外伝その310『日本軍の残光2』


――結局、扶桑は日本の左派と中国の妨害工作にも関わらず、超大国への道を歩みだす。カールスラントの軍事的衰退が理由で、扶桑を超大国にせざるを得なくなるというのが世知辛いところで、カールスラントの衰退が急激に起こった事が分かる。カールスラントのトップクラスのエースパイロットが外部に出向したままで予備役編入願いを出したことは前線の戦力ダウンが懸念されたが、そのまま受理され、Gウィッチ・カールスラント組の扶桑に移住しての太平洋戦線参加のお膳立てが整えられた。表向きはダイ・アナザー・デイ終了後に予備役編入、太平洋戦線が終わり次第、再召集の手筈である。結局は日独の一部勢力の干渉は現地の混乱を招いた点で罪深い。ダイ・アナザー・デイに多大な悪影響が生じたため、前線は兵器の予備パーツが不足し始め、再供給(この問題は太平洋戦争まで引きずってしまうが)が可能になるまでは、スーパーヒーロー・ヒロインと超兵器に本気で頼るしか無かった。それが扶桑の泣き所で、反G派兼古参贔屓反対派(自称)の大義名分の薄っぺらさを象徴している。黒江は海軍参謀も兼任したため、海軍空母ウィッチから『海を知らぬ陸助』と罵倒されたが、暁部隊どころか、海自で本式の教育を受けており、彼女たちが逆に顔面蒼白に陥った――

「先輩、海自でも講習受けたんですか?」

「万一、日本の粛清が軍令部の海軍参謀に及ぶことを考えて、身分を良いことに、海自の護衛艦で勤務した事あるんだ」

「どの艦ですか?」

「あしがらに、いせ、いずも、それと主力の護衛艦。統括官であるのを良いことに乗せてもらった」

「統括官は物好きでね。船舶免許まで持っている。海自の連中は『そこまでするか?』と呆れてるのだ」

「陸自も空挺団と第7師団で研修受けてるぜ。三自衛隊の派遣の責任者だから、現場を知らんといかん」

「統括官。東の艦に今度は乗られたら如何です?連中から嘆願が…」

「統幕の決定だしな。それに無理に言って乗せてもらったから、艦長がブルっちまって」

現場主義の黒江には自衛隊統合幕僚監部はかなり振り回されている。黒江の航空幕僚長への道を潰した詫びもあり、統合幕僚監部も扱いに困っている。元々、ジュンイチロー内閣の時に留学生扱いで無くした経緯があり、革新政権時代に『乗っ取り』を恐れる警察系背広組が鳩山ユキヲを唆し、内規で幕僚監部入りを潰したが、扶桑との政治統合が具体化すると形骸化しており、内規は撤廃の見通しである。黒江は2012年から長らく、同職にあるために統合幕僚監部が次のポストを必要にしているのも事実だ。結局、2019年付けで黒江は後任の統括官を更に監督する立場の新ポストにつけられる。扶桑軍人系自衛官に用意される空幕と統幕の代替ポスト扱いである。その後任が自衛官扱いになった圭子であると内示されたため、実質的にGウィッチの持ち回りになる。つまり、功ある扶桑軍人は統括官につく事が規定コースとなった。空自の扶桑方面隊トップは智子に内定したため、実質、64幹部が自衛隊派遣部隊のトップを兼任することになる。これは扶桑軍の准将という位が役に立った初の事例であろう。

「それで、海軍の若い連中が急に黙り込んだんですね」

「暁部隊じゃなくて、海軍の後継者と言える海自で潮風に吹かれてきたからな。下手な赤レンガ組より実務経験積んだと思うぜ?ショーフクさんや多聞丸に操艦のコツを聞いてきたし」

「先輩、無駄に人脈豪華ですからねー」

「体験航海に小沢さんと幕僚を紛れ込ませたら、海上幕僚監部から困惑の電話が来たよ。数日後で」

黒江は現在の連合艦隊司令部、またはその次の代に目されている者達を自衛隊の体験航海に紛れ込ませている。前史の頃から行う手法で、海上幕僚監部や海自の現場が大いに困惑している。これは黒江流のマスコミ対策でもあり、21世紀の兵法を知っていれば、マスコミは粗をつけない。自分の時にさんざやられたからである。

「そんなにアメリカが怖いんなら、伊達に潜り込んだわけじゃないから、上手くやって、司令部の連中を体験航海に潜り込ませたんだよ。途中で正体を明かしていいと言ってあるから、現場は応対が大変だったろうが」

「想像つきますよ。海兵卒の提督と幕僚が紛れ込んでたら、その艦の艦長、胃を痛めますって」

のぞみが想像した通り、体験航海の参加者に扶桑海軍連合艦隊の司令部がまるごと紛れ込んでいた事が分かれば、その艦の幹部は大慌てになるだろう。お忍びとは言え、自分達の仕事ぶりを歴史上の日本海軍の提督や幕僚に見られるも同然なのだ。

「まあな。ま、その艦の連中は労ってやったよ。自衛隊の恥になるからな。粗相したら」

黒江は飛行講習から帰っても元気である。黄金聖闘士でもあるため、スタミナが尋常ではないからだ。

「あ、先輩。必殺技封印って?」

「模擬戦以外で、既存の必殺技を使うのはやめろって意味だよ。バレバレな以上は対策されてるだろうしな。お前、シューティングスターあるなら、同じ系統のシャインスパークでも覚えたらどうだ?ゲッター線の制御さえ覚えりゃ、トントン拍子に覚えられるぞ」

「ケイ先輩がやらかして、江藤参謀に睨まれたって、原隊の古参が言ってましたよ」

「ありゃ、隊長が悪い。ブルっちまったとは言え、な。次元に穴を開ける威力だし。俺らの個人での最大戦果だってのに、隊長が7人に分割したんだよ。後になって責められて、必死に言い訳してるのは滑稽だけど」

黒江は江藤のそのことに関しては根に持っているらしく、愚痴が入っている。江藤も後になって、騒動の元凶のように扱われるのは心外だろうが、若松に睨まれては、何も言えないだろう。その事は江藤が代表格なだけで、当時は陸海のどの部隊でも、第一次大戦からの慣習的に行われたのだが、世代間対立が問題になると、当時の隊長格は江藤に連座する形で、何かしらの罰を受けることになった。しかし今更、事変の時に『合法』だった事を後から強引に裁くのは無理があるとする反対論も根強い。江藤の不幸は『当時は蚊帳の外であった事』にあるので、江藤は黒江達の直属の上官だっただけで、後から罰を受ける事になる。それでも、当初は日本側の提案で、懲罰的な三階級(中尉への)降格も検討されたが、ノイマンの事例と同様に、当人にさほど非がないのを『政治的な理由』で大げさに裁けば、現場の士気の低下は致命的なレベルになるという反論も出ている。G化を国家への事実上の禊とし、江藤へは報告義務違反の訓告と昇進速度の鈍化で済ませた。しかし、その同期達はそれでは済まない罰となり、江藤は同期からかなり睨まれてしまう。しかしながら、その分の苦労は後の栄達で役に立つ事になるため、江藤にはいい下積み期間となり、恩給査定を元に戻すため、一時的に現役復帰する者も続出したという。

「ジオンを笑えないレベルの内輪もめだぜ。内乱になりそうだしよ。こうなったら、もう一回、俺達の無双ぶりを見せつけるっちゃねえ」

「統括官はすぐ、それだ」

「先輩は体が先に動く質ですから」

黒江は自衛官としての副官に事務をさせ、自分は戦ってくるという現場主義である。副官が事務作業を主にするため、黒江は現場で戦っているのだ。黒江の言う通り、中堅層は内乱で老害とみなす事変世代の古参の影響を払拭せんとしたが、結果は中堅層が粛清され、却って古参への依存が深刻化するだけである。言うならば、中堅層を育てるために使った時間と労力に費用がパーにされたようなものだ。新人の育成期間の長期化も確実であるため、戦線の屋台骨はGウィッチと義勇兵たちであると言える。内乱の兆候が強まっていたこの時期にはその傾向が顕著になっており、戦闘で戦死する義勇兵も少なからず出ている。それはかつての大日本帝国陸海軍が見せた『自己犠牲精神』の表れでもあり、対艦特攻で戦死した者は数十人に登る。対艦航空特攻で戦争の実像を見たせいで、心を病むウィッチも敵味方を問わずに出ているため、戦争が激しくなる事で、Gウィッチにスポットライトを当てる事になったという状況であった。

「統括官、特攻で敵空母を大破させたのはいいのですが、シェルショックになるウィッチが続出しております」

「仕方がない。甲板や横っ腹に飛行機ごと突っ込むなんて自殺的攻撃はこの世界だと、まず見ないからな」

「天山や九七式艦攻、九九式艦爆だと、40ミリに蜂の巣にされますからね…。流星はその点、いいはずなんですけど…」

「まあ、艦上攻撃機は怪異との戦には無用の長物だったからな。それに機動性で避ける思想だったから、そこに米艦の猛烈な弾幕だ。太平洋戦争の生き残りが特攻したり、レーダーピケット艦から攻撃するのも分かったろうよ」

「まったく。海の連中はわたしたちに反抗するくせに、巡洋艦の一つも沈められないんだから」

「ま、艦隊をものともしない俺たちは事変後の保守派に恐れられたわけだが」

「どうしてそうなったんです?姉貴も答えてくれなくて」

「お前の姉貴、つか、錦としての、か。奴はまっつぁんの同期で、俺たちが英雄に祭り上げられてた頃には天下りしてて、詳しい事情を知らんのだ」

「そうなんですか」

「キ43のテスパイが最後の仕事だったって、まっつぁんから聞いたよ。俺たちが冷遇されたのは、多分、海軍の紀伊型戦艦の紀伊を半壊させたためだろう。堀井を失脚させたからな」

事変当時、黒江は今回、サンダーボルトブレーカーを紀伊型戦艦『紀伊』にぶちかまし、策謀を打ち砕いたが、それが元で海軍保守派に恨みを買い、恐れを抱かれた。戦艦を一撃で大破させる電撃など、当時のウィッチの常識を超えていたからである。当時の科学力では、サンダーボルトブレーカーの電撃の影響を拭い払えず、それが爆沈の一因である。紀伊の竣工数年でのドック入り、大和型戦艦をバラした事での建艦競争は海軍の恨みを買ったと言えるが、それが戦艦の世代交代の大義名分になったのも事実だ。大和型戦艦は金食い虫の誹りを受けたが、多国の同規模の戦艦の情報が伝わり、超大和型戦艦に至ったのは皮肉な状況でもある。モンタナの颯爽たる砲撃戦は扶桑に空母計画を変更させ、信濃型の立ち消えに繋がったので、モンタナは扶桑国民を恐慌状態に陥れ、大和型戦艦を量産させる方向に向かわせたのだ。

「あれ、モンタナに怯えたって噂ですけど」

「艦政本部も、まさか最大規模で作ったら、それに匹敵する戦艦を用意して、住民の前で紀伊をぶち殺すなんてのは予想外だったんだよ。信濃型航空母艦の計画がそれでぶっ飛んだからな。ドックの工員が仕事を急いだから、もう空母にできる限界点を超えてたしな。それで、モンタナに46cm積むってガセをケイが流したもんだがら、超大和型戦艦の計画が復活して、M動乱で具体化したわけだ」

「いいんですか、ガセなんて」

「ま、嘘が真になったしな。実際、ヒンデンブルクとグロース・ドイッチュラント相手には必要な艦だった。日本側も『三流海軍国のドイツに負けては、世界三大海軍の沽券に関わる』って誘導できたからな」

「それ、レーダー元帥が聞いたら憤死しますよ」

「いいんだよ。カールスラントの往年の大洋艦隊なんて、史実通りに消滅してんだから」

カールスラントは実際、第二帝政が健在でありながら、往年の大洋艦隊は消え失せていた事は揶揄の対象で、エーリヒ・レーダー元帥は憤慨しており、カール・デーニッツの潜水艦偏重に異を唱えている。だが、カールスラントには往年の大洋艦隊を作りあげた造艦能力はなく、扶桑から購入した空母を持て余し、輸送任務で一隻を喪失後に残っていたのを扶桑に返還する有様である。45年には往時の面影は消え失せ、日本には『三流国は南米の門番でもしていろ』と見下されている。しかし、バダンの戦艦は凄まじいの一言であり、同じ国の軍隊の同位存在でありながら、格の違いを見せつけている。そのため、バダンの艦の鹵獲にデーニッツが傾倒してしまったところに、彼の潜水艦フェチが見え隠れする。しかし、バダンの艦はカールスラントしか維持できない都合もあり、愛鷹が扶桑に返還されたのは理にかなう措置であるが、半分以上は放置の状態だったことで逆鱗に触れたのは、デーニッツの予想外で、ドイツの干渉もあり、虎の子のMe262や液冷エンジンのライセンス料が格安にされる事態になったため、カールスラントは扶桑からの外貨獲得をし損ねたのである。しかも、扶桑がレシプロ機を手慣れた空冷に統一し始めた上に、ジェットでは先を30年単位で越され、扶桑の現地部隊が積んだエンジンの保守整備を無償で行う羽目になるのである。

「おまけに、ロシアが日本に負けた腹いせに、カールスラントの撃墜スコア精査に絡んできて、100機以上差っ引きやがったもんだから、カールスラント軍の士気は崩壊状態で、使いもんにならなくなったと来てる。嫌がらせしやがって。そんなんだから、統合戦争で負けるんだよ」

「つまり、カールスラントの支援は」

「当てに出来るのはもう来てるから。本国はほっとっけって考えてろ、空軍はな。陸はロンメルのケツを引っ叩けば、ケーニッヒティーガーだろうが、ドーラだろうと貸してくれるから安心だ」

「陸軍は、今だと質はいいですからね」

「ウチの陸軍の俄作りの戦車師団を無理に出すより、カールスラント陸軍の機甲部隊を借りたほうが役に立つ。自衛隊とも連携できるし、熟練兵も多い」

陸軍に関しては『精強』であるカールスラント。圭子がロンメルを尻に引いているのを良いことに、機甲部隊をその都度借りている。兵器も都合してもらっているため、ロンメルは圭子の尻に引かれることで、史実の弱点を補いつつあったと言える。自衛隊は高性能の特大型運搬車、戦車回収車などを用意していたため、ティーガー系列の運搬や回収も余裕である。かなり軽量化の進んだジェガン以降の連邦製MSも回収を行っており、『ジェガンは軽いな』とは担当者の談。

「それでは、私は扶桑本土に行って、兵器補給の手筈を整え始めます」

「頼む」

黒江の自衛隊での副官は需品科の出らしい。黒江がダイ・アナザー・デイにあたり、数人の候補から選抜したと良い、2019年時点で30代後半で佐官である。そのため、自衛隊内部では怪訝そうに見られているが、補給関連での有望株が黒江の下に送り込まれているため、意外に有能である。

「先輩も大変ですねぇ」

「ま、そんくらいは将官としてな。書類仕事はヤツにぶん投げてるから、おりゃ戦うだけさ。ケイはもっとえぐいぞ。中野学校の出の輜重要員に丸投げで、自分は酒と銃だ」

「ケイ先輩、シャインスパーク撃ったから、当時の生き残り連中に『戦闘キ○ガイ』扱いですよ?」

「ストナーサンシャインとセットで撃ったし、思いっきり、ウィッチカンケーねぇパワーだしな。隊長も余計な事をしてくれたもんだ。若さんに三回は半殺しにされてたし」

「若さん、ああ見えて、先輩に甘いですよね」

「俺が妹に似てるそうな。それをまっつぁんから聞いたから、今回は頼らせてもらってる。江藤隊長の元教官だし」

「電話で呼んだんですか?」

「俺が『あ、若さんいまーす?』って言えば、隊長はブルったよ。新兵時代にしごかれて、頭が上がらないんだとさ」

「あの人、先輩達に偉そうにしてる割には…」

「言ってやるな。若さんに俺が可愛がられてんのがわかんなくて、中佐なのに、当時は中尉の若さんに絞られてたし」

若松は当時から、扶桑陸軍ウィッチのヒエラルキーで最高の地位である。その若松が黒江を贔屓する事を江藤は不思議そうにしていたが、実はごく単純な理由であった。

「おっと、若さんに今年のお中元を考えとくか。頼ってるお返しはしないと失礼だし」

「先輩、大いに使ってますねぇ」

「後ろ盾になってくれてたからな。事変ん時は俺らもまだペーペーのガキだし、世間的に。江藤隊長も新米少尉の言うことは本気にはとりあわないし、若さんとまっつぁんの圧力が必要だったんだよ。痛快だったぜ?」

黒江は過去を振り返りつつ、食堂でおやつを頬張る。のぞみは錦との融合が始まっているため、錦の体験を自分のこととして語っている。服装は錦のそれを引き継いだ軍服である。(ただし、のぞみのほうが長身らしく、新調もしている)

「ところで先輩、オールスターズの戦いもバレてるって事は…?」

「お前がラブと出会った時、バスを間違ったとか知らねーよ?」

「うわぁ〜ん!知ってるじゃないですかぁー!いちかちゃんの前でそれはぁ〜!」

「諦めろ、みゆきが全部バラしてた」

「うわぁ〜!?」

のぞみはプリキュア現役時代のエピソードが歴代随一の濃さであるため、あまり共闘しなかった、代の離れたプリキュアの後輩にはカッコつけたいようだが、みゆき(芳佳)にバラされてしまい、いちかの口癖『しょんな〜!?』を口にする。

「あんたのセリフじゃないっしょ、それ」

「あ、りんちゃん。傷は?」

「タイムふろしきで治してもらったわ。でも、一度死んで、こうして若い時の姿で会えるなんて、思ってもみなかった。うららが別の世界で戦車の部活してるのも驚きだけど」

「うらら、試合で来れないんだって。それとガン=カタ得意になったとか?先輩の話だと」

「もしかして、あの子。高校くらいの頃、ラノベ原作のドラマに出てたじゃない?その時の…」

「ああ、そんな事あったっけ…。本格的に役作りしてたけど、ガン=カタって難易度高いはずなんだけど」

「かれんさんの家の別荘とかで、それらしい動きを練習してたとかいうけど……あまり見てないのよねぇ。その時」

「本当に、うららをサポートしてたんだな、お前ら」

「ずっと応援してきたんですよ?だから、売れ始めた時は嬉しかったなぁ」

「そうそう。友人ってことでTV出たこともあるんですよ?私達。でも、まさか、あの時の事が知られてるなんてね…。なんかこそばゆい気持ちですよ」

「そこは我慢しろ、お前ら。言ったろ?有名税だって。お前の失言は三大失言だのなんだって、ネットで晒されてるんだぞ?りん」

「……嘘……。あ、あれは若気の至りですよ、若気の至り!あー〜!客観的に考えると、青二才だったって、大人になってから気に病んでたんですから!」

りんは成人後、現役時にうららと気まずくなった原因のその発言を『青臭かった』と反省していた。客観的に過去の自分を振り返れるようになった証であり、うららには成人後に改めて、発言を撤回して詫びている。それが『プリキュア三大失言』と、別の世界で言われているのは流石に堪えたようだ。(これはその事をわざと言及することで、りんに自戒させ、のぞみを傷つけるような事を言わせないように仕向ける黒江の策でもあった)

「いいか?言葉ってのはな。無自覚に他人を傷つける諸刃の剣でもあるんだ。俺と坂本もあったが、時には親兄弟でも、言葉の綾で絶縁される、殺し合うってことも起こる。りん。現役時代のことで、お前に説教する資格は俺にはないが、よく肝に銘じておけ。ニュアンス一つで、言葉なんてのは、相手のとり方が変わる。忠告と思え」

黒江は実体験があるため、うららのことで前科のあるりんには厳しめであった。りん自身も、のぞみ程でないにしろ、人生で色々と辛酸を嘗めた故か、黒江の言葉の意味を噛みしめる。りんもりんで、後悔した事が山ほどあるのだろう。

「分かってます…。私も、もう……、14歳の夏木りんじゃないですから。のび太君の言う通り、過去を飲み込んだ上で生きます。のぞみは……私の大事な友達で、仲間で、幼馴染ですから」

りんは黒江の真意を察し、『自分は14歳の夏木りんではない』とする形で、強く自戒する決意を固める。また、どんな時も、のぞみを支えていく決意を改めて示す。現役時代より総じて温和な人柄に成長したようで、のぞみへの態度も少女期に比べると、ずいぶんと柔和になっている様子を見せた。不思議そうなのぞみだが、りんの世界では『りんの最愛の弟が青年期に病に冒され、りんが仕事が手につかない程に取り乱したのを、のぞみが宥め、教師の仕事を有給休暇を取得してまで、つきっきりで弟の看病をしてくれた』経緯があった。そのことで恩義を感じていたため、お互いになんとなく恩義がある二人。二人の母の代から続いた縁は、世界を超えても二人を結びつけていたと言える。



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