一限目の授業が終わり、シュヴァンツは分からなかった事や重要だと思ったノートを纏めると織斑一夏の元へと向かった

 「貴方が織斑一夏さん?僕はシュヴァンツ・ヘイズです。よろしくお願いします」

 「ああ、ヘイズな。改めて俺は織斑一夏、よろしくな」

 「はい」

 差し出された一夏の右手を握り返し握手をするシュヴァンツ

 「それと、この学園、俺達二人だけだろ?仲良くやろうぜ。それと俺の呼び方は一夏でいい」

 「あ、はい……僕の名前もシュヴァンツでいいです」

 「おいおい、敬語とかも止めてくれよ」

 「あっ、すみません……敬語なのは癖みたいなモノなので」

 「そっか、これからよろしくな、シュヴァンツ」

 「はい、よろしくお願いします。一夏さん」

 身長などの外見の所為で、どうも同い年には見えないシュヴァンツと一夏

 「兄弟みたいね」

 「織斑君が責めでヘイズ君が受けね……」

 「いえ、ここは逆にヘイズ君が責めで織斑君が受けよ!!」

 周囲のクラスメイト達が騒いでいるが、二人は気にしないで置いた

 すると、そこへ一人の女子から声を掛けられた

 「……ちょっといいか?」

 「「え?」」

 二人が声の主の方へと顔を向けると肩下まである長い髪を白いリボンで結ったポニーテールの少女がいた

 

 「……箒?」

 「知り合いですか?」

 「ああ、篠ノ之箒。六年前ぶりに会った幼馴染だよ」

 「へぇ……」

 一夏の説明を受けて、シュヴァンツは彼女を見る

まるで刃物を思わすような鋭い雰囲気を纏っており近寄りがたい様な印象を受ける

“何か、ウィンさんに近い感じだなぁ………”

少年が思い出すのは、二度も体を重ねた事のある真鍮色の髪の女性

「シュヴァンツ・ヘイズです。よろしくお願いします」

「よろしく……」

“なんか機嫌が悪そうだけど、どうしたのかな?”

少年に応えた箒はどこか不機嫌そうな表情をしている

何処かで見た事のある表情だが思い出せない

「廊下でいいか?」

「お、おう……悪いシュヴァンツ。また後で」

「あ、はい」

一夏は箒に連れられて、廊下へと行ってしまった

“……何だったんだろう?”

少年は不思議そうに首を傾げるのだった

その後、一夏は授業にギリギリ遅れ出席簿を脳天に受けたのだった




「___であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり__」

真耶が教科書を読み進んでゆく中、一夏は全く授業について行けずに悪戦苦闘していた

“お、俺だけか?俺だけなのか?みんな分かるのか?”

ちらりと背後に居るシュヴァンツの方を見てみると、授業内容を真面目にノートに板書していた

“いかん………いかんぞ……これは、面倒な事になった”

そんな一夏の様子を心配したのか、真耶が優しく問いかけている

「織斑君、何か分からない所がありますか?」

「あ、えっと………」

開いている教科書に目を落とす一夏

“うん、全部わからん”

「分からない事があったら訊いて下さいね。なにせ私は先生ですから」

えっへんとでも言いたそうな感じに胸を張る真耶

「先生!」

「はい、織斑君!」

「殆ど、全部わかりません!!」

「え…………」

真耶が呆気にとられた表情になり、その場が沈黙する

「ぜ、全部、ですか?」

真耶が引き攣った表情で聞き返す

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

教室の端で控えていた千冬が聞いてくる

「古い電話帳と間違えて捨てました」

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

パァンッ!!と一夏の脳天に出席簿が叩き込まれた

「仕方ない、後でヘイズに教えて貰え、そして一週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、流石に一週間であの分厚さはちょっと……」

「やれと言っている。ヘイズもいいな?」

「……はい、やります」

「分かりました」






「はい、これが必要な内容を纏めたノートです」

「悪いな、シュヴァンツ。恩に着るぜ」

「別にいいですよ」

シュヴァンツは一夏にノートを渡す

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「ん?」

いきなり声を掛けられた二人が振り向くと、長い金髪をロールにした女子のブルーの瞳がやや吊り上った状態で二人を見ていた

「まあ!なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度という物があるんではないかしら?」

“この人、ちょっと苦手かも………”

元々、人見知りする性質のシュヴァンツは彼女の様な高慢的な人間は苦手としている

この人とは余り仲良くなれ無さそうだ__と少年が思った

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

一夏が応えると、彼女は釣り目を細めて、いかにも男を見下した口調で続ける

「私を知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

「あ、質問良いか?」

「ふん、下々の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

がたたっ!!と聞き耳立てていたクラスの女子数名がズッコケた

「シュヴァンツ、知ってるか?」

「読んで字の如くですよ、一夏さん。国家代表の候補生、えっと………世界大会の代表候補のエリートって言えば分りますか?」

「おお!そう言われればそうだ!」

「そう!エリートなのですわ!」

再起動した彼女:セシリアがピシッ!と人差し指で一夏を指す

「本来なら私の様な選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡……幸運なのですわよ。その現実を理解して頂ける?」

「そうか、それはラッキーだ」

「………馬鹿にしていますの?」

セシリアが一夏を睨む

「大体、貴方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いてましたから、少しは知性さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」

そちらの方はまだマシなようですが……とセシリアは、話に置いてきぼりになっていたシュヴァンツに目をやる

「まぁ、ISで分からない事があれば、まあ………泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ、何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから」

「俺も倒したぞ、教官」

「は?」

「わ、私だけと聞きましたが?」

「女子ではって事じゃないのか?」

ピシッとセシリアの表情が強張る

「つ、つまり私だけでは無いと?」

「いや、知らないけど……シュヴァンツはどうなんだ?」

セシリアを無視して、一夏はシュヴァンツに聞く

「僕は入試は受けてません。僕の場合、事情が特殊でしたから………」

「「は?」」

その言葉に二人だけでなく、クラスの全員が固まる

実際は束の元、国家代表のIS操縦者を正確に再現したデータが入ったシミュレーターでシュヴァンツは訓練してきた

そして、その全てに彼は勝利している

その中には織斑千冬のデータも入っている

彼にしてみれば、国家代表のIS操縦者とはいえ、所詮はスポーツ選手の様なモノに過ぎない

幾多の戦場を駆けている実践経験豊富な傭兵である少年と、戦闘未満スポーツ以上の競技であるIS操縦者との間では差が有り過ぎた

スポーツの範疇を超えないモノに少年の相手は務まらない

唯一、彼とマトモに戦えるのは織斑千冬のデータだけであった

彼女のデータだけ他のデータと格が違っていた

それ以外のデータは皆、瞬殺されていた

篠ノ之束が入試の代わりにIS学園へと寄こした戦闘データで、彼は入試をパスしたのである

「そ、それってどういう」

セシリアの言葉を遮る様にチャイムが鳴った

「っ!また後で来ますわ!逃げない事ね!よくって!?」

そう捨て台詞を残して自分の席へと戻って行くセシリア

「……これは厄介な事になった」

「面倒が嫌いな人?」





「再来週行われるクラス対抗戦に出る代表を決める」

三限目の授業で教壇に立った千冬がそう言った

「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけでは無く、生徒会の開く会議や委員会への出席……要はクラス委員の様なモノだ」

ざわざわと教室が色めき立つ

すると一人の女子が手を挙げた

「はいっ!織斑君を推薦します!」

「んなっ!?」

更に別の女子が手を挙げる

「ヘイズ君を推薦します!」

「え……?」

「では、候補者は織斑一夏とシュヴァンツ・ヘイズ……他にはいないか?いない様なら二人の中から選べ」

「待って下さい!納得がいきませんわ!!」

千冬の言葉にセシリアが机を叩いて立ち上がった

「その様な選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんて言い恥さらしですわ!私に、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

その言葉に一夏だけでなくシュヴァンツも、むっ…と表情を顰める

「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で男にされては困ります。大体文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐えがたい苦痛で__」

これには流石の一夏も堪忍袋の緒が切れた
「イギリスだって大してお国自慢無いだろ、世界一不味い料理で何年覇者だよ」

「あっ、あっ、貴方ねぇ!私の国を侮辱しますの!?」

「先に国を侮辱したのはそっちだろうが!」

ぎゃあぎゃあと言い争う一夏とセシリア

「………」

一人だけ置いてきぼりになっているシュヴァンツは二人を見ていた

性格的に大人しいのでこうなる事が良くある

「____決闘ですわ!」

「いいぜ、四の五の言うより分かりやすい」

「わざと負けたりしたりしたら私の小間使い……いえ奴隷にしますわよ」

その言葉にシュヴァンツは尻の辺りがムズムズする記憶を思い出した

“……セシリアさんってそっちの趣味があるのかな?”

少年の中で妙な誤解が生まれそうになっていた

「貴方一人で私と戦うのも可哀想ですし、そちらの方と二人纏めて相手をして差し上げますわ」

シュヴァンツを見て、一夏へ余裕である様に言うセシリア

「いや、俺一人で充分だ」

その言葉にクラスメイトの女子が意見する

「織斑君、代表候補生を舐めすぎだよ」

すると、シュヴァンツが声を発した

「僕は一対一で構いません」

「ヘイズ君も、代表候補生を見くびり過ぎだって……ハンデ位つけて貰おうよ」

しかしシュヴァンツは真っ直ぐな瞳をして言う

「譲れない男の意地があるんですよ……ね、一夏さん?」

「ああ……男のプライドって奴がな」

二人共、男としての誇りを以って、そこに居た

戦士の表情は見惚れる様な魅力があった

「……話は纏まった様だな。それでは来週の月曜。放課後に第三アリーナで代表決定戦を行う。三人は試合までにそれぞれ準備をしておくように、それでは授業を始める」



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