外伝その345『苦悩』


――日本人には扶桑軍人を信用しているわけではない者も多いため、政治手腕よりも、折衝能力よりも、前線での戦果のみが政治家の信頼を勝ち得る手段とされた。武子は『50機以上の撃墜数』、『かつての戦争で皇室から軍の指揮権を委譲された経験がある』。扶桑では合法であったはずが、日本連邦体制では問題視された(その後に長く大尉だったのも問題視された)。武子は皇室を守るために准将の地位についたと公言し、軍中央も内心では『厄介者』と疎んじている。しかし、Gウィッチ化でそうもいかなくなったため、中央が関与しなくて済む『外郭独立部隊の指揮官』はちょうどいいポストであった。武子は事変を知る高官や当時の参謀が現役の内は64Fの指揮官でポストが固定される事になる。ウィッチという存在を日本に認知させるためもあり、『主人公格、あるいはそれに準じる実力者』を一箇所に集めるという選択は軍事的というよりも、政治的メリットのほうを重視されての選択と言える。しかしながら、赴く戦場で無敵を約束されるメリットは確かにある。44戦闘団も設立目的とかけ離れてはいるが、ガランドが人材の保全目的にエースパイロットを集めている。特に、501統合戦闘航空団だけが活躍しているという印象も日本には強かったため、他の統合戦闘航空団が統廃合され、殆どが実働でなくなった事は連合国で大きな問題になったのである――




――花咲つぼみと星空みゆきは日本向けのラジオで『プリキュアの恋愛』についての回答で四苦八苦していた。恋愛に発展したプリキュアは本当に、殆どいないからだ――

「好きな人は居るけど、まだ告白もしてないから今のところは秘密って事で許して〜!」

みゆきは逃げを打つが、ラブのように、回答をはぐらかしたまま、関係が進展しなかった例、失恋したほまれ(キュアエトワール)の例もある。そのため、相思相愛の関係に発展したのは本当にのぞみだけである。

「リスナーの『たけ坊』から質問だよ、みゆきちゃん。えーと、「プリキュアはみんな大学出てるの?だって」

「そのリスナー、ジャイアンだよ、きっと」

「ジャイアンさん、このラジオ聞いてるのかな?」

「のび太君曰く、少女趣味強いらしくてさ。妹に隠れて、グッズ集めてるんだってさ」

「社長さんになったから、かな、ア、アハハ…」

ジャイアンは21世紀には、『少女漫画界期待の新星』というキャッチコピーで漫画家としてデビューしたジャイ子を抱えていた。ペンネームはもちろん、『クリスチーネ・剛田』である。ジャイ子は美しいストーリー構築、時代考証の厳密さ、メカ描写の緻密さで名を馳せるようになっており、青年誌、少女漫画雑誌を合わせて五本の連載を抱えている。また、2019年のプリキュアである『スタートゥインクルプリキュア』のコミカライズも担当しているなど、プリキュア関係の仕事にもついている。また、コミカライズは独自の展開をしており、ドリームとフェリーチェ、ルージュの声に答え、ドリームとルージュを変身前込みで登場させつつ、『成長した姿』を描写している。(フェリーチェも登場予定らしい)本人達が身近にいるために可能になった描写であるが、アニメスタッフにも好評らしいとの事。

「ジャイアンく〜ん。妹さんによろしく〜。あ、食料品の差し入れ、増やしてね♪お店に遊びに行くから」

みゆきはちゃっかりと公共の電波で頼み込む。ジャイ子が後輩らのアニメのコミカライズ担当者であることを見越しての事で、ジャイ子が『プリキュアのコミカライズを担当する事になった』と野比家に報告しにきた時、偶々に休んでいたその三人が頼み込んだのだ。特に現役時代に人気が今ひとつだったりんが一番の熱意であったため、のぞみとはーちゃんを大笑いさせたという。

「あ、フェイトから聞いたんですけど、ジャイアン君の妹さんがスタートゥインクルのコミカライズを担当する事になった時、のぞみさん達が彼女に迫ったそうですね?」

「それがケッサクなんだ、つぼみちゃん。りんちゃんがさ…」

みゆきは語る。ある日の野比家にて起こった出来事。りんが猛烈な情熱でジャイ子を口説き落としたというその交渉。具体的には、のぞみが『コージ』と婚約するため、壮年期のび太に会いに行き、彼から婚約指輪を送られた帰りに起こった出来事であった。


――ある日の野比家――

「やあ、久しぶりだね、ジャイ子ちゃん。デビューおめでとう」

「ありがとう、のび太さん。今は連載を六個抱えてるのよ〜」

「五個って、ジャイアンから聞いたけど」

「実は今度のスタートゥインクルプリキュアのコミカライズを担当する事になったのよ。のび太さんなら、伝があると思って」

「ま、まあねぇ。去年の映画はのぞみちゃんの希望通りにシナリオの書き換えさせたけど、当たって良かった」

ジャイ子はこの頃。26歳前後、デビューは20代に入ってからである。思春期に痩せた事から、容姿は剛田家の通例からは若干離れた美人に変貌している。のび太の家に歴代プリキュアがいる事は既に知っており、兄が子供の頃はよく自慢したと述懐している。

「君はりんちゃんとはまだだったね、紹介するよ」

「キュアルージュ、本物だ〜…お兄ちゃんが好きで…」

「なんかそう言われると、こそばゆいなぁ。夏木りん、キュアルージュよ」

のび太に紹介されるりん。服装は扶桑皇国陸軍戦闘服姿である。りんのボーイッシュな風貌もあり、よく映えている。ここで、りんは『少年時代のジャイアンがファンだった』事を知らされた事になる。

「りんちゃん、現役時代、あんまり子供人気がなかったから良かったじゃん」

「うららに言ったあれのせいだっての!?あたし自身、後で『若気の至り』って後悔したんだからぁ!美希のほうが失言度高いこと言ってたじゃないー!」

「美希ちゃんが聞いたらさ、憤慨するよー?あれはせつながイースだったから言ったんだってぼやいてたし。ラブちゃんが傷ついて飛び出したのは予想外だったんだって」

「せつなも、自分がプリキュアになるなんて思ってもみなかったって言ってたけど、なんで、若い時に苛ついて言っちゃった一言が残るかなー!?」

りんは自分の台詞で有名なものが失言である事が地味にショックらしい。りんは基本的に人あたりが良く、面倒見のいい性格であるが、現役時代、のぞみのドジに対しての苛つきをうららにぶつけてしまい、険悪な空気になってしまった事がある。それはりん自身のしこりとして残ってしまい、故郷の世界でののぞみが地球から去った事もあり、うららとのその後の関係に暗い影を落とした。それもあり、自身を律しているらしい。

「プリキュアは失敗も残ってるからこそ、愛されるスーパーヒロインなんだよ。完璧過ぎる人間は逆に敬遠されるしね。」

「そーだよ、りんちゃん。戦車道世界にいるうららがそのうららだとは限らないんだよー?ほら、ファイト」

「アンタには敵わないわね、のぞみ。それと、のび太さん」

りんはのぞみと違う歴史を辿った世界の出身であるため、のぞみとこうして会話する事そのものが幸せの象徴だった。

「ぼくは人より一桁失敗が多いみたいだから、失敗からの立ち直り方なら任せてよ、って自慢にならないか…」

「のび太は本当に失敗が多かったからな」

「あ、マーチ。ラブリーとフォーチュンは?」

「修行と買い物だ」

「マーチ、あの二人に付き合ってるの?」

「転生先の姿じゃ、逆に色々と動きにくいんでな。この姿のほうがまだいいんだ、りん」

ラウラ・ボーデヴィッヒとしての姿は逆に動きにくいため、キュアマーチの姿でいると釈明するキュアマーチ/緑川なお。ラウラ・ボーデヴィッヒとしての軍人然とした振る舞いをプリキュアの姿で見せる。もっとも、マーチの姿のほうが背が高いからという理由もあるが。

「これでお前の人気出せると思うが。ジャイ子は売れっ子漫画家だ。おまけにスタートゥインクルのコミカライズを担当する事になった。のぞみは映画で人気が再燃したし、お前もそのチャンスと思…」

「それだーーー!!ねぇ、ジャイ子ちゃん。あたし達をコミカライズに出して!『本人』が許可出したのなら、文句ないはずだし!」

「りんちゃん、気合入ってるー!?」

「あの失言、よほど気にしてるんだなぁ。大人には愛でられても、肝心の子供人気は低かったから」

「編集さんに聞いてみます。アニメとは違う展開も許されるはずだし」

「っしゃぁ!!」

大喜びのりん。本人が許可を出したので、その数ヶ月後、始まった連載で『プリキュア5のルージュとドリームが変身前の姿でスタートゥインクルプリキュアの戦いに巻き込まれ、後輩らに加勢し、そのまま、スタートゥインクルプリキュアの旅に同行する』というストーリーがジャイ子の描く綿密なタッチで描かれた。アニメでは描かれない事を前提にしたコミカライズ独自の展開であったが、『先輩プリキュアがレギュラー化して、現役プリキュアをサポートする』という新基軸はマニアからも注目された。『のぞみとりんが戦いに巻き込まれ、そのままプリキュアに変身して後輩らを援護。気を良くしたキュアスターのアイデアで、そのまま旅に同行する』というプロットであり、プリキュア5の台詞はのぞみとりん自身が監修している。また、キュアフェリーチェが参戦する伏線も張った事から、ファンの間では話題になっている。りんにとっては、これで『スタートゥインクルプリキュア』を知った事になる。

「りん、前列がないことだぞ、それは」

「いいじゃないのー!あたしらの代はそろそろ映画にも出なくなってたはずよ。折角の機会なんだし……」

「お前なぁ…」

ジャイ子に了承されたとは言え、かなり強引ながぶり寄りなため、キュアマーチに嗜められる。りんも出番が欲しかったらしい。かつての出来事で子供人気が無い事がコンプレックスだったのがわかる。この後、話を聞きつけたはーちゃんも出番を作って欲しいと懇願したため、本人達の許可のもと、独自の展開を切り開いていく。なんとも言えないが、『本人』が漫画に出たがるというのもシュールなため、話を聞いたジャイアンは大笑いだったという。


「――って感じ。笑っちゃうよ」

「なるほど……。りんさんも、あのこと気にしてたんですね」

ラジオ番組は続く。つぼみとみゆき。生前とは多少異なる二人のキャラもあり、リスナーからの質問は番組終了まで絶えなかったという。ノリが良いこと、みゆきが宮藤芳佳として転生し、二重に主人公属性を持つことは多分に質問攻めの対象であったという。(ウィッチ世界の中心人物でありながら、プリキュアでも中心格のピンクである事は『ずるい!!反則だ!!』というリスナーの声は当然、あった)






――連合軍上層部には戦力の多くを欧州に張り付かせている事への批判が続々と舞い込んでいた。山本五十六、チェスター・ニミッツ、エルヴィン・ロンメル、ジョージ・パットンなど、名だたる提督や将軍達は太平洋方面、紅海方面などの残存する戦線の戦力を『形だけのもの』とし、全戦力と人的資源を欧州につぎ込み続ける事を改めて決議した。現場のウィッチ部隊の多くは宛にならないため、64Fが肥大化しているからだ。戦闘、慰問、広報に大忙しの同隊。やっと広報の仕事を終え、改めて非番になったドリーム達だが、あまりに忙しかったため、変身を解除するのも忘れ、食堂でへばっていた。

「いちかちゃ〜ん、ケーキはまだ〜?」

「待ってください、今、作ってますから」

宇佐美いちか/キュアホイップ。キュアホイップとしては戦闘向けのプリキュアではないため、厨房で働くことが彼女の仕事であった。もちろん、通常の兵士よりは圧倒的に強いが、歴代プリキュア/ピンクチームの中では弱めに入ってしまう。それもあり、しばしは本業に専念させる事になった。プリキュアキラキラアラモードは他のプリキュアほどは戦闘向きではない上、いちかは他のプリキュア(ピンク)ほど正面戦闘には向かないからである。

「でも、皆さんが戦ってるのに、わたしとあおちゃんは本業ってのは、なんか後ろめたいですぉ」

「仕方ないって。いちかちゃん達は他のプリキュアと違って、正面戦闘向けじゃないから、ひとまずは本業を鍛えるってなったんだよ?」

「うぅ。それ言われるとなぁ。わたし達は現役の頃から来ちゃったんですよ?あとの三人の事も心配で…」

「ま、正面戦闘ができないわけじゃないけど、歴代の先輩方ほどはできねぇしな。ひとまずはパティシエとしての自分を鍛えようぜ」

「あおちゃん」

いちかとあおいは戦闘に参加せず、パティシエとしての修行に専念している。戦闘向けの能力を持ちつつ、歴代有数のポテンシャルのドリーム、ピーチが最強形態でさえ、常に苦戦を強いられるほどの戦場であるため、二人を戦場にそのまま立たす選択肢は武子たちには無かった。そのため、厨房でパティシエとしての仕事に専念させていた。

「シンフォギア世界で暴れてきたって聞いたけどさ、ストレス解消のためだろ、あんたら」

「うぅ。読んでる、あおちゃん」

「伊達にアラモードの肉弾戦担当してねぇし。話に聞くと、あんたらでも苦戦しっぱなしなんだろ?すげえところに来ちまったぜ…」

「敵にステゴロが強い超人がたんまりいてさ。わたしとピーチも苦戦の連続なんだよー。そりゃ、ストレス溜まるって」

「あんたらで苦戦するんだもんな。経験豊富で、第1世代のプリキュアのあんたらで」

「第一世代、か。久しぶりに聞いた単語よ」

プリキュアはオールスターズの映画のシリーズの区分で第一世代、第二世代、第三世代などに分けられる。スイートまでを第一世代、スマイルからを第二世代と区別しているが、区別は明確ではない。ハピネスチャージプリキュアまでを第二世代、その次の『GO!プリンセス』以降を第三世代に位置づけるのが一般的である。


「そういえば、ルージュはドリームとも違う世界の出なんだっけか?」

「厳密に言えばね。だいたいは同じ経緯で、大人になった後が違っただけよ。それにあたしは、あんたらの代でプリキュアの役目が『終わった』世界から来たから、HUGっとやスタートゥインクル。そんなプリキュアがいたなんて、あたしにとっちゃね、凄い驚きよ」

「つまり、あたしらの代で歴代のプリキュアと敵の大決戦が起こった世界なのか?」

「そういう事。半分は相打ちに近かった戦いでね。あたしの世界はその戦いの影響で2018年以降の時代にプリキュアは出現しなかったし、既存の全てのプリキュアも長く、力を失う事になった」

ルージュの故郷では、2017年に『プリキュアオールスターズ』が全てをかけて敵と決戦を行い、相打ち同然の勝利を収めた出来事があったという。それは第一世代プリキュアオールスターズが遭遇した第三の戦いに経緯が酷似しており、ドリームはだいたいを察した。

「あの時の……オールスターズの第三戦みたいな事になったの?」

「そういう事になるかな。あんたはココと結婚してたから、くるみと一緒に来てた時に巻き込まれてね。あんたと別れる時、あたしは泣いたわ、はっきり言って」

懐かしくも、悲しい思い出だったのか、目を細めるルージュ。彼女の世界では、それが全プリキュアの最後の戦いになったといい、歴代からそれぞれ戦死者も出てしまったとも述べる。

「その戦いで何人かのプリキュアは死んでいったわ。キュアパイン、キュアプリンセス、キュアダイヤモンド、ミルキィローズ……」

少なくとも、その4名は敵と相打ちで戦死。チームが誰も欠けない状態で生き残れたのは、初代、Splash Starなどの限られたチームだけと語った。ドリームがショックだったのは、ローズが自分をかばって串刺しになり、最後の力で敵と相打ちの形で壮烈な戦死を遂げたという、ルージュにとっての事実だった。血で血を洗うような凄惨な戦いであったと言い、初代とSplash Starが戦線を支え続け、その二代が後輩達を叱咤激励し続けた事でやっと勝てたと。

「くるみが……わたしを庇って……!?」

「あたしにとっては、それが揺るぎない過去よ。敵の術で拘束されたあんたを助けるために、あの子はその生命を散らした。」

悲しげに語るルージュ。ミルキィローズはドリームをかばい、胴体を串刺しにされつつも、最後の力で技を発動させ、相打ちの形で散った。その光景がトラウマになっていると明言し、みらいとリコの遺体の写真を直視できなかったと告げる。

「ルージュ……」

「違う世界の話だから、責任とか気にする必要無いけど、覚えておいてくれると助かるかな。あたしも、『あたしの知らない人生』を辿ったあんたを見ると、居ても立ってもいられなくなるのよ。あんたの事はあたしが守る。今度こそ。それがあんたを置いて、先に逝っちゃった別のあたしに代わってできる、精一杯の罪滅ぼしだし、あたし個人の心残りなのよ」

「ルージュぅぅ〜…」

うるっと来たドリーム。いちかとあおいも、ルージュが抱える出身世界特有の事情に唸りつつ、たとえ世界が違っても、ドリームのために生きる事を決意しているルージュのひたむきさに感動すると同時に、ルージュが最後に戦った戦場の凄まじさに息を呑む。

「そうするだけの覚悟を示せる仲間がいるって事、そうならない為に自らを高める切っ掛けとして、みんな。あたしの世界の出来事はもう御免だから」

「…う、うんっ!」

「えーと、空気壊しちゃうけど…、ケーキ、できましたよ」

「ありがとう」

黒江への報告でこの場にいない面々より先に、宇佐美いちかと立神あおいの作ったケーキにありつくドリームとルージュ。二人の友情は出身世界が違っていても変わらないと、いちかとあおいを感動させたという。



――だが、その身の上話が後に、ルージュが記憶喪失になったという知らせを受けたドリームを『修羅』に変えてしまうという、なんとも言えない結果を招く。ドリーム/のぞみの精神安定剤の一つこそがルージュ/りんであり、転生後においては家族同然に想っていた存在なのだ。それを理不尽にヌーベル・エゥーゴが奪った事で理性のタガが外れかけてしまう。黒江達はのぞみを正気に押し留めるため、戦車道世界に転生していたプリキュア達を呼び寄せる。また、それを聞いた別の世界のキュアミント/秋元こまち、キュアアクア/水無月かれんが故郷の世界の守護よりも、のぞみの心のケアを優先させる選択に至る理由であった。のぞみは人格の融合の進行の影響で、記憶の混濁に見舞われる事もある。はーちゃんもそれを承知しているため、うらららの前で『のぞみと久しぶりに会う』ような様子を装うなど、何かと気を使っている。これはのぞみ主体で人格が統合されることへ錦の意志が、残された力で『抵抗する』事で生じた記憶の一時的な混濁であったが、のぞみの一途さを見ていく事で錦も納得し、のぞみの糧となることを選択する。のぞみがデザリアム戦役で激情に駆られていくのは、錦の意志と完全に融合した事で生じた『血気盛んな』面が影響したのだと判明するのは、ダイ・アナザー・デイよりもずいぶんと後の出来事である(ちなみに、調はその頃には、シンフォギアD世界の調査に行き、C世界の時と同じ事をしてしまうが、D世界はC世界とも各員の動きが異なったため、比較的に早く帰れたという)――





――本来、ダイ・アナザー・デイにキュアフェリーチェは参戦させるつもりはなかった黒江だが、事態を鑑み、調の代理を兼ねて、武子が呼び出した。調当人が帰還したとは言え、増員として配属されたフェリーチェは編成上、メロディの配下と扱われる。部屋割りはプリキュア関係者なため、メロディ(シャーリー)、ピーチ/ラブの隣になった。メロディ(シャーリー)の部屋はクロエ・フォン・アインツベルン(フランチェスカ・ルッキーニ)と同室であり、そこにイリヤスフィール・フォン・アインツベルン(サーニャ)が加えられたため、エイラが夜這いを仕掛ける事も多い(サーニャがイリヤになったため、機密保持のためもあり、エイラは個室になった)。それを防止する役目も期待されている。エイラはこの頃、メロディ/北条響/シャーリーからも引かれるような『夜這い』に走るようになり、禁断症状の様相を呈していた。美遊・エーデルフェルト(リネット・ビショップ)が夜這いからイリヤを守るために、部屋の前に陣取るという珍事も起こっており、『禁断症状を起こしたエイラと戦闘を起こしかねない』と判断した黒江ははーちゃん(ことは)をエイラの隣に配する事で『禁断症状による夜這いの防止』を図ったのだ。戦場では有能な軍人のエイラだが、サーニャのことになると理性が吹き飛ぶ。美遊・エーデルフェルトを最大の障壁と見なし、戦闘も辞さない勢いで鼻息が荒い。そこも黒江の悩みどころであり、歴代のプリキュア達で防壁を作ったと言える。――


「はぁ。あんにゃろ、禁断症状起こしてやがる」

「どーしたの、響ちゃん」

「エイラだよ。あんにゃろ、サーニャと引き離されたからって、禁断症状起こしやがった。夜這いかけてきやがる」

「あー、あのフィンランド人の」

「お前、フィンランドは分かんだな、ラブ」

「あはは…、まーね。知ってるよー、サンタさんの国でしょ?あの子、もしかして?」

「そそ。黒江さんはパートナーになれよと言ってるくらいでさ。だけど、あいつ。意外に嫉妬深くてな。美遊と喧嘩しそうで…」

「クロちゃんは?」

「あいつは楽しんでるから、役に立たねぇ」

「な、なるほど…」

「夜見かけたら、なんとかしてくれ。夜這いしかけられると、艦の兵隊連中に噂される」

「できたら。はーちゃんに魔法でも使わせる?」

「体系が違う魔法だから、エイラも防げねぇはずだ。はーちゃんにも言っといてくれ」

ラブに相談した北条響。自室はクロと同室であり、イリヤも預かったため、エイラから睨まれており、黒江が部屋割りを苦労したのがわかる。空母はリスボン攻略のためにイベリア半島を北上しており、艦隊を率いて反対側に向かっているが、スーパー戦隊とメカゴジラの攻撃で敵が打撃を被ったため、急いで向かう必要がなくなり、訓練を行う余裕が生じた。メカゴジラは予想以上の戦果を挙げており、スーパーメカゴジラ形態での対艦戦闘は上々の成果であった。

「うん。でもさ、いいのかな?あたしたち、宇宙戦艦でチートして」

「敵だって物量でチートしてるんだ。こっちに取れるのは質のチートだよ。アンドロメダ級が政治的に嫌われ者になったから、引っ張ってこれたのは運が良かったよ」

「でもさ、上で飛んでるアンドロメダ、誰が操艦してんの?」

「ああ、黒田さんだよ。操舵席で動かしてる。アンドロメダ級は人手不足の波に押されて、自動制御入れてんからな」

「新しそうなのに、どうしてウチに?」

「ああ、それはだな。ガイアから文句が出たからだよ」

「黒江さん。報告聞き終えたの?」

「今しがたな。ガイアの古代さんが文句言ってきて、政治問題になったんだよ」」

「古代って、あの宇宙戦艦ヤマトの?」

「そそ。正確には彼の同位体だが、ガイアで造られてる『前衛武装宇宙艦』と同一視して、こっちにクレームが飛んだんだよ」

「23世紀にある反地球の宇宙戦艦ヤマトか…。アースのアンドロメダは単に『ヤマトよりカタログスペックで優れた戦艦』だからなぁ。いちゃもんじゃね?」

「そうなんだよ。こっちは『タキオン波動エンジン』だし、あっちの波動エンジンは『次元波動エンジン』。似て非なるものだっての」

アンドロメダ級はアースフリートにとっては、単に『旗艦用の波動エンジン艦のタイプシップ』だが、ガイアにとっては『迷走をする地球の象徴』とされ、政治的に危うい存在であった。アース側から設計を『パクった』疑惑を持たれ、ガイアヤマトのクルーからは敵視されるなど、政治的に危うい立場にあった。その関係でアース側も既存のアンドロメダ級を次世代型の『ブルーノア級戦闘空母』で代替するスケジュールを早めなくてはならなくなった。(また、ドレッドノート級の代替となる『長門型宇宙戦艦』の量産も早められる事になったとも)

「で、アンドロメダはどうなるんです?」

「デザイン問題はシンクロニシティで手打ちになって、向こうの要請でBBBタイプを有人艦仕様で生産して、波動エンジンをこっちの規格にする事で決着した。アンドロメダは設計はいいからな。向こうとしても作りたいんだよ」

「それでネメシスがこっちに?」

「しゅんらんは第七艦隊だし、ガイアはデザリアムん時までお預けだしな」

「で、向こうはなんて言って来たんです?」

「独自設計のアンドロメダの空母を売り込んできたが、こっちはMSやスーパーロボットも積み込むし、洋上にも降りるから、採用されない見通しだそうだ」

「あの形、トップヘビーだし、アースフリート向きじゃねーわな」

「ただ、こっちのアングルド・デッキタイプを向こうの真田さんは『非合理的』と言ったそうだ。宇宙で律儀にアングルド・デッキを載せる必要があるのかって」

アースフリートは洋上で宇宙戦艦を運用する事も多くなったため、空母型も洋上空母時代の基本を守った設計をしている。そこをガイアは不思議に思ったのだ。

「よくよく考えると、地球連邦もガミラス(ガルマン・ガミラス)もアングルド・デッキ装備型空母が主流なんだよな。ガイアのSFじみたあれは異端だよな」

響(シャーリー)のいう通り、艦橋を艦上機の発着用に充てる発想は異端であったが、合理的ではあった。だが、複雑なギミックを内包するため、保守性に難があるのも事実であり、オーソドックスなアングルド・デッキ装備の艦型は手慣れた構造である分、艦上機の露天駐機もしやすい。洋上任務も多いアースフリートの運用思想としての最適解でもあった。(ただし、アンドロメダ級の空母化はガイア方式のほうが向いていたのは事実だ)

「あれはアースフリートの美的センスに合わなかったかもな。砲塔を片舷に集中配置させての空母化が当たり前だから」

地球連邦軍は基本的に波動エンジン艦の空母は洋上空母の流れを汲むデザインを好む。そのため、ガイア方式は評価されないだろうと黒江は読む。宇宙戦艦を洋上で運用する発想はガイアには希薄なためだ。

「向こうって、こっちみたいな大気圏突入って発想がないのか?」

「洋上で戦う事自体が無くなってた世界なんだろうさ。あれじゃ宇宙空母ギャラクティカだよ」

「ま、マニアック〜…」

「ものの例えだよ。宇宙で洋上空母の方式じゃないので、素人にも分かりそうな空母はあれしかなくね?」

「うーん。アレ自体がマニアックすぎてなぁ。それにスタートレックのほうが有名だし」

「そっか?」

「そーですよぉ」

ラブも同意する。妙にマニアックなチョイスに苦笑する響(シャーリー)であった。



――ちなみに、一同の乗る空母の頭上を飛ぶアンドロメダ級だが、ネメシスは後期モデルとされる。操艦は一人でも可能であり、自動制御が高いレベルで行われているが、主砲などには有人制御の猶予を取り入れた後期モデルに分類されるため、極端な自動制御であった初代アンドロメダとは一線を画する。ネメシスは戦闘機まがいの高機動も可能であり、そこがティターンズが存続していた時代の宇宙戦艦とは一線を画するとされる理由だ。ティターンズ残党で最も高性能な宇宙艦艇はアレキサンドリア級巡洋艦かハリオ級空母であると見積もられており、デザリアム戦役が控えている時代としては『旧式』の艦であった。また、ティターンズ残党はシャアのネオ・ジオンに『露払い』として利用されており、彼らもそれを承知の上で戦っている。ウィッチ世界はティターンズ/ネオ・ジオン連合軍の体のいい『戦争の歴史』シミュレーションの場にされていたと言え、それを察知した地球連邦軍が戦いを挑む構図である。歴代プリキュアは出身世界は違えど、そんな戦争に組み込まれていく。のび太の支えのもと、そんな戦乱の世の中で生きていく。りんが語った『正史』にはない『歴代プリキュアの最終決戦』。そこで戦死してしまったという面々への言及。四名以外にも戦死者は出ていると思われ、ドリームは複雑な想いを抱えつつ、歴代プリキュアを率いていく事を誓うのだった。――



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