外伝その382『7人ライダーの大特訓』


――歴代のプリキュア達は黒江が呼び寄せた7人ライダーの大特訓を受けた。戦いのトレーニングにはのび太は基本的に噛まないため、キュアルージュと話をしていたわけだ。トレーニングをコーチングするのは柄ではないとの事だ。7人ライダーの特訓は中々にハードであり、マシンで追っかけるのはまだ優しい方であった――


「さあて、こいつを受け止めてみろ、ガキンチョ」

「は、ハイパーハンマー!?どこから持ち出して来たんですか、それぇ!?」

ストロンガーが持ち出したハイパーハンマー。ちゃんと鉄球には複数のバーニアがあり、棘を細かく鋭い仕様である。それをキュアドリームへぶつける。ドリームはハイパーハンマーをなんとか受け止めるが、追撃の電ショックで吹き飛ばされる。空中に飛ばされたところでライダーマンのロープアームに絡め取られ、勢いよく地面に叩きつけられる。

「ああっ…!」

ドリームは苦悶の表情を見せるが、7人ライダーの攻撃は止まらない。二号とXのショルダータックルが直撃し、アマゾンのスピンキックで追撃される。

(やばいやばい、ヤバイヤバイ!!この人たち、本気だよ!こっちも反撃……!?)

跳躍し、その場を逃れるが、飛蝗の能力を持つ改造人間であるライダーからは逃げられない。しかも自分より高空まで一瞬で跳躍していた。ドリームは目を点にするほど驚き、隙を晒してしまう。

「嘘!?この高さを一瞬で!?」

「俺達は『跳躍』こそが改造人間としての真価だ。その所以を見せよう。ライダーきりもみシュゥゥト!!」

一号はドリームを掴み、そのまま小型の真空竜巻に巻き込みつつ、更にぶん投げる。ドリームはシューティングスターを応用し、空中で態勢を途中で立て直すが、そこへ。

「V3!!マッハキィィ――ック!!」

V3がマッハキックをぶちかます。シューティングスターの発動時のオーラをぶち破るだけの威力のキックをぶつけられ、ドリームは『仮面ライダーの戦闘力』を肌で感じ、戦慄する。

「げ、ゲホ……!これが昭和ライダーの実力……!」

身体能力でいうなら、自分はとても及ばない。そう直感する。破壊力が違いすぎるのだ。昭和ライダーは俗に言う『サイボーグ』。アマゾンやBLACK(RX)以外はその肉体に機械を組み込まれるのみならず、筋肉も骨も外科手術で人工物に作り変えられている。(余談だが、この方法でスバル・ナカジマ、ギンガ・ナカジマは瀕死の状態から生き長らえ、体全体が仮面ライダーと同等の肉体に作り変えられたため、肉体の成長は止まった)『定められた肉体の限界』を精神力で超えるのも昭和ライダーの真骨頂であり、彼らが『大自然の使者』と渾名されてきた理由である。

「まだまだ行くぞ、ライドロープ!」

今度はXライダーのライドロープに絡め取られる。ドリームは渾身の力で引きちぎろうとするが、ライドロープの強度は桁外れであり、精霊の力を加味しても不可能であった。追い打ちの『ライダー電気ショック』がかけられる。

「ああああぁああ――っ!」

プリキュア化しているため、心臓への致命的なショックは避けられてはいるが、普通の人間なら一瞬で黒炭の何かになるほどの高圧電流はドリームに大ダメージを与える。

(体が……焼かれる……へ、変身してなきゃ一瞬で死んでる…!)

昭和ライダーの『シゴキ』は凄まじい。これでもジャブにはいるのだから。そこから更にストロンガーの『エレクトロサンダーフォール』で超高圧電流を流される。そのエネルギーが呼び水となったか、シャイニングドリームに変身する。強制変身に近いが、一種の防衛反応か『火事場のクソ力』に近い。

「し、死ぬかと思った…」

「それだけ口が聞けりゃ、大丈夫だな」

「こ、殺す気ですか!?」

「なーに、俺の電気は指向性を持ってるんでね。心臓を焼かないかぎりは人間、丈夫なもんだ。それに、お前らも俺たちと同じで『死ねない』体になってるぜ?」

「あうぅ…。それ言わないでくださいよ〜」

「能力の応用で、いくらでも外見は変えられるとか綾香が言ってたが、お前らはプリキュアだし、その必要はないな。皮肉なもんだが、それがお前らに課せられた宿命だ」

「それ、一度死んでると堪えます…」

「俺達も、アマゾンと光太郎とあと二人は生体改造だが、大半が機械式の改造だ。村雨に至っちゃ、脳みそだけしかオリジナルの肉体は残ってないぜ。風見さんと神さんはオリジナルの肉体を失って、救命のために改造されたから、考えようによっちゃ『一度』は死んでる身なんだよ」

風見志郎にしても、神敬介にしても、実のところはオリジナルの肉体は殆ど残っていない。V3はオリジナルの肉体の殆どが『改造人間分解音波』で破壊されたため、頭脳以外は90%近くが機械に置き換えられている。Xライダーはゴッドの戦闘工作員のマシンガンで蜂の巣にされ、救命のため、神敬太郎博士(敬介の父)がカイゾークに改造している。Xに至っては脳髄に電子頭脳が接続されているという『アバウト』な改造がされている。(神敬太郎博士も瀕死の状態で改造したので、その辺は簡略化せざるを得なかったのだろう)オリジナルの肉体を失った点で、昭和ライダーは一度は死んでいる身と言えよう。

「改造手術には屈強な肉体が必要だったしな。半端な鍛え方で、なおかつ拒絶反応が起きるとコロリだ。俺の大学時代のダチがそうだった」

城茂の親友である沼田五郎は一説によれば、仮面ライダーストロンガーのプロトタイプ『スパーク』に改造されたが、人工臓器への拒絶反応によるショックから、手術に耐えられずに死んだとされる。茂は脳改造を自己催眠で逃れ、ブラックサタンの幹部候補の改造人間のボディを手に入れた。(なお、現役時代にデルザー軍団に内部回路をズタズタにされたためもあり、超電子ダイナモを埋め込み、各部を強化する再改造を受けているため、ストロンガーは初期スペックと別物と言えるほど強くなっているのは、あまり知られていない)

「友達が?」

「俺はそいつの仇討ちで改造人間になった。俺は孤児で身寄りもいなかったしな」

ストロンガー/茂は1975年当時に22歳前後。生まれた時代は戦後の混乱も落ち着き始めた1953年頃だが、物心ついた頃には孤児であった。生まれつきの『超能力者』だった故かは不明だが、城南大学を卒業してすぐに改造人間となったため、7人ライダーでは比較的に若めの外見(本郷猛と一文字隼人はデフォルトの外見は改造時の25歳前後である)を持つ。

「綾香とも長い付き合いでな。仮面ライダーJやRXの力で引き継いだ記憶を合わせれば、数百年になるか」

「え、そんなに!?」

「こいつは今の状態になるまでに、合計で400年くらい生きたからな。もう500年近いはずだ。」

「正確には、423年くらいだよ。聖闘士としての戦闘の傷で死んだり、寿命で死んだりしたからな。ストロンガーさん、正確に言ってくれ」

「そんな事、俺が知るか」

ストロンガー一流の台詞回しである。のび太がキュアルージュと話し込んでるのと同じ頃、キュアドリームは仮面ライダー(昭和ライダー)にしごかれているのである。黒江と軽妙なトークをするストロンガーだが、ドリームを最強形態に強制変身させるほどの電流を『致死的ではない』程度にコントロールするあたり、改造電気人間の面目躍如であった。特訓はやがて、7人ライダーとの組手に移行していく。7人ライダーはいずれも武術の達人である(全員がかつてはスポーツマンであったりするため。アマゾンについては野生児であるが)ため、プリキュア5最強の形態であるシャイニングドリームと言えど、のぞみはあくまで経験則に基づく我流であり、錦が軍で訓練された多少の戦闘術を加えたとしても、百戦錬磨かつ、空手や柔道などの武術の達人である昭和ライダー(我流なのは野生児のアマゾンのみ)には対抗は難しく、ブルームから受け継いだ精霊の力を加味したところで気休めに近かった。


「はぁあっ!!」

「トイヤ!」

V3に渾身のキックを容易く迎撃されるドリーム。器械体操でオリンピック強化選手になるほどの柔軟さを備えた風見志郎の戦闘術は熟練の職人気質が感じられる。

「え?綾香をどう思ってるかって?別に黒江綾香以外の何者でも無いだろ、強いて言うなら、関西人の言うツレってのが一番しっくりくるか」

「お前はよくつるんでるからな、茂」

「うちの店の上客でもあるしな、こいつ」

「先輩、遊び人って言われません?」」

「昔から、武子には仕事の時は真面目なのに、普段はだらしないって愚痴られてるよ。あいつ、カタブツだからな」

「その割に、先輩の事、47じゃあまり聞かなかったなぁ」

「47の時は記憶の封印期だったし、俺自身、欝気味になってたからな。その時の事は神保先輩に聞いてみろ」

「神保さん、今は参謀本部で航空参謀ですよ」

「おう。マジか。手紙出さないとな」

黒江は47F時代の恩人に、一期先輩の神保大尉(当時)がいる。黒江が先輩と慕う数少ない一人で、黒江を精神的に立ち直らせたとされる。この時代では既に後方に退き、参謀本部の航空参謀として働いており、黒江の腕を日本に保証した人物の一人である。なお、黒江の記憶の封印期の長機を務めた経験があるため、ある意味、黒江の苦しい時期の生き証人でもある。

「『わたし』の着任した時には先輩を知ってる人達は半分以上いなくなってましたからね。それと、当時はあまり噂にされてませんでしたよ」

「ま、俺の絶頂期は事変だって思われてたしな。神保さんと飛んでた時期はまっさらな時期で、特に印象に残らない振る舞いだったし」

「だから、後輩たちが今のこのアバウトさに面食らうわけだ。あのガキ、えーと、ミーナだったか。軽んじてたろ?」

「冷遇に入りますね。ローテーションに入れなかったし、最初は」

「ローテ入ってないなら勝手に飛ぶだけさ、名目だけ適当につけてな、だからパトロールコースとちょっとズレたコースの訓練飛行の申請して巻き込まれた体で戦闘に参加してやったぜ。あいつは俺達の年齢見て、飛べるエクスって思ったんだろうさ。ミーナは戦時促成世代で、戦史の教育はまともにされてない。だから、エーリカがあれこれ説明して、坂本が叱って、やっと調べるようになったのさ」

「それと、閣下が裏で怒ったんですかね」

「たぶんな。閣下は事変での俺達を見てる当事者だ。それでエーリカにあれこれ資料を渡したんだろうさ。エクスカリバーのフィルムも閣下が手を回したんだろうし」

「なんか、覚醒前の最後に見たとき、すごく情緒不安定でヒステリー起こしてたような?錦ちゃんの記憶だけど」

「ああ、坂本が額に残った傷を示して、ミーナにあえて追い打ちをかけたからさ。坂本には愚痴られたが、ケイが宥めたよ」

「それで降格ですか」

「ドイツに首切りの口実を与えるよりは、予め降格させたほうが穏やかに事が運ぶからさ。ミーナは人望もあったし、現場の士気が落ち込むのは良くないから、降格させといたんだよ」

「それで今は…?」

「西住まほだよ、内面は。目つきが変わって、冷静沈着になった以外は目に見えての変化はない。坂本はシャイニールミナスじゃないかって言ってたがな」

「ルミナスは違いますって。もっとかわいいですって」

「でも、シャーリーはキュアメロディだったろ。紅月カレンのほーが強いけど」

「メロディは元があまり残ってない気が」

「その辺はご愛嬌と思え。紅月カレンと混ざってるのは幸運だ。むぎのんじゃないんだからよ」

「能力自体は使えそうですけどね」

「ま、今は美雲の影武者をバイトでしてるおかげで羽振りがいいらしいしな、あいつ」

「いいなぁ、シャーリー」

「もしかしたら、カナメ・バッカニアの影武者にキュアソレイユが使えるかもしれんな」

「あ、ルージュに似た技を撃てるあの子」

「ルージュに教えたら、かぶってるってぶーぶー言ってた。似た技使えるならツープラトン出来るじゃねーか、喜んで期待しとけよ」

「マーチは風でしたから。ソレイユは炎弾シュートなんだよなぁ」

「風で火がよく燃えて、パワーアップすんだろ。あいつ、妙に気にするなぁ」

「りんちゃん、ああ見えてけっこう、アイデンティティにこだわりあるんですよ。マーチの時は喜んだんだけどなぁ」

「ま、あいつはお前の世界の更に派生世界の出身らしくて、HUGっと以降の連中が生まれなかった世界の住人だからな。色々と信じらんないんだろうよ」

「それと、みらいちゃんにどう説明すればいいんですか、はーちゃんのこと。モフルンが説明したけど、納得いかないみたいで」

「すげえ食いつきだな、お前の後輩」

「…すみません。あの子、はーちゃんと数年くらい、離れ離れになった時期があって」

「しずかに説明させるしかないか。のび太のカミさんに。スペアポケットからタイムテレビでも取り出して…。アレは使えないし」

「まさか、わすれトンカチじゃ」

「あれは使えないって。前、ドラえもんが使ったら騒動になったって言ってたし」

「メモリーディスクですか?」

「あれはドラえもん曰く、記憶を抜き取れるから、あまり使いたくないそうな」

ドラえもんは記憶を映写する類の道具はあるが、大雑把だったり、悪用も可能なものだったりする。

「あ、アレだ!記憶取り出しレンズ!!あれは映写機能があるから、使わせよう」

「見たままスコープは?」

「それだ!だけど、ドラえもん曰く、旧式らしいんだよな」

「こういう時は確実性ですよ。今度の休暇の時に、のび太くんとしずかちゃんにやってもらいましょう」

「それしかないな。ライダーの皆さんが控えてるから、続きは30分後だ」

ちなみに、「旧式の道具の方が使いやすい物有るからドラえもんから譲ってもらったのが有るよ、『見たままスコープ』は尋問が楽になって良いんだよね、耳元で囁くだけで全部見られるから」とはのび太の談。悪用寸前だが、尋問用途に転用するなどの応用は流石の一言であった。







――キュアルージュとのび太は、海軍からの要請で『ラ級の視察』を依頼され、どこでもドアで南洋の地下秘密ドックに行った。スポンサーになった関係で、キュアエース(アリサ・バニングスとして出資したとの事)も同行した――

「エース。なんで、あなたもついてきたの?」

「エースはスポンサーなんだよ、扶桑の」

「うそぉ!?」

「もっとも、今は円亜久里ではなく、アリサ・バニングスなので、その関係で出資したのです、ルージュ」

「や、ややこしー…」

地下秘密ドックはちょうど南洋の新京から数十キロ離れた再開発中の上海市(中国大陸滅亡後、南洋の地名の少なからずが華僑系住民の手で決められたため、中国の地名の複数が南洋島の地名に変じた)に最初のものが造られ、稼働している。そこで建造中の豊葦原(轟天)の艦容が見える。

「あれは?」

「日本から回収した設計図から新造してる海底軍艦の二番艦『豊葦原』。またの名を轟天号さ」

のび太が解説する。日本から回収されたラ號の設計図をもとに、主動力をタキオン波動エンジンに変更して新造中の轟天号を。主砲は地球連邦軍が提供した『51cmショックカノン』砲を三連装で何基も備えるなと、ラ號から改良された点も多い。その姿こそが日本海軍起死回生の『轟天計画』の掉尾を飾る海底軍艦二号艦の具現化。戦況の都合で起工すら諦められた海底軍艦の二号艦を扶桑は日本に極秘で造りだそうとしている。地球連邦軍が納入した資材と技術で建造し、資金は各所からの出資を積もって賄われ、のび太、キュアエース(正確には、アリサ・バニングスとして)、キュアロゼッタ(四葉ありすの名で)、スネ夫、アナハイム・エレクトロニクス、ヴィックウェリントン社、新星インダストリー社、南部重工業などの企業、個人が出資を行っている。つまり、ラ號を23世紀以降の世界の技術で再構築するとどうなるか?その実証実験に近い。ラ級戦艦の量産よりも『核兵器の装備を勧める同位国』は必ず出てくるため、ラ級がそれ以上の兵器である事で黙らせるしかないのだ。(もっとも、純粋水爆でも怪異は時間をかければ再生し得るので、そこもウィッチ世界での研究が下火になった原因であるが)

「23世紀以降の超兵器を持ち、耐久力は30世紀基準で、太陽のプロミネンスにも耐える。それでいて、惑星を破壊し、銀河を股にかけた大艦隊とも単艦で戦える。日本が求める超戦艦のイメージを具現化する戦艦であり、戦艦大和の末裔だよ」

日本側の轟天計画を扶桑が完遂させるようなものなので、書類上は大和型戦艦六番艦の扱い(ひいては超大和型戦艦三番艦)である。扶桑側の書類には『秘匿機材・轟天』としか記されていないが、日本側の一部は『旧軍最後の秘匿兵器』ということにする事で予算上の折り合いをつけるつもりである。宇宙戦艦など、21世紀にはオーパーツにすぎるからだ。(扶桑が地球連邦軍の技術を使い、宇宙戦艦の生産と維持を可能にしている事を公表しても、誰も信じないからである)

「これを造ってることは?」

「日本軍の最終兵器を回収して、実戦に使える状態にしただけと誤魔化すつもりと聞いています。いざ、彼らが管理しようとすると、空自と海自で保有先が決められないでしょうから、扶桑空軍が試験運用名目でこれを使い、量産型を各国海軍で分け合うそうですわ」

「量産型が出揃うって…」

「もちろん、船はクルーが規定の能力に達しないとゴミ同然さ。史実の空母信濃がそうだったようにね。急いでも数年はかかる。こいつも秘匿に時間が思った以上にかかったから、作戦に間に合わなかったのさ」

既に7割は完成しているが、細かい艤装の変更等のせいで竣工が遅れた轟天。また、日本軍最強の大和型戦艦の準同型艦のコピーに近い存在であることからも、情報の秘匿に労力が割かれた要因である。

「これだけの戦艦をよく隠せてますね」

「ドックを地下にしたのは、マスドライバーでの質量攻撃を封じるためもあるけど、日本に嗅ぎつけられて、軍縮の大義名分を与えたくはなかったから、ドラえもんにドックを作らせ、偽装と避難用を兼ねた地下都市を周囲に作ったのさ」

「このドックは表向き?」

「地下工廠ってことになってる。目的としては間違っちゃいないからね」

地下に作られたその空間は扶桑が世界各国に兵器を提供するための工廠であると同時に、ラ級戦艦の量産用のものである。ここだけではなく、南洋のすべての地下空間には地下都市と工廠が作られ、それらを更に鉄道や地下トンネルがつないでいる。建造にはドラえもんとスネ夫、それと出木杉英才が関わっており、扶桑が太平洋戦争での空襲を恐れたことが分かる。

「ドラえもんとスネ夫、出木杉君が作ったんだ。太平洋戦争じゃ空襲はなんであれ起きるけど、それから住民を守るために、扶桑はジオフロントを作らせたのさ。怪異も来ないし、質量攻撃や衛星軌道からの攻撃にも耐える」

この時にのび太が言及した地下都市は扶桑の有事の際の避難場所として定着し、後年に至るまで使われ、扶桑が自らの手で整備可能になってからは拡張も行われる。この1945年はドラえもん達がそれを用意し、扶桑が軍事区画を使い始めた段階であったが、東京オリンピックを大義名分に、太平洋戦争までに都市部も稼働状態とされ、太平洋戦争以後、戦乱での扶桑の経済活動の何分の一かは地下都市で営まれる事になる。この地下都市の運用が後に日本に反映され、22世紀頃の地下都市の建設と有事での運用に大いに役立ったという。

「扶桑に何を味わせたいの、日本は」

「日本は負けて栄えた記憶から、扶桑に同じような事をさせたいのさ。それと、一部は華族と軍の解体を唱えてる。既得権益の破壊を大義名分にしてるけど、この世界は誰かが矢面に立たないと国そのものの維持ができなかった歴史がある。だから、耳を貸さない。連中がロシアで共産革命しようとして、大失敗したのはそういう事さ。あれも結局はロシアを小さくしただけで、扶桑のアジアでの安全保障の負担が増しただけになったし、追い出されたウィッチを扶桑で食わすしかなくなったしね」

「身勝手ね、ずいぶん」

「この世界は自分達の過去とよく似ている。だからこそ、左派は思うがままの世界を実現しようとするのでしょう。ですが、毛沢東しかり、ポル・ポトしかり、チャウシェスクしかり、極端なやり方は失敗しか生まないのですのに」

「連中は歴史上の独裁者連中と違うって思ってるんだろうが、結局はいつも似たような過激な事しかしないんだよね」

キュアエースの言う通り、歴史上に現れた何人かの独裁者や共産政権は同じような失敗と共産思想そのものの限界に突き当たり、矛盾が虐殺や悲劇を生んだ。比較的穏健であった東ドイツですら、末期には停滞が凋落を引き起こしていた。そもそも共産主義の総本山のソビエト連邦にしても、100年と持たずに消えていったため、それを知ったウィッチ世界では『資本主義は栄えても、共産主義は流行らない』事はレーニンが革命に失敗したであろう記録からも明らかであった。それを無理に行おうとした結果、オラーシャ帝国は引き裂かれ、ウクライナとオラーシャは戦争を始めそうな勢いである。また、オラーシャがせっかく育成していたウィッチ部隊は虐殺と亡命で空中分解し、見るも無残な状態を呈した。関係者曰く、今後20年は『ウィッチ中心の作戦行動は起こせない』と嘆かれているほどだ。日本連邦は亡命ウィッチも多数が入隊した事もあり、入隊年齢の引き上げで新人の入隊を実質的に抑えた。だが、その抑えが数年に及んだ事で世代交代が停滞してしまう弊害を生み、後年に扶桑を悩ませる事となる。逆に言えば、軍に入隊を断念したウィッチがMAT(自衛隊の外局扱い)に入る事が多くなり、勃興期を同組織が迎える事に繋がった。ちょうど大戦勃発後に入隊した世代に主力を担う世代が入れ替わる時期に当たった事も受難であった。その兼ね合いでGウィッチは政治的・軍事的な理由から『屋台骨』を担わなくてはならなかった。本人達の意思と関係なしに。

「私達は今後、扶桑を支え、地球連邦軍の一翼を担い、更に日本の安全保障の大黒柱にならないといけなります。多忙すぎる日々になるでしょうが、これも運命ですわ」

「とは言うものの、期待されるのは一騎当千、広報にも顔出しは義務になるんでしょう?なんか、考えただけで頭が痛いわ」

「僕に対するネットギーク達の中傷よりはマシさ。劣等だのどうのってのは、子供の頃の印象でしか僕を見ていない事だからね。裏世界じゃ未熟者は死ぬからね。僕も修羅場を潜ってきたから、東郷に伍する実力って言われてる。君たち(歴代プリキュア)に対しての初代との比較論議と似たようなもんだね」

「私達は代ごとの特性の違いはあれど、優越はありませんのに。迷惑ですわ」

「それはGウィッチもさ。Gウィッチは既に二度死んで、同じ立場で生き返ったりしてるんだから『死を乗り越えた』って神に認められてた存在なんだけどね。何度も犬が生まれ変わって、同じ飼い主に出会うって映画があるだろ?神様だって、死んで生まれ変わらせるプロセスを省きたい時もあるさ。ドラゴン○ールだって、主人公が死んでも、生き返らす事がしょっちゅうあるだろ?聖闘士になると、神の都合で生き返らせられる事もしょっちゅうだし。僕は今の肉体での不死は望んでないから、子孫に転生するのさ。トチローさんみたいなもんだよ。肉体は死んでも意思は死なない的な」

のび太は夢幻三剣士の冒険の経験から、死については一家言あるところを見せる。のび太は幼稚園のうちに最愛の祖母と死別している事から、輪廻転生を信じている。それものび太の独特の倫理観に繋がっている。ルージュは転生という特異な経験に戸惑っているが、プリキュアである事から、どことなく死ぬことが許されない事も受け入れている。エースもまさか、転生を繰り返し、今度は友人が魔法少女である状態で自分がプリキュアに戻る(ややこしいが、キュアエースは生まれからして、転生した存在である)とは思ってもみなかったので、苦笑いである。

「のび太さんとその随行の皆さんですね。私は地球連邦軍の者です。こちらへ」

連邦軍の造船官が一同を案内しにやってきた。地球連邦軍の造船官はドックの案内人で、その階級は造船少佐である。彼の案内でドックの各所を巡る。ドックでは轟天の他、キングス・ユニオン艦と自由リベリオン艦が起工式の最中であった。ラ級戦艦の建造は着実に進んでいるが、どうやって情報を秘匿しているのであろうか。

「ティターンズは自分達に都合がいい史実を活用する事でトルーマンから政権を奪い、たとえ半世紀しか続かないとしても、歴史の主役を演じるつもりです」

「史実のソ連役、か」

「ええ。さしずめ、我々が史実のアメリカでしょうな。太平洋戦争に勝ったところで、冷戦とミリシャの乱立を招くでしょうな。国際連合を正式に発足させたとしても、ガリアに常任理事国は担えないでしょうし、扶桑が史実のアメリカの立場になるでしょう。軍事的に余力がある国ですし」

「欧州が衰退した代わりに、扶桑がほぼ独力で支えないと無理な世界、か。無理ゲーに近いですな」

「扶桑は星の金属資源の枯渇を真剣に悩んでおります。21世紀までに月面開発に乗り出したいと」

「宇宙に活路ですか」

「そうです。扶桑はどの道、超大国になる。核兵器に費やすはずの資金を宇宙開発につぎ込めば、21世紀までに月面開発は着手できるでしょう。外地がスカスカとか、東北の開発をしろと言われてますがね、先方も」

「どうするんです?」

「太平洋戦争の終わりを待って、本土の再開発を始めると通告してきました。今は南洋の要塞化と地下開発に力を入れるとの事です」

「太平洋戦線は何年でしょうかね」

「史実と違い、勝たねばならぬ分は長引くでしょう。五大湖工業地帯の破壊、ニューヨークとワシントンの制圧はハードルが高すぎますが…」

「日本はなんと?」

「どうせ、まともにやっても勝てないんだし、マスドライバーで質量攻撃し、南北リベリオン大陸を分断させろとか言ってくるのです。日本はトラウマが強すぎる」

「まともに勝てない、か。兵器の鹵獲もバカみたいに恐れているし、まともな会議にはなりませんな」

「防衛関係者はまだしも、警察関係に多いのですよ、こういう論調は。だから、我々が仲裁しなければ、まともな議論もできないのです。日本警察は扶桑軍高官を『最新技術に無知な戦バカで、国防という病気に冒されている愚か者』と言って憚らない。これで国防の基本方針が決められます?」

「無理ですな」

彼は日本連邦評議会の国防会議は『自分達がいなければ、まともに機能しない』と嘆いた。会議の場での喧嘩も日常茶飯事であり、会議は扶桑内では『型式的なもの』と認識され、実際の決定事項の実行はY委員会が取り仕切っている。日本側の参加者の少なからずに見下しの意識がある事が揉める原因であり、現場がモロに巻き添えを食った形になった。その被害は佐官級参謀を根こそぎアリューシャンに島流しして現場の参謀不足を深刻にし、連合艦隊司令部の前線指揮を半ば強要するなどの作戦遂行に混乱を強いるレベルである。つまり、黒江はそのレベルの混乱の尻拭いを現場でする羽目に陥ったわけだ。扶桑で大戦世代がこの後の時代に決定的発言力を持ったのは、ひとえに、この時の混乱と戦乱を潜り抜けた自負からくるものである。MATが正式に代替役と位置づけられたのが90年代前半であるのも、大戦世代の反対が根強かったからである。結局、MATが扶桑社会で代替役と根付いたのは組織が斜陽を迎えた後の平和な時代であり、再興が図られたのは90年代後半以降であったという。

「なんか政治的…」

「世の中はそういうもんさ、ルージュ。扶桑だって、本当は地上に連合艦隊司令部置きたいのに、日本側の一部が引きこもりって揶揄するから、未だに戦艦に司令部置いてるからね」

「日露戦争の時代じゃないのに?」

「日本には『司令官は前線指揮で死ぬべし』っていう武士の時代からの風習が生きてるんだ。だから、連合艦隊司令長官は死ぬ確率高い職業だよ。そのためにわざわざ地球連邦軍製の戦艦に司令部置いてるんだよね」

「三笠型は先方の政治的要望を取り入れて作りましたが、CICの容量が規模に比して狭めでしたので、敷島型を用意しているのです」

「発想はもっと大きくしようだもんねぇ。800mは水上艦としてはオーバーだけど」

「宇宙戦艦への改造を前提に要望があったためです。波動エンジンにエンジンを取り替えれば、すぐにでも宇宙戦艦化できます」

「そこまでするんですか」

「日本は海の戦争への一般人の認識なんてものは日露戦争で止まったままですよ。扶桑は日吉に連合艦隊司令部を置くつもりで、完成も近かったのですが、『連合艦隊司令部は陸上にあって後方指揮を取るのが望ましい』とする発令を海軍精神の欠如と批判するのです。東郷元帥の名まで出して。結局、日吉への移転は中断、小沢司令長官以下の連合艦隊幕僚は富士で陣頭指揮に」

扶桑への批判は豊田副武あたりを想定していたのだろうが、実際は名将の誉高い小沢治三郎が連合艦隊司令長官であった。空母機動部隊は山口多聞が指揮官であり、日本側はこの布陣に逆に困惑した。小沢治三郎が指揮官になる時代に山口多聞が存命だからだ。しかも、角田覚治などの先任を差し置いて、空母機動部隊司令長官を拝命しているからだ。(山本五十六の意向で連合艦隊の次期司令長官の内定も出されている)

「小沢司令長官は同位体の評判を?」

「気にしておいでです。M動乱からは彼が司令長官ですが、理論倒れのインテリとの陰口も」

小沢治三郎は史実では陣頭指揮を取った戦で連戦連敗であった事もあり、日本からは懸念の声も大きい。だが、その統率力は然るべき兵力さえあれば真価を発揮する。山口多聞を戦術家とするなら、小沢治三郎は戦略家であり、井上成美も『戦上手なのは小沢だよ』と評する。そのため、山本五十六は豊田副武の後任に彼を抜擢し、実戦肌の参謀をつけさせたのだ。

「だから、実戦指揮を喜んでおいでだったのですね」

「はい。彼は水雷出身ですので、第一戦隊を率いれるのか懸念されていたそうで」

「ガチガチの大砲屋より良い結果出ますよ。大砲屋はカタイですからね」

「あの、水雷って?」

「ああ、第二次世界大戦まで盛んに使われてた海軍用語で、魚雷や機雷の専門家のことさ。21世紀でもまだ用語としては生きてるよ」

のび太がルージュに解説する。ちなみにこの頃は航空屋の台頭の時期であるが、そもそもは水雷から考えとしては分かれた分野であり、小沢治三郎も南雲忠一も水雷出身である。

「戦艦も魚雷も考えようによっては、遠くに弾をぶつける道具さ。水雷出身のほうが闘志旺盛の提督が多いと思う」

「水中を攻撃するのが水雷、水上を攻撃するのが砲術、こういったのが古来の区分です。帆船の時代は白兵戦までが華だったのですが、鉄の軍艦の時代になると見なくなりました」

「軍艦はミサイル一発で沈まない。よほどのポカじゃないとね。21世紀には艦隊戦自体が絶えたからショーみたいになってるけど、本当は壮絶だよ、ルージュ」

砲撃戦。ルージュの時代には絶えて久しい大艦巨砲主義時代の戦。のび太は戦列艦の時代の砲撃戦なら見たことがあるが、近代軍艦同士の砲撃戦は見たことがない。(宇宙戦艦は別)エースも同じなので、三人は近代軍艦の砲撃戦がどういうものなのか。それに思いを馳せる。エースは出資者でありながら、『無知』は不味いと考えており、関心は高かった。第二次世界大戦型戦艦の砲撃戦は遠距離から互いが撃ち合うものである。その常識は後世に忘れ去られて久しい。

「僕は第二次世界大戦の戦艦の砲撃戦は見てないんだよね。戦列艦の時代なら、キャプテン・キッドのを間近で見てるんだけど。たまに仕事で一緒する海自の人に観艦式のチケット貰えるけど、三年後(2022年)は見に行く?」

「行こうかしら…」

「それがいいでしょう」

「待てよ?タイムマシンで今年の観艦式の確保しよう。今年は扶桑の派遣戦艦が交代して初の観艦式で、超甲巡もいるはずだし」

のび太の世界での2019年度の観艦式は日本連邦海軍としては初の観艦式であり、扶桑の派遣艦隊の旗艦である大和型戦艦が交代した初の観艦式であった。また、随行の護衛艦が旧式の長門型や加賀型でなく、新式の超甲巡であり、大和型戦艦に似せた艦影が注目された。

「いいの?」

「何、知り合いもチケットは毎回送ってくれるけど、今年は本当はノビスケのサッカーの試合にぶつかってたんだ。タイムマシンでチートくらいいいさ」

「サッカーの試合は?」

「コピーロボットを借りるか、カミさんに頼むさ。あいつもはーちゃんや調ちゃんのおかげで聞き分けはいい子に育ってるし。ま、いざとなったら、タイムマシンで戻って観るよ」


のび太が2019年の観艦式をどう見に行ったのか。父親としては自分の父親のように振る舞う一方、のび助のように子供とのレジャーの機会をフイにしたくない。そのためにタイムマシンを使っているのだ。また、旅行の類はできるだけ連れて行くようにしており、のび太夫婦なりの子育て法がわかる。(数十年後、ノビスケは30代前半時に月へ新婚旅行にいくので、のび太夫婦の嗜好を受け継いだのが分かる)

「ま、あいつも30歳になると、月へハネムーンだけど」

「え、つ、月ぃ!?」

「ああ、55歳くらいの自分に聞いといたんだ。僕達と同じ式場で披露宴して、そのまま宇宙港だ」

ノビスケは後年、フォン・ブラウン月面基地(後のフォン・ブラウン市)の開発初期に宿泊した夫婦の一人として歴史に名を刻む。彼らが新婚旅行で行った月面基地は数百年後、地球連邦一の大都市になるのだ。また、23世紀の野比家の末裔『ノビ少尉』の別荘もフォン・ブラウンにあるため、月には縁があったのだ…。


「ガキの頃、道路光線使って、月まで歩いて行こうとしたの思い出すよ。倅が大人になって、今の僕くらいになる頃には、フォン・ブラウンの前身の月面基地に行く。何の因果かしら」

「なんだか、気が長い話ですわね」

「そんな事ないさ。数十年は長いようで短いもんさ。特異点なんてやってると、そういう風に感じるのさ」

のび太は特異点である事もあり、時間の観念は独自のものになっている。無人島で10年生き延びた経験ものび太の経験にプラスとなった。ただし、今持つ肉体での不死は選択せず、子孫に転生した上で得るというのは『肉体は死んでも、意思は生きる』というのび太の死生観によるものだ。

「それに、もしもボックスで平行世界なんてのを見てるとね。自然に考えは変わるもんさ。世界は可能性に満ちてるからね。この世界は中国と朝鮮は怪異が原因で滅んだ世界だけど、それ自体を気に入らない連中はごまんといる。多分、日本で起こってる対扶桑軍高官へのテロ行為の黒幕はたぶん、露・中のどれかだろうね」

「テロ?」

「ああ。ウィッチ世界の同位国に冷淡な露、同位国が明朝で途絶えた中国はここの台湾の領有権を中華民国と一緒に主張してたからね。台湾は同位国が無いことに気づいたのと、扶桑が真っ当な統治してるから、手を引いたよ。最も、軍事交流名目で空軍を置いてるけど。ところが、人民共和国の方が野心丸出しなのさ。統合戦争で戦ったのが分かるくらいさ」

日本連邦は統合戦争で中華人民共和国と矛を交え、勝利を収めた。その傷は日本連邦にも深く残り、22世紀終わりに地球連邦軍が再発見するまでの数十年の連絡途絶期間を挟む事になる。23世紀以降は連絡が回復したため、名実共に第二次連邦時代に突入している。その意味でも統合戦争は『悪夢』とされ、反統合同盟構成国の出身者が地球連邦の要職につけない理由付けともされていた。(ユング・フロイトの大統領就任はその解消の証とされる)

「それが表面化したのが統合戦争。それを乗り越えたと思ったら、ジオニズムの台頭やら宇宙戦争の時代だからね。人の行く道には戦いはつきものらしい」

のび太はそう〆る。時代ごとに、人は何らかの敵が現れ、戦いを強いられる。怪異が落ち着けば、文明につきものの問題は表面化する。この世界はまさにそれだ。怪異の脅威度が低下すると、ティターンズはフランクリン・ルーズベルトの野心を図らずも受け継ぐ形で行動を起こしている。緒戦で力を見せた後、東洋唯一無二の列強である扶桑を叩こうと考えるのは自明の理である。フランクリン・ルーズベルトが東京にリトルボーイ、もしくはファットマンを落とそうとしていたように。

「この世界を世界大戦に導いたのは、僕たちの責任だ。なら、ティターンズを叩き、バダンを追い出すのが禊をする一番の近道さ」

のび太は自分の世界のグリプス戦役で敗れた腹いせに、漂着した先の世界で一花咲かせようとするティターンズ残党を叩くため、リベリオンとの太平洋戦争はやむなしとした。そして、ティターンズがフランクリン・ルーズベルトの抱いていた優生思想を上手く利用し、リベリオンを統治する大義名分にしている一方、自由リベリオンのように、ティターンズの統治をまやかしと断ずる勢力もいるが、リベリオン国内の有色人種達は過去の歴史から、ティターンズに協力的であった。リベリオンが『瑞穂国を虐殺して』最終的に成立した国であり、元来の上流階級は白人至上主義気味だったからだ。それが太平洋戦争でも、一件落着の大団円にならない一番の理由である。

「とはいうものの、たぶん、この世界の人達は冷戦の道を選ぶよ。そのほうが戦前の人種差別主義が消えるし、白人の自惚れも無くなる。フランスは自分達が欧州で一番偉いと思ってるし、ドイツは自分達が世界一の技術を持つって信じてる。それを太平洋戦争は変える。多分、日米英は戦後の甘い汁を吸えるけど、他はそうはいかなくなるから、扶桑は欧州のいくつかの国との戦争はしないといけなくなるだろうね」

のび太の一言は後年のアルジェリア戦争などを予言していた。後年の記録によれば、ガリアはペリーヌが影響力を奮う事で軍備の再建と近代化が立ち遅れ、アルジェリア戦争に敗れる。太平洋戦争で洗練された近代装備を持つ扶桑軍と、戦間期の装備が未だ現役のガリアでは、軍事力の地力に差がありすぎたのだ。ただし、『独立派』が政変で駆逐され、扶桑への恭順派が政権を担う事は誤算であったという。その政変は独立で安全保障のバックボーンが無くなるのを恐れた住民が自発的に起こしたもので、扶桑はやむなく、アルジェリアを自治領という形で間接統治する羽目になったという。それが扶桑の誤算であるが、『ウィッチ世界では小国の独立はウィッチが安定的に確保出来ない限りは夢物語である』事の証明がなされた出来事だった。



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