外伝その346『巨人の死骸』


――ウィッチ世界の戦争はもはや、地球連邦軍の醜聞では無く、ネオ・ジオン、バダンも絡んだものに変質していた。更に、最終的に統合戦争で暗躍する事になる旧東側諸国も確認されていた――



――連合軍統合参謀本部――

「旧東側諸国の武器が確認されたと?」

「ええ。我が自衛隊が捕虜を武装解除させたところ、史実では東側諸国が実用化するはずの武器が確認されました。彼らに問いただしても無駄でしょうな」

「して、その内容は?」

「AK-47アサルトライフル、RPGなどです。ティターンズが造らせた可能性はありますが、完成品を短期間で流通させる事はアメリカの生産力でも不可能です」

陸上幕僚長は統合参謀本部でそう告げた。東側諸国が暗躍している可能性があると。

「しかし、東側諸国に何の得があるのだね」

「ロシアは学園都市との戦争で極東部を喪失し、多大な損害を負っていますし、もう一つの雄たる中国は急激に軍事的に復興する我が国に脅威を感じ、また、日中戦争の復讐を目論んでもいます。扶桑が日本に力を与えている事に気づいたのでしょう」

「しかし、なぜ我が連合軍の邪魔を?」

「イギリス主体の世界秩序を壊すつもりでしょうね。史実でのイギリスはこの時期には財政面で死に体になりつつあり、軍事力だけで帝国の体を保っていたに過ぎない。コモンウェルスを失ったブリタニアなどは単なる老大国に過ぎないのです」

陸上幕僚長の言う通り、ブリタニア連邦は財政面では史実ほどではないにしろ、悪化傾向であった。史実のように政情不安を煽られたら帝国が転覆しかねない要素もある。カールスラントが戦線から次々と撤兵しているのは、政権転覆が恐れられたためだ。また、スオムスも日本連邦の怒りを買っていたため、極度に経済制裁を恐れていた。智子の一件で国際問題になったからで、フィンランドからもスオムスに圧力がかかったのである。スオムスは所詮は小国であり、資源をカードにされると、途端に弱腰になる。怪異に金属資源を吸われる事は扶桑に宇宙開発を決意させるほどの影響を及ぼすため、スオムスはその点、金属資源をカードにされると弱いのだ。

「カールスラントの撤兵は?」

「政権の転覆をドイツが脅したからでしょう。公職追放で東ドイツ側の人間だった者の追放も予告されたとあれば、士気が崩壊しますよ」

「なぜ、そこまで躍起になるのだ?」

「今のドイツは『西ドイツ政権が東ドイツを飲み込んだ』ようなものです。東ドイツ要素とナチス要素を排除したいのでしょう。我々も人のことは言えませんが…」

「君らもだが、負けたからと、全てを否定したがるのはなぜだね」

「それは我が日本の方が強いのですよ、モントゴメリー将軍」

陸上幕僚長は国内にある、扶桑の『戦前的空気の排除』に野党などが躍起になっている国内事情を明示する。

「日本は中華文明の影響に長らくありました。その影響で『大日本帝国』のアンチテーゼを国是と宣う輩が大手を振っているのです。我が自衛隊も長らく、外国に派遣されることがタブー視されていましたから」

「馬鹿な、全てを否定したら、いつの時代まで…」

「都合のいい物言いなのですよ、日本にとっては。戦後の繁栄は血と汗で得たが、その目的が達せられた後の事を考えなかったのです」

「そういう風にしたのは我々と言われても、なんとも言いようがない。我々は日本のことを良くは知らんというのに」

「下手な事を言わないように。マスコミがすぐにセンセーショナルに報じますから、二階級降格で済めば御の字と思ってください」

「どうしてすぐに、ミスをしたら社会的に抹殺しようとするのかね。名誉回復の機会くらいは…」

「我々もですが、日本では軍人は穀潰し、戦争屋、税金泥棒と散々にこき下ろされるのが当たり前でして。吉田茂公も悩んでおります」

「……」

「吉田公も呆れております。西洋文明へのコンプレックスが解消されても、軍事をタブー視する風潮だけが残ったと。我々もマフィアの鉄砲玉のように蔑まれた時代が長かったので…」

日本は扶桑の吉田茂が呆れるほど、軍事を『国を破滅させた』と蔑む戦後の風潮が長く残り、戦後に力と精神の拠り所としていた経済が行き詰まると、学園都市の統制が取れなくなるなど、失態を重ねていた。扶桑にマウントを取ることで、90年代末には既に失いつつあった周囲への精神的優位性を得ようとする考えが見え隠れするなど、卑屈な精神性を覗かせる。それは扶桑陸軍機甲本部への罵倒で既に認識されていた。

「君らの国の官僚は罵る事しかできんのかね?我が機甲本部を後知恵で罵ってくれたせいで、技官の多くが進退伺いを出しおった」

山下奉文大将が苦言を呈する。扶桑の戦車部隊は『素早く砲弾を装填できる、57o級以下の小口径の砲を好んでいる。大口径化すると装填速度が悪化し即急の対応が難しくなるから』をこれでもかと罵倒され、ティーガー、コンカラー、ファイティングモンスター、スターリン重戦車などの40年代からすれば、信じられないような大口径砲を有する存在を突きつけられてしまった機甲本部は阿鼻叫喚のパニックに晒された。技官の多くが『進退伺い』を出すまでのパニックに陥り、チト改の開発に支障を来す事態になり、日本側が全てを行う羽目に陥った。当時の扶桑の機甲技術の水準では『旋回砲塔式に搭載できる砲の限界は長砲身75mmクラスまで』と認識されていたのが自衛隊の74式で泡を吹く事になり、軽量な車体に120ミリ砲を積む10式はもはや、宇宙人のものに見える。扶桑は慌てて、航空/機甲分野の技官を日本に留学させると同時に、74式のライセンス生産による量産を急いだ。

「ハッ、山下将軍、それにつきましては、こちらの三菱が90ミリ砲を積むチトの改良型を生産しております。宮菱も生産に入ると」

「うむ。そうでなければ、我が機甲部隊の面目が立たんよ」

「本来はホリで火力支援と伝わっておりますが」

「うむ。本来はあれで重戦車を破壊するはずだったのだよ。ドイツの劣化コピーと言われても、こちらなりの努力というのに」

「MBTで全ては代替できませんからな。砲戦車は155ミリ砲に換装し、自走榴弾砲的運用も増やします。主力戦車は太平洋戦線の最中には、120ミリ砲搭載の車両に致します」

他国の将軍は苦笑いする。この時、センチュリオンとコンカラーの登場で、カールスラントの機甲装備は時代遅れと化していたからだ。日本連邦が起こした戦車開発競争はカールスラントを皮肉なことに、後追いの立場に追いやる事になった。ブリタニアをセンチュリオンが先進国に押し上げる一方、ドイツがレオパルト1の設計を出し渋り、当時のカールスラントにとっては、ブラックボックスも同然のレオパルト2の輸出を行ったからだ。ドイツは『我々の現用戦車だ』と誇るが、21世紀の現用戦車をいきなり渡されても、使いこなせるはずがない。ベトロニクスの概念すら希薄な時代であるからだ。これにカールスラントは怒り狂い、レーヴェ戦車の開発を続行する選択を取ることとなる。(色々な流入が起こっている日本連邦でさえ、74式の融通で限界である)

「貴国のメーサー戦車はいったいなんなのだね?」

「ロンメル元帥。あれは私も概要を知らされたのは最近なのです。学園都市の叛乱に備え、松代の秘密格納庫に、90年代から秘匿されていた超兵器なのです」

「貴国の学園都市は一体何なのだ?」

「日本であって、日本ではない。奥多摩を開発して、戦後のある時期から存在している都市ですが、政府の介入が叶ったのも最近です。ロシアと戦争を起こせるほどの力を持っていましたが、ある時に突然、統制が崩壊し、政府の手に戻ったばかりなのです」

22世紀初頭の繁栄は学園都市の遺産も大いに絡んでいる証であった。だが、ロシアは学園都市に味わされた屈辱を晴らすため、中国と共謀し、強力な電磁パルス攻撃を繰り返した。その結果、文明の発展を軍事に偏らせるだけに終わる。その事もあり、反統合同盟諸国地域の人間はユング・フロイトの出現まで、連邦大統領などの要職に選出されない事が慣例であった。ウィッチ世界のオラーシャ軍人はそのとばっちりをモロに受けたことになる。

「ロシアと言えば、思い出したが、元502のアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン大尉を自発的移籍に持ち込むことで決定した。護送はオラーシャ軍がしてくれる」

「分かりました」

501から異動という形で除名されたサーシャの護送はオラーシャ軍が担当したが、ここで一つの悲劇と不手際が発生する。護送途中に立ち寄った空港近くで日本人の数人の暴漢に襲われ、サーシャは片目を失ってしまう。そのショックもあり、彼女はしばし僻地での地上勤務要員として働くことになる。彼女は最終的にオラーシャ空軍元帥に登りつめるものの、再生治療を受けられたのは、皇帝の怒りが収まった1950年代、それまでは未来技術によるゴーグル着用で過ごすことになる。暴漢達は反露感情の強い共産主義者とも、単なるアナーキストともされた。また、満蒙開拓団の末裔とも述べている事から、サーシャは体のいい鬱憤晴らしの材料にされたのだ。また、この時に鉄パイプで体中を殴打された事から、大怪我も負ってしまい、オラーシャ軍の不手際が問題になる。黒江はそれを聞くと、地球連邦軍にサーシャの身柄を移させ、応急処置を行わせた。この時の応急処置の一つこそが未来技術によるゴーグルの装着なのだ。サーシャは日本人の暴走の煽りを食う形となったが、結果的には彼女の精神を相応に成熟させ、彼女を後に、オラーシャ空軍元帥に押し上げる一助となったという。







――こちらは戦車道世界。ダイ・アナザー・デイに参戦できないプリキュア達はこちらで活躍していた。

「流石、パーシングジャンボ!普通のパーシングは恐れるに足りません!」

春日野うららはT26E5(パーシングジャンボ)で大学選抜チームのM26を圧倒していた。黒江がナオミの立場になっていたうららにプレゼントした車両であり、大学選抜チームはいきなり出鼻を挫かれた。通常のパーシングより重装甲な同車両は黒江からもたらされた『メタ情報』とうららがナオミに成り代わることで得た射撃のスキル、熟練した他の乗員の補助もあり、大活躍である。通常のM26と砲性能の大差は無いはずだが、うららがGウィッチ化していたことで貫通力が増しており、レギュレーションに問題ない範囲でのチートをやっていた。これは他の車両も同じだった。逸見エリカ/相田マナ(キュアハート)のパンターもただのパンターではなく、史実でも試案があった『8,8 cm Kw.K. 43 L/71』を積む仕様であった。パーシングで平均火力は大洗を上回るとされたはずの大学選抜チームだが、プリキュア達がウィッチ世界から機材を取り寄せて史実の試作車と試案を実現させてしまい、完全に出鼻を挫かれた。

(島田流の子にたっぷりとおしおきしないと。みほ(四葉ありす)の学校を廃校にしようなんて、この相田マナが許さない!)

外見はエリカだが、思考は相田マナのそれであるため、敵には容赦しない傾向であった。ケーニッヒティーガー用の砲を積んだため、実質はパンターU化したも同然な同車、敵はパンターを撃破可能なはずの90ミリ砲を撃つが、避弾経始で弾き、逆に撃破する。

「敵車両、そっちに行ったよ!え〜と、ダージリン?」

「いい加減に慣れなさいよ。センチュリオンはこちらの方が相応しいって事を教育するとしますか」

ダージリン/蒼乃美希も動き出し、他のメンバーに調子を合わせる形で会話に付き合いつつ、センチュリオンを上手く扱う。

「FIRE!!」

流暢なキングス・イングリッシュで発砲指示を飛ばすダージリン。大学選抜チームにも副隊長や隊長にしか配備されていないはずのセンチュリオンだが、どういうわけか、大洗連合は保有していた。それを目の当たりにした文部科学省の役人はヒステリーを起こし、喚き散らしていた。戦車道連盟の会長は『私有の戦車なんだから』とヒステリーを一蹴する。彼はカール自走臼砲を用意させていたはずだったが、実は投入前にミルキィローズ/カエサルの手で輸送中に奪取され、ウィッチ世界に送られていた。そこで初めて彼はカール自走臼砲の『紛失』を知らされた。

「あの戦車はなんだぁ?!パンターがパーシングを圧倒できるはずはない!?」

「私有車両を貸与してくれる奇特な方が居られましてな、別に車両の借用を禁止する規定はありませんでしょう?」

「う、あぁ――!?」

「おや、メールが入ったようですよ」

「こんな時に…なぁー!?」

カールが輸送中に紛失したという内容のメールだった。表向きは紛失だが、実際はミルキィローズ/カエサルが輸送中に奪取し、ウィッチ世界に送っていたのである。表向きは地球連邦軍が戦車道の国際機関の名を借りて臨検し、差し押さえたということにしている。実際に地球連邦軍が輸送車両を輸送船へ誘導し、ミルキィローズがトラックの運転手を籠絡したからだ。大学選抜チームは完全に出鼻を挫かれ、島田愛里寿もいきなりの予想外続きに動揺を隠せなかった。事前情報と大違いだった上、自分達より強力な車両がいたからだ。

「隊長、第5小隊が撃破されました!」

「こちら第6小隊、敵のセンチュリオンが…あ、あぁ――!?」

大学選抜チームの無線回線で聞こえるのは悲鳴と敵への罵倒のみ。流石の島田流の後継者たる島田愛里寿も言葉を失う。逆に手玉に取られているからだ。

「大洗はいったい何をしたの…?パーシングをこうも簡単に…」

愛里寿は戦略に長けるとされるが、あくまで武道の範囲内の事。一方の大洗は実戦経験者が混ざっており、応用力では完全に上回る。パーシングはどんどん数が減りつつあった。

「あぁ、スターリン重戦車!?」

ノンナ/キュアコスモの指揮するスターリン重戦車がカチューシャ/キュアピースの指示で投入され、蹂躙を始める様が無線に入る。設計に問題はあるが、パーシングをも上回る重戦車であるため、パーシングをも蹂躙し始める。特にノンナが『覚醒』で砲の貫通力を強化していたこともあり、遠距離でパーシングの装甲を『叩き割り、カーボンをむき出しにする』という威力になっていた。大洗側は試合前の悲壮感たっぷりな雰囲気は吹き飛び、真逆の『鼻歌交じりの余裕綽々』に変貌していた。みほなど、 順調過ぎるのを警戒して愚痴る程であった。

「隊長。敵は会長との約束を反故にした。ならば、それ相応の鉄槌を下す必要はある。…クソ、奴らめ、慢心しおって!」

「なんか、向こうに悪くて…、どうしたの、くるみちゃ…いえ、カエサルさん」

「知波単学園が壊滅した。血気に逸りおって!」

「あ、あはは…。」

「まぁ、いい。終わったら、役人を変身して脅す。島田愛里寿に姿を見せておくか?」

「あの博物館の事は手配してあるから、それで行きましょう」

「待て、四葉財閥の力は使えんはずだが」

「ウチのお母さんに間接的に頼んだんだ。向こうの世界のお姉ちゃんのことがバレたから」

「芋づるで?」

「こっちのお姉ちゃん、お母さんに弱いからね。たぶん、その線だよ。ドイツに親戚はいないはずだし、ウチは」

ミーナがみほと親しげに話す様子は意外に広まっており、戦車道世界のまほが調べていた事をしほに報告せざるを得なくなり、それを釈明する過程でバレたと推測する。

「そろそろ、とどめの作戦に移ります。ぽかぽか作戦、開始です!」

みほはトドメの作戦を指示する。知波単学園の壊滅こそあれど、大洗連合の主力はほぼ健在であり、史実とは真逆に、大学選抜チームは確実に追い詰められつつあった。格下の高校生と相手を大多数が侮り、更に数で押しつぶそうとした報いを受ける形で、大学選抜チームは無残な様相を呈しつつあった。同時に大洗廃校派は事前に圭子が蒔いた種が芽吹き、島田流家元『島田千代』が忠告した『そんな強引なやり口で転校させられた大洗の生徒たちが転校先で戦車道を続ける気になれるのか』、『仮に戦車道を続けた、または続けさせたところで果たして文科省が期待した通りの成果を挙げられるのか』という一言がセンセーショナルに報じられ、文部科学相がスキャンダルを恐れた総理大臣直々の電話で、既に大洗廃校の方針を覆すように要請されており、文部科学省は方針を覆すしかなくなった。『試合結果の関係なしに大洗の廃校の撤回は行う。なお、責任は辻廉太(役人のフルネーム)に全て押し付け、彼を依願退職に追い込む』方針とされ、文部科学省は『トカゲの尻尾切り』を行う方針で固まった。報道の影響で島田流にも批判が舞い込むようになり、緊急連絡が入った千代を蒼白にさせた。大学選抜チームは『大人が子供をいじめた』と非難の対象にされ、試合に勝っても負けても、非難を浴びるのは確実な『地獄』しかないように追い込まれたのだ。愛里寿は実質、島田流の名誉を守るために孤軍奮闘するしか無くなったのである。大洗連合チームが切り札の『スーパーパーシング』を投入し、更にさらなる改造が施されたポルシェティーガーが現れた事で、部隊の統制が崩壊。大洗連合の中央突破をまんまと許してしまう。さながら、地球連邦軍が行った土星沖海戦の再現であった。

「各車、大学選抜チームの中央を突破します!」

『了解!!』

大学選抜チームは想定外の重戦車の出現で統制が崩壊状態に陥ったため、折角の車両の性能を生かせずに大荒連合に為す術がなく、鎧袖一触であった。島田愛里寿の直掩である三人の指揮する車両のみが孤軍奮闘し、大荒連合のいくつかの車両を撃破する。だが、それすらも、みほの掌の上であった。

「西住殿、なんか実戦慣れしましたね」

「島田流のあの子には悪いけど、勝たせてもらいます。最後は私とお姉ちゃんで決めます、パンツァーマルシェ!」


みほは四葉ありすとしての芯の強さを身につけ、更にまほを公の場で『お姉ちゃん』という度胸もついたらしく、島田愛里寿には容赦しない姿勢を見せる。秋山優花里は事情を知るため、クスッと微笑う。武部沙織は事情を知らされていないためもあり、首を傾げる。みほがプリキュア化した事実は、あんこうチームでは、優花里と偶然に居合わせた五十鈴華のみが知ることとなった。また、逸見エリカがみほと同じプリキュアチームの仲間である事もその三人と杏のみは知っており、実質的にエリカの中身が『相田マナ』に変貌した事で、エリカへの印象が改善するという副次的影響も見られたという。



――西住みほ。またの名を四葉ありす。プリキュアとしては、キュアロゼッタ。彼女の変容は一部の者にしか知られていないが、戦車道もそうだが、プリキュアとしての使命があるため、自分なりの戦車道を文科省に見せつける事はもはや、『二次的な目的』になっていた。自分がプリキュアである(〜に目覚めた)事は、家族では、まほにしか言っていない。信じてもらえない事、100%だからだ。また、まほが二人のみの時に問いただした事から、実質的にまほの『同位体』と言えるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの存在も知り、『ソウルシスター』と認定(実質的に『自分自身』だが、別個の存在であるため、そういう風に折り合いをつけた)し、自分に紹介しろと言っている。みほは今、大学選抜チームに引導を渡さんとしている。彼女達の知らぬところで、勝敗の結果に関係なく、大洗の廃校は撤回される流れにはなっていたが、戦車道連盟の二つの派閥が抱いていた『大洗の優秀な戦車道選手を全国の学校に分散させ、全国規模で戦車道のレベルアップを図る』思想で結論づけられた『大洗女子学園を廃して、全国規模で戦車道のレベルアップを図る』思惑は、彼らが味方につけたはずの島田千代からも『こんな強引なやり口で転校させられた大洗の生徒たちが転校先で戦車道を続ける気になれるのか?』というもっともな疑問の通り、既に破綻していた。『仮に、それが成されたとしても、戦車道を続けた、または続けさせたところで果たして文科省が期待した通りの成果を挙げられるのか?』という疑問は『報道がエスカレートして、政権批判に利用される』事を恐れた総理大臣が文部科学相を叱責することで間接的に回答がなされ、折角、抜擢されたばかりの文部科学相の更迭を避けるため、内部でトカゲの尻尾切りをする事で、上級官僚の保身が図られるという、なんとも醜い社会の縮図が文部科学省で繰り広げられている。つまり、大学選抜チームは散々に振り回され、利用された挙句の果てに『格下の高校生に敗北した』という事実を突きつけられることになるのだ。しかも、一矢報いるのが精一杯という試合結果が目に見えている、当初からは考えられないほどの絶望的展開。大洗連合にとっては圧倒的有利の状況。島田流の名誉にかけて、なんとしても一矢報いる。愛里寿からして、その思考になった時点で、試合の勝敗は決したと言えた――








――プリキュア第二チームが戦車道世界で大学選抜チームを追い詰めているのと対照的に、プリキュア第一チームはティターンズの繰り出す超人たちに苦戦を余儀なくされ、のび太や自分達に舞い込むクレームにも悩まされていた。ティターンズの背後にバダン、ネオ・ジオン、地下勢力の数々が控えている事が明らかになり、それらの手駒として利用されたリベリオン本国軍は、なんとも哀れさを誘う。だが、ティターンズが意図的に、人種差別問題などの危機意識を煽った事から、将校はともかくも、兵士のモチベーションは意外に高い水準にあった。1940年代当時はなんだかんだで、人種差別意識は色濃く残っていたからだ。そもそも、フランクリン・ルーズベルト自体が扶桑人殲滅論者だったため、リベリオン国内の人種意識は裏では時代相応の差別意識が残っていたと見るべきだろう。自由リベリオンはフランクリン・ルーズベルトを反面教師とし、扶桑との積極的な一体化を推進し、正統なリベリオンの統治権を持つと国際的に認定される事はその観点からすれば皮肉である。しかし、ファラウェイランドなど、リベリオンと国境を接するか、貧弱な軍事力しかない国は自由リベリオンを国家認定しない事態にも繋がったため、自由リベリオン合衆国は史実の中華民国(1970年代以降)、東西ドイツのような役割を担わされて生まれたと言える。また、日本連邦は相対的国力と軍事力、国際情勢から、史実アメリカ合衆国のように『反ティターンズ政権諸国の盟主』の地位を演ずるしか選択肢はなく、日本連邦内の日本左派の思惑はダイ・アナザー・デイ中には打ち砕かれつつあった――





――ティターンズ残党はそんな勢力間のパワーゲームで瓦解を免れており、リベリオンで一旗揚げた事から、当面の地位は安泰であった。ドラえもんと青年のび太はティターンズが扶桑の反G閥に資金援助を行っている事、また、カールスラントとブリタニアの政情不安を煽っている事を突き止め、前線に連絡を入れた。学園都市出身の能力者も抱えているティターンズは歴代プリキュア達に無条件の優位を許さず、ドリーム、ピーチほどの実力者でも苦戦が常態になりつつあり、トレーニングが重ねられていた。フェリーチェは野比家での20年の間、自らの鍛錬に努めた結果、元々のスペックとは関係なしに強くなり、この時点でのファイトスタイルは完全に魔法関係なしの肉弾戦で統一されていた――

「立ち塞がるのなら、倒すのみ……、来なさい!!」

フェリーチェはドリームやピーチと同様の肉弾戦スタイルにファイトスタイルを一新。歴代仮面ライダーさながらの格闘術を披露した。ティターンズ所属の将校の中には、学園都市出身の能力者もおり、その中にかなり高レベルの身体強化と飛行を両立しつつ、元格闘家という経歴を持つ者もいる。その彼ら相手にフェリーチェはバトル漫画宛らの肉弾戦を披露していた。

「はぁあああっ!」

フェリーチェは元から飛行可能だが、超能力だけでプリキュアと互角に渡り合える者達に驚きつつも三次元戦闘を展開する。元が事実上の大地母神であったためか、精神集中などの際に発するオーラの色は黄金聖闘士と同じ黄金色であり、エイトセンシズに少なくとも達している事がわかる。だが、エイトセンシズに達していようと、戦術面での優位につながるとは限らない。少なくとも破壊力は増していても、相手が相応のタフネスさ、一定の実力を備えていれば、聖闘士の戦術面での優位性は相対的に薄れる。更に同等の力を備える闘士相手では、技のかけ合いは無意味になり、肉弾戦で決着がつく事も多い。それはプリキュアも同じ事。フェリーチェは基礎的な能力値を鍛錬で引き上げ、ドリームやピーチとおおよそ同等の戦術の選択が可能な水準にまで引き上げたと言える。

「当たるも八卦当たらぬも八卦、ってね。これでどうだぁ!」

フェリーチェは相手の攻撃を受け流し、気と小宇宙を織り交ぜたストレートパンチによる攻撃を繰り出し、そのエネルギーを相手に送り込み、オーラで相手を包み込んだ後に内側から爆破する。完全に『魔法つかいプリキュア』としての趣旨から外れたバトル漫画的な攻撃だが、元からフェリーチェは攻撃魔法を用いないため、ある意味では『開眼』したと言える。

「さしずめ、プリキュア・ソウルストライク、ってところかな?」

のび太と20年を共に過ごしたためか、フェリーチェの姿でもノリが良くなったはーちゃん(ことは)。相手の反撃にスウェーによる回避や受け流しで対応しつつ、ピーチや歴代昭和仮面ライダーの攻撃をヒントにしての攻撃を行う。

「プリキュアはんてぇぇん……キィィ――ック!!」

ピーチがよく用いた『プリキュアキック』を改良し、仮面ライダーV3と同じように、キックした勢いで空高く反転し、再度のキックを食らわせる。ピーチはよく飛び蹴りを用いていたため、それと同じような攻撃を考えていくと、必然的に仮面ライダーと同じ結論にたどり着く。飛び蹴り系の技を改良すると、どうしても『反転』、『錐揉み回転』、『スクリュー回転』、『属性付加』に行き着くため、それを必殺技に磨き上げた仮面ライダーの偉大さがよく分かる。(決め技が手刀系のアマゾンもキック技はある)ある意味、格闘の基礎がない少女が肉弾戦を行う上で避けられない『喧嘩殺法』的体裁がキュアブラックは色濃く、その点で言えば、正規の格闘技を教わったり、開眼した者に比べると荒削りである。フェリーチェの場合は格闘技の達人が多い昭和ライダー達の特訓を受けてきたため、大まかにはテクニックタイプになるだろう。仮面ライダー一号やV3のようにテクニックを駆使しつつ、二号やストロンガーの系譜に属するパワーで押すといった柔軟な戦闘を見せる。20年の鍛錬はドリームやピーチに劣らない戦闘力をフェリーチェに与えたと言うべきだろう。

『プリキュア!!卍キィィィ――ック!』

トドメの一撃が卍キックになったのは、仮面ライダー二号/一文字隼人への敬意であった。仮面ライダーが代々、磨き上げてきた魂を継承する事。それはプリキュアにとっても同じ事。のび太から教えられた『どんな事になってもくじけない強さ』、仮面ライダーから教えられた『邪な者を許さない怒り、勇気、光』。これらを込めた一撃であった。元は合気道や太極拳のような『受け流し』を主体にしていたフェリーチェが見せた闘魂を込めし一撃は仮面ライダー二号へのフェリーチェなりの恩返しと言えた。



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