外伝その370『扶桑の不穏2』


――結局、日本側の歴史と異なり、戦艦は弾除けと艦砲射撃用で必要とされていたため、ブリタニアは未だ多数を有していたが、空母機動部隊整備に邪魔とみなされ、旧式艦は多くがコモンウェルスへ売却か、空母改装の道を辿った。だが、財政の問題もあり、戦艦を売払ってすぐに空母を造れるわけではなく、史実にはない『ダイヤモンド級大型巡洋艦』は大半が新造艦が失われた場合のとっさの予備として、当面は多くが維持されることとなった。(1910年代に建造された金剛型のコピー。ブリタニアが設計図をもとに作り上げていた)日本連邦が最強の戦艦部隊を有したが、面子的にも、政治的にも、実務的にも戦艦の全廃はできないからだ。日本も『核兵器に注ぎ込まれるはずの金が別のことに使われるのであれば…』という事で、列強国の戦艦の近代化に資金援助を行う。怪異への有効性に疑問が持たれた核兵器はウィッチ世界では未来世界の『反応弾』を入手する以外の自主開発は下火になり、扶桑が隕石破砕用という名目で極秘裏に細々と研究するに留まる。各国は軍備の高度化による維持費増大に慄き、ウィッチ装備の自主開発を放棄する国も出るに至る。そのため、扶桑はウィッチの運用能力維持も行う必要が生じ、Gウィッチを中心にした運用体制に移行していく。世代交代が停滞した以上は仕方がない事であり、この停滞こそが扶桑ウィッチ界に『ある種のタブー』を築く事となった。本来であれば、時期的に新たな世代が引き継ぐはずの仕事を『事変〜大戦初期世代』に背負わしたからだ。反G閥の壊滅とGウィッチの社会的地位の確立はダイ・アナザー・デイでの血の献身から始まっていた――







――世代交代が色々な理由で停滞しつつあることから、Gウィッチの擁護をし、その地位を確立することで教育体制の変革の完了による新世代の登場を待つ事になった。それまでの意識から変革しなければ、これからの戦場は戦えない。それは戦場にいる者全ての共通認識であった――





――休暇に入ったドリーム達。変身はなるべく解かずに日常生活を送る訓練を課されたため、風呂とトイレ以外は変身を維持している。これは野比家滞在中の三人にも当てはまる。ドリームは錦が築いていた人間関係を引き継いだ関係で、黒江を『先輩』と呼ぶ。錦は士官学校で黒江の後輩だったからだ。菅野のことは『直枝』、もしくは『ナオ』と呼ぶように、年下は名前呼びだが、戦友である宮藤芳佳/星空みゆきのことは状況に応じて呼び方を使い分けているし、同室であり、同年代かつ戦友の北条響/シャーリーのことは『響』と『シャーリー』を使い分けているなど、意外に人間関係は複雑であった。――

「最近、上がやたらびびってるけど、なんでですか、先輩?」

「上が史実で見込み違いして、多大な損害を強いた事が伝わってるからさ。沖縄への十・十空襲とかその典型だしな。防空網が飛躍的に進歩し始めたのは事実だが、上を責めても、そいつ自体は無罪なんだし、言いがかりに近いだろ?だから、上がブルってるんだ。ハルゼーのおっさんも愚痴ってた。日本には言葉で軍人を精神的にぶちのめして優越感を得たい連中が多いしな」

「やれやれ。それじゃ誤認も起きるはずだぜ」

「この時代の扶桑のレーダーは敵味方識別装置もついてない初期のモデルが使われてたしな。ウィッチの探知魔法は怪異は探知できるが、ジェット戦闘機、特にステルス機は誤認しやすい。低視認性塗装も良し悪しだぜ」

「21世紀の専門家からは、ステルス性を犠牲にしてまでノーズアートを進めるのに疑問を呈する声があがってますけど、敵味方識別装置をウィッチは持たないですからね」

フェリーチェも言う。


「M粒子がある以上、有視界戦が当たり前だからな。パッシブステルスはあまり意味がなくなる。それに混戦になると、若い連中が誤認しちまう可能性が高い。だから議論されてるんだよ」

「味方が誤認するったって、若い連中、第五世代機をどうやったら間違うんだよ。ガキでもわかんぞ?」

「翼の形とかだよ。胴体も扁平だろ?あれを怪異と思って接近して、尾翼の標識とか見て気づいたそうだ。中には撃っちまってから気づいたアホもいるそうだ」

「嘘だろ」

「第四世代までと違って、第五世代機は飛行機らしい形から離れ気味だ。若い連中が泡食うのは無理もねぇさ。今、ケイが他部隊の幹部相手に講義してるぜ」

64Fは教導部隊の側面もあるため、圭子は口は悪いが、講義に関してはきちんと行う。戦闘機の歴史を他部隊に教え込む。模型も使い、形状を説明しているという。この時はさすがに素の容姿を使うが、目つきは悪く、口も悪い。そのため、戦間期の穏やかな姿しか知らぬ者は衝撃を受ける。

「ケイ先輩、講義できるんですか?」

「あいつは口は悪いが、教官の誘い自体はあったから大丈夫だよ。座学の成績が意外にいいんだよな、あいつ。簡易戦況モニタでも持たせるかな、ガキ共に」

「それしかないですよね。同士討ちやりそうになったケース多いっていうし」

黒江の言う通り、圭子は口の荒さで名を馳せた一方、前史以前の振る舞いの名残りで、意外に講師としての才能があり、64結成前の時期には明野の教諭の誘いが本当にあった。(明野に未だ在籍中の圭子の同期が止めたらしいが)アフリカ失陥後はそうなる可能性もあったが、圭子の同期達がそれを止め、64Fに予定通りに圭子は配属された。(陸軍最悪の荒くれ者で通ったため、その伝染を恐れた同期らが止めたと伝わる)

「え、本当ですか?」

「あいつは元々は教官になるつもりだったしな。それに、広報部で働いてたから、ああ見えて、ポーカーフェイスできるんだ。口を開きゃ、あぶねー事しか言わねぇ癖に」

「ケイさん、将軍たちからかなり、金巻き上げてるみたいですからね」

「ケイ先輩、口悪いからなー」

「昔はむしろ大人しかったよ。むしろ、あらあら系のお姉さんだったんだけどなぁ、ケイ」

「それがどうして、あんなガンクレイジー系に?」

「ボクからはなんとも言えないよ。本人も今は素でそうなったとか言ってるからね。元は気分転換のロールプレイだったみたいだけど」

ミューズはぶっちゃける。圭子も流石に転生を繰り返す内に『物分りの良い優しいお姉さん』として振る舞うのに嫌気が差し、不死性をゲッター線の使者として手に入れた後は現在のガンクレイジーで通すようになった。かなりいい加減だが、圭子としてもマルセイユの面倒のみならず、黒江と智子の面倒も見続ける内に、自分も心機一転したいと考えたのだろう。意外な事に、言うこと自体は真っ当なため、わざと過激なように言い回しを変えている節もある。また、前史以前と違い、口にタバコ型の去痰薬を咥え、それらしく見せている事も原因だろう。

「うっそー!」

「ま、のび太だって、自分で大長編ドラえもん補正ってネタにしてるけど、実際は潜在能力の開放に近いのさ。元々、ピンチになった時のののび太はブーストがかかるから、ジャイアンとスネ夫から逃げられてたじゃん?それに、ドリームやハッピーも、現役時代の普段はのび太の子供時代に近かったからね」

ミューズは生前と違って、英霊『アストルフォ』の変身体としての要素を持つため、飄々とした側面がある。かつてと違い、『姫』ではなく『騎士』が職分なので、ランクはある意味下がっているが、英霊としてのカテゴリがライダーであるため、騎乗スキルを高いレベルで持つ他、総合的には戦闘能力は向上している。アストルフォの姿では理性が飛ぶため、最近はキュアミューズの姿を保っている。また、キュアハッピー/星空みゆき/角谷杏/宮藤芳佳とは馬が合うらしい。キュアハッピーの気質が生前と変化したためだろう。

「お、いいこと聞いた」

「ナぁ〜オ?」

「そう、目くじらを立てんなって。宮藤が教えてくれたんだよ」

「あんにゃろ〜!後でシューティングスターかましてやる〜!」

立腹のドリームだが、芳佳は今回、角谷杏の人格も混ざっているためか、自分を含めたプリキュアの映像などを自衛隊の幹部自衛官相手に売りさばくなど、商売上手なところがある。ハッピー自身も星空みゆきとしては赤点ギリギリを這う程度の成績だったが、角谷杏としては生徒会長であり、成績優秀者であった。今は後者の要素が強いため、ドリームは遊ばれている感が否めない。

「ハハハ、一本とられたな、ドリーム?」

「ぐぬぬ…」

「先輩、どうして素の姿で行動しないんです?」

「俺は顔バレしまくって有名人だから、裏で動くのに不都合が多いんだ。東郷やのび太は顔バレしても問題ないが、俺は警戒されちまうんだ。だから、調の姿で動いてるんだ。敵も油断するし」

のび太と東郷は顔バレする事で相手を怯えさせるのも目的に含まれるが、黒江はウィッチ世界ではアムロ・レイ級の有名人であるため、プライベートを楽しめない場合が多い上、非合法の仕事をする時にも不都合がある。そこで調の姿を使っているのだ。調も意図的に、シンフォギアチームとはあまり顔は合わせないようにしているため、シンフォギアを黒江に貸している。また、調のあどけない容姿は色々と使えるため、なんだかんだで活用している。『誹謗中傷にあるが、容姿を変えることは惰弱の証ではなく、プリキュアやヒーローもしている事である』。(相田マナ/キュアハートや東せつな/キュアパッションのように、元の原型がないほど容姿の変わるケース、夢原のぞみ/キュアドリームのように変身後はロングヘアになる場合もある。北条響/キュアメロディのように、変身後はツインテールになる者もいる)この変化はプリキュア5以降の世代のプリキュアで顕著になっている。特に、キュアメロディやキュアハートは元の原型がないほど容姿が変化するため、黒江はまだ共通点があるほうだ。

「つべこべ文句つける奴もいるが、俺やケイは仕事の都合で姿を変えてるだけだ。スパイやル○ン三世がよく変装するだろ?あれをもっと進めただけだ。それに変装はボロが出るが、これだと、肉体的に変化させてるから、認証もすり抜ける。マスコミ連中やうるさい左寄りの連中からの追跡を逃れられる。おりゃ、2000年代後半は追いまくられてたしな」

「そういえば、あの頃は訴訟起こされまくってましたね?」

フェリーチェは2000年代後半、黒江が苦労していた時期にのび太の命で、土日は黒江とともに行動し、裁判所にも足を運んでいたため、黒江の苦労を知っている。訴訟の理由も呆れ果てるものが多かったからだ。

「ああ。旧軍人だからってだけで起こされた事もあってな。公安が終わったと思ったら、訴訟問題だぜ?だから、素の姿は使わなくなったんだ。盆に実家に帰省する時だけだ。それも親父とお袋が生きてる間だけだけど」

「先輩、公安とやりあったことが?」

「自衛官として任官間もない時に靖国行ったんだが、その時にマル自に目をつけられてな。2003年に返り討ちにしてやった事がある。向こうに手を出させてな。で、2005年にカミングアウトして公安を黙らせた。観閲式に勲章と記章をジャラジャラつけていったからなー」

「2003年の時、なんで公安警察が逮捕しに?」

「さーな。大方、俺を右翼かぶれと勘違いしたんだろうな、現場の警官が。で、若いヤツが血気に逸ったから、一発殴らせた後はノシてやった」

「その時、相手の骨、何本折りましたっけ?」

「肋骨二本、腕を一本だったかな?折るより、脱臼させた。タマを上げてやりたかったが、過剰防衛になるからな。自重したよ、フェリーチェ」

当時、公安警察は黒江をマークしていたが、2005年に黒江が身分をカミングアウトした事でやられ損になってしまい、その腹いせを行ったという話もある。2005年のカミングアウトは話題になり、黒江が金鵄勲章をつけていた事は国会で話題にされたが、すぐに野党が引っ込める事態になった。公式に身分を明かした後は勲章と記章の着用、帯刀も例外的に認められた。また、生年月日が大正後期であることは『扶桑での年齢を重視する』事で追求されなかった。また、黒江が歩兵科でなく、自由な気風がある航空兵科の将校である事も一助となった。『加藤隼戦闘隊のエースパイロット』という箔もあり、黒江は自衛隊で勤務を続ける事に実務上は問題がなくなった。自衛隊には、旧軍人の自衛官への転身は山程あるからだ。それ以後は無知な左翼系の人々や市民団体から訴訟されまくった。その時に隠居直前の老弁護士が弁護についたが、その弁護士が旧陸軍飛行戦隊のOBだったので、そこから黒江は戦友会のツテを得、義勇兵を確保したのだ。

「幸運なことに、弁護についたじーさまが陸軍飛行戦隊のOBだったんだよ。それで戦友会のツテを得て、今回の作戦に参加してもらったわけだ」

「それって、ものすごい偶然だよなー」

「ああ。それで義勇兵になってもらったじ〜様は大勢いるぞ。戦中に約束されてたはずの金鵄勲章はもらえるし、高額の年金ももらえるし」

義勇兵には戦中に金鵄勲章や武功章を授与されなかった者も多いが、そもそも、戦争末期の入隊で、訓練中に終戦を迎えた者も多い。自衛隊出身者はジェットやヘリに回されているため、旧軍人義勇兵はレシプロ戦闘機の担当である。空母搭乗員は色々な時代(戦中含め)の日本から連れてきた義勇兵で固められており、黒江が親しいのは、陸上では飛行244F出身者、5F出身者、4F出身者などだ。(64F出身者からは崇敬に近い)

「それで義勇兵を釣り上げたんですね」

「日本の金鵄勲章はつけると、左寄りに睨まれるが、うちのなら文句つけられない。それに戦前の頃の年金も存続してるしな」

金鵄勲章は正確にいえば、日本でも1986年頃、受賞者の老い先が短くなったと判断された後に佩用は解禁されたが、それはあまり知られていない。黒江のことで野党が言いそうになったのはそこだ。なんともしまりのつかない格好になった野党にしびれを切らした市民団体や個人が訴訟を起こしたのが、黒江の2000年代後半である。フェリーチェはそれを見てきているため、同情的だ。

「外国の軍人見ろ。リボンとメダルをジャラジャラつけてる。俺がつけただけで、現場じゃ喜ばれたもんだが。米軍との夜会とか」

黒江などの扶桑出身自衛官は扶桑で授与された従軍記章や勲章、善行章の佩用が認められているため、2000年代後半からの現場は助かっている。黒江も実際に勤務でそのような機会に巡り合ったが、メダルとリボンのおかげでなめられなかった。革新政党時代にはそれを変えさせようとしたので、交渉が停滞した面もある。ともかくも、黒江の存在は自衛隊の存在感を高めるのに一役買い、また、2011年の震災の際には当事者であったりする経緯もあり、日本での人気も高い。(当時はブルーインパルス在籍中であったため)政権交代後は将官として会食する機会もあるため、意外に空自の制服を着る機会は多い。そのため、黒江はなんだかんだで元の姿に戻っている事も多い。作戦中に黒江と圭子が容姿を変えているのは、防諜目的であったり、相手を油断させるため、諜報任務のためであり、けして素の姿を見せられないという惰弱な理由ではない。

「公の場じゃ、元の姿は使ってるが、今は作戦中だし、却って動きづらいし、おちおち出歩けねえし、警戒される。惰弱とか言われるがな。単にそれだけだ。前線の軍人ってのは諜報部員や暗殺屋とは違うからな」

「軍隊じゃ、作戦中は個性消して前線での指揮系統隠蔽とか常識だぜ?戦国時代より前の『やあやあ、我こそは〜』じゃねえぞ…」

「日本の一部はそこで止まってんだよ。俺なんて、それで苦労しまくった」

菅野が呆れ、黒江もため息だ。

「米軍は指揮官のヘルメットの階級章をとっくの昔に廃止してるし、日本だって、あさま山荘事件の時、指揮官が狙い撃ちされた記録があるんだぞ?ほんと、アホだよな」

「銃後が無知すぎても困るよな、本当に」

「本当だぜ。ベ○ばらのオスカルとかの時代の考えを近代戦に持ってこられてもな」

「たしかベトナム戦争だろ、完全に米軍からなくなったの」

「ああ。米国に演習しに行った時に会った退役軍人から話を聞いた。まったく、前線で戦ってるんだから、文句言うなよって奴だよ、素じゃ動けねぇんだよ、惰弱だのどうのいうのはアホの言うことだ。第一、のぞみだって、容姿は違うわけだし」

「英霊でもあるボクが言うのもなんだけどさ、容姿なんてどうでもいい事さ。ボクの素なんて、元は男の娘だったんだしさ」

「そうだよなー、昔はタマがついてたしな、お前」

笑い飛ばすミューズ。アストルフォは元々、れっきとした男性だったため、外見通りに女性になった事をネタにして楽しんでるからだ。そこへ。


「あ、ここにいたんだ」

「み〜ゆ〜きちゃ〜ん?」

「黒江さん、どうしたの、ドリームは」

「お前があれこれバラしまくったのにご立腹だそうだ」

「ああ〜。ふふん、それね〜」

芳佳は戦車道世界にいる角谷杏がインフルエンザで寝込んだため、事情を知る秋山優花里からの連絡を受け、代理で大洗女子学園生徒会長としての残務をすることになったため、杏の姿を取っている。大洗女子学園の制服に着替え済みであるので、ますます角谷杏そのものだ。

「お前、着替えるとさ、ますます会長だよなー」

「一応、本人ですから〜。美希ちゃんやマナちゃんと会ってきますよ。」

「ダージリンとエリカ、だろ?」

「そうなんだけど、人格は変わってますからね。ドリーム、うららちゃんに伝言は?」

「いつか、会おうって。それとみゆきちゃん、表に出よっか?」

「フフ、ドリーム。いいよ〜」

「止めないでいいんですか?」

「結果はすぐに分かるさ」

冷静な黒江。ややあって、ドリームの『プリキュアシューティングスター』の叫びと光が窓から見えるが、杏となった芳佳の片手のシールドがその流星を事も無げに弾き返す。ドリームのまとうエネルギーごと弾き返され、地面に大穴が開く。

「ほら、な。宮藤のシールドは当代最強だ。『本当の魔法』だから、ガングニールの効果の外らしく、前の模擬戦で、あいつのパンチを弾いてたからな」

芳佳のシールドは錬金術とは違う本当の意味での『魔法』で起こすものであるため、ポテンシャルの低下こそあるが、バリア貫通効果のあるガングニールの付加効果が発生せず、立花響のパンチを弾き返す。また、芳佳の強大な防御力はなのはの砲撃でも相殺可能なので、まさにウィッチ世界最強のシールド使いと言える。。

「嘘ぉ!?シューティングスターを弾かれた!?」

「残念だったね、ロゼッタの技よりも硬いからね、私のシールド。破れるのは聖剣だけさ」

ギャグじみている場面だが、ウィッチとして強大な力を持つ状態でプリキュア化したため、魔力値は64F最高無比を誇る芳佳。魔力値で言えば、レイブンズは平均値よりは良い程度。ドリームも錦の魔力値を引き継いだため、ほぼ同程度。純粋な魔力値で言うなら、芳佳が最強無比。時空管理局のエースたちに匹敵するポテンシャルである。

「宮藤のシールドを貫通するには、なのは達の同時攻撃か、あるいは聖剣が必要だ。並大抵の事じゃ揺らぎもせん。この世界最強の盾だからな、あいつは」

「並の戦艦を割れるビームを弾きますからね」

「魔力値はミラクルとマジカルを超えるかもな」

芳佳の魔力値はキュアミラクルとキュアマジカルを超えるだろうと目星をつける黒江。実際、なのはが何回かスターライトブレイカーを実験で撃ったものの、子供時代の全力では無理、現在のブラスター3でも破るに至らないという計測結果が出ている。これは記録に残る歴代の扶桑ウィッチでも最高硬度とされる。それをぶち破るには相当な火力がいるため、並大抵の力では不可能である。伊達にウィッチ世界最強の盾ではない。

「ドリームはまだまだ未熟だよ、色々とね。特に、剣はわたしが上だよ。智子さんの教え受けたからね。ムシバーンに勝ったくらいじゃねぇ。新選組とやりあえるくらいはほしいねー」

「ぐぬぬ…!学校の成績、中2ん時の私とそんなに変わんないくせにー!」

「角谷杏としては秀才だよ。生徒会長だし。ほんじゃ。軍医になる予定だしね、宮藤芳佳としてもさ」

「な、な、なっ……。う、うあああ、忘れてたぁー!」

「じゃーね♪」

「あ!勝ち逃げなんてずるい〜!」

「チッチッチッ、わたしゃ空の宮本武蔵と謳われてるからね、公には智子さんの弟子筋で通ってるしさ」

なんとなく飄々とした振る舞いであり、ドリームを膨れさせるが、憎めない。杏としての人柄だろう。また、空の武蔵の渾名を自慢する辺り、そこの部分は純粋な努力で得たからだろう。
宮藤芳佳としても、言語コミュニケーションになんら問題はなく、医学専攻なので、更に医学書を読める。そこが星空みゆきとしては凡人であっても、宮藤芳佳、角谷杏としては普段から非凡である。それを言うだけ言っていなくなった。と、そこでフェリーチェが大声を上げる。

「あー!思い出した!!」

「どうしたのさ、フェリーチェ。やぶから坊に」

怪訝そうにミューズが言う。フェリーチェは思い出した事を話す。

「綾香さん!重大な事を思い出しました!のび太は一回、本当に死んでます!えーと、ほら、夢幻三剣士の時!!」

「おーーー!!でかした!」

「へ…?」

「ミューズ、お前、夢幻三剣士見てねぇのか?思い出してみろ、あの時、のび太は……」

「あーーー!そういえば!!」

のび太は夢幻三剣士の冒険の際、本当に死んでいる。気ままに夢みる機の隠しボタンによる機能の『弊害』とも言うべきものであり、この夢と現実を入れ替える機能が道具の回収に繋がったとされる。のび太はその機能を使ったため、臨死体験を経験済みである。転生に抵抗がないのは、そのためだ。黒江達と出会う前のことだが、のび太の凛々しい部分が青年期以後に表に出たのは、脳裏に『ノビタニアンとしての経験や勇気』が残っていたからである。従って、のび太はその冒険以降、剣技もそれなりにこなせるはずなのだ。

「夢幻三剣士って、元ネタあるんですか?」

「そーだな。あると言えばあるな。菅野、フェリーチェに教えてやれ」

「アレクサンドル・デュマ・ペール、椿姫書いたヤツと同名だけど、親子でな。これはその親父が書いた『三銃士』だな。何度か映画にもなってる。フランス文学だな」

「ナオさん、詳しいですね」

「兵学校時代から、ガリア文学は好きで読んでたからな。正確には、それをモチーフにしたのが夢幻三剣士だな。のび太の奴、ジャイアンとスネ夫も最終決戦に数合わせで入れるべきだったとか冗談めかしてたな」

「そういえば、あの二人は珍しく、最終決戦にいなかったね、アヤカ?

「のび太曰く、『あの冒険は僕とカミさんのラブ・ロマンスだからね』らしいからな。その時に使った機械の影響が残ったから、のび太は転生に抵抗がないのさ」

のび太はその冒険の時に『妖霊大帝オドローム』に一度、殺害されている。気ままに夢見る機は単なるバーチャルリアリティではなかったため、そこがミソなのである。

「のび太は色々な冒険をしてきているから、現実主義者なんだよ。日本の一部の連中はそこを知らん。ま、あの世界、22世紀最終盤に崇高な目的で平和主義に転換しようとしたが、種族間の宇宙戦争が起こったんで、やむなく銃を取る事になるけどな。そして、30世紀にはイルミダスだ。その時にゲッターエンペラーが目覚める。そこまでに定期的に戦争の時代、大航海時代、退廃の時代が来て、人によってはおぞましいと喚くが、ゲッターエンペラーが宇宙制覇に動く時代が来る。ゲッターエンペラーの最終目的は高次元の存在を倒す事だからな」


黒江が言及する、究極にして最大最強のゲッターロボ。30世紀に生まれ、イルミダスを倒し、マゾーンと戦っている『真ゲッターロボと真ゲッタードラゴンの融合進化体』。神々が『神々も恐れる存在』と戦うために生まれることを運命づけた存在。進化の果てが『宇宙を食らう機械のバケモノでもいい』として生み出した究極のゲッターロボ。

「ゲッターエンペラーか?あれをおぞましいって言うけどさ、あれこそ生物の本能じゃない?」

「端的に言えばな。ゲッター究極の進化。生命は純粋になればなる程、より強大な宇宙を求めて宇宙を喰っていく。武蔵さんが隼人さんに、ケイが俺に言った言葉だ」

「ゲッターの意思、か…。私が力を失っても、生かされたのはゲッターの意思なのでしょうか」

「いや、お前自身の意思だよ。そうでなければ、ディケイドや鎧武が助けるものか。それはお前自身が願った事だ。お前が神の力を失う直前に願ったであろう、な」

フェリーチェはマジンガーZEROによって、大地母神になる因果と切り離されたため、同位体の数々から独立した存在になっている。権能は失ったものの、プリキュアとしての力は維持されている。公には『野比ことは』を名乗っているのは、大地母神の化身ではない、一人のプリキュアとしてやり直す決意も込めている。フェリーチェが現役時代より人間臭さを見せているのは、マザー・ラパーパの後継者ではない『花海ことは』として変身しているからだ。

「私自身の……」

「そうだ。ZEROは確かに、お前から多くを奪ったが、みらいとリコの手から離れ、正真正銘、自分の意思で生きる道を得たと思えばいい。マザー・ラパーパからの借り物じゃない、な」

ことは/フェリーチェはアイデンティティの多くを喪失したが、『のび太の力になりたい、守りたい』という気持ちを持つ事で立ち直り、現役時代と異なるプリキュア像を目指している。その目標が奇しくも、戦闘能力重視だった頃の第一期プリキュアの姿であった。また、元々はミラクルやマジカルとの連携で力を発揮するプリキュアだったため、攻撃技を持たない。それを補うため、様々な方策を試した。その成果がディケイドよろしく、歴代プリキュアの技を借りるか、まったく関連性のないところから持ってくることである。それがローリングサンダーであり、ライダーキックなり、ストナーサンシャインだ。むしろ、そちらのほうが物騒な技が多く、自身から多くを奪っていったZEROへの復讐心が強い事が分かる。また、シャインスパークも放つ事が可能であるため、却って強くなっている。また、黒江はフェリーチェにクラスカードをイリヤやクロから借りるように言っており、エクスカリバーやゲイ・ボルグを使っている。クラスカードは魔力がある者であれば、誰でも使用可能なため、黒江の魔力を継承した調、魔法使いであるフェリーチェのみならず、魔力を持つ他のプリキュアも使用可能である。(宝具の開放は多くの魔力を必要とするが)その内の一つはペリーヌが借りており、ペリーヌの人格でキュアスカーレットに変身した場合に使用している。ペリーヌの人格でキュアスカーレットになると、トワとして変身した場合に比べ、攻撃属性が雷に変わっていたりする。また、ペリーヌとトワでは言葉づかいが同じ傾向なので、どっちがメイン人格化しているかは観察力を要すると、みなみ/竹井の談。ペリーヌもトワの影響で、高飛車に振る舞うことは減っており、区別が難しい。ただし、日本で暮らしていたトワは納豆が食えるため、そこで見分けろと、みなみ/竹井は言う。子供でも分かるのはモードレッドで、プリキュアの姿でも粗野であるのと、アホ毛が跳ねるため、すぐに分かるという。(一人称もモードレッドがメイン人格だと、俺であるためもある)

「それと、のぞみのやつ、記憶が混濁すると言ってたろ?ありゃ、錦の意識が抵抗してるせいだ。錦の意識が辛うじて生きてて、統合に抵抗してるんだろう。だが、そのうち無くなるだろう」

「ハインリーケとアルトリアや、ルナマリアとジャンヌみたいにすんなりとはいかないだろうねぇ。錦にも挟持があるだろうから、今は激高すると、錦の粗野さが出るみたいだね」

「ああ。いちかとあおいが驚いて、俺に聞いてきたから、保留してるんだよ。まだ、なんともいえないしさ、ミューズ」

「それがいいさ。あの子達はまだ若いしね。それに、のぞみ自身も自分の闇と向き合うのを決意したばかりだ。これから少しづつ同化していくさ。ルーラーなんてさ、今はシン・アスカ君との新婚生活楽しんでて、世俗じみてきたしさ」

「シンの奴、責任とったからな。結婚式出たけど、ルーラーの奴、顔真っ赤でよ」

「ボクはまだ現界前だったから残念だよー。ネタつかめたのにさ」

「お前なぁ」

「ハッハッハ〜。ボクだって似たようなもんさ。プリキュアになることで理性は保てるしさ。楽しんでるよ、今の暮らし」

「ビートも似たようなもんか?」

「エレンの場合はクラン・クランだろ?で、織斑千冬を経由してるって言ってたから、マーチを助けてやったってさ」

「聞いたぜ。千冬の声であのボウズを誤魔化したって。つか、クラン・クランの大人ボイスだよなー」

「ケイがやるより真実味あるよ。過去生では本人だったし。ケイがやるとやさぐれててね」

「うむ。あいつも声は出せるらしいが、どうにもやさぐれてるしな。ま、今後はエレンに頼もうぜ。あのボウズは血気盛んな年頃だしな」

「その子、一輝に喧嘩うったって聞いたよ?」

「ああ。一輝が叙任式のために箒を迎えに来たときにな。思わず、閑古鳥が鳴いたよ。あの一輝に食い下がって、小僧扱いされたあげくにあしらわれたらしいぜ」

「一輝、まだ15じゃなかったっけ?」

「あの顔と声でミドルティーンなんて、誰が信じるか?」

フェニックス一輝。青銅聖闘士では最高の実力者とされ、次期獅子座の黄金聖闘士に指名されている。その彼だが、実は老け顔で、年齢は15歳である。黒江もそれを信じられなかったといい、一輝の弟の瞬曰く、『兄さんは苦労したから』との事で、そこはお茶を濁している。キュアミューズ(アストルフォ)も一輝の老け顔は信じられなかったようだ。瞬もフォローを半ば諦めているようだが、一輝当人はストイックなため、気にしていない。

「確かに。」

一同が頷くタイミングで、ものすごいため息と共にドリームが戻ってきた。シューティングスターをけんもほろろに弾かれたショックを隠せないようだ。

「嘘ぉ……シューティングスターが弾かれるなんてぇ〜…」


「宮藤のシールドはなのはの全力も防ぐんだから、お前に貫けるはずはねぇわな」

「えぇ〜〜!?」

「この世界最強の盾だから、あいつ。フルポテンシャルを出せないとは言え、ガングニールの一撃を防ぐほどだしな」

ガングニールの一撃を防ぐ盾。それはガングニールの盲点とも合致していた。ガングニールは真の意味での魔法を貫く槍ではないという点、シンフォギア世界とまったく関連性のない世界では『グングニルとロンギヌスは別々の宝具』という法則が働くという事だ。シュルシャガナも鋸ではなく炎剣としての姿を見せたように、ガングニールは依然として強力な攻撃だが、ロンギヌスと明確に区別されている事によって『発揮できるポテンシャルが下がっている、もしくは世界の法則に従って、性質が変質した』。それを認められなかった事も彼女が精神侵食を起こした一因だろう。

「あの子のこと、どうします?」

「あいつの親友の小日向未来に連絡は入れた。あいつを救えるのは、その子だけだ。沖田総司の人格を受け入れさせるとしても、その子の言葉でなければ、受け入れんだろうからな」

「どうなるんですかね」

「分からん。肉体を共有するのか、それとも、肉体が新しく造られるのか。見当もつかんよ。」

それは黒江も分からないが、黒江も小日向未来とは、調と入れ代わっていた際に、自身がノイズと米軍から助けた事があり、その後の生活でもサポートしてもらった事から、友人関係にあった。連絡を入れたところ、作戦が終わり次第、ウィッチ世界へ連れて行ってほしいといい、黒江も了承している。流石に彼女を戦闘の真っ只中にはおけないからだ。(正確には、彼女も神獣鏡の装者なのだが、あくまで非正規の装者である事、公式には失われた扱いのギアであり、いくら平行世界から別個体が回収されていたといえど、投入はできない)

「その子はどうも、ガングニールそのものに依存していた上、綾香さんを心の何処かで敵視してたみたいなのも、精神不安定の一因みたいでして」

「ああー……」

「俺もあの手合は苦手でな。調が離脱したのも分かる気がするぜ。表面的に社交的だが、自分の居場所を侵される危険があると、途端に敵意と拒絶反応を見せるからな。正直と言えば正直だが、なんと言おうか、接しにくいよ。なのはは叱っておいたが、俺も調も困ってるから、大人切歌に取り次ぎを頼んでる」

「なんて言おうか、お疲れ様です」

「まったくだ。しかし、大人切歌のおかげで、どうにかあいつらとの関係は改善されつつある。良かったよ、関係が悪化するのは、こっちとしても望んではいないしな」

黒江は調が出奔した経緯上、立花響との関係はあまり良くない。だが、小日向未来が間を取り持ち、どうにか破綻を来さなかった。響は引っ込みがつかず、黒江に一年間の演技を強いた事に気まずさを感じているが、自身の『綾香さんが来たせいで、調ちゃんと切歌ちゃんの絆がメチャメチャになった!』という反感が根底にあるため、調が出奔した際に荒れてしまって周囲を振り回し、小日向未来に叱られているなど、失態の連続である。その名誉回復のため、今回の参戦となったのだが……。

「なるほどな。あんたも大変なお荷物を背負い込んだらしいな?」

「精神的にな。戦力になったが、あいつは意固地だしな。俺を含めた他の人間を振り回したのが、あいつの失敗だな」

「あの、ところで、ケイ先輩はどういう講義を?」

「近代航空戦や電子戦についてだよ。最近はジェット機も飛ぶし、ミサイルのファースト・キルも偶にあるからな。俺たちにはチャフもフレアも、電子戦機もあるが、他の部隊は時代相応の装備しかないからな」

――M粒子はミサイルによるファースト・キルを殆ど封じ込め、有視界戦に戦場の様相を引き戻した。M粒子対応型マイクロミサイル登場後も『ミサイルは避けられるもの』を前提として戦術を組み立てるという教義である。また、扶桑皇国軍のレーダーは基本的に艦艇レーダーの開発が優先され、そこそこの性能はある。しかし、陸上型は独自開発が進められていた都合上、性能面では遅れ気味で、前線に設置される扶桑製レーダーは艦艇用より精度が安定しなかった。これは史実と逆で、優れた探知魔法が事変時に伝わったため、上層部はそれを過信したクチがあるからだ。だが、M粒子の登場とアフリカ失陥で連合国の面目は丸潰れに近く、欧州が失陥すれば、ティターンズによる恐怖政治は確実視された。それもあり、連合国はダイ・アナザー・デイに全戦力をつぎ込むつもりであったが、政治に振り回され、日本連邦とその同盟国軍が中心になって切り盛りする状況にまで堕ちていた。また、ウィッチの人員補充がままならなくなったため、手空きの戦線のウィッチの引き抜きも相次いだ。この時にサボタージュしていたウィッチ達はバツの悪い思いを後年まで抱えていく事になる。64Fの死闘を他所に、惰眠を貪っていると批判を浴びる羽目に陥ったからだ。実際、自衛隊や米軍がプリキュアの支援を行う光景も当たり前の事になりつつあったこの時期、官報にその光景が記載され、戦果も概ね実測通りに記されているため、64Fが欧州における唯一無二の実働部隊という事が扶桑に伝わり、欧州に先に派遣されていたはずの他部隊の動向が疑問に思われ、問い合わせる者が相次いだ。他の部隊はサボタージュで殆どが有名無実化しており、MATへ部隊ごと移籍し、連合軍の管理から外れた者も多い。そのため、クーデターと併せて、社会問題化してしまう。MATは意外にも、勃興期から最盛期にあたる時代はその存在を認められず、衰退期に入る頃にようやく『代替役』と認められ、二代目レイブンズの時代も一定規模で存続はしている。だが、この時期ほどの勢いはないため、一時の流行のようなものだとされている――


「ま、この時代、誘導ミサイルは無敵と信じられていたしな。追尾魚雷もだ。だが、兵器ってのは常に対抗策が講じられる。たとえ、技術で差があろうと。俺たちを無理に統制管理しようとする21世紀の連中は圧倒的な技術格差さえあれば、対抗策は講じられる事はないとたかをくくってる。だが、そうじゃないんだぜ?」

「日本はどうして、それに固執するんだよ、黒江さん」

「のび太が30歳になろうかって時は21世紀が20年になろうかって時代だが、その時には、大半が戦争の後の時代に生まれた人間だ。そいつらにとっちゃ、俺たちのやってることは他人事でしかないのさ。鉄腕ア○ムだって、書かれた年代を考えりゃ、やがてくると考えられていた『原子力による平和のシンボル』って読み取れるように、時代が変われば、人は前の時代の思想を嫌う。江戸時代が終わった後、みんなが富国強兵政策に奔走して、太平洋戦争に負けたら、強兵政策を捨てたようにな」

日本は太平洋戦争の呪縛に縛られている。『それを扶桑にも強要しようとする』動きがある。ウィッチ世界は『日本に都合がよくできている』かのように歴史が紡がれてきたため、ブリタニアを衰退させ、戦後世界に近い姿に変えようとする勢力も多い。また、軍人や華族から社会的地位を奪おうとする動きも革新政党に多い。

「原子力も戦後のある時代までは人類の発展に必要不可欠なんて言われたが、21世紀頃には悪者扱いされる風潮があるだろ?日本の一部の連中は自分達さえ平和なら、他人にどこかで血を流させても、まったく悪びれないのさ」

「確かにね。戦後の日本は夢想的な思想が蔓延ったからね。その割に児童虐待とか家庭内暴力とかのニュースが絶えないけど。吉田翁も嘆いてたよ」

吉田茂。史実では戦後日本をメイクした名宰相である。その彼も経済復興のための方便として用いただけの『吉田ドクトリン』が経済大国に復活しても用いられ続け、21世紀に人口減少時代を迎えても維持しようとする流れになるとは思ってもみなかった。そのため、『日本の呪縛を解くのは、この儂にしかできん事だ』とし、日本連邦を提案し、小泉ジュンイチローと密約を結び、日本はそれを選んだ。無論、構想が知れ渡った当初は反対派のほうが多かったが、長年の不景気や支離滅裂な経済政策で衰退し始めた国のカンフル剤がそれしかないことに気づいたのだ。実際、オリンピックや万博も、21世紀頃には費用対効果の問題やグローバル化で、かつてのような魅力を失いつつあり、かつてのような国威発揚を兼ねられ、経済的利益も生み出せるか?という疑問に突き当たっていたため、扶桑との連邦化で少子高齢化と経済力、安全保障が一挙に解決を見る事は多少の軍事的負担を考慮に入れても魅力的だった。これに習ったのか、ドイツ領邦連邦、キングス・ユニオンも生まれたが、日本連邦ほどの勢いはない。だが、それにも関わらず、扶桑の軍事力を削減しようとする動きがある。それは日本の傲慢であると断定されている。日本の市民団体は女性蔑視の観点から攻めようとしたが、扶桑はウィッチの存在により、女性の権利が担保されていた。そこで逆差別と騒ぎ立てる事で、男女が真に平等になることを狙ったが、軍隊のシゴキを親が恐れたりしたせいで、少女の軍部への志願数が却って壊滅的になり、困った扶桑軍部は止むに止まれぬと判断し、部内からの反対が根強い『Gウィッチの権利拡大』を公認した。これに反対した者たちは『だらける時はだらけるものの、戦闘では一騎当千』というギャップの大きさについていけない生真面目な者たちでもあった。扶桑は『新規が絶望的だから、エースパイロットは戦果を挙げればいい。法に反しなければ、素行は不問にする』というルールを作り、連合軍に徹底させた。それに反対論を掲げていたサーシャはサーニャとの問題を理由にして、隊からの追放となった。同時に彼女が過去に行った人事は取り消され、『伯爵』の階級は大尉に戻っている。なお、芳佳の不在時には下原と真美が厨房に立つ事になっているので、食事の事で問題はない。『戦果を挙げているので、素行は不問にする』という文化は軍内の愚連隊と評判もあるロンド・ベル(地球連邦軍)由来のもので、更に後年には、アルカディア号に受け継がれている。

「俺達は戦果を求められてるが、その代わりに素行は不問になった。それを活用して、お前らを鍛えてやる。のび太が会議から戻ってきたら、プリキュア連中は全員、射撃訓練室だ。まっつぁんと俺、のび太で、お前らプリキュアを特訓してやる。標的にある程度当てられたら、下原と真美に言って、食事におまけをつけさせてやるぞ」

「特訓ですか?」

「そうだ。こういう時に特訓しとくもんだ。こういう時の手当は、武子に言って出させておくから、安心しろ」

黒江は勤務外の特訓も行うが、その分の手当はきちんと出させ、褒美もちゃんと用意するなど、部下への心づかいを欠かさない。人心掌握術が智子より上手いと称されるのは、ここの点である。プリキュア達は名目上、職業軍人となっているため、それにふさわしい技能を覚えさせる必要があった。パイロット技能もそうだが、軍人として必要な射撃訓練もその内の一つで、のび太が監督する形で射撃訓練を行わせ、一定の水準の技能を持たせる。駐屯地にいるプリキュアの中で、ドリームとフェリーチェ、メロディ、マカロンは転生にの素体がプロの軍人であったために有利な立場だが、ピーチなどは素人である。(縁日の射的さえやった経験があるかどうかのホイップ、ジェラートも)

「ま、ボクはアーチャー適性はないけど、人並みには扱えるから、褒美はいただきだね」

「貴方やピーチはともかく、ホイップとジェラートはやったことあるんですかね、縁日の射的」

「ピーチは射的なら経験があるって言ってたが、ホイップとジェラートは年代的に縁日が衰退してるだろうからな。実弾射撃にでビビるかもしれん」

「ありそうですよ。わたし、14年式は士官学校時代しか使ってないから、手慣れてるワルサーを使わせてくださいよ」

「いいぜ。ケイなんか、最近は主にスコーピオン使ってるからな。SMGの。俺はワルサーP38の初期の個体とベレッタで射撃は訓練してる。自衛隊はP220だが」

「ケイ先輩、ベレッタとスコーピオンですか。過激だなあ」

「あいつ、弾をバラ撒いて撹乱して、ベレッタでズドンとするのが好みなのよ。おりゃ、射撃より格闘メインだから、銃の好みはあまりないな。のび太に選んでもらってる」

「私もです。のび太は銃にこだわりがあって」

「ああいう人達って、武器にこだわりがあるっていうけど」

「ま、それは個人個人の違いもあるから、俺からはなんともいえないぞ、菅野。ゴルゴはM16を信頼性、入手難度の低さとかから愛用してるが、専用のライフルをデイブにこさえさせてる事も多い。のび太は西部劇にかぶれて、リボルバーを好むんだ。クイックドローに自信もってるし。次元大介より早いぞ、あいつ」

「まじかよ…」

「ああ。気がついたら撃たれてる感じだ。あいつは生前の時点で半英霊のようなもんだ。俺や智子でも当てられたし、銃身で鼻をドスってやられたこともある。あいつの射撃はゴルゴとタメを張るぜ。おまけに子供の頃の『気ままに見る機』の影響が残って、剣を持たせても強いし、見切りも一流だ。どこが矮小な存在だっての。次元大介を倒せるとすれば、のび太だぜ?」

ル○ン三世の相棒である次元大介のクイックドローは0.3から0.7秒。のび太はその彼よりも早いクイックドローが可能であるため、仮に『次元大介を倒せるとしたら、自分かデューク東郷しかいない』と豪語するほどの自信を持つ。デューク東郷はその辺は慎重に振る舞うが、のび太は2019年前後の時点では、まだ『青二才』に入る年齢であり、完成されたプロであるデューク東郷に比べて『年相応の若さ』がある。裏世界No.2になって日が浅い時点の青年のび太は相応に青臭さを覗かせるが、デューク東郷は『人間、誰にも若く血気盛んな時期はあるものだ』と好意的である。デューク東郷もデビュー間もない時期には饒舌であった事があるように、のび太の見せる若さに、若き頃の自分を見ているようだと好意的に考えているのかもしれない。



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