外伝その348『地球連邦軍の秘策』


――クライシス帝国と交戦した歴代プリキュア達。トリプルキックで怪魔ロボットに大ダメージを与えた後、ドリームはシャイニング形態になり、『スターライトソリューション』を放って、シュライジンを屠った。決定打を与えるのに、最強形態になる必要がある分、プリキュア達の基礎打撃力は仮面ライダー達より落ちる証であった――

「これで一体……!」

「つまり、プリキュアとしての力だけじゃ、決定的な打撃は与えられないってことか!」

「メロディ!」

「ああ、わーってる!!弾けろぉ!!」

メロディは輻射波動を放つ。接射なため、怪魔ロボット『メタヘビー』の装甲が如何に耐熱性を持つとは言え、マイクロ波で内部を直接、超高温に加熱する。通常は大ダメージは必至である。メタヘビーは構造単位での耐熱性の賜物、致命傷は免れる。プリキュア達は転生で強さは増しているが、クライシスも相当な強さを持つため、プリキュアの攻撃では容易に倒せないという事だろう。

「輻射波動に耐えやがった!?」

「俺は元々、高熱の環境での活動を考えられて生まれている!この程度で死にはせぬ!」

「クソ、こいつ、輻射波動でも倒せねぇのか!ロボライダーは殆ど、こいつを雑魚扱いしてたってのに!」

メロディは切り札といえる輻射波動でも倒すに至らない、クライシス怪魔ロボットの耐久力に舌を巻く。青年のび太は扶桑本土で不満分子の始末をしているため、のび太の手を煩わせるわけにもいかない。子供のび太は新学期でそれどころではない。メロディはのび太の鋼のメンタルを思い出し、自分を奮い立たせるのだった。


――そののび太は青年期以降は人生で大きく成功したが、本質は子供時代から変わっていない。自分の信義に反する事は裏稼業でも、あまりしないようにしている。(あまり政争に加担しない方針だが、Gウィッチ達を迫害しようとする者達については始末している)のび太は『どんな目にあっても、必ずくじけずに起き上がるという超合金級のメンタルの強さ』を持っている。それがのび太の人生を好転させた一番の理由だ。のび太は潜在能力が開花した高校以降でさえ、テストで100点はとうとう取れずじまいであったが、それでもくじけずに生き、青年期以降に裏稼業を始めたのである。のび太はどんな窮地でも立ち上がってきた。その心の強さこそが、個々の世界での後半生や転生を挟んで、何かかしらの弱さを持ってしまった歴代のプリキュア達の目標であり、道標になっているのである。なぎさとほのか、ひかりと共闘する機会が多かった上、戦士としての系譜を直接、なぎさ/ブラックから受け継いだドリーム、ピーチ、メロディは『心の強さ』を求めていた。特にそれが顕著なのは、出身世界で不幸続きの後半生であったドリームである。メロディは紅月カレンとして生きた経験がある分、精神がタフネスである。ピーチは相応に成功しつつ、ドリームより戦線に立った機会が多かったが、脆い点は未だに多々ある。メロディがいざという時にリーダーシップを取れと、黒江に言いつけられているのは、精神面で最も『大人』だからだろう――






――扶桑は21世紀から持ち込まれた『個人主義』が一気に花開き、ウィッチ志願数は45年夏の募集数が一桁という壊滅的な様相を呈した。予想を遥かに上回る惨状に、顔面蒼白に陥った軍部は日本での義勇兵募集を更に拡大。結果的にこの義勇兵の拡大は、45年からの数年に『適齢』に達する世代が後の世で辛酸を嘗めることに繋がっていく。軍隊に形だけでも志願しなかったことでの周囲の冷たい視線、国難に立ち向かう事をしなかった事での家庭内の軋轢や確執。それらが世代としての負い目となり、扶桑の高度経済成長時代を支えることになる。軍部は45年夏の志願数の結果を受け、義勇兵募集を拡大しつつ、本来はその年までに引退していた世代を急遽、大量に駆り出して戦線の中核とした。その代表格がレイブンズと見なされたのは、歴史の皮肉であった。芳佳、リーネの直後の世代で養成課程を中退せずに入隊したウィッチは結局、親や姉妹、縁戚の人間が軍関係者であるケースを省いた場合の新規入隊は20人にも満たなかったという。例年は数百人ほどであったはずなので、軍部が青ざめるのも無理からぬ事だった。当然、辞める人数のほうが入る人数より多ければ、新陳代謝云々の問題ではなくなるため、義勇兵で穴埋めを行うしかなく、『世代交代』は扶桑が有事に突入する時期にあっては、無理にでもせき止めるしかなかった。折しも、日本連邦体制の黎明期でもあった事も不運であった。ウィッチの『摂理』は日本側には理解しがたいものであったり、ウィッチ特有の『促成を急ぐあまりの特化教育』も、ウィッチ兵科の寿命を縮めた要因であった。兵器が加速度的に近代化してゆく時代にあっては、激しく簡略化された教育で任官された者は所詮、お荷物でしかなかった。それも前線に新規ウィッチを望む中堅が暴発する要因であった。――



――地球連邦軍はその流れに困惑中の連合軍の要請を受け、ウィッチの『再教育』を行うようになっていた。これは日独の行った人員削減を目論んだ施策の補償代わりでもあり、64FにMSやVFの操縦技能を持つウィッチが多いのは、日独主導の一連の施策での失職を恐れた古参層がこぞって、それらの操縦課程を志願したという事情があった。そのため、64は補給が止まりがちなストライカーユニットよりも、未来世界の機動兵器が実質的に主力機材と化していた――

「アナハイムとサナリィの在庫整理場だよな、これ」

「仕方あるまい。ウチ(ロンド・ベル)は上から余った機材のテスト場と思われてるんだ。そのかわりにガンダムタイプはもらえるぞ」

「とはいうものの、アムロさん。F90Uにクラスターガンダム、ネオガンダムとくりゃ、在庫整理じゃないっすか」

「サナリィが過去にブッホ・コンツェルンにアレックスを横流ししていた事がプリベンターに露呈して、サナリィもかなり焦ってるのさ。で、アナハイムもシルエットフォーミュラ計画がバレたから、ウチに機材を押し付けたのさ。近代化は済ませてあるし、使ってみて、悪くはなかったろ?」

「まぁ、それはそうですけどね。第二期MSのガンダムとは言え、マイナーなんだよな」

「V2はミノフスキードライブの関係で製造に手間がいる。『型落ち品』かもしれんが、戦力の決定的な差にはならないさ」

アムロが言うように、F90やクラスターガンダム、ネオガンダムはV2ガンダムなどの『より高性能なガンダム』が生まれると、『型落ち品』となったが、それでもネオ・ジオンのたいていのMSよりも遥かに高性能であり、近代化改修の後にダイ・アナザー・デイに投入される運びになった。第二期MSの大半のモデルはフレームと電装が一体化した構造で、各部がユニット化され、完成された18m級MSよりむしろ整備性が悪化した。そこもMS開発の主流になりえなかった理由だが、残された資産は最大限に活かす。その方針がロンド・ベルへの配備であろう。この配備は連合軍のウィッチ飛行隊がカールスラントの撤兵で大きく数を減らし、扶桑の当初構想が日本の横槍で頓挫した事で窮する連合軍の要請を受けてのもので、実質は未来兵器で数的不利をできるだけ補う事が促進されるものだ。ティターンズとその背後にいる諸勢力は意図的にリベリオンの戦力と人的資源をそれらへ正面から突っ込ませたため、日本義勇兵の対艦特攻/対空特攻攻撃と併せての損害は日本側の認識より遥かに甚大であった。また、射出座席の装備で史実太平洋戦争よりも飛躍的に生還率が上がった事もあり、義勇兵達が乗機を爆弾に見立て、飛行機や船に突っ込ませた事もリベリオン本国を悩ませていた。

「リベリオン本国はシェルショックに悩み始めたそうだ。日本の義勇兵が射出座席で離脱した後に乗機を爆弾にして突っ込ませてるだろ?被弾して突っ込んだのもいるが、この世界では恐らくは初めてだろう、カミカゼは」

「ええ。対艦ミサイルの事前攻撃と併せて、連中の心胆を寒からしめてるでしょうね。ガキ共が志願しなくなる弊害もできましたけど」

「戦争はそういうものだよ。西部戦線異状なしの時代から悲惨さは増大の一途を辿ったが、この世界はナポレオン戦争からいきなり、第二次世界大戦の悲惨な戦場に放り込まれるも同然だ。この世界の子供達は血で血を洗う戦争を知らん。君らの軍の間で流行ったサボタージュは理想と現実の差に失望した者達の不満も関係しているんだろうが、史実の日本軍はこの世の地獄を味わってきた。それに比べれば天国だよ」

「まったく、戦場ってのは映画やTVみたいな華々しいものじゃないってのに」

「君らや俺達がヒロイックな活躍をする事を取り上げるしか、軍部は戦時中に志願数を稼げんからな。おまけに日本は犠牲を極端に恐れるからか、自衛隊をあまり出さないと来ている。これでは、他国から睨まれて当然だよ」

「ドイツは自分達で政情不安煽ってますから、それよりはマシですって。敵は日本のフェミ連中ですって。平等っていいながら、やってるのは白人至上主義者と同類なんすから」

「連中は始末に負えないよ。ああいう手合が社会の混乱の源さ。メルトランディのように、ゼントラーディより平均レベルが高い種属もいるんだがね」

フェミニズムはウィッチ世界にとっては害悪であった。ウィッチはもともと、力の寿命の関係で『年功での給金加算』は無意味とされ、現役期間中は危険手当などを加算した事実上の能力給が当たり前であったが、『逆差別』との批判が飛び、各国軍関係者を困惑させていた。Rウィッチ化が扶桑で特に普及する背景には、ウィッチに対して『当たり前』とされた厚遇が次第に解消される事で、中堅層が暴発した事、更に個人主義の浸透とMATが勃興する時代が重なり、そちらへの志願が多数派である時代がこれから長く続き、事変世代からの世代交代が志願数の低調が長年の間、続くなどの理由で事実上の失敗(45年は本来、世代交代の終期にあたるはずであった)に終わる事があったからだ。

「連中のおかげで、こいつらを使わないといけなくなるなんて思いませんでしたよ」

「仕方あるまい。自衛隊の秘匿兵器も限られる。日本の世論が望む『米軍を圧倒する兵器』にはうってつけだろう?グレートマジンガーやゲッタードラゴンよりは現実味あるしね」

「ったく、秘策とは言え、ティターンズとネオ・ジオン相手に第二期MSたぁ、オーバースペックな気がしますけどね」

「連中が裏にいるなら、加減は無用だ。23世紀の世論もサイド3の連中に冷ややかになったからね」

「外宇宙と戦争するって時代に、ジオンがどうのってのは時代遅れですしね」

ジオンは『時代遅れ』。23世紀のデザリアム戦役の時点では、宇宙大航海時代において、スペースノイドに至るまで抱く考えである。これは外宇宙の国家と戦争をした地球圏の人々が地球連邦政府が存在することでの恩恵を再認識したからである。ジオニズムは時間の経過、一年戦争の敗北による公国の解体と、ジオン・ダイクンの長子であるキャスバル・レム・ダイクンがジオニズムやエレズムに興味を持たず、『アムロと戦うための大義名分』に利用していた事が地球圏の人々に知れ渡ると、ジオンという存在は急速に求心力を喪失し始めている。ジオンが求心力を喪失してゆく事へ危惧を持つネオ・ジオン強硬派はヌーベル・エゥーゴを起ち上げたばかりのタウ・リンに接近するが、彼にまんまと利用されてしまう。彼の起こすテロにキュアルージュ/夏木りんが巻き込まれた事で、キュアドリーム/夢原のぞみの怒りと義憤を買うなど、まさに踏んだり蹴ったりの状況へ追い込まれていく。黒江の一言が示すように、ジオンは時代遅れになりつつあった。時代がジオンを求めなくなっていくことを認めようとせず、各地で派閥抗争での内ゲバに明け暮れるジオンは総帥であるシャアからも、内心で『未来はない』と嘆かれるほどの惨状に陥っていた。ウィッチ世界に転移したティターンズ残党を支援しているのは、シャアの考える『華々しいジオンの最期』の露払いの一環であり、ティターンズ残党は所謂、『当て馬』にされていたにすぎない。ティターンズが表向き、ジオン残党狩りを目的に組織された経緯を考えれば、皮肉そのものの現状であった。ティターンズが手中に収めたリベリオン合衆国の世論は『逃げた連中が戻れば、過去に扶桑移民の国であった瑞穂国を虐殺したように、苛烈に報復しかえすに決まっている』という歴史的な経緯から来る、一種の強迫観念が意図的に肥大化された結果、人々の間に定着しつつあり、それが自由リベリオンを匿う扶桑への憎悪になり、扶桑を本格的な戦乱へ引き込む流れを作っていくのだ。ウィッチ世界のブリタニア連邦主体の国際秩序は『戦争』をきっかけに変容し始める。史実でイギリスが恐れた『秩序の変容』はウィッチ世界で起こり始めた。少しづつ、確実に。





――日本の世論に振り回されている戦線では、日本も遂に重い腰を上げ、チト改良型の製造ラインを扶桑本土と南洋に築き上げ、日本で完成した車両から、当時としては高度な工兵用の機材共々、戦線に送り込み始めた。パンターやセンチュリオンが登場していたため、手っ取り早く、センチュリオンの輸入を推進する声も大きかった(戦線で譲渡され、使用する部隊もいた)が、技術者達が国内開発を主張。61式の設計をチトに取り入れ、チトを改良し、就役は近いとされた74式を補う『補助戦車』として完成させた。74式のコピーがライセンス生産に切り替えられる混乱が起きたのもあり、結局、その生産と戦線への配備が大きく遅延した事から、扶桑が先行して、精鋭部隊に配備していたチリ改とチト改は扶桑陸軍のプレMBTとして運用され、実質的に61式戦車のポジションを得る。また、火力支援のホリ車もこの後、長らく現役であり続ける。チト改はパンターやセンチュリオンと肩を並べるには車格的意味で貧相ではあったが、性能的には火力でパンターを凌ぎ、予算が縮小され、軍備制限条約の『新京条約』もあり、慢性的に予算不足と兵力不足に悩まされる事となるカールスラント軍(自力での本国奪還は諦められた)と対照的に、『世界秩序の守り手』として豊富な軍事予算を誇る日本連邦陸軍の『顔』として活躍する。その様は、ドイツが『軍縮をさせすぎた』と後悔するほどの性急な軍縮、44戦闘団主力が実質的に日本連邦空軍の一部として行動する事になる時勢の象徴であった。これは扶桑軍の組織があまりに巨大すぎ、自分達の手に負えない事を日本が悟ると、日本はY委員会の存在を認め、Y委員会による実質的な軍隊の統制を『公認』する。64Fは日本連邦の統合幕僚会議直轄の部隊とされ、独立外郭部隊として再編成されたが、Y委員会の実質的な『円卓会議』化と共に行われた事から、『日本が扶桑軍の日本侵攻を恐れ、最高戦力の部隊を中央から引き剥がしたのでは?』とする憶測が、この時期の扶桑軍部の間で、まことしやかに囁かれる事となった。しかし、実際には真逆で、通常部隊の死傷率が高い、もしくは手に負えないような戦場に投入され、高い機材消耗率に達している。プリキュア達を含め、生身でもヒーロー達に引けを取らない戦闘力を持つ者達は特に優先して、最前線で戦わせる決定が上層部によって決められており、実質は最前線中の最前線に送られており、建前上の編成『飛行戦隊』とは裏腹に、陸戦にもガンガン用いられていた。





――それはプリキュア達も心中で思っていたことであり、クライシスに苦戦しつつも、飛行隊のはずが陸戦に駆り出される事に苦笑交じりであった。彼女らを偶々見かけた(別任務のために制空権確保に向かっていた)バルクホルンとハルトマンが対地掃射を敢行、クライシス帝国の怪魔ロボットの残った二体とガテゾーンに猛烈な弾雨を降らせる。ガテゾーンらはたまらず、反撃もせずに『転進』していく――

「ふー。掃射してくれてサンキューな、バルクホルン、ハルトマン」

「しかし、お前ら。日本のアニメから飛び出たような姿をしおって」

「それは認めるけど、F-104を履いてどうしたんだ、お前ら」

「あーやの命令で制空権確保に行くとこ。J型をカールスラント仕様に塗り替えてもらったんだ」

「G型と違って、J型は制空戦闘に向いてるしな。ハルトマン、お前とバルクホルンが?」

「部隊にF-104で制空権確保できる腕があるのはお前、黒江閣下らと私達しかいない。ミーナは前世でこいつが配備される頃には地上勤務が主になっていたし、復帰した時にはトーネードだ」

バルクホルンがいう。ミーナはトーネードの使用経験はあるが、104はその運用期間が地上勤務の期間と被っていたと。

「なるほどなー」

「でもさ、うちもバリエーション豊富になったよね」

「あはは…、まーね。そのトーネード使わないんですか?」

「式典に使われてたらしくてな。老朽化した魔導ジェットエンジンを取っ替える必要がある上、武装を最終グレードにする作業中なんだ。それで古いが、こいつで出たというわけだ。えーと、その姿だと…、夢原だったか」

「のぞみでいいですよ。この姿だと、キュアドリームだし」

「そ、そうか。だが、ハルプの連中が目を丸くしていてな」

「連中はせいぜい時速950から1000キロ台だろー?こいつは超音速飛行できるからねー」

「事故も多かったって、先輩が言ってたよ?」

「基になった飛行機が未亡人製造機だったし、あーやも前の時に若い連中に、細心の注意を払えって言ってたなぁ。だから、あたしらとあの三人、それと坂本少佐の専用機扱いにしてる。他のは誰でも扱えるからね」

「メッサー相手にこいつじゃな。歯牙にもかけないだろ、スピードは」

「加速力も上だからな。で、クライシスを撤退させたが、効いてたのか?」

「ま、空からバルカンを食らわせれば、普通は効くって」

「自前で飛行可能になったと聞いたが、どういう原理だ?」

「魔力の応用かな?パワーアップフォームになれば羽が生えるんだけど、普通はそうじゃねぇしな。あ、こいつはそうなったから、格好が派手だろ?」

「う、うむ…。」

「おい。気をつけろよ、ドリーム。このバルクホルンはな。重度のシスコンで……」

「先輩やエーリカから聞いてるから、知ってるって」

「おい、ハルトマン。何を漏らした」

「べっつに〜♪」

図星なバルクホルンと、バルクホルンをのらりくらりと躱すエーリカ。いつもの二人である。

「お二人とも、のび太から話を聞いていましたが、その通りですね」

「えーと、新入りのキュアフェリーチェだっけ。あたしはエーリカ・ハルトマン。ほんで、そっちが…」

「げ、ゲルトルート・バルクホルンだ。よろしく頼む」

バルクホルンは妹キャラには『センサー』が働く。(エイラを除いてだが)芳佳は妹のクリスに容貌が似ているという偶然もあったが、天然で妹キャラなフェリーチェ/ことはには瞬時にセンサーが反応した。軍人としては、凛々しい顔をするように心がけているバルクホルンだが、フェリーチェの本質を見抜いたのか、勤務中には珍しく、穏やかな表情だった。

「おい、見たかよ、ピーチ」

「あの人、ああいう妹キャラに弱いの?メロディ」

「ブリタニアで療養中の妹がいるんだが、激甘でさ。ハッピーにも甘いし、妹キャラに弱いんだよ」

「あんたらも楽しんでるわねぇ」

と、メロディとピーチに呆れるルージュ。

「とりあえず、これからどうします?」

「うむ。パワーアップフォームに誰かなって、ドリームと合わせろ。編隊は最低で二人だからな。敵はP-80を本格的に投入してきた。ブリタニアはまだ、『ハンター』や『 ナット』、『シービクセン』の配備は進んでいないから、空自や日本の義勇兵と共同で迎え撃つ。ついてこい」

『了解(しました)』

一同はバルクホルンの号令でP-80の大群を迎え撃とうと、ルージュとピーチが二段変身するのを見計らい、空域へ向かった。



――この当時、キングス・ユニオン化の恩恵に預かろうと、ブリタニアはイギリス製戦闘機のラインナップを吟味していた。当時、日本連邦が航空戦力のジェット化に邁進しているのは周知の事実であり、当時、メッサーシュミットMe262に遅れを取る性能しかなかった『グロスター・ミーティア』の後継機を求めた。もちろん、ミーティアも史実最終型相当のパワーアップはすぐに果たしたが、基本設計そのものの古臭さは拭えない。そこでイギリスからラインナップのカタログを取り寄せ、ブリタニア軍はそれを吟味中であった。史実と違い、軽量小型な『ナット』がブリタニア海軍に気に入られ、艦上型が製作中であったり、バッカニアがシミターをぶっ飛ばす形で、扶桑に製造ラインがあるのをいいことに、いきなり、次期艦上爆撃機として製造ラインに乗るなど、史実と異なる事情によるブリタニアのジェット戦闘機事情は複雑怪奇であった。また、イギリスがミサイル万能論で軍用機の自主制作をある時期から殆ど捨て去った事がウィンストン・チャーチルに非難されるなど、イギリスにとっての困惑も起こった。しかし、ハリアーUやナットをビクセンに代わる次期艦上戦闘機にする計画である。これは財政面で日本連邦が目指すような『超大型空母』の整備が難しいとされたためだが、史実の英国のような経済破綻寸前の窮状にはなっていない幸運もあり、比較的に計画はスムーズである。既に、アメリカとイギリスの放出したハリアーの廃用機がブリタニアに輸入され、修復がされた上で、ブリタニア本土でのテストフライトを行っている。これは未来から情報を得られる利点の賜物であった。空母の習得そのものに成功しつつ、結局は有耶無耶の内に、バダンからの鹵獲艦再利用の方針へ二転三転し、第二次世界大戦前半期水準の空母機動部隊すら編成がままならなくなったカールスラント海軍、ベアルン後継の建造に失敗したガリア海軍に比して、圧倒的に優位に立っているのがブリタニア海軍空母機動部隊だった。当時、世界最強の空母機動部隊を競う立場へ飛躍した日本連邦海軍とリベリオン本国海軍に比べれば格落ちの感はあるが、ジェット艦上機の導入が部分的にも始まり、当代最高の艦上機の一つと讃えられるレシプロ艦上戦闘機(シーフューリー)も配備され始めていたブリタニア海軍は欧州最高の海軍と言え、随所で存在感を見せている。それは空軍も同じで、テンペストや当時のスピットの主流になりだしたグリフォン・ファイアがF6FとF4Uに立ち向かっており、空域の制空権争いを激しく戦っている。戦況打破のために送りこまれたP-80ジェット戦闘機を叩き落とす事。それがバルクホルン達に要請された任務であり、プリキュア達もそれに従う形で、途中で旧・日本陸軍出身の義勇兵達の駆る『疾風』/『キ100』、自衛隊出身の義勇兵の乗る『F-86』らの編隊と合流。早期警戒管制機の指示に従い、優位な高度でP-80戦闘機を迎え撃つ事になる。早期警戒管制機が指定した高度はレシプロにとってのかなりの高度である(高度7000m)が、高度5000を飛ぶ敵機に奇襲をかけるには必要な高低差ではある。バルクホルンはプリキュア達に時たま声をかけ、自ら先導し、高度7000にまで上昇。管制機の指示に従い、奇襲を敢行する。二次大戦型の空中戦ではありがちな一撃離脱戦法での奇襲だが、ルフトバッフェお得意の戦法ではある。更に、その名手であるトップエースが先導して行うため、タイミングは完璧だった。早期警戒管制機の援助のない敵は慌てふためき、対応が遅れる。

『各機、交戦に入れ!!相手は単発機だというのに、編隊を密集して組んで、ビクビクして飛んでいるようなヒヨコどもだ、存分に教育してやれ!!』

バルクホルンの号令を兼ねた激が飛び、空中戦を始める。この時代からすれば重装備であるミニガン、魔導誘導弾、近接攻撃用武器の取り揃えは豪華であると同時に、本来はまだ試験運用中の装備で、黎明期と言えるジェットストライカーユニットの可能性を切り開く上での『先駆者』の一人と記録される理由であった。戦場では凛々しく振る舞い、飛翔するバルクホルン。前史からは考えられないほどウィットに富む号令を発するあたり、前史における後半生における、温厚な性格が反映されていた。



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