外伝その329『日本の混乱』


――扶桑皇国にもたらされた混乱は大きい。その禊としての派遣が求められた自衛隊。自衛隊は秘匿兵器が根こそぎ引きずり出された事での政府による予算抑制を心配したが、ウィッチ世界からの圧力で防衛予算を拡大せざるを得なくなった日本国。また、連邦の条項に伴い、連合軍の一部として戦うしか、現地派遣の自衛隊には選択肢はない。2019年当時は勲章の取り扱いや、扶桑華族と皇族の取り扱いで国内が揉めていたため、軍事的な揉め事までは勘弁なのが日本政府の方針であった。秘匿兵器の取り扱いが事実上、黒江に一任されたのも、扶桑や連合国への禊と解釈された――






――2019年。平成から新元号に変わった年の日本はウラジオストクを含めた外地獲得処理の完了で防衛に必要な兵力が現在の数倍に膨れ上がってしまった事も重なり、防衛予算を膨れ上がらせるを得なかった。現地の警察は学園都市が排除してしまっており、活用は不可能。警察、軍隊ともに扶桑の人材を活用しなければならない。その対象地域が広大であった事も、扶桑軍の兵力不足の理由の一つであった。(前線から抽出されたため)外地を得てしまった日本の政治的混乱の大きさが窺える。ウィッチ世界の兵站を支えていた地球連邦軍のレーションは、基本的に日本自衛隊のそれを継承したものであるが、これは母体が当時に最高の質であった日本連邦軍だった関係である。黒江が前線に送る目的で野比家に備蓄しているが、一部はどうしても余るので、食料として活用しており、現段階での職業が軍人であるキュアマーチ(ラウラ・ボーデヴィッヒ)が調理をしていた――


――野比家――

「レーションの処理をなぜ、私達がしなくてはならないですの?」

「仕方あるまい。ウィッチ世界の扶桑軍人の全てが洋食に慣れているわけでもないし、外国軍人から『なぜ、扶桑料理を食わない?』って指摘される事もあるそうだ」

「時代的にはそうだろうねぇ。日本料理はフランスやイタリア料理と同じ位の格式あるから」

彼女達の言う通り、扶桑軍人の全てが扶桑料理を求めている(むしろ、洋食目当てで入隊する者も多い)わけではないが、外国軍人からは誤解も含めての指摘を受ける事もある。扶桑料理に憧れでもあるのか、その種の指摘をしたのはジョゼが知られている。流石に度がすぎるため、黒江達からのお叱りを受けて、料理に関しては意見を控えている。(趣味の掃除にも情熱的だが、レイブンズの部屋については、立場上、手出しは出来ないとの事)これには実務上の都合もある。64の料理番で鳴らす芳佳がプリキュア化で多忙になり、芳佳が料理を作る機会が減っているので、黒江達が自衛隊のレーションを調理して、手っ取り早く済ますことも多くなっている。ただし、現地で調理する部隊も多いこともあり、レーションは少なからず余る。その余り物の処理も留守番の役目であった。

「やれやれ。日本のレーションは世界有数に美味いんだがな。アメリカを見ろ、大味すぎる。まさか、この姿で調理するとは思わなかったがな」

キュアマーチ(ラウラ・ボーデヴィッヒ)はカレーを食べつつ、半分呆れる。『日本の洋食は洋食と言えない』と、ジョゼからから指摘されたと黒江から愚痴られ、宥めていたからだろう。

「すごいよね、この町…。ボク達がIS姿で、ラウラがその姿で出歩いても、話題にならないなんて」

「この街はな、天海大僧正が江戸期にかけた結界と、学園都市が張ってた結界が重なり合う座標に位置するのだ。その効果と、ドラえもんのおかげで耐性があるんだ。お前達の機体の稼働データは教官に提出してある。本国も驚いている事だろう」

「先程はあの方と何をお話に?」

「連合軍のフランス将校が日本の洋食は洋食ではないと指摘したらしくてな…」

「1945年当時はさ、ほら…日本にオリエンタルなイメージあったから、ボクの国。うぅ。恥晒してるなぁ…」

げんなりするシャル。時代の差とは言え、ジョゼの発言はフランス人自身から考えても恥ずかしい部類に入るらしい。実際、日本人が生み出す洋食は『洋風の日本人向けの食事』と解釈したほうがいいモノが大多数であるため、ガリア生まれのジョゼには納得がいかないらしいが、芳佳といちか(キラキラプリキュアアラモード)の面倒を見ている日本人シェフが『洋食は洋食で欧州料理じゃねぇ、欧州料理の調理法を使った日本に住む人の為の料理だ。違ってて当然だろう?』と諭したという。キュアスカーレット/ペリーヌは覚醒後は紅城トワとしての記憶が蘇っているため、ジョゼを諭す側であったりする。(ペリーヌとしては、紅城トワがプリキュアとしての別名義になり、実質は日本人扱いであるため、納豆以外は平気らしい)

「私の後輩(キュアスカーレットのこと)がそいつを諭したようだが、フランス人は食にうるさいぞ」

「ナポレオンが缶詰の起源作ったしね…」

キュアマーチはラウラ・ボーデヴィッヒとしての人格を維持しているため、ジャガイモとビールとウインナーが主食のドイツ人気質である。その関係か、フランス人の美食傾向に釘を差したいらしい。苦笑いのシャル。セシリアは我関せずといった様子でティータイムである。IS姿だが。

「セシリアはティータイムか。スコーンと朝食、ティータイムしか取り柄ないとは言え…」

「私の国は貴方方の国と違って、農作物が育ちにくかったのです。自覚はしてますわ、ラウラさん」

「某騎士王が食いしん坊なのだが?」

「それはあの方に言ってくださいな…。はぁ、かのアーサー王が食いしん坊とは…」

多少なりとも幻滅気味のセシリア。アルトリア・ペンドラゴンは魔力の関係もあるとは言え、大食い大会で艦娘・赤城や大和と渡り合えるレベルの食いしん坊である。その武勇伝(?)はキュアマーチやシャル、セシリアの耳にも届いていた。アーサー王が大食い大会にエントリーして優勝できそうな大食いなのには幻滅したセシリア。しかし、かの沖田総司には及ばないものの、普通に戦えば騎士として最高レベルの実力を誇る円卓の騎士に、戦士としては憧れているらしい。

「まあ、戦士たる分、カロリーや魔力を食うのは事実だ。痩せの大食いとはよく言ったものだ。私達プリキュアもそうだが、戦うと腹が減るのだ」

歴代プリキュアもそうだが、基本的に戦いで多量のエネルギーを使うため、自然に大食いになる傾向があるのは戦士に共通する。ISを使おうと、プリキュアに変身しようと、そこだけは普遍の法則である。

「セシリアよ、お前は機動戦で負けがちだから、よくはわからんだろうが、前線で戦うというのは、腹が減っては戦は出来ぬの格言の通りのものだぞ」


セシリアは箒の姿になっていた黒江にのされたり、圭子に手玉に取られたり、キュアマーチに一撃で卒倒に追い込まれるなど、良いところが最近は零なので、大いに膨れる。似た声の雪城ほのか/キュアホワイトが巧者として、歴代プリキュアでも最高レベルの実力で鳴らすのとは対照的であった。セシリア自身も、キュアマーチから聞かされるキュアホワイトの実力者ぶりを多分に意識し始めている。織斑一夏のみならず、箒の姿に化けていた黒江、レヴィとしての姿で来訪した時の圭子、はたまた、ラウラの目覚めたキュアマーチ。尽く負けており、連戦連敗であるからだ。

「……ここ最近は良いところありませんわ…。あの方達にはオールレンジ攻撃するどころでないくらいに弄ばれ、貴方にも一撃で卒倒させられる…」

どよ〜んという効果音を出しそうないじけを見せたセシリア。機体と本人の特性が正面戦闘に向いていない上、実力差のある相手とどういうわけかあたる『噛ませ』の役目を負わされているのもあり、戦績は悪い。映像で見る、オールレンジ兵装を積むはずのνガンダム系統がどうして格闘でも強いのかを考えあぐねるなど、根本的な経験不足も露呈してもいる。キュアマーチ(ラウラ)はそれを教えてやる立場であり、IS勢への軍事教練では、レイブンズからも信頼を置かれていた。伊達に現職の職業軍人ではなく、νガンダムの設計面からの強さや、Zの成功の源『トランスフォーム』の意義も理解していた。21世紀の人間ながら、ISの存在で『人型兵器』の汎用性を理解していた故か、MSの意義も理解するに至っている。その点は現職の軍人であるが故の『新兵器による新戦術』への造詣の深さと、歴史的背景への理解度にあるといえる。

「閣下達からの宿題のレポートをまとめておくようにな、セシリア、シャル。招来の共闘に備えて、派遣先の世界の兵器の事はよく知っておかんとならんからな」

「分かってるよ、ラウラ」

「分かってますわ」

二人は先行して、黒江達の配下で戦ってきた鈴から話を聞いていたが、鈴は説明ベタである上、箒はもっとダメである。それが千冬とレイブンズの頭痛の種であった。レイブンズは度々、千冬に連絡を取っていたが、鈴の後釜に誰を添えるかで悩んでいた。更識楯無は実力面は問題ないが、ISの性能に癖がありすぎる、その妹は普通に実力と経験不足と言うことで没になり、ラウラがキュアマーチに戻った事の兼ね合いで、無難な人選に決まった経緯がある。千冬の要請で、選考から織斑一夏が除外されたためでもある。セシリアの事は千冬も『オルコットは後方支援に用いてください。あれ(ブルー・ティアーズ)はνガンダムのような華々しい芸当のできないISであり、オルコットにはその技能はない』と辛辣だが、事実を述べている。黒江は流石にセシリアに同情し、『おいおい、もうちょいオブラートに包んでやれよ』と苦言を呈している。千冬は物事をハッキリと言うため、IS世界以外では、人に嫌われやすい性格なのは分かる。(常識は弁えているが、分類すれば、軍人気質が抜けていない人種というべきか。圭子にも怒られており、珍しく頭の上がらない様子を見せている)

「セシリア、教官にハッキリ実力の程を言われて、気が滅入っているようだが、あの方はああいう人だ。端的に言うが、とにかく慣れろ」

伊達に軍で教導されたわけではないのか、千冬をそう評するキュアマーチ(ラウラ)。セシリアは頷く。万夫不当の実力がある千冬からすれば、オールレンジ攻撃の適正込みで代表候補性になったセシリアは格落ちなのだろうが、オブラートに包まないため、黒江と圭子には流石に叱られている。(年齢と軍隊階級の都合もあり、千冬は黒江たちには敬語である)ちなみに、この時のブルーティアーズはストライクガンナー装備という第二装備で、背部が高機動スラスターに換装されているなど、通常装備よりシンプルな構造のISだ。アーマーの小型化とそれに伴う関節部の柔軟性と可動性の強化で『IS装備で椅子に普通に腰掛けられる』ようになっているため、椅子に座って、紅茶を飲んでいる。実質的に強化服により近づいたと言えるため、なんとも言えないシュールな構図であった。

「でも、ラウラ。よくよく考えてみると、これってシュールな構図だよね?」

「ああ。私は変身しているが、お前らは装甲服を着込んだようなものだしな。フレームアームズ・ガールか、艦娘の装備姿にも見える」

「稼働データの収集とは言え、箒さんの機体で既にやっているのでは?」

「あいつのは既に変質しているから、お前らの機体でデータを取っているんだ。あいつの機体は『ISと聖衣のキメラ』だからな。それに、そのサイズなら、通常サイズの武器が仕えるからな。それが強みだ」

「貴方の機体も改修はされているのでは?」

「国の指示でな。ただ、私のはカノンがかさばるからな。プリキュアでいたほうがいい。戦闘能力もこちらのほうが上回るしな」

キュアマーチは経験値が活かせるためか、ISの全面的使用はしなくなったことを示唆する。実際、緑川なおの姿とラウラ・ボーデヴィッヒとしての素の容姿を使い分けられるようになったのもあり、シュヴァルツェア・レーゲンはカノンの砲身がかさばるため、小型化しても、室内戦に使えない事から、プリキュアへの変身のほうが優先度が高くなっている。

「あのキュアルージュって子は?」

「先輩だよ、代の離れた。サッカー仲間だったんで、昔に組んだ仲だ」

キュアマーチの自我意識はラウラのそれである。緑川なおとしての記憶と感情は引き継いでいるものの、ラウラ・ボーデヴィッヒとしての特徴が色濃く残っている。また、プリキュアチームとISチームの掛け持ちになりそうなのにはため息である。

「チームは掛け持ちになりそうだ。プリキュアの一翼を担う身だが、ドイツの軍人兼代表候補生でもある。なんとも言えんが、忙しくてな」

「貴方がプリキュアなら、どうして、わたくしは…」

「そう拗ねるな。柄ではないだろ。スーパーヒロイン。それにお前と雪城ほのかでは…、その、なんだ、格が違う」

咳払いを入れる分、かなり言葉を選んだらしいキュアマーチ。セシリアと声が似ている『雪城ほのか』/キュアホワイトだが、格闘で歴代最高レベルの実力を誇る事から、比較にならないと言うことだろう。なんとも言いづらそうなところが、初代の実力を比較的に見る機会がまだ多かった代のプリキュアに属していたからなので、彼女なりに、セシリアには気を使っているらしい。

「ラウラがそういうって事は?」

「歴代でも五指に入る実力者だと思う。私個人の見解だがな。この姿でいると、簪には喜ばれるが、一夏は渋い顔するのが難点だ。あいつの難点はヒーローやヒロインの事情を考えんところだ。出自が『コーディネーター』で、教官との関係も兄妹ではなく、『量産試作品』ということを掴んだが、伏せておく。おそらく教官も知っているはずだ」

織斑姉弟はIS世界におけるデザイナーベイビー計画の成功例として生み出された。これは仮面ライダー達が知らせた事項で、千冬が一夏に出自を詮索するなと厳命していた真の理由にあたる。織斑一夏は千冬をもとに生み出された量産型のプロトタイプベイビー。これに箒とラウラは絶句しつつ、黒江の命で千冬を問いただした。千冬も口外するなと注釈をつけてだが、出自を明らかにした。また、その時にラウラがプリキュアになったことを羨ましがり、『私もなれるものならな』と冗談めかして語っている。(声で言うなら、千冬は黒川エレン/キュアビートにそっくりで、圭子とも声が似ている。ただし、圭子のほうがドスが効いていてヤサグレ気味である)

「閣下はS.M.S.のクラン・クラン大尉がキュアビートではないかと考えておいでだったが、教官の線が外れなら、ありえるかもしれん。教官であれば、あいつには皮肉そのものだったんだが、スパイスが効きすぎるからな」

キュアマーチは黒江の命でIS世界にプリキュア関係者が転生していないかの調査もしており、セシリアと千冬はその候補の一人であった。これは変則的な形でわかる事になる。


「マーチ、私よ」

「マーメイドか。そっちは仕事中ではないのか?」

「それがね、イサム・ダイソン少佐のツテで調べてみたら、S.M.S.のクラン・クラン大尉がキュアビートだったわ」

「やはりそうか。それで?」

「今はオズマ・リー少佐の仲介で智子さんが連絡を取っているわ。彼女、マイクローン化すると、子供の姿になるから、エレンの姿で来るそうよ」

黒川エレンの姿であれば、20代ほどの妖艶なナイスボディのクールビューティのクラン・クランとしての素の容姿よりは幼いが、マイクローン化した時の幼体姿ほどではない。それに気がついたらしいクラン・クラン。

「ゼントラーディになったのか、エレンは」

「それが…織斑千冬の記憶も持ってるみたいで、エレンはどうも、織斑千冬を経由して輪廻転生しているらしいわ」

「なんだ、そのS字カーブみたいな転生の仕方…」

乾いた笑いが出たキュアマーチ。黒川エレンは元々は妖精『セイレーン』であるため、それを考えると、転生を繰り返していると言える。最新の転生先がメルトランディなのはなんとも言えないが、かなり複雑なアイデンティティになっているのは想像できる。

「ん、どうした。舌打ちが聞こえたぞ?」

「こっちでの戦友が医務室から脱走したのよ。捜索班を編成しているのだけど…捕まらないのよ」

マーメイドは気が付かない内に舌打ちをするほどに苛立っていた。坂本はマーメイド(竹井)の苛立ちをよそに、まんまと自室に近づいていたりする。坂本もまさか、竹井がプリキュアになってまで自分を探すとは思ってもみなかっただろう。坂本と面識があるため、キュアマーチはなんとも言えず、双方の顔を立てることにしたのだった。坂本の脱走は、はっきり言って成功しつつあり、キュアハッピーとキュアスカーレットが広大な艦内を駆けずり回る羽目に陥ったのもつゆ知らず、坂本は自室がある区画に通じる通気口に潜り込みつつあった。坂本の忍術は黒江のツテで覚えたものなので、戸隠流忍法である。正面戦闘にも使えて、隠密行動にも使える。坂本はそのノウハウで通気口を通り、自室近くの区画に降りる。坂本はタイミングを見計らって、自室に鍵をかけて布団をかぶって寝入る。

「ダメですわ、艦内を駆けずり回っても、影も形もありません…」

「そんなはずは……!」

スカーレットの報告で途方に暮れるマーメイドの様子が通信で聞こえてくるマーチ。次元間通信ながら、声をかけづらくなってしまったのであった。







――扶桑が日本に情報を明かさない『量産型ラ級戦艦』。ティターンズ残党はガルダ級超大型輸送機を武装化しており、それへの対抗も含めての極秘計画であった。地下ドックでそのプロトタイプである『ト號』の建造が進められていた。日本海軍が闇に葬った計画は見事に蘇ったのである。その基礎図面は元・轟天振武隊の人員の子孫から提供されたもので、太平洋戦争当時の特機に入るものだ。日本政府も把握していないラ級二番艦の図面。その図面が作られた日付は『1944年7月』。ラ號の建造計画が具体化した頃である。軍艦建造の習わし通りと言えばそうだが、日本は二隻を用意しようとしていたのだ。当時の国力では、航空消耗戦についていけなかったことが克明に示され、大艦巨砲主義が生き返り、ラ號とその二番艦が計画された。結局、航空消耗戦は国力と人的資源に余裕がある国の特権であると悟ったのである。扶桑は播磨型から敷島型までが自国に負担がかからない委託での建造であるのを良いことに、自分達はその計画を再利用し、ラ級の量産型を開発していた。大まかな性能基準は概ね、『40cm砲以上を搭載する』とされている。これは他の海軍強国に建造枠を割り振るための国際基準である。ウィッチ世界は保護国なども含めても、戦艦を有することのできる余裕がある国は多くはない。1910年代以前の世界秩序が維持されていたのだから、列強に限られている。それでも、同位国に計画への参画を止められたり、国内事情で参画しない国が生じた。同位国が計画の中心国である日米英の三大海軍国はノリノリであった。『同位国の保有枠だから』と、後に計画の全面支援に乗り出し、量産型ラ級の多くはその三カ国系のモノで占められていく。ニューレインボープランは、扶桑連合艦隊にとっては、八八艦隊型戦艦の大半を一線から退けられた事での代替品も兼ねている。扶桑の戦艦保有数は二桁だが、それを日本の政治勢力が無理に保有枠を一桁(八八艦隊型を退役、もしくは予備役に)に抑えようとした事での弊害が生じていたため、『空中要塞を兼ねられるラ級であれば…』と、計画の通知後に妥協的に保有を容認する事になる。空中戦艦を大型航空機と見なすのか、艦艇と扱うので揉めたからだ。日本連邦は海上と海中、宇宙も航行可能ということで、『艦艇保有枠』になるが、空中戦をするため、操舵関係者は航空出身者が選抜されていく。一方のアメリカは東西冷戦時代の名残りで、空中戦艦を第二次世界大戦直後のように、空軍の予算で維持することを目論んだ。しかし、船の形であるので、乗員は海軍関係者が多くなった。これにより、米軍と自由リベリオン軍のラ級は空軍所管、日本連邦はプロトタイプ除き、海軍所管になっていく。空軍の所管とされたのが64に回される予定の『ト號』である。時代の流れで空母機動部隊が『高額化』したために戦艦が安価と看做されるのは、航空閥には予想外の結果だろうが、大型航空機(戦略爆撃機)の大量保有よりは安上がりかつ、政治的に文句が来にくいからであった。また、戦略爆撃機より空中戦艦のほうが受けがいいという日本特有の現象も、日本側の容認に関係していた。ラ號二番艦。その設計図から生まれしモノ。その名はト號。またの名を『轟天号』…。艦尾銘板の「とよあしはら」の文字が、本来の名を示す唯一無二のもの。一説には、計画時の連合艦隊司令長官の豊田副武の指示で備え付けられるはずだったとされる銘板とされた。完成後に塗装で塗りつぶされるが、本来は真鍮打ち出しであり、大日本帝国海軍が世に残そうとした遺産である事の唯一の血統書であった――



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