外伝2『太平洋戦争編』
九十四話『日本連邦軍の初陣』


――扶桑皇国軍は1945年当時の最新兵器を欲したが、自衛隊の使用品を配備することに拘る日本防衛省との齟齬が生じたため、前線では旧式兵器の稼働率がどんどん下がっていた。それを見かねた防衛大臣と扶桑国防大臣の提案により、『扶桑の要望に答えて』というのを大義名分に、扶桑国内の1945年当時の最新兵器の生産ラインを復活させた。そのため、実質的は国内で余っていた、各兵器の関連部品の在庫処分という方が正しい。陸戦兵器では、当時、五式中戦車改型の就役で意義を失ったとは言え、四式中戦車は新鋭戦車であるはずだったので、主砲を換装し、足回りは新規製造品に変えた四式中戦車改がその主な再生産品であった。これは61式のコピーに成功している事を鑑み、それとの共通部品を増やしたかった事も絡んだもので、四式の外観を概ね保ったが、性能面では61式の改善型その二というべき代物である。また、配備数の少ない一〇〇式短機関銃の再生産と配備が増加するなど、主に日本へのリップ・サービスが大きかった。史実日本が悩んだのが陸戦の火力不足なので、それを増強しようとする防衛省の思惑があったが、結局は塹壕戦を引き起こしたというスキャンダルが露見すると、彼らは『旧軍の兵器は質が悪いので、自衛隊式兵器に一気に更新させるには荒療治してでも……』と当時の防衛事務次官の言い訳が虚しく響いた。また、九九式以前の小銃の在庫処分が裏目に出たので、穴埋めに『豊和M1500』が配備される珍事も起こったし、自衛隊の兵器庫に眠っていた『M3サブマシンガン』の在庫が再整備されて回されていった。その防衛事務次官はあきつ丸事件での前任者の不始末の後始末に追われていたため、ある意味では、前任者の撒き散らした泥を引っ被る羽目になったと言える。また、防衛省のみならず、『旧軍兵器は質が悪い』というのは後世日本人の共通認識であり、扶桑の塹壕戦は彼らのその認識が結果として助長してしまった事になる。2018年の晩夏から扶桑向けの生産ラインが構築され、扶桑国内での生産ラインと併せて、南洋の前線に供給可能になったのは、48年の晩春と遅かった。――


――1948年に入ると、リベリオンが空輸を駆使しての補給網を構築に成功。所々で攻勢の予兆が見られるようになっていた。扶桑軍は自衛隊部隊を用いたハラスメント攻撃に限界を感じ、反転攻勢を構想していたが、肝心要の新兵器の生産立ち上がりは如何ともし難いものがあった――



――扶桑国防省――

「74式のコピー生産はどうなっている?」

「はっ。現在、自衛隊から提供されたパワーアップキットの適合試験中であり、配備にはあと数週間は」

「実地でやればよかろう」

「日本側がどうしても会社で行うと。なので、我々としては先行試作車を戦線に送り込むつもりです」

これは日本側の厳格な品質管理が戦時では『悠長』と取られた要因である。74式のパワーアップキットは、成形炸薬弾などへの防御力強化のための増加装甲で、日本側では採用されていない案であった。扶桑は当時の敵戦車の水準が第二次世界大戦型の範疇である事から、原型のままでもいいと考えていたが、途中から加わった日本側の開発担当者が『兵士(にんげん)と兵器、使い捨てにして良いならテストなんて省略してやる。どちらかでも大切にしたいと言うなら、テストはしっかりやらせろ』と言ったのもあり、74式のコピーであり、旧軍式最後の命名となるだろう『七式中戦車』は充分なテストを重ね、それに合格し、1948年に配備が開始された。それらはミデアなどの空輸、輸送船での運搬などを駆使して、損耗を重ねていた戦車師団などに緊急配備されていった。戦車師団への16式機動戦闘車の配備も勧められたが、自衛隊配備車が怪力ウィッチの手で横転させられ、砲塔をもがれて損失した事例などから忌避された。(それは極めて珍しい事例であったが、同車は活躍はしたが、ウィッチの遠距離狙撃や怪力ウィッチがそのパワーで粉砕する例も多く、扶桑での採用は見送られた。また、自衛隊でも大量配備が当面の間見送られるという悪影響を生じさせた。これはテケ車的な運用を考えていた扶桑軍と、普通科の支援砲撃車として考えていた自衛隊の齟齬も大きかった。運用方法が現地では軽戦車扱いだったのも大きい。これにより、財務省からの指摘を逃れるため、同車は最新鋭装備でありながら、『実戦で役に立たない』とするレッテルを貼られ、日本でも改良型の開発まで低評価と散々な事になった)そのため、扶桑の装甲部隊はその点では冷戦時代の水準と評価されたという。

「現地の連中が16式機動戦闘車をテケ車やハ号車と同様に運用しおったせいで、自衛隊も同車の大量配備に失敗したそうだ。財務の連中から後ろ指を指されないようにするためだとか」

「私が戦線を視察してきましたが、『砲塔付の突撃砲みたいなもんなんだから、戦車やウィッチと直接撃ち合うとか馬鹿なん?』とかこき下ろされておりました」

「で、宮崎閣下はなんと」

「現地部隊のアホぶりに悩んでおりました」

南洋方面戦線責任者で、ミッドチルダ動乱で戦功を立てた『宮崎繁三郎』中将はその現場の齟齬に悩んでいた。史実でも太平洋戦争最高レベルの野戦指揮官であった彼だが、現場の16式の稚拙な運用に悩んでいると、国防省の担当者に愚痴っていた。

「彼自身が日本に赴き、現状を説明すると仰っております。『戦力の適正配置を出来ない間抜けの運用の結果によるもの』とはっきり言うつもりで」

「閣下も頭が痛いだろう。今、南洋方面にいるのは、以前は本土にいた第4戦車師団だろ?連中はM動乱に行ってないからなぁ」

第4戦車師団。扶桑では最も新参の戦車師団で、元々は教導学校の車両を実戦化した部隊であった。訓練密度は高いが、実戦経験の有無は如何ともし難いものがあった。そのため、宮崎繁三郎も実戦経験のある『第一戦車師団から第三戦車師団を寄越せ』と愚痴っている。

「16式には悪いことをした。第4の連中の司令部は戦線を知らん。頭が12年ほど前で止まっとるのだろう」

同師団の名倉栞中将は話せば分かる人物ではあるが、教導畑で実戦の戦車戦には無知である。そこも16式機動戦闘車の悲劇はあった。また、扶桑海事変にさえ参戦していない彼の経歴から、統合幕僚会議のミスキャストと自衛隊の7師からは揶揄されている。(第一戦車師団と第二戦車師団はミッドチルダ動乱を戦い抜いた猛者で固められていたが、過去の大本営陸軍部の資料によれば、大陸領奪還のために温存と記されていた)そのため、宮崎繁三郎も第4戦車師団を『オツムが事変の前で止まっとる連中』と怒っている。現場からの不評に対し、統合幕僚会議でも評議が重ねられ、『七式の配備完了と共に、第一戦車師団と第二戦車師団を派遣し、第四を損耗回復の名目で後送する』案が採択された。また、輸送艦の安全確保のため、敵海軍を誘い出して痛撃するという陽動も実行された。その陽動には『目立つ』標的が必要と判断され、64Fが空母瑞鶴、大鳳、翔鶴に分乗して投入された。


――太平洋のとある海域 空母瑞鶴――

「改造された瑞鶴に乗って、大和と信濃の直掩と制空を担当するたぁな。思ったよりは早いな」

「敵がまんまと乗ってくれたおかげよ。これで若い連中に実戦の空気を教えられる」

「しかしなぁ。わざわざ三隻に分乗させてまで動員する必要はあるのか?敵のウィッチ部隊は潜水艦による輸送が仇になって死に体だぜ?」

「仕方がないでしょ。海軍ウィッチ部隊は練度が可哀想な事になってて、洋上航法も覚束ないんだから」

「集中して運用して常に誰かしら行動出来る様にする事で全滅を防ぐしかねーが、海軍のウィッチ閥は若本以外はわかんねーからな」

48年になっても、海軍ウィッチの練度は昔年の水準には到達せず、仕方がなく、次元震パニックの収拾に奔走中の64Fを駆り出した海軍。海軍の都合で駆り出されたので、珍しく不機嫌な黒江。

「監視や偵察の眼は高いところに有った方が良い、警戒機や戦闘哨戒の戦闘機やウィッチを交替で上げて置くことで初動も早くなるしな。坂本から連絡は?」

「敵艦隊の発見の連絡は入ってないわね」

「そうか。智子、敵の陣容は分かったか?」

「偵察衛星の解析だと、モンタナ級が三、エセックスの改造タイプが三、オリジナルタイプが四。デモイン級やフレッチャー級が多数よ」

「そうなると、ウィッチがいたら、F2Hくらいは回ってるな。だが、旭光の敵じゃないな」

当時、リベリオン本国のウィッチ部隊はようやく緊急の大規模育成の成果が出始めていた。太平洋戦争でウィッチが空母に搭乗し、お互いに大規模に投入しあう海戦は開戦から二年目にして、これが初だった。黒江の読み通り、敵ウィッチ部隊のジェットストライカーは扶桑が世代的にも優位で、敵はせいぜい『F2H』か『F9F』初期型であった。


『全ウィッチは作戦室に集合。坂本から緊急電が入った。繰り返す……』

武子の放送に従い、『新撰組』の中でも最高練度を持つ中隊は作戦室に集まった。メンバーはレイブンズに宮藤、菅野、下原のトリオ、孝美、西沢、黒田、それと武子の護衛として、調もいた。

「敵の戦爆連合ウィッチ部隊の第一波が本艦隊に迫っている。敵の数はおおよそ40。オリジナルタイプのエセックスから発艦したものと思われる。我々はこれを要撃、撃滅する。各員は僚機との連携を密にせよ」

ウィッチは少数精鋭の兵科であったため、これだけの数のウィッチの投入は事変でも例がない。

「多いな」

「急降下爆撃ウィッチの衰退は見えてるから、その護衛に大目に戦闘ウィッチを出したんでしょう。爆装も考えられる。そうなると、任務放棄になるから、こちらが有利よ。坂本の魔眼での分析だと、敵機はせいぜいF2HとF9F。黎明期のジェット戦闘脚だから、旭光の敵じゃないわ」

「連中は練度は高くないから、こっちの接近戦闘には狼狽えるはずだ。こりゃ下手すると七面鳥打ちだぜ」

「貴方にしては余裕ね?」

「敵はオレらの事も知らんようなペーペーしかいないだろうし、空中戦のなんたるかもわかんねぇ連中だ。史実と違ってサッチ・ウィーブ知ってる熟練者は殆ど海の藻屑だろうしな」

黒江は珍しく、『オレ』という一人称を使った。オレと言う時はたいてい、不機嫌な時だ。

「今日は不機嫌ね」

「海軍連中に休暇棚上げで駆り出されりゃな」

「その分は敵を落として海軍連中を唸らせてから取り返しなさい」

「へいへい」

48年まで次元震パニックの都合で殆ど休暇が無かったのに、海軍の都合で駆り出されたのにご機嫌斜めの黒江。

「師匠、ここのところ日曜日も無かったですから」

「おまけに、響の奴は勘違いして襲って来るわ、クリスの奴には、またババア呼ばわりされたしー。もちろん、あいつらはのしたけど」

シンフォギア装者達のBに襲撃され、返り討ちにした事を告げる。黒江は素でシンフォギア展開状態の響の攻撃を物ともしないため、今回は手の内を知ってるので楽だった。響の全力をエクスカリバーで以て打ち砕いている。Aが聖遺物と融合した状態でもエネルギーを受け流せないエクスカリバーを、普通の適合者になったBが受け流せる道理はない。どういうわけか、必ず戦闘になるのは不思議がっている黒江。

「なんでいつも戦闘になるんだろ?」

「そりゃ、貴方が調を連れてるからじゃ?」

「そうかー?ロスマンなんて、教育総監になったのに喧々諤々だったから、『マキ』のところの世界に日本人の不良に変身させて潜り込ませたぞ」

「ああ、前史で会ったあの子達の。もしかして、風神雷神に?」

「風神の『矢島風子』の方に変身させて、雷神の『北島雷奈』は、川内に頼んで変身してもらって潜り込ませた。川内がノリいいから助かったぜ」

黒江達は他者を変身させる事も可能であり、特務階級創設事件で喧々諤々のエディータ・ロスマンを『紫電改のマキ世界』に送り込んだ。『矢島風子』という日本人として。これはハルトマンの発案で、別人として過ごす事で気分転換に、と言う事で実行した。当人もエディータ・ロスマンという、自分の名と名声の呪縛から開放された事で、気が楽になったか、すっかり『矢島風子』になりきっているらしい。変身した姿で川内と共に、日本の学園ライフを楽しんでいるらしい。

「師匠、遊んでません?」

「まー、こうしないとやってらんねーかんな」

黒江はよほど休暇返上が腹に据えかねているようだが、ロスマンにこういう計らいをするあたり、根本的には姉御肌なのがわかる。川内も『北島雷奈』になりきって、鍾馗を石神女子で飛ばしており、当機を絶賛している。鍾馗は黒江と智子がそうであるように、一撃離脱戦法で真価を発揮する。川内はそれを知っているため、ロスマンと共に、『紫電改のマキ』世界を堪能しているとの事。最も、役は演じているが、川内は『夜偵か零偵の方が落ち着くけどドッグファイトなら零観辺りが良いなぁ』との事。これは鍾馗が陸軍機で、自分は海軍であることに由来する。

「でも、響さんはどこでも、エクスカリバーに怯みませんでしたね」

「あいつは『だとしても!!』とかが口癖だから、ある意味で始末に負えないんだ。それとガンニグールの絶対性を過信してる節があるから、エクスカリバーは奴にはいい薬になる」

黒江が約束された勝利の剣を持っている事の意味を教えられても、響はどこの世界でも、ひるまずに挑んでくる。それは黒江にとっては『面倒っちい相手』である証である。

「響さんって『自分の立ち位置が掴みきれてない高校デビューのヤンキー的思考』かも。普通は約束された勝利の剣にびびっちゃうはずですよ」

調が言う。響Bには忠告したが、響Bはいつものパターンで突っ込み、エクスカリバーの餌食になった事からの読みである。一応、『どうなっても知りませんよ!?』と止めているが、響Bはエネルギーを受け流そうとして昏倒したので、まともに受け流せるエネルギー許容量は聖遺物一体化状態よりは落ちているのが分かった。

「だよなぁ。クリスはどこの世界でも、生年月日聞くとババア言いやがる。響の野郎、田舎の武闘派ヤンキーかよ!取り合えず突っ掛かって強さ確かめる様な事してると死んでも知らんぞ!というか、次も変わらんなら殺っちまおうか…」

「物騒ね?」

「師匠は成り代わってた時期に、響さんと何回か戦ってるんです。B世界の響さん、それを教えられて苦笑いしてました」

「でしょうね。聖闘士の技でも昏倒しないタフネスさは褒めるべきね、あの子」

響Bはこの時、ホテルで待機中だが、遭遇時に黒江や調と交戦しても気絶に至らない事から、赤松が孔雀座の奥義でぶっ飛ばして始めて気絶に至るほどのタフネスさを見せたので、聖遺物と融合していた名残だと推測されている。武子も納得するあたり、シンフォギア装者との遭遇の際には自分も苦労したであろう事が窺える。

「それと、綾香。貴方がいくと99%で戦ってないかしら?」

「そうなっちまうんだよ。こいつ連れてると」

調を連れていたので、クリス、響、切歌の三者と必ず交戦している事になる黒江。

「クリスはまだ可愛げ有るけど、響の脳筋具合だけは好きになれん、基本良い子なんだけどな……。血が上ったなのはと同じ反応が即座にっては危うい、少しは考えてくれないか向こうの司令殿と相談しなきゃなぁ。カンフー映画の見すぎだぜ」

響は一本気なところがあり、後先考えずに突っ込むケースが多い。そこは直しようはないため、如何にして統制するか。その事が黒江が成り代わり期の後期に苦労したことである。もっとも、響は『前向きな自殺願望』とも言うべき悪癖を持っており、そこが黒江を苦労させた点である。ガンニグールの力を盲信/依存するあまりにエクスカリバーの名を聞いても『対抗できる』と信じ込んだのが、黒江/調の両者を呆れさせ、同時に同情させた。つまりはガンニグールの力も絶対ではなく、シンフォギア世界の神ではない神々へはシンフォギア世界での哲学兵装化した『神殺し』の力は実質的に無いものと同じなのだ。それが黄金聖闘士であり、真なる神殺しが可能である黒江、その力を受け継いだ調Aに一歩及ばない点である。(もっとも、響はA/B共に『世界の中心』足り得る存在であるので、聖闘士の領域に頑張れば届くと見込まれている)

「あいつ、家庭が崩壊して、それを自分の力で立て直した経緯や、前のガンニグールの装者が自分を助けるために死んだとかの影響が大きいからなー。相手の地雷を狙ったように踏み抜く癖もある。言うなら、相手を理解しようと考えるあまり、相手が入り込まれたくない領域を侵す危険を考えないって奴だな」

黒江なりの立花響への人物評だった。悪意がなくても、相手の入り込まれたくない領域を自然と侵す悪癖や、こうだと考えると、何が何でもやろうとする思考からか、『面倒っちい』と見られている。相手が神であろうと、ガンニグールに依存する(マリアが緊急で響のガンニグールを再度纏った際には、強く依存している様子を見せている)ため、それがA世界では危惧されている)。

「あいつはなんと言おうか。面倒っちい奴なんだよ。踏み込む前にある程度は察しろと言ってもそこまで気が()れてないからなぁ」

話を終え、一同は出撃した。三空母からのウィッチの要撃は直掩を残す必要があるので、新撰組の主力メンバーが要撃に当たった。その数は20。およそ半分程度だが、いずれも百戦錬磨のベテランかつエースパイロット。坂本の空中管制のもと、敵攻撃部隊と接触した。敵の側面に回り込み敵のレーダーの死角からの急襲を行い、即座に半数を撃破する結果となった。




――戦場――

戦は高度6000で起こった。戦闘ウィッチが多めであるのは、翼部に爆弾を携行可能な構造のジェットストライカーが多いためだ。そのため、64Fとしては楽な戦闘であった。爆弾を投棄させれば、半分は目的を達していたし、爆撃ウィッチは旧式のSBDを使用していた事、怪異との戦を前提に、自主的に装甲板を外し、運動性能を向上させていた事が仇となり、リボルバーカノンが一発でも当たれば、エンジンの停止すら起こるような状態であったため、64Fの火力は『威力過剰』であった。これは扶桑は、史実米軍の鉄壁の防弾を前提にした火力が実務上もそうだが、政治的にも必要に迫られたからでもある。


「落ちなさいっ!」

智子は相手のストライカーの片翼のフラップを狙い打ち、バランスを崩させて落とす。低練度ウィッチはこれに為す術はなく、クルクルと弧を描くように落ちてゆく。思ったより遥かに呆気ない。これはウィッチの多くが対ウィッチ戦のノウハウがなく、装備も怪異との戦闘を前提にした『運動性能重視のセッティング』と機体本体の軽量化を自主的に行う事が爆撃ウィッチでも横行していたからだ。そのため、場合によるが、ストライカー自体が一発の被弾でへし折れる事も当たり前で、SBDのウィッチ達は阿鼻叫喚の地獄だった。

「呆気ないわね。弾がもったいないくらいよ、これ。カトンボみたいに落ちていくわ、武子」

「仕方ないわよ。連中、怪異との戦闘前提に、防弾板外してたんでしょ。まぁ、あっても30ミリ砲は防げないけど」

「それにしたって、呆気なさすぎ。模擬標的みたいよ」

「練度が落ちてるんでしょうね。連中も開戦直後からの潜水艦狩りの影響で熟練者が不足してるっていうし」

「これじゃ張り合いがないわね。私らだけでお釣りくるわよ」

「極天隊の連中も連れてくるべきだったわね。これほど敵が容易いとは」

極天隊は他部隊から預かった者も多い錬成部隊である。そのため、連れてくるべきだったかとぼやく武子。

「こんなんで自信過剰になられても困るから極天隊は控えで良いんだよ」

黒江が言う。正直、敵はカトンボも同然で、自分達であれば、あと10分もあれば撃退できるだろう。

「パンサーもだが、正直言ってさ。連中はジェットの特性理解してねぇ。スロットルの開き方をレシプロと同じ感覚でしようとしたから、かってに落ちた馬鹿もいた」

「連中は急いで錬成された者が大半のようね。だからジェットの扱いに慣れてないんだわ。同情したくなるわね」

武子も呆れるほどに敵戦爆連合は脆かった。自分達が引っかき回しただけで、統制が崩壊し、本来の任務を忘却している。

「各機、敵の様子を報告」

「こちら菅野。あくびが出ますぜ。オレが拳を振り上げただけでブルッて逃げる奴まで出てきた」

「こちら雁渕。戦意喪失状態の子が10人以上いますね。哀れになってきました」

「こちら宮藤。うーん。ここまで脆くちゃ哀れなくらいですよ。まともなのが編隊長級しかいない」

これはリベリオンウィッチ閥の勇み足が招いた悲劇でもあった。相手が百戦錬磨の64Fであった事もあるが、戦闘とすら言えないほどの一方的な戦いだった。あまりに一方的なので、敢えて逃した例もあった。その結果、戦爆連合は本来の任務も、戦闘の勝利も出来ずに大敗北を喫する事になった。

「……で、どーする?こっちがあっという間に終わったぜ?このまま敵艦でもやるか?」

「いえ、味方が砲戦に入ったらでいいわ。そっちは互角になるだろうし」

「モンタナか。ラ級のは破壊したのに、懲りねぇ連中」

「いや、連中も18インチの実験に入っていたはずよ。それに積み替えていた場合は互角になるわ。仮想戦記じゃないけど、51cm砲も考えてたらしいわよ」

「マジかよ」

「三隻のうちの二隻は連装砲になっていたわ。つまりは45.7cm砲に積み替えたか、東海岸から頑張って回したか」

「単純に載せ替えただけで、ここまで時間かかるか?」

「建造途中の船体を改良したと見るべきでしょうね。投射重量はこちらの方が上とは言え、長引きそうね」

大和型が改装されているとは言え、改モンタナ相手では長引きそうである。超甲巡を連れていたのは吉と出そうだ。上空で一同が見守る中、陽動目的というものの、近代では大海戦が巻き起こった。

「ん?今回は伊藤さんが指揮してるのか?」

「いや、宇垣さんだって」

「あの鉄砲屋さんか。さんざ史実のことでつつかれて怒ってたなー、あの黄金仮面」

「宇垣さんは山本大臣の時の参謀長だったけど、殆ど仕事しなかったーとか特攻させたーとか言われて思い切り怒ってたから、その鬱憤晴らしの機会でしょうねー」

智子も言う。宇垣纏が今回の作戦で艦隊を率いた理由は『鬱憤晴らし』が半分、鉄砲屋で定評がある指揮官かつ、大和型の乗艦経験者であり、栗田健男以外という条件で消去法で選ばれた。人当たりが心配の種である以外は堅実な人選だった。

「いよいよよ」

武子が言うとおり、大和型の主砲が指向しだす。射程は波動カートリッジ弾などを有する大和型が依然として勝っているが、それはカタログスペックでの話だ。実際は25000で撃つので、敵も味方も似たようなものだ。だが、大和型よりも先に、モンタナ級が放った。武子の言う通りに強化されたらしい。水柱もそれまでよりも大きい事から、45.7cm砲を積んでいるのは確定した。宇垣纏が反撃を下令したのは、敵の数回の全力射撃が降り注いだ後であった。そして、宇垣が狙ったのはモンタナではなく、随伴艦であるデモインの一隻だった。たとえ、最強の重巡洋艦のデモインであろうと、戦艦相手、それも大和型の砲弾に耐えられる道理はない。一発でも直撃すれば、主砲塔の一つは稼働不能にさせられる。それが証明された。


「うおっ!デモインの一隻に大和型の砲弾が当たったみてーだ。主砲塔が一つひしゃげてる」

「よく原型保ったわねぇ。たしか天蓋は例にもれず薄いはずよ」

「流石、造船王国リベリオン。たとえ重巡洋艦でも、大和型の攻撃に一発は耐えるか…」

「いや、当たりが浅かったな、でなきゃはじかれないだろう。角度の問題だな」

「そうなの?」

「前に宮藤から聞いたんだが、徹甲弾は角度によってはある程度の装甲が傾斜すれば、避弾経始で弾かれるそうだぜ。側面か防盾の角にでも当たったな」


デモインは前級より相当に防御力が上がっているが、重巡洋艦の範疇は出ない。そのため、デモイン級の一隻は主砲塔の内部が酷い事になっている。たとえ弾いても、振動で証明が落ちている可能性は高い。

「戦艦は戦車みて〜に有翼の筒入り徹甲弾なんて無いからなー。その分、重巡洋艦でも大和型の砲弾弾く事もありえるってこった」

「21世紀の連中は知らないんだよねー。戦車砲と戦艦の主砲はライフリングの付け方が違ったりするのー。だからロストテクノロジーなんて言われてるんだ」

芳佳が杏の調子で会話に加わる。


「そ、そうなの?」

「隊長、21世紀だと滑腔砲がトレンドだから、ライフリングあるのイギリスくらいですよーだけど、戦艦の主砲には使えないんですよ」

「確か、ショックカノンができるまで、強度用の巻線とか、大口径砲の巻き方は忘れ去られた技術だったんだ。アイオワが現役末期に主砲を新造されなかったのも、そういう理由だった気が」

「21世紀に新造されたアメリカの戦艦の主砲はリベリオンの製品を乗っけただけだった気がしますね」

「保守整備はできても新造は出来ないって言われてたからな、アメリカ。記念艦になったのも、第二次世界大戦中に作った砲身の命数がとうとう尽きて、予備も無くなったからだし」

「どうしてそんな事をやったの?」

「時のアメリカ大統領が実業家出身のタカ派で、ズムウォルト級駆逐艦の量産がポシャって、海兵隊と海軍が揉めたから、『艦砲射撃がしたいのなら、バトルシップを作り直せ』って言ったんです。計画自体はその前の大統領の頃に認可されてたけど、砲身が作れないから頓挫してたのを、亡命リベリオンに兵器売るのとバーターで交換したとか」

「ズムウォルトって、あのてんこ盛りを目指したけど、最後には『武器が削減されまくって、汎用性もクソも無くなった』とかいう珍駆逐艦?」

「電子装備は高価なんだよ。戦艦の代わりに砲撃支援をする目的に使うのに、あれこれ詰め込みすぎたんだよ。で、財政難で対空武器統制システムが開発失敗したから、実物は扱いづらい代物になったんだ。砲の威力も乙巡程度だし、いささか非力だしな」

ズムウォルトはコストが予想以上にかかる上、高機能化したアーレイ・バーク級を代替するメリットもない事から三隻で打ち切られ、当初目的は到底なし得なかった。その事でアイオワの復帰を希望した海兵隊と、ズムウォルトの量産でそれを無くそうとした海軍が揉め、結果として日本が扶桑から、大和型を含む大型水上艦を借り受けて使用しだした事への対抗意識と、日本の増長を止めるため、時の海軍作戦部長が推進させたのが『BBリヴァイブ計画』だった。アメリカなので、正確には『リライブ』と言うべきか。アメリカとしては『リスタート・オブ・バトルシップ』計画である。日本と扶桑が連邦を組む事で、再び日本が軍事的に太平洋に覇を唱える事が予想され、それを懸念した作戦部長が2000年代半ばから強引に推進させた。だが、砲塔製造がもはや不可能であった事から、一時は頓挫するかに見えた。だが、救いの神はあるもので、亡命リベリオンや扶桑皇国に航空兵器のライセンス取得を許す見返りに、戦艦の主砲製造技術と艦艇の装甲配置ノウハウをもたらしてもらう事でバーターとし、2010年代後半に一挙に具現化した。それが所謂、『モンタナ(21世紀米国版)』である。当初はリスタートという事で、艦名はユナイテッド・ステーツが予定されたが、部内の『縁起が悪い』との反対意見により結果として頓挫。結局、未成艦からの流用で落ち着いた。これは旧戦艦の名を受け継ぐ事が多い原子力潜水艦閥の反発を招いたが、元来は戦艦が州名を襲名できる規則であったので、時の大統領の一括で収まった。そのため、未成艦の流用で同型艦は占められ、基本的にかつての計画と同じ名が使われた。三番艦はオハイオとなった。これは元々の計画であった1943年次の建造計画とはオハイオとメインが逆となった。それらと同名の原子力潜水艦が改名する珍事となった。(それらの多くは既に原子力潜水艦が襲名していたが、戦艦の見栄えの良さから、州名を襲名して欲しいとする嘆願が生じ、異例の改名騒ぎとなった)そのため、結果として、政治的に使いづらい原子力潜水艦よりも、目に見えて敵には脅威と見え、砲艦外交の本来の意味で有効な戦艦は一躍、『新造出来なくとも、保有すればある程度の戦争抑止力になる』船として、概ねは1940年代初期当時のポジションに復帰した。(そのため、アメリカの新モンタナは国産を謳っているが、完全な『国産品』ではない。そこは微妙なところで、大統領も苦渋の決断を下したと言える)報道班により、この戦も21世紀に中継されており、日米戦艦対決と銘打たれている。なんとも呑気だが、この一般人の呑気さがやがて、銀河100年戦争の勝利後の弛緩と、『限定戦争』の概念を産んでしまう伏線となるので、その未来を知る者にとっては複雑である。東方不敗が生前に『我が身を傷めぬ勝利が何をもたらす!?』と言ったが、扶桑とリベリオンの大戦も、日本の人々の多くには他人事でしかない。それが世界に根付いてしまった『悪い意味での個人主義』かもしれない。

「21世紀の連中、この戦闘をTVで見てるんだろうな。あー、そう考えると興ざめしちまうぜ」

「まー、湾岸戦争とか、ベトナム戦争はTVが重要な役目を担うメディアだったから、その辺は割り切りなさい。いくら銀河100年戦争の後に限定戦争の時代が来るって言ってもね」

「へいへい」

黒江は限定戦争の言葉の意味を知るため、そこには不満があるが、更に未来になると、生きるために、地球人類が友好種族と共に、ゲッターエンペラーのもと、宇宙規模の征服戦争に打って出る(生存の必要上であるが)事も知るため、限定戦争の概念が普及した100年戦争後の安定期のことは快くは思っていないが、ゲッターエンペラーを必要とする敵がそう遠くない未来に現れるのも事実だ。

「イルミダスを23世紀の内に叩けりゃなぁ。あれが安定期が終わった後の地球を一時占領して、イルミダスが地球の宇宙移民を退去させたけど、当代のハーロックとヤマトに負けるとはわかってるとはいえ」

未来世界での更なる未来の出来事になるが、イルミダスは地球を打ち負かしたが、当代のハーロックやヤマトの反抗、その当時に太陽系から颯爽と出撃してきたゲッターエンペラーの神の如きパワーの前にイルミダスは殲滅されていき、遂には本星が滅んだ。それ以降、地球はゲッターエンペラーの力を押し立てて、宇宙に再び生存権を得てゆく。宇宙怪獣すらもゲッターエンペラーの前では有象無象に過ぎず、また、イルミダスよりも強い戦艦を得た地球は宇宙に覇を唱える事になる。そのため、イルミダスの降伏した生き残りらは『地球にGエネルギーを動力にした化物がいるなんて……』と嘆いており、彼らは地球を一時でも占領し、傲慢不遜に振る舞っていたのが、真ゲッターロボとゲッター聖ドラゴンが融合進化したゲッターエンペラーを覚醒めさせる要因となった。彼らの目の前でゲッターエンペラーのゲットマシンが本星を挟み潰す光景が起き、自業自得の最期を迎えるのだが、地球は復讐心に火がつくと、文字通りの殲滅を行う苛烈さを持つのも明らかとなり、イルミダスの滅亡後、地球は果て無い宇宙での生存競争に晒されていく。有名な宇宙海賊のハーロックの時代はそれより数百年先の30世紀くらいの年代の人間である。因みに、ハーロック曰く、アースフリートのその時の旗艦は『Gヤマト』で、艦長は古代と雪の末裔『古代将』(こだいすすむ)との事で、ハーロックの血縁者との事。30世紀はそれらを経て、地球が第二の大航海時代を迎えた中興の時代であるが、政府はまたまた弛緩したので、ハーロックや当代の古代は、ロンド・ベルが『役目』を終える頃に、その時代のアースフリートに招こうとしている。ロンド・ベルは戦乱期が終われば用済みと考える政府高官も多いため、ロンド・ベルは23世紀が平和になったら、ハーロックの手引で、30世紀で戦う事になっている。それはデザリアム戦役の際にロンド・ベルを支援している者達とキャプテン・ハーロックが結んだ密約である。戦役が落ち着けば、平和な世界には、スーパーロボットや強力な兵器はいらないと考える平和主義者もやはり一定数はいるため、スーパーロボットをそれらの勢力から守るための手段であった。(ロンド・ベルの立ち位置は戦時には重宝されるが、平時では危うくなる事の表れである)それはロンド・ベルの人間達が後の世から求められているという運命の皮肉でもあるが、アースフリートの政治的立ち位置の変化もロンド・ベルをさらなる未来人達が求める理由なのだ。アースフリートはいつしか、成立当初の趣旨が忘れ去られ、地球が危機の時にしか動けない艦隊と化しており、その事もロンド・ベルが求められる理由である。

「いずれ30世紀に行くだろ?その時にはアースフリートは規則で縛られて、満足に動けないそうだ。まったく、二度目の安定期は地球をまた弛緩させたようだぜ」

「戦争が数百年起きなければ、自然とそうなるわよ。問題は政府が弛緩しても、人々に戦う意志があるか。そうでなければゲッターエンペラーが守んないわよ」

黒江は平和になるたびに弛緩する地球連邦、そして、ガトランティス戦役でさえ起きなかった『地球の異星人による統治』を引き起こした27世紀の星間連邦へ怒りを見せる。仕方がないが、日本も戦争から70年ですっかり平和に慣れきっているのを考えれば仕方がないことであり、なんだかんだで黒江は純粋なところが多いのがわかる。

「うーん…」

「そんなに考え込まないの。ゲッターエンペラーやハーロック、歴代のヤマト、クイーンエメラルダスも30世紀にはいるんだし、それだけでも救いあるわよ」

「クイーンエメラルダスねぇ。トチローさんが愛したただ一人の女で、『あの人』の双子の姉だそうだが…」

クイーンエメラルダス。一代で名を成した偉大な女海賊であり、銀河鉄道のあの『女性』の双子の姉という意外な血縁関係がある。黒江が会ったのは、前史では数回のみだが、誇り高き女海賊であることは覚えている。女ハーロックともいうべきか。

「あの人とは数百年生きても、数回しか会って無かったから、印象が薄いんだよなー。ハーロックはよく来てくれるから覚えてるんだけど」

「黒江さん、溜まってますねぇ」

「30世紀の世界の状況を聞きゃな。呆れちまうぜ。23世紀の方が落ち着いたら、30世紀に招かれてるから、この戦争が50年代に終われば、行くぞ」

「規定事項じゃないですか」

「三輪が出てきたら疎まれるし、しばらくは姿消したほうが賢明だ。今回は部隊まるごとで行方くらますぞ」

ベトナム戦争が激戦になるタイミングでの帰還のため、戦間期は未来で生きようと考える黒江。その事を考えていたらしい。

「あ、髪伸びてきましたよ」

「ここんとこ床屋で切る暇なくて、前史の50年代に近づいてきたとは思ってたんだ、宮藤」

黒江はこの時期になると、次元震パニックの影響で髪を整える暇がなく、前史での戦間期のセミロングに髪型が近くなっていた。如何に多忙だったのかがわかる。印象が変わって見えるのはそのせいだ。

「今回はMATの教導があるんで、行けないかも。代わりに菅野さんに頼んでおきますよ。ハルトマンさんも行きたがってるし。それにその頃だと、剴子が生まれてるし」

「あー!そうか、お前。その時には二人の子持ちだ!」

「ええ。この戦争終わったら、上の子がすぐに」

「リーネに聞かれてなくて良かったな〜」

前史と同じ流れでいくと、芳佳は50年代に子宝に恵まれる事になる。前史での後継者の剴子は次女(末子)だ。リーネにはこれは言っていない。パニックになるからだ。

「ダンナには無事出逢えたんで、いきなり求婚されましたけど」

「なにぃ!?いきなりかよ!?」

「同じ立場だったんで、すんなりと話がまとまって。おばあちゃんやお母さんにも紹介したらすんなり。挙式は今度の休暇でするから、招待状渡しますよ」

「お、おう」

「あら、もう結婚?」

「前史が戦後直後だったけど、今回は大戦が延びそうなんで、戦争中に。仲人どうしよう」

「私がするわ。リーネには私から知らせるから」

「恩に着ます」

芳佳が婿に取った男性は、宮菱重工業の航空機部門で働く、当時若手のエンジニアで、後に、F-15Jストライカーの設計主務となる男であった。幸いにも前史の記憶持ちであったため、すぐにゴールイン。言葉の通りに婚約している。彼は芳佳の父の弟子の中では最も若く、この当時で30前半と異例の若さであった。従って、宮藤博士は自分の後継として育成するつもりで目をかけていた俊英であるのが分かる。従って、芳佳の母や祖母とも旧知の間柄で、そこもすんなり結婚できた理由だ。ただし、リーネの好意には、結婚が確定してからは困っており、武子が知らせると言うことで決着した。

「めでたいが、お前がゴールインするとなると、バルクホルンはアルトリアに任せよう。ハルトマンじゃ止められねえ。姉的意味で」

「いや、知ってるはずじゃ?」

「前史じゃ戦後直後だったろ、挙式」

「確かに。バルクホルンさん。前史みたいに祝う方向で暴走するなぁ。面白いと言いたいけど、そうも言ってられないか」

「さて、話はここまでよ。いよいよ敵艦隊の姿が見えてきたわ」

「25000以下に接近してきたな。ん、敵艦の重巡洋艦、えらく旧式のいないか?」

「ニューオーリンズ級ね。まだ残ってたのね……だいぶ老朽化してるはずだけど」

「デモインが普及してきてるなら、足手まといになるんじゃ」

「いえ、おそらく、パナマが落ちる前からハワイにいたんでしょう。帰ろうとしても、パナマが落ちて、航続距離の問題で遊兵になってたんでしょう。ポートランド級のインディアナポリスは集中砲火浴びるの目に見えてるだろうから、あれはニューオーリンズのほうよ」

「なんでいんだ?あれも水雷防御力が雀の涙で、酸素魚雷でも食らったらアボンだぞ」

「在庫整理でしょうね。スペックは時代遅れだし、失っても、タンカー付きで新鋭重巡洋艦を送ればいいから、いくらでも代えは効くから」

「艦政本部が聞いたら血涙流すなぁ、それ」

実際のところ、哨戒用として出したにすぎず、その価値は果てしなく低い。だが、新鋭艦の先導役としても動いている模様で、動きはいい。航続距離はその前級で10000海里のはずで、それを考えると通商破壊には差し支えないはずで、リベリオンの在庫整理の可能性も無くはない。

「一隻で活動してぞ。哨戒中か。攻撃するか?」

「陣容を通信される前に叩くわよ。三人で拿捕できればよし、そうでなくれば『浮かぶ廃材』にするわよ」

これは深読みのしすぎで、実際には海域踏査中であった。そのため、黒江達を捕捉すると、すぐに本隊に救援を要請して逃げに入った。この緊急電を受けた本隊は救援を急ぎ、本隊を直掩中のF6F編隊の内、六機ほど向かわせた。

「最初の航過でアンテナ線を切る、ってここで逃げるならピケだ!潰しとくぞ!」

「了解!」

三人はニューオーリンズ級を追い、最初の航過でアンテナ線を切ろうとするが、敵も意図に気づき、弾幕を放ち始めた。ジェットといえど、弾幕は脅威になる。砲弾の破片などを吸い込む危険があるからだ。そこで黒江は光速での体当たりを使った。

「おし、んじゃ転覆させるか!たしかこいつはトップヘビーだったような気が」

「あ、それ。その前の艦級ですよ」

「あ。まっ、いいか!どの道、光速で体当たりするんだ。同じ事だぜ!!某懐かしの格ゲーの要領で……鉄山こぉぉう!」

「それ、90年代のネタじゃないの」

「こまけえことはいいんだよ!」

黒江はシールドの技能は高くなく、本来ならそれは芳佳の領分だが、黒江にはエクスカリバーがある。そのため、体当たりの時は超電磁スピンのように、右の手刀を前に突き出して高速回転しながら体当たりした。

「智子さんがいたら『あなたには功夫が足りないわ!』とか言いますよ〜」

…と、茶化す芳佳。そういうところに角谷杏としての側面が出ている。体当たりは見事にニューオーリンズ級の喫水線に盛大に大穴を開けた。雷も纏っていたので、そのショックで片舷の対空火器の電源がショートし、稼働不能となる。プロセスは背中から体当たりして、鉄板にヒビを入れ、そこからエクスカリバーで穴を開け、通り抜けるものだ。

「功夫ならよ、調に成り代わってた時に、自己流で覚えた司令殿と響で見てるよ。映画を見て覚えたーとかってよ。まぁ、アキラさんから中国拳法は成り代わる直前に習ってはいたけどな」

「ああ、ブルーマスクの。あ、誘爆した。電撃入れてたでしょ」

「ああ。確実にダメージ与えたくてな」

離脱しつつ、芳佳と会話する黒江。誘爆したので、逆方向に離脱している。ニューオーリンズ級は黒煙と共に轟沈する。転覆時に弾薬庫が一斉に誘爆し、機関が水蒸気爆発したのだ。

「VT信管作動させちまったから至近距離でクレイモア食らった気分だぜ、冷や汗出たわ」

「VT信管がニューオーリンズにまで配備されてるとなると、ソフトウェア面の更新はきちんとしてることになるわね」

「関心してる場合かよ、武子」

「あなた、どうせ多少の傷は瞬時に治るでしょ」

「そりゃそうだが」

Gウィッチの中でも最上位になる黒江たちとなると、神格化しているので、肉体の傷の治癒は瞬時にできる。痛みはあるが、死にはしないので、武子はクールだ。ストライカーは履いているが、ナインセンシズを使うと、ストライカーの有無は関係無くなる。超光速で動けるからだ。

「で、敵の救援部隊のお出ましのようだが、面倒っちい。喰らえ!!」

黒江の離脱した方角に、救援のヘルキャット部隊が出現したが、エクスカリバーの手刀で主翼を斬られ、一瞬で壊滅する。おそらく、彼らには『何が起こった』のかもわからないだろう。それほどにナインセンシズに覚醒めた黄金聖闘士と普通の人間には差がある。

「これで五機撃墜っと。敵はジェットを使ってないのか?普通の方の」

「坂本が観測したところによると、F2Hが見えたそうだけど、改装済みの艦に先行配備した機体と考えていいって」

「だろうな。その前の奴も大して量産されてないし、バンシーが出てきたってことは、パンサーの前座扱いだろうな。クーガーが出てこない限り、栄光はもったいないな」

当時、扶桑では艦載ストライカーにも転用できる第二世代ジェットストライカー『栄光』(要はF-104J)の開発は終わっており、量産配備を待つのみであった。その原型のF-104はシャーリーがテストを行い、優先量産を具申している。これは当初、旭光の後継を目されたF-100(形式番号から『ハン』と渾名されている機体で、ペットネームはスーパーセイバー)に重大な欠陥があり、それより高性能な要撃機として制作中のF-104を源田が採用したという経緯がある。これは実機もそうだが、ノースリベリオン社の設計にミスが有り、ストライカーとしても実機と同じ欠陥があり、源田が当時では総合的に最高性能のスターファイターを採用させたというもので、ハルトマンが教導官として頑張っている。ただし、扶桑は純粋な制空ストライカーとして運用し、フラップモードの工夫で制空に使えるようにするので、これにはハルトマンも驚いている。黒江曰く、『西ドイツが馬鹿だったんだよ』との事で、今回はハルトマンが運用方針を決められる立場にいたので、扶桑同様に制空ストライカーとして運用させたという。

「あれを見たらリベリオン海軍は泡吹きますって。栄光に対抗できそうな艦載ストライカーは当分は出ませんし」

「米海軍、駄作機を何機か造りまくったし、F11Fはぱっとしないし、F3HかF8Uが出ない限り、カモだよな」

栄光に対抗できる最低ラインはF3H級のマシンである。それはリベリオン海軍の制空力が扶桑軍に劣るのが決定づけられるに等しい宣告である。ストライカーは実機のエンジンと異なり、魔導理論の進歩を必要とするため、ジェット化以降は開発ペースが落ち込んでいる。扶桑は黒江たちの子孫からの援助で一気に第二世代宮藤理論の時代を迎えたが、リベリオン本国は実機同様の進歩速度、あるいはそれよりも遅くなる有様だった。そのため、扶桑はストライカー/実機ともに圧倒的な優位を誇っているのだが、日本の『米軍の開発能力』へのトラウマに振り回されている状況だ。日本は艦載機などの能力差に異常に神経質で、F8Fもまだ本格的に出ていないのに、F-14改を次期主力に決めさせている。これは空軍や海軍の高官からも『杞憂だ』という意見が出ている。開発チームの精鋭がみんな亡命側におり、更にウィッチの存在で通常兵器の更新速度は早めるのが困難である実情からすれば、紫電改や烈風などは『時代遅れのレシプロ』ではないのだ。現に、ブリタニアは当面の間、主力はシーフューリーでやり過ごすつもりである。日本は艦載機などの更新に異常な執着があるのか、第4世代機を載っける事に執着するが、肝心の空母が追いつかない。いくらティターンズが肩入れしようが、ウィッチ閥は強大な発言力があり、そのせいで実機の進歩が遅れていると言えるリベリオン相手に、過剰までに機体を進歩させても、載せる船が追いつかない。特に、14は信濃以上の規模のミッドウェイ級でも狭い。そのため、スーパーキャリアでないと14の運用は不可能である。扶桑が改良型プロメテウス級を二隻買い込んだのも、そのためだ。F-4EJ改の時点で既存空母が使えないというところに、F-14なので、困っているのが扶桑だ。実際、扶桑の空母は良くて大鳳や翔鶴、量産配備されていたのが雲龍と、実に小ぶりである。ジェット時代では史実加賀の大きさで10隻なので、たとえ信濃が空母であろうとも、ジェット機はあまり載らない。雲龍に至っては航空輸送艦かヘリ空母にするしか使い道がない。日本連邦は急遽、コア・ファイターを急遽融通してもらい、初期の三隻を防空空母に転用、その他は他用途へと、48年までに用途変更され、空母機動部隊から離れていった。中には、完成後いきなり空母の任につかない事になった船もいた。雲龍型は幅も小さく、F-4を積んだ場合の艦載機数も過少と見積もられたので、コア・ファイター搭載が決定した三隻以外は用途変更か解体が前提だったが、中〜後期の建艦に携わった人々の嘆願により、改装プランが建てられた。幅を10m以上広げないと、フランスの戦後空母『クレマンソー級』にも追いつかないため、予算がつくか微妙なラインだった。しかし本来は20隻前後を揃え、ウィッチと共用するはずが、ジェット戦闘機の急速なる発展で『いらない子』扱いされたことに困惑しているのも、当の扶桑海軍自身である。『コンパクトな戦時量産空母』という雲龍のコンセプトそのものがエセックスとミッドウェイによって否定され、スーパーキャリアの登場さえ見えてくる時代となったのも不幸だった。

「そう言えば、艦政本部はお通夜だぞ。雲龍の手配した資材が海防艦や護衛艦、潜水艦に転用されて、おまけに50000トンの新規設計空母を作れとさ」

「大型の固定翼機を本格運用するには、小さくてもそのくらいが必要ですしねぇ。ワスプとかアメリカ級みたいなのに転用すればいいのに、雲龍」

「当初の設計通りの精度がいい艦はそれが模索されてるが、各部が簡略化されてる中後期のは輸送艦かヘリ空母に回されるそうだ」

雲龍型は量産配備を短期間で行うため、後期になると各部が簡略化されており、鋼材もいいものが使われているとは限らないので、輸送艦かヘリ空母に転用されるのは、後期の艦だ。そのため、線引は『生駒』以前の艦か否かになる。雲龍型の全廃が本気で検討されたのに比べれば遥かにマシな道だった。依然として建造中であったのが五隻以上、その内の四隻は最終艤装中であり、飛行甲板への魔術処理も終えている段階であり、竣工間近だった事でのコンコルド錯誤とも揶揄されているが、現実問題、空母機動部隊の弱体化が顕著な海軍には惜しい戦力であるのも事実だった。この日までに、雲龍型の最終生産ロットはウィッチとヘリの兼用艦に回され、後期生産ロットは輸送艦か練習空母に、中期も精度がいい艦は強襲揚陸艦に改装されるため、雲龍型は他用途に分化していった。その代価となる大型正規空母は更に二隻のプロメテウス級の増強と、国内産業保護のために50000トン級空母が4隻計画されている。F-14を運用するのも一苦労である。それを補う、F/A-18シリーズの購入も決められており、艦載機はこれでひとまず更新が落ち着くことになる。アメリカも呆れているように、数年で一気に第二次世界大戦世代から東西冷戦最末期世代へ飛躍したのは性急にすぎていた。

「でもよ、トム猫と蜂を買っても、ヘルキャットとコルセア相手に何すんだよ?そんなにティターンズが怖いのかねぇ」

「彼らは異常な恐怖に駆られているのよ、綾香。史実の戦争だと、紫電改や疾風でヘルキャットに追いついたと思ったら、シーフューリーやベアキャット、更にシューティングスターも控えてたっていう科学力と国力の差に。この世界じゃ成立するか怪しい条件なんだけどね」

武子も、日本の一般層にあるその恐怖に呆れる素振りを見せた。第二次世界大戦世代相手には、F-4EJ改でさえオーバースペックであるし、彼らの現用機水準の機体となれば、その差はもっと大きい。

「彼らはレシプロでとうとう、戦中に追い越された差を取り戻せなかったから、本来は米国が作る機体を運用することで、意趣返ししたいのよ。子供みたいな発想よね」

武子はそう評する。ティターンズという存在が肩入れしているというインパクトは、日本に『東西冷戦下の機体が続々登場する』という、実際には、如何にティターンズであろうと不可能な被害妄想を前提にした恐怖を強く抱かせた。たった数年で艦載機をF-14、F/A-18にまで更新させた事は米軍関係者すらも呆れ返る珍事として扱われている。日本のトラウマの深さは米軍をして『奴らは未来に生きてるよ』と言わしめるほどで、肝心要となる、それを載せる船の更新が必要になる事を考慮に入れていないと揶揄されている。元はティターンズが『ガンダムマークX』などのティターンズが持てるはずのない機体があることからの地球連邦軍の警戒心で、その警戒が日本に恐怖として伝染し、このような珍事を発生させた。本当は、現場(海自と空自)が地球連邦が持ち込んだプロメテウス級を見て、艦上機のハイエンド化を推し進める様に提言したのが実際のところだが、それが背広組に伝わる過程で尾ひれがついてしまい、気がついたら、自分達の時代の現用機になっていたというだけだが。それにはティターンズ残党のGP02のレプリカの存在が大きく関わっており、それへの恐怖が空母艦載機の短期間での現用機水準化に作用していた。震電改二が長引いているのも、一からの再設計によるエンジン選定のやり直しと、目標性能の飛躍、ベース機の『横空事件』での喪失が大きく響いている。当初の『安価で高性能な国産ジェット戦闘機』(脚)の計画とはかけ離れてしまったため、元の横空関係者はメーカーからかなり恨みを買っている。横空関係者はメーカーに『自分達の今後を悲観した若手ウィッチの暴走』として説明したが、開発資産を燃やす必要があったのかと猛抗議である。それに軍は『完成したら空海軍で使うから……』と釈明し、開発計画は継続され、資金も増やされている。芳佳の夫は義父から立場を引き継ぎ、この計画に関わっており、婚約者の芳佳に『かえって、エンジンから仕様をキッチリ合わせて設計出来て良かったよ。49年か、50年には試作完了できそうだ』と連絡を入れたという。今回の震電改二はこうして、前史とは別物の機体として完成を見る。芳佳は父と夫が心血を注いだとし、大喜び。もちろん実用一号機の受領をするのだが、それは数年後のこと。



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