「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよ」

 黒板の前でニッコリ微笑む女性副担任こと山田真耶

 身長はやや低めで、生徒のそれと殆ど変わらない。掛けている眼鏡や着ている服もやや大きめである事も相まって更に小さく見える

 「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 「……………………」

 真耶の言葉に対して生徒からの返事は無い

 別に新手の教師イジメと言う訳では無い

 教室内は変な緊張感に包まれていて、誰も反応が出来なかったのだ

 「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順で」

 彼は少し狼狽える副担任に反応を返す余裕も無い

 何故なら、彼以外のクラスメイトが全員女子だからだ

 “これは本当にキツイ………”

 クラスに男一人という状況で、クラスメイト全員からの視線を浴びる彼は自分の幼馴染に救いを求める視線を送るが、顔を逸らされる

 「…………くん。織斑一くんっ」

 「は、はいっ!?」

 いきなり大声で呼ばれ、裏返った声で反応してしまう少年:織斑一夏

 「あっ、あの、お、大声出しちゃって御免なさい。お、怒ってる?怒ってるかな?ゴメンね、ゴメンね!でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」

 気が付くと真耶がペコペコと頭を下げていた

 その様子からは年上の威厳も無く、一夏と同年代だと言われても受け入れてしまいそうである

 「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いて下さい」

 「ほ、本当?本当ですか?本当ですね?や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 がばっと顔を上げ、手を取って詰め寄る真耶にたじろぐ一夏

 気合を入れて後ろを振り向けば、クラスメイト全員の視線が自分に向けられている事を自覚させられる一夏

 「えー……えっと織斑一夏です。よろしくお願いします」

 儀礼的に頭を下げてから上げた一夏へ突き刺さる視線

 『もっと色々喋ってよ』的な視線が一夏に突き刺さり

その場には『これで終わりじゃないよね?』的な空気が漂っていた

 「……………」

 だらだらと背中に流れる汗を感じる

 “どうする!?どうするよ、俺!?”

 一夏は考える

 目の前の状況で、続きはWebでなんて事は出来ない

 “いかん、マズイ。ここで黙ったままだと『暗い奴』のレッテルを張られてしまう”

 意を決した一夏は呼吸を一度止め、そして再度息を吸い、カッと目を見開き思い切って口にする

 「以上です!!」

 がたたっ!と思わずズッコケる女子が数名いた

 次の瞬間、一夏の頭にパァン!と言う音と共に衝撃が奔った

 「いっ――――!?」

 一夏が恐る恐る振り向くと、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、良く鍛えられているが決して過肉厚では無いボディライン。組んだ腕、狼を思わせる鋭い釣り目

 「げぇっ、関羽!?」

 「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 パァン!と再度、一夏の頭に彼女の出席簿が直撃する

 「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 「い、いえっ。副担任ですから、これ位はしないと………」

 彼女は一夏達の方へと向き直り言い放つ

 「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言う事は良く聞き、良く理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は若干十五才を十六才までに鍛え抜く事だ。逆らっても良いが、私の言う事は聞け。いいな」

 彼女:織斑千冬の言葉にクラスメイトから響いたのは困惑のざわめきでは無く、黄色い声援だった

 「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

 「ずっとファンでした!」

 「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです」

 「私、お姉さまの為なら死ねます!」

 きゃいきゃい騒ぐ女子達を、千冬はかなり鬱陶しそうな目で見る

 「毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
 
 “千冬姉、人気は買えないんだぜ?もうちょっと優しくしようぜ”

 本当に鬱陶しそうにしている千冬に一夏がそう思うが

 しかし彼の考えは砂糖の山にシロップ掛けてかき氷と言う程甘かった

 「きゃああああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」

 「でも時には優しくして!」

 「そしてつけあがらない様に躾して〜!」

 “クラスメイトが元気でなりよりですね”

 一夏は実の姉がクラス担任だった事に驚愕と混乱でパニック状態だったのに、女子達の黄色い声で落ち着いていた

 「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」

 実の姉から辛辣な言葉が掛けられる一夏

 「いや、千冬姉、俺は____」

 パァン!と本日三度目の打撃音が響いた

 「織斑先生と呼べ」

 「……はい、織斑先生」

 このやり取りで一夏と千冬が姉弟なのがバレるのは必然であった

 「え……?織斑君って、あの千冬様の弟……?」

 「それじゃあ、世界で唯一男でISを使えるっていうのも、それが関係して……」

 「ああっ、いいなぁ。変わって欲しいなぁっ」

 織斑一夏は世界で唯一男でISを使える男として、ここIS学園に居る

 「静かにしろ……それと、ここにもう一人の新入生が入ってくる」

 千冬の言葉にクラスが不思議そうな雰囲気になる

 何故、別にやって来るのか?

 皆がそう思っていた

 「____入れ」

 教室の扉が開き、中へとやって来た人物を見て一夏は驚く

 _____純白

 そうとしか言いようの無い外見

 決して白髪では無い白髪、染みなど無いミルクの様な白さで輝く肌、煌めくルビーの様な紅い瞳、平均を大きく下回っているであろう身長

 正に絶世の美形と言っても良い容姿

 だが一夏が、クラスの全員が驚いた理由は、その容姿だけでは無い

 それは____

 「シュヴァンツ・ヘイズです。皆さん、よろしくお願いします」

 _________彼が男だったからだ





 時は遡る

 尻尾付きの少年、偽名『シュヴァンツ・ヘイズ』はIS学園へとやって来ていた

 “ここがIS学園か……”

 丁寧に整えられた風景、各所に見える空間投影型のディスプレイが標識の代わりをしている

 「お前が束の言っていた護衛か」

 背後から掛けられた声に少年:シュヴァンツが振り向くと

 「_____________」

 固まった

 “スミカ…………さん?”

 迎えに出てきた女性:織斑千冬は少年の恋人:霞・スミカと姉妹かと疑う程、酷似していたのだ

 シュヴァンツは束に見せて貰った画像で似ているなと思ったが、まさか実際に見て姉妹と思える程とは思わなかった

 一方の千冬も何故にか呆気にとられた様な表情で固まっていた

 その瞳はしっかりとシュヴァンツの姿を捉えていて

まるで思いもよらない何かを見つけた時の様な状態だった

「………あの」

「あ、ああ……すまないな、私は織斑千冬だ」

「あ……ど、どうも……シュヴァンツ・ヘイズです」

お互い、妙にぎこちない様な挨拶を交わす

“スミカさんと凄い似てる……”

彼女の顔を見れば見る程、スミカと重なる

「私の顔に何か付いているか?」

「い、いえ!何でもないです。ただ……知っている人にそっくりでしたから……」

「そうか……では、ついて来い」

「あ、はい」

先を行く千冬について行くシュヴァンツ

千冬の顔が若干紅くなっていたのは気の所為であろうか?

「お前が護衛する織斑一夏は一年一組だ。よってお前も一組に編入される。担任は私だ」

「よろしくお願いします」

「………ああ」

彼女が担任と聞いて、少しうれしかったシュヴァンツは笑顔でそう言った

彼は束が直々に見つけ出した二人目の男性IS操縦者という事になっている

しかし、出身国はスイスで自由国籍となっている

「一夏は私の弟で、唯一の家族なんだ。だからよろしく頼む」

「はい」



二人が一組の教室の前まで来た

「お前は私が呼んだら中に入って来い」

「分かりました」

彼女が中に入ると直にスパァン!という音が聞こえてきた

「!?」

いきなり聞こえてきた音にビックリするシュヴァンツ

すると中ではなにやら騒いでいる様であり

千冬が場を静めている様だ

そして彼女から呼ばれて教室へと入ると、一斉に視線が向けられる

“注目されてるなぁ………”

シュヴァンツにしてみれば注目される事には慣れており、カラード本部などで女性職員から可愛いだの言われて、いつも注目されている

「シュヴァンツ・ヘイズです。皆さん、よろしくお願いします」

そう言ってシュヴァンツが挨拶すると

「………男子?」

誰かが呟いた直後

「「「「「「「きゃあああああああああああ!!!!」」」」」」」

「ッ!!?」

クラスメイトの女子達から割れんばかりの黄色い声が上がった

「美形男子二人目キターーーーー!!」

「可愛い系のショタっ子!!」

「ペットにしたい……ハァ…ハァ」

何やら色々と騒ぎ出す女子達

「静かにしろ!さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えて貰う。その後、実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

千冬が一喝し、その場を治めると一限目の授業が始まるのだった



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