外伝その343『旧343空の呪縛』


――地球連邦軍はデザリアム戦役が始まる前の段階で、それ迄の戦争で大量に増えていた尉官を『佐官を増やす』ため、佐官へ上げる措置がなされていた。佐官以上の人員がそれまでの戦争で大量に戦死したからで、ノビ少尉(のび太の転生)が『血筋と関係なしに俊英』とされるのは、『質が下がっていた』地球連邦軍の士官学校卒としては稀に見る俊英であるからだ。ウィッチ世界では、その逆に佐官が多くなりすぎ、将官にする事が続出した。功ある佐官が次々と将官に任ぜられたが、現場からは『優秀な人材にデスクワークを?』と反発が出たが、実際は現場に張り付けにしたままで階級だけを上げる措置であった。これはレイブンズのように、『デスクワークさせると、自分達の立場がない。現場で戦わせたほうが自分達の身が安全である』と保守派も判断したためだが、ダイ・アナザー・デイを境に、官僚形軍人は部内の嫌われ者になり、逆に前線で指揮を執るタイプの軍人が崇敬を受ける事が加速する事になる。その間を取り持てる能力を持つ将校は連合軍/地球連邦軍を問わずに重宝される。64Fは空軍の設立から日が経っていないのにも関わらず、人材と機材の独占感が強いためと、軍中央の指揮下ではなくなった事もあり、初っ端から批判を浴びていた。――








――64Fは日本連邦の直轄部隊となり、外郭独立部隊と化した。地球連邦軍から、RX-94(後に条約との兼ね合いで、形式番号は変更される)『量産型νガンダム』も回されていたが、条約で禁止されそうなサイコフレームは設計開始時期を理由に、当初通りに組み込まれていた。アムロとカミーユががロンド・ベル本隊から出向してきたため、64の管理する艦の格納庫は豪華であった――


「アムロさん、どうして正式に出向に?」

「ブライトから、シャアがこちらにいると連絡があったからさ。HI-νガンダムのテストも兼ねている。カミーユの近代化したZのテストも同時に行っているがね」

「量産型ν、量産して大丈夫なんですかね?」

「元からの計画だったし、ユニコーンガンダムを恐れるネオ・ジオン穏健派が言い出したことだ。ネオジオングの写真をプリベンターが見せたら、連中は狼狽したそうだ。君のメタ情報が役に立った」

「ネオ・ジオンもヤクト・ドーガを量産しようとした形跡がありますからね。量産型のνガンダムは目的が変わったにしろ、確保する必要があります」

「サイコフレームの新規搭載禁止はユニコーンガンダムの力を恐れてのものだろうが、自分達のほうがよっぽど化物を造ってたじゃないかと言ったら、『中止させたはずだ!』と狼狽したそうだ。アナログフィルムで撮らせたたから、23世紀の宇宙時代に、わざわざアナログの合成写真を造る手間をかけるか?って迫れたのも大きい」

「ま、νガンダム系統はサザビー系の抑止力でもありますからね。ヘビーウェポンシステムも間に合って良かった」

「ニナさんやベルトーチカを急かしたと聞くが、よく間に合わせたものだ」

νガンダム系はフルアーマーシステムを発展させた『ヘビーウェポンシステム』を適応した唯一の機体である。アムロは地上では排熱性の都合もあり、重量増加の一因である胸部増加装甲は任務の目的に応じて適宜、外しているが、それ以外は取り付けている。アムロ専用機として調整されているため、νガンダムとHI-νガンダムは実質、アムロ専用機である。MSは個人専用機が許されるジャンルの兵器であり、武器も専用のものであるため、MSは維持コストのかかる兵器とされる。νガンダム系統は量産される事を想定して開発されているが、ジム系より高コストである事には変わりない。ジオンが量産性を無視したハイエンドモデルやモビルアーマーに傾倒したため、地球連邦軍も必然的に象徴としてのガンダムタイプを開発せねばならない。ガンダムタイプはそもそも、地球連邦軍の実験機として、『RX-78シリーズ』が作られたのが最初であるため、軍用MSとしては『地球連邦のシンボル』である。(抵抗の象徴になったガンダムタイプもいるが、RX-78が地球連邦軍の象徴であった歴史の事実がある)量産型MSの性能でジオンが優位に立った時代もあったが、デザリアム戦役前の段階では、小型高性能化を目指した第二期MSも袋小路に入り、次の時代に相応しい『第三期MS』の模索が始まっていた時代であるため、ジオンの戦乱で肥大化したモビルアーマー的とも揶揄されるMSの設計思想は時代遅れと化していた。

「ジオンはなんで、ドーベンウルフとかハンマ・ハンマを?」

「ひとえに人手不足だよ。アクシズ時代の将校は殆どが一年戦争期は少年だった若手だ。野心に溢れる連中がグレミー・トトを神輿にしたが、結果は共倒れだったが、人手不足を補うための重装備だったはずが、本末転倒だった」

「へぇ〜。」

「それに、今のジオン残党は地上にいる連中の多くは一年戦争期の残党が行き場のないティターンズ残党を取り込んで出来た連中が北米中心に多い。だから、ティターンズは『反地球連邦組織』って情報操作がされてるのさ。火星のオールズモビルは多くのティターンズ系の部隊が流れているし、ネオ・ジオンの世代構成だって、大半がアクシズ以降の世代で、元・公国軍人は幹部に数%いる程度さ。MSもシンプルになったが、アクシズの時代から増えたんだ。MSの性能を引き上げて、連邦軍を蹴散らそうって傾向が」

「史実のローゼン・ズールはあのホモのアンジェロ・ザウパーがいないから、まず作られないとしても、ギラ・ズールは見かけますね?」

「元々、シャアのネオ・ジオンが採用したドーガ系統は『ザクとマラサイの長所をMIXした次世代主力機』として、アクシズの頃に試作機がロールアウトしていたものだ。そのバージョンアップとして、あの戦の前に発注していたのがギラ・ズールだ。根本的に設計当時のジェガンを想定していたから、ジェガンの後継や上位機種には無力に近い。ましてや、ジオンのライフルは『サザビー系のワンオフモデル』以外は量産品のビームシールドも貫けない旧式だからね」

ジオンのビームライフルは大半が第一次ネオ・ジオン戦争までの時代に開発された旧式のものなので、デザリアム戦役前の時点で連邦軍で普及していた『ビームシールド』の廉価モデルも貫けない。地球連邦軍がアップデートを重ね、ザンスカール帝国のMSを前提にした高火力武器を続々と配備している一方、一年戦争期からの実体弾兵器も継続して使用されているなど、地球連邦軍は宇宙戦争時代における兵器バランスを戦訓で整えている。その恩恵を受けているわけだが。



「君達も大変だろう。日本の手でカールスラントとの交流関係が疎遠になり、代わりにリベリオンと一体化するなど」

「メタ情報はあるんで、想定はしてました。カールスラント空軍の44戦闘団の主力は順次、『義勇兵枠』で取り込む手筈です。自由リベリオンの人員はこっちの好きにできますから、508は実質、解散です」

「日本のこだわる『343空の呪縛』という奴か」

「エースパイロットを各地から引き抜きましたけど、全部が応じたわけじゃないですからね。日本は拒否権無しでの強引な引き抜きをやってますけど、統合参謀本部に談判されるくらいに反対されてるんですよ。そういう連中は天誅組に回してます」

「賢明な判断だ。その分は俺やカミーユで補おう」

64は教導群や開発実験団に相当する役目も自動的に担わされたため、人員はベテランかエースパイロットで固めることが方針にされた一方で、航空審査部などのテスト部隊に不信感がある昭和天皇の意向で、『航空審査部』出身者は黒江の推薦者や黒江に好意を示していた者達以外は昭和天皇の意向もあり、多くが同部隊に配属されずに終わる。(後に、横須賀航空隊の出身者も加えられる)その一方で、黒江の信頼さえ獲得していれば、64F配属の芽はあるため、黒江が配属されていた当時に親交があったエンジニアやパイロット達は黒江に連絡をこぞって取るようになり、空軍設立で形骸化した航空審査部から転属し、本土待機組の天誅組に移籍した者は20名前後にも及ぶ。実質、天誅組が航空審査部と横須賀航空隊の代替部隊も兼ねていたとも言える。言うならば、テスト部隊の役割を実戦部隊に兼ねさせたいというのが昭和天皇の意向であり、建前上は『実戦の空気を知る者にテストをさせるべき』だが、実際はテストパイロットは『前線帰りが本土でやる仕事』と認識されていたため、昭和天皇の不信感が陸軍の蓄積した『エンジニア・パイロット』のノウハウを四散させたようなものだが、海軍横須賀航空隊が更に質の悪い事をやらかしたため、彼らよりは『軍内での再就職』のクチには恵まれていた。日本の一部からは『ベテラン・パイロットや歴戦のエース・パイロットを本土で遊ばせて、給料泥棒させている』という批判が出ていたため、航空審査部と横須賀航空隊が温存していた人材を前線、もしくは本土防空で駆使する事になり、実際に出身者の何割かは整備隊、飛行隊を問わずに戦線に呼び寄せられている。64が前線でウィッチ隊、通常兵器隊の区別なく、隊の編成をしている理由もその練度にある。通常兵器の操縦も兼ねられるからだ。

「エースを審査部出身、横空出身、実戦部隊出身、教導部隊を問わずに、日本連邦の上がだれかれ構わずに引き抜いてるから、他の部隊から文句が出てるんすよ。審査部出身は新鋭機の戦隊長や基幹幹部にしたがるの多いから。その『お目当て』をウチに無理に回したって…」

「日本連邦のお偉方はな、綾香。歴史的に見れば、旧ジオンにかなり濃厚な影響を与えている。君も一年戦争を調べたのなら、戦争末期に旧ジオン軍のキシリア派が結成した『キマイラ隊』の事は知ってるだろう?あれの発想元の『日本の航空隊』はこの部隊の事で、キシリアは時空融合現象の後も断片的に残っていた記録を見て、戦後の政治的カード兼ニュータイプへの抑止力として結成させたが、どうもこの部隊の断片的に残された記録を見たらしい」

「マジっすか…?」

「ああ。旧ジオンから、カラバに転じた経歴の部下から聞いた話だがね。で、カラクリが分かったから、日本連邦は君達のこの部隊を最強にしたがってるのさ」

「歴史的にはキマイラに影響を…。うーん。喜んでいいやら」

「歴史的なことだからな。だが、一つ確かな事はある。キマイラは10代の頃の俺と当たれば、為す術なく落とされるってのが定説だ。あの頃は若かったし、キマイラ隊だろうと余裕で倒せたろう」

アムロは一年戦争時の若き日の自分なら、ジオン最強のエースパイロットであるシャア・アズナブルでさえも『為す術がなかった』と漏らすほどの勢いであったため、アレックスが与えられていれば、シャア・アズナブルが『パーフェクト・ジオング』に乗っていようとも一体一なら、余裕で倒せただろうと推測している。キマイラ隊はシャアより技能が劣る者達が大半であるので、ガンダムタイプに当時のアムロが乗れば、ジオンの如何なるエースパイロットだろうと互角に持ち込むことが精一杯であったとされる。20代後半となった現在では『戦闘に特化して成熟したニュータイプ』であり、戦闘能力はデザリアム戦役前時点でも冴え渡り、地球連邦軍最強のガンダムパイロットとされる。

「もし、一年戦争最強のガンダムだったという、アレックスに乗ってたら?」

「多分、シャアでも一対一なら倒せただろうな。むしろ、G3でもいいくらいだ。RX-78のファーストロットはあれしかもうないはずだ」

「あれ、残ったんすか」

「テストベッド機として使われた後、ルナツーに戦後のある時期まで放置され、その後にアナハイムの博物館に寄贈されたそうだ」

「シャアのこと、どう思います?」

「シャアはああ見えて、意外に器量の小さい男だ。自分が自動的にモテると思っているフシがある。ララアしか見ていないくせに」

「のび太の時代の漫画だと、一年戦争のときのあの仮面、気に入ってたらしいとか」

「グリプス戦役の時はノースリーブだったし、奴の考えることはわからん。分かるのはシスコン、マザコン、ロリコンの三重苦だって事くらいだ」


アムロをして、大きく人物評価が下がっているシャア・アズナブル。シャアはクワトロ・バジーナとしての空回り気味な姿が恐らくは素(キャスバル・レム・ダイクンとしての)であり、シャア・アズナブルとしての颯爽たる振る舞いは欺瞞に満ちていると言える。例えば、一時、行方不明であった時期に蜂起し、滅んだクロスボーン・バンガードのカロッゾ・ロナは『私的な理由で周囲を裏切った青二才』と小馬鹿にしていた(彼自身も小物じみた理由で痴話喧嘩になった挙句に、シーブック・アノーに倒されたが)という。シャア・アズナブルがアムロ・レイに執着心を抱いている事は知られている。一般的には『全てにおいて優秀な自分に唯一、土をつけたから』であるが、実際は『ララア・スンを殺したから』で、若き日の初恋の人の思い出を忘れられず、ララアを殺したと、『卑小な事』にいつまでもこだわり続ける人間臭さからである。シャアは一年戦争の時の青さを捨てきれずに『スペースノイドの希望』としての偶像に祭り上げられる事に嫌気が差しているのに対し、アムロは連邦の改革に力を尽くしつつ、連邦最強のパイロットの一人として、軍内での地位を確立しているなど、アムロは成人後に徐々にシャアを追い抜いていったと取れる人生を生きている。シャアは立場上、スペースノイドの代表者になり得る政治力があるはずだが、ネオ・ジオン総帥としての立場を嫌い、パイロット気質まるだしである。それでいて、『ララア・スンは〜』である。アムロはその一言でシャアに対し、決定的に幻滅している。アムロは徐々にだが、大局的見地から『人の心の光』を信ずるようになり、落ち着きを身に着けたベルトーチカと家庭を築こうとしている。そのせいか、鬱屈していて、子供っぽさの残っていたグリプス戦役当時より大人びた雰囲気を醸し出している。

「シャアは結局、赤ちゃんプレイしたい変態なんすかね」

「昔、セイラさんから聞いたんだが、奴は少年時代に母親のアストライアと引き離され、甘える事ができないまま成長し、一年戦争のあの動きに繋がったそうだ。母性に飢えた三十路男なのは確かだろう」

「かなり辛辣ですね」

「アクシズを押し返した時の罵りあいで奴に持っていた幻想は壊されたからな。セイラさんの幼少時代の写真をロケットに入れてて、『この方が…アルテイシアには良かったのかもしれん…』と震え声で呟いたからね…」

「セイラさんのことは?」

「一年戦争の時にセイラさんが袂を分かったらしいが、グリプス戦役の頃にシャアが会っていたという情報もある。奴はブレックス准将の事だけは尊敬してたからな」

シャアが尊敬の念を見せた人物はアムロとブライトを除くと、かつてのエゥーゴの指導者であるブレックス・フォーラだけであった。エゥーゴ時代は最も素が出せていた時期なので、シャア自身も人生で最も『気が楽な』時代だと振り返ってもいる。シャアが心から敬愛した唯一の人物がブレックス・フォーラであり、彼の死とカミーユの悲劇がシャアを更に歪ませたのも事実だろう。

「ジュドーやシーブックと出会っていればな。ハマーン・カーンも最期に心の光に身を委ねたらしくてな。惜しい事だ」

「ハマーンの最期は確か…」

「『帰って来て…良かったよ……強い子に会えて…』だそうだ。ジュドーが言っていた」

「ハマーン・カーンはあの局面でなんで、軍部が瓦解しかねないダブルゼータとの一騎打ちを?」

「これは後で分かったんだが、ハマーンの唯一生き残っていた肉親であり、懐刀だった妹のセレーナ・カーンがグレミー・トトの一派に襲撃され、行方不明になっていたんだそうだ」

「ハマーンにまだ肉親が?」

「長姉のマリーネは政争の道具にされて死に、唯一、生き残っていた妹に依存していた節があるそうだ。自分のカリスマ性は作っていたイメージで、本質はシャアにすがりつきたい少女期から変わっていなかったんだろう」

「あのドスの効いた声も自分で作ったっていう証言ありますものね」

「マハラジャ・カーンの子と言うだけで、ジオン残党の神輿にされた子供がハマーンの実像かもしれん」

アムロはシャアに利用された存在としてのハマーン・カーンに同情している様子を窺わせた。第一次ネオ・ジオン戦争は『ハマーンのクレイジー・ウォー』ともされるが、グレミー・トトのせいで彼女はジュドー・アーシタに倒されるしかなくなったと評される。グレミー・トトは後世のジオン残党からも戦犯扱いであるし、シャアからも『大局的見地のない若造』と断じられている。ハマーンは長姉がドズルの妾であった事から、ミネバ・ラオ・ザビとは縁戚関係が取りざたされている。それが分かったのは、アクシズ軍が降伏した後であり、シャアはネオ・ジオンそのものの再建に苦労を強いられた事から、グレミー・トト派は潰しにかかっている。

「シャアは他の世界で自分亡き後に現れる、フル・フロンタルの事をどう思ってるんでしょうね」

「アフランシ・シャアのほうが、まだ自分に近いと思ってるだろう。フル・フロンタルはシャアの姿と態度を真似ただけの男にすぎない」

アムロは21世紀の世界でのアニメから『自分達が世を去った後の世界のたどる可能性を知り、フル・フロンタルが現れた場合は自分が倒すのみだとする。アムロはシャアの理想像に従って造られし存在としてのフル・フロンタルを倒す事で、シャアを『赤い彗星』としての偶像から開放してやりたいらしい。グリプス戦役の頃に一度は友人と思った男への手向けとして。(ちなみに、シャア本人は『不快だな、私の悪いところだけを煮詰めたような代物で戦い方も機体の力に頼った馬鹿正直な正攻法だと?どれだけ馬鹿にしてるのかと思ったよ』とナナイ・ミゲルに愚痴っており、意外に青臭い感想を述べ、ナナイを苦笑させたという)


「早乙女研究所の地下のゲッタードラゴンに動きがあります。ゲッター線は奴を敵とみなしたようです、フル・フロンタルを」

「シャアの名を使ってるのだろう。デューク東郷の攻撃から難を逃れたクローンにフル・フロンタルの意識が世界を超えて宿ったのなら、俺がHI-νガンダムで止めるのみだ」

「そういうと思って、ヘビーウェポンをハイν用に増産させておきました」

「ハイパーランチャーは?」

「バスターランチャーとバスターライフルを参考に、アナハイムが改良したモデルをこさえました。ケーブル引かなくていいですよ」

「フル・フロンタルとシャアには動きに差がある。シャアなら、重MSのナイチンゲールに高機動戦をさせるからな。状況に応じて使うよ」

アムロは自身がバランスを再調整した上で、改良を要請した『ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー』を用意させる。完全にフル・フロンタル絶対殺すマンになっている証である。対艦/対要塞用兵装も揃えるあたり、あらゆる想定で事に臨むつもりなのだと、黒江は悟った。










――アムロはこれから想定されるであろう戦に準備を怠らない。一方、歴代のプリキュア達はシンフォギアC世界から調を連れ帰るのに、更に数度の戦闘を挟む必要があった。敵はこちらの都合を考えてはくれないからで、光明結社の中核が消えたことで錬金術士のタガが外れたからでもあった。プリキュア達は装者らが霞む勢いで暴れ、とにかく、調を連れ戻すため、錬金術士を無力化させる方法で戦った――

「ああ、もう!!面倒事はこの世界でも多いってことか!!クローバーボックスが使えればなぁ」

「愚痴ってる場合ですか、ピーチ!とにかく、連中を奥から引きずり出して、吐かせましょう!」

ブロッサム/つぼみ(アリシア)はつぼみとしての言葉づかいは保っているが、思考は妹のフェイトの影響大である。アルカノイズの大群に『プリキュア・ピンクフォルテウェイブ』を放ち、フレッシュプリキュア全体での大技『ラッキークローバー・グランドフィナーレ』が使えないことを嘆くピーチに発破をかける。フェイトが突撃思考であるので、その姉のアリシアに影響がないはずはないのだ。

「こうなれば、精霊の力で!」

ピーチはイーグレット(ウェンディ)の力を受け継いだため、ドリーム共々、Splash Starの二人と同様の戦闘を可能にした。のぞみ共々、先輩の咲と舞から託されし力である。姿は変わらないが、戦闘能力にブーストがかかるため、その力は現役時代の自身を上回ると言って良い。

『プリキュア・スターライト・ミーティア!!』

シューティングスターを応用し、高空からエネルギーを纏って突撃し、皆の進路を切り拓くドリーム。かつての戦いでシューティングスターを、突撃かつ進路を開くために大軍に向けて放った戦法を改良し、改めて『別の技』としたものだ。精霊の力を加え、以前とは放つ光の色が異なり、描く軌跡もより攻撃的なものであるため、『シューティングスター』より速そうな言葉である『ミーティア』を選んだのだろう。もっとも、シューティングスターもミーティアも意味は同じ『流星』なのだが。その様子をSONGの移動本部で観戦する装者達。


「すごい…。完全にアルカ・ノイズを圧倒しているデス…」

「いくら住んでいる世界が違うからと言っても、シンフォギアも改良せねばならぬほどだったアルカ・ノイズを意に介さんだとッ……」

「連中には、この世界の法則は適応されねぇのかッ!?」

「彼女たちは平行世界を守護する役目を背負わされたと言っていた…。もしかしたら、その時点から、個々の世界の細かい法則を超えるだけの何かの加護を…」

「与えられてる存在…」

マリアCと響Cはプリキュア達が背負った宿命と役割を悟り、息を呑む。個々の強さもC世界における装者の平均を上回るもので、必殺技の威力も装者になんら遜色がない。響Cはメロディから教えられた『別の自分が陥った負の感情のスパイラル』の意味を悟る。響CはAよりメンタル面で強く、プリキュア達の強さを素直に受け止めた上で、別の自分がどうして、精神的に強く追い詰められたのかを理解した。

「マリアさん。あの子達が言ってた事、分かったような気がします。別の私は多分……、あの子達の力がノイズを倒せること、それ以外にも強力な力がある事で、居場所が無くなっちゃう事に怯えたんです。私自身、奇妙な確信があるんです」

「まず、間違いないと見ていいわね。別の貴方はもう一人の調の師匠がフロンティア事変の出来事を大きく変え、結果としては、それ以降の出来事でも、その人が鍵を握っていた。貴方はガングニールの絶対性が侵される事に強い恐怖を感じ、同時に『居場所を奪うな』という怒りと恐怖心、その人への『憎悪』が先に立ち、小日向未来でも、ストップがかけられないほどに、別の貴方は暴走してしまった…。そんなところでしょうね」

「あん時、あのねーちゃんと話してたのは、その事なのか?」

「はい。変な気分でしたよ。双子の兄弟のやらかしだと思えって言われて」

「平行世界で辿った経緯は個々で違うものだ。響くん。君の言葉を伝えるように、彼女たちには要請してある。別世界の君自身を救うための切り札だ」

「はい、師匠…」

「それと皆、彼女たちは一人を除いて、全員が既に成人しているそうだ」

「なッ!?あの外見で!?」

「おいおい!!外見と年齢が合わねぇのは見てきたけど、振る舞いが実年齢より下なパターンは初めてだぞッ!?どーいう事だよッ!」

風鳴弦十郎からそれは伝えられる。元は妖精、次いで神に転じ、一時的に概念になっていたこともあることは(はーちゃん)を除き、転生に伴い、肉体年齢は現役時代の頃の14歳に戻っているが、精神面では成人後のものを維持している事が多い歴代プリキュア。その一方で、現役時代の頃の振る舞いを通すドリームの例もあるので、クリスCにツッコまれる。もっとも、歴代のプリキュアは皆が14歳の外見であるため、装者達はもちろん、SONGの大人達も多くは外見相応の年齢と思ったようで、二人のオペレーターも驚き顔である。なんと呼べはいいのか。悩むC世界の装者達であった。



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