外伝その440『綱渡り4』


――結局、ダイ・アナザー・デイ後半は相手の物量の隙を窺う戦闘に終始した。相手が積極的に攻勢をしないのは、スーパーロボットの存在が抑止力になっているからである。マジンカイザーや真ゲッターロボが怪異を地形を変える勢いで蹴散らしたからでもある――














――この頃、扶桑海軍の造船部は史実の改大和型戦艦の予定スペックにダメ出しが出され、『この連中は実戦を舐めてる』とすらなじられたため、ヤケクソのように頑丈な戦艦を作った。それこそが播磨型以降の新戦艦である。播磨型は日本が『単騎で300機以上の航空攻撃を撃退する事』を保有の絶対条件として突きつけたため、防御方式を集中防御から全体防御に回帰せざるを得なかった。扶桑の造船官らとしても、史実のレイテ沖海戦や坊ノ岬沖海戦のような事例はまったくの想定外であったため、当時のトレンドであった集中防御という『船を小さくまとめるための手段』が『航空攻撃を想定していない馬鹿だ』と否定されたことに悩む者が続出。結局、播磨型は検討された中の最大案が採用され、『350m級』という、通常サイズの水上艦艇としては最大級の大きさとして生まれた。何故か?H級戦艦がその耐弾力で持て囃された一方、大和型戦艦の性能的弱点がM動乱以後にクローズアップされ始めたからで、それを完全に超える事が『世界三大海軍の一角』として必要であったからだ。播磨型は自動工場で宇宙戦艦の技術と資材を使って建艦された最初の戦艦であるので、諸元に変化があり、最初期の艦は主砲塔が五基ほど搭載されたが、運用上の不具合が頻発したため、主砲塔は後期艦では一基が削減されている。防御は信濃の戦訓で頑強さが追求され、超合金ニューZと硬化テクタイト板の複合装甲が採用された。この単艦性能のあまりの高性能化に疑問を持つ者は連合軍には大勢いたが、日本連邦にとっては重大事であった。その結果、廉価版のはずの同艦でさえ、1945年の登場当時は世界最高峰の戦艦として連合軍を震撼させた。51cm砲の強大な火力は21世紀以降の技術での高性能炸薬の効果もあり、1945年当時の技術での56cm列車砲を超える破壊力をマークする上、試作された『粘着榴弾』の存在も大きかった――





――粘着榴弾。元は戦車用の技術であったが、日本連邦はそれを戦艦の砲弾に転用。想定以上の効果を挙げた。(船の装甲は戦車と違い、複合装甲は採用されていない)艦娘にも配備され、実戦で使われた。その結果、艦艇の装甲は戦後の戦車と異なり、複合装甲を用いていない事もあり、大戦果であった――


「畜生、連中は俺達を皆殺しにする気だ!」

敵艦はホプキンソン効果で内部をメチャクチャにされ、死傷者続出であった。撃沈するのが目的ではないため、連合艦隊は手心を加えたとも取れるが、四年は立ち直れないダメージを負わせるため、播磨、美濃、越後、大和、甲斐を中心にした艦隊は敵艦隊に徹底して痛打を与える。播磨型の初期艦の全艦は最終的に全艦が参陣したわけだ。(播磨型の内、能登が工期の遅れからラ級の素体にされ、『廻天』として完成するので、越後が二番艦、美濃が三番艦と繰り上がった)粘着榴弾は地味に物量に勝る敵艦隊へ痛打を与えることに成功したわけだ。

「敵艦隊は接近して、我らにとどめを刺さないというのが、舐め腐りおって!」

「しかし、長官!敵艦に対抗できる力はもはや……!」

「撤退だ!生き残っている艦へ打電!我に続け!」

「ハッ…!」

こういう点で割り切りがいいのが、アメリカ軍の特徴である。彼らの艦隊は46cm砲装備の改モンタナ級戦艦以外の戦艦は中破以上の艦が続出し、組織だっての戦闘継続は困難であった。連合艦隊は二度目の海戦においても、勝利を飾った。今回は他国艦が殆ど参加しない戦であった。また、ガリアの要請でアルザス級の鹵獲を目指し、成功している(しかし、ペリーヌ・クロステルマンが性急な修復に待ったをかけ、リシュリューで抑止力は事足りると判断。これがペリーヌが命を狙われる要因となる。また、表向きは彼女が慈善活動にのめり込むきっかけとされる)

――連合艦隊旗艦『富士』CIC――

「勝ったな」

「小沢長官、追撃はよろしいので?」

「こちらも残弾が少ない。それに兵たちも疲弊している。当座の目的は果たした。ガリア共和国の連中への手土産は丁重に持ち帰ってやらんと」

大和が曳航している『アルザス』、甲斐が曳航している『ノルマンディー』。ガリア共和国が奪還を切望していたため、連合艦隊は同艦を戦闘不能にして拿捕。航行能力を回復させた後にガリア共和国へ引き渡す予定である。

「ガリアはあれを?」

「クロステルマン中尉はスクラップにすべきだと言うがな。それでは、かの国の海軍が納得せんだろう。リシュリューはもはや時代遅れの旧式艦だ。あれを直したいのが本音だろう」

ペリーヌは国土復興のためには軍事的威信も捨てるのを厭わないが、ガリア共和国としてはそうはいかない。ペリーヌも大和や播磨の台頭で『自国の海軍力は時代遅れ』という事は認識していたが、『抑止力となればいい』という観点から、現状維持させる方向にもっていく。だが、ペリーヌの願いと裏腹に、ガリア共和国は鉱物資源の枯渇への恐怖で一部の人間たちが先鋭化。日本連邦を仮想敵とし、太平洋戦争後についに激突する。だが、軍備更新が成らないままで『世界最先端』の軍事技術を駆使する日本連邦と鉾を交える羽目に陥り、無残に敗北していく。

「彼女は何を願っているのです?」

「復興以外に興味はないよ。軍事的威信もな。だが、それは今後は『世間知らず』と批判されるもとになる。親族の全員を開戦時に失っているのが原動力だが、元々が貴族の血筋だ。それが仇となる。プリキュアに徹したほうが、ある意味では幸せだろうに」

小沢治三郎はペリーヌに待ち受ける過酷な運命を予見し、同情した。ペリーヌの領主の血筋が今後は禍根に転化するのを懸念している。ペリーヌは自分でもそれを自覚していたため、ダイ・アナザー・デイ直後からしばらくは、ガリア議会の議員として活動するものの、太平洋戦争中はキュアスカーレットとしての活動に専念する。大衆人気はあるものの、ド・ゴール派、共和派、王党派、労働派、ボナパルト派のいずれにも属さない一匹狼であるのが災いする形だ。

「政治に手を出さず、軍人でいたほうが楽だと思うがね。政治の世界は伏魔殿だ」

ある意味、小沢の言葉は当たっていた。ペリーヌは太平洋戦争までの数年の間に7回も暗殺されそうになるからだ。ペリーヌはある意味、政治の世界の汚さをその間に学ぶのである。








――謹慎処分が明けたなのはは、子供の姿で過ごすようにという精神的な罰を受けた。外見が九歳当時に戻っている一方、バリアジャケットのデザインは十九歳時以降の最新のものであるので、些かのアンバランスだが、髪型は九歳当時のツインテールに戻していた――

「うーん。いいのかなぁ、これ」

「ま、罰にはちょうどいいってこった。それに、その姿のほうがお前は受けはいいからな」

「えー!なんでなんでぇ!?」

「TV版の『StrikerS』のあの事だ。お前のイメージ、変な方向にいっちまったからな。子供の頃と別キャラ扱いだって噂まであるそうだぜ」

「そんなぁ〜!」

ガビ〜ンと言った感じのなのは。圭子に随伴して護衛を務めているのであるが、処分の一環で『編隊長資格の停止期間中』ではあるため、圭子の護衛という形で出撃していた。(なお、この頃はシェルブリットは覚醒したて、本人が完全には扱い慣れていないなどの理由で使用していないが、謹慎処分期間中の帰宅時に会得したため、バリアジャケットの指切りグローブの片方のデザインが変化している)

「お前、シェルブリットだけど、いつ覚えた?」

「謹慎処分期間中にヴィヴィオの様子を見に行った時です。それで、転移事故の時は活用しました」

「今回はもろ他の要因で、時期がズレたか」

「ええ。でも、今回は自重したほうです。闇の書事件の時間軸の世界でしたけど。ただ、真ドラゴン、時空転移もできるんですか?」

「リョウさん曰く、多少の時間軸のズレはゲッターには『ないようなもんだ』だそうだ。公式にはデザリアム戦役で目覚めることになってるが、前倒しされたようだな。調整の一環で使ったんだろう」

圭子はなのは達の迎えに真ドラゴンが使われた事を、そう結論づける。真ゲッターではできない『ワームホール形成』も、真ゲッタードラゴンの力であれば可能であり、その関係で投入され、『闇の書の闇』を一撃で消滅させた。『質量兵器が闇の書の闇を有無を言わさずに倒す』という光景は『その世界の時空管理局の関係者』を震え上がらせた。『アルハザード』の遺物かと騒がれたが、『別世界の地球が生み出した機械仕掛けの神』という事実が突きつけられ、息を呑んだという。

「でも、真シャインスパークの威力……。あれ、地球が吹き飛びかねませんよ」

「空間を揺るがす超パワーをぶつけるからな。闇の書の闇なんて、一瞬で消し炭だ。その分、向こうの連中の見せ場は盗っちまったが、手間は省けた。こっちのことはあまり伝えなかったが、向こうのお前の要望で連絡先は伝えたらしいな」

「ええ。のぞみさんの事もありましたし。子供の頃、プリキュア見てたんだよなぁ」

「それは面白いが、後にしろ。仕事だ」

「あ、ウィッチ隊だ。いたんですね」

「敵の空母から出たんだろうよ。敵も『人と戦える』のを選ばんといかんからな。同情するぜ。自衛隊の船に近づけんなよ。奴さん、被弾しただけで、お偉方を更迭しろと騒がれてるから」

「大変だなぁ、自衛隊」

「吉田翁も『吉田ドクトリンなど、経済復興までの方便にすぎないというのに』と嘆いてるしな。日本でそう発言したら、案の定、野党が非難轟々だそうだ」

「この手の議論って、日本だと炎上しますね」

「友達と政治の話題は避けろってのが、日本の暗黙のルールだ。摩擦を避けるためだろうが、宇宙戦争の時代にならんと治らねぇからな。自衛隊はよく頑張ってるよ」


吉田茂は外交官であるため、吉田ドクトリンについても『経済復興が成るまでの方便』だと見解を発表しているが、日本の左派から非難轟々だという。結局、この手の議論は異星人と有無を言わさぬ絶滅戦争に突入しなければ決着を見ない『人間のジレンマ』であるため、自衛隊は『制約の範囲では頑張っている』と言える。ダイ・アナザー・デイでは負傷者も出しているが、日本国内では報じられる事は殆どない。それ故に、扶桑に転居する自衛官も増え始めていた。その点はベトナム帰還兵と似たような状況である。扶桑に行けば、軍人というだけで名士扱いしてもらえるからで、日本での自衛隊あがりに『体育会系のバカ』というイメージがあるのとは対照的である。戦功を立てれば、扶桑側から子々孫々の代まで食える金額の金鵄勲章の年金が出るのが保証されるのが大きな魅力だからで、日本側はこの事に困惑したが、日本としては疫病で苦しい時期であるため、そんな事は国民の反感を買うという恐怖が先立つ。結局、扶桑側の自衛官への勲章授与を『日本連邦として尊重し、扶桑側の判断で年金授与をする』という方法で容認していく。その後ののぞみの一件もあり、『日本側は判断ミスが目立つ』と、扶桑に揶揄されていくわけだが、扶桑としても『高度に訓練された将校や下士官を容易に確保できる』ため、自衛官の派遣を積極的に要請する。輜重分野の拡大やそれ専門の将兵の地位改善には『自衛官の協力』が必須だからだ。扶桑軍は輜重分野への理解は大日本帝国軍よりはまだあるが、近代化が立ち遅れているため、ダイ・アナザー・デイやM動乱の苦戦を大義名分に、急いで行っていくわけだ。(1949年度でも、その途上にあるのは置いといて)







――ダイ・アナザー・デイは空戦ウィッチの地位失墜の最大の原因と、後世には記録される。空中でも足を自由に使え、その気になれば格闘戦も自在な空戦魔導士、あるいはそれに類する飛行能力を持つ者からすれば、『擬似的に三次元的な機動は取れるが、基本は航空機と大差ない動きである』一般の空戦ウィッチは、むしろ組みやすい相手である――

「行くよ、レイジングハート」

なのはは九歳当時の容姿に戻っているものの、レイジングハートの機能はそのままなので、身の丈にあった範囲の刃渡りのソードフォームを使う。圭子がいる以上、砲撃は必要ないからでもある。かつてのフェイトが身の丈に合わない長さザンバーを使っていたのと比べ、遥かに実用的なもので、ソードトマホーク(Gアームライザーでの生成)を思わせる細身の刃渡り、レイジングハートが変形したモノであるとわかる柄と鍔。A世界独自の機構である。炎熱属性も身についたため、その点は史実より強い。

「酒浸りになる暇があれば、ヘマを少しは取り戻すんだな」

「わかってます」

「怪異はマジンガー、ゲッター、それとデビルマンがいくつかを抑えてる。巣を倒したそうだから、こっちに向かうそうだ」

「デビルマン、いるんですか」

「アニメと原作の折衷だ。存在自体は原作寄りだが、姿はTV版だ」

デーモン族の勇者アモンの肉体を不動明が乗っ取った形である事、過去に最終戦争で人類が滅んだ後に神々の意思で転生させられたため、TV版の容姿となったらしい。原作版の最終戦争を経ているため、ある意味では『人類を滅亡から守るため』に行動しているという。そして、ゲッター線の思惑を知っている一人だという。日本連邦が恐れられていく理由は『ウィッチに頼ることなく、巣を一撃で倒せる』力が手元にあるからでもある。マジンカイザー、真ゲッターロボと言ったスーパーロボットの中でも最上位級のモノを持つという事は精神的意味での抑止力になるが、デビルマンが味方という事は更に重要な意味を持つ。

「デビルマンは彼一人じゃない。その意味はわかるな?」

「ええ」

デビルマンは本来、デーモン族を人間が乗っ取った悪魔人間を指す単語である。デーモンを乗っ取るには強靭な精神力が必須であるので、個体数は少ないが、強力なデーモンを乗っ取る場合が多く、戦闘能力の平均は高い。不動明は妖獣ゴッドの同族かつ部下で、勇者、または地獄の野獣と讃えられた『アモン』を乗っ取っているのは、あまりに有名だ。(デーモンの中で、ヤギとコウモリなどと有史以前に合体した部族がおり、その部族の中で最も強い者がアモンとゴッドであったという)

「デーモン族はサタンが長だ。ゼノンはその使いっぱしりにすぎん。あたしらはそれとも戦う運命だ。お前もそのレールに乗ったんだ」

「デーモン族か……」

「神々は奴らを消滅させようとしたが、サタンがこれに反逆し、勝った。それから長い眠りについたが、覚醒めたわけだ。地球で内輪もめしてる状態なんだから、笑えねえ」

ちなみに、後にデーモン族は百鬼帝国やミケーネ帝国と手を組み、ある世界のプリキュアオールスターズと交戦する。そこに黒江と智子が紛れ込んでいたため、激戦となるのだ。(その際に、黒江がデビルマン/不動明さながらの『ものすごい残虐な殺し方』でデーモン族を倒していったため、キュアドリーム/夢原のぞみにイメージ的な悪影響が生ずるわけである)

「さて、行くぞ」

「はいっ!」

二人は迫りくるウィッチを迎撃した。撃ち合いはともかく、接近戦に対応できる者は敵編隊にはおらず、圭子は召喚した『ゲッタードラグーン7000』(ゲッターノワールが使用する二丁拳銃)で敵のストライカーユニットの片方を破壊し、片肺にしてバランスを崩させ、制御できなくするという『エグい』戦法を用いる。この時期のストライカーは『対実弾装甲』は取り外し、偽装した外板に変える行為が横行していたため、ゲッタードラグーンの攻撃が命中しただけで外板が粉砕され、内部構造が顕になる。

「脆いですね」

「この時期、空戦ストライカーは防弾板を取り外して運用してたからな。その弊害がモロに出てんだ。いくら敷島のジジイに用意させたとは言え、拳銃くらいで炎上するんじゃ、あっけなさすぎで拍子抜けだぜ」

ウィッチ隊の練度は低く、多方向からの攻撃に対応できず、圭子にゲッタードラグーンで銃撃されただけで、ストライカーが破壊される有様である。

「バカ正直に、正面から攻撃すんと思うか?マヌケ」

圭子に後ろから撃たれ、被弾した途端にストライカーが破壊される。501は主要メンバーの多くがプリキュア化しているため、ストライカーを使用する頻度は下がっている(自前の飛行能力で飛べるため)が、使用する場合に備え、防弾板は装備し直している。非プリキュアのメンバーも、元から防弾装備が組み込まれた次世代機を使うようになり、既存機は『倉庫の肥やし』である。また、横須賀航空隊が震電を『試験未了』を理由に、501への供出を拒否したため、宮藤芳佳は『烈風改』で対応せざるを得なくなったが、当人の『プリキュア化』であまり使用しなくなっている(ジェットである旭光も使用しだしたため)。しかし、震電ですら『旭光』(F-86)の登場で存在意義を喪失したのは覆せず、数年後に量産試作機が消失した後、残された試作機はジェット化の素体に転用されるわけだ。

「相手の機種は?」

「グラマンだ。防弾板のないアメ公なんぞはただのカカシだ。全員を不時着に追い込め」

「了解」

なのはは愚か、圭子とまともな戦いにもならない敵ウィッチたち。経験のない者は人に銃口を向けることすらできない有様であるため、殺る気満々の二人に対抗できるはずはなかった。8人いたウィッチ部隊も数的優位を活かせずに撃墜されていく。圭子と交戦する者はトマホークで細切れにされる哀れな者もいるため、なのはに立ち向かうほうがマシである。また、圭子もゲッター線の使者になっている都合上、デビルマンのような『土手っ腹ぶち抜きパンチ』もやるため、そこも圭子が敵に恐れられていく原因である。

「うわっ、マジで土手っ腹に大穴開けたよ、この人……」

なのはも引くこの攻撃。敵ウィッチは当然ながら絶命するわけで、そこから死体を八つ裂きにする。まさに血塗れの処刑人である。

「デビルマンじみてるなぁ」

黒江のほうがよほど『優しく見える』のは、この残虐行為も辞さないファイトスタイルである。

「おっと、逃さねぇ。バトルショットカッター!!」

圭子は腕に巻き付いているゲッターカッターを展開。隊長をユニットごと細切れにする。この『バトルショットカッター』は元々はゲッターアークが使用する技であるが、『大決戦』以降は黒江、のぞみ(キュアドリーム)も使用するようになる。Gウィッチが共通で持つ『空中元素固定能力』の応用とは、圭子の談。

「はぁ!」

なのはも片方のユニットだけを破壊し、バランスを失わせ、不時着させる戦法で対応する。

「小沢長官、不時着させた連中の『とんぼ釣り』を頼みます」

「駆逐艦にやらせよう。君らはグレートヤマトに向かいたまえ。残っている連中は、ケイくんの今の攻撃で怖気づいて逃げた」

「了解」

なのはは艦隊司令部にそう確認を取ると、圭子に小沢の指令を伝える。この時、連合艦隊司令部も圭子の異名の一つ『血塗れの処刑人』の意味を知り、味方ながらに畏怖するのであった。






――グレートヤマトの出港準備が始められる。黒江達が乗ることになるコスモタイガーは30世紀の技術が加味され、さらなる性能アップが施されていくわけだ。その作業中の事――

「ねぇ、コスモ。ミーナさんが吐いてたっていう真ゲッターへの呪詛って?」

「うーん。目撃情報が当日に宿直だった医官と看護師くらいだから、情報が乏しいにゃ。タイムテレビで見てみる?」

「見よう。シャーリーとエーリカも誘うよ」

と、いうわけで、のぞみが声をかけた二名も参加してのタイムテレビ視聴会となった。映像の中のミーナはかなりやつれており、査問で坂本が庇わなかった事、エーリカにも見限られたと判断していたからか、かなり口調も危なくなっていた。声色もどこぞの薔薇乙女第一ドールのようであり、怖さを感じさせた。

「う、うふふふ……。私を見限ったってことね……エーリカ、美緒……。いい度胸じゃない。……あの忌々しい悪魔のようなマシンさえ現れなければ……。扶桑がちゃんと……!」

真ゲッターへの呪詛と、扶桑の記録の間違いへの恨み言を恐ろしい声色でつぶやいており、自傷行為の防止の為、魔力封じの鎖で手を拘束されていなければ、自傷行為に走るような雰囲気だ。


「お、おい。イッてやがるぞ!?」

「こりゃ、発狂状態だね。医務室に監禁されたのも無理ないね……向こう側にイッてるなー…。デーモンがいたら、間違いなく乗っ取られてるよ?」

「真ゲッターのどこが怖いんだ?」

「ストナーサンシャインのビジュアルだろうね。もう一つの太陽を手のひらで創造するかのような溜めの態勢……エネルギー光球の起こす破壊力は街一個をクレーターに変える」

「去年(1944年)はガリアの巣をぶっ飛ばしたし、真ゲッター2の超高速飛行も目の当たりにしてるからな。それと同種の力をケイさんがアフリカ戦線で使ってた事がわかった上、黒江さんはエクスカリバーを持ってんだろ?衝撃や如何に、だぜ」

「ストナーサンシャインはある意味、あたしらにとってはだけど、記憶を呼び覚ますキーになった。だけど、ミーナさんは人格の変化に怯えてた節があるな」

「43年の終わりには、親父さん(源田実)のルートから、『G』のコードが充てがわれてる特記人物の情報は出回ってるはずだけどなぁ」

「あの人、慕ってた大将が謀略で失脚させられてから、上を敵視しててな。書類をチェックしない時あったんだ。ハルトマンとバルクホルン、あたし、少佐で書類の二次チェックはしてたんだが、あの人は自分の権限での独自決済で部下に見せない事もあったからな……」

「それでか。座学は?」

「それが……ミーナって、オストマルクが陥落して、戦時の促成教育で任官された期だから、座学教育は殆ど省略…」

「アチャー……」

のぞみは頭を抱える。ミーナは戦局が押し迫る時期の任官であるため、悠長に座学を勉強できるような環境になかった。ましてや、ミーナは元々、バッハの末裔とされる音楽家のエリート家系の息女。自分より前の世代のウィッチなど殆ど知らない。知っていても、祖国の英雄『リヒトホーフェン』くらいだろう。

「だから、先輩たちを……」

「あたしとトゥルーデ、ハンナとかは幼年学校から座学を仕込まれてたからね。七勇士の事はガランドの講演で知ってたし、前世以前からの戦友でもあるし…」

「それと、ミオも頭を抱えてたわよ。トシコが1度目の引退前に出したはずの報告が受理されてなかったって。それが最悪だったわ。部内でも対外的プロパガンダだって宣う世代が多くなってきてたし」

「あれこれが複合して、ミーナさんは失脚寸前に追い込まれたわけか」

「統合参謀本部で火の出るような議論がされたわ。パットン将軍が裏で擁護しなければ、懲罰的に下士官へ降格、すべての勲章の剥奪っていう案も優勢だったわ。結局、ノイマン大佐の事例を鑑みて、『戦時階級の剥奪、指揮資格の当面の間の停止、給与は数ヶ月分の自主返納』で落ち着いたけど」

「なんで公表されないの?」

「士気に関わるし、手柄を立ててないわけじゃないから、円滑な統合をアピールしたいんだよ、上は。理由なんて、書類を何個かでっち上げて、写真が何個かあれば、後世へのごまかしも効くだろ?」

シャーリーの真理を突いた言葉に、一同は強く頷く。それは世の中の常である。軍上層部の保身のための保険と言える『取り繕い』のおかげで、ミーナの名声はむしろ守られると言っていい。政治的判断が一人のウィッチの名誉を結果的に守った事例と言える。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.