外伝その437『綱渡り1』


――ダイ・アナザー・デイは最大の山場を迎えていた。『綱渡り』作戦。前線は地上空母の前にズタズタにされており、64Fがいなければ崩壊は間違いなしとまで追い込まれている。既にグローリアスウィッチーズは負傷者続出で後送されており、文字通りに頼みの綱が64Fであった――




――作戦の二日前、ゴーストの群れを突破するため、エンジンを強化されたコスモタイガーが納入される。ゴーストはマシンマキシマムをコンセプトに設計され、超絶的機動を誇る。赤ズボン隊やグローリアス・ウィッチーズが為す術もなく無力化させられたのは、その圧倒的速度である。最大推力では海面高度でマッハ3クラスに達するなど、1945年当時としては最高の速度であった。また、エネルギー転換装甲で覆われているので、ウィッチの標準装備の火器では傷一つつけられないという点があり、それに対抗できる武器を持つのは64Fのみであった――

「文字通りに、綱渡りをせにゃならんとはな。イベリア半島の山脈を超えての逆落としたぁな」

「エンジンを強化したコスモタイガーで山脈を通ってから、逆落としで攻撃するしか手はない。可変戦闘機はAVF以上でなきゃ使い物にならん。他の部隊は……」

「大変だぞ、野中少佐の爆撃部隊が特攻して……散華した」

「なにィ!?」

「坂本は出撃させられねぇな。野中少佐は奴の同期だ。昨日、挨拶に来たから、気になってたんだが……まさか、50番(500kg爆弾のこと)を抱えて、部下共々に突っ込むとはな…」

野中少佐とは、坂本の同期の爆撃ウィッチ。爆撃の名手として鳴らしていたが、最近は教官職についていたが、サボタージュを止められなかった責任を取ったのだ。彼女を慕う部下たちと共に、地上空母に『献身的な攻撃』で。野中少佐は即日で二階級特進を全軍布告されたわけだが、坂本は止めようと追ったが、その様子を目の当たりにしたわけである。坂本はこの時に野中への手向けとして、奥義『海鷲』を以て攻撃し、地上空母の艦載機の少なからずを甲板上で粉砕している。地上空母を後退に追い込むほどのダメージを負わせたわけだ。

「空母のダメージは?」

「艦載機を粉砕して、飛行甲板を火の海にしたそうだ。普通にいけば、数日は立ち直れんはずだ」

「今が攻撃の絶好のタイミングってことか」

「コスモタイガーの調達は?」

「新コスモタイガーをチューンしたものを揃えた。場合によっては、ガトランティス戦役でヤマトが取った手段で制圧する。神闘士や海闘士もいる以上、敵に対抗できる強さと操縦技能を兼ね備えた連中で固める」

コスモタイガーの最新ロットを更にチューンアップした改造機で防空網を突破する。それが黒江達の出した結論であった。地上空母という超兵器にとどめを刺すために。坂本は同期の散華に強いショックを受けており、出撃メンバーからは外される見込みとなった。この時に坂本に代わる形で、のび太が参加することになる。坂本は冷静さを失っており、タガが外れ、行き過ぎた行為を躊躇なく行う可能性があったからだ。

「坂本も、同期が死ぬことは経験がないわけでもあるまい?」

「小学校時代からつるんでたんだと。それでな。つれていけば、空母の乗員を皆殺しにしかねん」

「ありえるな」

黒江と圭子は坂本を出撃メンバーから外すことにし、その代わりを選抜することにした。選抜にはイサム・ダイソンにも手伝ってもらうことにした。

「随分とおもしれぇ作戦だが、並の連中には出来ねぇ大仕事だぞ。飛行技能の高いやつが欲しい。プリキュアにしても、高速戦闘の経験があって、翼で飛ぶ速さがコスモタイガーについて来れる連中じゃねぇと、意味はないぜ」

「そりゃ、そうだけどさ。イサムさん。単座型しかオーダーして…」

「俺のツテで三座型も同仕様で回しておく。軍学校時代の同期が装備管理課の勤務だ。半日で揃えさす」

「……すんません。ん、のび太から連絡・・・何ぃ、みらいがパイロット適性あるだと!?」

「暇だったから、僕が学生時代から買ってたゲームで遊んでて、それがもとで適性がわかったんだ。モフルンが電話してきて、何事かと思ったけど」

「リコにつれてくるように言え!数時間以内につれてこい!軍入隊の手続きは取ってたよな!?」

「うん。ついこの間に。まさか、動員するの?」

「パイロットが足りねぇんだ。こうなったら、藁にもすがる思いだ」

「僕とドラえもんも加わるよ。スネ夫に物資調達を頼んで、元の時代に帰させたとこだから。カミさん連れてくるべきだったな、こりゃ」

「冗談言ってる場合か。とにかく、みらいをつれてこい。その間にプリキュア達から操縦技術あるのを選抜しておく」

「ドラえもん、コスモタイガーに例のエンブレムを書いてるとこだよ」

「全機にしろと伝えてくれ」

「コスモタイガー、大気圏内じゃさ、制空戦闘向けの特性じゃないよ?」

「高機動バーニアの活用でどうにかする。マルヨンと特性が似てる分、やりやすいほうだ」


コスモタイガーは重要都市の邀撃機としてスタートした歴史を持つため、大気圏内の飛行特性は制空戦闘機ではなく、邀撃機寄り。第二次世界大戦の基準で言う『重戦闘機』に近い。とは言え、恒星間航行艦用の艦上機の側面もあるので、本気を出せばゴーストにも対抗できるのは事実だ。なお、この時に初めて、『炎の鬣の一角獣』のエンブレムが部隊章代わりに使われ始めるのだが、発案者はのび太とドラえもんである。

「グレートヤマトに協力を仰いだほうがいい。コスモタイガーのパワーダイブの限界に挑むぞ」(当時、64F向けのヤマト型宇宙戦艦は未完成である)

「まさか、宇宙からパワーダイブを?」

「プリキュアは三座型にでも乗せとけ。あのお嬢ちゃんたちが真価を出せるのは、強行着陸後だろ?俺は後方部隊を率いて、その後の制空権確保をしてやる。『カワイイ子ちゃん』のデータ取りが必要だって、ヤンから言われてんだ。それに、部隊に19(エクスカリバー)31S(ジークフリート)混ぜて、帰りの機体確保も楽にしとこうぜ」

イサム・ダイソンは軍隊にむりやり復帰させられたが、新星インダストリー社のチーフエンジニア『ヤン・ノイマン』と長年の親友である上、軍の装備調達部に士官学校同期がいるので、復帰後はそのコネのおかげで、自由気ままに過ごしている。また、未来世界に来たばかりの頃の黒江に『遊び』を教えた張本人の一人である。

「維新隊に使わせます。その指揮を任せていいっすか」

「構わねぇさ。俺は飛べりゃいいからな。S.M.Sに行ったのを、軍のお偉方の誰かが怒り狂って、俺を呼び戻しちまったから、お偉方も俺の扱いに困ってんだ」

イサム・ダイソンは自由人である故に、編隊長資格を10回以上は取り消しになり、フォッカー勲章の受賞と剥奪を繰り返してきた『問題児』だが、レビル将軍の復帰後は『戦場で有能ならば、一定の自由は与えんといかんよ』と、彼がイサム・ダイソンの軍規違反の経歴に寛容を見せたことで、勲章の剥奪歴は抹消されている。

「俺も人事記録には残らない範囲の処分はあれで食らってますよ。ま、ケイなんて、ガキの頃は口頭注意の常習犯だったけど」

「俺に大佐のバッチが着くのは、どっかで大戦争でもおっぱじめたバカが現れた時だろうな。あのお嬢ちゃんのことはよく見とけ。エリート街道一直線の奴ほど、挫折によえーんだ。酒浸りにならねぇように見とけ」

「ういっす。…と、いうわけだ。のび太」

「わかった。今から連れに行くよ」



のび太は電話を切る。黒江は即座に、プリキュア達の中で操縦技術を持っている者たちを執務室に呼び出した。その中には、今回が軍での初陣になる『キュアダイヤモンド/菱川六花』(素体は婚后光子)の姿もあった。

「お前らを呼び出したのは、次の作戦のためだ。まだ転生した体に慣れてない者もいると思うが、この世界のために、お前らが往時の働きをするしかない」

転生と来訪。双方で現れたプリキュア達だが、現役時代は普通の中学生、もしくは高校生だったため、乗り物を動かせる技能がある者は少ない。最も実戦慣れしているのは、転生を重ねた故に、潜在的に実戦慣れしていて、更に転生前と転生先で経験が豊富である、のぞみとシャーリー、エレン(素体はクラン・クラン)の三名。その他は『乗り物での実戦経験がない』ものが多数派である。そのため、最近に実戦経験を積んだキュアエースや、のび太のもとで経験を積んできたキュアフェリーチェは貴重な『実戦経験者』だ。

「次の作戦は綱渡り的なものになる。宇宙からのパワーダイブだ。コイツを使ってな」

「コスモタイガーですか?」

「そうだ。コスモタイガーを使って、宇宙から奇襲をする。この戦線の他の部隊は宛にできんからな。多くの隊員はサボタージュした幹部の言いなり、司令部肝いりの部隊は地上空母とゴーストの前に尽く退けられて、万策尽きている。俺たちがやらねばならん」

黒江はブリーフィングにて、状況を説明した。この時点の連合空軍はもはや地上空母を止められるだけの実効兵力を有さず、サボタージュした部隊は司令部の一切の命令を聞かない。(作戦終了後に部隊の解体と人員の左遷がセットでなされ、それに憤慨した一部の者が扶桑で反乱を起こすわけだ)64Fが単独で奇想天外な作戦を遂行する事になったわけはサボタージュで現地に展開していたはずの航空兵力の七割が見て見ぬ振りを決め込んだからで、航空ウィッチが数年後に『ならず者の集団』の烙印を押され、64Fとその支援部隊の『血の献身』が恒常化する原因であった。この時のサボタージュに加担した部隊はクーデター後に人員丸ごとが除隊し、民間軍事会社を造るケースが相次ぐ。既存の育成ノウハウの多くはその間に失伝し、時空管理局製のカリキュラムが(地球連邦軍による改訂を経て)取って代わる。また、ストライカーそのものの世代交代もあり、格闘戦技能が必須になった。プリキュア達が自在に飛行できる中、ストライカーは一部のエースパイロットが空戦中にもホバリングができる以外は『航空機と代わり映えしない機動』しか取れない。そのデメリットを露呈したのである。

「甲児さん(かつては呼び捨てだったが、甲児が後に『ゼウス』となることを知ってからは、間接的に臣下になるためか、公の場では敬語を使う)がデビルマンを呼んできてくれた。彼が後方支援をしてくれる」

デビルマンについては、姿と声はTVアニメだが、不動明がデビルマンとなった経緯は原作漫画版のそれである。デーモン軍団の長が大魔王サタンである、デビルマン軍団が存在するなど、原作漫画の要素が色濃いが、基本はTVアニメ寄りの経緯を辿っている。つまり、デビルマンからして『転生した存在』である事が容易にわかる。

「豪華ですね」

「そうでないと、戦線はすぐにも崩壊するさ。航空兵器が致命的に足りん。よく戦線が維持できてるもんだ。マジンカイザーや真ゲッターが一種の抑止力になってるんだろう」

「海上は?」

「有利に事は運んでる。あれこれチートをした結果だがな。1945年に戦後第二世代ジェット機以降の高性能機を持ち込むとかな。日本自身が日本系レシプロ機を見下すから、戦後世代のジェット機を揃えてやった。日本側が気づいた時には、F-8、A-4、バッカニアが乱れ飛んでたから、大慌てだったぜ?トムキャットも用意したがな」

ダイ・アナザー・デイが初陣扱いになった扶桑製造のそれら。ダイ・アナザー・デイの洋上制空戦闘が連合軍優位に傾き始めたのは、当時の平均を遥かに飛び越えている性能のそれらが満を持して投入されたからだ。カールスラントの科学陣からは愚痴が出ている。自分達が最初に手をかけていたはずの分野で、日本連邦は一夜で嫌味ったらしく、自分達を抜き去ったと。日本からすれば、数十年以上昔の『古い機種』である。だが、大戦型の空母に載せられるジェット機としては最高性能の機体である事には変わりない。大戦型空母は後世の空母より幅が狭いため、ジェット機を運用できるようにするには大規模改装、それに伴う搭載機数の減少を許容しなければならない。大鳳型空母の量産が没になったのは、装甲空母そのものが一過性のカテゴリな事、空母の甲板に施せる装甲には限界がある事、大鳳そのものがミッドウェイ級に比して性能不足であるからだった。信濃が戦艦である事により、日本連邦、とりわけ日本にとっての予想外である『ジェット機の運用が難なくこなせる』大型正規空母の一からの新造の必要性に迫られた。扶桑側は当初、自由リベリオンから入手出来た『ミッドウェイ級』の設計図を元にしての45000トン級空母を構想したが、日本側が『キティ・ホーク級を元にした超大型空母のほうが費用対効果が高い』と押し通した。日本側は多数を持たないことで、平時の維持費が相対的に減ると考えていたが、有事を前提にしての量産性を第一にしていた扶桑側と揉めたのは言うまでもない。超大型空母を大戦期のように集中運用するのは、湾岸戦争で例があるものの、大規模海戦が前提ではない。そのため、日本連邦はこの後の数年、その議論で揉めに揉めたためと、『艦隊運用方針の欺瞞と超大型空母や攻撃型潜水艦の竣工までの時間稼ぎ』も兼ねて、戦艦を実働戦力の中心としていくのだ。また、スーパーロボットの力を一握りのウィッチが生身で扱える事が判明したため、上層部のパワーバランスが以前と変わり始めた時期でもある。

「アヤカ、作戦の認可が降りた。アイクが二日後に決行しろと」

「わかった、マルセイユ。みんな、聞いたな?本日はこれにて解散。後は休んでおけ。明朝にグレートヤマトに乗艦する。機材の搬入やスーパーロボット軍団への揺動の要請は俺たちでやっておく」

入ってきたマルセイユが黒江に司令部からの指令を伝える。作戦の認可が降りたのだ。それを聞いた一同の表情が引き締まる。プリキュア達の参加は『乗り物の運転ができるか』も条件に入ったため、人数は絞られている。それと戦闘力の両立が絶対の条件であったので、戦闘力があろうと、乗り物の運転ができない者は選ばれなかった。朝日奈みらい/キュアミラクルが緊急で召集されたのは、その関係であった。



――この作戦の正式なコードネームはパットンの発案で『Angel's Ladde』(天使の梯子)と定められた。欺瞞も兼ねての変更である。かくして、作戦の要項が決まったわけだ。今次作戦は佳境へ入りつつある。その中で、調や芳佳、静夏、ひかりなどの若いウィッチは軍のプロパガンダに起用され始める。プリキュア達の筆頭格として、キュアドリームこと、夢原のぞみが取り上げられ始めたのも、この時期にあたる。だが、文部科学省がそれを知らなかったという失態を数年後に犯してしまう。文部科学省は数年後の騒動の際、『軍経験者の教職への再就職の妨害の意図はなく、最低でも退役から半年以上の期間を置いてからの転職とすべきと申し上げるべきだった。扶桑に混乱を起こす意図は無いと明確に……』と平謝りの釈明をする羽目となった。のぞみはダイ・アナザー・デイと後のデザリアム戦役での功績で、昭和天皇も転職の斡旋を扶桑軍人として認めていたため、文部科学省は外交問題だと責められ、最終的に省幹部のクビが多く飛ぶことになる。のぞみは士官学校卒の職業軍人ということで、一部から敵視されたのも事実だが、航空兵であった事や、精神パーソナリティは21世紀の日本人そのものであるなどで、文部科学省は防衛当局からの抗議になすがままであった。1946年度以降の内乱、それに起因する人員整理で失職した将校たちが民間軍事会社を相次いで立ち上げるが、民間軍事会社の乱立を恐れた日本の要請で法規制が入ったため、民間軍事会社という手段にすがる事も禁じられた一部将校達は再召集という形で買い殺しにされ、アリューシャン方面に配置されていく。日本はこのように、ダイ・アナザー・デイでの扶桑のプロパガンダに無関心であったことで、扶桑に却って騒動を起こしてしまい、後に起こる太平洋戦争で深刻な『中堅士官層の不足』を来たしてしまうわけだ。プリキュア達がすぐに大尉や少佐に任ぜられた理由はそこにあった――





――新コスモタイガーの飛ばすコツは高機動バーニアを使いこなすかどうかだ。失速してもバーニアで力任せに姿勢を保てるのが新タイガーの良い所なのさ――


――失速警報が消えねぇ?そんなん適当にバレルロール打ちゃ、すぐ消える、それに多少の失速ならスロットルのエマージェンシーポジションスイッチ押せ、そうすりゃ自動で空力中立まで立て直してくれる、ただし敵から見たらカモだけどな…。嫌なら、吹かして機首振り回せ、地上接近警報以外無視したって、大したことじゃないのが新コスモタイガーって機体だからな!――

コスモタイガーに搭乗し、エースになった若手搭乗員の坂本茂や、ブラックタイガー時代からの生き残りである山本明は新コスモタイガーについて、こう評する。地球連邦軍は『恒星間航行艦用の艦上機の決定版をコスモタイガーと位置づけているが、『大人しめの機体特性』である事から、尖った機体特性の『コスモ・ゼロ』の生産がエースパイロットの要請で続けられている。基本的にコスモ・ゼロは高価な部材を積んでいる事から、大隊長専用機などに宛てがわれる。ヤマトでの運用が全軍に波及したわけだ。プリキュア達にコスモタイガーが割り当てられたのは、『コスモ・ゼロと違い、新兵でも曲芸飛行できる操縦性がある』からで、この辺は操縦性と性能バランスのいいゲッタードラゴンを祖にする量産型ゲッターロボが制作される事情に似ている。ブラックタイガーのヤマトでの使用期間が短かった理由は『対艦攻撃力不足、元は試作の局地戦闘機を改造した急ごしらえの機体であるから』だが、大気圏内での機動力はいいことから、完全に現役を退いてはいない。ブラックタイガーが一線から退けられた理由は『マルチロールファイター』が必要だったからである。30世紀の新鋭機『コスモシンデン』もコスモタイガーの遠い末裔に位置するうように、コスモタイガーの確立させた『宇宙時代における通常戦闘機の流れ』は30世紀になろうと健在という事がわかる。










――ここより二週間ほど前、ミーナは最大の危機を迎えた。。扶桑の機密書類が開示され、黒江m三人の素性が明らかになった。扶桑のウィッチが人的意味での黄金期を迎えるきっかけとなった人物であり、文字通りの『扶桑の英雄』。自分のしでかしたことに気が付き、喧々諤々になった彼女は後に坂本も呆れるような自己保身に走ってしまう。査問で不利な証拠となる記録を処分したのである。だが、それは501基地に潜り込んでいた『ユニ』(キュアコスモ)によって回収、復元されていた――




「バカな事を。普通、まずいのは裁断するか何かすんでしょうが」

「どーすんだ、ユニ?」

「司令部に提出するニャ。子供の浅知恵って奴ね。その気になれば、シュレッダーで裁断しても復元できるってのに。燃やすこともしないなんて」

「大方、司令部を通さないからって奴だろ?ガキのやることだから、前にも言ったが、お前を潜り込ませて正解だったぜ」

ゲッターの使者となっている圭子は(これから先にプリキュアの覚醒が続くことを視覚済みである)プリキュアであると同時に、怪盗の経験があったユニを潜り込ませ、ミーナが自己保身のために処分した書類を回収させていた。裁断してもいないなど、かなり杜撰な処分方法だったらしく、ユニと圭子は『子供の浅知恵』と断じた。

「ウィッチの影響力はこれからは減退する。そうなったら、お前らの出番だ。誰が一番最初になるか」

「誰だろうね」

「当たるも八卦当たらぬも八卦と言ったろ?だが、何人か兆候はある。お前が現れたせいだろうさ」

圭子は大まかな未来は予知できるようだが、細かい部分まではわからないのである。ウィッチ、とりわけ空戦ウィッチは戦闘機の急速な発達と可変メカの台頭で、その立場を失い始めていたが、それがどんなことを意味するかわからない者が多いのがこの頃だ。

「こうなるってわかってたの、ケイ?」

「未来予知がなくたって、これは普通に予測可能な範疇だ。あたしほど生きてれば、なおさらな」

圭子は冷静沈着だった。ミーナはガランド以外の上層部を信用していなかった事で『上層部の厚意を悪意として受け取った』。その時点で『破局』は必然化していたと言える。人格変化前のミーナの活動の最終期にあたるのがこの時期だが、嫉妬と無知、更に早合点の三拍子で部下の掌握に失敗した事で失脚の危機に陥っており、幹部級の部下の一部は『その後』を見越した動きを既に取っているなど、部下から見放されていた感は否めなかった。圭子はそこで喉の薬をタバコ風に服用する。



「世間はどっちみち、アイツをこれでもかと叩くだろう。直筆での謝罪文を用意させておくように言ってある。だが、あいつが非を認めるか。そうでないと、上官のガランド閣下の管理責任も問われるんだぞ」

「日本にこれが知れ渡れば、いくらアニメで活躍したって言っても、マスコミは公の場での土下座級の謝罪を強く煽るでしょうし…。どうするの?」

「プランKはどうだ?」

「今んとこ、手筈は整えてる。もうちょっと待って」

「わかった」

これは武子に501の指揮権を移すための流れを作れという指示であった。坂本は既にこのプランに従い、動いている。この時点で、ミーナは破局を回避できない立場に置かれていたと言える。


「おお、そうだ。ウチの部隊の新エンブレムだが、アムロさんにも肖る形で、このエンブレムを選んだ。のび太くんがいくつか候補を提示してな」

元々、地球連邦軍における『ユニコーン』はアムロのパーソナルエンブレムでもあり、ジオンのような『戦いを引き起こす者を制する』意味合いが地球連邦軍によって持たされるようになった。単純に漫画に肖っただけでなく、反地球連邦勢力への断固たる意志の表明でもあった。(ただし、現在の地球連邦軍で勝ち組とされたエゥーゴやカラバはグリプス戦役と『ハマーン戦争』当時は公には『反連邦組織』として活動していたため、その構成員が官軍、その頃の官軍であったはずのティターンズが賊軍扱いとなったのは、『歴史の皮肉』と言える逆転現象と言えた)



「あのエンブレム、単純にどっかの傭兵漫画に肖ったわけじゃないのね?」

「ユニコーンはある意味、地球連邦の勝利の象徴でもあったからな。連邦軍も願ったり叶ったりだろうよ」

この『ユニコーンのエンブレム』は64Fのシンボルとして採用されることとなった。『炎の鬣を持つ一角獣』というヒロイックな題材もあり、本部小隊機、航空団司令機などに描かれる『64戦隊の最強格、指揮官の証』としての機体カラーと合わせてのもの、その色合いを変更した維新隊、天誅組独自の機体カラーなどが存在する。後日、予備隊員育成などを主眼に結成され、1946年以降に正式に隊の編成に組み入れられる『極天隊』も実戦配置が決まった後の時代に責任者の機体に描くエンブレムとして使用する。特に黒江の機体は『尾翼に炎の鬣を持つユニコーンがこれ見よがしに描かれている』事もあり、事変当時の初代64Fと異なる点の最たる例とされた。また、プリキュア達も『由来』を知ると、機動兵器戦で使う乗機に描くようになっていく。中には他世界の自分達との識別点として、そのエンブレムが描かれたワッペンを私服につける者も現れ、一種の流行が起こったほどである。(調、箒も異世界の『自分』との識別を容易にするため、後日、私服にワッペンをつけたという)


「うちの軍隊で、こんな事して大丈夫なの?」

「ハッ、問題ねぇよ。空軍ができるんだぜ?空自や米軍との兼ね合いもあるし、それに統合戦闘航空団を事実上、『飲み込んだ部隊』なんだ。そういう権利は保証されてるぜ。それに、米軍の持ち込んだステルス機が怪異に誤認されて、攻撃される事例が増えてるから、問題になってるからな。第四世代機の比率を増大させるそうだ。怪異との誤認回避のために」

「なんで、人工物とわかるステルス戦闘機を怪異と間違える奴がいんのよ」

「平べったいし、普通の飛行機には見えなかったからだと。F-22はともかく、F-35なんてデブッチョを怪異と間違えるなんて、よほどのバカだよ。それで米軍が文句言ってるから、各部隊の幹部向けの講習会を開くことになった。」

「大変ね」

「この世界、敵味方識別装置の開発も停滞してたからな。必要性が出たのも最近のことだ。1948年以降は出てるかもしれねぇが、今の状況じゃ、塗装を派手にするしかないさ」

「やれやれ」

「陸戦ウィッチが踏ん張ってるのに、空戦が惰眠貪ってるんじゃ、あたしら以外のウィッチは今後、陸戦の連中にバカにされるぞ。やっと、事の重大さに気づいた二割くらいは指示に従うようになったが……後の祭りだ」

ステルス機はこの時代の常識的な形状の航空機とは異なるため、早合点した一般部隊(ウィッチ部隊含む)から誤射されるケースが多く、米空軍から公式に抗議が来ていた。ウィッチのストライカーには敵味方識別装置が搭載されていない事や、新兵による早合点もあり、F-35Aに結構な数の破損が生じた。そのため、各部隊の幹部向けに講習会が開かれる見込みだが、一部のウィッチからは『怪異と間違うようなものを使うな』という苦情も出ている。この教訓で、数年後に量産される第二世代型ストライカーには敵味方識別装置が搭載されることになる。この誤認/誤射事故は当時、ウィッチがステルス機を怪異と誤認する事例が多かったかの表れである。最も、M粒子散布下、更に単座戦闘機に電探が積まれてないのが当たり前の時代では、パッシブステルスの利点は空戦ではないも同然。(機上電探が単座戦闘機に完全に普及するには、史実では戦後のこと)基地への空襲でメリットはあるが、怪異に姿が似てしまっているために、あらぬ誤解で誤射される事が多かった。ダイ・アナザー・デイではこうした事故も多い上、携行可能なミサイルの弾数に限りがある第五世代ジェット戦闘機は次第に需要が低下し、携行可能な武装数が多く、機動力も一定水準はある第四世代機のほうが求められるようになった。また、第二次世界大戦後は廃れた文化と風習である『インベイジョンストライプ』や『キルマーク』などが怪異との識別のために大々的に用いられた。地球連邦軍では、M粒子の登場とアクティブステルスの完成後に復活している文化だが、21世紀では戦闘機の塗装は低視認性に重きが置かれているため、ウィッチの誤認を責める論調が多かったが、ウィッチ側にも『面子』があるため、21世紀側が主張を受け入れる形で落ち着くのである…。



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