行間『シンフォギア世界の珍道中』


――ここでダイ・アナザー・デイ中の騒動の一つの始まりについて触れよう。黒江は調と入れ替わった形でシンフォギア世界の一つに滞在していた時期がある。その内の立花響との関係の本格的な始まりになった二度目のエンカウントのことを――


――シンフォギアA世界のある日――

黒江は当時、自分の行動で入れ替わったと思われる少女が武装組織に反旗を翻した事になった事に同情しつも、行くアテもないため、当座の生活資金をコスプレ喫茶で稼ぐ事にした。元から真の意味での完全聖遺物たる聖衣を纏い、あらゆる邪と戦う事を仕事にしていたため、後に判明することだが、シンフォギアの根源たる、先史文明の者たちが残した兵器を媒介にして力を再構築した鎧を扱うことは容易である(そもそも黒江は黄金聖闘士でもあるので、ギアからののバックファイアは問題にならないし、自然な形で力の勃起が可能なので、ギアの恒常的な展開も苦にもならない)。そのため、シンフォギア世界に来て間もない時期はシュルシャガナのシンフォギアを衣服代わりにしていたのである。これは聖闘士にとっては、シンフォギアは一種のリミッターでもある事も要因だ。セブンセンシズを全開にしたりしたら、その力にギアが耐えられずに自壊する危険が後に指摘される。(外部からの衝撃に強くとも、内から溢れる力の奔流には耐えられない)実際、黒江は小宇宙を実験的にシンフォギア姿でセブンセンシズまで燃焼させる実験をこの時期に行ったが、結果は総数3億165万5722のロックがいっぺんに外れ、数日もエクスドライブ状態のままになるというもので、過剰な小宇宙の燃焼はギアに負担をかける事を理解した。ただし、これはいっぺんに燃焼させた事での負荷が原因であり、この日までに、ゆっくりと燃焼させる事でなら耐えられる事も知った。

「やれやれ。あのガキ、めんどくさそうだな。出来れば会いたくねぇ。えっと、この世界……フェイトが見てた『戦姫絶唱シンフォギア』ってアニメの世界だよな。この鎧もなんとなく覚えがあるの思い出した。これで基本世界からの派生世界を作っちまった事になるな。それと、この世界はアニメと違って、21世紀前半に出来事が起こったことになるぞ?」

アニメでは、2045年頃に第五にして最後の戦いが起こった事になっているシンフォギアだが、この世界では、出来事がそれより30年ほど早く起こっている。つまり、この世界は元から『派生世界』である事になる。黒江はそれに気づいた。この時、黒江はシンフォギアを纏った調の姿になっていた。ただし、入れ替わった本人より背が高くなっているという、外見上の僅かな違いがあった。なお、入れ替わった際に、調に宿っていたフィーネの魂は黒江に玉突きされる格好で追い出されており、その時の共鳴が黒江の空中元素固定能力を完全なものにし、調に黒江がその時点で開眼済みの全能力が受け継がれたのである。(さらに言えば、入れ替わった時期がお互いに長時間に及んだ事から、それぞれの世界で自分の立場を確立するだけの時間を過ごした事になる。後にその時間で黒江が得ていた立場こそが帰還してきた調に強い疎外感と罪悪感を抱かせ、立花響の『善意』への反感と出奔の理由になるのである。)ただし、黒江と違い、調には秘密があった。調の死亡した本当の両親のどちらかが山地闘破/磁雷矢を輩出した一族の同位にある一族の出であり、磁光真空剣を素で発動できることだ。これは後に、磁光真空剣が後に調のもとに飛来し、調の手で山地闘破のもとへ返されたという事実が証明している。

「細かいことは漫画喫茶で考えるか。今は縁日を楽しむとしよう」

黒江はシンフォギア世界への滞在中は風来坊じみた振る舞いであった。特異災害対策機動部二課に与するまでは第三勢力的立ち位置になっており、マリア達の捜索からも逃れ、二課の捜索をコスプレ喫茶で誤魔化すなど、生活自体はニートかオタク並に悲惨であった。なお、この時期に黒江が面接の際に勘違いで誤記した『月詠』という表記は後に、調自身が心機一転の意図で採用し、のび太との生活から使用することになる。

「おっちゃん、綿あめ一個ね」

黒江はギア姿で縁日を楽しむ。本来、この時期の調のシンフォギアは本人の適合係数の低さで低出力の暗色系メインのカラーリングだが、黒江は適合係数云々の問題がないため、本来は適合係数が上がった後に纏う高出力の明るめのカラーリングのものになっている。その違いがあるため、マリア達は捜索に混乱を来たし、二課側も捜索に手間取っていた。

「ほい」

「サンキュー」

黒江は元が1921年生まれとは思えないほど垢抜けた振る舞いをするが、転生を繰り返す内に、感性が時代先取りなものになったためだ。縁日ではりんご飴、かき氷、ラムネなどのお約束をきっちり行い、射的で射撃センスの良さを見せるなど、お約束はこなしている。ラムネを飲み干し、りんご飴を食べた直後であった。

「ん、来たか」

「調、帰るデスよ!」

「知るかボケ、『俺』はお前のダチじゃねぇんだ」

切歌と出くわしたわけだが、黒江はこの時、始めて一人称を俺に切り替えた。以後は『俺』で統一するが、そもそもは切歌に自分は別人であるとわからすために使い始めたのだ。だが。

「それじゃ、なんで調のギアを纏えるのデスか!?」

「知らねぇよ。とっととボインのねーちゃんのとこに帰んな。言いたかぁねぇが、お前じゃ、俺の薄皮一つ傷つけられないぜ」

「まさか、フィーネに人格を乗っ取られたのデスか!?なら、このイガリマの刃で!」

「はぁ!?だから、おりゃ別人だ!口調でわかんねぇか!?このタコ!」

「黙れデ……」

切歌はシンフォギアを纏うが、その瞬間に流星拳が繰り出され、気がついたら地面に倒され、組み伏せられていた。

「このタコ、人の話は聞けと教わったろ?」

「どうしたんデス、調!アタシがわからないのデスか!?」

「解る解らん以前に俺はお前を知らん!!別人だってんだろ?これで理解したか?」

切歌は幼馴染に軍隊式格闘術で取り押さえられるという光景が信じられない。しかも、背中のバーニアを全開にしても微動だにしないという光景は当時の彼女の理解を超えていた。

「やめなさい!!」

「なんだ、シスコン気味のマリア・カデンツァヴナ・イヴか」

「なっ!?」

「お前のことなら知っているんでな。お前達が今やってる事もな」

黒江はここでギアをわざと解除した上で、マリアが投げたガングニールの槍を穂先を指で挟んで止める。

「やめとけ。お前の力じゃ、俺には勝てねぇよ」

黒江は忠告した上で、マリアにデコピンをする。だが、速度は白銀聖闘士の全力を超える領域のものであったため、マリアは額を割られ、派手に吹き飛ぶ。

「マリア!!……!?」

切歌も次の瞬間には同じ攻撃でヘッドギアを破壊され、吹き飛ばされる。

「ど、どういう事……!?」

「俺はフィーネでもなんでもねぇよ。単に事故でこいつと入れ替わったにすぎん年寄りだよ」

気絶に至らなかったマリアに黒江はいう。自分を年寄りと表現するのは、21世紀における自分の実年齢を意識してのものだ。

「年寄りは労るもんだぜ?年金もらってる世代なんだから」

「どこがよ!」

「やれやれ。涅槃にいるお前の妹がそれで喜ぶと思うか、マリアよ」

「黙りなさい!セレナの事を知っているようだけど、貴方はなんだというの!!」

マリアは妹の事を言われ、瞬間的に激昂し、ガングニールの槍を突き立てるが、黒江の手の甲で受け止められていた。

「嘘でしょ、無双の槍、ガングニールが……!?」

「いい槍だ。だが、俺の右腕も聖剣を宿しているんでな。そんな攻撃では穿けんよ」

黒江はここで聖剣を宿す身であるが故、ガングニールのアームドギアの突きを生身で受けとめる。更にガングニールの穂先からビームを撃つが、黒江は意に介さない。握力が強められた穂先が崩れ落ち、黒江の本領の片鱗を垣間見せる。左腕を使わないのは、世界そのものを斬れるエヌマ・エリシュが宿っているからだ。

「さて、ここで良いものを見せよう。約束された勝利の剣(エクスカリバー)!十分の一〜!」

黒江はエクスカリバーを軽く払う程度の手刀から放ち、マリアの肩口を鎌鼬のように斬り裂き、地面を抉る。マリアはシンフォギアの外殻に影響を及ぼさないで、斬り裂いた黒江の行為が信じられず、更に妹のセレナのことで動揺してしまう。

「何故、セレナの……事を…」

「こっちも事情ってもんがあるんでな。そこのヤンデレのガキに絡まれても困るんだよ」

ここより後のことだが、そのセレナ・カデンツァヴナ・イヴは輪廻転生で十六夜リコ/キュアマジカルに転生していた事が判明し、リコは板挟みに遭うのである。結果、リコはあくまでプリキュアであるので、セレナとして戦うつもりはないと伝えると同時に、マリアの妹として、仲介役を買って出る事になる。

「や、ヤンデレって……」

「とにかく、俺としても困るんだよ、ヤンデレのガキは。お前も俺の知り合いに声が似てて、驚いたぞ」

「え……?」

それは黒江の弟子の一人の篠ノ之箒の事である。マリアと同じようだが、もうちょっと若々しい声色とは、黒江の談。

「こっちの話だがな」

話している内に二課側の装者も駆けつける。

「おうおう、お揃いのようだな」

「おい!あんたの話が本当とは、あたし達はまだ信じてねぇぞ」

「縁日にそんな格好は無粋だぜ。……って、なんじゃこりゃ」

切歌は起き上がると、勘違いから精神不安定に陥ったために破壊衝動に呑まれ、獣のような咆哮と共に暴走する。

「コイツは暴走だ!いくらなんでも生身で対峙するのは……」

「そうだよ!あれは目の前が塗り潰されて…!?」

二課の装者一同が驚く間もなく、黒江は飛びかかった暴走状態の切歌の顔を握りつぶさん勢いで掴みかかり、切歌を抑え込んでいた。

「ワンコロみてぇに、ギャーギャー吠えるな、うるせぇぞ」

『え!?』

「嘘だろ!?」

「暴走状態の装者を……生身で…!?」

「こんなところで獣みたいに暴れるってのは無粋だな。縁日楽しんでる人たちに迷惑かけんじゃねぇ!」

黒江は暴走状態の切歌を空中に投げ飛ばすと、瞬時にある態勢を取る。それは。

『俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!勝利をつかめと轟き叫ぶぅ!!』

黒江はこの時期、ある種の強制力で姿は調のもので固定されていたが、戦闘面の能力については特段の制限は課されていなかった。そのため、調の姿で石破天驚拳を撃って、切歌を黙らせたのだ。

『流派東方不敗!……最終奥義ぃ!石破ぁ!!てんきょぉぉぉけぇぇぇ―んっ!』

傍から見れば、石破天驚拳の炸裂は縁日で上がった景気づけの花火にしか見えないだろう。マリアが慌てて、暴走が解除され、卒倒した状態の切歌を回収しようとするが、気がついた時には黒江が先に回収していた。

「あ!?」

「ほらよ、自分が面倒みてるガキの子守りくらい、きちんとしとけ」

「い、いつの間に!?」

「おりゃ、普通の人間とは言い難い領域にいるんでな。それに、着の身着しか持ってねぇから、服を汚したくなくてな」

そこでシンフォギアを再度纏う。生身の状態でシンフォギアと渡り合える人間は超人の類に入る者しかいないが、この時の黒江は見かけがあどけなさを多分に残す調そのままの外見であった事もあり、多大なインパクトを残した。『暴走状態のシンフォギア装者に何もさせないで、生身で倒した』というのは、この時点では驚異的な行為であった。

「んじゃ、またな」

「あ、待って、調ちゃん!どういうことなの!?説明して!」

「いずれ言うさ。時が来たらな」

黒江は立花響にそれだけ言うと、アナザーディメンションを使い、その場から立ち去る。『シンフォギアを戦闘で用いるまでもなく、暴走状態の装者を倒した』行為の凄さもそうだが、エクスカリバーという黒江の持つ真の力の片鱗を垣間見た一同は敵味方関係なく、呆然としてしまい、しばらく言葉もなかったという……。



――時間軸は代わって、ダイ・アナザー・デイ――

「――って感じで綾香さん、相当に吹かしたらしいよ」

「先輩も好きだなぁ、そういうの」

「ヒーローは背中で語るって奴さ。あの人は歴代仮面ライダーの薫陶を受けてるからね。そういうのが好きなのよ」

ダイ・アナザー・デイの最中、野比のび太が語る黒江の苦労話。聞いているのはキュアドリームとキュアピーチである。その日の夕方から二人はその明後日まで非番であった。

「でもさ、それがあの子の感情を引っ掻き回したんじゃ?」

「切歌ちゃんはヤンデレの毛があるし、立花響ちゃんは時々、手前勝手な善意を無自覚で押し付ける事があるし、人の地雷を無意識に踏み抜く。その悪癖が悪い方向に働いた挙げ句に、調ちゃん本人に『善意の押し付け』って言われて出奔されて、僕のところで20年近く過ごしたって言われれば、精神不安定にもなるさ」

「うーん。先輩はなんだかんだで、事故で入れ替わっただけだもんなぁ」

「そうさ。前も言ったと思うけどさ、代役の良かったところまで引き継がせるのは無理な事だし、個人のエゴにすぎないわけよ。あの子は綾香さんが気ままに振る舞ってた事まで引き継げと言った。いくら切歌ちゃんへの善意からの言葉とは言え、押し付け以外のなんだと言うんだい?」

「それで、あの子は沖田総司の人格の表面化を許したわけなの?」

「端的に言えば、ね。まぁ、あの子も悪気は無いのは分かるんだけどね。やり方が不味すぎるのさ。ニュータイプでさえも痴話喧嘩するんだから、いくら善意でも、相手の気持ちを推し量る事をしなければ、反発されるだけだよ。僕もガキの頃に、そういう目に遭ったからね」

のび太は自分の善意に周囲が応えてくれず、逆に迷惑だと言われた経験を持つため、響のやり方は反発を招くだけだとはっきりと述べる。

「あの子は綾香さんが入れ替わった出来事が終わった時に気づくべきだったのさ。代役の良かったところまで引き継げはしないってね。調ちゃんの性格上、綾香さんのような風来坊的な振る舞いは出来ないし、綾香さんは本質的に薩摩武士で、あの子はベルカ騎士だ。騎士道と武士道は似てるようで違うのも分かんないようじゃね」

のび太は何度も言うが、調にしてみれば、立花響のやったことは『善意の押し付け』でしかなく、武士道と騎士道の違いもわからないのでは、出奔も当たり前だと突き放す。そこも立花響の誤算であった。

「あの子の誤算は、武士道と騎士道を一緒くたにして考えた事、調ちゃんにしてみれば、入れ替わっていた人に一年も代役を強いたのは、あの子自身の自己満足だって切り捨てるには充分な答えになるよ。おそらくは自分の善意が周囲を困らせてた事を内心で認めたくなくて、そこに調ちゃん自身による否定が入ってゆらぎ始めたところに、なのはちゃんの行為がとどめになったのさ。なんとも言えないけど、単純に言えばそうなるさ。図上演習の数日前にする話じゃないけどね」

「確かに」

「それで、それからどうなったの?」

「どうも、こうなったらしい」


のび太は再度語る。黒江がシンフォギア世界でどのように過ごしたのか。戦闘が続いてるのでは、立花響の自我意識を表面化させ、救出する作戦は始められない。戦闘中にはその時間が取れないからだ。全てが終わらければどうにもできない。さらに言えば、桜セイバーの力は強大であるので、響の人格には悪いが、桜セイバーの力を使わない手はないし、そもそも、最前線では小日向未来の安全が確保できない。そこも救出作戦が先延ばしになった理由である。誹謗中傷にあるような、別に嘲笑ったり、苦しめるつもりは無い。作戦行動中に『救出作戦』の実行は不可能なだけだ。全てが終わらないと、どうにも自由な動きが取れない。軍隊というのは、そういうものなのだ。







――調の姿になった黒江はシンフォギア世界への滞在中の期間の初期段階において、シンフォギアを普段着代わりに使っていた。漫画喫茶の個室で寝たり、コスプレ喫茶の仮眠室で寝ることが滞在中の初期段階では当たり前であった。

「今日は場所変えよう。場所を特定されるのは避けたい」

黒江は場所の特定防止の為、何日かごとに街の東西南北に点在するネットカフェ、漫画喫茶などを転々とする事を行っていた。元々、職業軍人であるので、朝には強い事もあり、この時期は睡眠時間が短くなっていたが、6時間は確保していた。さすがの二課も自分達の探す少女がネットカフェ難民まがいの生活を送り、堂々とコスプレ喫茶で生活賃金を稼いでいるなど、想像だもしなかったため、黒江は見事に盲点を突いた形になる。

「さて、と。その前に銭湯でもいって、さっぱりしてこよう」

黒江は堂々と生活する事で、むしろ周囲がガードになることを利用した。ジオン残党も使う手である。この作戦は大成功で、黒江自身が偶然、見つけられるまでは全ての勢力が捜索を失敗し続けた。それまではやりたい放題(黒江自身、誤魔化した末に破綻するよりは、いっそのこと好きに動いたほうがいいと判断した)で生活したため、調の姿は風来坊として現地のインターネットを賑わせたが、あまりに堂々としているために、二課も、武装組織フィーネも、それが『本物』であるかの確証が持てなかったのである。

「〜♪」

銭湯での鼻歌はマジンカイザーの元祖テーマソングだったりする。黒江は堂々とした立ち振る舞いで銭湯のお約束を行う。

「さて、出たらコーヒー牛乳っと」

こうした行いをしていたので、その代わりを求められた調が出奔の決意を固めるのは当然であった。黒江はこの時期、戦闘時にシンフォギアの持つ機能やスペックは用いることは殆どなかったが、山羊座の黄金聖闘士でもあるため、自前の闘技でどうにかなるため、シンフォギアに敢えて頼る必要がなかったからである。黒江にとっては、シンフォギアは戦うための『強化服』ではないのだ。


「ぷはぁ〜。どこの世界に行こうと、この味は変わんね〜な」

これである。風呂から出てのコーヒー牛乳。コーヒー牛乳の味を楽しみつつ、夜の街へ消えていく。黒江は防寒も兼ねてシンフォギアを用いているが、黒江自身の力がシンフォギアの発するエネルギーを抑え込んでいる事もあり、二課、武装組織フィーネのどちらにも反応を探知されなかった。また、この時の経験は後に、ベルカでの騎士生活を経た調本人も応用し、修行に用いる事になる。

「今日は北北西にある喫茶で寝るか」

黒江は防寒目的にシンフォギアを使いつつ、北北西の喫茶へ向かう。こうした探知対策と、黒江がむしろ堂々とコスプレ喫茶で働いた事で二課と『フィーネ』(F.I.Sとも)の双方は探査しそこね続ける事になる。






――再び、ダイ・アナザー・デイののび太達――

「先輩、シンフォギア持ち出して、好きに使ってたんだなぁ」

「黄金聖闘士だから、戦闘でその性能を使う必要もないからね。殆ど防寒着代わりだったそうな。それに、アニメ通りなら、入れ替わる必要はそもそもないさ」

「調ちゃんに起こったことって、あたし達にも起こりえるってことだよね?」

「理論的にはありえない話じゃないさ。次元世界には観測はできても、干渉できない『基本世界』と選択で無限に派生する『派生世界』に分類されるんだけど、基本的に後者の世界になるよ。僕も派生世界の住民みたいなもんだしさ」

のび太達の話は続く。二人のプリキュアの身にも起き得る話であるからだろう。黒江自身も言っている。自分が介入した世界はあくまで『派生世界』であると。

「派生世界は数ある派生した世界の一つだから、何が起こっても不思議じゃない。あの子には気の毒だけど、つまりはそういうことだよ」

ディケイドが現役時代に回った各平成ライダーの世界も、ある意味では『派生世界』に入るため、そのほうが分かりやすいだろう。

「僕は予定が入ってね。近い内に、しばらく潜入調査に向かう事になった。君たちの援護はキャプテン・ハーロックに頼んである。アルカディア号とGヤマト、はたまた、クイーンエメラルダスも君たちについてるんだ、まず負けないよ」

「潜入調査って、どこに」

「ニューヨーク海軍工廠さ。敵はそこで新しい海底軍艦を用意してるらしい目撃情報が入ったんでね」

「のび太君、どういうコネあるの?キャプテン・ハーロックやクイーンエメラルダスを呼びつけられるなんて…」

「何、僕の転生体が彼らの支援者らしくてね。その関係なんだ。僕個人も彼らと友人同士だしね」

のび太は潜入調査を行う事になり、また、正式にキャプテン・ハーロックとクイーンエメラルダスに協力を依頼した事が伝えられた。

「彼らは30世紀から来ていてね。彼らが技術をもたらして、23世紀の連邦の技術を底上げしている。どうもその頃にはまた、連邦が腐敗するみたいでね」

「なんか、同じこと繰り返してない?」

「歴史は繰り返すって奴さ。戦乱期が終わった後に数百年くらいの平和が続けば、政府は普通に腐敗する。だから、いつの時代も愚連隊みたいな動きの出来る組織なり、個人が活躍するのさ。」

のび太はキュアピーチに言う。23世紀頃の高潔な精神は停滞期を迎えた30世紀には忘れ去られ、元の木阿弥になったが、アースフリートはその時代でも気概を持っている。のび太の依頼により、その時代で最強を謳われる一角の戦闘艦が加勢してくれると明言した。

「さて、話を元に戻すよ。それで……」

シンフォギア世界に飛ばされた時の黒江の苦労話。のび太が二人の暇潰しに話しているのだが、ある意味では今回の騒動の根幹になっているので、何気に重要な話である。と、そこへ。

「あれー?なにしてるの、二人共」

「あ、マナちゃん。訓練終わった?」

「あたしは戦車兵資格の取得訓練だよ。戦車道してるからってんで。で、何を話してたの、のび太くん」

「ああ、綾香さんが調ちゃんの世界に飛ばされた時の苦労談さ。君も聞くかい?」

「うん、面白そうだし、聞くよ」

キュアハートも話を聞きに加わる。黒江の課す修行のアイデア元になった体験である事をのび太は事前にキュアハートに話し、タイムテレビも用意する。

「ある意味、今回の騒動の根幹になった出来事だから、重要だよ。タイムテレビを出してっと…」

黒江が調のシンフォギア世界で何をし、どういう風にその世界の歴史を動かしたのか。また、それと同じ頃、古代ベルカに飛ばされた調が幼い頃の黒江の容姿になって、ベルカの騎士として王室に仕えている姿もタイムテレビに映し出される。その時に使っていたデバイスの名が『エクスキャリバー』であり、そのデバイスは現在は発掘後にレストアされ、調のもとに戻っている。その体験が調の生き方を根本から変え、オリヴィエを守れなかったことで、主に殉じて死のうとしたほどの騎士としての悔恨を立花響に否定的に言われた事で激しい口論になり、それが調がのび太のもとにやってくる理由の一つになった。

「調ちゃんも苦労したんだねぇ」

「古代ベルカは戦乱で滅びたけど、それになる背景からして、あの辺の次元世界、戦乱期だったみたいでね。それ相応にダーティーな事もしたみたいなんだ。補給船の寸断とか」

「あー…。なるほど」

幼い頃の黒江の姿になった調は黒江の全技能を感応で受け継いだが、右も左も分からない異世界に身一つで放り出され、しかも自分本来の姿を失って。かなりの苦労をして、ベルカの王族の騎士にまで立身出世し、戦果を挙げた。それを誇りとする思考が出来上がってしまっているため、立花響が調のために用意させた『SONGの装者としての生活』は善意の押しつけでしかなかった。それがのび太のもとにくる理由であり、もはや『本来あり得た立場』が彼女の肌に合わなくなっていた証であろう。師である黒江と同じ道を歩み、更に野比家の住み込みの家政婦になったのは、彼女なりの『自分で居場所を決める』という意思の表れであろう。また、かつての主のオリヴィエのクローンであるヴィヴィオが高町家の養子である都合上、高町家でも働いている。そのため、調は野比家と高町家の家政婦として生活しつつ、正式には軍人であるという状況なのだ。ベルカの騎士として高度な教育をされたせいか、軍事知識もすっかり身についており、それが彼女がすんなりと士官候補生になれた理由だ。

「立花響ちゃんが調ちゃんの騎士としての生き様をどう見たのかはわからない。あの子はあの子なりのポリシーがあるんだろうけどね」

立花響と調がどのような口論を交わし、蟠りがあるのか。それは謎であるが、のび太は兄として、調を擁護する立場である事を明確にしながら語る。少なくとも、調が貫こうとしたベルカの騎士としての気概や心意気を否定的に言ってしまったであろうとは推測されているが、響としては『そんなものより、切歌やマリアとの元の生活に戻って、改めて慣れるべきだ』との趣旨の善意で言ったのだろうが、既に心身ともにベルカの敗残兵であった調には受け入れられるモノではない。その点が調には許せなかったのだろう。

「あの子の最大のミスは、10年ですっかり騎士になって、敗残兵になった調ちゃんに残されてた騎士の誇りを一言でいいから、肯定すればいいのに、それをしなかったことだよ。あの子はベトナム帰還兵のように、デリケート極まりない精神状態だったんだ。それを頭ごなしに否定されりゃ、ランボーみたいな気持ちになるよ」

調は帰還後はベトナム帰還兵のような精神状態に置かれていた上、響が黒江に半ば強要して確保させていた『居場所』で黒江のような破天荒な振る舞いを事務的にこなせという事を強要されたも同然であり、気質が黒江と違う調には苦痛であり、精神的に激しく疲弊した。それを見かねた小日向未来が手引きし、調を野比家へ送り込んだのである。

「確かに」

「あの子の悪いとこだね。時たま、他人に相談しないで、自己満足で物事を決めるってのは。悪意がない分、厄介なんだよな」

立花響本人に悪意はないが、自己満足で物事を決め、それが親友である小日向未来との揉め事の火種になる事もありえると考えたのだろうか?黒江や調はその事を考えている。青年のび太は立花響を善人としているが、独善的な側面と過剰な自己犠牲精神、その自己犠牲精神を実現させる力への大きな依存が入り交じると分析している。調も響の潜在的な善性に免じる形で振り上げた拳を下ろしたが、当の響が自らの『善意』の崩壊とガングニールの力の絶対性の否定に耐えられず、桜セイバーに精神侵食されるという結果となった事には言葉もない。プリキュア・ピンクチームの三人ものび太の言葉に頷くのだった。



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