何故、この男がこの場所に?

 ヘルの思考はその疑問で埋め尽くされていた。

 商店街でヴァイスを浚った後、ヘル達はまっすぐこの倉庫に戻ってきた訳ではない。何度か車を乗り換えたのは当然として、新市街のロキのいるアジトを経由して旧市街へと帰ってきたのだ。その際に、ヴァイスをロキの下に置いてきたように見せかけたほどの念の入れ様である。

 そんな込み入った偽装を施したのは、追っ手を警戒してというよりも、身内――《ムスッペル》のスルトの目を眩ますためのものだった。

 《ラグナロック》はクリムゾン・グループの暗部の中でも特に深い闇を担当する部署であり、いつ切り捨てられたとしてもおかしくない。ロキもそれは承知の上であり、自分たちの身を守るために、ヴァイスという切り札をしっかりと確保しておく必要があったのだ。

 そこまでして隠蔽していたこの場所にシュバルツは現れた。

 しかも、グリームニルが現れた直後というタイミング。これが偶然とは思えない。グリームニルがこの男をて手引きしたのだろうか?

 いや、そもそもグリームニルが姿を見せた事そのものが不可解なのだ。スルトとは別の思惑で動いているというような事を言っていたが、もちろん額面通りに信用できるはずもない。

 それに、この場所が突き止められた理由が解らない。ヘル達も追跡の目は警戒していた。これまでの経験から、追っ手は無かったと断言できる。そう、それらしい気配は全く無かったのだ。

 だというのに、この場所にこの男達は現れた。何故……?

「シュバルツ……ッ」

 ガルムの憎々しげな呟きが、彼女の思考を遮った。

 ヘルが思考を繰り広げている間に、シュバルツ――すなわち黒百合は、手にした携帯用グレネード・ランチャーを投げ捨て、立った今開けたシャッターの穴をくぐって倉庫の中に足を踏み入れた。

 半瞬の自失から立ち直ったセキュリティ・コーポレーションのスタッフ達も、遅ればせながら銃を構える。

「ハっはぁ! まさかお前からのこのこ来てくれるとはなぁ!」

 無音拳銃『ファング』を片手に、狂気の色を瞳に浮かべてガルムが吠えた。黒百合は特に答えずに、視線だけをこちらに向けている。

「くっく、貴様には、この傷のお礼をしてやろうと思っていたんだよぉ!」

 ばりばりと奥歯を鳴らすガルムを片手で制するヘル。

「邪魔するな、ヘル!」

「邪魔するつもりはないわ。でも今は黙りなさいね?」

 軽い口調の中に含まれているごりっとしたものに気圧されて沈黙するガルムには目もくれず、黒百合を睨みやったままヘルは口を開いた。

「……ひとつだけ訊いておくわ。貴男、グリームニルの手引きで此処に来たのかしらね?」

 それは質問ではなく確認のつもりだった。だが、黒ずくめの男はバイザー越しに怪訝な表情を浮かべた。

「グリ……? なんの事だ?」

(? 違うのかしらね?)

 もちろん、黒百合がとぼけているという可能性はある。だが、この男は本当に何の事か知らない様に見えた。

(なら、どういう事。グリームニルは、何故この場に?)

「何か、そちらにも事情があるようだな。だが、こちらの用件は一つだ。お前達が攫った宝石を返して貰おう」

「状況を理解してそんな事を言っているのかしらね?」

 突然の襲撃に取り乱した部下達も、今は我を取り戻している。計12人のスタッフ達は、拳銃やサブ・マシンガンを構えてその銃口を黒百合に向けていた。唯一興奮しているのがガルムだが――彼はもともとこのような性格だから関係ない。

 ヘルの嘲りにも黒百合は動じなかった。落ち着き払った声で問い返す。

「返す気は、無いんだな?」

「当たり前でしょ?」

「そうか――」

 嘆息するように黒百合は肩の力を緩め――そして、その場の空気が一変した。

 目の前に立つ黒ずくめの男に変わったところはない。だが、纏っている空気が一瞬で激変していた。まるで、これまで押さえつけていたものを解き放ったかのように。

 外気に晒されている肌がチリチリと焦げつくのを感じる。背筋に怖気が走る。部下やガルム達でさえ、無意識のうちに一歩後ずさっていた。今まで数え切れぬほどの修羅場と死線をくぐり抜けてきた猛者達が。

 これは殺気だ。物理的な圧力さえ感じさせるほどの濃密な殺気が、黒百合の身体から噴き出していた。

「…………っ」

 ヘルはさらに声を重ねようとして口を開き――結局何も言わずに口を閉ざした。

 CSCのスタッフ達の間には、動揺とは言わぬまでも、猛烈な殺気に気圧されている様子が見受けられる。

 反対に、今まで興奮していたガルムは却って冷静さを取り戻したようだった。丸眼鏡の下の眼が獲物を前にした猟犬のように鋭さを増す。

 それを横目に確認しながら、ヘルは無言で左手を掲げた。

 出来れば、少しでも会話を続けて情報を引き出したかったが、こうなってはもう言葉に意味はない。

 これから交わされるのは、弾丸に込めた殺意だけがものを言う、殺し合いという名の会話だった。

「――Kill him」

 小鳥の囀りのように透き通った声で、明確なたった一つの意志を告げる。ヘルの声をを合図として、12名のスタッフ達が一斉に引き金を引いた。

 



機動戦艦ナデシコ
ANOTHERアナザ・クロニクルCHRONICLE

 

 

第30話

「黒衣の死神」



 

 14対1という圧倒的優勢にあって、ヘルは黒百合を侮っていた訳ではない。相手の息の根が止まったのを確認するまでは、気を緩めるなどプロとしては言語道断と言って良いだろう。そんな迂闊な連中が、この場にいられるはずもない。

 彼女は微塵たりとも油断していなかった。ただ、直後に起こった事態が、彼女の想定を大幅に超えていただけに過ぎない。

 闇に閃くマズル・フラッシュ。轟く銃声。拳銃の、あるいはマシンガンの、20を超える銃弾が黒百合へ向かって殺到し――そして、その悉くがあらぬ方向へ弾き飛ばされた。黒百合の展開した、対人用ディストーション・フィールドによって。

「――なっ!?」

 目の前で起こった信じがたい光景に、驚愕の声を上げるヘル達。その隙を突いて、黒百合が地を蹴った。

 爆発的な跳躍。10メートル超の間合いをひと跳びでゼロにして、ヘルに貫手を突き立てる。

 辛うじてヘルは身を捻って躱した。慌てて間合いを取る。貫手のかすった目元が裂けて、血が頬を流れた。

「きっさまぁっ!!」

 初手を避けられた黒百合に、ガルムが手にした無音拳銃の引き金を引いた。

 シュッ、プシュッ!

 無音拳銃『ファング』の針状の銃弾は、空を切る音すら発せずに標的へと向かう。黒百合は躱そうともせず、左手を翻した。

 金属と金属のぶつかり合う甲高い音と共に、針状の弾が叩き落とされる。

 無音拳銃の弾は、射出後の静音性を優先している分、射速が遅い。軌道さえ読み切れば、このような芸当も可能だろう。

 黒百合の腕に装着されたプロテクターは、小口径の銃弾でも弾きそうな肉厚を持っている。殺傷能力は高いものの、貫通力の低い『ファング』では通用しそうにない。

 ガルムは舌打ちして、後ろに飛び退き、胸元からナイフを引き抜く。だが、それを抜ききる前に、黒百合がガルムの目の前に追いすがっていた。

「――!?」

 ガルムに驚愕の声を上げる事すら許さず、黒百合は右の正拳を放つ。

 どぱん!、という人間同士が交差したとは思えないような音が、旧ヨコスカ港の倉庫内に響いた。

 拳はガルムの右肩を捕らえ、その身体ごと吹き飛ばした。比喩ではなく、文字通りに。

 その拳は肉を裂き、骨を砕き、その身諸共に宙を舞わせ――2回、3回と錐揉みしたあと、ガルムの身体は地下室への階段付近の壁にぶち当たって動きを止めた。

 距離にして10メートル近くをほぼ水平に飛んだ事になる。まるで交通事故にでも遭ったかのように光景だった。

「貴様っ!」

 スタッフ達が慌てて銃を向ける。あまりの事態に動揺しているのか、懐に飛び込んできた黒百合に発砲したのでは、同士撃ち危険がある事にも考えが及んでいない様子だ。

 だが、その事にヘルが注意を喚起しようと口を開いた瞬間、倉庫の中を照らしていたライトが一斉に消えた。スポット・ライトだけでなく、グリームニルが進入した時点で灯されていた天井の水銀灯や、非常用照明さえも。

 僅かな月明かりが差し込むのみの闇の中に放り込まれて、視界を閉ざされたヘル達。人間の瞳孔というものは、明るさに慣れるよりも、暗闇に慣れるまでの方が時間が掛かる。それは、致命的な隙となった。

「なんだ!? 明かりが――」

「くそっ!」

 闇の中に響く、スタッフ達の罵り声。そして、肉が肉を打つ音。

 どっ! ごすっ!

「がっ!」

「ぐは!」

「こんのぉっ!」

 ばん! ばんばん!

 気の短い部下が発砲した時点で、ヘルは黒百合によって開けられたシャッターの穴に飛び込んだ。流れ弾に当たったのでは堪らない。アスファルトで舗装された地面を前転してから立ち上がり、背後を振り返る。

 その時には、倉庫の内部の銃声は止んでいた。部下達の声も。そして恐らくはその命も。

「…………くっ」

 呻いて、ヘルはボディ・スーツに差し込まれているアンプルを取り出した。無針注射器と一体型のアンプルをこめかみに当てると、躊躇い無くそのスイッチを押す。

 ぷしゅっ、という空気の抜けるような音と共に、アンプル内の薬液が身体の中に流れ込む。その何とも言えない感覚に、ヘルはぶるるっと身を震わせた。

「っはあ……」

 湿り気のある声を漏らし、ぺろりと唇を舐める。目元の傷から流れた血が、頬を伝って口元を濡らしていた。その仕草にも、妖艶な色香が漂っている。

 ヘルは素早く周囲の状況を確認する。旧ヨコスカ港の倉庫街。グレネード・ランチャーの爆発音は盛大に響き渡っていたはずだが、周辺に慌ただしい気配はない。深夜である所為もあり、警察が駆けつけるにはまだ時間が掛かるだろう。あるいは、警察が来ないような手配をされている可能性もある。

 ヘル達のいた倉庫は交通路を挟んで波止場に臨んだ場所に建っていた。海から吹き付ける風がごうごうと呻り声を上げ、荒れた波が防波堤に当たって飛沫を散らしている。

 がくん、と音がしてシャッターがせり上がった。

 モーターの駆動音だけが辺りに響く。シャッターは半分ほど上りきったところで、グレネードで吹き飛ばされた箇所がつかえて動きを止めた。

 闇の中から黒百合が姿を現す。闇の色をしたガントレットから、ぽたぽたと赤黒いものが滴る。しかしその身を返り血に染める事すらなく、唯一頬にだけ赤い水滴が付着していた。

 その禍々しい姿はまさしく死神の如く。

「Devil……いえ、ロキ流に言うならSchwarz gekleidete Tod、という処かしらね?」

 思わずヘルは呟いていた。

「ふふ、大したものね……たった一人で……

 でも、良いのかしらね? こんなに派手な事をして、囚われのお姫様の身に危険が及ぶかも知れないわよ?」

「…………」

 黒百合は何も応えずに、足を一歩踏み出す。

 それを見て、ヘルは確信を深めた。やはりこの男は、ヴァイスがこの倉庫に居る事を確信している。しかも一人で地下室に閉じこめている事まで知っているように見受けられた。

 何故そんな情報を得ているのか、どうやってこの場所にたどり着いたのか。タイミングを計ったかのように照明が消えた事から考えても、やはり協力者がいるようだ。それがグリームニルなのかどうかは不明だが、彼女の勘は否と告げていた。

 彼らの正体も含めて、追求すべき謎は多いが、それも全てが終わった後の事だ。

 この男を殺し、ヴァイスを連れ出し、ロキの下へと帰還する。場合によってはクリムゾン・グループから離れるかも知れないが、それもいいだろう。

 ふう、とヘルが吐息を漏らす。それが開始の合図となった。

 ヘルが、疾る。

「――!」

 初めて、黒百合の表情が動いた。次の瞬間には、ヘルが黒百合の目の前に現れていた。

 がきん!

 乾いた金属音が響き、黒百合は弾けるように仰け反った。ヘルの突進を殺しきれなかったのである。それはまるで、先ほどの倉庫内でのワン・シーンを、キャストを交換して再現したかのようだった。

 ヘルの右手に装着されている『スカル・ディセクト』、その形状を簡単に説明するなら五指の先に手術用のメスをくくりつけた篭手と言えば分かりやすいだろうか。大昔のホラー・ムービーであったシザー・ハンド程には長くない。指一本分ほどのリーチしか無いが、その分死角は少ない。

 その鋼鉄の爪を、黒百合が反射的に抜いたコンバット・ナイフで受けていた。弾かれたヘルは器用に身を捻って倉庫の壁に着地し、それを蹴って高々と宙にその身を躍らせる。

 その跳躍力もスピードも、常人の域を遥かに超えていた。あるいは、人間の限界さえも。

「ひゅうぅ――」

 鋭く息を吐き、右手の爪を振るう。黒百合は飛び込み際の一撃は避けたが、反撃する暇は与えられなかった。

 ヘルは続けざまに右手の爪を繰り出す。突き、薙ぎ、払い――それらの攻撃を黒百合は手にしたナイフで辛うじて捌いている。この瞬間、ヘルの動きは黒百合のそれを凌駕していた。

 不意にヘルの動きが変化して、右手がコンバット・ナイフに絡みついた。

「くっ!?」

 爪と爪の間にがっちりと挟まれてナイフが抜けなくなる。そちらに黒百合の注意が逸れた隙に、ヘルは左手で後ろ腰からダガー・ナイフを抜き放った。彼女の着ているボディー・スーツは、身体の至る所に武器が携帯できるようになっている。右手に『スカル・ディセクト』を填める関係上、空いている左手で扱えるように配置されていた。

 ダガーは切り付けるのではなく、突き刺す――ヘルは抜剣から流れるような動作で、黒百合の脾腹にダガーを突き立てた。

 だが、その刃が黒百合の身体に届く事はなかった。ヘルの左手首を、黒百合の右手が掴んでいる。間髪入れず、黒百合の膝蹴りがヘルの腹部へと叩き込まれた。

 どむっ!

 確かな手応えと共に暗殺者の身体は宙を舞う。が、ヘルは空中で身を翻して、猫のようにすたっと両手足で着地した。その表情には苦痛の翳はない。先の一撃は、内臓が破裂しないまでも、常人なら悶絶していてもおかしくなかったはずだ。

「ははぁっ!」

 笑みさえ浮かべて、ヘルは再び躍りかかる。

「ちぃっ!」

 黒百合は近接戦を嫌って、銃を抜き撃ちした。

 バァン!――チュイン!

 『ゴスペル』の45口径の銃弾を、あろう事かヘルは『スカル・ディセクト』の爪で弾いた。2発、3発と続けて黒百合は引き金を引くが、結果は一緒だった。

 黒百合は無駄と悟って拳銃をホルスターにしまい込んだが、間合いが離れたのは確かだった。仕切り直すように構えを解き、ヘルは鼻に掛かった笑い声を上げた。

「ふふ、驚いているみたいね? どうして女なんかに押し負けているか、不思議でしょう?」

「いや……だいたいの予想は付く」

「へえ?」

 ヘルは興味深そうに先を促す。黒百合は苦々しい口調で続けた。

「麻薬、だな」

「ふふ、ご明察」

 僅かに眼を細めて、ヘルが首肯する。もう目元の傷は乾き始めていた。

 

 

 麻薬には様々な種類がある。精神に作用する、アップ系・ダウン系の麻薬。視覚に作用する幻覚剤。それらはヒトの脳内に作用して様々な効果を及ぼしているわけだが、その中には脳内麻薬の分泌量に作用して、身体能力を飛躍的に高めるのも存在していた。

 火事場の馬鹿力というものがあるが、これは極限時において、ヒトの脳に脳内麻薬様物質が分泌される事で身体的なリミッターが外され、通常では考えられないほどの力を発揮しているのである。だがその反面、常時の数倍の負荷が掛かるために持続力は少なく、場合によっては筋肉が断裂するか、逆に筋力に耐えきれずに骨が折れる。

 いま、ヘルが行っているのはそういう事だった。

「正気か、貴様……」

「ふふ、至ってまともだけどね? 正気かどうかと訊かれたら答えようがないけど、少なくとも狂ってはいないわね?」

 いや、もしかしたらもう狂っているのかも知れない。ヘルは自嘲気味に心の中で呟いた。

「『ソウル・イーター』……昔、軍隊で開発されていた戦闘用麻薬よ? 判断能力はそのままで、身体能力を劇的に向上させ、痛覚も和らげる」

「だがその代わり、持続力に乏しいはずだ」

「そうね? その通りよ。私がこうして元気に動き回っていられるのも、あと10分くらいかしらね? その後は反動でしばらく身動き一つ取れなくなる。だから、それまで凌げれば貴男の勝ちね?」

「……随分と親切だな」

「ふふふ、そうね? ちょっと饒舌かしら。でも、女はお喋りなくらいの方が可愛げがあるって言うわよね?」

 油断無く構える黒百合の脳裏には、ナデシコのブリッジ・クルーの面々の顔が浮かんだりしていた。

「まあ、そうかもしれんが」

 が、言ったその直後にナデシコ・オペレーターズの顔を思い描いて、慌ててかぶりを振った。

「いや、そうとも言い切れないだろう」

「? そうかしらね? 同意してくれると思ったんだけど。でも、男は無口なくらいで丁度良いのかもしれないわね? 本当はいろいろと聞きたい事があるけれど、貴男はどうせなにも喋らないでしょう?」

 ね?、とばかりに首を傾げるヘル。返答したところで意味もないので、黒百合は無言のままだった。

 益体もない会話を交わしている間にも、間合いはじりじりと動いている。それぞれが自分に優位な距離を確保しようと、静かな陣取り合戦を繰り広げていた。

 ヘルも薬の力に任せて一気呵成に攻め込もうとはしない。身体能力で押し切るのが無理となれば、勝敗を分けるのはそれぞれの技となる。

 こうなっては、余計な牽制は隙になる。殺し合いに必要なのは、必殺の一撃だけだった。

「……ひとつだけ訊かせろ」

「何かしら? わたしに答えられる事ならいいんだけどね?」

「何故、そんなものにまで手を出して力を求めた?」

 黒百合の質問に、ヘルは薄く浮かべていた笑みを消した。

「それが、貴男に何か関係があるかしら?」

「関係はない。ただ、疑問に思っただけだ。見たところ、正気を失っている様でもない。そういった薬を使う事のリスクも理解しているんだろう。とてもじゃないが、殺戮の快楽を求めての事とは思えん。

 一体何が、其処までお前を駆り立てた?」

 じり、と距離が近づく。あと一歩分踏み込めば、ヘルにとって絶好の間合いとなる。

「それを聞いて、どうするつもりなのかしらね?」

「別に、どうもしない。ただ、疑問に思っただけだ」

「ふうん……?」

 黒百合はそれ以上言葉を費やそうとはしなかった。

 果たして何か意味があるのか、ヘルには判別が付かなかったが、もう少し間合いを近づける必要がある。それまでの時間潰しには良いかもしれない、と彼女は思った。

「まあいいわ。話してあげる。でもつまんない話よ? つまらない上に、よくある陳腐な話」

 彼女は一瞬で、今までの半生を振り返った。今では客観的に見ることの出来る過去の思い出。

 ヘルは不意に可笑しくなった。何故、今まさに殺し合おうという相手に、自分の思い出話を聞かせなければならないのか。ナンセンスだとは思うが、面白くはある。

 間合いまではあと半歩。

「端的に言えば……そうね。わたしは、復讐がしたかったのよ」

「誰の仇だ?」

「あら、質問はひとつだけじゃなかったのかしらね? あんまりがっついてると、女の子に嫌われるわよ?」

 別に詳しい身の上話を聞かせるつもりはなかった。同情を誘うのは趣味ではなかったし、目の前の男がそんなヤワな男だとも思えない。

 黒百合も返答を期待してはいなかったのだろう。特に追求もせず、代わりに違う質問を投げつけてきた。

「それで、復讐はもう果たしたのか」

「ええ」

 ヘルはそれだけを答えて、微かに笑みを浮かべた。

 

 

 目の前に立つ美貌の服薬暗殺者の微笑を見て、黒百合は言葉を失った。

 その笑みに映り込んでいた感情は愉悦ではない。それは、絶望。光の差し込まぬ深海を思わせる、ほの暗い穏やかな絶望の笑みだった。

 欠く事の出来ない大切なものを喪い、その心の空洞は他の何物でも埋める事も出来ない。何より救いがたいのは、その事を確信しているにも拘わらず、背負い込んだもの故に死の安息に身を委ねることも叶わない事だ。

 唯一心安らぐのは、復讐の情念に身を焦がしている時のみ。その時だけは、復讐以外のものをを忘れる事ができる。それが、黒百合には誰よりも理解できた。

 自分も、同じだ。

 妻を奪われ、五感を奪われ、夢を奪われ、己の中に残ったのは復讐の黒い炎だけだった。北辰を、草壁を、《火星の後継者》を憎んでいる時だけは、絶望的な現実を忘れる事が出来た。

 そして復讐を果たした時、その黒い炎はもはや自分とは切り離せぬものとなっていた。

 だから、黒百合はかつての家族達の下には戻らず、そのまま消え去るつもりだった。人肌の温もりのある場所にはもう自分はそぐわない。暗い闇の中で野垂れ死にするのが似合いの末路だと、その時は思っていた。

 そう、思っていたのだ。

 搾り出すような声音で、黒百合は問い掛ける。 

「復讐が終わったのなら……もう暗殺者を続ける必要もなかったはずだ」

「馬鹿言わないでもらえるかしらね? これだけ裏社会に漬かっていて、抜け出せるはずがないでしょう? 今更表の世界に戻りたいとも思わないし、もう戻れないわ。それは、貴男にだって分かるでしょう?」

 そう、分かっていた。それでもなお、黒百合はそう問い掛けるのを止める事が出来なかったのだ。

 その答えを聞いた瞬間、黒百合は感情の激発を押さえる事が出来なかった。殺し合いの真っ最中である事も忘れ、気がついた時には黒百合は叫んでいた。

「そんな、事は……ない!」 

 思わぬ語気の強さに、ヘルは驚いて黒百合の顔を見返す。

「どんな事であれ、手遅れだなんて事はないんだ。どこかで引き返す事は出来る。出来るはずなんだよ……!」

 黒百合はぶつけどころのない憤りを吐き出すように、拳を倉庫の壁に激しく打ち付けた。鉄筋コンクリート製の壁は鈍い音を立てて抗議の声を上げる。

「ああ、俺も人の事は言えんさ。もう後戻りは出来ないと思いながらも、この選択をずっと後悔し続けてきた。もう戻れないと解っていても、それでも過去に捕らわれ続けてきた! だが、そんな俺でも、こうしてやり直す機会を得た。たとえ過去は消せなくても、こうして未来を作ることは出来ると!

 お前にも、そんな機会がいつか訪れる。闇の中から抜け出す事は出来るんだ。お前が望みさえすれば……!」

 感情を乱して言い募る黒百合に、ヘルは隙を突くのも忘れてしばし唖然とした視線を向けていたが……ふっと、その目元が緩んだ。

「貴男……変なひとね、そんな事言うなんて。ふふ、随分とやさしい死神さんだこと」

 ヘルは微かに笑った。泣きだすのをこらえているようにも見えれば、困って微苦笑を浮かべているようにも見える。少なくとも、怜悧な暗殺者の浮かべる表情ではなかった。普段のからかうような口調がなりを潜め、静謐と言える声音でヘルは続けた。

「そう……かもね。でも、わたしには他に選択肢は考えられなかったし、引き返すつもりはなかった。

 でも、そうね。もしそうなる前に、貴男みたいな人に出会えていれば、話は別だったかも知れない。でもそれはIFの話。貴男の言った通り、過去は消せない」

 ヘルは全てを撫ぜ切るように、『スカル・ディセクト』を装着した右腕を振り払った。

「お喋りが過ぎたわね。そろそろ終わりにしましょう。貴男はヴァイスを取り戻す。わたしはそうはさせない」

「……そうだな。せめて、俺がお前を楽にしてやるよ」

 そう言うと、黒百合は構えを取った。正確には構えではない。相手を正面に置いて足を肩幅に開き、両手をだらりと下げる。武術で言うところの無形の位。どの方向、どんな攻撃にも対処可能な体勢だ。

 黒百合は、『以前』に師匠である月臣に聞かされた事を思い出す。

 木連式柔の真髄はふたつある。曰く。『木連式柔に構え無く、木連式柔に二撃無し』――

 

 

 ヘルもまた前傾姿勢の独特の構えを取った。ここからヴァイスを連れて逃走する手間を考えれば、残された時間は少ない。恐らくは次の打ち合いで最後。

 仕切り直しとなり、今まで構築していた間合いは無駄となった。もはや勝敗の構図はシンプルだ。互いが必殺の武器を持っている。先にそれを当てた方が勝つ。

 対峙の刻は短く、決着までの時間はさらに短かった。

 先に動いたのはヘルだった。

 呼気と共に地を蹴り、爆発的とも言える加速で黒百合に迫る。一直線に進んでいるように見えても、特殊な歩法によって微妙に身体の軸がぶれている。黒百合からは、ヘルの残像が幾つも重なっているように見えたはずだ。

 黒百合は迎撃するように開いていた拳を握る。そして体をずらした瞬間、ヘルは黒百合の目前で跳躍した。

 宙返りをしながら黒百合の頭上を飛び越え、背後から両の爪を突き立てる!

 しかし、完全に虚を突いた死角からの一撃であるにもかかわらず、黒百合はまるでそう来る事が始めから分かっていたかのように身を沈めてそれを躱した。

 鋼鉄の爪は虚しく空を切る。だが、ヘルにとってはそれもフェイントだった。本命はそれに続く蹴り。黒百合が振り向く時間はない。ブーツに仕込んだ爪が、無防備な背中を捕らえる。

 かに見えた。

 次の瞬間、黒百合の身体が遠ざかった。いや、違う。ヘルが動きを鈍らせたため、彼女にはそう感じられたのだ。

 目に見えない力が、ヘルの蹴りを押し止めている。壁に当たっているという感じではなく、強い風に身体が押し戻されているような感覚だった。

 それは、時間にすれば瞬きをしているような間の出来事だった。ばぢんっ、と静電気が弾けるような音がして、抵抗が消え去る。

 その音が、黒百合が携帯する対人用ディストーション・フィールド発生装置がショートする音だという事を、ヘルが知るはずもなかった。

 角度によっては銃弾すら弾くディストーション・フィールドだが、重い物を支え続けるような継続的な荷重に対しては強くない。ましてや、携帯用として出力が限られているとあってはなおさらだ。黒百合が『こちら』にきてから禄にメンテされていない事もあって、たった0.3秒でフィールド発生装置は故障した。

 だが、そのたった0.3秒が勝敗を分かつ。 

 次の瞬間には、黒百合は振り向きざまヘルの懐に飛び込んでいた。ヘルが着地する前に、無防備に宙を舞う身体に擦れ合うほどに肉薄し、その肩が水月の辺りに触れ――

 ずだん!

 黒百合の踏み込みの音が、闇の静寂を振るわせた。左足がアスファルトにめり込むのと同時、ヘルの身体が重力に逆らって浮き上がる。そこを追いすがって放たれた両の掌底がヘルの身体を捕らえたとき、美貌の暗殺者はくの字に折れ曲がって空へと弾け飛んでいた。夜の闇を僅かに照らす、欠けた月へと届かんばかりに。

 木連式柔の一『覇山』から『虎嘯』へと繋ぐ2連撃。初撃の当て身で敵の身体を浮かせ、回避不能になったところに次撃を叩き込む。

 通常、木連式は一撃必倒を旨としている。つまり連撃は邪道なのだが、実戦ではそうも言っていられない。

 黒百合がかつて月臣との修練の中で編み出したのがこの技である。それは幾度かの実戦を経て錬磨され、黒百合の切り札の一つにまで昇華した。それぞれの一撃が必殺の威力を持っている。

 その連撃を食らったヘルは成す術なく吹き飛び、放物線の頂点まで押し上げられた後、重力に引かれて海へと落ちていった。その瞬間、彼女が安らかな笑みを浮かべているのを目に捕らえて、黒百合は思わず手を伸ばした。

 もちろんその手が届くはずもない。水飛沫が上がって、ヘルの身体は海へと沈んでいった。脱力していたためか、あるいは鋼鉄製の爪を装着しているためか、美貌の服薬暗殺者の身体は海面には浮かんでこなかった。

 差し伸ばした手を胸に掻き抱き、黒百合は力無く呟く。

「馬鹿野郎……」

 その声は、誰の耳にも届かなかった。

 

          ◆

 

 黒百合がヘルと対峙している時、もう動く者のないと思われた倉庫の中で、一人だけ息のある者がいた。

「ぐっ、があああ、許さねぇ。許さねぇぞ、シュバルツぅぅぅ」

 ガルムは低く唸るような声で罵った。無個性の仮面は剥がれ落ち、その凶暴性だけが顔に浮かんでいる。眼鏡は何処かに飛んでいってしまった。

 黒百合の拳に捕らえられた瞬間、僅かに身体を捻っていた事で即死は免れたのだ。だがそれも、僅かな時間を生きながらえただけに過ぎなかった。

 粉砕された肩からは折れた骨が突き出て、裂けた傷口からは止めどなく血が溢れている。手で押さえた程度では止まらない。間違いなく致命傷だった。

「ぐ、ぎいぃぃ」

 もう右腕はぴくりとも動かない。肘から下が逆方向に捻れていて、内出血で青黒くなっている。擦り切れた神経は痛みしか伝えてこない。ガルムの額を脂汗が流れる。

「許さねぇ、許さねえ・え・え・え・えぇぇぇ」

 熱に浮かされているかのように、ガルムはそれだけを繰り返していた。もう、意識にあるのは黒百合への意趣返ししか存在しない。

 この傷ではもう助からない。手負いの自分が不意を付いたところで黒百合を殺す事は叶わないだろう。

 なら、どうするか? 答えは一つしかない。

 ヴァイスを、殺す。

 奴が奪い返しに来た標的を消し去り、高笑いをしながら死んでやる。任務を遂行できなくなるが、もうすぐ死ぬ自分には関係ない。

「くひひ、ひぃっひっひっひ……」

 重たい身体を引きずりながら地下への階段を下りるガルムは、それでも獰猛な笑みを浮かべていた。

 地下の電気は死んでいなかった。非常用照明の赤い明かりが、通路を薄ぼんやりと照らしている。

 進んだ後に血痕をまき散らしながら、ガルムは一番奥の部屋へと辿り着いた。最初の扉を開けた向こうに、電子ロックと錠前の掛かった灰色のドア。その先に、ガルムの獲物が無防備に寝息を立てているはずだった。

「さあぁ、ヴァイスちゃぁぁぁん。お遊戯の時間だ。せいぜい、良い声で啼いてくれよぉぉぉ」

 ガルムは唯一動く左腕で、血に染まった背広のポケットから鍵を取り出す。それを錠前の鍵穴に差し込もうと腕を伸ばし。

 ざん!

 その手首から先が、手にした鍵ごと消えていた。

「……あ?」

 何が起こったのか理解できたのは、切られた断面から血が噴き出してからだった。

「あ……ああああああああっ!?」

 獣のような声を上げる。手首を失った左腕を動かすたびに、傷口から血が噴き出し、辺りを赤く染めた。

「あがああああああっ! 貴様あああっ!?」

 ガルムはこんな事をしでかした加害者を睨み付けた。それだけはギラつきを失わないその瞳で。

 ほの赤い地下室の暗闇の中に、オーガの半仮面を被った男が音もなく立っていた。

 何故こんな場所にいるのか。誰もいなかったはずのこの部屋に、ガルムに気付かれずにどうやって入り込んだのか。何の獲物も――ナイフすらも持たない無手のままで、どうやってガルムの腕を切り飛ばしたのか。

 疑問に思うべき事は幾らでもあったが、ガルムの口から出るのは呪詛の叫び声だけだった。

「グリームニル、貴様っ!? 貴様っ! 貴様あああああああっ!!」

 半仮面の男は何も答えず、何も語らずに、拳を固めて構えを取った。そして。

 ズドン!

 轟音が響き渡り、地下室の中に動く者はいなくなった。

 

          ◆

 

 黒百合が駆け付けた時、その部屋で動いているものはいなかった。だが、かつてはいたであろうという痕跡は見て取る事が出来た。

 部屋の中の至る所にばらまかれた血痕。血を失って青黒くなった手首。そして、こげ茶色の背広の男――ガルムの死骸。

 ガルムが床に倒れているだけなら、さして疑問には思わなかっただろう。だが、この狂犬のような男は、尋常でない死に様を晒していた。

 死因は胸部の陥没だろう。それは間違いない。ハンマーかなにかで殴られたかのように、ぽっかりと穴が穿たれている。だが、本来なら胸の後ろにあるはずのものがまとめて消し飛んでいた。

 まるで火薬で爆砕したかのように、ガルムの身体はふたつに裂けて、出来の悪い壁画のように壁へと張り付いていた。硬化樹脂の壁はガルムの胸の陥没を中心に、放射状にひび割れている。

 床にはふたつの足跡が残っていた。同じく硬化樹脂製の床を割るほどの力で。

 何者かが、いたのだ。この部屋に、先程まで。

 そしてガルムを――恐らくは拳打の一撃で――殺し、そして霞の如くこの場から消えた。

「何者だ……」

 周囲に気配は感じない。

 もう一度ガルムの死骸――死体とは言えまい――に目を向ける。冷や汗が流れた。自分にも、此処までの威力は出せない。ナノマシンを投入された事によって、ヒトの限界を上回る筋力を得た自分にも。

「…………」

 黒百合はしばらくの間緊張して周囲を窺っていたが、やがて何時までもこうしていても仕方がない事を悟り、奥の部屋へと続く扉を開けた。電子ロックは既に解除してある。

 部屋の中で、何も知らない眠り姫が微睡んでいるのを確認して、黒百合は安堵の息を漏らした。

 この場所は、彼女には刺激が強すぎる。少女の小さな身体を抱き上げると、黒百合は今来た道を引き返していった。

 

 

 もうすぐ、夜が明ける。

 


 

 肌に触れる陽の光を感じて、彼女の意識は混濁の泉から浮き上がった。

 闇に慣れていたせいか射し込む光は眩しく、うっすらとしか瞼を開ける事が出来ない。

「う……」

 掠れた呻き声が漏れる。全身を疲労感が襲っている。これは、『あの薬』を使った後はいつもの事だったが、今回はそれとは別に腹部に鈍痛が走った。恐らく、砕けた肋骨が内臓が傷つけたのだろう。自分がそう長くは持たないであろう事を、彼女は冷静に悟った。

 悟った後に、今まで何があったかを思い出して、彼女は飛び起きた。いや、飛び起きようとしたのだが、身体は言う事を聞かず、びくんと痙攣しただけだった。

 無理に身じろぎが悪かったのか、喉元から急速に何かが逆流してくる。

「がふっ」

 吐き出したのは血の塊だった。びしゃりと地面に落ちて広がり、砂に吸い込まれて行くのが見える。どうやら、此処はどこかの砂浜らしい。

 このまま、自分が死んでいくのを感じていろという事なのだろうか。彼女はもう何度目か覚えてすらいないが、この世界の創造主だか神だかへの呪詛を吐いた。

「無理に動かない方がいい。貴方は辛うじて生きている状態だから」

 彼女の背後から、女性の声がした。身体を動かせないため、意識だけをそちらに向ける。女はそれを悟ったのか、こちらの目の前に回り込み、耳元に囁くように続けた。

「貴方はまだ生きている。でも、もうすぐ死ぬ。砕けた肋の破片が肺に突き刺さっている。内臓も幾つか破裂している。それに、海に浸かっていたせいで体温も低下しているし、体力の消耗も激しい。今生きているのはほとんど奇跡と言える程」

 掠れた視界の中に、揶揄するような笑みを浮かべる女の顔が映る。銀色の髪を揺らして、愉しそうに繰り返した。

「貴方は、もうすぐ死ぬ。本来なら、此処で死ぬべき運命だから。

 でも、私なら助ける事が出来る。

 もし、私に協力してくれると約束するなら、助けて上げる。私と一緒に、貴方をこんな目に遭わせた奴に復讐してやりましょう?」

 奴……?

 彼女が思い描いたのは、黒ずくめの格好をした男だった。

 復讐する? あの男に? 生きて、あの男に……

(もう一度……)

「きょ、う……りょく……するわ……」

 そう宣言すると、女は驚いたように瞳を揺らした。その、琥珀色の瞳を。

「驚いた。まだ喋れるとは思わなかった。いいでしょう、交渉成立です。今は眠りなさい。目が覚めたら、私の役に立って貰う。私は――」

 女はなおも言葉を続けていたが、彼女はもう聞いていなかった。急速に薄れゆく意識の中で、彼女が思い描いていた事はたったひとつ。

(もう一度――)

 

 

 2時間後、ネルガル・シークレット・サービスが捜索のためにその砂浜を訪れたとき、その場に人のいた痕跡は残っていなかった。

 

 


※注意

 この第30話は、「ぴよこ’s village」で当初連載していた内容に加筆修正を施してあります。話の大筋は変更していませんが、戦闘シーンの描写を大幅に改修しました。以前のものをご覧になっていた方はご了承ください。


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