外伝その350『ジオンの衰亡の序章』


――なぜ、ネオ・ジオンが穏健派と強硬派に分かれたのか。それはシャアがその出自にも関わらず、個人的理由でジオン軍自体を利用した事で旧ジオン系の人材から反発が生じたからだ。それを憂いていたのが、かのザビ家の唯一の生き残りであり、ドズル・ザビの忘れ形見『ミネバ・ラオ・ザビ』であるが、シャアの意向もあり、表舞台には立たなかった。シャアはダイクン派に支持者が多いが、旧ジオン系の人材は少なからずが一年戦争、デラーズ・フリート以来の筋金入りのザビ派である。それも内部分裂の理由で、強硬派は元ギレン派、キシリア派などの旧ジオン〜アクシズ系の人材に多い。この内部分裂はジオン系の組織に見られる衰亡の兆候であり、シャアがジオンを維持するつもりが既に無かったのもあり、ネオ・ジオンは次第に『ある男』の手で内部分裂を起こし始める。そして、その男がシャアのクローンであったのは皮肉であり、ジオンの赤い彗星の偶像は既に、キャスバル・レム・ダイクン本人を必要としなくなるレベルに肥大化していた証であった――




――地球連邦軍本部 ギアナ高地――

「レビル将軍、ネオ・ジオン穏健派の要求を飲むので?」

「ユニコーンガンダムの力はスーパーロボットでなければ御せなくなるだろう。サイコフレームは悪用されれば、恐るべきものになり得る。が、希望にもなる。彼らも恐れているのだ。だが、こちらには既にνガンダム系統のMSがあるし、向こうもサザビー系統のMSを持つ。フレームの使用量を規制し、ユニコーンガンダムのような代物を作れなくすれば良い。νガンダムやサザビーがある以上、向こうも強くは出られんよ」

レビル将軍は政府が政権交代間近であるため、非公式にネオ・ジオン穏健派が軍部に接触し、交渉を行うに当たって、陣頭指揮を取っていた。数回の交渉でνガンダムやサザビー系統のMSの配備継続はお互いに認める事にし、史実のネオ・ジオング、既に完成したユニコーンガンダムを規制しようとしたネオ・ジオン穏健派。だが、止むに止まれぬ危機が差し迫りつつあるため、地球連邦軍は条約発行を遅らせようと、あれこれ策を練っていた。量産型νガンダムを用意するためである。地球連邦軍はサイコフレームを『どんな代物だろうと、扱う人間次第で善にも悪にもなる』とし、性急にサイコフレームの封印を行おうとするネオ・ジオン穏健派を牽制している。地球連邦軍は統合戦争の教訓もあり、技術の封印には一貫して、反対の立場であった。ネオ・ジオンも統合戦争でかなりのロストテクノロジーが生じた事は承知しているため、彼らも統合戦争を引き合いにされると、強く出られなくなっていた。サイコフレームよりも凄まじい技術の多くが失われた悲劇。その歴史的悲劇がネオ・ジオン穏健派が地球連邦軍に交渉の主導権を取れない背景であった。

「統合戦争の悲劇は地球の人々に強いトラウマを植えつけた。ドラえもんくんの時代には、外宇宙に出始めていたはずが、後退したからな。日本の東京にさえ、未だに当時の廃墟が放置されたままだ。それを引き合いに出せば、ユニコーンガンダムはいずれ封印するにしろ、νガンダムは手元に残る。ネオ・ジオンとて、ナイチンゲールを抱えている。文句は言えんはずだ」

「向こうは呑むのでしょうか」

「万一、ネオ・ジオングが現れようと、真ゲッターロボや真ゲッタードラゴン、マジンカイザー、マジンエンペラーGには太刀打ちできると思うかね?サイコシャードであろうと、光子力やゲッター線に介入できるか?否だよ」

レビル将軍もだが、ある意味、サイコマシンですら赤子扱いになるであろう超マシーンが日本に多数あるため、地球連邦軍はネオ・ジオングを脅威視していない。ネオ・ジオンもスーパーロボットを脅威視しているため、『ネオ・ジオングを使おうと、勝てる保証が得られない』とした穏健派が『円満にジオンを終わらせよう』としている事は把握している。ジオン共和国も自治権放棄か、移民船団化を選択を迫られる時勢であるため、ネオ・ジオン内部の旧ジオン派はかなり切羽詰まっている。それが彼らが新進気鋭のテロリストであったタウ・リンに接近する事を選ぶのだが、タウ・リンは一年戦争ではジオン兵であったが、一年戦争後はアナーキズムに傾倒した筋金入りのテロリストである。その彼の気質を読めなかった事が、ネオ・ジオンそのものに幕を引く一因となるのだ。

「将軍、ヌーベル・エゥーゴですが、このタウ・リンなる男が首魁について以降、急激に行動が活発になっております」

「この男こそ、連邦とジオンを利用して、人類に復讐せんとするアナーキストの残党だ。ある意味ではバダンと同類の恐るべき男だ」

タウ・リンをそう評するレビル将軍。化石のようなアナーキストであるタウ・リン。なぜ、そうなったか?若かりし頃の一年戦争でジオン兵であったはずが、強化人間にされたことで、倫理観のタガが外れたのだろう。

「レビル将軍はムーンクライシス計画をご存知で?」

「知っている。一年戦争の末期にギレン派が立案していた月の爆破計画だ。奴はそれを?」

「はい。奴は月の構造を調べているようです」

「プリベンターに暗殺をさせることは?」

「試みたようですが、奴を現場が甘く見たようで、プリベンターの一線級の一個中隊がまるごと爆殺されました」

「初期の強化人間は改造人間に近い。機動兵器戦に持ち込むか…。例のシステムのテストの状況は?」

彼のいるオフィスから見えるテスト場では、ネルガル重工製の新操縦システムのテスト機になったガイアガンダムが等身大サイズでバスケットボールの動きをするテストを行っている。それでシステムを煮詰め次第、21世紀の日本で第二次テストを行う予定である。

「ハッ。慣れれば、既存の操縦システムより容易に育成は可能です。ですが、慣れが必要なのと、宇宙での機体冷却の課題が」

「やはり宇宙がネックか」

「宇宙では機体冷却の方法は限られますからな。現在の技術水準では、20分が戦闘機動限界です」

「地上では今の技術でも使えると?」

「もっとテストを重ねませんと、そこは」

技官は現在の地球連邦軍の技術水準での機体冷却方法では、新システムでの宇宙での戦闘機動可能時間は30分にも満たないと報告し、地上でシステムを熟成させてから、宇宙でのテストに移りたいという。MSのパワーと機動力をMF(モビルファイター)に近づける絶好の機会なので、極秘に過去の世界でテストをさせるという技官。レビル将軍と直接の会話が可能なため、最低でも技術大尉だろう。レビル将軍が気にするように、この後、タウ・リンは急速に旧公国が遺した作戦計画(旧ギレン派だろう)『ムーンクライシス計画』を実行に移し始める。それは恐るべき計画であり、地球連邦軍はデザリアム戦役と『第三次ネオ・ジオン戦争』を同時に戦う羽目に陥っていく。だが、この時期の地球連邦軍は熟練者の予備になり得るパイロットを育成する事が急務だが、短期間にそれは育たないという宿命に悩んでいた。ビーム兵器実用化以降、MSパイロットの生還率は低い傾向があるため、簡便にパイロットを育成する技術を求めた。それに応えたのがネルガル重工であった。既存のIFSを一歩押し進め、神経回路を電子変換して機体に直結させる事で、機体を自分の体のように扱えるというもの。MSへの適応はテスト段階であり、ガイアガンダムを使ってのテストが繰り返されている。長時間に及ぶ事もある実験ではあるが、実験に協力したステラも『なんか変な感じ…』との感想を述べている。テストは報告の数ヶ月前から行われており、MS形態限定だが、システムの安定性の確認や機体追従性などの確認など、多岐に渡る項目がテストされている。改良も重ねられており、社内テストの段階であったという『爆発の閃光で、システムの視覚系に不具合が起きる』事も無くなっている。このシステムに対応するため、ガイアガンダムは見かけは同じだが、フレームは『コピーではあるが、遥かに可動性能が高いアナハイム製のムーバブルフレーム』に変えられている。本来のプラント製の機体フレームでは、システムの要求する動きに関節の可動自由度や関節軸の摩耗耐久性が追いつかず、更に機体の冷却性能も不足するとされたからだ。排気系やパイロットの生命維持装置なども、地球連邦軍製の高性能のものに換装されている。(軽量化がなされているため、以前より機敏になっている利点も生じた)

「あのガンダムでのテストの予定は?」

「直に21世紀の日本でテストをします。日本でテストをクリアできれば、たいていの環境に適応できます。もちろん、シベリアと北極圏、南極圏、アフリカでのテストなどは必要ですが」

「度重なる戦争で、我が軍の人的資源はけして余裕があるわけではない。本星は特にだ。ロンド・ベルの負担を軽減させるためにも必要なことだ。予算は増額する、実用化に向けて、技術者達に発破をかけてくれたまえ」

「ハッ。ありがとうございます」

レビル将軍と技官はオフィスの窓から、中庭でのバスケットコートで、等身大サイズのガイアガンダムがバスケットボールのシュートなどを打っている様子を確認する。機体を等身大サイズに縮小させているのは、パワードスーツのテストと偽装する目的も含まれ、感覚的にもパワードスーツを動かすように感じるからだ。(余談だが、シン・アスカは土方仕事だけでは世帯を維持できない事を実感しており、デザリアム戦役前に妻のジャンヌ/ルナマリアの薦めでアナハイム・エレクトロニクス社の期間雇用のテストパイロットになり、テストに参加しており、模擬戦に相手が誰かは知らされずに参加している。ステラは保護者であるカミーユと、事を知っているジャンヌの意向もあり、模擬戦ではシンにテストに参加している事は明かさなかった。明かしたのは、シンが仕事の雇用期間を終えた後だったという)

「現在のところ、日常生活や地上での戦闘なら、システムの稼働時間に制限時間はありません。機体構造は強化してあるので、風呂にもつかれますよ」

「シュールだな、それは」

「日本でテストすれば、もっと詳細なデータを取れます。このギアナでは限界があるので」

技官はここ数ヶ月の稼働データを各軍需産業と共に確認し、機体の調整に励んでいる。かなり完成に近づいたようで、現在は長時間稼働の試験中と報告する。神経を電子的に変換しているため、ステラにとっては普通に動いているのとそれほど変わりない程度の負担しかかかっていない。等身大になったおかげで、通常サイズの宿舎が使えるのも大きかったが。

「要するに、フルダイブ型VRマシンの出力側がMS、入力側がマインドシフター、インターフェースのシステム名ですが……とお考えください」

「野比のび太氏の家にはいつ?」

「この試験が終了し、システムの定期メンテナンスの完了次第、起動状態で送り込みます」

「モビルトレースシステムは手間がかかる。簡易型も一定の素養が必要だ。だが、今の我々には通常の育成を行えるだけの時間的余裕はない。早期の完成と実用化を要請する」


レビル将軍はロンド・ベルの負担低減に尽力する。ネオ・ジオンは練度こそが武器であるため、地球連邦軍が操縦システムの選択肢を増やそうとするのも無理からぬことであった。無人兵器に問題提起がなされた後の時代では、有人兵器をあの手この手で強化する必要が生じているのだ。この兼ね合いが地球連邦軍の本星部隊がいつの時代も有人兵器にこだわりを持ち続ける一種の理由づけとなる。スーパーロボットは兵器というよりは『機械仕掛けの神』に近い位置づけのものになっていき、23世紀が過ぎた後の平和な時代には『神話』じみて活躍が伝えられるに留まる。時代時代の機能的アップデートは色々な形で行われており、『銀河100年戦争』やそれを経た『イルミダス』への反抗で重要な役割を果たす。イルミダスは30世紀の地球連邦軍の大半より強力な軍隊であったが、スーパーロボットの復活で形勢は逆転。挙句の果てに、圧政への嘆きに呼応し、眠りから目覚めた究極最強のゲッターロボ『ゲッターエンペラー』によって、その母星がある星系を丸ごと滅ぼされるに至る…。





――ウィッチ世界を戦争に追いやったティターンズは資料をリベリオン本国軍に渡し、兵器を造らせ、欧州各地で物量の力もあって優勢に立ち回らせたが、海戦では地球連邦軍の援助を受けた連合軍に連戦連敗であった。それにも関わず、陸・空では圧倒的物量で連合軍の心胆を寒からしめていた――

「今ので何機!?」

「今ので100機を超えたはずだけど、全然減ってないよ、メロディ!」

「狼狽えるな、こいつらは護衛戦闘機の一団だ。しかも、陸上基地からのな!100機くらいじゃ帰らねぇよ!」

ドリームはメロディに思わず泣き言を漏らす。プリキュア達はあらゆる手段を講じ、P-80の大編隊を落としまくるが、100機を超えても敵はまったく潰走しない。怪異でも、40機の内、15機も落とせば潰走するのに、だ。空を覆わんばかりの敵機の群れ。しかも防弾装備を完備する米軍機だ。

「AWACSの連中も驚いてるぜ。航空戦史上稀に見る規模だってな!日本軍の爺さん連中にまけんなよ、お前ら!」

日本軍の義勇兵らが高度4000から6000までの高度でレシプロ戦闘機同士の激しい空中戦を行い、自分達の援護の担当はジェット機を持つ空自、もしくはそれ出身の義勇兵である。F-86とF-104Jが援護を担当しており、頑張ってはいるが、処理が追いついていない。

「後続のドーントレスとアベンジャーも来たぞー!」

「…っ!こうなったら、密集してる内にファイヤーストライクで!」

「待ってください!こうなったら!」

フェリーチェはサンダーブレークを放つ。この戦闘は生中継されているので、21世紀に着いただろうみらいとリコは顎が外れているだろうと考え、苦笑いする。

『今のところは86で何とか行けちゃ居るが、敵さんがMSだのVFだの持ち出して来たらジリ貧だなぁ。サンダーブレークを当てないでくれよ?』

空自出身のある義勇兵がそれを見て、フェリーチェに通信を入れた。サンダーブレークで薙ぎ払うにしろ、味方に注意しろという事だ。フェリーチェがサンダーブレークを撃っているのをTVで目撃したであろう、みらいとリコはなんてコメントするのだろうか。

「分かってますって。この技は剣鉄也さんから習いましたから、大丈夫です。…はぁっ!!」

フェリーチェはムチのように電撃を操り、切り払うようにしてP-80、ドーントレス、アベンジャーの混成編隊を瞬殺する。

「グレートマジンガーのサンダーブレークかぁ。フェリーチェ、それをいつ覚えたの?」

「20年ありましたから、その間にこつこつと。みらいとリコ、驚くだろうなぁ」

「今頃、マーチに詰め寄ってるのが目に見えるなぁ、あの二人」

ルージュの予測通り、今の攻撃を21世紀は野比家の居間のTVで見たみらいとリコがキュアマーチにがぶり寄りで詰め寄っていたりする。マーチも流石に冷や汗をかきながら、『お、落ち着け〜!今、ちゃんと説明してやるから!』と狼狽え、先に来ていたキュアラブリーがみらいを引き剥がすのに必死だったりする。モフルンは動けなかったので、事情をあまり知らず、説明はできないため、マーチが話すしかないのだ。

『頑張ってたのは見てたモフ、どんな特訓かはしらないモフ』

「ほら、モフルンも言ってるから…」

ラブリーの一言で、ようやく力が抜けるみらい。フェリーチェの予測以上に二人は大いに驚いたのは言うまでもなく、のび太の義妹として生きてきて、普通に大学まで卒業済みというのは、みらいのジェラシーを燃え上がらせた。みらいは戦いが終わってから、キラキラプリキュアアラモードの宇佐美いちかに正式にバトンを引き継がせるまでの5年ほどの期間を否応なしにリコとことはと切り離された生活を送っていたため、ことはが普通に中学、高校、大学まで通ったという事実に驚愕し、なおかつ、共に生活していたという事に年甲斐もなく、ジェラシーを燃え上がらせる。

「のび太さん……それじゃ、はーちゃんとあーんなことやこーんなことをしてたってわけ?考えただけで腹たってきた〜!」

「お前、確か、現役終える頃は大学一年だったろうが。みっともないぞ」

「わたしはリコやはーちゃんと5年位、会いたくても会えなかったんですよ〜!そりゃ言いたくもなりますよぉ!」

みらいとリコは再会時の実年齢は19歳ほどであったのと、最終決戦後にことはが神としての権能を行使し、5年ほど概念と化していたため、『会いたくても会えなかった』。その関係でキュアマーチの首根っこを掴んで、思い切り揺さぶる。半分涙目で。

「ば、馬鹿!落ち着け!」

「だってぇ〜!はーちゃんが高校や大学に行くなんてっぇ!わたし、見たくても見れなかったんですよぉ〜!」

「き、気持ちはわかるけど、まずは落ち着こうよぉ〜!」

キュアラブリーが宥めるが、みらいはぐずる。珍しい姿だが、のび太の下で普通に大学まで通っていたということはの姿が、みらいには衝撃的過ぎたのだ。二人の先輩を豪快に振り回すあたりはピンクチームの一員らしい。現役時の口癖『ワクワクもんだぁ!』などは実年齢もあって、鳴りを潜めているようだ。

「それに、はーちゃんがのび太さんの義妹って、ど、どういう事なんですか〜!?誰か説明してくださいよぉ!」

「み、みらい!…す、すみません、先輩方…」

リコもこの反応だ。リコは最終決戦からの5年で魔法界で教諭になり、実質は社会人になっていたため、変身前では、プリキュアとしての先輩に敬語を使うらしい。大人になると、否応なしに敬語を使う機会も多くなるため、みらいもリコもそれぞれの事情から、プリキュアとしての先輩である二人に敬語を使っていた。意識的に現役時の振る舞いをするドリームとは対照的である。

「しかし、なんだな。お前ら、現役を退いたのは敵を倒して数年後だったか?人前に出る時は昔を意識しろよ。リコ、お前もだ」

「な、なんでですか!?」

「本物と証明するためだ。違う振る舞いが許されるのはメロディくらいなものだ。ドリームを見ろ。前世で二人の子持ちだったのに、若い時の振る舞いをやってるんだぞ」

「二人共、鏡を見るモフ」

「はい」

「ら、ラブリー、用意いいね……。た、確かに」

モフルンがラブリーに手持ち鏡を渡し、ラブリーは二人に鏡を渡す。見える姿は現役時の肉体だ。肩を落とす二人。映るは14歳当時の自分達。今回ははーちゃんの魔法で外見を戻したわけではなく、科学的に再生されたため、本当に現役時の姿に戻っている。それに改めて気づく。

「そ、そうだった〜…。でも、のぞみちゃん、大人になってる状態で、よく昔と同じ事できるなぁ」

「それには事情がある。ラブリーとフォーチュンには話したが、お前らにはまだだったな」

「ど、どうしたんです、改まって」

「あいつ特有の暗い事情があるからだ。重く、悲しい話だぞ…お前ら」

キョトンとするみらいとリコ。神妙な趣になるマーチ。自分もそれに関わったからだろう。話は信じられないほどに陰湿で救いようがないもので、プリキュアオールスターズの切り込み隊長で鳴らしたはずののぞみに待ち受けていた悲しい後半生。なおに看取られつつ、物悲しい最期を遂げたと説明されると、感受性の強いみらいは泣き出してしまう。


「嘘、嘘ですよね、マーチ…」

「いや、お前らがこれから会う事になるのぞみにとっては、これが事実だ。あいつは拠り所を失い、プリキュアである事だけが絆の象徴だった。それを自分の子供に否定され、あいつは心を病んでしまったんだ。りんが大病で亡くなった後、近くに住んでいた私が世話を遺言で頼まれてたんだ」

「それがのぞみさんの…?」

「今、考えられる中での最悪の可能性の一つ…そう言うべきだろうな、リコ。お前らが敗れたのは、お前らが敗れる平行世界の因果をあの魔神が手繰り寄せた結果だ。オーバー・ザ・レインボーの状態で負けたのなら、あの魔神の力の証明になる」

「そんな、あれは私たちの最高の力なんですよ!」

「のぞみがそうなった世界があったように、全てのプリキュアにも負ける因果はある。ただし、初代のみはその魔神でも存在の有無の改変はできん。因果の因たる存在だからな」

「それじゃ、あのバケモノはなぎささんとほのかさん、ひかりさんしか倒せないんですか!?」

「通常はな。だが、お前達が物語の枠を飛び出せば話は別だ。因果を壊し、全てを繋げるのだ」

「物語の枠…?」

「そうだ。のぞみとはーちゃんはそれを目指し、成功した。言うならば、お前たちに定められた物語の運命があるのなら、それを蹴飛ばし、物語を超えろということだ」

のぞみとことはは『アニメの自分に囚われない』事を目標に、自分を鍛えた。ことはは特にそれを意識していたため、プリキュアのスペックに囚われない思考で戦っている。因果を超える事こそ、ZERO攻略の鍵。のぞみ達が大編隊相手に戦闘を行っている頃、21世紀の野比家の居間(新・野比家だが)では、キュアマーチが因果を超えろと、二人の後輩に発破をかける。

「因果を超えろって…!?」

「神を超え、悪魔をも倒す(滅ぼす)事だ」

Gウィッチの間で共通の標語『神を超え、悪魔をも倒す(滅ぼす)』。元はマジンカイザーのキャッチコピーだが、Gウィッチは総じて人外に達する戦闘力を持つが、マジンガーZEROを倒すため、元祖最強のマジンガーであるマジンカイザーに肖ったものだ。因果を超えるには、そのくらいの気概でなければ駄目である。黒江が好む言葉でもあるが、ZEROが魔の神、邪の神であることを考えると、光の魔神の象徴であるマジンカイザーに肖っていると容易にわかる。ZEROが負の因果を引き寄せ、みらいとリコを敗北に追いやった。それならば、『希望の象徴であるマジンカイザーの光を信じればいい』。魔神皇帝の光を二人は信じ、強さ的な意味の指標の一つにした。口の悪いものは『自分勝手な理屈で、他人を精神安定剤にした』と罵るだろう。だが、Gウィッチは元からそうだったわけではなく、幾度となく失敗を重ね、悲しい思いも味わった。それを超えた先に得た力である。

『力は意思が無い限り力以外の何者でも無いが、そこに意思が宿ることで正しくも邪にもなる。魔神とて希望を呼ぶ奇跡の魔神にも絶望を呼ぶ破滅の魔神にもなる 全ては意思次第なのだ』

『悪であっても、(よこしま)になってはならない、悪もまた力による正義、正しさも意義も持たぬ邪な行いは自らをも滅ぼす災厄と成るだろう』

ZEROと戦った経験を持つ者は『どこか』でその声を聞いた。M78星雲の6番目の光の巨人のような声だが、それはZ神の声。ことはと調は20年の内に、ドラえもんとのび太はことはと同時に聞いている。ドラえもんとのび太はその神託で自らの運命を悟り、彼女らと共に道を歩む事を選択した。彼ら自身の意思で。

『人間は誰しも、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時がある。負けると分かっていても戦わなくてはならない時があるのさ』

のび太は自らの戦いに巻き込んだ事を泣いて詫びることはに、こういった事がある。キャプテンハーロックも述べた、人間としての決意表明である。のび太は危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時を真の意味で知る男。負けると分かっていても戦わなくてはならない時があるという事を理解し、戦場に立つ男。のび太は本質的には昔から臆病者であるが、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時に行動できる男である。しずかの危機を幾度となく救い、ことはの事も体を張って守った事も何度かある。しかも小学生の時にだ。小学6年の頃には、暴走車に轢かれそうになったことはを突き飛ばし、自分はそのまま吹き飛ばされ、重傷を負ったという事件も起こった。ことはがのび太を強く慕うのは、死にかねない状況でも庇い、自分が吹き飛ばされることも厭わない、その優しさに惹かれたからだ。

「のび太氏はこう言っている。人間は誰しも、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時がある。負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある、と。誰もが彼のようになれるとは限らん。だが、せめて気持ちだけでも、彼と共にありたい。お前らも肝に銘じてほしい。私達は彼のおかげで立ち直れた。今一度、戦う理由を見いだせた。」

マーチの言葉は重い。『誰しも、危険をかえりみず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時がある。負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある』。理屈で分かっていても、それを実践する事は歴代のプリキュアであっても難しい。のび太は少年、青年、壮年と、いつの時代も人を導く素養を持つ。2005年以降のアニメでは駄目な面ばかりがクローズアップされがちだが、のび太は『誰かを助けるために、自分の勇気を振り絞って、死の危険もある危険に立ち向かう』、『他人を深く思いやる心』(敵には容赦しないが…)などの長所を持つ。ことは、のぞみ、調はそれぞれ、のび太を深く想う。調はSONGに戻る選択肢は用意されていたが、それを敢えて辞退し、のび太のもとで基本的に生活する身を選んだほどだ。

「……はーちゃんはのび太さんを選んだ。寂しいような、嬉しいような…」

「はーちゃんが自分で選んだ事だよ、みらいちゃん」

「ラブリー…。うん…、そう、そうだよね」

みらいはラブリーに言われ、心に折り合いをつける。肉体的成長がないことはも、精神的には成長する。のび太へ抱くジェラシーが『親心』と寂しさが入り混じったものとみらい自身が理解するのはもう少し先のこと。



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