外伝その373『Red fraction2』


――ウィッチ世界の連合軍は各国の同位国の介入で空中分解寸前になり、そのリソースの多くを日本連邦に依存するようになった。これは史実のアメリカのような経緯であり、日本連邦は国力が温存されていたという理由で各国の兵站を自然と担うようになった。富嶽と連山の他国向けの増産はブリタニアのランカスター爆撃機の生産が縮小され、後継機のジェット爆撃機への切り替えが調達価格の高額化で紛糾し、進まなくなったための繋ぎでもあった。また、当時に怪異用名目で完成していた『トールボーイ』、『グランドスラム』はリベリオン本国が更に巨大な『クラウドメーカー』を開発し、カールスラント本土空襲の実戦で使用。グランドスラムにも耐える強固な構造のブンカーが一瞬で崩壊し、ノイエ・カールスラント随一の強固な鉄橋を一発で落とすという視覚効果でカールスラント国民は恫喝され、恐慌状態に陥った報で陳腐化されたと見做され、死蔵される事態に陥った。リベリオン本国側は更に、91cm迫撃砲を投入。その威力でブリタニアの歩兵軍団を吹っ飛ばし、全滅に追い込んだ。その際には直径約10m、深さ約5mの着弾孔を穿ったとされ、その報復として、富嶽によるワシントンとニューヨークへの大空襲が敢行されるという応酬が起こっていた。B-17やB-29、ランカスター、富嶽。それらによる戦略爆撃も常態化。戦局は混沌を極め始めていた。また、扶桑軍航空行政から特攻を理由に海軍系の人員がほぼ排除され、陸軍と派遣された空自系(源田実などの一部の海軍系有力将校は中枢にいるが)で固められた事に反発する中堅ウィッチ層がクーデターの準備を急ピッチで進めていく。ただし、そのクーデターはウィッチ兵科の命運を左右したと後世に評され、正式な兵科設立から20年も経たない内に、ウィッチ兵科は解消の予定が立てられる異例の事態となる。それは64Fが万能すぎ、慰問専門部隊のルミナスウィッチーズの存在意義に疑義が呈されたのも一因であった――





――前線――

熾烈さを増す戦場。その慰問は64F隊員が自主的に開くライブなどで賄われた。本来、慰問専門部隊にルミナスウィッチーズが組織されていたのだが、奏でる音楽のセンスが時代相応であるため、未来人に受けが悪いのもあり、活動は凍結されていた。その代替が64のサウンドエナジーが高数値の者たちによるライブであり、バカ受けであったこともルミナスウィッチーズの存在価値の低下の理由だった。(魔力があるなら、戦闘要員に回せという日本の意思もあったが、サウンドフォースを知る者たちがそれを抑え込んだ)確かに、音楽隊の存在理由など、いくらでも見いだせるが、ロックンロールやPOPミュージックが世に出るより以前の時代の者に吹奏楽や時代相応の大衆音楽以外のポップなジャンルをいきなり求めるのも酷であるのは事実であった。そもそも、軍隊の音楽隊は吹奏楽が主体だったからだ。

――統合参謀本部『サンダーボール』――

「ルミナスウィッチーズの解散は免れたが、今から21世紀基準でポップミュージックを訓練させるのは割に合わんぞ。そもそもその原型が世に出たのは50年代以降だ。馴染みがない音楽を教育されても、部内はどうにかなっても、部外から反発されるぞ」

「黒江くん達に慰問も兼任してもらうしかあるないな…。普通のウィッチはサボタージュで居場所がなくなってきている。あの子らの万能性は転生を重ねたからこそ成し得たのであって、普通のウィッチとて、ニーズに合った教育は施してきたはずだぞ」

「同位国にそれを理解させることは極めて難しいぞ。扶桑にしても、士官教育は希望者にのみ施してきた。兵学校や士官学校を斡旋してきたが、昇進したら自動的に受けさせろというのは無理があるのでは」

「もちろん、正規の士官教育だけでは賄えん。扶桑陸軍は少尉候補生を拡大してきたし、海軍は特務士官を維持してきている。だが、兵科将校には相応の教養がいる。ウィッチは前者に近い。それに精神力を基盤とする白兵戦力、指揮官の意志力、統率の妙を頭越しに否定されては、前線の指揮官の士気にも関わる。将校も人間なのだぞ」

連合軍高官らは如何なる階級の将校も前線指揮を強いる日本への皮肉ととれる内容の愚痴を言い合う。ウィッチは基本的に促成教育で前線の需要を満たしてきていたため、日本の要望どおりの将校を育てるには、Rウィッチ化を前提条件としなければならない。ウィッチ本来の寿命ではとても不可能だ。MATへの移籍で中堅を大量に失った扶桑はRウィッチ化させた古参兵で需要を満たしたため、太平洋戦争の新世代層が入るまでに世代的意味での空白が生まれる事となるが、却って、古参兵が伝統に凝り固まっていない事の証明となっていく。45年時の中堅世代はMATへの所属で一応の義務を果たしたとは言え、その後の時代で社会的に日陰者と扱われ、代替役としてMATを扶桑でも位置づけろという声を上げていく。それが成ったのは、おおよそ40年経った1980年代のこと。MATそのものが衰退期を迎えた時代でのことであった。これから太平洋戦争を戦い抜くことになる古参兵の社会的発言権が高かった故で、彼女らが定年を迎えた時代に認められたあたり、扶桑の社会風土が窺えた。結果的に、『突然変異体』とも言えるGウィッチを迫害する空気を作った38年当時の高官らは『人的資源の活用の観点』では低い評価を受ける事になった。その一因となった江藤敏子は必死の弁明が認められ、更に自身の覚醒で『恩恵』は受けられたが、黒江たちのスコア操作で懲戒を受けたのは変わりないため、出世は遅れることになり、彼女が空軍司令官に就任するのは、予定より遅れた1960年代のこと。更に、出る杭は打たれる体質の日本国は『ブーメラン乙』と若者らに揶揄される勢いでツッコまれ、騒ぎになった。こうして、江藤は入隊が同時期の北郷(キュアマカロン)より出世が遅れる事になったが、元々、再任官組であったため、『下積み』と思い、戦争中は源田実の直属の参謀として奮闘する。

「これからは日本連邦の時代かね、パットン」

「俺はそう思う。こっちは国の分裂で東西ドイツの役回りだし、キングス・ユニオンだって、イギリスが軍縮志向だ。日本連邦に負担を負わせることになるだろうな、アイク」

「本国はどうなる」

「俺達は生きている内に故郷の土が踏めたら万々歳ってところか。たぶんだが、戦争に負ければ、ミリシャだらけの内戦になるだろうな」

「第二次南北戦争はどうだ?」

「ケイ曰く、それが一番マシだそうだ。今回は群雄割拠になり得る爆弾をティターンズはばら撒いたそうだ。人種差別だよ」

「…人種差別、か」

「そうだ。瑞穂国への虐殺の歴史自体を、ティターンズは自分達に都合のいい体制の構築に使った。ただし、ティターンズとて白人至上主義っぽいけどな」

「やれやれ。平行世界の差別問題を突きつけて、社会的に追い込むのがやり口なのか、パットン」

「ドイツを見ろ。ロンメルをヒトラーとかいうちょび髭の小男のお気に入りという事で、予備役にする圧力かけたんだからな。そんな事言えば、グデーリアンはどうなる」

「確かにな」

「後方に疎いと言っても、参謀に任せればいい話だ。何のための参謀だ」

アイゼンハワーとパットンはカールスラントに吹き荒れる軍縮を大義名分にしてのドイツによる粛清に同情した。グデーリアンやロンメルなどの英雄でさえ、『総統のお気に入り』というだけで予備役編入の検討がされたのだ。この粛清はゲーリングの影響力払拭と、ドイツに都合の悪い軍人の取捨選択の意図があり、歯に衣着せぬ物言いであるエーリカ・ハルトマンとハンナ・ユスティーナ・マルセイユも予備役に編入の話があった。それに憤慨したガランドが配下部隊をまるごと予備役に入れ、扶桑への義勇兵扱いで継続参戦させた。カールスラントの軍規の穴と、扶桑の義勇軍受け入れ体制の仕組みを利用を突いた一矢である。

「ゲーリング元帥は?」

「政治介入が恐れられたから、療養所に入れて、ヤク抜きだそうだ。ドイツは海軍航空隊のことで彼を恨んでるからな。もっとも、日本が似た事をしたがね」

「日本は仕方ない。航空は空自で一括管理を狙っていたと聞く。しかし、空自はなぜ形式的とはいえ、海軍航空隊を存続させた?」

「ニミッツから聞いたが、空母搭乗には専門知識と技能がいるだろう?空自は訓練時間の増加と扶桑海軍と陸軍航空隊を一括で管理統制できるような仕組みでもないそうだ」

もっとも、海軍航空隊と陸軍飛行戦隊の双方の統合だけでも難事なのに、戦後型空母への搭乗訓練は空自もノウハウがない。そのため、形式的にも別組織扱いで予算を計上させるほうが負担が軽くなるからだ。こうして、自由リベリオンの将官達が同情するレベルで、ダイ・アナザー・デイ当時の自衛隊は日本連邦としての任務の増加でシッチャカメッチャカであった。

「――ケイ、俺だ。今、アイクと一緒にいるんだが、江藤くんの処分が決まった。事務処理ミスということでの懲戒だ。できるだけ軽くした」

「そっか。で、日本側は噛み付いてきたろ?」

「山下大将が『君等とて、出る杭は打たれるを地で行っとるだろう』と言ったら黙った。スカッとした」

パットンが言ったのは、かねてより議論された江藤の人事処分だ。日本側は若い官僚が『自分がしてきた苦労を後輩にも強いたのではないのか?これは教育ではない』とまくし立てたが、山下大将は『当人は反省しているし、当時としては慢心させないための必要な教育と見做されていた。それに、当時の倫理では合理的配慮だったのだ』と反撃した。実際、それを問題にすると、事変当時の戦果を洗い直す必要が出てくる上、当時のウィッチ将校の多くにあった『突出した個よりも均一化された集団のほうが強い』という思想を全否定しなければならない。カールスラントの撃墜王の宣伝に扶桑の古い世代のウィッチの少なからずが不快感を持っていたが、部内での『名誉』として誇るのは禁止していない。それは坂本に志賀が釈明した通りだ。江藤は天皇陛下に拝謁した際に必死に弁解したし、武子も智子の事で覚醒前に弁解している。昭和天皇はそれぞれの機会にて、二人に静かに問いかけている。その穏やかさが、却って二人を怯えさせたのも否めないが。武子は強固な信念があったために冷や汗をかいたものの、『ならば、上層部は智子をいつでも前線に送れたはずです!』と述べられたが、江藤は陸奥の助け船がなければ、まともに弁解もままならなかった。その違いも江藤の意外な面だろう。

「ま、あの人はどうも打たれ弱くてな。あたしらの前じゃ気概がある風に見せるけど、意外に打たれ弱い。若さんの言う通りだぜ」

「結論から言うが、次の戦線が終わるまで、彼女は大佐で留め置き、勉強させる。源田君と彼女の間に数人は入れ替わるくらいの期間になるな」

「ま、ガキ共のままごとみてぇなお遊びの原因の一つってのは間違いねぇんだ。揉んでやってくれや」

「統合参謀本部でこき使うさ。ロンメルがそのうち、真美の飯を食いに行くとか言ってたぞ」

「その前に倅をしつけとけと伝えてくれ」

圭子はロンメルの子息であるマンフレートが王室親衛隊にコネで入ろうとした際、『私の前でそういう馬鹿げたことを喋るな!!』と叱責したと、ロンメル当人から聞いている。ロンメルは居丈高な王室親衛隊を嫌っており、そこは子息にも貫いている。そのマンフレートは早期に軍を退官し、後年に政治家となって市長に栄達したが、この当時はまだ17歳ほどの少年である。(ロンメル曰く、『俺のコネで親衛隊なんか入ったら絶対昇進出来ずに底辺で足掻く羽目になるぞ、ユンカーですらない俺の息子如きじゃな!』との事である。ロンメル家は代々、学者か教師で生計を立てていて、軍部との縁は希薄であったからだ)圭子は43年前後、マンフレートが母からの伝言をロンメルに伝えに来た際に知り合っており、『扶桑人にしてはぶっ飛んだ人』と認識されている。

「ロンメルも手を焼いてるようだ」

「アンタの倅はどうなんだ?」

「俺のは直に士官になるよ。46年には自由リベリオンの第一期生として出るはずだ。俺の家は少なくとも、祖父さんの代から陸軍軍人だが、倅もなるとはな」

「ま、蛙の子は蛙になるもんだ。あたしの養子だって軍人だしな」

「ケイ、結婚せんのか?」

「親が見合い写真をアホみたいに送ってくるが、七勇士に貰い手あるかよ」

圭子はその立場上、実子は儲けなかったが、兄の孫である澪を養子にし、衣鉢を継がせている。

「それでは、あの子は養子か?他人にしては…」

「血は繋がってるよ。兄貴の孫だからな」

「子供は作らないんだな?」

「引退の頃には、もうガキどころか孫の代に片足突っ込んでるからな。兄貴の孫を引き取ったんだよ」

圭子はその辺はオープンである。戦場から帰るミデアからかけているため、キュアビートも聞いているが、苦笑いである。

「なんなら、愛人でもやるか?」

「無理すんな、愛妻ジジイ」

「ハハ、あ、アイクから伝言だ。コーラはそのミデアに積んである」

「アイクはコーク派だよな」

「俺はどちらでもいいが、アイクがな」

『300万本の瓶詰めコーク、月にその倍は生産できるボトリング装置一式、洗浄機および栓を至急送られたし』

これはアイゼンハワーが実際に打った電報で、アメリカ合衆国もコークを大量に納入させている。アイゼンハワーが『中毒患者』なためだ。ただし、瓶は一定数がペットボトルに切り替えられ、64に優先的に供給されている。黒江と黒田が愛飲者であるので、リベリオン系人員による布教は成功したと言える。

「んじゃ、シャーリーが86用に発注したリボルバーカノンとマルヨン用のバルカンをよろしく頼むぞ」

「アーノルドにもいっとく」

「切るぞー」

ミデアの機内で頭をポリポリかきながら、電話を切る圭子。高官相手にもこの口ぶりだが、真美を使って餌付けに成功したため、不問に処されている。このタメ口が覚醒前のミーナとサーシャに咎められた理由でもある。圭子は現在、軍人としては『マルセイユの上位互換』とされるが、マルセイユと違い、政治手腕を持つため、そこが違う。広報部にいた経験から、プリキュア達のブロマイドの発行責任者でもあるため、Gフォースの隊員から尊敬されている。もっとも、広報部にいたのは本当だが、軍に一貫して在籍したというのは事実ではない。ミーナを納得させるために記録を改竄した(辞令や官報も含めて)からで、その時期は軍歴のある従軍記者であった。ミーナを納得させるため、連合軍全体でレイブンズの経歴から『退役からの再志願』を消し、一貫して在籍としたのである。この処置は恒久的であるため、記録上、レイブンズは除隊歴がないことになっている。そのミーナが覚醒した後になっては意味がないことだが、上層部は黒江と智子の冷遇に罪悪感があり、それもあり、書き換え後の経歴を公式とした。現役軍人でないと、若いウィッチから蔑まれる風潮があったからだ。

「貴方、この経歴、嘘でしょ?」

「半分はマジだ。広報部にはいたしな。立場は従軍記者だったが。今、広報部は口裏合わせに奔走してるだろうぜ」

「そもそも、経歴を軍ぐるみでどうして書き換えたのよ」

「ああ、それはミーナだよ。今となっちゃ遠い昔に思えるが、あのガキ、年齢を見て、『飛べるエクスウィッチ』ってな、たかをくくってたんだよ。それでアイクに頼んで、経歴を書き換えさせた。過去の官報含めて」

「従軍記者でも軍属でしょ?どうして」

「この界隈じゃ20代はお局様なんだ。綾香も思惑があるとは言え、そういう扱いされた事がある。特に最新の実戦経験があるとな。あたしはまだいいほうだが、綾香と智子がな」

「?どういう事?」

「今のガキ共は芳佳の親父が考えた理論の革新があった後の連中で、怪異も最初からビームを撃ってた。実弾の頃を知ってる代はロートル扱いなんだ。ムカついたから、エイラをのしてやったことあるぜ」

「ああ、言ってたわね」

「今はリベリオンの芯がねぇガキ共を教育してやってる。少なくとも、4人が遊軍じゃもったいねぇし」

「ブートキャンプを?」

「ああ。少なくとも、覚悟はさせねぇとな。ドッリオは参謀になって転属だろ、ロザリーは退役のところの慰留で参謀本部だ。ミーナとラルしか統合戦闘航空団の隊長経験者はいなくなったしな」

「で、私達の扱いは?」

「相棒がいないのも多いしな。のぞみはりんかはーちゃんを組ませればいいが、ラブは次善でシャーリー、もとい響と組ませる」

ラブは相棒と言える美希やせつなも不在であるため、北条響と組ませると、圭子はいうが、実際はのぞみとラブはスプラッシュスターの力を受け継いだために共に戦う機会も多い。そのあたりは流動的であるため、安定化のため、ラブリーとハートの召集が決議されたのだ。

「でも、のぞみとラブ、スプラッシュスターの二人から力を継承したとか?」

「仮面ライダージオウみたいだな…。ま、次元世界は広いしな」

「貴方、平成ライダーと?」

「何人かは昭和ライダーを介して、面識はある。綾香と智子が色々やってんだろ?それに、ディケイドがアタックライドやカメンライドしてる時勢に技の垣根に拘ってると馬鹿を見るぜ」

「…確かに。でも、スカーレットにビルドファイターズトライのトライオン3のあれを使わせるのはどうなの」

「アナハイムに恩は売れたし、良しとしとく」

「で、貴方はゲッターね?」

「まぁな。綾香と智子と違って、聖闘士にはなってねぇし。あいつらのほうがよっぽど好き勝手してるぜ。クリムゾンスマッシュとクロックアップ組み合わせたそうだし」

「なに、そのチート」

「極めつけは、フェリーチェにゼクターを渡して、マキシマムハイパーサイクロンとか教えてたんだぜ、あいつら」

「えーと、カブトの武器じゃなかった?」

「ハイパーフォームのな。100キロ圏内の物体を塵にするおっそろしい技だよ。フェリーチェ、神通力が無くなったことで悩んでてな。それで…」

「あの子達、好き勝手するんだから。作品の垣根お構いなしじゃない…」

フェリーチェは元々、攻撃手段を徒手空拳以外に持たず、技は浄化主体であるため、黒江たちが色々と攻撃手段を教えたのだが、その中にパーフェクトゼクターと各ゼクターをコピーし、技のトリガーにするというもので、黒江も流石に『や、やりすぎたか?』と冷や汗をかいている。

「まー、ガイちゃんは綾香から無銘の神剣(エア)受け取ってるしな。何でもありだよ。ラブリーの話じゃ、出身世界でドリーム、ピーチ、メロディと『ラッキークローバーグランドフィナーレ』撃ったっていうし」

キュアラブリーは出身世界での最終決戦の経緯をその三人が『捕らわれた仲間達に代わって戦ってくれた』と語っており、三人を慕っている。なぜ、ハピネスチャージプリキュアの町にその三人がいたのかはわからないが、『ハピネスチャージプリキュア世界のプリキュア達が壊滅し、ラブリーも母親と揉めてしまい、戦意喪失状態にあった。そんな中、希望を最後まで捨てなかった一部の子供たちがミラクルライトを振った事で起こった奇跡』と解釈されている。つまり、ラブリーは『よく知られた経緯を辿らず、ミラクルライトで呼ばれた三人の歴代プリキュア達が最終決戦で共に戦った出来事があった』という特異な世界の住民なのだ。


「次元世界は広いわね」

「あたしらも派生世界の一種の住民と言えるしな。ま、世の中、何でもありだ。ドラえもんとのび太と縁できてからだな、人生を改めて、楽しく思えるのは。転生を重ねると、虚しい思いも出てくるんでな」

ドラえもんはある種の歴史ブレイカーである。のび太を成長させ、黒江たちをGウィッチへと導いた。その点は『物語(世界)の破壊者』ともされる。(人魚姫の物語を変え、桃太郎の物語を体験した事がある)ドラえもんは黒江たちを一つの『鎖』から解き放ったが、彼女らの運命を変え、修羅の道を歩ませたという自覚を持っている。ドラえもんとのび太達は『特異点』であるため、黒江たちとの全ての記憶を持つ。のび太が転生をするのは『自分は一度は死んだ身だ』だからでもあり、統合戦争でバダンと戦ったドラえもんズの帰還を出迎えるため、もう一つは黒江たちを見守るためである。

「転生者は理解されないものね」

「のび太が何度も関わってることを『安らかに眠らせてやれ』って批判もあるが、のび太の事を分かっていねぇ。のび太は友達のためなら、自分の人生を費やして、自分の子孫にも徹底させるやつだぞ」

「のび太の子孫達はのび太の遺訓を守ってきてるものね」

「家を継ぐのは長男でなくてもいいからな。一族で優秀なら、三男坊でもいいしな」

のび太以降の野比家は長男に家を継ぐ義務は課されていないが、代々の長男が慣例で引き継いできている。また、のび太自身、生前の時点で『可能性分岐の記憶をことごとく拾った世界線の存在』であるため、元から転生が可能である事を悟っていた節があり、ノビ少尉としての転生は生前の時点で覚悟している。全ては友情のため、『のび太である事をやめても意思は生き続ける』とする思想からの選択である。(ちなみに、ドラえもん自身、基本世界の自らを認識しており、独自に自身の声色で世界ごとの識別コードを振っており、自分は大山の○代の声色をインプットされた世界の派生存在と認識していたという)

「でも、この時代からすれば、贅沢してるわよ、私達。ミデアでも超輸送機なのに、ガルダじゃゴリアテよね」

「止せよ、縁起でもねえ。ま、未来少年のギガントでもいいがな」

地球連邦軍が使用するミデアやガルダはそのペイロードで連合軍の兵站を支えている。ビートのいう通り、大戦期の輸送機はペイロードが2400kg〜2700kg前後であったため、ミデアの200tは史上空前の規模と言えるが、ガルダは9800tあまりのペイロードを誇るため、艦艇扱いでいいくらいである。64が潤沢な補給を受けられるのは、地球連邦軍の所属でもある(隊員の多くがロンド・ベル隊に籍を置く)からだ。

「このおかげでしょ、物資だけは潤沢なの」

「優遇措置は受けてるしな。チートしねぇと戦えねぇのも問題なんだぜ?マウザー砲はロンメルに回させてるし、バルカンはパットンとアイクの線で調達してる。日本は武器の供給を渋るから、アメリカを使ってるとこもある」

ホ5や99式20ミリ砲の供給を縮小する一方、新式のバルカン砲やリボルバーカノンの前線への供給を渋る日本は前線の不興を買っていた。64はアメリカ合衆国や地球連邦軍からのルートでそれらを調達している。圭子は兵站に関わっているため、大雑把そうな言動と裏腹に兵站分野ではマメなところがある。ビートは意外そうな顔をする。

「意外ね、兵站はきちんと考えてるのね」

「アフリカ戦線にいたしな。日本からの正規の補給はGフォース用の部品は来るが、ウィッチ装備には無頓着だからな。ジェット用の装備を整えたほうがむしろ早い」

ジェットストライカーが普及すると、ミサイル万能論の時代のもの以外は通常戦闘機用と共通化が進んだため、機銃については専用装備ではなくなり、流用が効く。これはジェットの膨大なパワーで魔力増幅率が飛躍的に向上し、怪力持ちでなくとも重装備に対応できる事、MSやVFの設計思想が流入し、戦後第四世代ジェット戦闘機相当の機体にもなると、ISなどに近い外見になった事などが挙げられる。部品供給に不安があるため、時代相応の装備はパトロールなどに使用するに留めているが、未来のストライカーは取り寄せがいつでも可能なので、64Fでは大手を振って使用されている。また、身体能力強化ではプリキュアも相当だが、仮面ライダー(昭和・平成を問わず)のような『身体から繰り出す攻撃で致命傷を与えられる』ような絶対性はない。その点を補うため、歴代昭和ライダーに師事する者も出てきている。また、武器を使う戦闘の内、鋼線や銃については青年のび太が担当している。そのため、64はこの時期の扶桑ウィッチ部門唯一無二の実戦部隊としての体裁を持っていたと言える。







――この時期は海戦が落ち着き、イベリア半島からイタリア半島までの制海権も確立された。だが、肝心要の陸戦での優位は兵器不足で確立に失敗、戦局は膠着状態に陥っていた。歴代昭和ライダーやスーパーロボットの活躍はあれど、陸戦ではもろに物量で押され気味であり、センチュリオン(最終型)とコンカラーの生産が推し進められているが、供給の需要が扶桑陸軍系部隊にも及ぶ事で供給が需要に追いつかないという前代未聞の事態となった。74式のコピーも遅延し、内地の装備更新が優先され、戦地に新型戦車が供給されない事態になったため、外地部隊はセンチュリオンとコンカラーの使用率が突出したという。その端緒となったのは、現地で途中参加ながら、機甲戦力を担う扶桑陸軍第1戦車師団の旧式戦車の代わりにセンチュリオンとコンカラーが配備されたことであった。新式戦車の損耗補充が追いつかず、旧式を回収された事への抗議を抑えるための措置であったが、当時としては高性能なため、受け入れられた。これを皮切りに、『外地部隊は連合軍の他国製装備を保有できる』という規則を使う形でセンチュリオンとコンカラーの装備が進められた。『止むに止まれぬ措置』である。実際、外地部隊は連日連夜の戦闘で日本側の想定を遥かに上回る戦果を出すものの、代償に高い兵器損耗率も記録していた。その補充が遅れに遅れたため、キングス・ユニオンの援助を受けたのである。

「戦いは質だけじゃ勝てねぇが、日本の官僚と政治屋とブンヤ共は質で物量を補えると思ってる。ジオンの源流の一つになっただけあって、無茶を言いやがる」

「ジオンには日系の名家も多いしね」

「ドイツかぶれと日本人的なところが変に融合したのがジオンの実状だよ。一年戦争は宇宙版の太平洋戦争とはよく言ったもんだ。それで生み出されたモビルスーツはどんどん発達したが、20m級で落ち着くあたりはな。日本はそのご先祖の一つだしな」

自家用車の発展や装甲戦闘車両の発展のような発達を遂げていったMS。ジオンの遺産と言うべき技術体系はモビルファイターという派生を生み、23世紀時点では普遍的な機動兵器の一つとなっている。(その遠い進化系が30世紀に『マン・マシーン』と呼ばれるものである)圭子はそこを指して、ジオンの一年戦争を太平洋戦争に例えたのだろう。

「で、この戦を日本はなんて思ってるの?」

「局地戦程度だそうだ。実際は国家総力戦規模だぜ?ノルマンディー上陸戦の二倍の兵力と膨大な数の兵器が使われてるんだからな。それを局地戦ってのは無理があるぜ」

「現場と官僚の認識の違いって奴ね」

「綾香も相当に頭を抱えてんだぜ?だから、地球連邦軍から装備を相当に調達してる。それで火消ししてるんだぜ?MSの火力で火消ししてるってのは笑えねぇがな」

「確かに」

「日本は精神力で負けたから、科学に固執するんだよ。統合戦争があんなになった要因も技術的特異点が恐れられたからだが、結局は歪んだ進化になったが…」

「で、その産物が…」

「戦争が産んだものの最たるもんだ、MSはな」

彼女らが休んでいるミデアの窓からは眼下にMS(RGM-89R、MSZ-006D系、A系)がベースジャバーやウェーブライダーでミデアを護衛する姿が見られる。当時はレシプロ機や初期ジェット機の面々が攻撃を仕掛ける事も多く、ミデアは輸送機という事で襲われ易かった。ミデア自体も早いが、ジェット機であれば、ミデアに追いついて損傷も与えられるため、警戒は怠らない。当時、F-80は既に普及し、F-84Fの初飛行と生産が始まっており、扶桑軍もF-104JやF-4EJ改の本格生産準備に入っているなど、開発競争は既に開始されており、レシプロ機はこの戦いで第一線を退くという認識が大勢であり、最後の餞とされる風潮がある。(実際はジェット機の普及の遅れから、太平洋戦争までは第一線機扱いが継続された)そのため、在庫のパーツ一式を使い切る勢いで送ったため、長期化でレシプロ機の稼働率が下がる事態に陥っているため、機体の新規生産の再開がなし崩し的に決まるなどの混乱も起こり、扶桑は軍需生産で混乱が広かっていく。それを補うため、64Fでは設計データをもとに、Gウィッチが武器を空中元素固定能力で造る事も多く、ヘビーガンダムの設計図からデータを拾い、『フレームランチャー』をウィッチが使用できるサイズにして新造し、配備をしている最中である。


「能力で武器を造らないと、武器の消耗が追いつかねぇってのもな。フレームランチャーを作ってるが、配れるのは限られる。弾薬を流用できるようにしないとならねぇしな、ガトリングの」

「まさか、私達の時代のMSの装備を自前でダウンサイジングする羽目になるとはね」

「まあ、設計図と構造を把握さえしてれば、自前で造れるしな、武器も。この時代の冶金技術の金属じゃ、ミサイル・ランチャーとガトリングガンを兼任する上で起こる熱量に耐えられないしな」

「確かに。別パーツをくっつけたとかじゃなさそうだしね、あれ」

「ま、サイズはパワードスーツ用、通常サイズと一通り揃えてある。弾薬のすり合わせが終われば投入できる。B公も落ちるぜ」

「B-17が主体の時代にフレームランチャーは反則だけどね」

「ま、遠からず、B-29が普及するだろうし、47も開発される。そうすれば真価を発揮するだろうさ。B-29はホ5や99式20ミリじゃ難攻不落だし、マウザー砲でもそうは落ちねぇしな」

B-29の耐弾能力は諸説あるが、現場では『既存の20ミリ砲では中々落とせない』という認識であり、防御隊形の十字砲火と併せて『難攻不落には違いない』という常識が定着していた。既存の迎撃戦闘機の効果を日本が疑問視するのも仕方がないが、扶桑としてはウィッチ装備が優先されてきたため、戦闘機を緊急生産しても、全軍に行き渡らすには時間を要する。各地から既存機をかき集めても史実の生産量に届かないため、色々な勢力の援軍でどうにか均衡を保っているのである。

「でも、あれこれチートして、それでやっと均衡を保つ程度ってのも反則よ」

「敵の物量は巨万って物言いがピタリ来るくらいだ。イベリア半島で釘付けできてるのが不思議なくらいだ。ガリアが健在なら、史実通りにノルマンディーに上陸してるだろうよ。艦砲射撃と爆撃のおまけ付きで。制海権を取っといて良かったよ。たとえ、局所的にしろ、制海権さえあれば敵は迂回ルートを通る。そこを通商破壊すれば、敵の補給は細くできる。ブリタニアをガン無視して補給するには、アフリカから運ぶか、リベリオンから大西洋に出て、直接運ぶか。この二択のみだ。日本は口出ししまくってくるから始末が悪いがな」

「日本は何が気に入らないの」

「陸海軍の風習をぶっ壊して、自衛隊風にしたいのさ。おかげで古参兵は不貞腐れ、新兵は使い物にならねぇがな。前史の坂本が反発したのは、徹底したアメリカ式の合理主義への疑問からだ。あいつは良くも悪くも、武士道かぶれだし、前史で靖国に祀るのを差止めるのに反対運動起こしてたしな」

圭子は日本が軍隊の内部規律を陸海空自衛隊のものに統一する過程で扶桑軍人の武士道的精神を正そうとする中で『軍人を靖国神社に祀る』扶桑の習慣を差止めようとする動きがあることに触れた。


「ま、あの人はそういう事しそうな性格ってことだしね」

「ま、あいつはカブれてるからな。」

前史で坂本が暴走した一因はそこにあると触れ、内政干渉になりかねないデリケートな問題である事、信仰が薄れる事でウィッチの出現率を左右しかねないという懸念もあるため、この件は双方の協議で手打ちになり、立ち消えになる。自衛隊の一部局(害獣駆除専門)であるMATに行く者が生じたため、軍ウィッチという道が『一つの選択肢』という形で落ち着いたからだ。坂本は前史ほどは政治に噛まなくなったが、この問題に関してだけは影響力を行使している。家の教育の都合上、靖国に祀られる事を名誉と考えているのは変わりないからで、そこも指して『カブれている』と言われるのだが。

「それと、綾香の育ててるガキが報告書を出したが、やはり可能性が多岐に渡る世界だそうだ。お前らがいた世界と同じだ」

「人は誰しも可能性を持つものよ。その世界もそう。その時点で派生したとは言え、本来の流れというのがあるわ。私達は『分かれし可能性の一つ』なのよね。敵に負ける世界も何処かには存在し得る」

「ZEROはそこを突いたと考えられる。はーちゃんが同位体と違う存在になったのは、ZEROが因果を断ち切り、のび太が新たな可能性を拓いた事で起こったんだろう」

「でしょうね。みらいとリコも驚いてたわ。マザー・ラパパの後継者としての力と権利を失った代わりに、プリキュア単体としての能力が強化されたなんて。それと、のび太の義妹?それでラブリーが大変そうよ?」

「形の上じゃ、のび太の親父さんが養子縁組したからな。それで見かけが中学生くらいだから、のび太の二学年くらい下って形で中学、高校、大学に行った。大学じゃ史学科だったんだ。成績は優秀で、周りは研究者になるかと思ってたそうだ。実際は軍人だけど。ドラえもんは『のび太くんはピー助と関わった辺りから、何かと他人(ひと)の運命を拾って育てちゃう傾向が有ってね、だから自分も運命を拾って、良い方向に進めたんじゃないかな』って言ってたからな」


ドラえもんの言葉通り、ことはは野比家に迎えられてからは史学に興味を持ち、それが高じて歴史学部がある大学に進学。将来を嘱望されたが、航空自衛隊へ入隊した(対外的にはそう説明されている。その事は残念がられているが、元々がプリキュアなので、仕方ない事と受け止められた)。プリキュア戦士である以上は自衛隊に志願せねばならない。ことはがフェリーチェである事が知られた後の時代、この事で議論が起こったが、昭和ライダーが現役の頃を知る世代の日本警察の上層部と若手で戦闘行為の取り扱いで意見が分かれ、会議は紛糾した。その結果、プリキュア戦士の身辺保護を兼ねての自衛隊志願は当たり前のことになり、現れた全員が形式的にだが、自衛隊員としての身分を有する事となる。日本警察上層部は2019年頃には『昭和ライダーの現役時代の頃の青年か少年』の世代に入れ代わっており、彼らは昭和期からの慣習であった『ヒーローとヒロインの戦闘行為の違法性は棄却される』事を適応させようとしたが、往時を知らぬ世代から『ヒーローとヒロインの戦闘行為の合法性をきちんと定めるべきだ』と指摘され、議論が起こった。その間に肝心のプリキュア戦士達は合法性が担保できている自衛隊に入隊していったというわけだ。身辺警護が必要な身でもあるため、必然的に軍人(自衛官)となる――

「まず多くが転生に伴う転移だ。戸籍を与えてやらんとならんし、身辺警護も必要な身だ。だから、みんな一緒くたにしたんだよ。それにこの戦いで『女の子だって暴れたい』だけじゃなくて、『意地があるんだよぉぉ――っ!!男の子にはなぁ!!』を知れたしな、あいつら。いい鍛錬になったろうよ」

圭子の言う通り、プリキュア戦士と言えど、絶対的優位性は無く、むしろ極限まで鍛え上げた男達が気迫でプリキュアをボコボコにする光景が当たり前であった。ドリームとピーチほどの歴戦の勇士であっても、劣勢に陥る事が当たり前で、そこを宇宙刑事ギャバンや時空戦士スピルバン、昭和ライダーらに救われたり、のび太の援護で命からがらに戦線を離脱した事もある。『後発のプリキュア』である故に初代ほどの絶対性がないことも関係しているが、敵が『超人』をぶつけて来るため、劣勢も仕方ない。

「私達は劣勢になった事が少ないから。素で圧倒されたのは数える程度。それが出る度にボコボコよ。相当に精神的には鍛えられてると思うわ」

「ティターンズには、身体を外科手術とかで強化した連中もかなりいるみてぇだしな。それでプリキュアの動きに対応してくる。単純に変身しただけじゃ優位に立てないってことだよな」

圭子が言うように、戦闘向きのプリキュアの最たる例であり、なおかつ、初代と代が最も近いはずのドリームとピーチでさえ、ティターンズの超人達が『意地があるんだよぉぉ――っ!!男の子にはなぁ!!』と言わんばかりに猛攻を仕掛け、彼女たちが追い詰められる事が常態化している。しかも現役時代の最強形態を以てしてもだ。キラキラプリキュアアラモードが、北郷の戦闘技能を引き継いだマカロン以外は現状、戦闘要員にカウントされていないのは、敵が第一期プリキュアかつ、中心格の戦士である二人を容易にズタボロにできるからである。

「ギャバンさんは『男の子だって、プリキュアに成ったんだろ?俺達にも可能性が有るし、逆に君達が俺達ヒーローの力を得て強くだって成れるさ。『なんでも出来る、なんでも成れる』って言っていた子が居るんだろ?それが真実の一つさ』と言ってた。多分、キュアエールのことを指してるんだろうな」

「ああ、マーチが怒ってるあの子…」

「マーチはドリームと同じ世界からの転生だからな。エールに罪はないが、間接的にドリームにプレッシャーを与えちまったのは間違いない。教師なんぞはブラックな商売なんだがな」

「マーチは諌めておいたわ。会ったら八つ当たりしそうな感じだったし」

「それがいい。エールだって、自分の応援が先輩を潰しちまったかもしれないなんて、知りたくねーだろうからな。それにエールがその記憶を持つとは限らないしな。マーチは分かってんのか、その辺」

「あの子も子供じゃない。どこかで折り合いはつけるでしょ。心配なのはドリームよ。どこか、自分を見失ってるような」

「自分の子供が互いに殺し合ったって聞かされて、一週間くらい寝込んだのも効いてるな。なんか、ドリームの野郎、錦の反骨心と粗野な面も出てきた。そのうちさ、シェルブリットでもやりそうだ」

「その前にサーフボード極めそう」

「ありそうだ」

キュアドリームはこの時期、中島錦の残存意識が夢原のぞみとしての意識と融合し始め、激昂すると、錦の粗野な口調に変貌するようになってきている。その状態では反骨心旺盛で、一人称も『俺』になるなど、錦の特徴が強く生じるが、錦本来のものよりデフォルメされているともとれる。圭子はそれを指して『シェルブリットでもやりそう』とからかっているが、錦の反骨心とのぞみの優しさがどう化学反応するのかは未知数である。それまでの例が親和性が高かったため、アルトリアで人格が統一に向かうハインリーケしかないために正直、わからないのだ。

「あの子はどうなるの?」

「わかんねーな。ハインリーケはアルトリアと同化するし、ジャンヌはルナマリアを取り込んだ。例が少なすぎる。あの能力、どうも、なのはがやりそうなのよな」

「え、あの子、その妹の方じゃ」

「それはツッコまないほうがいいぜ。謹慎処分食らった上、ダチがキュアエースっぽくて、自分がキュアアムールじゃないのにムカついてるし」

「そこぉ!?」

「かなり期待してたみたいでよ。で、ダチがキュアエースになったから、ますます苛ついてる。綾香に叱られて、謹慎処分受けたので、かなり鬱憤がな」

「つーか、期待するとこずれてない…?」

「あたしにいわれてもな…。昨日、様子見に行ったら、『なんでアリサちゃんがプリキュアなのー!?』って癇癪を起こしてた。あのガキ、そこは子供の時から変に変わらねぇ」

アリサ・バニングス。なのはの古くからの親友だが、今回においては円亜久里/キュアエースの転生であり、既に成人している。だが、円亜久里としての記憶の覚醒と共に、円亜久里の現役時代の姿になったという。アリシア・テスタロッサ(花咲つぼみ)から事の次第を知ると、アリサ・バニングスとしては実業家であるため、家業を休業という形で公の場から姿を消し、戦線に参加すると言い、なのはに知らせた。なのははその知らせで溜まりに溜まった鬱憤が爆発してしまったわけで、キュアエースに叱られたという。圭子はその最中に出くわしたわけで、あまりの気まずさから、部屋のドアをそっ閉じしそうになったという。

「エースともずいぶん久しぶりだけど、なのはの悪友があの子の転生とはねぇ。実業家じゃなかった?」

「休業する形で参戦するってよ。なのはをエースが叱る現場に出くわしちまってよ。なのはの奴、冷や汗かいてた。そっ閉じしたくなったぜ。シュールだったしよ」

「見たかったわ、それ」

「溜まったもんじゃないぜ。なのはは泣きやがる、エースも呂律が回らない勢いで慌ててたし」

ビートは想像がついたようだが、なのははいい年して駄々っ子のようなところを見られたので、冷や汗かきまくりで言い訳をしまくったのだろう。キュアエースも大いに慌てるという珍しい姿と考えると、おかしくなったらしく、吹き出す。

「おいおい、笑ってやるな」

「わかってる。でも、なのはと会ったって事は来たの?」

「昨日の昼だ。お前に知らせるのが遅れた。なのは、相当に恥ずかしくて、口止めされたし」

「そりゃ、子持ちのいい年した大人がねぇ」

「ヴィヴィオに知らせようかって言ったら、泣かれてな。冗談も通じねえ」

「…あは、はは…」

「で、なのはの前で『プリキュア・ドレスアップ』したらしくて、相当悔しがってたぜ?」

「あの子も魔法少女でしょうが。変に張り合うんだから、なのは」

ドキドキプリキュアはキュアエースのみは『プリキュア・ドレスアップ』という掛け声と他と異なるアイテムで変身していた。キュアエースは成長変身に分類されるため、なのはは外見を子供時代に戻していることもあるのか、相当に悔しがった。圭子は駐屯地に戻るまで、その話題で話を繋げたわけだが、アリサ(久里)もわざわざ、子供時代の姿に変身している親友の前でこれ見よがしにプリキュア・ドレスアップするなど、アリサ・バニングスとしての鬱憤を晴らすところを見せている。

「あたしは言ったわけだ。『なのは、なんでそこで突っかかるよ?のび太の世界じゃお前も同カテゴリの扱いなんだぜ?』って。そうしたらさ……」

「ああ、アムールになりたかったって?」

「ああ。なんて言えば良いのか…アホかよ」

頭をかきながら、苦笑いの圭子。ミデアは駐屯地に向かい、飛行を続ける。キュアビートは以後、素体がクラン・クランな事もあり、プリキュア達の中で年長者として振る舞うようになり、レイブンズの相談役の一人となっていくのだった。



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