外伝その402『図上演習と戦闘14』


――ダイ・アナザー・デイ中に配備されたガンダムタイプは在庫整理を兼ねての提供と過去の実験機も多かったが、ティターンズの保有機より年式は新しいものが多く、相応に戦果を挙げていた。当時はウィッチの量の面での確保がままならなくなり、前線の実働ウィッチ部隊は64Fのみになっていた。それとて、戦前の想定された定数は確保したものの、日本側の想定した戦術を実現させるほどの人数はいない。新選組と維新隊の2つの中隊の定数は14人。新選組はその定数の半分近くを七勇士出身者で占めてしまうため、定数より多くの人員をローテーション目的を理由に確保しており、元統合戦闘航空団出身者やプリキュア出身者の内、戦闘力が高めの者は新選組の配下となっていた。ローテーションの都合でウィッチの組織的行動が取れない場合、黒江達は機動兵器を用いる事にしていた――



――戦場――

『お前ら、援護するぞ!』

黒江はこの日、RX-99『ネオガンダム』を使用していた。普段はZプルトニウスだが、ネオガンダム三号機の実戦テストを言いつけられたため、使用していた。RX-99そのものは曰く付きの機体だが、アナハイムが予備パーツを数機分用意していたため、機体の喪失そのものは避けられ、その内の一体が組み立てられ、64Fに回されていた。なお、武装は連邦軍内でのコネクタなどの規格統一が功を奏し、Gバードの他に、F91用のライフルが流用されている。23世紀初頭当時、小型MSは整備性の悪化と製造技術の高度性が問題視され、兵器開発の主流から外れ始めていたが、特務部隊などではコンパクト性などの関係で使用され続けている。ネオガンダムは小型MSでは異端になる『アナハイムガンダム』であり、元々がF91の非合法模倣から始まっての開発である事から、存在自体を貶される傾向が強いが、総合性能自体はF91を上回り、火力でもアナザーガンダムに迫るという利点から、近代化改修の後に制式機として認められた。サナリィの政治圧力で連邦軍正規部隊への配備はならなかったが、ロンド・ベルの装備となり、その流れで64に提供された事で真価を発揮した。

「ティターンズの機体はMD(モビルドール)入れても旧式だな。Gバードに耐えられずに撃破されてる」

『スペックノート上はアナザーガンダムと同じ装甲らしいが、たぶん、精製環境の質の差だろう。これじゃ質が中程度のガンダリウムγと大差ない』

「そうなんスか?」

『俺も噂程度にしか聞いてないがな。アナザーガンダムはトンデモ技術の賜物なのは事実だ』

アナザーガンダムは16m級MSとしては、破格の性能水準を備えるため、『MSとしてはバケモノ』と認識されている。最も、最高レベルのMFであるゴッドガンダムに部分的に凌駕されていたり、耐久性は『リアルロボット系では破格だが、スーパーロボットほどではない』など、スーパーロボットがある世界では『硬めのリアルロボットの最高水準機』とされる。なお、通常のガンダムタイプも代替わりと使用技術の革新の繰り返しでアナザーガンダムに性能水準が近づいており、ネオガンダムは単純な機体出力では『ウイングガンダムゼロ』を上回る。

「戦車隊を進めていいっすか?」

『いいぞ』

MSは基本的に陸上戦では『機動歩兵』と扱われ、戦車や通常の歩兵との連携が重視される。ジオンはMSの性能向上と共に支援兵器をおざなりにする傾向が強いが、連邦軍は地上では各種兵器の諸兵科連合で作戦を行う。この日は図上演習の途中で入った戦闘であり、ウィッチ装備がオーバーホール中である事で、プリキュアではない黒江はネオガンダムで出たのだ。

「図上演習の途中で実戦たぁな。黒江さん、想定してた?」

『ダホ、想定外だ。だが、ガキどもに戦場の空気を感じさせるには丁度いい』

「敵の機動兵器は今のビルゴで最後?」

『いや、有人機の反応がある。たぶん、ジムスナイパーカスタムだろう。Uは残存機の多くがエゥーゴ系の部隊の保有だからな』

「狙撃用MSとは言え、旧式やん」

『噂だが、サンダーボルト宙域で猛威を奮ったスナイパー部隊は旧式機主体だったとか。ビーム砲台のプラットフォームなら、機体が旧式でもいいのさ。ビルゴを潰したから、有人機が動くぞ。戦車は迂闊に前に行かすな。俺が虱潰しにする』

キュアメロディは黒江の次席という形で戦闘に参加しており、歩兵隊の排除を担当している。ティターンズはこの時期、戦車の進撃をジムスナイパーカスタム隊の狙撃で阻む戦術を選択しており、どんな戦車も正確に遠距離から天蓋を狙い撃つジムスナイパーカスタムは戦車隊の恐怖の的であった。ジムスナイパーカスタムは自衛の必要から、白兵戦能力も高い。その排除にガンダムタイプを持ち出すのも当然の流れである。

『来るぞ!』

ビームシールドでスナイパーライフルの狙撃を防ぐネオガンダム。ジムスナイパーカスタムの狙撃用ライフルはグリプス戦役時にはR4型ビームライフルから更新されていたが、ベースがジムUのライフルに変わった程度で、グリプス戦役以降の高性能機の防御を抜くほどではない。その事から、主に足止めと殿に使用されている。

「…良い腕だな。何処にいる?」

『市街地の建物を遮蔽物にしてるんだろう。あるいはMSで伏せ撃ちしてるか…』

「伏せ撃ちはMSは排熱の問題で、ほとんどしないはずだぜ?」

『そりゃ言えてるな。だが、ジムスナイパーほどの機体はこの時代の市街地に隠せるわけが……あれはガンペリー…まさか!』

「お、おい!それって…」

『考えやがった。ジオン残党も使う手だが、輸送機から狙わせてるとはな!』

「どうする!?」

『狙撃機は旧式機体ベースの方が機体の重さがあって安定するし、ジェネレータ換装しても、元々の機体の要求エネルギーが少ないから、武装のパワーサプライにも有利だ、その中でも、最高品のスナイパーUは機動力も高いから延命しても投入されるってわけだ。……フン、ガンペリーは高高度飛行はあまり向いてない。ローターで上昇する以上、ホバーパイルダーと同じで限界高度は割に低い。Gバードの射程を舐めるなよ、ティターンズめ』

「あ、統括官。プラモ作った経験ありますが、ジムスナイパーの排気口のメインは肩口ですよ」

『そっか。あれも類似用途機多すぎだぜ』

副官からの通信に苦笑いしつつ、ガンペリーの構造上の難点を知る黒江は、Gバードの最大出力で狙い撃った。Gバードはヴェスバーを超えるためだけに生み出された武器であるため、その出力はF91のそれを超え、後発のV2アサルトバスターのメガビームキャノンをも上回る。当然、大気圏内での減衰を考えても、ガンペリーのいる高度には余裕で届く。ジェネレーター内蔵火器であるが故の利点である。ガンペリーは離脱する間もなく、搭載機ごとGバードの餌食となった。

「すげえ。とても初代ガンダムの系譜の機体とは思えねぇ」

『F91を超えるためだけに試作されたからな。アナハイムの癇癪の産物ってサナリィは言ってるが、ザンスカールの一件以降は大人しいもんだ。Fシリーズにガンダムのコードをつける事も認めざるを得なかったようだし』

ガンダムのネームバリューを政治的意味合いで『地球連邦軍のシンボル』に戻したい一派はサナリィのF9シリーズやV系に正式にガンダムの名を与える事にした。サナリィはザンスカール帝国の一件で大失態を犯し、政治的に連邦政府から不信を買ったため、政治的取引という事で『我がサナリィの歴代のガンダムタイプに正式にガンダムを名乗らせる』ことで手打ちにしたという。ガンダムの名は連邦政府内部の裏取引に使われるまでのネームバリューを持つのだ。地球連邦軍はアナハイムの衰退を避けるため、ザンスカール戦で失態を犯したサナリィを統制するため、双方の作ったガンダム達をウィッチ世界で運用させる。ロンド・ベルへの援助名目でだ。サナリィが目の敵にする『シルエットフォーミュラ』計画の集大成は皮肉なことに、そのポテンシャルがウィッチ世界で証明されたことになる。

『よし、この地点のスナイパーは潰した。この地点を確保する。歩兵隊に周囲を探らせろ。ブービートラップに注意しろと言え』

「了解」

侵攻戦は橋頭堡の確保が重要である。人型兵器が一騎当千のスーパーロボットでない場合は他種類の兵器と同じで『補給を考える必要がある』ため、前進拠点は重要である。

「これで西からの橋頭堡は確保したけど、上はどういう戦略を?」

『四方八方から攻め立てるつもりらしいが、奴らも次のラ級を用意してるだろうから、気は抜けん。アルカディア号やクイーンエメラルダス号が強行偵察をしてくれたおかげで、だいぶ敵の動きも読めてきた。敵は後方にたんまりと交代を用意してる。単純に守るだけじゃ破綻するのは目に見えてるから、のび太に動いてもらったり、防衛大臣に直訴して、なんとか侵攻にゴーサインを出させたんだ。日本の連中のせいで予定が大幅に狂った以上、その責任は取らせる』

黒江はキュアメロディ(シャーリー)に、Gフォース結成の裏話を教える。日本が『防衛じゃないと、自衛隊が動けない』と駄々をこね、戦略意思決定が遅れたことでロマーニャ公国が蹂躙された事は日本に多大な衝撃を与え、償いのため、派遣された既存兵器の兵力と秘匿兵器の指揮権を黒江に与え、黒江を責任者として結成された統合任務部隊が『Gフォース』である。黒江は航空自衛隊の代表として、Gフォース内にいる陸将&海将との合議制で組織を運営している。この侵攻戦には陸自が参加しており、リベリオンの徴兵で訓練もそこそこに送り込まれた兵士たちより訓練密度が高く、高練度である陸自の精鋭は表向きは『異世界の超文明』で通る地球連邦軍や米軍、英軍に称賛されるほどの練度を見せている。

『陸自は訓練しか出来ない能無しって言われるが、実際は訓練しまくってるから、強いんだがね。予算減らされて嘆いてるから、俺が手を回して、血の気が多かったり、知り合いの部隊長級からの推薦とかで参加させたが、予想以上に効果あったぜ』

「日本は『陸はショーウィンドウ』扱いだしなぁ。防衛の要だろうに」

『ま、これで海兵隊的役目の水陸機動団に予算も行くだろう。その一部を出向させて、上陸作戦に参加させる手筈を整えたし』

「手が早いなぁ、アンタ」

『リベリオン海兵隊のウィッチは肝が小さいガキも多いからな。連中より、きちんと訓練した自衛隊の水陸機動団のほうが肝が座ってるって、どーいうこった』

黒江はリベリオン海兵隊のウィッチからサボタージュが出ている現状を嘆いた。海兵隊は『殴り込み部隊』。23世紀で言えば、『空間騎兵隊』である。本来なら、緊急展開部隊である以上、その心構えは出来ていなければならないが、この時代のリベリオン海兵隊は史実で言う『発展期』の前の状態である上、そのアイデンティティも確立されきっていないため、サボタージュが生ずるという失態を犯し、自由リベリオン上層部を悩ませていた。黒江も『鉄砲玉を担う連中が尻込みして、どーするよ?』と呆れている。その役目は歴代プリキュアなどが代打で担っているが、自由リベリオンの政治的立場としては、座視するわけにはいかない。

「まりんこの名折れだぜ、あの臆病な羊連中」

キュアメロディも同意する。羊のようにビクビクしているウィッチが多いため、アメリカ海兵隊からは『海兵隊の面汚し』と揶揄されるわ、肝心の上陸戦をボイコットするなど、醜態を晒しているからである。

「21世紀の米海兵隊のブートキャンプに行かせたほうが良いって。あいつら、襟の星は立派なだけど、やってるのは『兵隊ごっこ』だぜ?」

『世界全体があぶねぇ時に、綺麗事抜かして、傍観を気取るような連中はまりんこじゃねぇよ。23世紀の空間騎兵隊を見てみろってんだ』

かつての海兵隊系組織の後身である空間騎兵隊はガトランティス戦役でその存在意義を証明し、勇猛果敢、精強で鳴らす。海兵隊の同位組織に属していながら、屁理屈をこねてサボタージュする海兵隊ウィッチはこの時期、戦線での軽蔑の最たる対象であった。特に、23世紀や30世紀(Gヤマトに乗っている)の空間騎兵隊が勇猛果敢、精強で鳴らし、武勇を轟かせていた事もあり、彼女たちは前線で戦う者から軽蔑の眼で見られる様になっていた。結果、リベリオン合衆国出身の自由リベリオンのウィッチ達は普通除隊を選び、ひっそりと隠居生活を送るか、経歴に傷がつかない内に名誉除隊をして転職するか、マリアン・E・カールのように、ウィッチとしての誇りを貫くために、それまでの自分のポリシーをかなぐり捨てる者とに三極化していく。シャーリーは自由リベリオンの中核を担う戦士と見做されつつ、北条響としての軍籍を別個に持つようになり、最近は後者として活動している。のぞみが表向きは『中島錦』として活動しているのとは対照的である。ノブリス・オブリージュが21世紀日本から理解されず、『貴族や華族がいた前時代の遺物』と左派から公然と嘲笑されるウィッチ世界の社会情勢では、Gウィッチは貴重な『ノブリス・オブリージュの実践者』(黒江達も招来の爵位が約束された側面はあるが、先祖はあくまで『士族』である)とされ、次第に『模範』とされていく。その関係でGウィッチの別名義での軍籍の所持は(それぞれ、エースであるために名が知れている関係で、元の名と姿では動きにくい)諜報活動などの兼ね合いという形で特別に公式な許可がなされた。

『そいや、お前、北条響としての軍籍は作ったか?』

「パットンの親父にブロマイド売って、それと引き換えにね。日系リベリオン人って事にしたよ。あたしは元の姿でも名が売れてるしな」

『のぞみは錦が覚醒したって建前になったから、気苦労してるぞ?』

「あいつは別人を演じられる度胸ねぇから、妥当だよ。ま、シャア・アズナブルみたいに使い分けるようにするように仕込んでくれ」

シャーリーは状況に応じて、三つ以上の姿を使い分けるようになるが、のぞみは表向き、錦がプリキュアとなったとされた(のぞみの自我意識が双方の要素を持った事、中島家がウィッチの名家であった都合もある)ため、気苦労も多い。政治的兼ね合いが絡んだGウィッチの二例目(中島家は軍部と繋がりが強い)となった。

『わかった。お、そう言えば、海軍から愚痴られたよ。艦種種別表を大幅に書き換える羽目になったって』

「もしかして、翔鶴と大鳳?」

『ああ。蒼龍型から翔鶴と瑞鶴を独立させたし、同型が中止になった大鳳を翔鶴型に再分類したから、軍令部が書類の書き換えで過労死しそうになってる。ただでさえ、統合幕僚会議と統合参謀本部への移行が決まって、てんやわんやだからな』

ここで黒江は、『扶桑海軍は日本の指示で空母の種別を史実通りに直されるわ、超大型空母への切り替えで同型の建造が無くなった大鳳を翔鶴の三番艦に再分類する書き換え作業に追われている』事を語る。当時、扶桑は翔鶴と瑞鶴の正式な艦種を雲龍とひと括りにしての『改蒼龍型航空母艦』としていたが、日本側への説明のため、艦種を史実通りに独立させるという決定を下した。雲龍型の各種用途への転用、大鳳の増産撤回も絡んだ結果、大鳳は史実通りに事実上の翔鶴型三番艦という扱いで落ち着き、他の大戦型正規空母共々、『軽空母』に再分類された。これは超大型空母こそが『正規空母』という日本側に歩調を合わせてのもので、艦上機のジェット化で全ての既存空母が時代遅れになった表れで、この時に戦時中の産物である『装甲空母』の分類も廃止されている。

「日本側に合わせたのか」

『財務や背広組との兼ね合いだよ。だが、戦後型スーパーキャリアは生産に何年もかかるし、既存空母の多くを退役させないと、財務省が保有に首を縦に振らねぇ。だから、五十六のおっちゃんは俺らに宇宙戦艦の調達をさせたんだよ』

山本五十六は空母の大型化に伴う高価格化で大戦型のような大量保有が不可能になることを知ると、航空機名目で保有が可能とされた宇宙戦艦を64Fに調達させた。名目は『支援用大型航空機』というものにして。この名目を大々的に利用したのが『ニューレインボープラン』なのだが、宇宙戦艦の建造なため、海軍から要員を都合しなければならぬ問題が浮上し、その兼ね合いで計画の一定段階で『宇宙艦艇』の種別が海軍に創設されるに至る。そのため、自前で艦艇の運用すら可能にする64の重要さが認識されていく。

『俺らは空軍だぜ?それがサボタージュのおかげで未来世界の宇宙軍と変わらん万能さを要求されるんだから、宇宙戦艦を五十六のおっちゃんが持たせたがるのもわかるだろ?幸い、うちには転生者が多いのと、未来行き経験者も固めてあるから、宇宙艦隊を自前で組めるがな』

「ほんと、うちが妬まれるのもわかる。他の部隊はいいとこ遷音速だぜ?それがハイパーソニックを普通に出せる兵器を出して、自前で艦艇まで運用できるんだし、海兵隊より海兵隊らしいよ」

自前であらゆる事態に対応するための装備を備え、全員が精鋭である事から、64を『リベリオン合衆国海兵隊の代わり』と見做している節が上層部にはあったが、歴代プリキュアの出現後はその認識が加速しており、64が自前の要員でラー・カイラム級機動戦艦、アンドロメダ級戦略指揮戦艦の運用を始めたのを歓迎している。ある意味、『空軍の人員が海兵隊をしている』に等しいのが64Fの実態だ。

『その分、戦果を挙げる事が常に求められるから、気苦労も多いぞ。』

機材と人材を優遇される代価は一騎当千の戦果であるため、必然的に黒江達は階級に関わらず、最前線で戦う必然が生ずる。尉官は使い走り、佐官が中間管理職扱いという64の異質さが際立っている。また、金鵄勲章や騎士十字章も殆どの隊員が叙勲済みであるため、その特異さが際立っている。日本のゴリ押しで今の豪華な陣容が出来上がった64Fだが、結果としては、ほぼ唯一の実働部隊と化した事で良い方向に作用した。Gウィッチは他のどの部署でも『有能すぎる上に裏事情を知っている』故に持て余される上、官僚軍人がこれから侵す過ちも知っていることになるため、彼女らの最前線勤務はそれを漏らされて失脚する事を恐れる官僚軍人らの都合にも良かったのである。(つまり、あまり政治的に影響力を奮われても、官僚型軍人の領分が侵されるという事で、黒江達は定年まで前線勤務になる)

「官僚どもはあたしらをどう見てる?」

『裏事情に精通してる上に、影響力を奮えるから、厄介者だよ。連中の領分を侵すんで、ウチは今の編成で固定だよ。他の戦線はスーパーロボットでどうにかするそうな。モチベーションが失われたカールスラントは数年もありゃ、見る影もないだろうさ』

スーパーロボットの力は神のごとしだが、その力が奮われることで、カールスラント軍のモチベーションが失われ、わずか数年で国家そのものが衰退してしまう。軍事主体国家からの脱却をさせようと、ドイツ側が強引に軍縮させたのが響いたのである。また、オストマルクを吸収していた都合、二カ国が同時に衰退することにもなるため、慌てたドイツがカールスラントに軍事の再建を認めたのは48年の事。同国の軍隊が二カ国分の安全保障を担えるまでに再建されるのには、ここからそれなりの年月を費やす事になる。ラル達の現役期間のかなりの期間には、この再建作業も含まれる。ただし、空母の高額化などから、かつてのような大海軍国としての再建は諦められ、史実通りに陸空主体で再建され、ラルはその旗振り役として、後世に名を残す。また、カールスラント戦艦は基本的に史実太平洋戦線のような撃ち合い向けの設計ではない点から、外用航行前提で開発されたバダンの保有艦の鹵獲品を再利用する有様で、日本連邦からは『二流海軍の見栄』と鼻で笑われたという。そこがカールスラント海軍がダイ・アナザー・デイにほとんど寄与できず、逆にビスマルクの基礎設計の古さを鼻で笑われる始末であった理由だ。ただし、カールスラント海軍としても、一時大戦後に海軍再建が後回しにされたままで第二次を迎えたという運の悪さは自認しており、大和型以降の主砲はオーバースペックだと精一杯の嫌味を言うことで自尊心を満たしたという。日本連邦内部にも戦艦の主砲口径を抑えるべきだという声はあったが、敵が敵であるため、どうしても大艦巨砲主義を進めるしか選択肢がない。それ故に56cm砲は生まれた。ガレオン船以来の大砲装備の究極として。


『三笠型と次の戦艦は56cm砲なんだが、防衛省のお偉方から、ふざけてるのかって言われたそうだ』

「列車砲の大きさだぜ、その口径だと。そりゃなぁ」

『これでも、502の担当地域でドーラ使って、大チョンボになって、ゴッドマーズがどうにかしたから、口径を小さくしたほうなんだ。未来のショックカノン砲やパルサーカノンでも、56cmが大口径化の限度らしいし』

「つか、ゴッドマーズ、強すぎだろ…」

『六神合体だぞ、怪異なんて物の数じゃねぇ。ズール皇帝も倒したんだし、ゴッドマーズ』

フェイトが連れてきた平行世界の地球のスーパーロボット『六神合体ゴッドマーズ』。その強さは不動明王に例えられるほどで、ファイナルゴッドマーズの一閃で怪異の巣を屠るという圧倒的強さを見せた。ゴッドマーズの存在は地球連邦軍をして、『我々は100万の味方を得た』と言わしめるほどのものであり、彼の奮戦があって、ブレイブウィッチーズの吸収合併が了承されたほどだ。また、明神タケル(マーズ)はフェイトを通し、黒江たちと面識があったので、その縁でゴッドマーズを引っさげて、援軍にやってきてくれたのである。

「どのルートでタケルさんと?」

『フェイトだ。アイツが調査の過程で出会って、大塚長官を説得して、今回の派遣にこぎつけた。ゴッドマーズがいれば、怪異は物の数じゃないさ』

「あんた、フェイトをこき使ってね?」

『なのはは教導だし、はやては高官ルート。そうなると、あいつに動くように言うしかないだろ。ま、姉貴がブロッサムなのには面食らったが…』

フェイトも自身の姉がキュアブロッサムの転生である事には腰を抜かしており、なのはがシェルブリットに覚醒すると、『そっちぃ!?』と開いた口が塞がらないなど、最近はコミカルな驚き役である。

「その関係?なのはがなんか不機嫌なんだけど?」

『ああ、シュテルがアムールだからだ。あいつ、親友のアリサがエースになったから、期待してたんだそうだ…』

「あのバカ…」

思わず閑古鳥が鳴くキュアメロディ。なのはは元から変身願望の強い子供で、青年になっても、根本に変化はないため、アリシアがキュアブロッサム、アリサ・バニングスがキュアエースになったという報を聞いて、密かに期待していたのだが、自分はアルター能力だったので、不機嫌なのだ。

「あいつ、変なとこでガキのままだな」

『ま、子持ちになっても、あいつはまだガキって言える年だしな。アリサ・バニングスなんて、わざわざ子供の頃の姿に戻って、プリキュア・ドレスアップしてんだぞ』

「子供の頃に戻る必要なくね…?」

『ま、元々、キュアエースは成長変身だろ?アリサは大人になって、家の事業の一部を引き継いでるみたいだから、記憶の覚醒での息抜きと、マナ達に合わせるためにガキの姿に戻ったそうな』

「あのガキも変なとこで律儀だよなぁ…」

『その姿で、カレンのガサツさ全開のお前がいうか?』

「それは言わないでくれよ〜…。ルルーシュやC.Cが見たら腹よじれるくらいに笑うだろうし…」

『ルルーシュなら、脅しのネタにすんだろ?それにC.Cの声色、キュアホワイトに似てることに気づかんのか?』

「考えたけど、なんかムカつくし、あのピザ大好き野郎とほのかさんがどう繋がるんだよ、勘弁してくれって…」

『可能性がないとは言えないだろ』

「マジで勘弁してくれ…。もし、そうなら、一発殴りたい」

『お前なぁ…。もしそうなら、遊ばれて、関節技されるぞ』

「そうなんだよ、ホワイトはサブミッション得意でさ。あたしのパワーじゃ抵抗出来ねぇし、なんかパシリにされそう」

『考えておけ。それに新見さんがキュアムーンライトっぽいとか…』

「むしろ、あたしは狂ってる甘党提督を疑ってるんだが、それ」

キュアムーンライトとキュアサンシャインについてだが、有力な候補者が数名ほどおり、ムーンライトについてはリンディ・ハラオウン、もしくは新見薫が該当する。サンシャインは連邦軍の提督『ミスマル・コウイチロウ』の愛娘『ミスマル・ユリカ』か、ステラ・ルーシェが候補者だという。

「サンシャインだけど、後者なら、ジャンヌのダンナをどう説得するよ?」

『それなぁ。別人として動いてもらうしかないな。あの小僧は経緯上、ステラがMSのテストパイロットするのも嫌そうにしたとかいうから。提督の愛娘だと、それはそれで大変だし』

「そのステラ・ルーシェは何してるんだ?」

『えーと、昨日にギアナでのガイアのテスト終わったから、のび太の時代に送り込まれるそうな。システムの高湿度環境での作動状況のテストだそうでな』

黒江とメロディもまだ気づいていないが、ギアナでのテスト中、ステラ・ルーシェにフラッシュバックが起こり、自我意識が明堂院いつき主体に変貌していた。もちろん、ステラ・ルーシェとしての記憶もあるが、シン・アスカとの繋がりは薄い世界線であったため、シンヘの執着は実はほぼない。テスト中に明堂院いつきの自我意識が目覚めたが、シンを安心させるため、シンの知るステラを演じているところもあるなど、罪悪感もある。テストはきちんとこなし、神経接続で五感がガイアのセンサーに置換されている状態で生前の技能だった武術の型を決めるなど、意外に順応していた。その状態で新野比家の警護についたわけで、それはそれで面白い画像が撮影されたという。





――その頃、基地では――

「ん、リコちゃんからメール?なんだろ…えぇ〜!?」

芳佳のプリキュアとしての活動用のタブレットにメールが入ったのだが、リコからであり、添付された写真データを見てみると…。そして、明堂院いつきがステラ・ルーシェに転生し、プリキュアに戻ったはいいが、連邦軍との仕事中に記憶が戻ったので、MSの新操縦システムのテストをしながら野比家の警護につかなくてはならず、人サイズに縮小されたMS形態のガイアガンダム越しに肩を落としていることが書かれていた。

「のぞみちゃん〜、大変、大変だよ〜!」

「あれ、みゆきちゃん?今日は非番じゃ?」

「それより、見てよ!このメール!」

「た、た、大変だぁ!?すぐにプリキュア会議にかけないと!みなみちゃんに知らせて…あ、だめだ。今日は維新隊の視察だ…、トワちゃんはいるはずだから、知らせてくるよ!!」

「わ、わたしはマナちゃんとめぐみちゃんに!プリキュア会議の緊急呼集だ〜!」

プリキュア達は隊内の独立したコミュニティでもあるため、独自の会議を開く権利がある。それはプリキュア会議という名称で開かれており、歴代ピンクと知性派メンバーが会議の議員である。この日は緊急会議なため、新選組在籍のプリキュア達のみが参集に応じた。議題は明堂院いつき、キュアサンシャインについてであった。また、会議のまとめ役はキュアフェリーチェであり、音頭自体は古参のドリームが取っているため、プリキュア達なりの井戸端会議に近いのだが、ブリーフィングルームを一室まるごと貸し切る事もあり、意外に体は整っていたという。


――二人がつかの間の休息の雑談をしている最中にも、戦況は変化していく。黒江のもとに別ルートの援護を引き受けている山地闘破/磁雷矢から連絡が入り、バダンが悪の世界忍者と手を組んだ事が伝えられるのは間もなくの事であり、ドイツ戦艦の究極形態たるラ級『フリードリヒ・デア・グロッセ』がウィッチ世界のリベリオン本国でその牙を静かに研ぎ、アメリカ戦艦の究極たるラ級戦艦『リバティ』も建造が始められていた。リベリオンは膨大な戦力そのものを目眩ましに、宇宙戦艦ヤマトやラ號に対抗できる兵器を用意する。ラ級戦艦という大海獣を以て――



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