外伝その318『連合軍のパニック』


――大和型戦艦を量産化し、戦線に艦隊決戦で使用する。これは扶桑海軍からすれば『想定外』であったが、未来情報で空母が高額化し、潜水艦も攻撃用潜水艦の需要がほとんどないため、戦艦の需要があり続けた。日本からすれば、『本来の目的に使用された』という感慨であった。(怪異化研究が未来兵器の導入、ウォーロックのメタ情報で一切が潰えたため、その代替が超近代化とされた)――





――既存兵器の怪異化が今回は政治的影響力のある坂本の反対で潰えた事も、艦艇の超近代化とGウィッチ活用案が採択された理由であった。そのため、扶桑軍はブリタニアルートで手に入れようとした『怪異化』研究の代替が未来世界の技術導入であり、Gウィッチ達の活用であった。Gウィッチはレイブンズ達が内輪で使用していた単語だが、三将軍ルートで司令部に伝わり、公文書にも記載されるようになった。この際に正式に話し合われた問題がRウィッチとGウィッチの取り扱いであった。


――統合参謀本部――

「まったく、前線の扶桑のウィッチには困ったものだ」

「貴方方の責任ですよ。参謀総長、軍令部総長」

「前任者たちの施策がこのような事になろうとは思わんだ……。軌道修正はしている。各国への悪影響の責任もある。64に501を取り込む事はご了承ください」

「わかりました…」

64と501の統合運用はこうして外圧に負けた軍令部と参謀本部の長の要請で一応は了承され……。


「元帥。あなたは『タマを握られている』と陰口が」

「言わせておけば良いのです、幕僚長。ああいう手合は私の同位体の経緯さえも知らんのですから。それよりも、そちらのヒトマル式をもっとほしいですな。ティーガーの多くが現地廃棄扱いになった以上、重戦車が足りないのです」

「あれはメインバトルタンク、主力戦車ですよ、元帥。ティーガーは我が隊員達がなんとか整備しておりますが、一型は直に部品が足りなくなります。我々が交渉し、ケーニッヒの生産再開はさせましたが、設計の古い一型は…」

「わかりました。博物館送りにするもの以外は現地で使い倒すしかなさそうですな…」

ティーガーの生産や運用に支障が生じたため、パーシングに対抗可能な二型(ケーニッヒ)は現地の要望を汲む形で部品生産が再開された事が通達される。また、カールスラントの新式重戦車『レーヴェ』の開発が戦車砲弾の更新と装甲厚の陳腐化を理由に、プロジェクトそのものが中止されそうになっているなど、パニックが起こっている。しかし、主力戦車は当時のカールスラント軍部の常識に全てが合うとは限らず、重戦車の必要性も高かった。レーヴェが問題にされたのは、重量に見合わない貧弱な足回りと、新式砲弾の矢継ぎ早の登場による防御力の陳腐化であるため、根本的に再設計がなされ、ドイツによる軍事的補償の一環の形で、実質的にMBTとして完成を見る。実質的にレオパルト2戦車であったが、当時、自前の戦車製造能力が殆ど失われたドイツにとっては、実益も兼ねた開発であった。日本連邦の技術提供もあり、軽量化に成功した同車はティーガー系統の実質的後継という形で導入される事になった。表向きは開発成功という形にされたからだ。



会議に出席しているエイパー・シナプスは多くの世界で、ティターンズ派閥に極刑を言い渡されて排除されるが、未来世界では極刑の執行が先延ばしにされているうちにグリプス戦役が始まり、ティターンズがそれから一年で崩壊し、有耶無耶の内に罪状が濡衣であるとされて消滅。その補償も兼ねて、中将に昇進していた。そのため、この時点では提督の地位にあると言える。(これは度重なる戦乱で、彼のような実戦肌の軍人が極度に不足していたためでもある。ティターンズ系の人材が優先して中枢から排除された影響でもあった)


「レーヴェの開発をドイツに後押しさせます。それを同国の軍事的補償とさせますが、我が地球連邦としましても、貴国に補償を用意致します」

「ところで、いかがなされます、日本へのラ級量産計画の説明は」

「計画が彼らに止められない段階での通達に留めます。連中は空母にご執心だが、ウィッチ閥が航空機のみの空母を認めん方向だから、折衷案でウィッチ運用装備の開発を進めさせている。連中は今や、Gウィッチがこちら寄りなのに敵愾心を隠そうともしませんからな…」

連合軍はこの頃から、『ニューレインボープラン』を遂行し始めていた。ラ級戦艦の量産化。連合軍がティターンズ対策も兼ねて、21世紀世界にひた隠しにしている最高機密であった。ラ號を23世紀で運用している事を通達しただけで、元は旧海軍の最終兵器であった事を理由に、21世紀の日本で喧々諤々の議論が巻き起こったため、完成まで秘匿する事になった。この頃の扶桑は三笠や播磨を例にして、『大艦巨砲主義』に異常に傾倒しているという批判も外部から大きかった。ラ級はその申し子と見なされかねなかった。空母と、その任務を兼任する事が可能な強襲揚陸艦の整備に目を向けさせようと、日本の一部勢力は躍起になっている。しかし、ウィッチ部隊との兼ね合いで、今以上の通常空母整備は政治的に不可能である。扶桑はパイロットと兼任可能なウィッチを志向しつつあったが、貴重な上、今や、怪異前提の装備では、戦闘機一機も落とせない時代を迎えたのだから。

「連中はいずれ暴発します。艦娘の部隊に内偵をさせておりますが、危険水準です」

「最小限のところで鎮圧しませんと、日本側に軍縮の口実を与えます。ウィッチは『毛色の違う連中』と排除しようとするでしょう。人員削減の影響を最小限に留めるためにも、Gウィッチにはありとあらゆる特権を与えましょう」

「それしか、ウィッチを『守る手段』はないのですか」

「日本ではあの時代、フェミニズムが暴走しております。止める手立ては殆どありません。ウィッチの厚遇を逆差別と騒ぐ有様でしてね。ウィッチ出身の女性軍人の立場もある。Gウィッチはむしろ、『権益の守護者』なのですがね」

エイパー・シナプスの言う通り、Gウィッチは通常の軍人としても優秀な者が占めている。当時、扶桑軍には女性軍人がかなりの割合で存在していた。ウィッチであった者が引退後も高級軍人として軍に残留し、訓練学校の校長などに収まっていたからで、日本の一部が反対を押し切って強行した『教育現場からの軍人と軍事教練の排除』で『役職』を失う軍人はかなりに登っている。また、訓練学校の軍機関化もかなりの費用を要することであり、卒業扱いにする学生の幅や在校生の扱いで社会的に揉めかねない。相次ぐウィッチ冷遇の施策に、ウィッチの社会的地位の失墜が現役世代にも危惧されだし、次第にGウィッチの賛同者が出てくるのである。日本も流石に、国民的人気のあるプリキュア出身者の事は、まったく手が出せない『聖域』ということは理解している。プリキュア出身者を内包するGウィッチは『血の献身と引き換えの特権』が許容された。そのため、Gウィッチとそれにほぼ準ずる権利が与えられる予定の『Sウィッチ』は最新機材優先配備などの特権が授与されている。

「Sウィッチ枠の創設は急ぎます。後はオラーシャの承認を急がせるだけです。ですが、まともなウィッチが内乱でいない、かの国が承認するか」

「承認するだろう?今後の数十年の内に、サーニャくんに匹敵しうる才能のウィッチが出る可能性は充分にあるからね。彼女を亡命させたのは、あの国の後進性が原因だよ」

サーニャが名を変え、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』、『九条しのぶ』という名を名乗るようになった理由を知る、統合幕僚長と航空幕僚長、エイパー・シナプス、エルヴィン・ロンメルは互いに頷き、オラーシャ帝国の『後進性』を嘆く。無学な国民も多く、革命騒ぎに扇動された結果、史上空前の虐殺に繋がった(一部は救出したが)。サーニャを失ったというショックが同国ウィッチ部隊の『四散』を招いたため、連合軍はオラーシャ帝国の分裂による混乱の影響を覆い隠すため、サーニャを『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』(九条しのぶ)として扱う事は暗黙の了解事項であった。所謂、口裏合わせである。

「あの国の自業自得だが、今更、あの国の若い新皇帝も戦争してまで、自国を狡猾なロシアの現地政府扱いに落とすつもりはないだろう。口裏合わせはよろしく」

この会合で決められた事は、連合軍内部で『日本連邦の国力無しには、連合軍そのものの体制が保てない』表れであった。地球連邦の存在は公然の秘密であり、マスメディア対策も兼ね、表立っては口に出せないため、表向きは日本連邦が連合軍を支援しているとされている。また、ロシア連邦を狡猾と表現するなど、エルヴィン・ロンメルなどの高官たちもロシアを狡猾で、約束を反故にする国と認識するに至ったらしい。そのため、オラーシャは連合軍から半ば蚊帳の外である。所属していたウィッチの多くは分裂したウクライナか、扶桑に亡命している。なんとも言えないが、扶桑の国防省で行われる連合軍統合参謀本部の会議は重苦しい雰囲気のもとに進められていく…。







――連合軍の主戦力はもはや、ウィッチでは無かった。これは航空ウィッチでは顕著に生じており、爆撃/攻撃ウィッチの仕事が消え、新しい『バスターウィッチ』に転科が進められ、戦闘ウィッチも、怪異の撃退が目的で無いため、重火器が使われだすなどの変化が起こった。戦闘機としてのF-86も、初期モデルから、『M39リボルバーカノン搭載の戦闘爆撃機仕様』に切り替え始めるなどのモデルチェンジが早くもなされた。敵のP-80相手に圧倒的優位を保ち、10対1とさえ推測されるキルレシオを叩き出す同機だが、機銃火力の不足が指摘されており、その関係で生産モデルが切り替えられたという。ジェット機時代の嚆矢とされたのが、メッサーシュミットでなく、F-86と看做される事にカールスラント空軍は散々な思いであろうが、ゲーリングが高速爆撃機を欲していた関係もあるので、なんとも言えないものがあった――



――温泉から帰還した一同を待っていたのは、ついに投入されだしたF-84後期型との激しい空戦であった。黒江は帰るなり、その場にあった『F-86H』で出撃。早々に戦果を挙げた――


「ジェット機でオーバーシュートは命取りだぜっ!!」

ベトナム戦争の頃、A-1が行った戦法を使う形で、F-84Fを撃墜する黒江。速度性能はF-84Fが上回るが、運動性は低下している事を利用した頭脳プレイである。最も、パイロットとして出撃するのは個人的嗜好も関係しているが。ジェット機が普及すれば、必然的にドッグファイトは起きる。その証明であった。


「うわぁ。流石は先輩…」

「感心してる場合か。お前も落としてみせろ」

「分かってますよっ」

のぞみはシャイニングドリームに変身し、それで空戦を行っていた。黒江曰く、『素で飛べるんなら、それで戦闘機との空中戦を本格的に戦ってみろ』という事で、強化変身での戦闘になった。速度はジェット機と同等以上、鳥のように、極めて小さい旋回半径、高い瞬発力という利点もあり、F-84F編隊に穴を開ける。なお、手持ち武器は破損し、修理中のスターライトフルーレではなく、錦が保管していた普通の刀を使用している。とは言うものの、以前の戦い(原隊所属時)で破損していたものを、錦の姉の『小鷹』が気を利かせ、赤松の伝で修復したものである。フルーレとは全く違う使用方法になるが、斬れ味は『斬るために造られた』日本刀が圧倒的に上ではある。(フルーレとは元来、レイピアやサーベルの練習用に用いられていたものを指す)また、錦の技能が受け継がれたため、フルーレよりも扱いやすく感じている。また、魔力値そのものの問題で、多くのウィッチが怪異相手の時同様に、刀を鈍器に近い使い方で扱っているのに対し、本来の用途である『斬る目的』で携行するのは極めて珍しい。(修復とは、実は赤松が空中元素固定で刀身を作り変える事であり、表向きは知り合いの刀鍛冶に出したとしているが、実は自分の能力で作り変える事であり、45年現在も小遣い稼ぎに行っている事である)そのため、『プリキュアが太刀を持って戦う』という、前代未聞の光景が出現していた。射出座席はブリタニアで既に初期のものが出回っているが、当時はまだ信頼性の問題で使わない者のほうが多く、リベリオン軍も例外でないため、機体から脱出しない(できない)者も多い。

「脱出しない人、多くないですか?」

「この当時は射出座席そのものが出たてだからな。異常姿勢だと作動しない場合が多い。戦闘機乗りとしちゃ失格なんだがな、これ」

もっとも、シャイニングドリームの取る一撃離脱戦法で翼を切り落とされる都合上、当時の技術の限界で、異常姿勢では、射出座席が作動せずに脱出出来ない者も多いのだが。

「ま、お前に翼を切られちゃ、この時代の初期型じゃ、異常姿勢になるから、まず作動せんよ。史実のマルセイユみたいに、事故って死ぬアホとか、テスト中の事故の教訓で造られてるはずなんだがな」

「垂直尾翼に近い胴体を切ってみるかなぁ」

「そのほうがまだ作動するかもな。機銃で相手の胴体が寸断される事はよくある事だ」

「おっとっ!」

F-84Fが12.7mm機銃を乱射しながら、一撃離脱を狙ってきた。戦闘機というのは基本的に、ミサイルの無い時代はジェット機であろうと、取る戦法は第二次大戦と同じである。基本的にドリームも、セオリー通りの対応を取った。(素体の錦が正規の空中勤務者として訓練を受けていた事もあって)敵が攻撃に失敗したのを突く形で編隊から離れてターンし、手持ちの『ホ5』20ミリ機関砲を撃つ。この点はウィッチとしての能力を使っていると言える。20ミリ砲は見事に命中し、敵機を炎上させて墜落させる。

「これ、かれんさんやこまちさんが見たら、腰抜かすよねぇ」

「ぼやくな。こいつらを撃退すれば、こいつを近くの基地に置かなきゃならんしな。そうしたら、エンペラーオレオールで空母に戻る」

「先輩くらいですよ、戦闘機で飛んだ後に普通に生身で飛べるの」

「俺達は普通に出来るぞ。そうでなきゃ、超人呼ばわりされねぇよ。事変ん時はユニット使わずに最後は戦ってたしな」

「先輩たち、それで戦後に冷遇を?」

「ああ。第二艦隊の紀伊をサンダーボルトブレーカーで大破させたから、特に海軍の保守派からは疎んじられた。俺達が大和をバラさなきゃ、途中で空母に変更されてた可能性があったっつーのに」

「そういえば、そういう噂が…」

「ま、事変の時に艦娘の大和が暴れてくれたからってのもあるがな。それで武蔵まではキャンセル不可能になったのよ。問題は信濃と甲斐のペアでな。途中まで空母化が確実視されてたが、紀伊の撃沈で工事が捗ったりした影響で空母化は取りやめになった。雲龍の増産はそのバーターだったんだろうが、65000トン級に切り替えられて、おじゃんさ」

戦いつつも、黒江とドリームは通信で会話し合う。黒江の言う通り、扶桑は中型空母の量産で空母機動部隊の量を確保するつもりであったが、艦上機の大型化とジェット機の時代の到来がその構想を吹き飛ばした。史実で言うスーパーキャリア級の戦後型空母の保有に舵が切られたことで、空母の数よりも『質を重視する』方向に流れたからだ。そのため、艦上ウィッチ部隊は行き場がなくなる事を畏れているが、大人数の運用が大型空母であっても不可能で、その割に対人戦で費用対効果に乏しいウィッチ部隊は、矢継ぎ早に空母から強襲揚陸艦に種別変更された雲龍型に配置転換されていき、空母は通常艦上機で占められた。だが、簡易式発進促進器の空母版の登場、第二世代理論型、第三世代理論型の持ち込みがなされ、64所属人員はその恩恵を受けられる。その事への嫉妬も後のクーデターの一因であった。しかし、実際はレクチャーを受けた元の赤城や天城所属で、現在は大鳳、翔鶴、瑞鶴所属の空母ウィッチ部隊が予備機を借り受けて出撃しているため、機材を貸す許可を上層部が渋った事を誤解しただけであった点があるのが真相だった。戦線で最も潤沢に燃料や機材の優遇を受ける64Fは、予備機を他部隊に貸与し、他部隊の協力を取り付けることで、他部隊のサボタージュをとりやめさせていた。元から協力関係の三隻の空母ウィッチ達は64のバックアップで部隊としての面目を保っており、その関係で第一機動艦隊のウィッチは64に情報提供を行っていた。

「海軍の連中がウチに反抗的なのは、そういう事情が?」

「第一機動艦隊の連中は小沢さんや多聞丸のおっちゃんの配下だから、そういう事は無いがな。事変の生き残りも残ってるし。事変の後の情報統制が裏目に出すぎて、今の責任者が前任者の失態で懲罰受けてるから、その反発もあるんだろう。江藤隊長は原因の一つってんで、懲罰的に三階級下げて、前線で使い倒す案まで出たが、ノイマン大佐を当人に罪がないのに格下げして、僻地に左遷させたら鬱になって、使い物にならなくなったろ?それを鑑みた結果、当人に悪気が無かったから、訓告と基本給半分の自主返納で済んだ。」

「なんか官僚的な気が」

「確かに、前任者の罪を現任者におっ被せて裁くのは無理があるが、組織としちゃ間違ってはいないからな。日本じゃな。日本系国家の常だ」

日本的組織運営の弊害は、問題が判明した場合、当事者の前任者の罪をその後任におっ被せて責任を被せるところにあるが、当事者である前任者には死亡済みの者も多く、それを当時の罪で裁くわけにいかないために現任者が泥を被る形になるのは、日本系国家では当たり前の光景であった。その事への反発も問題の一端であり、軍のウィッチ組織がギリギリまで解体される理由は、上層部の統制があまり効かないところが防衛省に危険視されたからだと推測されている。(海軍系ウィッチは我が強い者が多く、それも嫌われたからとも)話してる間にも、敵機は数を減らす。

「海軍の連中はなんで、ウチに喧嘩を売ってるんですか?」

「343空の組織を俺達が乗っ取ったって考えてるからさ。実際は加藤隼戦闘隊より343空のほうが日本に受けが良いから、343空の組織概要を引き継いだだけだ。扶桑じゃ、俺達のネームバリューのほうが通じるんだがな」

「つまり、事変の時の64を復活させようにも、加藤隼戦闘隊のネームバリューが日本で通じないから、組織概要は343空を?」

「日本向けのパフォーマンスだよ。『紫電改のタカ』って漫画があったろ、60年代に。その関係だよ。加藤隼戦闘隊は戦中に持ち上げられてたから、戦果が疑われてるんだそうだ。左巻きの連中に」

黒江がここで、343空の組織概要が現組織に引き継がれた理由を話す。扶桑では、旧64Fは伝説とされているが、復活させようにも、日本側が『加藤隼戦闘隊』に難色を示したため、343空のネームバリューを使う方向になったという政治的事情が絡む事を。扶桑では単に『源田実配下の防空部隊』であったため、343空を日本が特別視する理由が分からなかった。だが、エース部隊を作るのに、343空のネームバリューは日本受けするため、扶桑軍関係者も最終的に容認したという事情は政治に興味が無い海軍ウィッチは知らぬ存ぜぬであり、そこも防衛省に問題視されたのも否めない。

「お、F9Fだ。空母艦載機がここまで来てるか…」

F-84Fは蹴散らしたものの、次はF9Fである。当時のリベリオン艦載機では最新鋭に属するもので、黎明期のジェット艦上機である。後退翼であるので、後期型のクーガーとして採用されたと思われる。

「お前の方は残弾はどうだ」

「マガジンがあと一個ですね。先輩は」

「リボルバーカノンはバルカンよりは節約できるが、あれとやりあえるほど残っちゃいない。スターライトソリューションでぶっ飛ばすか?」

「体力使うんですよ、あの技」

「よし、友軍に通報しとく。俺とお前で14機落とせば上々だ。引き上げるぞ」

黒江は付近の早期警戒管制機に通報し、ドリームを引き連れて、近くの基地に向かう。F-86Hを基地に置く必要があるからだ。戦闘機は機銃の残弾管理もパイロットの仕事の内であり、エネルギー兵器が機銃の主流にならない時代の常である。





――この時期から、F-84FやF9F後期型がチラホラ出始め、ティターンズがリベリオンの尻を叩いて、兵器の開発速度を早めているのは明らかであった。扶桑はF-8の配備を急ぎ、それに対応する大きさの空母の建造に邁進(主に日本が)していく。ただし、戦線の主力は、パイロット育成が当時としては、簡単と看做されたレシプロ機であることには変わりはないため、史実朝鮮戦争のように、ジェット機とレシプロ機が同じ戦場を舞う状況は続いていく。レシプロとジェットの差が交錯する戦場であるが、全体としては依然として膠着状態であり、64が一日で数十機を落とそうが、数日で損害を補充してしまうリベリオンの工業力が注目された。そのため、扶桑で64と並び称されていたレベルの練度を維持する精鋭部隊達が増援に派遣される事も検討されたが、一部が派遣済みである事、本土防空に穴が空くのを恐れた高官の反対で否決された。しかし、南洋に軟禁状態の『第111戦隊』(明野飛行学校の教員の一部を戦闘部隊化した戦隊だが、根拠になる発令が取り消された影響で部隊ごと宙に浮き、数十名もの精鋭が遊軍化していた)の要員を宥める事が急務とされた事から、特に練度のある人員は欧州に再派遣され、その他の人員は64の復活に伴うトップの引き抜きで弱体化した戦線の補充要員に回された。同じく、その第二部隊にあたる112戦隊に配属されることを前提にして、事前に教員から分離されていた者達の取り扱いも議論されており、その事も、日本で従軍記章廃止論が萎んだ理由である。(結果として、明野飛行学校の教員達の内、派遣される予定の人員が二個戦隊分に及んだため、派遣されずじまいになる事での『不名誉』を避ける意図もあり、どこかの手空きの戦線に手当たり次第に送り込む事が急がれた。しかし、暁部隊の全てが海軍への移管で陸軍の管理下から即座に外された事もあり、輸送が上手くいかず、地球連邦の尽力もあったものの、結局は技能不足(天測航法ができないなど)などを理由にしての『不参加者』が生じてしまう。それは理不尽であるため、軟禁状態にされた彼女らを宥めるための参加賞が必要になったからだ。この問題は防空戦闘章の発行で解決が図られ、欧州戦線に派遣されたものと見なすため、一律で欧州戦線従軍記章が創設されたという。ただし、極秘に等級は設けられ、金色で欧州戦線で実際に戦った者、銀で実際は紅海などの他戦線に送られた者、銅は南洋の防空に従事という事になったという。これは他戦線の要望と防空の兼ね合いであり、輸送にミデアが用いられたとは言え、南洋に何割かは残る事になったという)――






――戦線で戦果はあげつつ、先代の初代やスプラッシュスター勢の不在でプレッシャーがかかっていたキュアドリーム/のぞみ。だが、ある意味では生きがいを無くしていた生前の壮年〜晩年期に比べれば、遥かに幸せであるとも言える。生前の『教師』からはかけ離れた職を得る事に抵抗が無かったのは、戦士としての性分を捨てられなかったからだろう。生前の恋人との『約束』は果たしたとし、中島錦の立場を受け継いで、職業軍人になる事を選択。この時点では錦の肉体との同調率も上がり、錦の家族との電話も無難にこなせるまでになっている。また、ウィッチの力も得た影響か、変身形態の使い分けも可能になり、シャイニング形態になるのに『シャイニングメタモルフォーゼ』という掛け声を必要とするが、任意に可能になっていた。キュアピーチ/ラブもほぼ同じようにパワーアップしているため、パワーアップ形態で飛行が可能になるプリキュアが矢面に立つのは当然の流れであった。キラキラプリキュアアラモードのように、正面戦闘に向かないプリキュアもいるためだ――

「りんとラブは先に行かせた。この事、お前の五人の先輩が知ったら驚くぞ」

「確かに」

「第二次世界大戦で日本軍の将校として戦ってるなんて思わんだろ?確か、ひかりは飲食店勤務だし、咲の実家はパン屋だろ。お前が初だぞ。職業軍人なの」

「信じてくれるかなぁ?この状況」

「たいていの世界だと、お前は教師になるからな。教師はブラックだから、心が壊れるんだよ。お前みたいに使命感に燃えてれば、尚更だ。お前が娘に責められて、教師である事に意義が見いだせなくなったのは、お前の世界特有の出来事だしな。その辺は俺にはわからんよ」

黒江は言う。のぞみの抱える事情は『のぞみの生きた世界』特有のものであり、りんも悩んでいるものだ。自分の子供に自分を否定されたという悲しみは、のぞみを修羅の道へと走らせている。黒江はそれを憂慮しているが、最も近い立ち位置のりんも、のぞみと異なる世界の住人であるため、のぞみの抱える『闇』に悩んでいる。戦うことで、生前の悲しみや苦しみを忘れようとしていると、りんは見ている。また、青年のび太に好意を持ったりするのは、現役時代に見せていた純粋さ、一途さの名残りだろう。りんからは『錦の持っていた好戦的な面に身を委ね気味』であると見られているが、心の奥では現役時代の気持ちに戻りきれない自分に煮え切らない気持ちがあるのだろう。それが、大人になった後の悲しい経験が理由というのも皮肉である。

「どうすればいいんですか……。戦っても、上の娘が大人になって、わたしを否定する時の顔や言葉が頭にちらついて……」

「そう悩むな。恋人ものび太の養子って形で転生してたし、りんもいる。戦車道世界にはうららとくるみもいる。なんなら、のび太の養子になってるそいつと結婚しちまえよ」

「え、そ、そんな、先輩!?」

「りんの世界じゃ、お前は彼との結婚で、地球を離れる事を選んだそうだ。55歳ののび太は全部の事情を知ってるから、結婚しても構わんと言ってる。生前は種族の違いで結ばれなかったし、今度こそゴールインしたらどうだ?」

55歳ののび太は義理の息子がのぞみの想い人の転生である事を知っており、のぞみと彼の結婚も容認済みである。のび太がのぞみへ与えられる精一杯の幸せでもある。既に婚姻届も作っており、のぞみを養子と結婚させる気満々である。

「しばらく、考えさせてください」

「55歳のオジンになった頃のだけど、のび太が言ってるぞ。『「自分の力で親以上になってご覧なさい』って言うべきだったね。僕もなんだかんだで親父やお袋のおかげで一人前になって、もうすぐ孫が生まれる。義務教育を終えたら突き放してみるべきだったんだよ。のぞみちゃんは優し過ぎたんだよ』って」

「のび太君……」

「お前、会いたいんだろ?ココに。転生して、地球人になってるんだ。この際だから決めちまえ。千載一遇の好機だぜ」

のぞみは想い人と結ばれなかった事が全ての不幸の始まりだった。黒江は想い人が地球人に転生した事を理由に、彼との結婚を勧める。『ココ』との仲は周知の事実であるためだ。


「私は怖かっただけかもしれません。上の子が自分を否定してしまう事が。下の子は私の後を二つの意味で継いでくれたけど、上の子は難産でしたから…」

「お前は自分の子の気持ちを顧みるのが遅すぎたんだろうな。特に姉妹なら、妹のほうが才能があって、お前が担ってたプリキュアの立場も継いだんじゃ、尚更だ」

「先輩…」

「苦労をしらん子供ってのは、親の気持ちを推し量れんモノだ。俺も上の兄貴のガキで苦労させられたからな」

「先輩も…」

「ただ、この場合、自分下げが拗れた末の言葉のアヤかもな。長女でありながら、母親の素質を受け継いでない事は自分を卑下する理由になる」

「若い時、ちゃんとあの子に向き合えていれば…」

「坂本のケースに似てるよ。あいつも娘と折り合いが悪かったからな」

「坂本先輩、そういう話題を避けるんですよ」

「そりゃ、俺と数十年会えなかった理由が子供にあるからさ。お前と坂本は忙しすぎて、子供が反抗期のままで成人しちまったケースだ。俺の兄貴達にもいてな、そういう奴。今度は子供と一緒にいてやれよ?ある程度までのガキは親がいない事にコンプレックスが出来る。俺も親父や兄貴で経験あったしな」

黒江は子供に優しい。ジャイアンが雇った障害者の『正木』氏も生涯、黒江を『お姉ちゃん』と呼び続けたように、子供の心理に明るい。育児カウンセラーの才能がある証であり、のび太と接する内に得た優しさであった。

「育児で悩みがあれば、りんや俺に相談しろ。子供育てた経験もあるし、義理の娘を育ててるんだ。子供の心理を教えてやる」

「先輩、心理学も?」

「実践で覚えた。従兄弟や兄貴達のガキ共、部隊のガキどもを見てればな。後はのび太のアドバイスだよ」

「それに、りんも心配してるんだぞ。安心させてやれ。幼馴染なんだろ?」

「わかりました…!」

「そうと決まれば話は速い。55歳のび太に婚姻届出させるわ」

「いきなりぃ!?」

「55歳のあいつ、ちょうど、区役所前にいるから…」

「えーーー!!?」

『待ちなさい、綾香』

『智子か』

『ここに連れてきなさい。そのほうが実感湧くでしょ?』

「聞いてたんですか、智子先輩…」

『バッチリ。とにかく、おっさんのび太にはあたしが言うから、貴方は心の準備をなさい』

「おい待て、青年のび太はシャーリーやはーちゃんに付き添って戦闘中だぞ」

「29歳ののび太でも呼んできなさい!戦ってるのは28歳ののび太でしょうが」

智子が発破をかける。別の時間軸ののび太を使いにやるというウルトラCなアイデアで。時間軸がこんがらがるが、智子のアイデアは珍しく冴えていた。この時の会話で、のぞみは生前に仲違いした長女(成年後)の影に怯えていた事に気づき始め、55歳ののび太や黒江の薦めに応じ、不幸の具象と言える長女の影を振り切るために、想い人『ココ』の転生体と結婚する道を選ぶ。そのため、のび太は55歳以後、のぞみが義理の息子の妻となったことで、のぞみと縁戚関係になる事になる。(従って、のぞみが系図で言えば、はーちゃんの義理の妹、あるいは姪になるため、みらいとリコの蘇生後、別の意味でパニックが誘発されたとか)



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