アキトと黒百合の秘密特訓の話は瞬く間にナデシコ中に広がった。

 機嫌を直して戻ってきたリョーコを不審に思ったヒカルが渋る彼女から巧みな話術で聞き出し、それをよりにもよってブリッジでぶちまけた為である。

 とはいえ、見目麗しい美少女ならばともかく、食堂のいち男性コックの挙動にクルー全てが注視している訳ではない。大半の者は無関心であったが、アキトをよく知る者は、彼の為人に似合わぬ意外な行動に驚きを隠せなかった。とりわけ驚いていた人物が皆女性だった事は、今更記しておく程の物ではない。

 ユリカはその話を聞いた時、目と口で3つの丸を作って驚きの声を上げたが、すぐにころっと態度を変えて、両手を頬に添えてのたまった。

「アキトったら、ユリカの為にそんな事してるなんて……」

「……なんで艦長の為になるわけ?」

 その場に居合わせたミナトが当然のツッコミを入れるが、ユリカの方は自信満々で、

「だって、アキトが強くなろうとするのは、大切な恋人であるユリカを護ろうとしているからに決まってるじゃないですか!

 でもでも、そんな姿をユリカに見せたくなかったから、秘密にしてたんだよね! むやみに努力をひけらかしたりしないなんて、さっすがアキトだね!」

 両手で握り拳を作って力説するユリカ。脳内世界にどっぷりと浸かっていて、しばらくこちらに戻ってきそうにない。ミナトは丁重にユリカの存在を無視する事にした。

「それにしても、アキト君がねぇ……」

 自分だけに聞こえる声で呟く。

 ミナトには、アキトが特訓を自らに課した理由が何となく分かるような気がした。恐らく、あのヨコスカ・ベイでの一幕が影響しているのだろう。

 彼女も事の詳細を把握している訳ではない。プロスや黒百合に事の顛末を訊いても「知らない方がいい」と言うだけで、それ以上の事を語ろうとはしなかった。

 話せないのにはそれなりの理由があるのだろうとミナトは納得したが、アキトは納得できなかったのだろう。その不満は外よりもむしろ内に向いていた為、自分を鍛えるという方向に発露したのだと思われる。

(まあ、アキト君らしいって言うのかしらね〜?)

 そんな事を考えながら、ミナトはちら、と隣の席に目をやる。オペレーター・シートに座っている瑠璃色の髪の少女は、ヒカルの話を聞いてからは俯いたままで、その表情を窺う事は出来なかった。

 

 

 同じようなやりとりは、アキトの働き場所であるナデシコ食堂でも行われていた。ただし、此方は当事者であるアキトを交えての事だったが。

「――で、どうしてなんですか? テンカワさん」

 ヒカルから話を聞いたウエムラ・エリが、直接本人に理由を問い質す。ホウメイ・ガールズ達もここ最近、アキトが湿布だらけの姿になっている事を気にしていたのだ。

「う〜ん、まあ、何となく、になるのかなぁ……」

 それに対するアキトの答えははなはだ頼りなかった。

 エリの聞いた話はヒカルがリョーコから聞いた話の更に伝聞である為、伝言ゲームのように内容に細かい行き違いが出来ていた。大元のリョーコでさえ詳しい経緯は知らないのだから当然だ。

 困ったのは問い掛けられたアキトである。ヨコスカ・ベイでの一件はルリの事を慮って皆には匿秘されている為、本当の事を言う訳にもいかないのだが、適当にはぐらかすには彼は致命的に嘘が下手だった。それくらいは自覚している。

 結局、自分の考えた事だけを正直に伝える他なかった。

「このままじゃ、いけないと思ったんだ。勿論、俺にとってはコックが一番大切だけど、それ以外にも出来る事があるんじゃないかって」

「でも、だからってアキトがそんな事してどうするの? 別に戦闘に参加する訳でもないのに」

 それを聞いたアスカ・ウツホが不思議そうな表情で不思議そうな声を出す。その明け透けな物言いに、アキトは苦笑を浮かべた。

「いやまあ、そうなんだけどね。だからこれは、ただの俺の自己満足って言うか……」

「じゃあ、それを内緒にしてたのは?」

「そうそう、なんでですかぁ?」

「前に私たちが怪我の理由を聞いても、教えてくれませんでしたよね?」

 ホウメイ・ガールズたちは揃って首を傾げる。テラサキ・サユリだけは心配げな表情を作っていたが、アキトは気付かなかった。鈍ちん。

「あー、いや……なんか気恥ずかしくって。ははは」

「ふ〜ん。3ヶ月前って事は、怪我が治ってすぐだよねぇ。あ、もしかしてアキトが怪我した事故のコトなのかな?」

 ウツホに言われてアキトはぎくっとしたが、幸い表情には表れなかった。一念発起した理由はまさにウツホの言う通りだったからだ。但し、ウツホ達の認識している『事故』の内容は事実とは異なっている訳だが。

 ウツホがさらなる追求をしようとした処で、アキトにとっての救いの手が差し伸べられた。

「ほらほら、それくらいにしといてやんな」

「あ、ホウメイさん」

「テンカワのヤツが困ってるじゃないか」

「でもぉ……」

「人間誰だって、言いたくない事の一つや二つあるもんさ。特にそれが気恥ずかしいもんならなおさらね。

 アタシはね、テンカワ。アンタが自分で決めたのなら、料理に影響しなけりゃ別に気にしないよ。ま、若い内は色々試してみるもんさね」

「ホウメイさん……」

「ただし! やるからには、中途半端は許さないからね。分かったかい、テンカワ?」

「はい! ありがとうございます、ホウメイさん」

 ホウメイの茶目っ気のたっぷり乗ったウィンクを受けて、アキトは深々と頭を垂れた。

「やれやれ、テンカワも男の子って事かねぇ。

 じゃあ、この話はこれまで。みんな、持ち場に戻んな」

「「「「「はぁ〜い」」」」」

「……」

 解散していく一同の中で、サユリだけは納得できない表情を浮かべていた。ホウメイはそんなサユリの肩にポンと手を置くと、驚いた表情で見返してくる彼女に優しい声で諭しかける。

「テンカワなら心配いらないって。馬鹿なように見えて、ちゃんと物事の本質は弁えてるヤツだからさ」

「わ、私は別にアキトさんの心配なんか……」

 あからさまに動揺しながら、サユリは駆け足でその場を後にする。その後ろ姿を眺めながらホウメイは、

「……アンタもテンカワも、もう少し自分の気持ちに素直になってもいいと思うんだけどねぇ……」

 やれやれとばかりに肩を竦めて、コンロにかけてある鍋の前へと戻っていった。

 今日も腹を空かせた悪ガキ共が、彼女の作る料理を待っているのだ。

 



機動戦艦ナデシコ
ANOTHERアナザ・クロニクルCHRONICLE

 

 

第45話

「僅かな変化」



 

 悪ガキも不良中年も、姦しくて純情でお騒がせな少女達も昼食を済ませた後、最後にやってきたのは良識ある大人の女性だった。

 ナデシコ内での数少ない良識派の代表格であるケイ・フォーランドは、遅めの昼食を済ませた後、空になったトレイをもって席を立った。

 食器の返却口にトレイを置くと、厨房の奥に声をかける。

「どうも、ご馳走様でした。

 アキト君、ホウメイさんはいらっしゃるかしら?」

「あ、はい。ホウメイさーん!」

 アキトが呼びかけると、ホウメイが中華鍋片手にひょっこりと顔を出した。

「なんだい、テンカワ」

「ケイさんが用があるそうです」

「うん? ああ、アンタかい」

 ホウメイはケイの顔を認めると、中華鍋をコンロの上に置いた。用件は察しが付いているようで、主語を省いて尋ねてくる。

「いつものヤツでいいのかい?」

「はい、お願いします」

「今回は随分と切れるのが早いね?」

「最近、来客が多いものですから」

 頬に手を当てて、ケイはしっとりとした笑みを浮かべる。

「それに、イネスさんも結構飲まれますし」

「そうかい。じゃあ、ドクター用のもストックを増やしといた方がいいね。せっかくだから一緒に持ってきな。

 テンカワ、食品庫の奥の下から2番目の引き出しにいつものがあるから、二袋持って来とくれ」

「あ、あとミルクとお砂糖もいいですか? ちょうど切らしてしまって……」

「うぃっス」

 アキトは軽快な返事を寄越して食料庫に引っ込んでいった。さしたる時間も掛からず、目当ての物を抱えて戻ってくる。

「持って来ましたー」

「ありがとうございます、アキト君」

「いいッスよ、これくらい。良かったら医務室まで届けましょうか?」

「いえ、これくらいなら持って行きますよ。仕事のお邪魔をしても悪いですし……」

 厨房の様子を窺いながらケイはかぶりを振った。アキトもホウメイに呼ばれるまで、大量の食器と泡まみれの格闘を繰り広げている処だったのだ。

 だが、その荷物は重量は軽いものの、女性が抱えるには少々かさばる。アキトはしきりに心配していたが、ケイにやんわりと押し切られてしまった。彼女の申し訳なさそうな笑顔に勝てる人物はこのナデシコにはいない。

「どうも、有り難うございました」

「また無くなったら言っとくれよ」

「ケイさん、気をつけてくださいね」

 ホウメイとアキトの声に送られて、ケイは紙袋を抱えて食堂を後にした。向かうのは勤務先である医務室。今ではケイのプライベート・ルームとイネスの研究室を兼ねているようなものではあったが。

 荷物を抱えているものの、ケイの足取りは確かなものだった。だが、紙袋の丈が少々高い為に視界を僅かに遮っており、それが事故の原因となった。

 十字路に差し掛かった所で、右側から突然人影が現れる。紙袋の影に隠れて、ケイはそれに気付くのが遅れてぶつかってしまった。

「きゃっ」「キャッ」

 期せずして重なる声。

 台詞は全く同じだったが、その質は正反対だった。片方は歳不相応に可愛らしいケイのもので、もう一つは甲高い男性の声。

「チョット、どこ見てるのよっ!」

 耳障りな金切り声を上げたのは、キノコ頭のナデシコ提督、ムネタケ・サダアキ大佐だ。

 ムネタケはさらに文句を畳み掛けようとして――そこで始めて相手を認めてその動きを止めた。

 男性であるムネタケはたたらを踏むだけで済んだが、女性であり重量で負けているケイはこてんと尻餅をついていた。とっさに手を着いたお陰で怪我はなかったものの、抱えていた紙袋は床に落ちて中身が散らかってしまっている。

 だが、重要なのは其処ではない。後ろ手を着いた自然な動作の結果として、ケイはムネタケに向かって股を開いているような、しどけない格好をとっていた。

 硬直するムネタケを見て、数秒遅れでケイは自らの格好に気付く。

「あら、あら」

 しかし其処はナデシコ唯一の未亡人。余裕のある仕草で脚を閉じ、はだけていたスカートの裾を整えた。イツキあたりならパニックに陥って顔を紅潮させていた事だろう。

「失礼しました、ムネタケ提督」

 自然な動作で立ち上がり、ぺこりと会釈するケイに漸く我に返ったムネタケだったが、動揺は隠し切れずに、

「き……気をつけなさいよっ」

 いつもと違って毒の少ない台詞を絞り出す事しかできなかった。

 しかしケイは済まなそうに律儀に頭を垂れる。

「申し訳ありません。荷物を抱えていたので、ちょっと前が見えなくて……」

 と、床に落ちた紙袋から零れている中身に視線を向ける。自然、ムネタケもそちらに目を遣った。

「荷物……って、コーヒー豆じゃないの」

「はい。食堂から戴いてきた処だったんです。ホウメイさんが良い豆を選んで仕入れて下さるものですから、美味しいコーヒーが淹れられるんですよ」

「だからって、歩くのに邪魔になる程抱えて通路を歩くんじゃないわよ。危ないじゃない!」

「そうですね、済みません」

「大体、それなら荷物持ちでも捕まえればよかったのよ。食堂に岡持のガキンチョがいるじゃないの」

 ちなみに『岡持のガキンチョ』とは、ブリッジにいつも出前を持ってくるアキトの事である。ムネタケは提督のくせに、乗艦のクルーの顔と名前などほとんど覚えていない。

「アキト君も食堂の皆さんも、まだお忙しそうでしたから」

 だが、ケイにはそれで誰の事を言っているのか察しが付いたらしい。床に落ちたコーヒー豆の袋を拾い上げると、頬に手を当てて困ったように微笑む。

「ですけど、次からは気をつけますわ。またぶつかったりしたら危ないですし」

「そうして頂だ」「じゃあ、お願いしますね」

 話は終わった、とばかりにその場を立ち去ろうとしたムネタケの眼前に、キツネ色をした大きな紙袋が差し出された。

 思わず受け取ってしまうムネタケ。まず手に抱えた紙袋に目を向け、次にそれを差し出した張本人であるケイを見遣った。彼女は相変わらず、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。

「…………なによ、コレ」

「コーヒー豆ですよ、ムネタケ提督。

 あ、でも、豆だけじゃなくて、コーヒーに入れるミルクとお砂糖も戴いたので、それも入ってますけれど」

「そんな事を訊いてるんじゃないわよっ! 何でコレをアタシに渡すのよっ!?」

「ムネタケ提督が仰ったじゃないですか。荷物持ちを捕まえれば宜しいって」

「だからって、なんでアタシなのよ!?」

「ほかに頼める方も今此処にはいらっしゃいませんし……」

「アタシは提督なのよ!? 偉いのよ!?」

「ですけど、フクベ提督は手伝って下さいましたわ。それに……」

「な、何よ……?」

 邪気のない笑顔を向けられてたじろぐムネタケ。その表情は、ケイの次の言葉で固まった。

「見ましたよね、ムネタケ提督?」

 繰り返し述べるが、彼女の笑顔に勝てる者などこのナデシコにはいないのだ。

 

          ◆

 

 結局ムネタケは、荷物持ちよろしく医務室までケイの後に付いていく事になってしまった。道中ぶつくさ文句を言っていたが、ケイの笑顔の前にはそのささやかな抵抗も虚しいだけだった。

 医務室に着くまで、誰ともすれ違わなかったのはムネタケにとっては幸いだった。こんな場面を見られては、提督としての面目が丸つぶれだ。元から面目などない、という意見はムネタケの耳には届かない。

 医務室に到着し、漸く解放されると安堵したムネタケだったが、ケイはそれを許しはしなかった。

「せっかくですから、お茶でも飲んでいって下さいな。荷物を持って頂いたささやかなお礼です」

 どんな社会や組織の中でも、敵に回してはいけない人物がいる。ナデシコ艦中に於いて、医務室でクルー達の健康を管理しているケイはその筆頭だ。

 ムネタケはとある理由から医務室には近づいてはいなかったのだが、ケイにこうまで言われては断り切れなかった。単に彼女の笑顔のプレッシャーを振り切れなかったという事もあるが。

 だが、ムネタケは医務室の中に通されて即座に後悔した。其処では、黒百合とラピスが椅子に腰掛けていたからだ。

 

 

「…………何でアンタが此処にいるのよ」

 よりにもよって黒百合の対面の椅子を勧められたムネタケは、苦り切った声で呟いた。

 ムネタケは黒百合が苦手だった。それは、ナデシコが出航した当初に引き起こしたナデシコ捕獲作戦に於いて、ブリッジを占拠した自分を捉えたのがこの黒ずくめの男だった所為もあるし、黒百合が普段から意味もなく撒き散らしている威圧感に気圧されている所為でもある。

「別におかしい事は無いと思うがな。時折、こうしてケイさんに茶に呼ばれているんだ。息抜きにもなるしな」

 黒百合はそんなムネタケの心情を知ってか知らずか、何という事もない風に受け答える。彼の隣に座っているラピスは何の反応も見せずに、ケイの出したお茶請けのクッキーをつまんでいた。

「医務室でお茶なんていいご身分ねぇ」

「身分は関係ない。これはどちらかというとケイさんの趣味だ。以前はフクベ提督も一緒に呼ばれていたしな」

「……ふん」

 軽い毒舌を交わしている内に、ケイが奥の控え室からトレイを持って現れた。

「皆さん、お待たせしました。

 あら、どうしました? ムネタケ提督」

「な、何でもないわよ」

「提督はケイさんのコーヒーが待ちきれなかったそうだ」

 黒百合が素知らぬ顔で口を挟む。それが嘘だと知っているのはラピスだけだが、表向きは何も反応しなかった。

 ケイはまんざらでも無さそうで。

「あら、そうなんですか? お待たせして申し訳ありません。どうぞお掛けになって下さいな」

 言われるままに腰を下ろしたムネタケの前に、自ら淹れたコーヒーを置いた。豆から焙煎した、ケイ自慢の逸品である。

「…………」

 それを見て言葉を失っているムネタケを余所に、黒百合、ラピスにも順番にコーヒーを配る。黒百合はブラックで、ラピスにはカロリー控えめのクリームをたっぷりと。

「イツキさんは遅れるそうですよ。先程コミュニケで仰ってましたわ、黒百合さん達に謝っておいて下さいって」

「そうか。明確に約束している訳でもなし、気にする事は無いんだが」

「うふふ、イツキさんにとっては重要な事なんですよ」

「そんなものか……では、戴こう」

「……イタダキマス」

 二人は礼を言って、耐熱ビーカーに口を付けた。

「って、何を平然と飲んでるのよっ!?」

 我に返ったムネタケが立ち上がって叫ぶが、黒百合に冷ややかな視線を向けられた。

「何だ、いきなり。コーヒーを飲んでいる時くらい静かにできんのか」

「そういう問題じゃないでしょっ!? 何でコーヒーがフラスコに入ってるのよ!」

「フラスコでなく、耐熱ビーカーですわ、ムネタケ提督」

 何かしらのこだわりがあるのか、ケイがやんわりと訂正する。

「何でもいいわよっ! 問題なのは、なんで普通のコーヒーカップに入ってないかって事よ!」

「それは……」

 ケイはにっこりと。黒百合は平然と。ラピスは無表情に。

「此処は医務室ですから」「此処は医務室だからな」「ココが、医務室ダカラ」

 三者三様の言い方で唱和する。きっぱりと断言されて、ムネタケは目眩を覚えたようにふらついた。

「ムネタケ提督、貧血ですか?」

「…………何でも無いわよ」

 力なく椅子に腰を下ろし、ムネタケは諦めたようにかぶりを振った。

 

          ◆

 

 ムネタケが押し黙ってからしばらくは、穏やかな沈黙が医務室を支配していた。先程まで漂っていた刺々しい雰囲気は消え去っている。室内には、コーヒーを傾ける音と吐息だけが漏れていた。

「遅いですねぇ、イツキさん」

「そう言えばそうだな」

 気付いてみれば、先程時計を見た時刻から随分と過ぎている。

「コミュニケで呼んでみましょうか?」

「いや……別にいいんじゃないか。急かしても悪いしな」

 イツキは何の理由もなく約束を違えるような人間ではない。なら、その用事が終わるまで待っていればいい、と言うのが黒百合の意見だ。

「それもそうですね。あ、ムネタケ提督。おかわりは如何です?」

 問い掛けながらも、ケイは既に空になったムネタケの耐熱ビーカーに三角フラスコからコーヒーを注いでいた。

「この豆はわたしの好きな銘柄なんです。火星では栽培できなくて、地球から取り寄せていたんですよ」

「わざわざ地球から? ケイさんはよほどコーヒーが好きなんだな」

「元々は、亡くなった夫の趣味だったんです。それが、あの人と連れ添っている内にむしろわたしの方が詳しくなってしまって……水出し式のサイフォンまで自宅に用意したんですよ。時間が掛かるから、滅多に使いませんでしたけれど」

 追憶に耽るように遠くを見つめるケイの横顔を、ラピスは不思議そうに眺めている。

「他にも色々と購入してしまって、あの人に呆れられた事もありました。店先でいい物を見つけるとどうしても欲しくなってしまって、結構散財してしまったんですよ? アイが生まれてからはそんな事はありませんでしたけど。

 ……あの人が亡くなってからは、一人だけで飲むのもつまらなくって、あんまり手を付けていなかったんです。でもいずれアイにも教えて上げようと思って、大切に取って置いてあったんですよ。それももう、無くなってしまいましたが……」

 ケイの睫毛が僅かに揺れる。第一次火星会戦時の事を思い返しているのだろう。迫り来る木星蜥蜴の無人兵器は、ケイの思い出の依る場所を根こそぎ奪い去っていった。今では最愛の娘も行方知れずの身の上だ。

 それでも、ケイは笑顔を絶やさない。彼女が哀しみの感情を表に出したのは、ナデシコに乗ってからは一度きりだ。

 

 

 ――それは、ナデシコが火星を脱出した後の事。

 ナデシコの火星遠征の成果は、オリンポス研究所の研究員であり、相転移エンジンの開発に携わっていたイネス・フレサンジュと、ユートピア・コロニー跡地下シェルターから搭乗した少数の民間人のみ。その中に、ケイの娘であるアイ・フォーランドの名前はなかった。

 ユートピア・コロニー跡地での一連の騒動が収束し、地下シェルターからナデシコ乗艦の希望者を募っている際、ケイとイツキはシェルターの避難民達にアイの消息を尋ね廻っていた。

 イツキが最初に避難民達に尋ねても芳しい返答は得られなかったが、ケイの事情を説明すると途端に協力的になったのは、同郷意識もあるだろうがやはりナデシコ――引いては軍隊そのもに不信感が持たれている為だろう。

 だが結局、彼女たちの努力も虚しく、ユートピア・コロニーでアイの消息を知る事は出来なかった。

 本来であればユートピア・コロニー以外の場所も調査する予定であったのだが、黒百合という最大戦力を失ったナデシコは敵勢力下で満足に動き回る事はもはや出来なかった。木星蜥蜴から逃れて辿り着いた最大の目的地である北極冠研究所も、戦力不足を理由に調査を断念。最後に訪れたアルカディア・コロニーには、人の影は存在していなかった。

 ケイがナデシコに乗った理由は、愛娘の行方を捜す為だった。黒百合から無事だと聞いてはいても、無為に過ぎる時間に耐えられず、命を懸けてまで行動を起こしたのだ。だが、その目的は遂に果たされる事はなく、ナデシコは足早に火星を後にした。

 黒百合だけは、本当はケイの娘はもうナデシコに乗っている事を知っている。だが、アイ・フォーランド=イネス・フレサンジュである事を知られる訳にはいかないし、言ったとしても信じられる物ではないだろう。

 だがそれでも、気落ちしているであろうケイを慰める為にイツキを伴ってケイのもとを訪れた黒百合だったが、彼女は少なくとも外見上は落ち込んでいる様子は見受けられなかった。

 いつも通りの笑顔を浮かべてケイは言った。

『確かににアイが見つからなかったのは残念ですけれど……まだ火星全部を探した訳ではありませんし、望みはまだありますもの。

 また……そう、また今度火星に来た時に、きっと再会できます。私は、そう信じています』

 口調にもなんら動揺は見られない。だが、その目元から一粒だけ、涙の雫がそっと頬を伝った。

 彼女が落ち込んでいない? 彼女の様子を見て本気でそう思う奴が居たとしたら、そいつは底抜けの馬鹿だ。いつもと変わらぬ笑顔が却って痛ましい。黒百合たちは黙ってケイの部屋を辞した。

 翌日、ケイはいつもよりもほんの少しだけ化粧を厚く乗せていた。ファンデーションで隠した涙の跡に、黒百合とイツキは気付いていた。

 そうした哀しみを乗り越えて、今のケイの笑顔がある。

 だがもし、ケイが真実を知った時、イネスの正体を黙っていた自分をどう思うだろうか。何故黙っていたのか、と問い詰められるかも知れない。騙していたのか、と罵られるかも知れない。

 だがそれも仕方がない。未来を知りながら何も語れない事に、黒百合はもどかしさと罪悪感を覚えていた。

「――だから、何だって言うのよ」

 氷のように冷ややかな声が、ケイの追憶と黒百合の思索を打ち破る。

 ムネタケが、感情の籠もらぬ無機質な表情でケイを見つめていた。

「だから、火星を見捨てた軍を恨んでいるとでも言いたいワケね?」

「え……」

 戸惑うケイに構わずムネタケは続ける。

「だとしたらお生憎様。あれは高度な軍事的判断のもとに軍総司令部が下した決定なのよ。

 あの時火星であのまま戦闘していたら、第一主力艦隊は木星蜥蜴に対応策を立てる間もなく全滅していたわ。そうしたら、火星から地球までの間に木星蜥蜴を遮る物は何もなくなって、地球は瞬く間に焦土と化していたでしょうよ。

 アタシたち軍人はねぇ、相対的多数の市民を護る為に木星蜥蜴と戦っていたわ。それを何? 無能? 非人道的? ふざけるんじゃ無いわ!」

 言葉を重ねる事に語気が強まっていき、ついには椅子を蹴飛ばしてムネタケは激発した。それは、この場にいる黒百合やケイやラピスにではなく、此処にいない誰かに言っているかの様だった。

「アタシ達が、戦艦の主砲も体当たりすら効かない相手にどんな思いで立ち向かっていたか、アンタ達に分かるの!? それを知りもしないで、一方的な被害者面するんじゃ無いわよ!」

 最後の叫び声は、悲痛な響きすら帯びていた。

 それは、ムネタケが今の人格を形成するに当たった一因なのかも知れない。

 第一次火星会戦が終わり、連合軍は惨敗を隠す為にフクベという英雄を奉った。だが敗戦の責任は誰かが取らなければならない。それは、第一主力艦隊の参謀たちに求められたのだろう。

 ムネタケも艦隊から降ろされ、以後望まぬ閑職を歴任する事となる。

 第一主力艦隊の元参謀という肩書きを聞くと、民間人だけでなく同僚の軍人でさえ顔を顰め、遠巻きに冷たい視線を送ってきた。

 勿論、それはそういった状況のみに責任を求められるものではない。

 ムネタケは無能ではなかったが、作戦立案に於いて、兵士達を数字としてしか認識せず、とかく非人道的な作戦しか立てていなかった。それは軍人の思考としては正しかったのかも知れないが、ムネタケは言動があからさまに過ぎ、自然、人望も少ない。

 見ず知らずの者から罵声を浴びせ掛けられる度に、ムネタケの心は痛み、傷つき、そして歪んできた。その過程で溜まっていた鬱積が、ついに許容量をオーバーしたのだ。

 ケイはムネタケを責めるつもりでその話題を持ち出した訳ではなかった。だが、その事に気づける程の心の余裕はムネタケには無かった。

 ムネタケの言葉は、少なくともケイに向けるのはお門違いだった。黒百合はいち早くそれを悟り、未だ鬱憤を吐き出しているムネタケの口を塞ぐべく行動を起こそうとした。

 だが、その直前にケイと視線が合い、黒百合は動作を止めた。彼女の蒼色の瞳は穏やかな光を帯びて、こちらを押し止めているように見えた。

「あの、ムネタケ提督」

「何よっ!?」

 ヤケになったように叫ぶムネタケに、

「わたしは、今はもう、ムネタケ提督を恨んでなんかいませんよ」

 その穏やかな声は、砂漠に降る雨のような労りに満ちて。

「以前は……そうですね。憎んでいないと言ったら嘘になります。どうして護ってくださらなかったのか、なんて益体も無い事を考えてもいました。ですけれど、このナデシコでフクベ提督とお話ししたら、そんな事は思わなくなりました」

「フクベ……提督?」

 ムネタケは今は亡き元上司の名前を聞いて動揺を走らせた。ケイは静かに言葉を続ける。

「ナデシコが火星に向かっている途中で、フクベ提督が私の部屋にいらっしゃった事があるんです。

 フクベ提督も、ずっと思い悩んでいらしたんですね。軍をお辞めになられた後も、途絶える事なく罪悪感に苛まれ続けて……」

 それは、罪に耐えきれなくなった咎人の逃避行動だったのかも知れない。

 フクベがケイの元を訪れた時、彼女の裡にはフクベを恨む気持ちは確かにあった。だが、第一次火星会戦以降ずっと苦しみ続けて来たであろうフクベの姿を見た時、これ以上彼を責めようとは思わなかった。

 苦しんできたのはどちらも同じだ。娘の安否を案じ続けてきた自分。断罪を待ち望んでいたフクベ……

 だから、ケイはもう軍人を恨んではいない。第一主力艦隊の参謀であったムネタケに、ケイは穏やかな声音で語りかける。

「ムネタケ提督も……苦しんでらしたんでしょう?」

 その言葉を聞いた時、ムネタケは心臓を鷲掴みにされたかのような感覚を覚えた。

「な……んで……」

 何故ケイがそんな事を言えるのか、ムネタケには理解できなかった。

 今まで、あからさまに地位にしがみつくムネタケに向けられる視線は、決して良いものではなかった。ムネタケ自身もそれは承知していたが、それを変える事はこの期に及んでは不可能だった。

 尊敬する父の後を追って軍人になったムネタケ。だが、直ぐに軍隊の外側から見える部分と内側から見える部分との違いに気付く事になる。そして、自分にはそれと正面から打ち合える程の才能も無い事を思い知らされた。

 失望と挫折。それ以降、ムネタケはただ地位にしがみついてきた。部下を押さえつけ、同僚を蹴落とし、気にくわない上司にも頭を下げる。自分が理想とした軍人像の正反対に位置する人物。ムネタケは自分自身に絶望していた。

 そんな軍人として最低な自分を、ケイは許すと言う。恨んでいない、と。苦しんでいたのはお互い様だ、と。

「なんでよ……」

 何故そんな事を言えるのか。何故そんなに優しくなれるのか。

 世の中は皮肉に満ちている。ムネタケは自分が望まずに赴いたナデシコという場所で、自分が最も聞きたかった言葉を聞く事になるのだから。

 

 

 震える吐息を漏らして絶句してしまったムネタケに、ケイは変わらずに穏やかな視線を向けている。

 その様子を見つめる黒百合の心境にもまた、変化が訪れていた。

 黒百合にとってムネタケは、『前回』にヤマダ・ジロウを殺した仇でしかなかった。それを未然に防いだ『今回』では恨みこそないものの、決して良い印象を抱いてはいない。だから、別段彼を救おうともしていなかったし、史実通りに死亡したとしても構わないと思っていた。

 だが、今こうして力なく肩を落としているムネタケの姿を見ていると、彼もまた時代の被害者である事に気付かされる。全ての歪みの原因が戦争に求められる訳ではないが、少なくともその一端を担ってはいるのだ。

 だから、黒百合はムネタケに語りかけた。

「……前にも言ったはずだな。立場だとか地位だとか、そんなつまらない物に拘っていると、本当に大切な物を見失うと。

 ムネタケ、お前にとって本当に大切な物は何だ? 今の自分に、お前は本当に満足しているのか?

 お前にも、何かになろうとしていた頃があったんじゃないのか?」

 ムネタケが暗い眼を此方に向ける。その口から力ない言葉が漏れ出した。

「……分かった風な口を、利くんじゃ無いわよ。アンタなんかに、アタシの何が分かるって言うの……!」

「分からんよ。何も言わなければ分かる筈もない。

 お前は、誰かに分かって貰おうとしたのか? ムネタケ」

「……っ」

 黒百合の切り返しにムネタケは言葉を詰まらせる。自分の事を理解して貰おうなどという努力は、とうの昔に放棄していた。

 軍の何処に行っても、自分はムネタケ・ヨシサダの息子でしかなかった。ムネタケ・サダアキという一個人の居場所など何処にも無かったのだ。

「何よ、全部アタシが悪いって言うの!? アタシだって……アタシだって努力したわ! お父様の名前に傷を付けないように、精一杯努力した!

 でも、誰もアタシを認めてなんかくれなかった! どんなに頑張っても、お父様には及ばなかった! お父様のようには、出来なかったのよ……!」

 悲壮な声でムネタケは慟哭する。父にすら明かさなかった自身の苦悩を、ただ感情のままに吐き出すその様は、罪を懺悔する咎人のようにも見えた。

「アタシにも、アタシにもあったのよぉ……正義を信じていた頃が……」

 ムネタケは両手で頭を抱えて蹲り、言葉を途切れさせた。嗚咽を漏らし、小さく肩を振るわせている。

 その様子を見つめながら、黒百合は手に持った耐熱ビーカーを置いた。中のコーヒーは、とっくにぬるくなっている。

「……俺は、お前の愚痴など聞くつもりはないぞ、ムネタケ。

 後悔するな、とは言わない。俺もそれに関しては人の事は言えないからな。だが、過ぎ去った事ばかり振り返っていても何の意味も無い事は分かっているつもりだ。

 肝心なのは、これからどうするか、だろう?」

「……」

「今からでも、自分の居場所を作るのは、遅くはないと思うがな。このナデシコという場所でなら、お前が望みさえすれば……」

「……」

 ムネタケは反応を起こさない。が、その言葉は確実に伝わっているはずだと、何故だか黒百合には確信できた。

 先程からクッキーをつついているラピスを促して、席を立つ。

 ケイに視線を向けると、彼女は何もかも分かっているとでも言うかのように、優しい笑顔を浮かべてしっかりと頷いた。

 

 

 医務室を出た黒百合たちは、丁度部屋に入ろうとしていたイツキと鉢合わせをした。

「おっと、イツキか」

「あ、黒百合さん……に、ラピスちゃん」

「……イツキ、遅い」

「す、済みません。エステのデータ収集で時間を取られてしまって……」

「いや、ラピスも責めている訳じゃないんだ。気にするな」

「本当に済みませんでした……あの、ケイさんは中に?」

「ああ、中にいるが……いや、今はクルーのカウンセリング中だ。入るのは拙いな」

「あ、そうなんですか? 先程は特に予定は入っていないと仰ってましたけど……」

「なに、急な来訪でな。他人には聞かれたくない話もあるだろうから、俺も出て来たんだ。

 コーヒーなら食堂でも飲める。どうだ、偶には奢るぞ?」

「え、いいんですか?」

 珍しい黒百合からのお誘いに、イツキは顔を綻ばせた。

「それじゃあ、ご相伴しますね」

「アキト、ワタシも一緒……」

 ラピスも黒百合のマントの裾を引っ張って自己主張をする。

「ああ、分かってるさ。そうだ、セレスティンも連れて行くか。確かブリッジにエリナと一緒にいるはずだったな」

「そういえばセレスちゃんって、どうしてエリナさんに懐いているんですか?」

「ああ、それは――」

 そんなとりとめもない事を話しながら、黒百合たちは医務室を後にした。

 


 

 その、後日。

「親善大使の救出?」

 ムネタケから告げられた新たな任務に、ユリカはオウム返しに問い返した。

「そうよ。北極海域の調査を行っていた、某国の親善大使を救出するのが次の任務よ。

 大使は研究熱心な方で、木星蜥蜴の襲撃で避難勧告が出ていたのに気づかずに、逃げ遅れてしまったのよ」

「へぇ〜」

 感心したようなクルー達の声。

 ムネタケはあれ以降、特に態度を変えたような素振りは見せていなかった。黒百合も、あれだけで劇的に何かが変わると期待していた訳でもない。

 望む望まざるに関わらず、今までの人生の中で培ってきたものを、そう簡単に捨て去る事は出来ないのだ。その事を、黒百合は身をもって知っている。

 ムネタケは、任務の詳しい内容は相変わらず偉そうな口ぶりでクルー達に説明している。その物言いは、『以前』と何ら変わりないように見えた。が。

「あ、そうそう」

 最後にふと思い出したように付け足した。

「言い忘れたけど、親善大使ってシロクマなのよね」

「へ? シロクマ……って、白い熊の事ですか? 北極とかにいる」

「それ以外のどんなシロクマがいるって言うのよ。まあ、アタシも詳しく聞かされている訳じゃないけど。

 ともかく、これは連合軍からの正式な命令だから。動物とはいえ、任務の重要性と命の重さには変わりは無いわよね〜」

 ひらひらと気楽に手を振りながら、憎まれ口を叩いてムネタケはその場を後にした。今までにない、見事な逃げっぷりだった。

 あっけにとられていたクルー達だったが、ムネタケの言葉の意味を理解して非難の声を上げた。

 エリナなどはあからさまに顔を顰めていたし、パイロット達も良い顔はしていなかった。プロスもハンカチで流れてもいない汗をぬぐう。

「まあまあ、確かにこれは正式な任務なのですから。ムネタケ提督の仰る通り、命の重さに変わりはありません、ハイ。此処はシロクマさんを助ける為に、全力を尽くそうではありませんか」

「そうですね! シロクマさんも寒くて大変ですもんね!」

「ユリカ、シロクマは元々北極に棲息してるんだから、別に平気だと思うよ……」

 ジュンのツッコミは当然のようにスルーされた。

 ユリカの取り纏めで任務の詳細の打ち合わせが始まる。

 俄に真剣みを増したブリッジで、イツキはふと気が付いて小声で黒百合に声をかけた。

「黒百合さん、どうかしたんですか?」

「ん?」

「何か、可笑しそうにしていますけど……」

「いや……」

 『前回』ムネタケは、最後まで親善大使の正体は明かさなかった。それは、ナデシコ・クルー達が大使の正体を知ったら真剣に任務に取り組まないと考えたからだろう。

 だが、『今回』は違った。ムネタケの狙いは分からない。医務室でのやりとりを経て何らかの心境の変化があったからなのか、あるいは別に言っても構わないと考えたのか。

 どちらにせよ、大勢には影響はない。『前回』を知っている黒百合にしか分からない程度の、僅かな変化でしか無かったが……

「人間、なかなか急には変わる事は出来ないものだよな」

「え?」

「いや、何でもない。気にするな」

 かぶりを振って、黒百合は小さな苦笑を漏らした。

 

 


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