねーかな」

と、黒江のいった通り、そのがさ入れの前に彼のいるトリントン基地はネオ・ジオンに襲われ、多くの機材を損失。彼も生死の境を彷徨う重傷を置い、彼が昏睡状態の内に、軍法会議で懲戒処分が下され、不名誉除隊とされている。こうして、ティターンズ残党は着々と『破滅』へと突き進んでいくが、ティターンズの存続を望む者は多い。ティターンズの台頭で、白人至上主義社会が終わり、完全な人権を得た有色人種たちである。ティターンズはスペースノイドに不寛容だが、アースノイドには寛容である組織だったので、そこで立身出世した有色人種は多い。ティターンズの台頭で白人至上主義が失墜し、歪だが、『平等社会』が実現した事に有色人種らは喜び、まるで、それまでを裏返したかのように、白人へ報復を加えた。その事に違和感を覚える者も多く、当時にリベリオン本国軍大佐だったジェームズ・スチュ○ート(めまい、或る殺人)は、当時の最新鋭爆撃機『B-47』で部隊ごと亡命したり、偶々、捕虜になった『チャールズ・デニス・ブチンスキー』観測手が後の名優『チャールズ・ブロ○ソン』と分かり、彼を早々に釈放、俳優へのキャリアを積み始めるなどの出来事も起こった。(後に俳優・チャールズ・ブロ○ソンとして大成する当時、20代後半の若者へ資金援助したのが、黒江と智子だった。これは二人して『雨の訪問者』を見ていて、壮年期の彼のファンだったためだ。彼は義務である兵役の残り期間を亡命側で消化した後に俳優となり、史実通りに壮年期に入る頃に大成する。また、彼がかの有名西部劇の主役の一人に抜擢された際には、高官であるのを利用して、ロケを見学しに行ったとの事。当時はベトナム戦争中であるが、それが許されるだけの政治力がある証拠であった)

「お前も中々過激だなぁ」

「二度も逆行すりゃな」

「お前、二度もするなんて、物好きだな」

「まぁ、智子の事もあったし、オメーのガキの事も、な」

「あいつは自業自得だが、すまんな、お前に死んでまで気を使わせて」

「一度目は駄目だったが、『今回』こそは、どうにかしてやるさ。もちろん、お前も努力してくれよ」

「分かっとる。今度こそは失敗しないさ。懐妊前だがな、ハッハッハ」

今回こそはと大笑する坂本。黒江の記憶では、『数年後』には懐妊するはずである。坂本はそれを知っているので、大笑したのだ。今回は黒江の内にいる『あーや』の存在に気づいているため、前回の『喧嘩別れ』はしないと、心に決めている。

「今は戦争を生き抜いて、やがて生まれ来るあいつらのためにも、少しは良い世界にしねーとな」

「宮藤の二人の子供や、お前の姪御達のため、だろ?」

「まーな。私たちはいずれ不老不死になるが、平和な時代に生きるあいつらは普通に生きて、普通に一生を終えていくんだ。あいつらにゃ、私やお前の経験をなるべくなら、させたかねぇしな」

「皮肉なものだな。戦乱の世に生きる私らが不老不死になる運命で、平和な時代に生きる娘や孫はそうでないとは。どうしてなんだろうな」

「さーな。戦乱の時勢ってのは、人々の祈りが多いって、前にアテナが言っていた。私やお前ってのは、そんな世の中に生きて、伝説を残した英雄だ。昇神するに相応しい『思いの集約』があるんだろうな」

「昔の神話のようなものか」

「たぶんな」

「お前が兄のように慕っている、あの人達のようになりたいわけではないだろう?」

「あの人達は憧れだよ。ああいう壮絶な生き方ってのはそうそう選べるわけでもないし、化物みたいな身体で生き続ける事は、お前が思ってる以上に難しいんだ。それでも、あの人達は遙かなる愛にかけた。全ての知り合い、家族と別れても、戦い続ける事を選んで。それにあの人たちは時代を越えて慕い愛してくれた人々が居たから生きて行けてるんだ。ある時に本郷さん――一号ライダー――が言ったんだ。『時代が望む限り、俺達は蘇る』ってな」

――歴代の仮面ライダー、特に昭和仮面ライダーに強い憧れを持つ黒江は、一号ライダー=本郷猛を父のように慕っている。彼らへの憧れは強く、彼らを侮辱した者には聖剣が振るわれる。(実際に、ロマーニャの残務整理中にモントゴメリーの幕僚が仮面ライダーの事を聞き、『無償で戦うなど、馬鹿か物好きだ』と言い、それに激怒した黒江はエクスカリバーを見舞い、帽子と毛を綺麗さっぱりぶった切っている)聖剣を持つ事はロマーニャの戦いの最中に披露したので、シャーリーの日曜大工を手伝う事も多く、手刀で鉄板を手頃なサイズに斬ったりしていた。そんな強さでありながら、仮面ライダーというヒーローに憧れている童心は、スーパーヒーロー大好きっ子のシャーリーとウマがあい、ロマーニャ時代はつるむ回数も多かった。黒江の思考はこの時代で言えば、リベリオン人に近めだからだろう――


「本当、好きだなあ」

「それじゃ、新しいバルキリーのテストしてくる」

「お前、聖闘士でウィッチなのに、飛行機に乗るのな?」

「志願したての頃は舟型だったし、抵抗感さほどないせいもあるかもな。それに、ユニットやISで飛ぶのとは違う感覚がいいんだよ」

「なるほどな。ん、おー!良いこと思いついた。どうせお前らで乗るんだし、お前らがVFで出る時のTACネームにでもしたらどうだ?ワルキューレ。バルキリーなんだし」

「それ、部隊識別のコールサインで使ってる。それに個人で使うTACネームは私がカプリだし、智子がフレイム、ケイは通りが良いから、愛称のケイをそのままつかってるはずだぞ?」

「そ、そうか。ん、お前、今、ヒガシと言わなかったな?」

「ああ、晩年はケイって呼ぶほーが多かったからな。何百年も一緒だったし、あいつは家族だしな。今は」

「お前……」

「さて、行ってくる」

キャノピーが閉じられ、熱核バーストタービンエンジン(ステージU熱核タービンとも)が唸りを上げる。機体が滑り出し、滑走路から離陸していく。VF-31は伝説の『聖剣』の後継を担うべく、飛翔する。それは黒江が新たな選択を選ぶための翼でもあり、『前回』はVF-31がこの仕様で本国軍に流通しなかった故に起きなかった光景である。坂本は大空へ舞い上がるVF-31の姿を見送りつつ、微笑う。黒江の想いに応えるため、まだ見ぬ子に誇れる未来を作るために。



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