外伝その426『驚異の南斗鳳凰拳!!』


――のび太、ことは、調の三者の奇妙な日常は2000年代から始まった。2000年代前半にことはが野比家の養子となり、調は野比家に住み込みの家政婦という身分に2004年度以降は落ち着き、野比家(のび太)の大学入学以降、のび太が財を成していったため、財政的に富裕層に入るようになった。ダイ・アナザー・デイもたけなわの頃、のび太はそんな話を夏木りん/キュアルージュに話していたのだが……――


「はい。こちらのび太…どうしたの?落ち着いて話すんだ、ラブリー。……なんだって!?」

顔色が変わるのび太。怪訝そうに覗き見るキュアルージュ。

「どうしたんです?」

「ラブリーからの緊急電。……ドリーム達が……敵に敗れて、捕虜になったそうだ」

「嘘でしょ!?あの子達は最強形態になってたはずよ!?それが揃いも揃って……ありえないですよ!?……ラブリー、私よ!状況を説明してちょうだい!何があったのよ!?ドリーム、ピーチ、メロディの三人が揃いも揃って……!」

「それが……」

ラブリーも息も絶え絶えにされたようで、声に張りがなかった。ラブリーによると……。






――それから数十分前――

ドリーム、ピーチ、メロディ、ラブリーの四人はティターンズの兵站拠点を強襲した。最強形態で以て戦ったため、当然ながら最初は有利に事を運んだのだが、その拠点を偶然に視察に訪れていた残党の首魁『アレクセイ』が自ら応戦。その際にプリキュア達は南斗聖拳そのもので最強無比の拳を味わう事になった。

「笑止。プリキュアと言えど、たかが小娘の三人や四人……この私の前では有象無象に過ぎぬ」

アレクセイは軍服を脱ぎ、筋肉隆々の肉体をプリキュア達に見せつける。最強形態となっていた四人は『いくら体を鍛えていようと、最強形態となっている自分達に対抗出来るはずはない』と高を括ったが、ところがどっこい、プリキュア達は無残に敗れ去る事になった。


「嘘……だろ……!?」

最初の犠牲者はキュアメロディ(シャーリー)だった。最強形態である『クレッシェンドキュアメロディ』になっていたのにも関わず、アレクセイは彼女が反応できないほどの踏み込みでコスチュームごと、手刀で彼女の体を切り裂いた。その瞬間、他の三人は我が目を疑った。

「メロディィィ――ッ!!」

ドリームとピーチが冷静さを失い、絶叫するほどの衝撃であった。次いで餌食となろうとするのは、フォーエバーラブリーであった。ピーチは現役時代から格闘で鳴らしていたため、それを庇い、なんとか応戦に持ち込むが……。

「キュアエンジェルになってるはずなのに、こっちの攻撃が当たらない……!?」

ピーチの攻撃の尽くが空を切り、対照的にアレクセイの猛攻は次第にピーチを追い詰めていく。

「うわっ!?」

「笑止、その程度の動きで鳳凰の羽ばたきは捉えられぬわ」

彼はキュアエンジェルピーチのパンチを躱すと、ムーンサルトキックで吹き飛ばす。起死回生を図った一撃を躱されたショックで、ピーチはガードもできぬままに上空へ吹き飛ばされる。そのまま態勢を立て直す隙を与えぬまま、手刀で十文字に切り裂いてみせた。その技こそは。

『南斗鳳凰拳・奥義!!極星十字拳!!』

「ラブリー、ドリーム……逃……」

十文字に体をコスチュームごと斬り裂かれ、鮮血を撒き散らしながら地面に落下していくキュアエンジェルピーチ。歴代でも技巧者で慣らす二人が『何もできない』で『筋肉モリモリマッチョマン』な軍人に為す術もなく敗れ去ったことで、比較的に経験が浅いフォーエバーラブリーはあまりの光景に怖気づいてしまい、足がすくんで動けなくなった。対するドリームは親友兼戦友の二人が傷つけられたことに激昂し、アレクセイに挑みかかる。

「南斗鳳凰拳……。聞いたことがある。南斗全流派引っくるめて最強無比を誇る拳法だとな」

「小娘、それなりに覚えがあるようだな」

「こちとら、草薙流古武術の継承者なんでな。おっさんよ、まさか……敗残兵のアンタがドラえもん君とのび太君の世界での南斗鳳凰拳伝承者だったたぁ……!」

「ほう。貴様……草薙流古武術の。ハハハ……他の雑魚とは一味違うようだな」

柔和なイメージを持つシャイニングドリームだが、この時ばかりは親友たちの雪辱に燃えている事もあり、憤怒の表情だった。激昂している時に強く生ずる『錦の攻撃性』が口調を粗野にさせているものの、人格の融合が進んだためか、声色はのぞみのものを保ったままである。草薙流古武術の炎と剛拳を用いることで、アレクセイになんとか食い下がるドリーム。

「おおおおおおぉぉ……あああっ!!」

「ぬおおおおっ!!」

アレクセイの伝承した『南斗鳳凰拳』には『前進・制圧』を是とする思想から、他の拳法には必ずあるはずの防御の型は存在せず、事実上の無形の拳である。そのアレクセイと打ち合ってみせ、ラブリーを庇いつつでありながら、ある程度は渡り合うあたり、ドリームの豊富な実戦経験、素体になった錦が伝承していた草薙流古武術の高いポテンシャルが窺える。ドリームは雄叫びを挙げながら、人知を超えた拳法家を兼ねる軍人相手に渡り合う。拳速で不利ながら、炎を纏う拳は地味にダメージを与えられる。そこもドリームが善戦できた理由であった。

「小娘、その気力は褒めてやろう。だがっ!」

「しまっ……!?」

僅かな隙を突かれ、ドリームが蹴りで空中へ浮かせられた瞬間、アレクセイの人知を超えた速さからの南斗鳳凰拳が炸裂した。手刀でありながら、鋭い刃物が何かを斬り裂く時に生ずるような『ズバァ!!』という音が響き渡った。その瞬間、ドリームは飛び散る自らの鮮血と、『シャイニングドリームに変身しているはずなのに、負けた』。この二つの衝撃に打ちのめされつつ気を失う一瞬、悔しさと『後輩たちを守れず、偉大な二人の先輩(キュアブラックとキュアブルーム)から襷を引き継いだ者として、一矢報いる事も殆どできなかったことの意味』の二つが入り混じった感情が去来し、涙が自然と溢れていた。更にかつて、自らがたった一人愛した者の幻影を見、心の中で侘びてもいた。

「ラブリー……あたしたちのことはいいから…………(ごめん、ココ……シャイニングドリームになったのに……負けちゃったよぉ……。……あの時に誓ったはずなのに……みんなが応援してくれる限り、わたしは負けないって……。りんちゃん……、あたし……)」

ドリームが気を失う一瞬、最後に考えたことはキュアルージュ/夏木りんの事であるあたり、のぞみがりんを幼馴染や戦友でもなく、大切な自分の『家族』と認識している事がわかる。南斗鳳凰拳に敗れ去った三人は鮮血を地面に垂らしながら、ティターンズの駐屯地の地面にその無残な姿を晒す。この時のアレクセイの前に敗れ去り、地面に倒れ伏す三人の歴戦の勇士の姿は『ティターンズ、未だ健在なり』のプロパガンダにガンガン用いられてしまい、三人のプライドを激しく傷つけたのは言うまでもない。そして、ここから数年後、三人は自分達の先輩であるキュアブルームに一敗地に塗れた事を厳しく叱咤される羽目になったのは言うまでもない。三人が一緒くたに扱われるのは、その時にキュアブルームの鶴の一声で決まったため、プリキュアもなんだかんだで、学校の先輩後輩関係じみた緩めの上下関係は一応は存在する事が周知されたのだった。







――歴戦の勇士であるはずのドリームまでもがあっけなく倒された。その光景はラブリーには信じたくない光景。最強形態に変身しているラブリーだが、足が震え、先輩達に加勢することすらできず、アレクセイに『まるで案山子よ』と揶揄される。だが、ドリームが自分を気遣いつつ、落ちていった姿に奮起。自身も戦った。ハイパー形態であった幸運もあり、他のプリキュアより粘れた。だが、力及ばず。辛うじて、彼女だけが撤退に成功するに留まった。のび太に通報した直後に彼女も気を失い、偶然、通りがかった超獣戦隊ライブマンに回収され、治療を受けた――


――連絡を受けた後――

「ドリーム、ピーチ、メロディの三羽烏が揃いも揃って捕虜。これじゃ、プリキュアの沽券に関わりますよ」

「イキリ立つな、ハート。ラブリーが究極形態で以ても、一矢報いるのがやっとだったんだ。お前が行ったところで二の舞になるぞ」

「でも、助けにいかないと!」

「七人ライダーに俺から依頼を出す。彼等の力を借りよう」

黒江は自身のホットラインで本郷猛にプリキュア三羽烏の救出を依頼するが、名だたるプリキュア達を敗北へと追いやった南斗聖拳とは何か?それを説明せねばならぬだろう。南斗聖拳とは、元はと言えば、かの北斗神拳や北斗琉拳の伝承者争いから脱落したりした者たちや非北斗系の拳法家達がそう名乗ったのが始まりとされるもので、北斗系拳法共々、中国は漢王朝時代の暗殺拳が源流とされる。時と共に淘汰、統合されて生き残った中で最強を誇った六つの流派が最大勢力として君臨している。それが南斗六聖拳と呼ばれし南斗最高位の流派である。その内の『将星』とされる南斗鳳凰拳は全ての南斗聖拳で最強を誇り、歴代プリキュアのピンクチームの雄が最強形態になっていたとしても、それですら反応できない速度で動ける。これは南斗六聖拳ならば、どの拳の伝承者でも可能な行為であり、プリキュアも絶対無敵ではない事の表れであった。黒江とのび太は、キュアハートとキュアルージュにその事を説明する。

「北斗系と南斗、元斗の争いか……」

「そうだよ。水面下でそれが争い合ってきたわけ。ティターンズはジャミトフ・ハイマンがバスク・オムの変心とかに備えて、南斗聖拳の使い手を多く抑えていたのさ」

「つまり、強化人間の反乱を超人で?」

「ティターンズはそれを想定していたのさ。いくら強化人間でも、拳法は素人。南斗聖拳なら強化人間だろうが、余裕で倒せるからね」

「つまり、漫画で『アタタタタ……』とかやってるのが北斗神拳なのね」

「うん。あれ、経絡秘孔突くからさ、君等でもタダじゃすまないよ」

「漫画で一部の知識を持ってた俺がシンフォギア世界にいた時、ガングニールを纏ってた時のマリアや切歌に使ったが、本当に動きを封じることができたからな」

「あれの効果は絶大だよ。タイムテレビでその時の場面見てみたけど、本当に指一本も動かせなくなるよ」

黒江がその時に突いた秘孔は肉体の動きそのものを封ずるものであった。マリアは『効果が自然に切れるまで、シンフォギアのフォニックゲインのエネルギーや如何なる現在医療を以てしても、指一本も動かせなかった』と、切歌も『体が石みたいに固まって、声を出すこと以外は何もできなくなった』と秘孔の効果を述懐している。シンフォギアを纏った装者に有効な以上、プリキュアにも北斗神拳と北斗琉拳が有効なのは明らかである。(黒江曰く、秘孔を破るには奥義『秘孔封じ』を使うか、気力で強引に破るかの二択しかないという)

「南斗聖拳は肉体を外から破壊するのが真髄だよ。その威力は下手な刃物よりよっほど鋭い。ドリーム達が負けたのも無理はないさ。しかも、相手は南斗聖拳最強の南斗鳳凰拳。今の君たちが闇雲に向かっていったら、二の舞になるよ」

のび太の忠告に顔を曇らせるルージュとハート。最強形態で向かった四人がけんもほろろに敗れ去り、その内の三人が捕虜になるプリキュア史上初の屈辱。それを実現させるほどの南斗鳳凰拳の威力に恐怖すら抱くキュアハート。

「どうすればいいの……のび太君」

「七人ライダーと僕が三人を助ける。君たちは配下の襲撃に備えててくれ。六聖拳の配下なら、君たちでも対処できる。七人ライダーと会ってくるから、ルージュ、ハート。君たちはドラえもんの指揮下に入っててくれ」

のび太はそう二人に告げ、七人ライダーとの会合へ向かった。走り去っていくミニSを見送りながら、南斗聖拳の威力に恐怖を感じたキュアハートはキュアルージュにすがりつく。ルージュは後輩を安心させるため、一言だけいう。

「今はのび太さんと七人ライダーに任せるしかないわ。栄光の七人ライダーならきっと……」

「う、うん……」

「ハート、貴方……」

「怖いんだ。あたしたちの力が正面から通じない相手がいるって。今まで、最終フォームになれさえすれば、どんな敵にぶつかっても、負けなかったはずなのに……」

第二期プリキュアで最強を誇ったはずの彼女をして、強大な恐怖に震えさせるほどの南斗という存在。黒江とのび太が七人ライダーに助力を即断で乞うほどだという事に、事の重大さを理解するルージュ。七人ライダーの勇名はプリキュア達にも世界を超えて鳴り響いている表れである。平成どころか令和の時代にも現れていく仮面ライダーというヒーローの源流と言える『伝説の七人』が出張るということは、ヒーロー達にとっても大きな意味を持つ。ドリームやピーチがその姿勢を尊敬し、後輩達のピンチに出張るようになった一種の根源も彼女たちの故郷の世界にも『ヒーロー番組』という形で存在していた彼等の勇姿が理由である。

「あの人たちの事、あたし…知ってるんだ。おとーさんが子供の頃に再放送で見たとか言ってて、DVD持ってたんだ。それで。だから、ああなりたいって思ってた。強くて、かっこよくて、人助け。プリキュアになったのを受け入れた理由の半分はそれなんだ…」

「あたしも似たようなもんよ、ハート。あたしもドリームを助けたいからって、プリキュアになったの。恥ずかしいから、貴方達には言ってなかったけど」

キュアハートは七人ライダーの存在を転生前から知っていた事を告白する。子供の頃に彼等の勇姿に憧れた過去があり、彼等のようになりたいと願っていたことを。彼女が本気で震えるのは初めてだったが、姉御肌のルージュはそんなキュアハートを宥め、落ち着かせる。彼女の面倒見の良さの表れだが、その面倒見の良さがデザリアム戦役で裏目に出た時、のぞみの精神は不協和音を鳴らし始めるのである。のぞみの安全ピンであった彼女の記憶が失われた時、のぞみは闇に堕ちかける。それほどにりんは『いて当たり前の存在』だったのだ…。








――ダイ・アナザー・デイが地上空母の出現でたけなわの情勢となったこの頃、日独の露骨な政治介入の弊害が表れ、現場の士気は最低レベルにまで落ち込んでいた。辛うじて、ロンメルとグデーリアンなどの優秀な将帥のクビは繋がったが、『文化財をないがしろにした』ということで、エディタ・ノイマン大佐が降格と左遷で鬱病を発症。退役願を出した事で現場の士気は崩壊寸前に陥った。また、現場のサボタージュで陸上航空でGフォースと地球連邦系部隊を除くと、64Fしか実働部隊がいないというのは大問題化した。複数の部隊が有名無実化していた事がヒーローユニオンから通告されると、その部隊の幹部たちは統合参謀本部に呼び出され、激高した山下奉文大将の叱責と修正(要はビンタ)を受ける羽目に陥った。これに恐怖した幹部たちだったが、熟練者達からの世代交代が進展しつつあった当時のウィッチ部隊では一定の戦果誤認はやむを得なかったし、歴代のエースを独占している64Fへの嫉妬心でサボタージュをした事が明らかになり、幹部たちは泣き喚きながら言い訳したが、派閥抗争の末に敗戦した記憶を持つ日本防衛省により『軍籍抹消』がその場で言い渡された。(従って、全ての栄典は取り消された)この処分に恐怖を抱いた中堅層が政権へのクーデターを急ぐ理由となったが、その選択肢は皮肉な事に、守ろうとしたはずの兵科そのものの命運を決めてしまう。僅か数年後にはウィッチ兵科は将来的な解消が既定路線となってしまうわけだが、この時のサボタージュで世界的にその路線が既定路線となる。第二世代以降の次世代型宮藤理論の研究が世界で急速に進んだのは、『ウィッチの社会的居場所を守るため』というオラーシャでの事例を鑑みた決定である。そんな最中、武子は自部隊がロンド・ベルの分署扱いであるのを利用し、サナリィ(海軍戦略研究所)を動かし、F91の試作タイプ(量産型ではなく、専用部品の多いワンオフモデルとしてのF91)を受領しており、以後はそれを愛用し始めるのである。

「おい、武子。サナリィをどう脅しやがった」

「簡単よ。NT1アレックスの一件を公にすると脅せばいい。ブッホ・コンツェルンに横流ししてデータ収集に使ったのがバレたら、あそこの幹部のクビは飛ぶわ」

武子は圭子にそう漏らす。F91は量産化されたが、それと別に保管されていたオリジナル仕様の試作機を回させたからだ。

「しかし、お前。なんで、型落ちになりつつあるF91を取り寄せた?後継機のF97系がロールアウトしてるご時世だぞ?」

「F97は接近戦重視で、このご時世には合わないもの。その点、F91ならオールラウンダー。それと質量を持った残像よ」

クロスボーンガンダムがF91の後継機種に当たるが、接近戦重視型の設計であることから、軍の受けは悪い。パラメーターが接近戦に特化気味だからだ。(この頃に地球連邦軍はサナリィ系ガンダムへ正式に『ガンダム』のペットネームを与える。サナリィがザンスカールに加担した事の嫌疑を晴らすための司法取引によるもので、サナリィには反対する声が多かったが、戦乱でアナハイム・エレクトロニクスの中興が起こり始めると、危機感を抱いた改革派主導でそう司法取引が交わされ、サナリィ・ガンダムは正式にガンダムタイプに分類されたのである。急速に需要が縮小していく小型MSは以後、特務用などで一定量は使われるが、一時のように大型MSを置き換えるという予測は実現せずに終わる。ただし、F91はこの時期には相対的に旧型になっていたが、正式なFシリーズの次世代機のクロスボーン・ガンダム(F97)が接近戦重視型であり、連邦系MSの通例である万能型ではない事から、実戦部隊の要望で、F91はアップデートを重ねている。これは本当に予定された直接改良型」『F92』の開発計画がちょうど軍縮の時勢で立ち消えとなった代替であり、ブラッシュアップ機を別機として新規で作るよりも、既存のF91をアップデートするほうが手っ取り早かったからだ)

「特務用だからですよ、ケイさん」

「芳佳か」

「アレはビーム・ザンバーで斬りまくるドッグファイト仕様。一般部隊向けの性能じゃないんですよ。F92がポシャったのは有名ですけど、クロスボーンは一芸特化みたいな設計ですからね」

「F92だぁ?聞いたことねぇぞ?」

「高機動型で改良型ヴェスバーを持つはずだったって噂はあるんですが、どこまで本当なんだか。その手のアングラなサイトに載ってる外観はフェイクだそうですからね」

F92。実際に存在したF91のブラッシュアップ機の計画である。実機は作られていないし、モックアップもF90系の機体のものにF91のパーツを組み込んで、発表会ででっち上げられていたとの噂があるが、実際には、開発に携わった一エンジニアの立案予定と走り書きされた次期ガンダムのコンセプト予定帳に記されていた程度の改良案程度のものだ。実際にはF91の基礎設計は完成されており、敢えて構成を変える必要は無い。

「なるほど」

「今は連合軍自体がガタガタですからね。日本とドイツにメチャンコ叩かれて、上の連中は問答無用でクビが飛ぶか、良くて閑職に左遷。江藤さんは貴方達の上官だったから、辛うじて許されたようなもんです」

日独の介入による人員整理という名の下のリストラは江藤にも及ぼうとしたが、江藤もGウィッチ化した事と黒江達の上官経験を持つ事、更に過去の失敗素直に謝罪した事などの要因で難を逃れた。かなり薄氷を踏むようなギリギリのところであったが、事変当時の佐官級の間では『若い部下の戦果を非公表にしたり、教育のために挙げたスコアをある差し引いて申告する慣習があった事などで情状酌量の余地が認められた。当時は『合法』とされた事が後々の状況の変化を理由に大罪と扱われる事は近代的な司法に背く事なので、人事課に大半の責任を負わせる形となった。江藤の処分が多少重くなった理由は、武子に批判が出ていた(智子のスオムス行き)ためだ。1945年には昇進済みとは言え、1938年前後当時は少尉に過ぎなかった武子に少尉時代の発言の責任を負わせるのは理不尽すぎるし、あまりに酷である。更に事変で皇室から指揮権を委譲された経験がある(これも問題視されたが、この時期に有効であった旧憲法下では緊急事態条項として合法であったため、『事変だけの措置』という事で認められた)武子を1944年までの間、あまり出世させていなかった事で批判が大きかったことで軍部が責められ、大規模リストラになりそうだとパニックになったからだ。江藤にその分の責任も負わせるしか、扶桑軍に選択肢はなかった。僅かな間に七勇士のメンバーの全員が最低でも中佐にまで昇進したのは、カールスラント系将官・佐官級将校の多くが失脚した後の穴埋めと、連合軍への人種差別の批判を躱すためでもある。また、日本側から責め立てられ、精神を病んだ多くの参謀職の軍人が精神病院行きになっている以上、参謀職を担える軍人のこれ以上の『損失』はなんとしても避けたかった思惑も絡んでいた。(ダイ・アナザー・デイでの参謀不足は日本側の参謀職への無理解も要因である)

「参謀の多くが史実の失敗とかを理由にアリューシャンに飛ばされて、前線に残れたのは指で数える程度ですからね。精神を病んだのが相当数出てます。指揮官があれこれ駆けずり回るなんて、ナポレオン時代以前みたいな事になってんのは日本のせいですよ」

日本連邦軍でこの時期、参謀という職は殆ど廃されたも同然の待遇にまで堕ちており、指揮官の負担は計り知れないものになっていた。黒江は自衛隊の幕僚経験者をその職につかせ、64Fと連合軍の組織を回しているが、黒江が自衛官でもあり、幕僚に顔が利くからこそ可能な芸当であった。その流れで『参謀を幕僚に改称し、当面は自衛隊で近代的教育を受けさせる』案が妥協的に決まり、芳佳は将来の子育ても考え、その課程に1945年度に志願。1948年度に修了。以後は医官と幕僚を兼ねられる空中勤務者として名を馳せ、1949年の春頃に長女を、更に数年後に次女(後の宮藤剴子)を儲ける。

「幕僚課程に志願してきました。資格を取っとけば、子育ての資金が確保できるし、旦那とあたしの給金だけじゃ、今の家はこれから維持できませんからね」

「ちゃっかりしてんな、お前」

「大洗で苦労してきた記憶持ってますからね。打てる手は打っときます。剴子の将来のためにも、ね」

芳佳の次子である宮藤剴子は一族の通字と治癒魔法は受け継がなかったが、戦士としての才覚をそのまま受け継いでいた。(本人曰く、姉と才能が二分されたとの事)彼女以後、軍人としての芳佳の衣鉢は彼女の系統が継ぎ、医者としての芳佳の衣鉢を長子の系統が継ぐという体制が1970年代後半には完成する。

「そう言えば、今回はいつの予定にしてるんだ、ガキ」

「四年後と七年後ですかね。旦那もこの時期は忙しいし。その時にはお祝い、頼みまっせ」

「やれやれ。F91は感謝するわ。試作機の方が出来いいっていうし」

「贅を尽くしてますから。量産機はケチってますからね、どこかで」

「コンバットアーマーは?」

「のび太君が運用データを集めてるんで、それからですかね。ダグラムの量産化の話は通してあるし、来年にはガイアも認可するでしょう」

「分かったわ」

「あ、黒江さんから報告が来てます……なぬ!?」

「どうしたの?」

「ドリーム達が……捕虜になったそうです」

「ガキども、しくじりやがったのか?」

「それが……敵が南斗聖拳を使ってきたそうです」

「南斗聖拳だとぉ!?どの流派だ!?」

「南斗鳳凰拳だそうです」

「六聖拳じゃねーか!で、綾香はなんて?」

「七人ライダーに救出を依頼しに行くそうです」

「鳳凰拳なら、七人ライダーの助けがいるな…。紅鶴拳なら、お前らでまだ対処ができるが…」

「七人ライダーは今どこに?」

「戦艦メイン(モンタナ級戦艦)の前線本部に来ているはずです。ニミッツのおっちゃん達と今後の方針について協議しているはずですし」

武子たちも顔色が変わるほどの南斗六聖拳の威力。プリキュア達の敗北はそれほどの衝撃であった。







――ティターンズ駐屯地 地下牢――

「あたし達とした事が……こんな無様なことになるなんて……」

地下牢で鎖に繋がれたシャイニングドリーム。目覚めたドリームは大昔の罪人よろしく、両腕を鎖に繋がれ、上半身を磔にされた自らの姿を確認する。

「力が入らない……麻酔薬でも打たれた……?視界が……霞む……!」

「クソッタレ……」

「メロディ?」

「ドリームか!?なんてザマだよ、お互いに」

「翼で脱出できない……?」

「試したよ。鎖にガンダリウムでも使ってるのか、全力で羽ばたいても微動だにしねぇ……」

「力で強引に切ろうとしても、麻酔を打たれてるからか、力が入らないよ……」

「ピーチ。……クソッタレが、考えやがったな……拷問されないだけマシか…?」

「笑えねぇよ、それ……。野郎、南斗聖拳のどこの流派だ……」

「南斗鳳凰拳。南斗最強の流派だ……。ラブリーが逃げてくれたことを祈るしかないか……。あれから、どのくらい経った?」

「わかんねぇ……」

「変身してても、身動きできないなんて…。これじゃ生殺しじゃん……!」

「希望はラブリーが伝えてくれることか……なぎささんと咲さんが聞いたら、怒られるだろうなぁ……」

「よせよ!縁起でもねえ……。だけど、聞いたら間違いなく、あたしらにお叱りが飛ぶだろうよ」

「咲さんは笑って許してくれそうな気がするけどなぁ」

「なぎささんは怒るだろうさ。いや、咲さんのほうがキツイかな。あの人、ソフトボール部だったし」

「どっちみち、怒られるの覚悟しといたほうがいいかも。揃いも揃って、この有様じゃね……」

「だよねぇ……」

「お前ら、なぎささんか、咲さんが来たらよ、三人でスライディング土下座でもすっか……?」

「それしかない…?」

「……ないね」

その光景を想像し、激しく落ち込む三人。プリキュア史上初の屈辱に塗れる事態を味わってしまった三人はどこかで自分達の先輩達から叱責を受ける事を覚悟した。もっとも、仮面ライダーも捕縛された経験がある者は意外に多いため、捕縛される経験はヒーローとヒロインの通過儀礼とも言える。(後に、この出来事を知ったキュアブルームは三人を叱責。特訓を課す事になる。その時に黒江達は『プリキュアにも慣習的な意味合いでの先輩後輩関係は存在する』事を確認するのである)キュアメロディの『スライディング土下座』にドリームとピーチが二つ返事で同意するあたり、相当に自分達がプリキュアの看板に泥を塗ってしまった事を自覚している表れであろう…。そして、三人はこれから、鞭による拷問を受けることになる。牢屋のドアが開き、鞭を持った士官がやってきたからだ。看守を務めている兵士らが敬礼している。なんとも前近代的な所業だが、ある意味では合理的な行為である。スーパーヒロインにとって、このような拷問がどのくらい屈辱か。それを理解しているのだ。三人へ遊びのように振るわれる鞭。その痛みに耐えつつ、三人は拷問の時間を必死に耐えるのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.