外伝その423『連合艦隊の凱歌』


――連合艦隊は護衛艦タイプの駆逐艦の建造や旧型の多い軽巡の刷新を始めたが、日本側が軽巡と護衛艦のサイズは差がないとしつつ、超甲巡を戦艦枠に入れようとしたために混乱が発生。超甲巡を戦艦として完全に再設計する案が出るなど、シッチャカメッチャカ感が否めなかった。これは超甲巡を『戦闘にしか使えない艦』と見なし、安価な近代ミサイル巡洋艦で砲熕型巡洋艦を排除しようとする勢力の後押しであった。これはいくらなんでも独善的すぎたので廃案になったが、現実問題として、高雄型をベースに、デモイン級と同等以上に武装と装甲を強化した艦の提案は了承され、阿賀野型軽巡洋艦に代わる水雷戦隊旗艦として使用する案は高雄型の老朽化(1945年で25年近く)もあり、了承された(超甲巡が空母と戦艦の護衛艦と打撃艦隊のワークホースに転用される都合もある)。ダイ・アナザー・デイは護衛艦タイプと旧来型駆逐艦が入れ替わる過渡期の戦ともされ、連合艦隊は海では制海権を手中に収めつつあった――




――連合艦隊はこの時、改モンタナと初めて対峙した。砲身命数に目を瞑り、攻防力を強化しただけはあり、史実大和より強力であった。連合艦隊が防御力をひたすら強化した甲斐がある結果を生んだと言える。――

「やれやれ。日を跨いでも砲撃戦を続けるのは、M動乱以来だな」

「水雷戦隊と艦娘達が夜戦でダメージを与えたというのですから、直に勝てましょう」

「うむ。敵が46cmになろうと、こちらは50cm台だ。今日でケリをつけてくれようぞ」

連合艦隊は攻防力を近代化で強化した恩恵により、駆逐艦はともかくも、主力は一隻も落伍艦を出していない。史実の米軍の最盛期の航空戦力に耐えられるようにしたハードウェア、イージス艦らを帯同させていることでのソフトウェアの優位がリベリオン艦隊を打ちのめした。この時、富士の56cm砲により、改モンタナの一隻が大破して落伍しており、連合艦隊の50cm台の巨砲と長砲身46cm砲による砲火にリベリオン艦隊がとうとう音を上げ始めたのだ。(日本の左翼勢力は扶桑の砲弾性能を嘲笑したが、史実大和より強力な装甲を持つ艦を更にぶち抜く巨弾の威力は下手な巡航ミサイルより上であると分かると、途端に沈黙した。逆に言うと、史実以上の戦艦ともなると、21世紀のミサイルでは費用対効果で釣り合わない表れとも言える)

「今日で二日目だけどさ、のび太くん。なんでミサイル艦は回りにしかいないの?」

「砲弾が当たれば、もれなくボカチンだからさ。戦艦部隊と同じとこにいたら、流れ弾で沈む事もあり得るからね」

「ミサイル艦って脆いんだ…」

「軽巡くらいはあるんだけど、戦艦相手じゃ大して変わんないよ」

戦艦が海の王者に君臨する世界。ミサイルすら致命打にならない防御力を得、潜水艦が封殺され、核兵器が推奨されない世界では、戦艦は王者で有り続ける。その証明であった。この日は勤務であったキュアピーチはのび太と組んでいた。

「ん?怪異か」

「こういう時に!?」

「ああ、心配いらない。はぐれ怪異だし、彼が到着したようだ」

「え、彼?」

『グレートスマッシャーパーンチ!!』

その叫びが木霊し、はぐれ怪異は何かにぶち抜かれ、艦隊に達する前に粉砕される。マジンエンペラーGが到着したのだ。

『すまんな。怪異を蹴散らすのに手間取った』

「鉄也さん。どこに呼ばれてたんですか?」

『欧州のウラル山脈付近だ。エンペラーは光子力とゲッターエネルギーを使う都合、怪異が脅威と判断してな』

マジンエンペラーGは光子力とゲッターエネルギーの複合動力で稼働する。そのために怪異が集中して狙い、掃討に手間取ったと鉄也は話す。

「つまり?」

『欧州の怪異はあら方が片付いたという事だ。千万は倒したから、10年か20年は大規模には出現すまい』

マジンエンペラーGはグレートマジンガーの後継/発展型であるが、緊急で開発されたので、時間の短縮のために、マジンカイザーのフレームのコピーをベースにしてゲッター要素とマジンガー要素を混ぜ合わすことで建造された。ミネルバX(ヒューマノイドタイプに生まれ変わった)から『グレートマジンカイザーは既に別次元でZEROに倒されている』と警告された兜剣造がエネルギー学の権威『ライオネル博士』(正体はZ神)からの助言で新造した。マジンガーらしくない意匠が所々であるのは、ゲッター由来の要素である。相性がいい二つの技術を合体させたためか、全マジンガーでも三本の指に入る攻撃力を持つ。また、高位のゲッターが有する自己再生能力も持つため、ある程度のメンテナンスは自分でやってしまう。同機が本来は502統合戦闘航空団が担当するはずの地域の怪異を数日で撃滅したため、同隊に携わった人々は複雑な思いを抱いたという。

「普通にやっていれば、巣の撃滅に6、7年はかかるそうですから、ウィッチ連中が僻みますよ」

『あの子達が全力なら、俺とそう変わらん日数で出来るだろうから、気にする事ないと思うがな』

「強すぎる力は反発を呼ぶって奴です。しかもいきなり、『ごめん。俺達の不手際で、実はこうだったんだ』ってやればね。近代兵器の威力が知れ渡ったから、上はウィッチ雇用の整理を考えるだろうから、ウィッチにとって、ここ数年は踏んだり蹴ったりの時代でしょうね」

『ずいぶんと陰湿な世界だな』

「閉じたコミュニティなんてのは、そういうもんですよ」

のび太はそう〆る。

この時代、江藤がしばらく、参謀本部で下積みをやることになったのは上層部の被るはずの泥を代わりにひっかぶることになったからだが、智子の前所属先の機密が日本からの思わぬルートで白日の下に晒されたり、506統合戦闘航空団のグダグダぶりが知れ渡ったため、それら政治的暗闘の隠蔽工作が諦められた代わりに、事変での黒江たちの上官であった江藤が上層部の保身に利用されたのだ。また、枠組みが政治的に利用していると批判された統合戦闘航空団も最終的に既に実績がある501以外は統廃合された。(これには各国の現場で反対意見が多かったが、カールスラントの権威誇示ではないかという批判もあり、政治的妥協で決められたという)その501も実質はカールスラントの失態で扶桑の64Fに取り込まれた形となったため、後年、ミーナは『カールスラント軍の凋落の直接的きっかけをもたらした』と後世、同郷の者たちから批判を受ける事になる。だが、扶桑軍とて、この時代は露骨なまでの64Fの優遇に反対論が中堅を中心にあり、『エースを片っ端から引き抜いた』という趣旨の批判を展開している。だが、当時の扶桑軍はウィッチの世代交代期に差し掛かっていたため、批判ほどは古参が多いわけでもない。(名が知られるようなトップエースは新選組に集中していたし、広瀬大佐や宮部大佐のように、ダイ・アナザー・デイ後に着任した腕利きと鳴らす中堅も多い)世代交代が中途半端に進行していた事が扶桑軍を後年まで苦しめる事になる。(中堅が抜けたため、古参が支えなくてはならず、軍に入る新人の数が回復する時代は数十年後になるため、並立組織であるMATの代替役としての正式な認可がおおよそ半世紀は後のことになるのは、苦労を重ねた大戦世代の心情的に仕方なかった)

『さて、そろそろ敵の砲身命数が尽きる。一旦は引き上げるだろう』

「戦艦の砲身って変えるものなんですか?」

『国による。日本は内筒を取り替えることで補給を済ませていたという記録がある。戦艦の主砲塔の砲身は重量物だからな。おいそれと変えられんよ』

鉄也はキュアピーチに説明する。戦艦は通常、発砲が少ないために気にされないが、数百発も撃てば、砲身命数に達する。51cm砲に反対論が噴出したのは、砲身の頻繁な交換が必要になるという補給の観点からの難点であったが、宇宙戦艦用と同規格のものを用いることで交換頻度が下がったので、ひとまずは安心であった。

『さて、野暮な事をする航空隊には消えてもらおう。サンダーボルトブレーカー!!』

空母機動部隊から発艦した第三次攻撃隊(おおよそ数百機)をサンダーボルトブレーカーで艦隊から遠距離で空間ごと爆破して始末するマジンエンペラーG。まさに圧倒的であった。

『さて、みんな。着艦して補給と休養だ。甲児君には連絡を取ってある。』




――この頃になると、連合軍からオラーシャが抜けた影響で連合軍の兵力は更に弱体化。ますますGウィッチとヒーロー達への依存は強まり、地上空母に64F以外のウィッチ部隊は合同部隊でも対抗出来ないという戦訓がもたらされたことは航空ウィッチの軍事的意義の低下を決定づけたのである。当時は第二世代宮藤理論は基礎理論の実証実験段階であるし、地上空母の近代装備の前に熟練の急降下爆撃ウィッチ達の合同部隊が退けられた事から、不要論まで噴出するなど、ウィッチの政治的立場は一気に悪化した。一般ウィッチは大きく増していく近代兵器ほどの存在価値を示せずにいた。陸戦ウィッチはやりようによってはMBTに対抗できるためにまだマシだったが、航空ウィッチは当時の技術的限界もあり、歩兵的働きが出来る以外は当時のレシプロ戦闘機と大差ない戦力(接近戦闘で格闘武器を使えたり、固有魔法を使える者は芳佳らの世代になると、カリキュラムの簡略化で大きく減っている)でしかなかったからだ。そのため、当時の陸戦ウィッチ以上に陸戦に強く、参謀や折衝をやらせても一流の働きが出来る(後世で一般的になった言葉で言い表すならば、『チート』というべきか)Gウィッチは嫉妬の対象とされる。それを日本の一部勢力がマスメディアを使ってセンセーショナルに煽ったため、戦線はGウィッチ依存を強めていってしまう。史実でも44JVは上層部の嫉妬で『他部隊の支援を受けられる事』は稀であったというが、64Fの場合は上層部の命令でなく、現場の自発的な動きであったために余計に質が悪かった。連合軍肝いりの精鋭部隊が現場の通常航空ウィッチ部隊に嫌われるという悪循環に困惑した連合軍上層部は歴代のスーパーヒーロー達に支援を要請。ヒーロー達は要請に応じ、64Fを支援。本来ならば他のウィッチ達がすべき仕事をも代行し、64Fを支えていた。これはグローリアスウィッチーズや64Fなどの『肝いりの精鋭部隊』は上層部の統制が行き届いていて、補給も潤沢なことへの現場の反発によるものだが、64Fとしても『単独で広大な欧州の制空権を確保しなければならない上、陸戦の火消しをしなければならない』という過酷極まる任務を遂行せねばならない都合、最高の人員でなければならないという切実な事情がある。64Fが持つ特権も最初はアフリカ三羽烏の将軍らの配慮によるものだったが、サボタージュが公然となされるようになったダイ・アナザー・デイ二週目からは『ドワイト・アイゼンハワー連合軍司令官公認』のものとされ、事を知った地球連邦軍が支援に乗り出し、遂にはスーパーヒーロー達にも支援要請が出されるに至った。日本防衛省のある若手官僚はこの事情を『中学生や高校生がクラスの一人をハブにしてるような状態』と称し、防衛省は憤慨し、独自色の強いウィッチ社会の解体を推進する事を決意する。サボタージュからの反G閥の流れは扶桑においては翌年(46年)のクーデターで最高潮に達するが、政治的に自分達の首を絞める結果で終わり、憲法改正とそれに伴う防衛体制の刷新で『将来的な兵科の解体』は決定事項となる。ただし、竹井少将の功を生前に否定することを嫌った昭和天皇の要請による温情で『功労者である竹井少将の存命中に限って、兵科存続を認める』という移行期間が図らずしも設けられた。竹井少将が存外に長命を保つことで『猶予が出来た』と見なした賢明な層はその間に技能スキルを磨くことに血道を上げ、ウィッチであることに固執するのをやめる層が現れていく。広瀬大佐と宮部大佐などと言った『中堅世代の俊英』はその層に分類されていくのであった――







――前世と違い、黒江達に仕える選択を選んだ雁渕孝美。妹が自身と違う形で才能を開花させる事を知り、精神的に『妹の目標』という立場から開放されたこと、前世で抱いた黒江達への嫉妬が実像を知ることで羨望へと変わったこと、黒江の勧めで聖闘士の門戸を叩き、特別にもう一つの鷲座の聖衣を与えられたことが契機になり、黒江達に異心無く仕える選択を取り、黒江達の腹心としてのポジションにいた。ダイ・アナザー・デイ時点では64の第二大隊である『維新隊』の隊長の地位にあり、まさに中間管理職にあった。妹の才覚に気づけなかったと、彼女も中傷を受ける身であったが、『アニメとは自分の立場も、妹の軍内での立ち位置も違うので、自分はコメントしようがない』としている。そもそも、彼女はアニメと違い、ブレイブウィッチーズとの接点は薄い。アニメと違い、菅野と兵学校同期の関係であり、むしろ関係が深化したためか、菅野からは執着されていない。ひかりも菅野やニパとの接点はまるでなく、むしろ、黒江達に才能を見いだされたという形で64Fに配属されたようなもの(元はプロパガンダ写真を撮影するためだけに召集したのだが、故郷で出征式が行われた都合、手ぶらでは帰せなくなったために偵察中隊へ回した)である。孝美自身、前世でひかりが(曲解があったとは言え)激怒し、半ば縁を切られていた時期があったことへの反省で、現世においてはシスコンぶりを公の場でも隠さない態度を取っており、バルクホルンと並んで『シスコン』ぶりが知られるエースであった――


「孝美?あたしだけど、維新隊から人員を割けるか?」

「私が行きます。維新隊の子達はまだ天測航法に慣熟していませんので」

「そうか。先輩達には報告しとく」

「お願いします」

孝美の立場は『下原の一期先輩、錦の一期後輩』というもので、錦の立場を継いだのぞみへも『後輩』として接していた。のぞみもその思いを汲み、孝美へはタメ口で接していた。そこも軍の先輩後輩関係が厳しい縦社会の表れであった。また、孝美自身、前世で仮面ライダーらに助けられてからはヒーローやヒロインに憧れを持っており、錦の前世がプリキュアであり、それに戻った事を嬉しがった。のぞみも自分を素直に慕う孝美を可愛がっており、関係は良好であった。孝美の部下達は練度こそ充分だが、天測航法に慣れておらず(世代が下ると、母艦乗り込み勤務自体が儀礼的なものになっていたため)、孝美本人が増援になるしかなかった。そこが扶桑のウィッチ教育の簡略化の弊害であった。日本では『指揮官先頭』の名のもとに幹部も戦闘を行うことが奨励されていた。扶桑でも同様だが、扶桑軍航空ウィッチには世代交代で『この慣習が実行できるだけの指揮能力がある』ウィッチが減少していたため、そこも現場の混乱の一因であった。45年当時に17歳、当時のウィッチの常識では古参に入る年齢であった孝美が隊内で依然として使いっぱしりである理由であった。



――洋上 空母『龍鶴』(プロメテウス級)―


「ご苦労」

出迎えたのは黒江である。

「要請に従い、参上しました。状況は?」

「昨日、本田が機体のトラブルで事故って、後送されてな。そこでお前を呼んだ」

「本田さんが?」

「着艦寸前でストライカーが停止してな。なんとか回収はできたが、放り出された本田は重傷だ」

本田とは、64Fの中堅で、343空出身の手練『本田少尉』のことである。彼女は着艦寸前に使用していた『紫電改』の魔導エンジンがトラブルを起こし、ストライカーから緊急排出されたせいで甲板に叩きつけられ、重体となり、後送された。その後任という形で孝美は海戦に参加した。海戦は戦艦同士がタフなために決着が三日かかってもつかず、敵が後から後から後続に交代させるのもあり、海戦史上稀に見る長期戦と化した。制空権維持のための戦闘も昼夜問わずであり、整備の不備も仕方ないことであった。

「のぞみに連絡を取らせて、お前を呼んだ。天測航法ができて、空母着艦可能なのは限られるからな」

黒江のいうように、公には『陸上部隊でも空母着艦技能がある』というのが公称の扶桑航空部隊だが、45年当時においてはカリキュラム簡略化の影響と陸海の対立の顕現化でそうでなくなっており、64Fに属していても、空母着艦技能を持つとは限らない。維新隊は隊員にその技能持ちがおらず、孝美自らが欠員補充となるしかなかったのだ。(孝美もそれを把握したのは、ここ三日の話)

「どうして、そんな事に…」

「ここ数年は洋上作戦の必然性も減ってたからな。カリキュラム簡略化の影響で公称がハッタリに成り下がってやがった。本田は惜しかったが、病院送りになった以上はな。芳佳が応急処置したから、大事には至らなかったのは救いだが」

「戦況は?」

「戦艦六隻、巡洋艦八隻を落伍させて、戦艦は四隻、巡洋艦は七隻撃沈したが、敵は後から後から後続に入れ替えてやがる。今は戦を打ち切って補給整備作業中だ」

「そんな、水上艦艇をポンポン…」

「42年からの2年間で大量に造ったんだろうよ。史実の記録とも合致する」

リベリオンは1941年度に扶桑との戦争に備え、海軍増強計画に着手。45年にはそれらは第二陣までが完成していたため、リベリオン海軍は膨大な予備艦艇が後方に控えている事になる。主力が健在とは言え、処理が追いつかなくなった連合艦隊は補給と整備に追われていた。

「日本側も驚いているよ。戦艦や巡洋艦が沈めても沈めても、数が減るどころか増えやがるからな」

連合艦隊は補給整備に全力を傾けていたが、それが完了するのはあと三日を要する。空母部隊のパイロットたちも連戦で疲労しており、バルイーグルのコズモバルカン、レッドファルコンのジェットファルコン、ゴーグルレッドのゴーグルジェットが制空権維持を代行している。一向に敵がへこたれないため、連合艦隊は『戦況が動いているか?』という実感を持てていない。駆逐艦はそれこそ沈めまくったはずだが、数が却って増えるという凄まじい工業力に連合艦隊は『お前ら、魔法でも使ってんのか!』と文句を言いたいくらいに困っている。実際、それまでに得た捕虜も膨大な数に膨れ上がっており、本国にいる自由リベリオン軍人の家族との交換事業が数年ほど行われたため、太平洋戦争の開戦と戦闘の本格化が数年ほど伸びたのが救いであった。この海戦で空母機動部隊の威力は凄い事が認知されたものの、維持費が高額になると知ったカールスラントは空母機動部隊の取得費と維持費の高額化で取得を諦め、グラーフ・ツェッペリン(愛鷹)を扶桑に返却するに至る。だが、その違約金は止むに止まれぬということでかなり値切ったとは言え、依然として高額であり、その負担でカールスラントそのものの財政が死に体に陥り、カールスラント海軍の沿岸海軍としてのポジションが確定してしまうのである。ブリタニアは史実で共同開発にした機体を自力で開発することに血道を挙げる事になるが、バッカニアが扶桑海軍に採用され、扶桑海軍空母機動部隊に好評であるなど、対外的な商売としては一定の成功を収める。ダイ・アナザー・デイ中には既にその第一生産ロットが投入されており、旧来レシプロ攻撃機のネガを潰した機体と評価されている。この激しい技術開発競争はダイ・アナザー・デイでは顕著であり、日本連邦軍がその先頭に立っていた。龍鶴にはA-4、バッカニア、F-8などの旧型機から、現行機水準であるF/A-18E/F、F-14単座型まであり、そのテストも兼ねていた。

「戦況ははっきり言って、膠着状態になってる。敵は雲霞のような数でこちらを追い立てて来やがる。整備員も疲労困憊でな。本田の一件は大事にはしたくないんでな。お前を呼んだのは、それもある」

黒江は戦況を説明する。流石に神妙な趣きなのは、整備員の疲労困憊によるミスが目立ってきたからだろう。

「日本にこいつらをカミングアウトする時がきたってわけだ。明後日にも投入の準備が完了する」

後世に現れるはずのジェット戦闘機と攻撃機。その実物をいよいよ投入する準備を進めていたと説明する黒江。龍鶴ともう一隻のプロメテウス級に積んである機体はいずれも『ジェット戦闘機/攻撃機』で、レシプロ機は日本向けの情報欺瞞のために置いてあるだけであるという。

「日本は旧軍型飛行機だけでなく、米軍のスカイレーダーにもケチつけんからな。こいつらなんてみたら、どーせ予算の無駄遣いって騒ぐだろうから、実戦配備が終わるまで公にしなかったのさ」

後方で錬成されていたジェット部隊。米軍や英軍が錬成に協力し、投入が決定された切り札。日本の一部政治家は大半が『現行機』でないので『予算の無駄遣い』と言うだろうが、扶桑が扱える範囲の最高性能の艦上機を黒江が選んだ結果である。21世紀水準の機体はGフォースの整備員で整備しているとも言い、扶桑軍の整備員には古い世代のジェット機を触らせていると明言する。

「たぶん、お偉方が泡吹く一番の機体がこれだろう。ブラックバーン・バッカニア。キングス・ユニオンの売り込みで採用された艦攻だよ」

黒江も言うように、村田少佐、江草少佐など、事変世代の手練の艦攻・艦爆乗りに選ばれたジェット艦攻がバッカニアである。元々、97式艦攻や天山などを扱っていた者たちにはバッカニアの性能特性がバカ受けであり、その後押しで採用された。A-4は軽爆撃機の範疇に入るため、重爆撃機的位置づけで採用された。黒江が情報を隠したのは、背広組が『ライノに統一すべきである』と横槍を入れるのを懸念したからだ。

「英国の機体をよく積みましたね」

「米軍の艦攻だが、A-4の後はイントルーダー一択だが、あれはまだ製造できんし、スカイホークだけじゃ艦攻乗りが納得せんよ。ファントムで数合わせしておいたが、日本は納得せんでな。幸い、バッカニアの納入と訓練が間に合ったのが救いだな」

バッカニアの納入は事後報告になったため、この日の日本連邦評議会はまたも大荒れだった。製造はどこが担当したのか。黒江が買い付けたことはいいのか、などの議題が次々と提示されたからだ。なお、バッカニアは尾張航空機(愛知航空機)が彗星に代わる艦爆となる事を見込んで製造を担当していたので、地味に戦前の役割分担を継承していた。後に戦闘機製造メーカーは長島と宮菱、川滝への統廃合が進むが、尾張航空機は地味に爆撃機専門で生き延びていく。山西航空機が戦後は飛行艇主体に再転換するのと併せ、扶桑軍用機メーカーのポジションはこの時期に固定される。以後、尾張航空機は単発爆撃機/攻撃機メーカーとしてポジションを確立。最大手二大メーカーが大型爆撃機と輸送機を手がける間隙を埋めていくポジションで生き延びる。後にA-6が採用された際も製造を担当したという。また、筑紫飛行機(九州飛行機)は太平洋戦争時に震電の開発の長期化で経営が悪化し、事業撤退を表明。宮菱が吸収したため、震電シリーズのパテントは1949年以降、宮菱が権利を持ったという。

「でも、よくこんなに短時間で揃えましたね」

「米軍と英軍が働きかけてきたのを利用した。トムキャット単座型は理論的に可能かと問い合わせる必要もあったしな」

「トムキャットを単座でなんて、よくノースロップ・グラマンが了承しましたね」

「グラスコックピット化とかでの近代化で単座でも運用可能になったし、乗るのは俺とかエレンだし、問題ない」

黒江はこの時期、黒川エレン(キュアビート)とも組んでいた。元々、クラン・クランとして旧知の仲であったため、智子が訓練中であった時期は黒川エレンがバディだったのだ。

「智子が訓練中だしな。あいつはトム猫を手懐けるのに手間取ってる。意外な感じだが」

「おう、噂をすれば」

「孝美を呼んだのか?」

「維新隊にいなくてな、技能ありが」

「やれやれ。この戦いが終わったら、私が仕込まなくてはな」

「あの、ケイ先輩に似てるって言われません?」

「ケイはもうちょい低くて、おまけにやさぐれてるだろうが、アホ」

エレンは圭子よりトーンが若干高いため、聞き分けは比較的簡単であるが、似ている。声が若干若々しく、おまけにやさぐれ度がないほうがエレンとは、のび太の談。

「トム猫のエンブレムだが、炎の鬣の一角獣なんて、渋い代物をよく見つけたな?」

「のび太から漫画を借りて、選んでもらったんだよ」

「なるほどな」

「あのエンブレムが先輩の?」

「今回ははっきり決めといたほうがいいと思ってな。俺も記憶喪失やら二重人格経験があるから、ちょうどよかんべ?」

炎の鬣の一角獣を選んだのがのび太であること、それを薦めたのがドラえもんである事が公にされる。黒江も一応は女子なので、最初はうさぎのシルエットにしようとしたが、シャーリーと被ってしまうためにボツとなり、その代わりの勇ましさとヒロイック性を重視したものが『炎の鬣の一角獣』だった。ちなみに黒江より先にドラえもんがドラケンで使用したが、どらやきのイメージが強いために『ドラえもん機』と気づかれなかったので、黒江のエンブレムとして定着した。また、強いヒロイック性と、黒江がアムロ・レイの部下である点を強調するプロパガンダ的側面でも好まれ、64F最精鋭である新選組の象徴として使われるに至る。

「ドラえもんが先に使ったんだが、気づかれなかったらしいぞ?」

「仕方ないさ。あいつはどら焼き中毒だしな」

ドラえもんは奇兵隊の偵察仕様ドラケンを納入する際に描いていたが、ドラえもんが乗っているとは気づかれず、飛行中の機影を見たのぞみとマナも『ドラえもん君のイメージじゃないよ〜』とドラえもん憤慨ものなコメントをしていた。

「あの、中毒って」

「お前は知らんだろうが、ドラえもんは三日もどら焼きを食わんと、麻薬中毒患者みたいに錯乱するんだよ」

「は、はぁ……?」

閑古鳥が鳴く孝美だが、ドラえもんのどら焼き中毒はのび太少年期の頃は調とことはが買い置きがないと知るや顔面蒼白で大慌てで買いに走るほどに危ない。飢餓状態とは併発しないが、喉を通らないという時は恋患いであり、その頃に近所にいた容姿端麗なペルシャ猫に惚れた時が二人にその事が知られた時である。

「あいつ、恋患いだと喉を通らないからな。それがおかしいんだが」

「ドラえもん、ガールフレンド何匹いるっけ?」

「あいつ、本命を二匹はキープしてやがる。ミィちゃん、タマちゃんだろ?プレイボーイだぜ」

ドラえもんは22世紀に容姿端麗なダンシングガール仕様の猫型ロボット『ノラニャーコ』がいながら、のび太の時代の猫社会に二匹も『本命』をキープしている。ミィちゃんは特にドラえもんと親しい間柄であるため、シャーリーからは『テメェ、二股かけてんのか!?』とキレられたこともある。

「あいつ、同じネコ型ロボットにすりゃ良いのに、耳齧られた時の彼女に病院でバカ笑いされて、あっさりフラれて以来、そのトラウマで猫にしか声掛けないらしいぞ?」

「なんですかそれ……」

「のび太から聞いたドラえもんの女遍歴。シャーリーはブチギレてたな、そいや」

シャーリーはカレンとしての苛烈さが出て以降はドラえもんの派手な女遍歴に激怒し、ドラえもんに掴みかかった事があるが、相手がドラえもんなので、いまいちしまらなかったらしい。

――その辺は猫の生態だから、どうこう言ってもね、ほっときゃ年齢で番別れになるでしょ――

のび太はドライな発言をし、シャーリーを宥めた事があるように、シャーリーは前世においてのルルーシュへの淡い想いをどこか引きずっているらしく、恋愛にうるさい。クロになったルッキーニはそんなシャーリーを『意外に純真なのよ、シャーリー』と評している。紅月カレンとしての純朴な一面も強く出ているためだ。この頃から、因縁があるC.Cがほのかになっている可能性を懸念していてもいるので、クロからは『心配性ね』と呆れられている。なお、最近はセシリアを疑っていたが、セシリアがポンコツを地で行くので、『ないわー』と安心したという。(セシリアの憤慨の一因)


「でも、響(シャーリー)は何を心配してるのよ」

「シーツーの転生の可能性だそうだ。どこかの世界にはコードを他人に移して死ねた可能性もあるだろうし、それがほのかを経てる可能性を嫌がってんだよ」

「まぁ、ねぇ。私だって、ラウラがなおなんて、思いっきりびっくりしたわよ。昔は教え子で、今は後輩なんて」

「お前もややこしいからなー。千冬の同位体の転生で、プリキュアになってもラウラと縁があるんだから」

「お互いに気まずかったわよ、連絡を取った時。教官と教え子が先輩と後輩に変わっただけだから」

ラウラもクランも、転生的意味で気まずい思いをしたらしい。そして、共通の悩みが生まれ変わっても織斑一夏ということに苦笑いするしかなかった。

「あのガキにいうのか?」

「この戦が終われば、向こうにいる千冬に言ってもらうわ。私が言っても反発されるだけでしょう。偽物扱いされそうだし…」

「やってみないとわからんだろう。姉が増えたようなもんなんだぞ、実質は」

「どう説明するのよ」

「キュアビートの姿で千冬の得意な構えか何か取れよ。それで突っかかったら、千冬だった頃の口調で叱れ」

一夏は扱いにくい面があるため、エレンも千冬も関わらす事を避けてきたが、いい加減に事を明かすべきだと箒が言い出したため、黒江もそれとなくエレンを促した。一夏は自分を慕うあまりに姉以外の誰かが『姉の構えを取る』事を嫌う。エレンはその転生に当たるのだから、取ることになんら問題はないというのが黒江の理論だ。

「でも、それをあの子が信じてくれるか…」

「姿は変わっても、お前の『家族』だろ?リコを見ろ、リコを」

十六夜リコを引き合いに出す黒江。リコはシンフォギア装者達からは『姿が変わったセレナ』と見なされている。マリアに至っては溺愛と言ってよいデレデレぶりで、却ってキュアマジカルに変身しにくいとぼやいているほどだ。

「リコも楽しんでるじゃない、あれは」

「それにつぼみを見ろ、つぼみを。初めてキュアブロッサムに戻った時なんてだな、フェイトが大パニックだぞ」

アリシア・テスタロッサは病弱な体質だった時期があるため、キュアブロッサムに変身した時はフェイトが大混乱したとぼやいている。エレンは一夏の反応が怖いらしいが、後輩二人がカミングアウトした事例に勇気づけられたらしい。

「そんなパニックがあっても、その後は収まるように収まる、気にする事じゃ無いさ」

「そうね……。先輩と後輩がやった以上、栄えある『スイートプリキュア』のキュアビートとして、これから逃げるわけにはいかない。やってみるわ。セシリアとシャルには?」

「のび太が知らせた。腰抜かしてたぞ。お前が千冬の転生だって。……束は大興奮だったがな」

「あの野郎、後でハートフル・ビートロックしてやる〜…」

エレンなりにセシリアたちとの関係を新しく築いていこうと決意したようだが、『ちーちゃんがプリキュアに!?』と大興奮な束との関係については生前同様で落ち着きそうである。(なお、束は束で先代黄金聖闘士の監視を掻い潜って、懸命に箒に会おうとしている(名目は赤椿の調整)が、微弱な空間転移反応さえも感知できる乙女座のシャカにより、企みを尽く粉砕されており、初めての挫折感を味わっていたりする…。)



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