外伝その361『連合軍の悲哀4』


――Gウィッチたちを援助するのび太。時間軸を無視するなら、のぞみの義父になろうかという男である。彼は海軍技術少佐という身分を隠れ蓑に、横須賀航空隊の視察を行う。当時、空軍設立やその前段階における活動自粛令で内部に不満が溜まっており、のび太の発案で極秘に機材のダミーとの入れ替えが行われている最中である。特に震電は実機開発の上で多大な支障が生じる事が懸念された事から、ダミーへの入れ替えが優先して行われた。それ以外には、日本に実機の存在しない『橘花』や『火龍』などが入れ替えられており、かなりの機材がダミーになっている。これは前史で問題になった『機材焼却事件』の影響を最低限に抑えるためで、事前にかなりの機材が「ダブルフェイク」に入れ替えられている。ちなみに防空担当部署に配備されていた機材は、ウィッチ部隊では『零式艦上戦闘脚五二型』で、本土防空を軽視していた海軍としては、かなり恵まれていた。坂本は五二型を『老いた名馬』と酷評するものの、零式に慣れ親しんだベテラン勢に好評であった。実機のほうも同様であり、本土で五二型を部隊規模で有した数少ない部隊の一つであった。――




――横須賀航空隊――

「源田司令よりお話は伺っております、野比卿。私が志賀少佐です」

「野比のび太です。今は技官の身分を隠れ蓑にしております」

のび太は志賀の応対を受けた。如何にも古風な海軍士官といった雰囲気を纏う志賀少佐。女性ながらに堅物であり、黒江や坂本と対立して64Fを飛び出した時点で海軍士官としての経歴に傷がついており、今以上の出世は望めなくなっている。当人がプロパガンダの重要性を理解したのは部隊を飛び出した後のことであったため、時既に遅しの感は否めない。だが、偉大な先輩達と対立して飛び出し、坂本の顔に泥を塗ったという事は彼女の重大な負い目になっていた。

「先輩達の親しいご友人なら、お願いが…」

「分かっております。貴方が啖呵を切った手前、公には詫びれない立場である事は。クーデターが終わったらどうなさるおつもりで?」

「戦争が終われば、民間軍事会社でも興しますよ。私同様、古風な海軍士官は今の国には嫌われ者ですからな」

「それまでは?」

「後方で教官をして過ごします。先輩達に反発して飛び出した以上は、手柄を立てるわけにもいかんので。家族に後ろ指は指されてますが」

志賀は七勇士と政治的に対立したことで軍隊での出世の道は絶たれたが、軍人としては優秀であったために『飛行教官』という形で、戦時中は慰留される事になる。志賀は禊として、戦時中は飛行教官として各地を回り、前線へウィッチを送り出すのに重要な役回りを担い、少佐で退役。戦後は民間軍事会社の社長として腕を奮ったという。

「分かりました。しかと伝えます」

「ありがとうございます。こちらです」

「これは……」

「零戦52型丙。日本には受けが悪く、あまり出回りはしませんでしたが、本来は六四型までの繋ぎを意図して、制作された機体です」

零戦の持ち味を削いだとされるため、日本側の意向もあり、あまり生産されなかった五二型丙。もっとも、元から繋ぎが目的だったため、新造機は多くないが。

「珍しいですな、丙は」

「ええ。日本は国防より福利厚生に金をかけろというが、国防に金をかけなくては、この世界では生きていけないのですがね」

「今年度の軍事予算は?」

「日本の大蔵官僚が聞いたら、目が飛び出る金額です。国内総生産のおおよそ半分近くを費やしていますから」

「詳しいですな」

「私の小学校時代の悪友が大蔵官僚志望でして。そいつの親も大蔵官僚で、家族ぐるみの付き合いです。先輩方には、情報提供が私の禊の一環であると伝えていただきたい」

「しかと」

「日本は旧型戦艦を空母と入れ替えろというが、空母は艦上機、それを扱うパイロットがいなければ、単なる箱に過ぎない。金はどうにもなるが、人はどうにもならない。そもそも、民間航空自体が黎明期である我が国では、パイロットの育成を急いだところで、リベリオンほどの数は確保できないのです」

「だから、貴方はエースパイロットのプロパガンダに?」

「士気高揚のため、部内で言い合い、勲章をもらう分には反対はしません。ですが、それを公で大げさに発表するのは違うと考えていました。……ですが、時代がそれを否定してしまった。私のような古い人間は生きにくくなってしまった」

「国際協力の時代、カールスラントに三桁撃墜王が続出した以上は仕方がない事です。海軍の沽券に関わる」

「沽券、ですか。そんなもの、ガリアとカールスラント、ブリタニアが決めたものでしょうに…」

「でも、少しでも市民の安心に繋がるなら、それを成すのも国軍の仕事ですよ。」

「軍人は鞍馬天狗ではないのですがね…」

「事変のころの七勇士の報道を考えてみるべきですな、少佐」

志賀は本心として、『撃墜王と部内で誇る事は士気高揚の観点で反対しないが、公に発表すべきではないとする考えを見せ、第一次大戦の当事者を侮蔑するかのような言葉すら発した。それは政治的に不都合なため、のび太も眉をひそめる。

「言葉を慎む事を覚えたらいかがですかな、少佐。敵を作りますよ?」

「親父から引き継いだ悪い癖ですよ、野比卿。私は撃墜数より誇るべきものがあると言いたいのです。私の慕う従姉妹もそう言っていたのに…」

志賀は撃墜数を誇る文化を西洋的として嫌う一面をのび太に見せ、自身に影響を与えたという従姉妹に触れる。志賀はこうした頑なな一面が悪い方向に作用し、64Fを去らなければならなかった。のび太でさえ『言葉を慎め』と言い、不快な思いを抱かせるほどに歯に衣着せぬ物言いであった不幸が彼女の軍隊でのキャリアを終わらせたといっても過言ではない。だが、基本的には誠実かつ実直な人柄であるため、慕う者も多い。

「「そういう『中で何をやっているか解らない』相手に在野の人々は警戒や疑心しか持たないのですよ。何も語らない強大な組織は味方と言われても信じるには足りないのです。能弁になれと言うわけじゃない、組織の誰がどう功を成したか、それを予算を握る一端の納税者に示せって事です。軍人も役人も、国民と政治家に嫌われたらお終い、少しは媚びて置いても損は無いし、いざと言う時の我儘を通す為の種を撒いておくのにエースとか都合が良いんですよ」

「銃後の都合に動かされるのが、政治なんですか?」

「民主政治というものはそうですよ。資本主義国家は基本的に民主制だ。身も蓋もないですが、立憲君主制国家としては真っ当なほうだと思いますがね」

「これも時代なのでしょうか」

「プロイセン式の統帥システムは国を破滅に導いた。ブリタニア方式のほうが真っ当な政軍関係と言えますよ。それと、欧州文化圏だと、数字とかハッキリした結果が無いものに評価は無いんです、エースの撃墜数や損害率、艦艇の撃沈数みたいに数字が軍や組織においての評価の全てなんです。それを理解しましょう」

「何事も欧州、欧州、か」

「東洋文明という概念はお捨てになられたほうがいい。これからは国際協調の時代と言っていい。日本や扶桑の仲間が知っていれば良い、なんて考え方や、言わずとも判るなんてのは世界では通用しません。言って、示して、証明出来なければ存在してないものにされるのです。そうならない為に主張はハッキリと、数字は正確に、それが信用を築く基礎なのです。黒江准将閣下も大尉時代、カールスラントのグレーテ・ゴロプになんて言われたか。『東洋の辺境の老いぼれ』ですぞ」

グレーテ・M・ゴロプ。旧・オストマルク出身の505の元・司令であり、過激な国粋主義者であった。カールスラントの文化、技術至上主義者であり、黒江を冷遇した事で有名だ。また、バダンに内通しており、黒江が覚醒する前に謀殺することさえ、幾度となく実行した。また、日頃から人種差別意識とカールスラント至上主義を振りかざす高慢と偏見に満ちた振る舞いであったため、ドイツ領邦連邦は彼女の軍籍を抹消、家族も国外追放にし、レイブンズの伝説の肯定者として振る舞っている。なお、在籍中はガランドをライバル視しており、ガランドからの忠告を無視していた。カールスラント空軍は彼女の存在が実質の足かせとなり、家族ごと彼女を切り捨てる事で政治的な保身を図った。しかし、それをドイツ叩きの材料にしたロシアの狡猾なプロパガンダにより、ドイツ連邦共和国が主導して、強引に人員削減と、ロシアによるスコア再精査を受け入れた。その再精査でカールスラント系部隊の士気は崩壊。44JV構成メンバーも、ドイツに媚び、薄情なカールスラントに尽くすことに嫌気が差しており、人材保全を図り、扶桑の山本五十六に接近していたガランドに賛同した。これが魔弾隊の結成の経緯だ。

「カールスラントに認めさせました、44JVの義勇兵としての採用も、政治が絡んでいます。人材保全のため、ガランド閣下は全員を扶桑に移住させたのですぞ」

「それが政治なのですか」

「海軍とて、今までは海軍大臣、これからは国防大臣を輩出してゆく以上は政治に無関心ではいられません。陸軍の暴走を止められなかった事が大日本帝国の破滅を招いたようにね」

志賀は大日本帝国という単語に反応し、青ざめる。扶桑とは比較が難しいが、世界の超大国を向こうに回した戦いで全てを失った『あり得る姿』という認識はあるようだった。

「私の時代の日本は帝国が破滅し、ゼロに等しい状態に戻されていたのを、金の力と国民の血と汗で立て直した経済大国です。少佐、その事をよくお考えになられるべきだ」

「……日本は我が国のありえたもう一つの姿。まさか、それを実感するとはな…」

本心を漏らした後、のび太に言う。

「……。先輩方には、申し訳なかったと。 それと、まさか…航空母艦があんな巨大に」

「500m以上の空母など、宇宙時代では当たり前です。空母のほうが人件費や護衛艦隊を揃える必要が生ずるので、むしろ金食い虫です。戦艦は自動化が進めば、最悪、無人でも理論上は大丈夫です。ですが、何事にもフェイルセーフというのは必要。1000人ほどは、三交代も考えて乗せなければなりません。」

「それで、64になぜ海軍系の人材や機材を」

「今年のウィッチ志願数をご存知で?」

「いえ…」

「20人も行けばよいほうです。そのカバーはどうしても必要なのです。志願数を集めるためのプロパガンダはやむを得ない。政治屋を納得させるための措置でもあります」

のび太の言葉に打ちのめされる志賀。のび太は日本出身の新華族。海軍にとっては第三者である。その分、真実味を帯びている。志賀に意図的に萎縮してもらう事で、海軍中堅層を抑える。それがのび太の取った妙策であった。青年時代以降はこうした政治的駆け引きも巧みになっており、会社で重役にまで登り詰めたのび助の才能を受け継いでいたことが分かる。志賀を萎縮させ、抑えに回らせ、和解に傾けさせること。海藤みなみ/キュアマーメイド(竹井醇子)がのび太に頼んでいた事であった。志賀は頑なである以外は善人であり、優秀な軍人。話せば分かるとし、のび太に頼んで、志賀を黒江や坂本と和解させる。それがのび太にキュアマーメイドが託した願いだった。遠回しに『海軍は信用ならん』と言われた衝撃もあり、志賀は初めて、自分が信じてきた気風や風土に疑念を抱き、この後、尊敬する赤松に諭された事もあり、急速に黒江たちとの和解の方向に傾いていくのだった。






――前線では、Gフォースの幹部自衛官の若手に21世紀時点での南斗水鳥拳の伝承者がいた幸運もあり、南斗聖拳の脅威を身を以て味わう事になった。南斗聖拳は気を纏った四肢で肉体を外部から破壊するのが主眼であるそのため、プリキュアのコスチュームを容易く貫く。プリキュア相手なので、手加減無用とされたその『彼』は南斗水鳥拳の華麗な動きで(加減は加えている)で舞う。組み手とは言え、実戦宛らの気迫であった。


『南斗水鳥拳・奥義/飛翔白麗!!」


彼は(上空へ舞い上がり、そのまま相手に向けて2つの手刀を一気に振り下ろす奥義)キュアドリームの両肩に手刀を振り下ろし、斬り裂く。加減は加えているものの、流血は必至。両肩を斬り裂かれた事で、ドリームは痛みで両腕の使用を封じられ、必殺技も出せなくなってしまう。

「あ、ああっ…!しまった、これじゃ、シューティングスターの態勢が……!」

「この技を食らって、戦いを続けられた者はいまだかつて存在しない」

加減は加えたものの、戦闘不能に追いやる程度には本気で奥義を放った。ドリームは痛みでその場から身動きがとれなくなった。次いで、ピーチが立ち向かうが、『飛燕流舞』(上空に舞い上がり真空波を放つ)を当てられ、コスチュームを皮膚ごと真空波で斬られて、地面に叩きつけられて昏倒してしまう。

「ピーチ!!……!」

なんとか腕を動かそうとするが、激痛が走るドリーム。激痛に顔をしかめつつも、なんとか立ち上がろうとする。

「これが本物の南斗水鳥拳……!?」

「ほう。統括官の言う通り、腕に覚えがあるのがいるようだな」

驚愕のあまりに固まるルージュ。ルージュを守らんと、立ち上がろうとするドリームだが、飛翔白麗の洗礼を受けた以上、傷が開いていく。案の定、無理に動かそうとして、流血している。

「そこまで!そこまで!無理に動かすな、すぐ処置すれば平気だが、下手に力入れると自分の力で傷が開くぞ」

黒江が止め、タイムふろしきのバンダナサイズで処置を行う。

「先輩、今のが……」

「漫画でユダに引導を渡した奥義『飛翔白麗』だ。致命傷にはならんのは、お前らがプリキュアだからだ」

「普通の状態ならやられてると…」

「ああ。お前、防御もとらんたぁ、見とれてただろ。ユダじゃあるまいし」

「う、う…」

「我が南斗水鳥拳は南斗随一の華麗さを持つ。見とれるのは分かるが、漫画のようにノーガードだと、まず致命傷だぞ」

「は、はぁい…」

がっくりと落ち込むドリーム。南斗水鳥拳の動きに見とれてしまったのを素直に認める。漫画でも、南斗紅鶴拳のユダは南斗水鳥拳の舞に見とれてしまい、思わず無防備になったところに飛翔白麗を受け、敗死している。それを謎ったようにノーガードで受けてしまったドリームは失敗を犯していると言えよう。

「さて、俺はピーチの処置をしてくる。残ってるガキどもを揉んでやれ」

「ハッ」

彼は黒江がピーチの処置に向かったのを見届けると、その華麗な足の動きで舞い、その日の組手に参加していたルージュとビート相手に優位に立ち回る。南斗水鳥拳は爪の引っ掻きすら鋭利な刃物の如き斬れ味で、手刀に至っては刀以上の斬れ味を持つ。迂闊に近づけば、引っ掻きですら大ダメージは必至。それを漫画で知っているルージュは必殺技で対抗する。

「プリキュア・ルージュ・バーニング!!」

掌から炎の渦を繰り出すが、彼は手刀で衝撃波を起こし、容易く炎を切り裂いてしまう。

「炎を斬り裂いたぁ!?嘘でしょ!?」

「フッ。南斗水鳥拳の真髄は脚さばき、手技や真空波による攻撃にある。私はそれを極めた者だ。炎などは意味をなさん」

「なら、プリキュア・ハートフルビートロック!!」

ビートは武器も音楽に由来するモノなので、ギタータイプである。ギターのボディをネック方向にスライドさせ、変形、ライフルのように構えて、弦をトリガーのように引く事でエネルギー波を放つのだが、これも切り裂かれる。

「何ぃ――っ!?エネルギーも斬り裂いたぁ!?バケモノか!?」

「面白い方法だが、その程度のエネルギーなど、避けるまでもない」

南斗水鳥拳の使い手は手刀を得意とし、その斬撃は金属も切り裂く。全てで上回るのは黒江のエクスカリバー(手刀)のみだ。

「私を上回るのは、速度で南斗鳳凰拳、全てで上回るのは統括官のお持ちになられる聖剣だけだ」

黒江の聖剣が如何に強力であるか。異能生存体以外なら、神でも屠れる手刀。のび太とゴルゴはその存在そのものの力で北斗神拳からでも生き残れるため、絶対に殺せない。ちなみに彼、黒江とは、黒江が通常部隊に属していた頃に出会っており、いつかは不明だが、組手をやり、最終的に黒江が聖剣で飛翔白麗を打ち破った。それ以来、彼は黒江に心酔している。もっとも、黒江は左手のエアを隠しており、その使用は後のプリキュア大決戦の時、完全に無視されて怒った『ボトム』を空間ごと派手に斬り裂いて屠る時が実戦での本格使用例だ。その時はシャイニングドリームの姿であるため、天使のようなその姿と、エア使用時の悪魔的笑みとが重なり、事情を知らぬブラック達を絶句させている。(特に、悪魔のように微笑い、『死すら拝せん〜』の下りを言い放つ姿は事情を知らぬプリキュアを絶句させたという)


「綾香と人外合戦してるんじゃないの!ったく…」

「君とて、元はセイレーンだろ、猫だし」

「む、昔の話よ!」

ビートは元をたどれば、妖精『セイレーン』が人間に化けていた際の人間体が本来の姿になった転生タイプのプリキュアで、敵幹部がプリキュアに転じた二例目に当たる。同じようなポジションのパッションと組んだ事もある。他の転生先が織斑千冬、クラン・クランと人外級の人物が揃っており、現世はクラン・クランである。

「ったく、あの時から妙に人外キャラに縁があるのか、織斑千冬を経由して、今はクラン・クランなんだけど!」

「君も人外キャラに縁があるな…。」

「あんた、妙な転生ねぇ」

「マーチが転生した先の世界の織斑千冬とは別だけど、アドバイスしておいたわ。過去の自分でもあるし、千冬の事は全部分かるもの」

織斑千冬対処マニュアル。それを用意したビートはマーチ(ラウラ)に渡していた。もちろん、織斑一夏の事も対処は可能で、千冬のふりをして、諌めた事もある。圭子はやさぐれているため、千冬と微妙に声色が違うが、ビートはクラン・クランの時の声色ならば、千冬と瓜二つである。それを利用して、マーチに連絡を入れてきた織斑一夏を撃退した事がある。その時にマーチは爆笑しているが、このような会話だったという。

「ラウラ、なんで戻ってこないんだよ」

「一夏、私だ」

「ち、千冬姉!?」

「ボーデヴィッヒにも事情があるのだ、察してやれ。何か動きがあれば、私がボーデヴィッヒに確認を取る。いいな?」

「あ、ああ…。あれ?なんで千冬姉が?」

「閣下らとの今後の打ち合わせのために赴いた。私は責任者でもあるからな」

キュアビートはウィッチ世界に赴くにあたり、野比家を経由している。その時に織斑一夏から連絡があり、誤魔化すためにビートは一芝居を打ったのだ。

「詮索は無用だ。機密保持のため、記憶操作もされるから、帰って来ても、このことは聞くな。いいな」

「記憶の操作?消すってことか?」

「その部分だけをな。軍事行動というのは色々と抵触するものだぞ」

口実をでっち上げる。マーチ(ラウラ)はビートが織斑千冬を経由して転生している事に狂喜乱舞しているが、好きで経由はしていない。色々とややこしい関係なので、マーチとは持たれ持たれつになるだろう。ある意味では『本人』なので、口調などに差異はなく、一夏はなんら疑問を持たない。

「私が帰って来ても、詮索するな。記憶が無いわけだから、答えるに答えられん。こちらからも以後の連絡はできん。分かったな?切るぞ」

受話器を置くビート。

「これで、一夏からの連絡は断った。別個体とはいえ、相変わらずね。ここまで連絡を入れてくるなんて、驚いたわ。私が応対するしかないわね」

…と、いうものである。野比家に立ち寄っていた日にかかってきたため、キュアビートが織斑千冬のふりをして応対し、黙らせた。マーチとの関係がややこしいことになった事に苦笑いだが、ともかくも、織斑一夏は千冬に言われれば、それ以上は詮索しない。キュアビートとしては前世での弟(正確には同時期に製作された量産型クローンだが、公には弟とした)と会話するとは思ってなかったのか、苦笑いだ。




――話は戻って――

「――で、あんた、傭兵なの?」

「元はね。属してた民間軍事会社の部隊が正規軍に組み込まれたから、今は正規軍人よ。民間軍事会社に規制が入ったのよ、23世紀で。その関係で、大規模に部隊を持つ民間軍事会社の最精鋭は正規軍に組み込まれたのよ」

ルージュに言うビート。民間軍事会社の強大化はいつの時代も国防系の政治家には嫌われ者であるため、扶桑の海援隊の存在が問題視された。23世紀のケースでは、S.M.Sやケイオスなどの大企業に成長を遂げた民間軍事会社(元は正規軍が解体されそうな時代に、警備会社か事業という名目で急成長を遂げた企業達だが、正規軍がなんだかんだで存続したため、人材引き抜きが問題視されるようになった。連邦空軍の高官が問題を起こしたため、各民間軍事会社の最精鋭を予備部隊という形で組み込んだ)が規制の対象にされ、規制を逃れるため、各民間軍事会社は『最精鋭を軍の予備役部隊として提供する』という取引を行ったのだ。

「扶桑の民間軍事会社の海援隊が法的問題との兼ね合いで軍組織に組み込まれたけど、いつの時代も傭兵って嫌われ者なのよ。民間軍事会社が社会的に認知されている23世紀でも取引が行われるくらいだから、21世紀じゃ、ねぇ」

「21世紀の時点では民間軍事会社は黎明期だから、仕方がない。それに、日本では自衛隊にすら誹りがあるのだ。民間軍事会社など、金儲けのために人を殺す、ならず者の集団と見られる。海保の長官が坂本龍馬の孫に当たる責任者を殴打しようとして、懲戒免職処分になった事件が報じられ、日本では有事の再役招集を回避させろという話になったしな」

海援隊は初代三笠を取られ、手違いで薩摩も解体されてしまった上、日本から官民の圧力がかかり、一時は解体も検討された。だが、日系国家の太平洋共和国の懇願もあり、国営組織化で妥協された。その際に海軍の攻撃一辺倒が批判されたため、海援隊の実働部門は扶桑海軍の海上護衛総隊に事実上、組み込まれ、太平洋共和国の防衛は同隊の仕事になった。海軍そのものも『艦隊決戦偏重』と批判を受け、伊号潜水艦の多くを改修させていた。ウィッチ世界では人員、物資輸送に使用されていたため、パニックは大きかった。自衛隊の数世代前の潜水艦を代替に生産する事は始められたが、日本側に『うずしお型潜水艦、ゆうしお型潜水艦を製造可能な水準にも達していない』と侮られたが、扶桑がほぼ現用であるおやしお型潜水艦を製造してしまったため、防衛官僚は腰を抜かす羽目となった。扶桑は資材さえ提供されれば、日本帝国と違い、規格統一が進みつつあった国であるため、21世紀の現用兵器も造れる。扶桑が見せた意地は、21世紀基準の兵器の製造と、地球連邦軍によるブーストがかけられたとは言え、40年代の段階で極小集積回路の自主制作に目処が立っていたところだろう。

「そういえば、そんなニュースがあったっけ」

「あれで太平洋共和国に迷惑かけたから、金剛型戦艦の生き残りを海援隊に流す事になったんだ。解体予定だったのにストップがかかった後、宙に浮いてたしな」

「ピーチの処置、終わったんですね」

「終えてきた。世の中は広いってこった。日本は下調べをロクにしなくなった。インターネット時代の悪癖だよ。昔だったら、現地調査するんだがね」

「海援隊が坂本龍馬の作った組織で、その子孫が民間軍事会社に仕上げたものと知った途端、海保の醜態ぶり。笑えるくらいでしたよ、統括官」

「ま、21世紀の連中は戦艦の何たるかをわかっちゃいない。大口径をロマンと言うが、小さい砲を闇雲に積むより、大口径を少数の方が単位時間ダメージはいいんだがね」

「金剛級程度の砲など、40年代にあっては、戦艦には豆鉄砲。巡洋艦がいるのに、戦艦に口径が小さい砲を積んでも意味はないというのに」

「戦艦は艦砲射撃と対艦攻撃用に特化した船だからな。よく言われるが、イギリス戦艦は植民地支配の示威用の船で、敵艦との殴り合いは考えてないという。ブリタニア海軍が聞いたら、斧で殴り込まれるぞ」

「英国が40cmを積まなかったのは、設計と条約のためでしたからな」

「そうだ。扶桑が条約に加わるのをやめてまで、46cmに走ったのは実用上の理由だし、51cm砲も、モンタナが45口径46cmに耐えられるからだ」

「それを理解できるものなど、一般人にはいないでしょうね」

「今度の巡洋戦艦も60口径41cmらしいが、そこまで行くと、アイオワと変わらんというのにな」

「キングジョージを欠陥と言われて、先方は怒り心頭の模様です」

「そりゃそうだろ。一応、竣工から10年は経ってない新しい年式の戦艦をネルソンより弱いと言われればな。アメリカがデカイもんを造る本当の理由は自分のマッチョイズムで抜くためなんだがね。大和が263mとわかったら、280mにしたし、ラ級は400m近いぞ」

「一部の評論家は安定性が中途半端で作らないと宣っていましたが、回収されたラ級『モンタナ』の残骸を検分した官僚は腰を抜かしたそうです」

「あれこそ、アメリカン・マッチョイズムの極地だ。ドリルを二個も付ける意味あんの?それに、空中での全力射撃で横転する程度の安定性とは、お笑い草だ」

「私の防大時代の悪友によると、ドリル二個はレシプロの双発と同じトルク反発の打ち消しだそうです。ただ、空中での全力射撃の反動をに耐えられるほどの空中安定性は確保出来なかった。リバティー号の叩き台故でしょうな」

「起死回生の超兵器として必死に設計したラ號、ひいては大和型戦艦の安定性が証明されたということか」

「あの、ラ號って」

「旧日本海軍最後の大戦艦にして、超大和型戦艦二番艦、大和型戦艦五番艦。起死回生の超兵器になるはずだったドリル戦艦だよ」

「日本海軍にそんな余裕が?」

「松代に残されていた資料によると、開戦時のデッドストックや他の船用の資材をちょろまかして、パーツ完成の状態にまで持っていったが、当然、間に合わずじまいのものだ。戦後に有志が完成させて秘匿していたものだよ」

「大和の姉妹艦をそんな、プラモ感覚で」

「日本海軍は大和の姉妹艦で試したんだよ。プラモみたいに組み立てられる構造を。後世でいうモジュール構造だな。戦後に完成させても、時代ごとに装備を更新出来たのは、そのためだ。お、噂をすれば」

駐屯地の上空を通り過ぎていくラ號。近代化改修で主動力を波動エンジンに変えられ、装備もアンドロメダ級用のモノなどが流用されているが、大和型戦艦の面影を姉妹艦でもっとも濃く残す。艦橋からマスト付近は大和型戦艦のそのデザインを機能は別としても引き継いでおり、外観上は大和型戦艦そのままだ。

「嘘、戦艦大和がドリルつけて、空飛んでる……」

「あれがラ號。日本最後の大戦艦にして、宇宙戦艦ヤマトの血族だ。外観は第二次世界大戦の頃とそんなにかわらんが、中身は宇宙戦艦ヤマトだ」

「って!どんだけ弄ってるんですかぁ!」

「ルージュ、お前、ドリームの言う通り、自動ツッコミ機だな」

「なんですかそれー!ドリーム、何をこの人に教えたのよ―!」

「いやあ、ありのままを〜…」

ルージュのツッコミ属性は歴代プリキュアでも希少で、ミルキィローズはハイスペックドジ、他のツッコミ属性持ちキャラもりんには及ばないため、未だにルージュが不動の地位である。知性が売りのアクアも天然ボケの毛があるため、ルージュは貴重な常識人である。歴代が尽くボケ担当なため、常識人ポジに足を踏み入れつつある北条響(シャーリー)と意気投合している。

「ったく、響が最近はこっち寄りで助かるわ…」

「紅月カレンの要素だと思うわよ、それ。割に沸点低いし、口悪いし」

「あいつ、紅月カレンの要素が色濃いかんな。バイク好きで、機動兵器を乗りこなす、接近戦好き、輻射波動大好きと来てる」

「昔より頭いいもんねー。昔はわたしと似たりよったりな……」

「今度、バーチカルギロチンとか覚えさせよう」

「ウルトラマンじゃないですか」

「ドリーム、お前はストリウム光線とコスモミラクル光線だな」

「スペースQじゃないんですか?」

「あれはキュアハートにでも覚えさせる。スワローキックとか、ダイナマイトとかお前向きだろ」

「あの、あたしは?」

「あ、ピーチ。お前はウルトラマンレオ系統の技でも極めろ」

「なんで、あたしだけ獅子座なんですかー!」

「だって、お前。ガチで武闘派やん」

「子供の頃、ファイブイエローに憧れてたのにー!」

「お前、戦い方が戦隊で言えばレッド寄りなんだから、諦めろ」

「うわ〜ん!!」

キュアピーチ/桃園ラブは子供の頃、地球戦隊ファイブマンのファイブイエロー/星川レミに憧れていたと公言しており、子供の頃にヒーローになりたいと思っていた子供が後年にヒーロー/ヒロインになった例の一つになった。ちなみに、戦隊でそのケースに該当するのは、光戦隊マスクマンのレッドマスク/タケルで、子供の頃にキカイダー/ジローに助けられた事がきっかけで、成人後に光戦隊のリーダーになっている。このように、ヒーローの世界は意外に狭いのだ。

「でも、嬉しかったんですよ。あたし、ダンス始めるまでは運動神経も月並みで、護身術は自己流でてんで駄目って言われてたし。プリキュアになれて嬉しかった。実は噂くらいには聞いてたし、プリキュア5以前のプリキュアの活躍」


「え、本当?ピーチ」

「うん。特にプリキュア5は戦ってた期間がブラック達に匹敵するでしょ?その分、噂がね」

「うっそー!?」

「ま、助けられた人達が他の町に引っ越していけばな。お前らは初代から離れていない時代に現役だったんだ。そういうのはあると思うぜ」

「そっか、口コミは自然と広がるから…」

「第二期まではほぼ同世代だったんだ。第三期はともかく、第二期までは共闘する可能性が大きかったと考えるべきだな」

「そう考えると、年取った気がするわ」

「仕方ないさ。2019年にもなりゃ、ハピネスチャージプリキュアやドキドキプリキュアだって『昔のプリキュア』扱いなんだ。第一期プリキュアのお前らはなぁ」

「ぐぬぬ、2000年代後半なのにー!」

「そりゃあ10年たちゃあな、ドリーム」

「現役時代は人気あったつもりですよー!」

「「昔は十年一昔なんて言ってたが、今や五年一昔だからな」

「統括官も苦労なされているようで」

「まーな。ガキどものお守りも大変だよ。俺はこれからハルトマンとの約束があるんだよ。小遣い稼ぎ」

「先輩、まだ続けてるんですか」

「まーな。今月は月賦で大変なんだよ」

「小遣い稼ぎ?」

「ブロマイドを捌いてんのよ、俺とハルトマン。今月はシンフォギア姿での注文が増えてるから、調のギアを借りてる」

「って、その場で展開するんですね」

「俺は聖詠無しで使えるし、顔は調のものを借りてるから、変える必要もないからな。綾波レイの姿で結構撮ってるが、売れ筋でな」

「綾香、ノリいいのよ。部隊の運営費用の調達の手段ね。フェリーチェもやってるわよ」

「最近はわたしも手伝わされてるんだよね」

「お前は30代と20後半の若手に売れるんだよ、ドリーム」

「あの、あたしも手伝っていいですか」

「お前、エゴサしたろ。ルージュ」

「はい…実は」

「後からこい。時間かかるしな」

「あれ、先輩が使う時、調ちゃんは?」

「聖衣かクラスカードだよ。俺と共鳴したおかげでセイバーに適正が出来たらしくてな」

黒江はシュルシャガナのギアを気安く纏う。風鳴翼からはぶーたれられているが、黒江はシンフォギア世界の法律とは関係がない身。好きに使える。調自身もクラスカードと聖衣を使い分ける形に変貌しているため、シンフォギアは割に貸し借りする道具である。そういう黒江は調とほぼ瓜二つの姿になっている。入れ替わっていた時期と違い、瞳の色は調と同じになっているが。

「ギアは周辺保護目的でしか使わないんだよな、正直」

「先輩はチートだから…」

「お前らだって、第三期よりチート要素持ってるだろ。ドリームとビートはついてこい」

「これもVF-22のパーツをグレードアップするため…。行ってくるわ」

ビートはVF-22のF型(少数生産された一般機)を調達にしていたが、元が一般部隊用に配備が予定されていた仕様なので、S型にはあらゆる面で劣る。S型相当にグレードアップしたいらしい。黒江、ドリーム、ビートはフェリーチェがしている『ブロマイド作成』に向かった。


――駐屯地――

「バルキリーが横目に映る位置だよ、フェリーチェ。…うん、そうそう」

地上に駐機しているVF-19とフェリーチェの組み合わせ。ハルトマンの目指す方向性は『メカと萌えの自然な両立』。黒江に『綾波レイのプラグスーツ姿でモスピーダに寄りかからせる』などのアイデアはハルトマンが出処で、ブロマイドの構図作りはハルトマンが担当している。また、ハルトマンは『プリキュアとミリタリーの親和性はどうか』という思考実験もしており、フェリーチェやドリームを使って、試している。最近では、自衛隊の74式戦車とフェリーチェの組み合わせは意外に親和性があり、Gフォースの隊員垂涎の一品と名高い。ドリームは機体の老朽化で展示品扱いになったF-4EJ改と写る一枚が初のもので、ハルトマンの『プリキュア・ミリタリーシリーズ』の第一弾に位置づけられる。Gフォース隊員は皆がプリキュアの熱心なファンであり、黒江の部下として、プリキュア達が現れたという報が伝わった際には歓喜の雄叫びを挙げたという。(特に、フェリーチェはのび太と20年過ごしたおかげもあり、アニメが放映される前から有名で、ファンも多い)Gフォース隊員は自衛隊の特別編成の精鋭部隊であるが、プリキュアファンの巣窟の側面もあり、黒江はそれを知った後、乾いた笑いが出たという。

「んじゃ、そこで行軍訓練中のジェガン部隊にも協力願おう」

ハルトマンはたまたま訓練中の地球連邦軍のジェガンの中隊も巻き込んで、ブロマイド撮影に勤しむ。ジェガン部隊の得物がたまたま訓練用の実体弾ライフルだった幸運もあり、ミリタリー感を醸し出している。ジェガン部隊は欧州での戦いのため、旧NATO迷彩を施していたためもあり、素人目にもミリタリー感がある。ジェガンは23世紀初頭時点では旧式機種だが、堅牢性が評価されている事から、まだまだ多くが残存している。標準サイズ故に一年戦争以来の実体弾武装が使える利点が大きい。

「そこのジェガンさーん。一列に並んでー。そうそう。閲兵式みたいにー」

ジェガンは宇宙軍標準の緑が有名だが、迷彩も配備地域ごとに定められており、欧州ではかつての戦車の迷彩が引き継がれている。地球連邦軍では儀礼目的に小型MSはあまり使わず、大型機を閲兵式などでの示威目的に動員し続けている。特に見かけが強そうなジムVとジェガンは重宝されている。また、堅牢性から訓練機としても重宝されており、こうした訓練も当たり前である。(当然だが、儀仗部隊は様々な機種を持っておりお、都市部ではバトロイドや小型機も使う)

『こうかーい』

ビシッと決めるジェガン部隊。15機ほどの中隊で、MSが装甲戦闘車両と戦闘機と歩兵の要素を併せ持つ事の表れであるが、21世紀の戦車部隊と同じ数であるので、標準的だ。。ライフルを構えるジェガンが並び立つ中を歩いていくフェリーチェを遠くから捉えるアングルから撮影する。ジェガン部隊のミリタリー然とした姿と不釣り合いなようなプリキュアの姿だが、MSという未来兵器の醸し出す未来感が駐屯地の臨時で建てられるプレハブ感とのアンバランスさを強調している。こうした戦場での遊び心たっぷりのスナップが日本に伝わると、一部からクレームがついたが、自衛官としての職務に正式に就いているので、法的問題はない。また、広報にうってつけな構図から、自衛隊統合幕僚監部からの直電がハルトマンのもとに舞い込む様になったという。



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