外伝2『太平洋戦争編』
五十八話『反地球』


――反地球は、未来世界の太陽系は太陽のちょうど裏側に出来た地球型惑星を起源とし、地球とそっくり同じ歴史を辿った。が、21世紀のあたりで、次元断層に落ち込み、約200年後に帰還したので、独自の文明とスーパーロボットを生み出した。その内の一つが、邪魔大王国に対抗するための『鋼鉄ジーグ』であり、ムー大陸の遺産『ライディーン』であり、大空魔竜ガイキングであった。MSとVFの代わりに存在するのが『銀河漂流バイファム』のラウンドバーニアンなり、『太陽の牙ダグラム』のコンバットアーマーだったりした。これは次元断層の裏に落ち込んだ間に、独自の機動兵器が育った証拠であった。その内の一部は本来の地球を通して、ウィッチ世界に試験的に輸入されていた――




「え、えーと……だ、ダグラム?」

「反地球から輸出された奴よ。向こうさんはこれで地上戦を戦っていたらしい」

「まんまダグラムねぇ。使えるの?」

「一応、奴さんの軍隊が制式採用した『量産型ダグラム』にあたるらしいわ。主力はラウンドフェイサーだけど、コックピットの投影面識がでかいから、こっちの連邦軍が難色を示したそうな」

「コンバットアーマーは『ロボットの頭部』がコックピットだからねぇ。マジンガーよりマシかな?」

反地球は反政府ゲリラに新鋭機を奪われ、尚且つ、反抗の象徴に用いられるなど、地球連邦政府の腐敗は相当に進行している。その事もあり、本来の地球は反地球政府をゲリラの援助をしつつ、自らの武力で政府を打倒し、植民地にすることまで検討するほどの腐敗ぶりだった。それは当然ながら流れたものの、反地球の政権交代を軍事的圧力で促す事は実行された。その際に『太陽の牙ダグラム』のアニメのデータが流れた事により、反地球側の連邦軍が量産型ダグラムの開発に成功したのだ。最も、独立した反地球の植民星で造られたものは装甲形状が簡略化されているが、連邦軍仕様はオリジナルのままである。これは色々な都合で、反地球の連邦はアニメのデータを参考に『開発し直し』に等しい手間をかけたからだった。なお、反地球の前政権は今の地球連邦の鏡のごとく傲慢であり、それが砲艦外交に繋がった。反地球の連邦議会議事堂の真上に降りてきたアンドロメダ級とVFに腰を抜かし、首相が内閣総辞職という情けない事態になったとの事。

「現地政府と反政府側を脅した代わりに得たのがダグラムの量産型かぁ。しょぼくない、圭子」

「しゃーない。軍事的には兵器体系が違いすぎるから。それに向こうはえいゆうが最新鋭兵器ってくらいに遅れてるし、ラウンドバーニアンじゃVFに比べて、見るべきとこないし、コンバットアーマーでやっと見向きされる程度だ」

えいゆう。それは沖田十三がヤマト以前に指揮していた戦艦の代表的な艦で、同級の唯一無二の生き残りだ。反地球はそれが最新鋭戦艦のレベルの技術力であり、とてもアンドロメダ級に喧嘩を売れる水準ではない。フェーザー砲ではテクタイトと超合金の装甲に傷すらつかないどころか、バリアで弾かれるのが関の山で、艦隊の全火力集中でも、バリアを破れない。ところが、アンドロメダ級側は主砲どころか、艦橋砲を一門で事足りるから困る。思い切り手加減しても、一撃で駆逐艦程度は宇宙の藻屑になってしまうからだ。これは装甲が波動エンジン艦からすれば、薄紙も同然である故の問題で、波動エンジン艦に打撃を与えようと思えば実体弾しかないのが反地球の軍事力だった。反地球の政府はスーパーロボットを軍事利用可能なほどの求心力がなかったのも、地球連邦軍の圧倒的優位の理由だった。これはダンクーガがいるため、スーパーロボットの軍事利用に積極的なのと対照的だ。

「でも、どうすんのよ、整備とか」

「部品はこっちのに変えてあるから、整備はむしろ簡単で、デストロイドよりよほど身軽で俊敏らしいわ」

「ふーん。後でテストしてみましょう。純然たる陸戦兵器だろうから、MSと別に考えよう」

人型コンバットアーマーはデストロイドより柔軟な運用が可能な機動兵器であり、汎用性は人型コンバットアーマーが上回る。デストロイドはあくまで『人型戦車』であるので、汎用性は低く、移動砲台の体裁が強い。が、人型コンバットアーマーは柔軟な運用が可能だ。それとサイズも小さいので、暴徒鎮圧にも向いている。その事もあり、輸入したのだろう。

「話によると、こいつは『歩く攻撃ヘリコプター』で、デストロイドよりは防御力低めらしいわよ。扱いとしては攻撃ヘリコプターのロボ版なんだと」

「なるほど。反地球も面白いの作るわね。ダグラムなんて、政治ドラマメインだっていうから見てないんだけど」

「あれは長いけど、見ごたえあるわよ。まぁ、あんなのよく夕方枠でやれたもんよ」

「ふーん」

「あんたは『ドッカーンとか、バッコーン』なのしか見ないもんね。偶には政治ドラマ入ってんのも見なさい?」

「ぐぬぬ…」

「神様になっても、そこは変わんないんだから。後輩の前で見栄張るのもいいけど、いい年してんだし、見ておきなさいよ」

「うぅ……」

と、智子はタジタジである。圭子はこの時、既にゲッターの使いとなっていたため、二人の保護者の体裁が強まっており、『お母さん』的ポジションにいる。ゲッターの使いとなったために、持っていた母性が強まったため、黒江の第二人格『あーや』からは『ケイママ』と呼ばれている。

「で、報告によると、ガイキングとライディーン、鋼鉄ジーグがいるみたい」

「マジぃ!?で、ゲッターやマジンガーはいないと?」

「そうらしいわ。ガ・キーンとかがいないかも調査中だって」

「あんな70年代の粗製乱造ロボがいたところでねぇ。もっとも、アルベガスいたら大受けだろうけど」

「ああ、昔のジ○ンプ漫画で『キワモノ』って言われた……」

「連邦のみんなは『20年くらい前のオタク向けアニメだったゲキガンガー3』が実在してるかもって盛り上がってるけど、ふつーに考えると、アルベガスとかアクエリオンのほうが濃厚なんだけどね。ゲキガンはわりかし最近だし」

ゲッターロボのカウンターパートになり得るスーパーロボットは実は多くない。合体ロボは多いが、ゲッターロボとは違うポジションだからだ。そのために、最近の放映であったゲキガンガー3が候補に入るのだ。その内の有力候補のアルベガスはメカの変形が没個性と揶揄されることがあり、少年ジャ○プを長らく支えた長寿漫画でも誌面で『キワモノ』と断言されていた。(因みに、別々のメカが合体するものでの最多は機甲艦隊ダイラガーXVであり、竜馬は『おもちゃ然としてる』と酷評したとか)

「15機合体のダイラガーなんて、おもちゃ然してるし。それを思えば、アルベガスなんていいほうよ?超人戦隊バラダックなんて、誰も覚えてないと思うわ。ゴールドライタンのほーがまだ有名よ」

と、完全にロボオタの会話である。15機も合体させると、現実には合体時の動力伝達機構の複雑化を招き、危険箇所が多くなるという。ゴッドマーズは6機合体だが、ガイヤーの動力が合体時にメインとなり、フェイルセーフもあるので、安心だ。アナハイム・エレクトロニクスはダイラガーを『現実には作りにくい』と評している。合体ロボというのは、現実に作ると手間がかかるので、今の科学では、3〜6体合体が限度であるとされている(後に、エネルギールートの分離で可能であると分かったので、あながち作れないわけでもなくなった)。

「反地球に鋼鉄ジーグがいるなら、『死ねぇ!』と『全滅だ!』は言ってるだろうし、ライディーンがいるなら、『フェードイン!!』と『ゴッドバードチェェンジ!』だし、あー、実物拝みたいわ」

「あなたは単純ねぇ〜。問題はこっちの都合だけで呼べるかどうかよ。向こうは邪魔大王国とか、妖魔帝国とドンパチしてるだろうし」

「あ、そっか……」

「こっちの一体で事足りる敵もいそうだけどね。カイザーや真ゲッターでも送り込めば、大抵は一捻りだしね」

「邪魔大王国なんて、グレートとドラゴンで事足りそうだしねぇ。ライディーンの敵は強そうだけど、倒せないわけじゃないし」

「大空魔竜の敵がもっぱらの強敵かな?宇宙人っていうし」

「でも、なんでスーパーロボットとあの子が別々に存在してるのかしら?」

「神様になっても、そこは分かんないのね」

「か、管轄外だし」

「たぶん、スーパーロボットは平行時空ごとにあるから、その意思の集約がされて生まれたと思うわ。艦娘達みたいにね。Zがいるなら、グレートやダイザー、ゲッターがいるはずだし。理論上は全てのスーパーロボットに当てはまると思うけど、未知数よ」

圭子の理論に当てはまる存在は、この後に続々と確認されていく。その内のゲッターロボ號については、装備変えで『ネオゲッターロボ』になれるという特徴があり、號ちゃんはネオゲッターロボの姿でソードトマホークを使用したという。




――地球と反地球は、お互いに存在を確認したのはつい最近の事である。反地球側は内戦中でもあったが、地球連邦軍の波動砲を用いた恫喝により、内戦は終結へ向かった。これは地球(正)の軍事力が自分達の全てを超越していた事によるもので、無血革命とも言うべきものだった。反地球は自分達から見ての太陽系は、次元断層の裏からの帰還以前から『探査中』であったのもあり、自分達の反対側にもう一つの地球がある事までは掴めてはいなかった事がショックであり、しかも文明の格差が大きい事が無血革命の原因だった。特に、波動エンジンにより恒星間航行を可能にし、数ヶ月でアンドロメダ銀河までを往復可能であるという事実が打ちのめしたのは言うまでもない。また、反地球でもそうだが、やはり大日本帝国は敗北しているので、扶桑への風当たりは強かった。特に織田幕府は外征を好んだため、そこが徳川幕府に比べて『劣る』と断じられてしまう要因だが、扶桑には『外征で国内の安全を確保する』という意味があり、その事が第一とされ、大航海時代に乗り出し、アジア唯一無二の大国になった。開明的な幕府であった結果、戊辰戦争は起こらず、円滑に近代国家に移行したという点があるので、扶桑は大日本帝国のような歪さは持っていない。そこが日本の左翼の糾弾の矛盾点だ。数百年も大国であるので、扶桑の国民には『軍事的に世界に奉仕する事が当たり前』とする意識があるのも、戦後日本人と『似て非なるもの』である所以で、彼らのコントロールが上手くいかない原因だった。特に戦後日本人の少なからずがこだわったのが、『軍国主義者の全ての地位剥奪と平和主義者を首脳にすることである』。戦前戦中の国家首脳を侮蔑していた彼らは、東條英機や近衛文麿、広田弘毅らが首脳になる(東條英機は『復権』に当たる)のを全力で妨害した。その結果、近衛文麿は組閣の機会を二度と失う事になったり、東條英機の蟄居が解かれなかったりし、吉田茂の後継決めに大いに支障を来した。48年当時、扶桑は吉田茂の後継内閣を模索していたが、当時の有力候補たちが尽く駄目と言われ、『次世代にすればいいだろう』と宣告されたが、当時、吉田茂の右腕とされた池田勇人には反対論者が多かった。特に軍部からで、池田は陸軍幼年学校を視力と背丈で不合格になり、その後に大蔵省に入省した経緯を持つ事から、軍部を抑えられるか不安視されたのである。問題は当時、48歳の池田は『若すぎる』との評がある事で、結局、老体を押して、吉田が50年代まで勤め上げる事になり、彼が総理大臣に就任するのは50年代になる。吉田を戦争通して総理のままに置くのに、吉田の健康不安を心配した陛下の意向もあり、鳩山一郎、広田弘毅などの候補が取りざたされていく。広田弘毅が早期に脱落した後は、吉田のライバルを目された鳩山が、この時期のポスト吉田とされていた。が、不運にも脳梗塞に倒れてしまい、『GHQがいなくとも脳梗塞で組閣の機会を逃してしまう』不運さで世の同情を買ったという。軍人では、嶋田繁太郎大将は史実の比叡で最後の艦長『西田正雄』大佐への懲罰人事が槍玉に挙げられ、復権の機会を失う事となった。嶋田繁太郎は扶桑海での黒江への砲撃が陛下の怒りを買い、閑職に追いやられていた。彼の支援者らは復権運動を展開していたのだが、情報が彼のエリート軍人としての道にとどめを刺した形となる。特にA級戦犯で終身刑である事がマイナス点となり、アリューシャン方面軍司令という閑職のまま、この年に予備役へ編入するという道を辿った。史実に比すればマシだが、『山本元帥お気に入りの軍人を閑職に追いやった』というマイナスイメージが彼につきまとい、別の意味で苦しんだという。




――こうした未来情報による混乱は45年以来、複数生じており、遂に政府による声明が出された。海軍航空隊の古参兵らが誹謗中傷に耐えられずに軍を去り、海軍航空隊が作戦行動不可能に陥ったという報に腰を抜かしたのが関係していた。

『なぜ起きていない事で批判が起きるのか?問題を起こす可能性が有るなら、それを減らせる方策を考えるべきでは無いのか?』


これは侍従長である藤田尚徳海軍予備役少将の声明であった。21世紀日本からの度の過ぎた介入は扶桑の不信を招いた。だが、軍部の力を削ぐ目的の機械化を推し進めさせたのは、結果的にいい方向として具現化し、陸軍人口の整理は成功裏に終わったものの、問題も残った。機械化したはいいが、当時の扶桑では自動車運転技能ありの者は富裕層に限られていたため、運転講習をさせなくてはならなかったのだ。その費用も陸軍予算の圧迫となった。戦車師団以外も機械化するとなると、膨大な費用がかかるからだ。同時に色々な装備の更新も入るので、本年度の軍事行動は制海権の確保を主目的の捷二号作戦で区切りがつけられる事になってしまった。




――反攻作戦は8月の時点でひとまずの中断を余儀なくされ、そこまでに被った実害は『軍事物資の大量喪失と海軍航空隊の作戦行動封殺』と大きい。が、陸軍の人員整理・機械化・教育の合理化/近代化というメリットは得られた。未来世界の反地球の軍事的援助も得て戦う扶桑。それをアシストする『逆行者』。黒江、智子、圭子の三羽烏たちの予想を上回る速度で、事態は動き出す。


「あー、黒江ちゃんが帰ってきたら言っといて。向こうのラル少佐が接触を望んできたのよ」

「早いわね……前回より」

「ええ。どうも、神々の悪戯で事態が早まってるわね。向こうに行って、あんたらの力を見せて来なさい。ナインセンシズに到達した力を、ね」

「気が早いわね。フェイト一人じゃキツイだろうし、『神』としての力、存分に奮って差し上げますか」

「明るくなったわね、あなた」

「コン太と融合した影響かな…。前は恥ずかしがったことにも羞恥心感じなくなってきたし……」

智子は使い魔と融合した影響か、小宇宙がなんとセブンセンシズをも通り越し、あっという間に神の領域「ナインセンシズ」へ辿り着き、黒江を小宇宙の大きさでは遥かに超えるまでになった。神の一柱になったためだ。それに伴い、肉体の加齢は無くなった。その証か、使い魔が混じったのを表すように、性格が明るくなっている。

「それで聖衣も着れるようになったんでしょう?今回はあの子を泣かせないでよ」

「分かっとるわい。でも、あなたこそ、私より全てを見透かしたような全知全能感が出てるわよ」

「ゲッター線が私に宇宙の生命の記憶を見せたの。だからかしらね」

圭子はゲッターが見せた記憶で、ゲッター線の使命、人類が生まれた理由などを悟ったらしく、どことなく全てを見透かしたような言動が増えている。が、まだ理解が及ばない領域はある。ゲッターが何故、宇宙を地球人で埋め尽くす事に貪欲であり、その進化を急ぐのか。全ては次元世界のすべての外の空間を侵食している『神』でも、力が及ばぬ化物を倒すため。オリンポスの神々や原初の神々が望み、意図する『生物兵器』。それが地球人なのだ。アケーリアス超文明はその最初の事例であり、失敗作であると、神々の誰かはいう。つまり、地球人は果てしなく長い年月の中で、アケーリアス超文明の失敗を経て、プロトカルチャーを使い、生み出した『三度目の正直』であるのだ。プロトカルチャーが内紛とプロトデビルンのせいで滅ぶのを見届けた彼らは、バダン大首領『ジュド』に地球生命の進化を促せ、適度な段階でゲッター線が降り注ぐように調整し、闘争本能を育てた。その思惑が神々にあるので、完全平和になられると都合が悪いのだ。言うなれば、サンクキングダムの完全平和主義は哀れなことに、『神々に葬られる運命だった』のだ。完全平和主義は高潔な理想だが、人類を兵器と見なすオリンポスと原初の神々にとっては『プログラムミス』とも言うべきモノでしかなく、滅ぼさないと進化が停滞する危険があったからと、完全に滅ぼす方向に向かわせた。これは圭子が伏せている事実だ。神々は『技術』という刃を研ぎつつ、無闇に消耗しない『「平和」』をベストと考えており、一切の武力を否定する完全平和を危険視し、ズォーダー大帝を唆したと。最も、完全平和は元から無理がある思想なのは、その当事者らも理解している。それ故、リリーナは現実路線に進もうとし、『地球防衛軍』を設立する案を温めていたのだ。これはリリーナが理想と現実を見据えた上で判断を下していた証拠でもある。地球防衛軍はできるだけ外征装備を削ぎ捨て、防衛に特化させるつもりだったらしく、ヱクセリヲン級の工廠を廃棄したのは、その一環であった。最も、廃棄ではなく、移設のつもりであったのが、通産系官僚の暴走で廃棄になったため、急遽、修理用のドックを再稼働させたりする必要が生ずるという不都合が生じ、結果的にその官僚は罷免されたという。これはあちらこちらで生じ、戦争が避けられないとわかり、リリーナが戦争突入と、混乱の責任を取って、辞任を表明した日には、再稼働不能の工廠/ドックが地球のおおよそ六割近い状況であった。リリーナがバッシングを受けたのは、この時の兵器廃棄率は四割に達していて、急いで軍備を再建する必要に迫られたが、当時の試作量産機『ジェダ』、当時の主力機『ライトニングV』と『スターミラージュ』は新規生産不能であり、MSとVFを新規に開発せねばならなくなったからでもある。彼女が『軍事的には無知な大統領』とレッテルを受けたのは、この時の大混乱がもとである。

「ガトランティスの時にあのお嬢さんがバッシング受けたのも、平和主義の名のもとに混乱招いたためだしね。急いで11とジェガンを作りまくったから、この時だけで10000機は造られたはず」

「その時に平和主義者が次々と失脚したんだって?」

「人同士で戦争無くしても、宇宙人とは戦争が起きるのは自明の理だしね。オマケに奴隷か死を要求する国家だったもんだから、攻撃の対象になったのよ」

ガトランティス戦役の際に起こった混乱は、ピースクラフト政権下で議席を得た平和主義者達を奈落の底に突き落とす形になり、多くが失脚し、失意の日々を送った。そして、ズォーダー大帝には一切の外交が不可能であると正式に判明した事は、外務省の無力の露呈と、軍部の復権を後押しした。この時に問題になったのが、『解体から一転して存続が決定した連邦軍をどう統制するか』で、安全保障法制が根こそぎ効力を失っていたため、軍司令官の一存で動ける事になってしまう。安全保障会議も解体されていたため、リリーナの後を受けて就任した大統領は対応に苦慮した。そのため、臨時措置で国防閥の大物議員であるゴップ議長が大統領の命令を『元帥』として通達するという変則的な統制が録られた。当時、法的には解体予定の連邦軍を縛るモノは殆ど無く、そう言った方法でしか統制が取れなかったのだ。後のデザリウム戦役時の参謀や将校の少なからずは、この時に慰留、あるいは階級を上げて任官された者達である。軍解体はそもそも議案の一案に過ぎず、本来は軍をある程度まで縮小しての防衛軍への移行が真意のリリーナは急ぎ、その大統領令を停止したのだが、これが平和主義者たちの分裂を招いたのも、政権の致命打になった。彼女がその後、自ら動くことが多くなったのは、この時の混乱の反省である。

「でもさ、その時は随分と急ごしらえで防衛したのね」

「軍がスーパーロボットを用い始めたのは、この時が最初よ。で、早乙女研究所にはゲッタードラゴンを急がせたけど、ミケーネ帝国との決戦間近だったから、そっちが先になったってわけ」

当時、スーパーロボットもグレートマジンガーとゲッタードラゴンが最新鋭の頃であり、しかも両者はミケーネ帝国との決戦に駆り出され、参戦は本土決戦にずれ込んだ。本土決戦でスーパーロボット軍団が勢揃いしたが、それでも苦戦を強いられ、テレサの特攻になった事は、スーパーロボットの更なる開発を促す事になった。その時の危惧から生み出されたのが真ゲッターであり、進化して生まれたマジンカイザーである。

「要するに、危機意識が薄かったって事ね?」

「正確には、お嬢さんが軍事的常識を知らない故に起こった悲劇って事ね。これ以後は国防族が大統領を指定席みたいに扱ってるから、どっちがいいのか、ね」

――未来世界に於いて、過去に起こった混乱は、政治的にはリベラル派の退潮の原因とされ、リベラル派が軍事的危機に無力であるのを露呈してしまった出来事とされる。軍出身の大統領が続いているのは、まさにこの時の反動だ。結局、連邦軍に関する法は戦後に再整備され、当時のネェル・アーガマ隊はロンド・ベル隊に再編された。歴代ガンダムが引っ張り出されたのもその時だ。プリベンターは歴代ガンダムだけは治安維持の観点から解体に手を出してはいなかったので、当時の現存していたガンダムタイプの全てが保管されており、近代化改修を施して配備させた。これは戦時の特例措置だったが、結局、リベラル派との政治的抗争の結果、ガンダムタイプはロンド・ベルの管理下にそのまま置かれた。プリベンターの権限が縮小されたのもこの時期だ。歴代ガンダムは連邦軍のMS数不足により、戦後にZ以降の全機種が増産され、中断されていた計画も再開され、リゼルが生まれ、ZPlusの大増産が決行されている。結果、メカトピア戦争開戦時には、連邦軍は宇宙軍有りきの軍隊と化しており、空間騎兵隊も合わせ、往時の6割程度の軍事力に回復している。ただし、この空白期間にネオ・ジオン軍は再建に成功しており、シャアもこの空白期間を有効活用し、軍備の再建に力を注いでいる。

「で、ネオ・ジオンに再建されたのが槍玉に挙げられて、最近は防戦一方のリベラル派でしょう?」

「そゆ事。リベラルでも軍歴有りの人はネオ・ジオンの動きを警戒してたから、ロンド・ベルに大きな顕現を与えた。ガンダムタイプにも優先権与えられてるしね」

「うん??エイラからメール?フェネクスを捕まえて専用機にした……って」

「はぁ!?どーいう事よ、圭子」

「なんか、封印されていたはずのナイトロが自己作動して、テストパイロットを殺して暴走したのに、サーニャと居合わせて、そこから制御を奪ってプログラムを書き替えたそうな」

「あの子、プログラミングの技能あったの?」

「ニュータイプになったって言ってたから、その副産物でしょうね」

「姉のほうが同名のIS、妹はガンダムを手懐けたか。マルセイユはもっぱらΞ乗りだけど、エイラは不死鳥を手懐けるとはね」

「まぁ、501時代でなくてよかったわ。あの頃に起きてたら、あの子がヒステリー起こすだろうから」

「でしょうね。ミーナ、あの頃は綾香とあなたに嫉妬してたから、まるで薔薇乙女みたいな言動もしてたし」

「未来世界を知ってからは、メンバーの多くが未来の兵器得たり、未来経由で次元世界の剣術とかに手を出していたもの。それに、ウィッチの本懐を吹き飛ばすような話も多かったし」

「今の私達なら『ハイパークロックアップ』も自在だもの。向こうに行ったら、向こうさんの一個師団どころじゃない戦力になる。たぶん、人外見る目で見るでしょうね」

「何せ、絶対零度の凍気、腕には伝説の聖剣、第七感だから。たぶん、定子やジョゼは避けるでしょーね。孝美はどうだろう」

「あの子は好意的かも。ここでもそうだけど、ひかりを守れる力さえ得ればいいって感じだし。向こうのひかりも来るだろうけど、孝美が止めるだろうな」

「戦いたければ強くなれ、ってか。あの子、あっちでもシスコンなのかしら?」

「さー?あたしの見解だけど、大先輩から聞いた話を総合すると、あの子は妹を『籠の中の鳥』としてしか見てない自分に気づいて、自己嫌悪してるらしいし、どうも、リウィッチが出てきたのに、昔の常識に引っ張られてるらしいのよね」

「坂本もだけど、あの数年の世代って真面目すぎない?」

「あの世代はちょうど私らが減衰期迎えてる頃から、自分達が絶頂期に向かったから、私らからの『バトン』を強く意識してたらしくてね。大先輩が言ってたわ」


「『バトン』ねぇ。あの世代はほんと、あたしらの功績を意識しすぎてるわね」

「しゃーないわよ。黒江ちゃんが好き勝手にやりすぎたから、後輩達に枷をかけちゃったようなもんよ。だからクロウズに過剰な期待がかかったのよ。それと、アンタ自身にも、ね」

「そう言えば、スオムスにいた頃、そんな嫌味言われた気が……。そうか。いたんだ。事変の時の炎を見た奴が」

「ご名答。で、あんたが記憶の枷が感情の高ぶりで外れかけて、ダイナマイトタックルやらかしたみたいな記録もあるし、ビューリングが負傷したショックで変身したらしい証言がウルスラからあるわよ」

「え、マジ!?」

「無我夢中で記憶にないようだけど、ウルスラの証言によると、光速拳撃ったらしいわよ?」

「全然記憶ない……」

「たぶん、怒りでセブンセンシズに到達してたんじゃない?アトミックサンダーボルトってはっきり叫んでたらしーし」

「やってもうたぁーーーー!」

「記録によると、アンタのアトミックサンダーボルトで山が一個吹き飛んだそーよ。で、その時にそれ撃ったから、周りがドン引きしたらしいわ」

「くわ――!……ぉ、覚えてなぁいぃぃーぃ!」

「やっぱり。で、スオムスの上層部でも物議を醸したけど、あんたがそれを普通に用いる事がなかったから、暴走って処理されてるみたいよ。で、ロマーニャ時代になって使い始めたから、ぶーたれてるらしいわよ」

「そんなの知らないわよぉ――!!」

「まっ、あたしもドモンさんから言われて、似たような事になってたの知って、『思い出せないぃ…』って唸ったから、これで同志よ」

「自慢すること?それぇ…」

「別に自慢じゃないわ」

――三人はその数日後、B世界に赴く。ハルトマン、ガイちゃんも伴って。その際には、いの一番に智子が水瓶座の黄金聖衣を纏って、下原の前に現れ、驚愕させている。その時の会話は以下の通り。

――数日後のB世界――


「やれやれ。怖気づく暇があるなら、ジョセに気を回しなさい?定子」

「あ、あなたは……?」

「扶桑陸軍の元ウィッチよ。扶桑海の巴御前って言えばわかるかしら?」

「穴拭……智子……大尉なんですか……!?」

「ええ。だけど、今は違うというべきね。今のあたしは『水瓶座の黄金聖闘士』、『水瓶座の智子』!」

凄いドヤ顔を見せる智子。智子は氷河の就任までの繋ぎとは言え、この度、正式に水瓶座の黄金聖衣を纏う資格と、宝瓶宮を護る資格が与えられたため、その言葉は嘘ではない。

「え…えーと(こんな人だったかしら?穴拭大尉って)……」

『ダイヤモンドダスト!!』

いきなりダイヤモンドダストで、敵を凍結させて粉砕する。続いて。

「おい、智子。自分だけ目立つなよなー。エクスカリバー!!」

黒江が到着する。智子がヘッドギアをつけているのに対し、黒江はつけていない。が、マントは羽織っているので、どことなく威圧感がある。エクスカリバーを放ち、地面を抉る。

「同じく、扶桑陸軍所属、黒江綾香!またの名を『山羊座の綾香』!」

「え、え、えぇ!?

「あんた、空軍って言わなくていいの?」

「念のためだ。『ここ』だと影も形もない組織のこと言ったってわかるかよ」

「だったらロンド・ベルで名乗ればいいじゃない」

「あー、そっか」

「なに漫才してんの、アンタ達。同じく、地球連邦宇宙軍外殻独立部隊所属、加東圭子大佐」

圭子はロングトマホークを担いでいるためもあって、ある意味ではギャップがある。よく見て見ると、連邦軍所属であることを示すデザインが巫女装束の何処かになされている。更にロンド・ベル所属である事を示す腕章もしている。これは出向者向けのものである。軍服を着ているものは、連邦軍制式のコートを着たりしているが、巫女装束を着ている者達への暫定的処置として腕章が配られた。黒江達はそれだ。

「定子、説明は後でするわ。とにかく、奴らは倒すわ」

「倒すって……?」

「こういうことだ。ライトニングフレイム!」

「ホーロドニースメルチ!!」

と、下原がぽか〜んとしている間にも繰り出される必殺技。怪異はこのセブンセンシズ全開の攻撃には耐えられるはずもなく、一瞬で崩壊する。しかも陸戦型である。更に驚かしたのは。

『あ〜!ずるい!あたしにも美味しいとこやらしてよね』

と、ハルトマンがストライカーを纏わずに飛び降りて来て、そこから龍槌閃をかまし、怪異を貫く。手慣れた剣さばき。しかも扶桑刀だ。

「お前、セブンセンシズには目覚めてないだろー?」

「シックスセンスなら極めてるさ」

通報を受けて駆けつけたヴァルトルート・クルピンスキーは、この場にはいないはずのハルトマンの姿を視認し、思わず素っ頓狂な声をあげた。


「は、ハルトマン!?そんなバカな、今はベルギカにいるはず……!」

「あ、伯爵。来たんだ」

「は、ハルトマン。そ、それはいったい……?」

「説明は後々!とにかく、陸(おか)は任せろ!空にも援軍が来てるから、そいつの援護頼む!」

「援軍?」

『そうさ!ガイちゃん、只今参上〜!こいつら全員吹っ飛ばしゃいいんだろう?ザウゥゥル、ガイザァァァ!』

ガイちゃんが飛来し、ザウルガイザーをぶっ放つ。腹部の大空魔竜の左右の目から破壊光線を発射し、二つの光線を束にして一本の光線として発射する。破壊力は元になった機体と同じなため、一撃で地形を変える。

『ハイドロォォォブレイザァァ!!』

ハイドロブレイザーをぶん投げ、近くにいた空戦型が消滅する。

「う、うそぉ……。君はいったい?」

「あそこにいる子達から聞いてちょーだい。とにかく、制空権は任せろー!デスパァァサイト!!」

デスパーサイトを放つ。一撃一撃が大地を揺るがすので、何がなんだかわからないことになっている。

「ハルトマン、この子は……?」」

「気にしちゃもたない、アレは超兵器の類の精霊みたいなものだから」

「なぁ!?」

「こっちも忙しくてね。伯爵の相手、そんなにしてられないんだ。飛天御剣流……龍巻閃・嵐!」

「……」

ハルトマンが人間離れした剣術を披露する。宙高く飛び上がり、刀を自分の手前に構え、前方宙返りにより相手を切り裂く。その高度が自分のいる高度にまで上がった上、そこから前方宙返りしながら敵を斬る。しかも、それを素でしたものだから、伯爵は目が飛び出るくらいの衝撃だった。しかも、そこからの連撃が続く。

「龍巣閃・咬!!」

ハルトマンの剣術はクルピンスキーの動体視力でも視認が困難なほどに疾かった。しかも、扶桑刀を自分の身体の延長のように扱えるなど、まったく聞いていない。しかも、扶桑刀は平均的なものでの間合いは長くないはずで、それを全く感じさせない強さである。しかも、よく見て見ると、ハルトマンの体つきが自分の知るよりも締まっているように見える。

「お、ハルトマンの奴、おっ始めやがったか!んじゃ、私も!」

「あたしも!」

ハルトマンに触発され、黄金聖闘士の二人も剣を使う。斬艦刀とカイザーブレードだ。空中から剣を召喚したり、普通の刀を変形させたのも、下原と伯爵を驚愕させた。

『ムウン!』

黒江は斬艦刀を片手で構えるのを好むが、智子はカイザーブレードを両腕で構える。黒江は両手持ちは余程のことがなければしないので、二人のファイトスタイルの違いが際立つ。二人が剣を持ちながら、光速で駆け抜けていく。


『エクスカリバー!!』

『カイザァァァブレェェド!!』


剣が振るわれ、衝撃波が地面を斬り裂いてゆく。二人の雄叫びが響くたび、陸戦怪異が馬鹿みたいに蹴散らされてゆくのは、現実味がない光景だが、正に今、起きていることなのだ。

『景気づけよ。特訓の成果、見せてあげるわ!』

と、智子が歌い出す。デザリウム戦役後に台頭しだした音楽ユニット『ワルキューレ』の『僕らの戦場』だ。智子は現在、ワルキューレにハマっており、カラオケでよく歌っている。黒江も付き合って歌い出す。圭子も。ガイちゃんも、ハルトマンも。戦場で歌うことは、この世界の常識を超えている。が、未来世界では士気高揚の意味もこめられ、奨励されている。歌唱力が落ちるとされた智子がいの一番に歌い出す事は珍しく、シェリルやランカに触発されたのが一目で分かった。一同が醸し出す音楽は、伯爵の無線を通じて、基地にも伝わっており、フェイトは大笑した。

「そうか、智子さんが先陣を切ったか。これは面白いな」

「フェイト、これはどういう事だ?」

「戦場で歌う事は別に可笑しい事ではないだろう?大昔の扶桑にはそのような記録もあるからな」

ラルへ言う。フェイトは扶桑の平安以前の記録を引き合いに出し、戦場の歌巫女はウィッチ世界の古今東西で少なからずが確認されている。歌で災厄を収めるのも大昔は役目の一つだったと思われる。

「ブリタニアとかにいたろ?ハイランダー。バグパイプ吹いて。あれに歌がついたようなものだ。曲調は向こうさんの時代のモノだから、ご愛嬌と思ってくれ」

「確かに。この曲調はこの時代の流行歌の系譜でいいのか?」

「ジャンル的には近いな。ポピュラー・ソングの時代相応のものだし」

「うーむ。上が聞いたら不快に思うだろうな」

「軍歌ではテンション下がるだろう?そういうものだよ、少佐」

「そういうものなのか?」

「兵隊は理屈より情で動くものだからな。あなたに渡した情報に書かれている『宮藤一郎博士の遺児』がまさにそれだ」

「その子が501を変えた張本人であり、あのリバウ三羽烏が一人『坂本美緒少佐』の秘蔵っ子なのだろう?博士は我々にその子を残したのか……」

「そうだ。連れてこなかったのは、この時期の501メンバーと当人との兼ね合いだ。当人は行きたがったが、それだとややこしくなるからな」

「そうか、こちらにもいるからな」

「そうだ。それに、あの子がこちらに来るのは、今から半年くらい後の事になるはずだ。それもある」

「SF小説に出てきたタイムパラドックスだな」

「そうだ。綾香さん達が来たのは、この時期にいるであろう当人達はまだ扶桑本土とアフリカでそれぞれ普通にいて、我々と出会う可能性は万に一つもないのが確認されているからだしな」

――この時間軸は、B世界のスリーレイブンズがA世界に来る半年ほど前なため、B世界の三人はそれぞれの任地でウィッチとしての余生を送っている。まさか別の自分が大暴れかましているとは夢にも思わないだろう。ラル達に緘口令が強く敷かれているのは、時空分岐が発生することを防ぐためだ。

「そのために緘口令を敷いたのか。君達ほどの戦闘力があれば、この世界を救うのも容易だろうに」

「それは他力本願だろう?私達もある人達に言われたが、ぎりぎりまで踏ん張っても、自分たちの力が通じなかった時、初めて助けを求める事が認められる。この世界は君達の世界だ。我々はただの通りすがりの正義の味方だよ」

フェイトは付け加えた。『この世界は君達の世界』と。本来、B世界の事はB世界の人間が解決すべきだが、マジンガーZEROの一件、ゴルゴム創世王の一件で、時空全体に何かしらの歪みが生じた可能性があるため、フェイト達が赴いた。その影響はB世界には少なからず起きている。B世界には生じなかったはずの怪異の思考パターンの変化が起きている。それも迅速に。

「君達の世界にはいるのか?そんなリベリオンコミックの世界のような存在が」

「いるが、リベリオンではなく、扶桑に大量にいる」

「なにィ!?」

「例を挙げるとキリがないが、超科学が生み出した存在と言えるな。扶桑のアミニズム的文化が下地にあるせいか新たな神格まで生まれてるしな。体を機械に置き換えられたり、身体機能増幅スーツを着たりして戦ってるよ」

扶桑(日本)発のスーパーヒーロー達の存在はA世界、B世界共にリベリオン人憤死ものの事案だ。何せ、扶桑(日本)はスーパーヒーローの文化では後発でありながら、リベリオンコミック以上にバリエーション豊かなヒーローを生み出している。宇宙警察の刑事から、悪の組織を裏切ったサイボーグ、はたまた、一般人が私財を投じて生まれたヒーローもいる。中にはこの時代の日本軍の最終兵器が転じた例もある。これはお国柄の違いもあるだろうが、日本は一年ごとにヒーローが入れ替わる事情もあるので、初代仮面ライダーの登場した71年以来、ヒーローがダース単位で生まれていく。その分、忘れ去られたヒーローも多く、現役を終えてすぐに亡くなった『鉄人タイガーセブン』の例もある。遥かな過去になる江戸期においては『変身忍者嵐』という忍者がいたらしいが、真偽は不明であるので、一号ライダーがスーパーヒーローの現在形の原点であるのは揺るがない。なお、忍者は変身忍者嵐よりも、『仮面の忍者赤影』のほうが太閤秀吉の配下だったためか、不思議と有名であるので、彼がヒーローの元祖になるだろう。(赤影の活動時期は織田信長の時代の後期から太閤秀吉の死期までと推測されており、引退した赤影に代わる隠密を見つけられなかった事が、豊臣家の衰亡の一因でないかとされている)


「扶桑には、『仮面の忍者 赤影』や『変身忍者嵐』、『快傑ライオン丸』というヒーローの雛形のような忍者がいたから、その系譜になるやもしれん。研究中なのでな、そのあたりは」

「いったいどうなってるんだ、扶桑は」

「私に言われてもな。第一、扶桑と呼ばれてることのほうが少ないからな、あの国」

「たいていはなんと?」

「日本。そう自らを称してるよ」

「日本……」

「私の知る常識では、古名になった地名が多いからな、ここは。ガリアも、私の知る多くの場合は『フランス』と呼ばれていた」

ややこしいが、ウィッチ世界では、他の世界での古い美称や地名がそのまま残されている。更に言えば、イタリア半島が統一されていないという違いが有り、イタリア人が憤慨している。

「世界の違いだな。しかし、信じられんな。他の世界では数千万人を巻き込む世界大戦がこの時期には最末期で、我々と扶桑は滅亡寸前であると」

「カールスラントに当たる、たいていはドイツと称している国家は、第二帝政が1910年代の第一次世界大戦で崩壊した後の共和制が世界恐慌やハイパーインフレによる経済的損失で急速に黄昏れた後、1930年代前半に一人の男が独裁者になることで、最後とされている帝国に戻る。アドルフ・ヒトラーという男だ」

ヒトラー。この男はある意味では天才だった。だが、1940年代始めにパーキンソン病に侵された挙句、自分の老いも重なって判断力が低下すると、頑迷な老いた小男に堕ち、帝国を滅亡させた。むしろこの時の姿が彼の本来の人物像であり、治世前半期の聡明さはバダン大首領『ジュド』の神託があったためではないか?とされている。これはあまりにも絶頂期と末期で落差が有り、判断能力が別人級に違うからだ。

「その男は全世界に戦いを挑み、ドイツを滅亡させた。同時に日本も道連れになった。同盟国だったからな。こちらの世界で親カールスラント的風潮が弾圧されているのは、『ドイツと組んだ国は負ける』というジンクスと、帝政ドイツを敵視する風潮があるからだ」

「リベリオンの個人主義や自由主義が世界を席巻したと?」

「そうだ。だから、君達のような権威主義が強い国は嫌われている」

「リベリオンナイズされた世界こそが正義だと?」

「あの国はそれを本気で信じて疑わないからな。だから、他世界からの介入者は二つに分裂させたし、その風潮が普及するのを妨害した。誰も喜ばないからな」

「ハンバーガーとピザ食ってるようなところだからな。別に悪いとは言わんが、それを他国に押し付けるようなところがあるからな。悪いが、その情報に喜んでしまったよ」

ラルBはAと違い、愛国者的側面が強いのか、リベリオンの分裂にほくそ笑んでしまったという意外な面を持つ。これはラルBはAより『カールスラント軍人』としての矜持が強い故で、Aが『連合国軍軍人』であることを意識しているのと対照的だ。

「君にしては随分と愛国主義的だな?」

「私は連盟軍の軍人である以前に、カールスラントの軍人だ。向こうでの私は中将かもしれんが、ここでは一少佐に過ぎん。政治的な事はあまり考えたくはないよ」

「その割には滲み出てるぞ」

ラルAは個を殺して任務に励んでいるが、この世界では『愛国者』的面が出ている。最も、個人としては、である。フェイトはその違いを楽しんでいるが、諌める。

「別にどうこう言うつもりはないが、その考えが国を滅ぼしたりしたのは理解するんだ。実際に、そういう者達が国を滅ぼしていった事はいくらでもあるからな」

「……分かってるさ。ナポレオン三世もそれで自滅したのは常識だからな。自分の個は殺したくないだけだ。愛国者である事はそんなにおかしいことなのかね。ましてや国家に忠誠を誓っとるというのに」

ラルBはAよりも愛国精神旺盛であるらしく、憮然としている。これは気質に差異があるだけでは説明がつかない事だ。

「ここまで違うとはな。これぞ平行世界というやつだな」

「平行世界、か。向こうではどうなんだ、私は」

「国がオストマルクを吸収合併して、欧州第二の強国に成長したから、言動に余裕があるよ」(たぶん、カールスラントが戦後に資源小国に転落する恐怖でもあるな、こりゃ)

「ん?『第三』ではないのか?」

「ガリアが介入者のせいで植民地と切り離された上に、軍事力も衰退したから、カールスラントが大きくなったんだ。オストマルクの分も使えるようになったしな」

オストマルク、未来世界で言うところのオーストリア・ハンガリー帝国がカールスラントと合併し、その軍事力をそのまま取り込んだため、カールスラントは欧州随一の領土を持つに至った。最盛期の扶桑皇国ほどではないが、欧州最高レベルの影響力を振るえる。

(そいや竹井大尉、いや少佐になったっけ……のじいさま、元老達の直接の後輩じゃないのか?岡田啓介が見舞いに来たし。いや、日本海海戦の巡洋艦艦長級だとしたら、岡田啓介と同期、あるいはその数クラス下かな?)

と、思考を巡らせるフェイト。

「君は、私の知る君自身より言動に余裕がないように見えるぞ?ラル少佐」

「向こうで如何に私がどんな立場であるにしろ、今の私自身に影響があるわけでもないしな。それに、ここへはめったに補給物資も来んからな。それが大きい」

「いや、その心配はない。ついたようだ」

「なんだあれは!?」

「友軍の輸送機編隊だ」

ミデア輸送機の編隊が補給物資を持って飛来した。その数は9機。一個師団が数ヶ月食っていけるだけの食料品、弾薬、新鋭機を輸送してきたのだ。もちろん、ストライカーと武器はA世界での最高のものだ。

「私が手配しておいた。一機で300トン運べるジェット輸送機だ。これで当分は飯と弾薬には困らんだろう。陸軍の一個師団が数回の会戦出来るだけの弾薬は運んだ。機材は最新鋭機だ」

「……航空機で運べる量ではないぞ……。信じられん」

「それが未来科学だ。ストライカーもより進んだ世代のを運ばせてある」

「な、何ぃ!?」

この時期、502はストライカーの更新を控えていたが、A世界の厚意により、1948年時点での現行機が回された。もちろん、ジェットストライカーだ。扶桑から調達したので、機種は旭光になる。最も、扶桑では早くも二線級に落ちたので、工場の余剰機を回しただけである。扶桑では超音速機の栄光が出回り初め、黒江達はイーグルを合成鉱山の素で掘り出して使っているので、旧式もいいところである。

(まぁ、現行機とは言え、グレードは落としてるが。未来の介入がない場合の技術だと、旭光で十年は第一級だろう。イーグルは余程でないと使わんかもな)

当たり前だが、旭光はメッサーシャルフme262よりも進んだ技術で設計されているので、この世界の技術では手に余るところもある。エンジンは同時代の水準だが、洗練された設計などで、第一世代としては最高レベルの格闘戦能力を持つ。第一世代ジェットストライカーでは最高傑作である。もっとも、黒江の厚意により、ラルとロスマン、それとサーシャ用の予備に、F-15も混じっているが。


(それ以前に、当面の間は大丈夫だろう。綾香さん達がこてんぱんにノシたんだったら、半年は出てこれんだろう)

と、フェイトが独白するほど、黒江達の暴れっぷりは凄まじく、ペテルブルグ周辺の地形が変わるほどの大爆発が起こりまくっていて、下原を回収しに来たアウロラBが絶句するほどの暴れっぷりだった。

「な、なんだこれは!?」

「アウロラさん……」

アウロラBも絶句するその光景。智子が黄金聖衣を纏った状態で変身したので、アウロラも下原も呆然とその光景を見つめる事しかできない。その状態でオーロラエクスキューションを放ち、敵を凍結させて破壊したので、ますますパニックだ。

「あいつらはいったい何者なんだ!?」

「わ、私もよく分かりません〜!」

「どういう事だ!?」

「扶桑で昔、有名だったウィッチなんですけど、あなたより年上に当たるはずなんです」

「なにィ!?エクスウィッチだと!?」

「ええ。私の知る限りは……。私の教官が新兵だった頃の教官や隊長級だったはずなので、おそらく、今は20代の半ばに差し掛かる年齢のはず…」

と、驚く下原。黒江と智子はアウロラよりも上の世代であり、本来ならこの時期には『老兵』として余生を送っているはずである。だが、目の前の二人は、明らかに『現役世代』よりも圧倒的に強く、力も衰えているどころか、むしろ増している。

『アークプラズマ!!』

『フリージングコフィン!!』

『ザァァウゥゥルッガイザァアアア!』

雷と電気。氷と炎。対照的な力を駆使する二人。更にガイちゃんも加わり、ザウルガイザーを放つので、ますます困惑する二人。



――この戦闘で撃破された怪異は戦線の様相を変える程の数であり、空戦型も陸戦型も有無を言わさずに凄まじい数が破壊されたため、502がペテルブルグに駐留する意義が薄れるほどの凄まじい戦果だった。その張本人が誰であるかは上層部により伏せられた。また、下原に緘口令が引かれており、ラルが圧力をかけたことも非公表の一因だった。戦闘終了時、怪異は綺麗さっぱり消え失せており、静寂が戦場にはあった。502内でも、エクスウィッチが戦場を支配していたという信じがたい話に疑念が湧いたが、あの伯爵が真面目に語った事や、当人達が『扶桑のかつての英雄』であると意図的に告げた事もあり、芳佳のことが噂程度に流れたのもあり、嘘ではないと受け止められた。ロスマンとラルの新人時代の教官や隊長世代のウィッチであるという事は、1945年当時では20代前半から半ば程度と推測されたが、それを感じさせない若々しさが驚きをもって迎えられた。こうして、B世界をもテリトリーにして、黄金聖闘士三人とガイちゃん、ハルトマンはB世界の調査を兼ねて、しばし滞在するのだった――。因みに伯爵はハルトマンAに手を出そうとしたが……。

「はぁ〜くしゃーく?ふざけないでくれる?首、落とすよ?」

「ま、ま、まってくれ!じ、冗談だってば……!」

ハルトマンAは伯爵の趣味に苛ついており、この時に遂にブチ切れたのだ。ハルトマンAは501で同僚になっている事もあり、手を出されそうになった事もある。その堪忍袋が切れたのだ。

『飛天御剣流・龍巣閃!!』

「あ、あぁ〜!?こ、こんなところで半裸にさせないでくれぇ!」

龍巣閃で服をたたっ斬り、半裸にする。

「知〜らない」

「ま、待ってくれぇ!ご、後生だ……」

プイッと去っていくハルトマンを半裸で追いかける伯爵。当然、この次の日、熱を出したのは言うまでもないが、「ハルトマンになら、お仕置きされたいな…」と、うわ言を言い、黒江達含めてドン引きさせたという。



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