外伝その384『米の思惑とは?』


――ダイ・アナザー・デイでウィッチ、とりわけ、空戦ウィッチは未来兵器のみならず、当時最高レベルのレシプロ戦闘機の相手も覚束ないという体たらくぶりを露呈した。これは怪異相手には12.7ミリで良かったからで、いくら初速を上げても、元来の口径の関係で、魔力の効果が見込めない通常兵器にはあまりに微力であった。坂本の予てからの懸念が的中した形である。通常ウィッチはサボタージュもあり、被害の低減を理由に、戦線にあまり投入されなくなった。運用も『監視』も兼ねて、特に戦闘ウィッチは基地の直掩任務に絞られるようになっていた。その現状に不満が溜まっていたのも事実だが、サボタージュが頻発したせいで軍上層部の戦略が根底から崩れた以上は当然の懲罰だった。現場の体たらくで元ウィッチ閥との対立も表面化し、これが扶桑でのウィッチ兵科の解消の流れを決定づける原因となった――


「母さん、現場とエクス閥の対立も表面化してきました。これが…」

「ええ。これが兵科解消の伏線よ。今は竹井の爺さまが存命だからいいけど、亡くなったら政治的後ろ盾は消える。あなたの時代の教育課程に変容し始めるきっかけが、この戦よ、麗子」

智子は養子(とはいうものの、血縁関係はある)の麗子からの報告を聞いていた。二代レイブンズである麗子の時代には、ウィッチは航空課程及び、機甲関係課程を受講した者が発現した場合、R化を前提にしての長期間の教育を受けて生まれる『特技兵』と扱われており、ダイ・アナザー・デイ当時のような独立兵科とは扱われてはいない。これはダイ・アナザー・デイ後のクーデターを経て、ウィッチ志願数が大きく目減りし、兵科の維持が覚束なくなった事、ダイ・アナザー・デイで政府と軍上層部の不信を買った事が遠因であった。

「でも、この時代はまだカールスラントは元気ですね」

「大戦初期からの貯金よ。でも、技術的な優位がアメリカからの技術供与で消えたから、そろそろ急速に衰えるわよ」

「アメリカはどれだけの技術を与えたんですか?」

「第一次援助で、1980年代相当までの技術よ。だから、第四世代ジェット戦闘機までを作れる素地は数年以内に整うわね。戦車も遠からず、第二世代相当までの発達を起こす。カールスラントは所詮、ここ5年くらいの優位性しか持ってないもの」

日本が集積回路の製造技術を与えた(地球連邦軍がM粒子対応型の技術も与えた)事もカールスラントの科学技術の優位性を帳消しにするどころか、『時代遅れ』としてしまった。当時はカールスラントのウルツブルグが先進的と持て囃されていたが、それを遥かに超える次世代技術である『フェーズドアレイレーダー』が持ち込まれ、M粒子対応型に改良されて投入されると、連合軍の既存の全ての電子装備は時代遅れとなった。64Fもそれが設置済みの駐屯地のみに駐屯しているため、連合軍は電子装備の急激な近代化に追われ、気が気でなかった。

「フェーズドアレイはある、第三世代ストライカーを使っているのに、どうして先方に気を?」

「ウルスラ・ハルトマン、知ってるでしょ?」

「ああ、あのおばさま」

「あの子がうるさいのよ。目隠ししろって。技術陣がやる気を無くすったって、逆に発奮ものと思うけど」

「確かに」

ウルスラ・ハルトマン。エーリカ・ハルトマンの妹で、技術畑のGウィッチ。Gウィッチでは極めて貴重な技官である。彼女は『あまりにチートすぎるから、使用を目隠ししてほしい』と要請したが、日本側が補給品を差し止めてしまう失態を重ね、それに黒江が業を煮やしたために、馬耳東風の状態である。

「仕方ないわよ、日本がポカを連続して、この時代の既存ストライカーの部品さえ差し止めたのよ?おまけに、マウザー砲を戦後のNATO規格と違うってだけで死蔵だし」

「は?」

「銃弾の供給が続かないったって、80万発の弾薬が数ヶ月で無くなるかつーの!」

扶桑には各時代のエースが独自に輸入したものを合計して、80万発もの弾薬と数百の銃が死蔵状態に置かれていた。扶桑は何度も戦線への供給を計画したが、その度に何らかの妨害で駄目になった。一番最近の計画は防衛装備庁の『飛行戦隊に付属する武装担当の整備班の手に負える物でないし、現地の整備隊で分解する事も厳禁の代物は送れん!』という横槍で潰されている。扶桑の最精鋭たる64がカールスラントの整備隊も自前で抱えていることが防衛装備庁に伝わったのは、その後のことであり、黒江が苦情を入れたことで顔面蒼白となったが、防衛装備庁は『数年も弾薬庫に入れっぱなしのものなど、湿気っているのではないか』と使用に未だ懐疑的であり、黒江はロンメルに泣きつき、ロンメルが急ぎ、弾薬を用意する羽目になっている。『ロンメル元帥を武器調達に駆り出した』事に顔面蒼白となった防衛装備庁は黒江の提言を受け入れ、まずは南洋での試験として、先行使用を行うとした。64はロンメルからのルートでマウザー砲の大量の弾薬と銃を供給され、使用できる事になった。

「智子、ロンメル元帥が見えられたわよ」

「やぁ、トモコ」

「ロンメル、手筈は?」

「君のファンがアイクに談判してくれてね。直ちに数十万の弾薬と数百の銃、それとアヤカとクニカご所望のコーク製造機も送ったそうだ」

キュアビートがロンメルを連れてきた。この頃には、レイブンズと三将軍は公私ともに親しい友人であるからか、ロンメルも気さくな喋り方である。

「アイクも気を使ったわね」

「アイクが飲みたいからだろう。あいつは今や、自由リベリオンの大統領も兼ねているし」

「職権濫用な気が。まぁ、補給が来るからいいか。それで、レーヴェはどうなの?シャーロット達が気になっていたわよ」

「ストライカーの方は遅れるが、実車は生産に入った。第一次生産分は今週末にも回される。ドイツの手土産のユーロファイターと合わせたらしい」

「ユーロファイターぁ?あの21世紀の?」

「ああ。義勇兵を募って、一個フライト分は送り込んだらしい。うちのデブがそっちに色々渋ったせいで、アメリカから買ったことへの詫びらしい」

「防衛装備庁が青くなるわね。綾香に送ったのは耐用年数過ぎてそうなファントムよ?綾香用に程度がいいの送ったって言ったって、大多数は老朽化で使えないもの。イーグルもF-2も送らないんじゃ、自衛隊の沽券に関わるわ」

「それで、あの子が愚痴ってたのか」

「ベトナム戦争の時代の機体の改修機よ?21世紀じゃ耐用年数が終わりかけてるような老兵。送られて、試験飛行しようとしたら、ノズルは取れる、主脚は折れるわ、トラブルだらけで、キレたのよね」

防衛装備庁としては、未だに使っている部隊からかき集めて送ったのだが、欧州の環境の違いなどで老朽化が進行していたのだ。

「なるほど」

「それについてだけど、朗報よ。私がプリキュアとしての名前出して、防衛大臣に電話で直談判したら、総理大臣の許可が出て、F35の追加分の前倒しをさせるって」

「喜ぶわよ、それ」

「35、使えるの?」

「21世紀の初頭時点での新鋭機だから、機動性はそこそこだけど、悪くは無いわ。原始的なヘッドマウントディスプレイだけども」

「時代的には仕方がないわね」

「米軍が先に飛ばしたけど、ブリタニアだかガリアだかのアホが怪異と誤認して同士討ちして傷をつけたって話が来てるわ。低視認性も考えもんよ」

「それについては、米軍や自衛隊と協議中だ。ウィッチは敵味方識別装置をつけてるわけではないからな」

「うちは、事前に講習しといて正解だったわね」」

「綾香や私、それと赤松さんが講義で仕込んだのが吉と出たわね」

「貴方があの子にVFを仕込んだって聞いたわよ、ビート」

「あの子がフロンティア船団に来てた頃に教えたのよ。私やオズマは教官経験もあるから。あの頃はナイトメアに乗ってた事もあったけど、すぐにブレイザー、次いでエクスカリバーに乗り換えたわね」

「あの子、今じゃ縁あって、新星を贔屓にしてるけど、ギャラクシーのに乗ってた経験があるのね」

「乗り始めの頃ね。オズマは格納庫で余ってた機体とか言ってたわ」

黒江はVFに乗りたての頃は『ナイトメア』であったが、すぐにVF-19系に鞍替えし、現在まで愛用している。イサム・ダイソンと出会ったのが最大の理由だが、元々が隼乗りの黒江の性分に合っていたところも大きい。なお、キュアビートはクラン・クランとして、VF-25Gに搭乗経験がある事が知られているが、現在はS型に乗っているとのこと。

「あなたはG型だっけ?」

「今はS型よ。『あいつ』のシートを奪う気はないし、元の姿だと、ゼントランの姿で戦ったのも有名になりすぎたし…」

「あ、あれさ、ゲームでモデリングされてたわよ。3Dで」

「めっちゃ恥ずかしいんだから、冷静になると!特に過去の記録が回復してくると、周りにネタにされて…」

赤面するビート。その事も容姿を黒川エレンの姿で固定した理由であるのだが。

「アンタ、プリキュアしてるから、そういうの窓から捨てたかと思ってたわ」

「これとそれは話が別よ別ーっ!!」

冷静になると、アーマードクランは『その場の勢いでやってしまった』と後悔しているようだが、プリキュアになっている分は気にならないという妙な基準を持つキュアビート。普段とパーソナリティの切り替えが可能かどうかが基準らしいのだが。

プリキュアのほうが恥ずかしくない?」

「こ、これは私の勝負服よ、勝負服!」

「元は猫だったくせに」

「昔のことは無し〜!」

いじられるキュアビートだが、立場は軍隊階級で高めのマーメイドより上かつ、マカロンとほぼ同格で遇され、佐官待遇である。マーメイドはマカロンとビートの着任で中間管理職の様相を強め、政治に疎い坂本のサポート、他のプリキュアの統制などに追われている。今回においては、坂本が政治を嫌がり、ほとんど丸投げした事から、クロウズで唯一無二、政治に深く関わる羽目となったマーメイド(竹井)。

「あ、竹井……、いえ、マーメイドに声はかけた?」

「様子を見に行ったら、あの子、マーメイドに変身してるのに、目に隈ができてたわよ」

「うわ、坂本、どんだけ無茶させてるのよ」

「なんでも、美緒が綾香寄りだってんで、あの子に本土の若い連中が接触してくるみたいでね」

「海軍のガキ共は何が不満なの?麗子、アンタの時代に何か伝わってるでしょ?」

「おばさまが陸軍出身だからですよ、母さん。それが連合艦隊参謀も兼任した上、源田実司令の子飼いって言われてるでしょう?」

「確かに、あたしらは陸軍出身よ。だけど、それだけで親父さんと懇意にしてることの何が問題なのよ」

「この時代の中堅は海軍航空隊が集団戦闘重視に教育を切り替えた辺りの世代です。陸軍流の撃墜王を公に奨励する風潮を気に入らない連中などはごまんといます。比較的に話が分かるはずの志賀大尉もおばさまと揉めて、坂本さんに叱られたでしょう?」

「ったく、誰がいい始めたのよ」

「赤松大先生も、一時は教官にされてたように、突出した個を疎んじるように教育したら、大戦が始まった。派遣部隊に多量撃墜者がいないと、海軍航空の沽券に関わるから、自己申告が黙認されたんです。だから、この時代の海軍の連中は『へそ曲がり』なんです」

「直枝も転生前はイキってたなぁ。今は喧嘩っ早い以外は優秀だけど」

「直枝おばさまは芳佳おばさまがストッパーになっるし、それに、あの方はストレートだから、芳佳おばさまに従ってますよ」

「芳佳は何したの?」

「そりゃ、キュアハッピーの力で一回、ボコしたとか?詳しくは教えてくれないんですけど、直枝おばさま」

実力迫中なコンビとこの時代から名を馳せる二人。思考の差で芳佳が上手であった。心理的に罠に嵌められるからどうしても勝てないパターンで模擬戦では菅野は連戦連敗で、反応の菅野、誘い込みの宮藤と評されていく。敵の動きに反応が早いのは菅野、見定めて射撃と機動で相手の動きを誘導して近接ぶち込む宮藤という住み分けで分担が進み、扶桑空軍初の撃墜王コンビとして、戦史に名を刻んだのだった。

「その分、味方につければ頼もしいですよ。圭子おばさまが90年代に衆議院に出た時、生存してた64Fの票田固めをしてたんですから、直枝おばさま」

「圭子、衆議院出たの?」

「平和になった直後に一期だけ。猫かぶってましたね、その時期は」


「ウソぉ」

「綾香おばさまは遊び人ですけど、圭子おばさまは澪を引き取って、忙しい時期があったんだそうで。その流れで国防族議員になってた同期の地盤から出たんだそうで」

「その頃のあたしと綾香は?」

「引退直後にアレスとの聖戦に従事しました。あたしは聖闘士にならなかったから、まだ現役で聖闘士ですよ、母さん」

「おおぅ…」

「アンタ、やっぱり継いでないのね」

「柄じゃないですよ。ただ、私の子には継がせますけどね」

「いつになるのよ、それ」

「いいじゃないですか。どうせ、歳を取らないんだし、うちの一族」

智子は養子の麗子が自分の立場を完全には継いでいない事に落胆するが、『孫』には継がせると明言する。麗子は二世のジンクスを気にしており、それもあって、『素質』はあったが、聖闘士の立場だけは継がなかった。ただし、その子にあたる自分の実子(智子の義理の孫)には必ず継がせるとしている。その言葉通り、更に後の時代、三代目レイブンズが結成された時、智子の孫は聖闘士に叙任されていたという。

「それはそうだけどね」

「人から神になるってのも大変よ。誹謗中傷されるから。死なないってわけで、危機感ないとか言われるし」

「私達だって、負けそうになったことは何度もあるのよ?一般人はなんで、こうも日和るのかしら」

「一般人はそういうものだ。当事者意識は薄いし、負ければ徹底的に冷遇する。ヒーローやヒロインに負けは許さないし、許されない。それも問題なのがね。一種の呪縛に近いよ」

ロンメルはGウィッチとヒーロー(ヒロイン)に共通する問題を一言で表す。特別な力を持つ者は負けが許されない。それが一種の呪縛になっていると。キュアドリームもその呪縛に囚われた事が精神的に追い詰められるきっかけであったように、勝ちが常に求められるというのも辛い事なのだ。ゴルゴの『俺達の世界に次は無い…』という発言を引き合いに出され、常勝を外野から求められる。そのためには極限まで鍛えなければならない。それが一般人も軍隊に意見できる時代の善し悪しな点であった。

「アメリカは軍需品を売りつけて、連合軍を紐付きにしたいようだよ」

「仕方ないわ。軍事的には、どうしてもアメリカの技術は必要だもの」

「各国の技術者はショックを受けているようだが、仕方あるまい」

「カールスラントの驕りのツケよ、ロンメル。50年以上の技術格差を味わう時が来たのよ」

カールスラントは技術的優位性を0どころかマイナスにされたに等しい上、肝心要の軍需品での外貨獲得も殆ど潰され、カールスラントは黄昏の時代を迎えていく。サラマンダーやシュワルベの輸出が、より優れた次世代機の『セイバー』に潰された事がジワジワと効いていくのだ。

「扶桑に侘び文をドイツが空軍に書かせたそうだが、燃料噴射装置も格安で製造権が与えられたが、今やジェットの時代で、軍用には殆ど用無しになったとはな」

「液冷エンジンそのものの需要が減ったもの。マーリンのラインが保たれたのだけでも幸運よ。DB605の供給なんて、打ち切られる寸前までなって、空軍がパニクったから、保守部品だけは供給することになったんだから」

連合軍の実権を握りつつある日本は『安定した性能と稼働率』であるマーリン系に液冷エンジンの生産を絞る意向だったが、ドイツ系航空機はほとんどが倒立型であるDB系を前提に設計されている上、ロマーニャにもエンジンを供給していた都合、全面的打ち切りは無理があった。アメリカの仲裁で『保守部品の供給は継続する』事になったのは、その実情を鑑みての事であった。こうしたパニックもカールスラントの軍事的衰退の過程であった。

「ウチの空軍は冬の時代になりそうだ」

「その代わりに、ウチは血の献身を常にする羽目になりそうよ。ま、ゲーリングがボッたせいと思いなさい。ま、うちも主計科が尾張と川滝の液冷エンジンの生産能力の見積もりを誤ったせいで物笑いの種にされたけどね。ライセンス契約がまとめられて、ドイツの意向で燃料噴射装置も含めて相当に値切られたそうだけど、日本は空冷エンジンに排気タービンをつけるのに傾倒して、液冷エンジンに興味を無くしたからなぁ。生産率量産程度にライン稼働になったのは幸運ね」

「史実の記録のせいね」

「液冷エンジンに馴染み薄いから、ウチの軍隊。それと海軍は義勇兵が下士官とかに海軍精神注入棒で御礼参りする事件も増えてね。海軍精神注入棒の回収が急がれて、下士官以下のシゴキへの士官の仲裁が必須になったから、カウンセラーを緊急で乗艦させたそうよ。見て見ぬ振りができなくなって、士官連中が心労で倒れてるの続出したから」

「大変ね」

「銃後に監視されて息苦しいって愚痴ってるそうよ、海軍の連中。史実のツケを仕払されてると思えば、同情するわ」

「日本は海自の雰囲気へ変えたい意向があるが、なんだかんだで、大まかにはそのままだというがね」

「ま、海軍精神注入棒はまっつぁんの時代には、ウィッチであってもやられたそうだけどね」

「マスコミにしょっぴかれ、ますます志願が減るのを恐れているのだろうな。扶桑海軍はクーデターをしやすいと見られていて、志願数が減っていたと聞くしな」

「裏ではやってたそうだけどね、海軍精神注入棒のシゴキ。大問題になったのは、一部の義勇兵が下士官や古年兵への御礼参りをして、尾てい骨をへし折られ、腰が曲がって、軍を辞めざるを得なくなった下士官が出たからだもの」

「問題にならんと変えんのは問題だぞ。SMクラブにスパンキング講師でも派遣してもらえ、あちらの業界は怪我させずに苦痛与えるプロだそうだし」

「小沢さんに言っとくわ。仕方がないのよ、あそこは。伝統の名のもとに理不尽がまかり通っててね。だから、芳佳も、孝美も、直枝もこっちに移るのよ」

海軍航空でまかり通る同調圧力も、赤松を含めての有力者らの空軍への移籍を促進させているのも事実である。坂本は『私が改革するしかあるまい』とし、風土改革のために海軍に残留する旨の発言をしている。(政治方面からの改革は軍人一家の出である竹井に丸投げしたが)

「ま、次のクーデターで志願数がますます減るだろうし、いくらなんでも、風土を改革しようとするでしょ。下手すれば、指揮系統を海自に一本化しようとする動きに大義名分を与えることになるし、海自も連合艦隊を飲み込むのは嫌でしょうし」

「海自だって嫌でしょう。日本海軍をまるごと指揮下に入れるのは、海自の組織だって考えてないわ。政治家はその逆を考えてたからやりかねないわね」

「しかし、海自は専守防衛ドクトリンで、完全な外洋海軍とは言えないと聞くが?」

「昔の日本海軍も外洋海軍じゃないって揶揄されてるわよ?航続距離が短いってどうの」

「うちの海軍が聞いたら泣くよ?ビスマルクを回航させて貢献したいと、レーダーがいったら、日本の官僚に公の場で大笑いされたとか泣いてたぞ」

「防衛大臣にいって、防衛装備庁に謝罪させるわ。防衛装備庁のバカ共は……」

「ビスマルクは大食いで、燃費良くないけど、イタ公のリットリオよりはマシよ。リットリオなんてフリッツXで轟沈するのよ、まったく…」

防衛装備庁はエーリヒ・レーダーを前にして、『ビスマルクごときが遠距離砲戦を前提にした日米の戦艦相手に戦う?お笑い草ですな』と宣うという失態を犯し、黒江と山本五十六を悩ませた。ビスマルクはカールスラント海軍艦艇としては長めの航続距離を持っており、欧州への回航も可能であった。射程と砲戦距離は同一では無いのが当時の常識であるが、ビスマルクは構造がバイエルン級のままである事、日米戦艦に口径で劣り、練度も劣るという点から防衛装備庁は断った。バルト海想定の戦艦に大西洋などの広大な戦場で戦うのは重荷と考えたからだ。(余談だが、同席していた同艦責任者のエルンスト・リンデマン大佐は『このように力強い艦を呼ぶに相応しい言葉は“彼”であって、“彼女”は似つかわしくない』とし、軍艦を女性形で表現する通例に異を唱えていた事を揶揄された。実際に艦娘・ビスマルクが既に現れていたからだが、『扶桑の文化に口を挟むつもりはないが、ビスマルクのことは個人的な考えであって、海軍全体の考えではないというのを言っておきたい』とし、艦娘・ビスマルクへは複雑な思いを持つことを示唆したという)

「リンデマン大佐も史実の発言で揚げ足を取られたってぼやいてたし、こんな調子じゃ、大和民族は卑しいって思われるってのに、防衛装備庁の連中は弁えるっての知らないのかしら」

「山本五十六閣下が『日本では男性名名乗って戦場に立つ女性は少なからず居たので、そのようなものと気になさらない方がよろしいかと』って慰めてたぞ。防衛装備庁の役人は口が悪いね」

「ったく、こっちは装備を非合法で集めてるんだから。あの無能な役人共…」


基本は楽天家に近い智子をして、ぼやかせる無能ぶりを露呈した防衛装備庁。黒江も『無能な働き者しかいねぇ』とぼやき、近頃は交代したばかりの防衛大臣に直談判して装備の調達と人員派遣を決めてもらっている。それは防衛大臣と総理大臣も問題視しているとのことである。皮肉な事に、防衛装備庁は日本連邦軍体制下で無能ぶりを露呈した事で、総理大臣に存在意義を問われる事態に陥った。彼らは失態の汚名返上を図るが、度重なる妨害でGフォースにすら装備が行き渡らないことに業を煮やした黒江が『現場経験者以外協定会議や国防会議に寄越すな!!』と怒りの申し入れを行った事でトドメが刺され、防衛装備庁長官以下、各部門責任者の首が飛んだという。

「統括官はおられますかな?」

「ああ、あの子なら、子供達の特訓中よ。報告なら私が受けるわ」

「ハッ、それでは。防衛大臣より、F-35AとBの配備が前倒しされたと連絡がありました」

「ご苦労。伝えておくわ」

「失礼いたします」

自衛隊での黒江の副官が報告していく。黒江には自衛隊での副官がいるため、時々、顔を出していく。黒江が自由奔放なため、事務作業を任されているのが彼だ。個人的な副官は黒田だが、公の場では彼が副官である。扶桑軍が黒江を昇進させたのは、黒江が自衛隊で要職に就いた。しかも将官の』という既成事実が昭和天皇の目に止まり、扶桑で昇進させない事に疑問を抱いたのがきっかけである。

「あの人が綾香の自衛隊での?」

「そそ。統括管理室の室長になった頃からの付き合いだそうよ。もう一人いて、元はファントムライダーのコンビだったんですって。引退前のご奉公って事で綾香の下に回されたんだそうよ」

「へー…」

「元パイロットだから、講義も担当してもらってるわ。経験者は喉から手が出るほどほしいし。のぞみに担当させたかったけど、現役時代がアホの子だから、仲間内で心配されちゃって。錦としては教官資格持ってるんだけどねぇ」

「あの子、錦としての飛行経歴は?」

「大戦序盤からの古参よ。その時にトゥルーデやエーリカと会ったらしいんだけど、二人共、覚えてないって」

「あらら」

「47でキ44を乗り回したそうだから、腕は確かよ。それはのぞみにも受け継がれてるはずよ」

実は中島錦はテストパイロットであると同時に、母校にあたる明野飛行学校の助教に誘われており、教官資格も既に持っていた。それはのぞみに受け継がれたのだが、のぞみの現役時代のアホの子ぶりから、周りに心配され、錦としての技能はイマイチ発揮出来ていない。

「りんに言った?」

「言ったわよ。そうしたら、顔を青くしてたわ。現役時代はのび太タイプだったのね、あの子」

「昔、かれんから聞いたことあるわ。あの子は普段は子供の頃ののび太みたいにドジばかりするけど、変身するとスイッチが入るって」

「ますます似てるわね、あの二人」

「ええ。本質が似てるのを感じて、のぞみは彼に惹かれたんでしょう。のび太はああ見えて、スケコマシだし」

「のび太の養子が転生なんだっけか、妖精の」

「そうらしいわね」

「彼の事はケイから聞いてるが、人間的魅力だと思うがね、優しさというのは。今どき珍しいよ、彼のような紳士は」

ロンメルをして、『今どき珍しい紳士』と言わしめたのび太。のび太は子供の頃は『お人好し』と揶揄される事もあったが、青年期以降は自分の武器に転化すらできるという特徴を持つ。のび太は『神に愛され、死にたくても死ねない』身となった彼女達の後援をしつつ、ネットギークの誹謗中傷も意に介さずに関わり続ける。のび太の無常の優しさは調、ことはの両者を絆し、のぞみもそうなりつつある。のび太の『優しさ』はどの同位体も共通で持つのはフェイトが調査済みであり、のび太が過去にキー坊とピー助、ベガ、グリ、ドラコに慕われていた事も知られており、それがみらいがことはの同居を受け入れる理由であった。キュアマーチがそれらの映画を見せたとのことだが。

「そうそう。のび太が子供の頃に25回冒険したといってたわよね?そのDVD、全部あるの?」

「大人になってから買い集めだしたって言うから、ねじ巻き都市冒険記以降はまだ買ってないそうよ。ただ、銀河超特急までで充分にのび太の事は理解できるはずよ。あと、ドラえもんの性格も」

「どうして、買い集めだしたのかしら」

「はーちゃんが見たいって、いい出したかららしいわ。大まかにはアニメ通りの冒険だったそうだし。ただ、魔界大冒険はのび太とドラえもん以外は知らないけど」

「どこのルートで?」

「なのはを使いっぱしりにしたらしいわ。ヴィヴィオの事も引き合いに出して。調、なのはの家でバイトもしてるのよね」

「なのはの戦いはのび太の世界でアニメだし、お互い様よね。私たちもだけど」

「プリキュアは初代や貴方達のことをTVで見てたのよ。まさか、実物を部下に持つとは思ってもみなかったけど」

「綾香が言ってたけど、最初はあなた達が?」

「そのつもりだったけど、のぞみが現れて、計画を切り替えたのよ。竹井も同時期に覚醒めたし」

「で、アニメを見てたことは?」

「芳佳がバラしたわ。あの子も人が悪いから」

「あの子、意外にやるわね」

「だから、現役時代のことはバレてるとおもえって言ってるわ。今頃は昭和ライダーにシゴカれてるわよ」

ちょうどそこで声が外から響き渡る。

『チャージア――ップ!』

「茂さん、乗りに乗ってるわねぇ。超電子のパワーを使うなんて」

窓越しに見える空に稲光が迸る。ストロンガーがチャージアップを行ったのだ。智子が窓越しにそう漏らしているのを尻目に、当のキュアドリームはというと…。


「あん、今のでブルったか?」

ストロンガーがカッコよくチャージアップを敢行し、放出された余剰のエネルギーが雷を起こすのだが、のぞみは元々、雷がダメであるったため、雷に怯え、シャイニングドリーム形態になっているのに、地面に座り込んで震えるという情けないところを見せてしまった。

「わ、わたし、子供の頃からダメなんですよ…雷ぃ!」

「おいおい、雷くらいでブルってたら、戦いん時はどうするんだよ」

「現役時代の時はそういう場面なかったんです〜!」

「やれやれ。まずは挨拶代わりといくか!超電ジェット投げ!!」

ストロンガーお得意のジャイアントスイングの超電子版である。シャイニングドリームを軽々とジャイアントスイングでぶん回し、雷を纏った状態でぶん投げる。

「んじゃ、特科の実弾演習か艦隊の砲撃演習に見学行こう。何、四時間も付き合えば音は慣れるさ」

「二号さん、こんな時に言わないでくださ〜い!」

と、悲鳴をあげるが、電光石火のストロンガーは追撃をかける。

「超電スクリューキィィック!」

ストロンガーの動きは電光石火の一言だった。ドリームは咄嗟にフルーレで蹴り足を受け止めるが、エレクトロファイヤーよりも更に強烈なアンペアを発する超電子エネルギーが全身を駆け巡る。

「あ、ああああっ!?」

シャイニングドリームに変身していても悲鳴をあげるほどの電撃。赤い電気が全身を奔り、焼き鳥にされるような感覚を味わう。

「さて、そろそろ最後に…」

「いくらなんでも、これ以上はやらせない!プリキュア・スターライトソリューション!!」

ドリームはシャイニング形態での必殺技を出し、チャージアップストロンガーに一矢を報いろうとする。だが、ストロンガーはすべての能力が飛躍した状態にある。ソリューションの動きを止めるための弾幕を電気分解で潜り抜け、突進するドリーム本体を自身の最強技で迎撃した。

「それがテメェの全力か!こっちも本気出させてもらうぜ!」

ドリームが閃光と共に突進するのを、ストロンガーは体を実体化させた一瞬、空中で大の字になり、そのままで大回転し、超電稲妻キックを放つ。

「超電!!稲妻キィ――ック!」

「いっけぇええええっ!」

虹色の光と赤い稲妻がぶつかりあう。栄光の7人で最強の破壊力を持つキックとプリキュア最初の最強形態の必殺技がぶつかりあい、爆音が響き、光が奔る。





――煙が晴れ、先に着地するストロンガー。時間切れで通常形態に戻っているが、悠々と立っている。次いで、ドリームが翼を広げて着地する。ただし、そのコスチュームはボロボロであり、着地した途端に立ちくらみで膝をつく。――

「ガ、ガハッ……!確かに、確かに手応えはあったのに……!?」

咳き込み、多少の吐瀉物を吐いてしまうシャイニングドリーム。最強形態の技を直撃させても余裕で立つストロンガーの姿に衝撃を受ける。

「このくらいで膝をつくなんてな」

「…!」

「テメェもプリキュアなんだろ?だったら、俺達に誇りを見せてみろ。それとも、最高の姿でこのザマかよ!」

わざと煽るストロンガー。実は無傷ではなく、肩に擦れた跡がくっきりあるし、ノーダメージではない。だが、多少のダメージではへこたれないのがストロンガーのストロンガーたる所以である。

「茂さん、無理してません?本郷さん」

「あいつはウチの大学のアメフト部のクォーターバックだったから、多少のダメージは気にせんよ。それに、子供相手に膝をつくのは、あいつのプライドが許さんさ」

黒江が一号に聞く。一号はストロンガーが大学の頃にアメフト部でクォーターバックを務めた経験がある事、鍛えられたおかげで、虚勢を張ることで場を切り抜ける術を身に着けたと告げる。

「さぁ、立ち上がれ!相手を見ろ!そうしなくちゃ、そこがお前の墓になるぜ!」

「負けない…たとえ相手が仮面ライダーでも…!この姿はそもそも、みんなの応援でたどり着いたんだもん…。その思いだけは譲れないっ!!」

その思いがブルームから受け継いだ精霊の力を呼び起こし、激しいオーラを身に纏わせた。

「お、これは月の精霊の力だ!あいつめ、キュアブライトと同じ境地に!」

黒江も思わず息を呑む。


「へぇ。それがお前が先輩から受け継いだっつー力か。さぁ、ジャンジャン行こうぜ!ライダーパワー!」

ストロンガーも仮面ライダー共通の瞬間的に蓄積されたエネルギーを開放する『ライダーパワー』で以てドリームの想いに答えた。お互いに光を纏った状態で拳を繰り出す。ドリームとストロンガーの渾身の一撃がぶつかり逢い、またも大爆発を引き起こす。爆発が晴れると、シャイニング形態が解け、通常形態に戻ったドリームを変身の解けた茂がお姫様抱っこする構図になっていた。茂は口元や頬に切り傷が見受けられ、ドリームの一撃は確かにダメージを与えていた事が分かる。

「…よっと。久しぶりに楽しめたぜ」

「無理してません?」

「バッキャロー。チェ、とんだ三枚目だぜ。これしきで変身を解かされるたぁな」

悔しそうな口ぶりの茂だが、どこか楽しんだようだった。ドリームはシャイニング形態に精霊の力を上乗せして無理をしたせいか、すっかり眠りこけていた。通常形態は維持できたのは、シャイニング形態の耐久力によるものだろう。

「こいつはしばらくジープで寝かせておけ。起きてもすぐに落ちるだろうけどよ」

「結城さん、茂さんの体をメンテしなくて大丈夫ですか?」

「こいつは俺達の間でも特別に頑丈だ。これくらいなら自分で治癒できる」

「起きたら言っとけ、お前の思い、届く所まで来てるぞ、ってな」

カブトローにまたがり、その場から去る茂。

「素直じゃないなー」

「ツンデレなんだよ、あいつは」

結城丈二は茂をそう評する。この後、黒江はドリームをジープで駐屯地まで送り、一時的に起こした。ドリームはフラフラの体でのび太の部屋までたどり着き、そこでまた眠ってしまうわけだ。その日の夜、黒江はのび太に特訓の様子を伝え、のび太も視察の様子を伝えたのだが、ドリームは結局、その次の日の朝まで起きず、ルージュは自分の部屋に帰れずじまいだったという。(結果として、風呂なども翌日に先延ばしになったため、朝風呂を楽しもうとミーナが意気揚々と入ったところ、先客に驚く羽目となったという)ちなみに、ベットが占領状態ののび太はその晩、西部開拓時代のように、外で焚き火をする事にした。ターキシュコーヒーとダッチオーブンで作ったローストチキンで腹を充たして野戦ベッドで寝たという。なぜ、そうなったかというと、様子を見に来たフェリーチェが下原に頼み込んで、丸鶏を入手して差し入れし、一緒に調理したとの事であり、下原も調理に参加した。のび太は青年期以降はこうしたイベントが自然と起こるため、そこもスケコマシの評判を確固たるものにしている点だろう。それを聞いたスネ夫は妻子持ちながら、泣くほど悔しがったという。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.