セレーネと別れた後、俺は世界中を歩きながらこの世界について色々調べてみたがCEとは違うと嫌でも理解できた。文化も国の数も、科学技術も、そし て戦争についても……。

又、色々調べていく中で少し無茶なハッキングもやって連合宇宙軍がいかに腐敗しているのかが分かった。簡単に言えば元いた世界で戦ったロゴスもとい地球連 合軍と同じ軍隊にしか思えず溜め息が出た。と言ってもまだ完全には腐っていないと思うが希望は薄いとしか思えない。

まあ軍隊自体信用していないからどうでもいいけど……。

それに……この世界の人間でない俺がこの世界の出来事に干渉することはできない。

俺が干渉した所為で今よりも最悪な事態になる可能性もあるからだ。

それに……何の力のない今の俺にはどうすることもできない。

最初は自分が知った情報をネットで流してやろうと思ったができなかった。すぐに閉鎖に追い込まれて俺も社会的に抹殺されて終わるだけと思ったからだ。

別に命が惜しいわけじゃない。俺の命はあの時から死んでるも同然だから。ただ、元いた世界のように全てが無駄になるということが嫌だっただけだ。

そして、俺の戦いは……この世界に来てから1年後に再び始まる。



そして、この世界に来てから一年後―――西暦2196年  日本  長崎県  佐世保ドック

「……ふう」

俺  シン・アスカは今はジャンク屋として働いている。

世界を旅している中偶然出会った少女  夏月・リンデマンの紹介でジャンク屋のロウ・ギュールと出会い、そのままジャンク屋となった。

それからは連合宇宙軍やクリムゾン等を相手に色々なことをやって来た。まあ、時にトラブルを起こしたり巻き込まれたりもしたが……。

今回の仕事はネルガルが造った戦艦への物資及び人員の搬入。それでロウさんの艦  リ・ホームで佐世保に来た。ギガ・フロートじゃどうしても目立つし。

ついでに説明するがギガ・フロートもこの世界で造られたものではない。

俺達が元いた世界  C.E.でジャンク屋組合がマルキオ導師の依頼で造った物だ。

ロウさんの話によるとメサイアの戦いの後、プラントの新議長となったラクス・クライン率いるクライン派もとい歌姫の騎士団がギガ・フロートに兵を送り戦闘 になったという。理由は分からないが恐らくはマス・ドライバーの破壊だろう。

そして、クライン派との戦いの最中に起きた大きな閃光によりギガ・フロートごとこの世界に来てしまったようだ。

まあ、そんな酷い目に遭ったと言うのにロウさんは余り気にしていないようだが……。「酷い目に遭った」と言いながらも笑ってたし……。

そして、この世界のとある企業の後ろ楯を得てC.E.世界のように廃品回収及び機体修理業者として活動しているという訳だ。

幸いにこの国  日本……俺の故郷であるオーブに似た国は幸運にもまだ戦争の被害には遭っていない。

連合宇宙軍の佐世保基地の中で俺はワークスジンでネルガルの戦艦に必要な物資を運んでいく。

そして、ひと段落着いたところで俺は通信を入れた。それによりウィンドウから黒髪のポニーテールの少女の顔が映し出される。

「夏月、メルビルから来た物資の搬入完了したぞ」

『OK。なら、そこで作業ストップして。この後に運ぶ物資がまだ届いてないから。だから、作業中止してくれ』

「それ、いつ頃届くんだ!?」

『午後ってリーアムが言ってたけど。だから、シンは上がっていいぞ。昼休みまでまだちょっと早いけど』

「分かった」

俺はそう言ってワークスジンのコクピットを開けて機体から降りる。そして……

「あれが民間企業が造り上げた新型の戦艦  ナデシコか……。何かアークエンジェルみたいだな」

そう呟くと俺はすぐにその場を後にした。

かつて自分達が戦った敵の旗艦を思い出してしまいこの場から離れたくなったのだ。



機動戦士ガンダムSEED DESTINY
〜明日を求める者〜


PHASE−02  戦士の復活



シンが佐世保基地から出たその頃ネルガルの新造戦艦ナデシコでは……

「この戦艦の医師及びコンピューターのメンテナンスを務めることになったミハイル・コーストだ。ちなみにだが私のことはドクターと呼ぶように以上だ」

「どうも〜!!パイロットのアキミヤ・ユウナだよ!!ヤマダ「ガイ」君と同様予定よりも早く来ちゃったけどよろしくね〜!!」

新たなクルー二名が到着したが……どう見ても先に到着しているヤマダ「ガイ」やウリバタケ等と同様個性的な人達であると誰の目でもすぐに理解できた。その 証拠にドクターことミハイル・コーストは白衣を着ているし、パイロットのアキミヤ・ユウナはミスタリーマニアなのかエアガンの銃を持っている。

そんな二人を見て他のナデシコクルーは……

「何かとってもアクの強いと言うか個性的過ぎる人達ね……。」

「同感です」

「バカばっか」

「本当にこの艦大丈夫なの!?」

「バカか……やってらんねぇ……。」

前から操舵士のミナト、通信士のメグミ、オペレーターのルリ、副提督のムネタケ、そして……ジャンク屋組合の紹介で入った索敵及びレーダー担当のチサメ・ ハルカワは順に呟く。そして、ゴートとプロスも……

「性格に多少問題があっても、一流の腕を持った人材と言う方針だが……。」

「上層部の反対を押し切ってジャンク屋組合にも協力を頼んで集めたのに……やはり、間違ってましたかね」

二人はそう言うと思いっきり深く溜め息をつく。思いっきり頭を抱えながら……。

だが、こちらの人間も気付いていなかった。

今から5時間後にナデシコの初戦闘が始まると言うことに。そして、その時に現れる予想外の仲間に……。



その頃シンは……

「ずるるるるる〜!!ずるるるるる〜!!」

「ずるるるるる〜!!ずるるるるる〜!!」

ジャンク屋仲間である夏月と共にいきつけの店である雪谷食堂でラーメンを食べていた。そして……

「「ごちそうさま!!」」

二人は同時にラーメンを食べ終わる。

そして、夏月の方が話を切り出す。

「おい、シン。お前、あの時ネルガルから来たあの話を断ったけど本当に良かったのか?」

「えっ!?」

突然の質問にシンは少し驚くが……。

「……ああ、あの時の新造戦艦のクルーにならないかって話か。いいんだ。今の俺じゃ何の役にも立たないと思うからな」

哀愁を漂わせた感じで言う。

「そう。でも、後悔しないのか!?私は今日の夕方に乗ることになってるけどよければ一緒に。何せお前は私の……。」

夏月はそう言ってシンを説得しようとする。

「別に、後悔はしないさ。あの艦のクルーは優秀な人材ばかりって聞いたから俺なんか不要だろう。お前やチサメだっているんだしな。だから、メカニックとし て半人前な俺が乗っても邪魔になるだけだ」

「はあ……。」

夏月はシンのその言葉を聞いて溜め息をついた。

「私が言いたいのはメカニックとしてではなく……パイロットとしてであって……。」

夏月がそう言ったその時……

ガタッ!!

シンは何も言わずに立ち上がる。そして……

「ご馳走様!!マスター、お勘定お願い」

逃げるように自分の勘定を済ませる。だが、そんなシンを見て夏月も黙ってはいられない。

「ちょっと待たないか!!まだ話は終わってないぞ!!」

そう言って店から出ようとしたシンの腕を掴んで引き止める。

「離せよ!!もう話すことはないんだ!!」

「そっちにはなくても私にはある!!命令だ!!出て行くな!!」

夏月も負けじと反論する。だが、シンも退かない。

「始めて会った時からそうやって俺に命令したり期待したりしやがって……もううんざりだ!!いい加減にしろよ!!今の俺はジャンク屋であって戦う気なんか 毛程もないんだ!!」

シンは怒りを隠さずにそう言って無理矢理夏月の手の拘束を振り解く。だが、その時だった。

バキッ!!

「ぶっ!!」

夏月は思いっきり力を込めてシンの顔面を殴った。それによりシンは吹っ飛ばされ食堂のドアに思い切り頭をぶつける。

「い……いきなり何するんだ。この野郎!!」

シンは殴られた箇所を抑えながら夏月に抗議する。だが……

「もう知らん!!勝手にしろ!!この負け犬!!ホモ以下のヅラ以下!!」

夏月はそう言って食堂から出た。

「ちっ……何が分かるんだよ。言いたい放題言いやがって……。」

シンはそう言って夏月の分の勘定も払って食堂を出た。

だが、この時の二人は全く予想していなかった。

この食堂で働いていた青年とすぐに再会すると言うことに。

ちなみにその青年はシン達が出て行ったすぐ後に絶叫してしまったことから食堂をクビになってしまうが……。


それから昼休みも終わりナデシコへの物資搬入作業は進んだ。

シン達ジャンク屋組合の人間は朝と同様ワークスジンやレイスタ等のモビルスーツで搬入作業を行う。

そして、夕方となりその日の作業は終了する。

『シン、もういいわよ。今日はこの辺で上がって』

夏月から通信が入る。

「ああ、分かった……。」

シンはそう言うとワークスジンから降りようとしてハッチを開く。だがその時……

『ねえ、あのネルガルのスカウトの件だが考え直す気になったか!?と言うか一緒に来い!!今ならあの男に頼めばまだ乗艦は可能だぞ従僕』

「……。」

夏月から通信が入るがシンは何も答えない。

だが、その時だった。


ウ〜ッ!!ウ〜ッ!!ウ〜ッ!!ウ〜ッ!!


基地内に警報が鳴り響いた。そして……

「木星蜥蜴……。」

「こんな所までにかよ……。」

夏月とシンはそれぞれ呟いた。それぞれのモビルスーツのカメラが映し出していた木星蜥蜴を見ながら……。


同時刻ナデシコでは……


ドォォォォン!!


ビィー!ビィー!ビィー!ビィー!!


ルリが格納庫の様子をブリッジで見ていたその時、突然爆発音と共にブリッジに警報音が鳴り響く。

「何なの、これ。避難訓練?」

メグミは呑気そうに言う。だが、戦艦で警報が鳴る状況は一つしかない。

「敵襲です。木星蜥蜴が攻めてきました。おそらく敵の目標はナデシコです。今、連合宇宙軍が迎撃に出ていますが、敵の数が連合宇宙軍の10倍以上もいます のでたいした時間稼ぎになりそうもありません」

ルリが今の状況をモニターに映し出して説明する。

そして、レーダーにはチューリップと思われる反応と400を超えるバッタたちで埋め尽くされていた。

「なら早くここから移動しないよ!!」

痺れを切らしたムネタケが大声を上げる。

「無理だ。マスターキーがないから」

ゴートが表情を変えずに言う。

「じゃあ、そのマスターキーは何処にあるのよ?取ってきなさいよ」

ムネタケのその一言にルリは軽く溜め息をついて言う。

「此処にはありません。ネルガル会長とナデシコ艦長が持っていますので。それにもしマスターキーがあったとしても先程の二人でしか原則使用不可能ですので 私達では認識照合で引っかかります」

「クキーッ!!」

ムネタケは寄声を発して頭をかきむしった。どうやらルリの説明は全然聞いていないようである。

「まだ艦長は来ないの!!このままじゃ、地面の下に潜ったまま、アウトじゃないの!!こんな地面の下で死ぬなんて、私は絶対イヤよ!!」

ムネタケのその一言を聞いてクルー全員が「死にたくないのはこちらも同じだ馬鹿!!」と思ったが言っても仕方がないので誰も言わなかった。

だが、その時だった。

「お待たせしましたっ!私が艦長で〜す!!」

20歳そこそこと思われるネルガルのマーク入りの白い制服を着た女性がそう言いながらやって来た。後ろに女性にも見える男性を引き連れて。

その能天気な挨拶から明るい性格だと言うことは予想できたが、知性の輝きや艦長らしさは全くと言って良いほど感じられない。

「まさか……。」

「ウソ……こんなのが……。」

「……冗談でしょ」

「バカか……。」

クルーの冷たい視線が集中する中、艦長らしき女性は……

「はじめまして。私が、艦長のミスマル・ユリカで〜す。ブイ(はぁと)」

と、とびっきりの笑顔を浮かべて、ブイサインをかましてくれた。

艦長が来たということでナデシコは稼動したが相転移エンジンは地上では反応が悪い。なので、臨戦態勢になれるまでにはまだ少し時間がかかる。ということで 作戦会議が始まる。

「とっ、とにかく。艦長が来たんだから出撃しなさいよ。出撃して、木星蜥蜴を叩き落すのよっ」

「どうやって?地上では、木星蜥蜴が待ち受けているのに。このまま出てもタコ殴りにされるだけだと思うけど」

ムネタケの意見にミナトが反論する。

「それなら簡単よ。ナデシコの主砲を上に向けて、敵を撃ち落すのよ」

「そんなことしたら上に残ってる貴方の仲間も巻き込んじゃうと思うけど」

「そういうの、非人道的って言うんだと思うんですけど」

「ど、ど〜せ、もう、みんな死んでるわよ」

ムネタケは自分の仲間に向かって、とんでもないことを言う。その時だった。

「あの〜いいですか?」

艦長のユリカがそう言って手を挙げる。どうやら作戦を思いついたようだ。

「海底ゲートを抜けて、いったん海中へ。その後に浮上して、敵を背後よりグラビティ・ブラストで殲滅すると言うのはどうでしょうかね?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

ユリカのアイディアに一同は驚く。

「成る程。確かにグラビティ・ブラストなら、あれだけの数の敵も殲滅可能かもしれんな」

ゴートはそう言ってユリカの案に賛同する。しかし……

「でもさあ、敵もそうそう固まってちゃくれないんじゃない」

ミナトがこの案の問題点を指摘する。

そう。確かにグラビティ・ブラストは強力な兵器だが、ナデシコのエンジン  いわゆる相転移エンジンがフルパワー稼動できない地上では、連射はできない。 もし、最初の一撃で殲滅に失敗でもすれば、エネルギーチャージが済むまでにナデシコは間違いなく撃墜されるだろう。

「それなら囮よ!!囮を出すのよ。誰かが敵をひきつけて、ナデシコの射界まで誘導するの」

「無茶な。あれだけの敵を相手に、どうやって」

「ほら、デッキにロボットが置いてあったじゃないの。あれを使うのよ。全機出撃させれば、一機くらいは生き残るわよ。……多分」

ムネタケはそう言うが現時点でナデシコにいるパイロットは、たまたま早くやって来たヤマダ・ジロウ「ダイコウジ・ガイ」とアキミヤ・ユウナの二人だけ。し かも、ヤマダ「ガイ!!」はムネタケが言うロボット  エステもといエステバリスで転倒した所為で足を骨折してしまい出撃不可能。つまり、どう考えてもエ ステは一機しか出撃できないのだ。

「ほら、あんた通信士でしょう。とっとと今言った命令をパイロットに伝えなさいよ」

「お断りします。そんな酷すぎる命令出せません」

「五月蝿いわね。これは戦争なんだから、多少の犠牲は付き物よ。それに、そんなヒューマニズムを掲げて戦ってたら勝てる戦争も勝てないわよ!!」

「でも、だからって、死ぬことが確実な命令を出してもいいってことにはならないと思います」

「民間人の小娘如きが、副提督であるアタシに指図しようっての!?もういいわ、どきなさい!!私が伝えるから!!」

ムネタケはそう言ってメグミを押しのけて自分が命令を出そうとしたその時だった。

「囮なら出てます。近接戦闘用型ロボット、エステバリス1機。地上へ向けて、エレベーターで上昇中です」

「えっ!?」

「いつの間に」

「ウソ!?」

「一体誰が?」

ルリのその言葉にブリッジにいた殆どの人間がその状況に驚き呆然となった。

いや、呆然となるしかなかった。

だから、誰も気付かなかった。

チサメが溜め息をつきながらある場所に救援要請を出していたことに。


再び佐世保基地

「……ここも駄目か」

俺は通ることが不可能なほど塞がっている通路を見て俺は今日四度目の溜め息をつく。

「かと言って後ろはもう火災が発生しているから引き返すことはもう無理だし……どうすればいいんだ!?」

全ての通路が通行不可能な状態で引き返すことも不可能。まさに絶体絶命の状況だ。

「あははは……。こりゃもう駄目だな」

俺は脱出を諦めて膝をつく。そして、ポケットから煙草を取り出して一本吸う。

「プハァ〜ッ!!って、何で俺こんなにも生きようとしてるんだろう?もう死んだようなものだって思ってたのに」

煙草を吸い終わってから俺は呟く。

そう。あの日から俺は死んだも同然だった。大切な人達、大切な家そして自分の命よりも大切な人を守れなかったあの日から。

だから、この世界に来てから諦めてた。全てを。

「こりゃもうここで死ぬな……。でもまあいいか……。俺にできることなんてもう何もないんだから」

確かにまだ心残りはある。アイツ等4人とのリベンジだ。だが、この世界にいる限りはそれももう叶わぬ願いだ。

「……みんな、すまない。オトシマエはつけられそうにないや。そして、キラ……アスラン……アスハ……クライン……お前等との決着はあの世だ。一足先に地 獄で待ってるぜ……。」

そう呟いて俺は目を閉じた。もう何も見たくないし何も考えたくなかった。

だが、その時だった。


ドガァァァン!!


「えっ!?」

俺はその大きな音を聞いて目を開ける。目の前には夏月のレイスタが立っていた。

「何やってるお前!?」

夏月はそう言ってレイスタから降りる。

「何って……もう駄目だと思って煙草吸ってただけだけど……。」

俺がそう言ったその時だった。

ドゴッ!!

「あでっ!!」

夏月の蹴りが俺の後頭部に炸裂する。

「いきなり何するんだよ!!」

「人が心配して助けに来てやったのに言うことがそれか!!」

「俺がいつ助けてくれなんて頼んだんだよ!!」

「五月蝿い!!従僕のくせに主よりも先に死ぬだと!!ふざけるな!!」

「ふざけてんのはそっちだろ!!やっと死ねると思ったら親切の押し売りしやがって!!って言うかいつ俺がお前の従僕になったんだよ!!」

俺達のの口喧嘩は時間が経過するごとにヒートアップしていく。だが、その時だった。


ガシャン!!


二人が立っていた場所の近くに鉄骨が落ちる。

「チッ……。この調子だと此処だけじゃなくリ・ホームもマズイな。ということで乗れ!!急いでリ・ホームに戻るぞ!!」

「……分かったよ」

俺は不本意だが夏月の指示に従うことにした。彼女のその言葉でロウさん達のことが心配になったからだ。


暫くして俺達の乗るレイスタはリ・ホームに到着する。

「リ・ホームは無事だったか。良かった」

俺は夏月と共にレイスタから降りてホッと一息ついたその時通信が入ってきた。

『おっ、二人とも無事だったようだな。早速で悪いけど二人とも左舷格納庫まで来てくれないか』

「分かった」

「はい、分かりました」

夏月と俺はそう言ってリ・ホームの左舷格納庫へと向かう。



「よっ、お二人さん待ってたぜ」

左舷格納庫の前で俺達を待っていたロウさんがそう言ってIDカードを通して左舷格納庫の扉を開ける。

「……。」

「これは……何でここにこれが?」

夏月と俺は驚きのあまり何も言えなくなった。左舷格納庫の扉が開いた先に見えたものはキラ・ヤマトが最初に使用した機体  ストライクとかつての俺の愛機 であるインパルスだったからだ。勿論今はPS装甲を展開していないから機体のボディそのものが灰色の状態だが……。

「ストライクの方はジャーナリストの兄ちゃんが回収したものを改良したもので、インパルスの方はプロト機で一度バラバラに解体されたものを全部集めてもう 一度直したんだ。何かに使えるかもしれないと思ってな」

ロウさんは笑いながら言う。俺には全く笑えない話だが……。だが、そこで夏月が質問する。

「オイ、いい加減本題に入れ。この機体を見せる為だけに私達を此処に呼んだ訳じゃないだろう」

「ああ。ついさっきだがナデシコから救援要請が入った。だから、今から二人に助けに行って欲しいんだ。あの艦にはジャンク屋組合のメンバーも何人かいるか ら見殺しにはできないしな」

「やけにあっさり言うな。だが、あの艦は私も乗る予定だった。だから、いいだろう。行って来てやるよ」

夏月はそう言ってストライクの方へと向かう。だが、俺は……動けなかった。

「おい、従僕。どうした!?行くぞ!!」

夏月はそう言って俺の手を引っ張る。

分かってる。俺だって、人が死ぬところを見るのはもう嫌だ。だから、助けたいという気持ちはある。本当は助けたい。でも、動けない。戦おうとするとメサイ ア攻防戦でみんなを失ったことやあの時は知らなかったとは言え命の恩人であるトダカさんを殺してしまったことを思い出して動くことができなくなる。そう。 この世界に来てからいつもそうだ。戦わなければと分かってても……逃げて……言い訳をして……何もしない自分を正当化して。自分に嘘をついているなん て……そんなことは自分が一番分かってるのに……。

「おい、シン!!お前本当にこのままでいのか!?」

「!?」

「確かに大切なものを失った辛さは分かる。でも……今私達が行かないとそう言う人達はもっと増えるんだぞ!!私もそうだったのだから……。」

「えっ……。」

意外だった。夏月はそういったものとは無縁な普通の女の子と思っていたから。だが、夏月の言葉はまだ止まらない。

「だから、今は戦えシン。仲間を守る為だけでなく自分の為にも!!」

「……。」

夏月のその言葉で俺の脚は自然にインパルスへと向かう。だが……

「ロウさん……本当に俺でいいんですか?実戦から一年も離れていた俺なんかで」

そう。俺は確かにC.E.ではインパルスで数々の戦場で戦って戦果を上げてきた。でも、この世界に来てから一度もモビルスーツでの戦いの経験が無い。つま り実戦から一年も離れているに等しい状況だ。

だが、ロウさんは笑顔でこう言ってくれた。

「気が引けるのなら貸すことにするよ。この機体はジャンク屋組合の中ではお前が一番上手く扱えると思うからな」

「すみません……。なら……お借りします」

俺はペコリと頭を下げてインパルスに乗った。


インパルスにコクピットで俺は武装や機体構造をチェックする。

「型式番号ZGMFーX00Sゼロインパルスか。型式番号からしてインパルスのプロト機だと思うけどマルチパックが内蔵されている点やPS装甲にバッテ リー駆動という所がインパルスと違うな。それに何だ、この剣は!?グランドスラムという剣は……。」

俺は機動防盾に装備されている巨大実体剣  グランドスラムをチェックして何も言えなくなる。

『グランドスラム……第一次汎地球大戦時に地球連合軍が開発した対モビルスーツ用の巨大実体剣だ。まあ、実際はアーマーシュナイダーの開発によって開発中 止になった代物だがな』

「えっ!?」

俺は自分しかいない筈のコクピットで元いた世界で死んだ筈のレイの声が聞こえたので唖然となる。すると……

『ここだ!!いい加減気付け!!』

声に反応して右側を見る。そこには……

「え……AI!?」

そう。シートの右側にAIが繋がれていることに気が付く。

『この世界では始めましてだな。俺の名は0(レイ)。お前の親友であるレイ・ザ・バレルが自分に何かあった時の備えとして造られたAIだ。まあ元いた世界 ではデスティニーに密かに入れられていたから気付かなくても当然かもしれないが』

俺は0の説明を聞いてロウさんの持つAI  8(ハチ)を思い出す。

「そうか……。でも、ロウさんの8みたいだな」

『まあな……。この世界に来てからは一時期はお前と同様DSSDの世話になってそれからはロウと一緒に行動していた』

「そうか。……じゃあまさかこの機体は」

『ああ。大部分が俺の中に入っていたデータを元に造られた。俺はAIでオリジナルのレイ・ザ・バレルではないが……それでもお前の力になってあげたかった から。こう見えてもオリジナルの記憶は持ってるからな』

「……ありがとう」

『礼はオリジナルであるレイ・ザ・バレルに言ってくれ。じゃあ、そろそろ行くぞ。戦闘及び機体操縦のサポートは任せろ!!』

「ああ、任せる!!」

そう言って俺は一息つきゼロインパルスにフォースシルエットを装着させる。敵が空を飛べることからの判断だ。

エールストライカーを装備した夏月のストライクがリ・ホームの左舷カタパルトから出撃したところで俺もそれに続く。

「今度こそは必ず守ってみせる!!シン・アスカ   ゼロインパルス行きます!!」

こうしてこの世界での俺の戦いが始まった。


あとがき

菩提樹「どうも菩提樹です。前話投稿から4ヶ月近くも離れてしまってすみません。お詫びに今回からあとがきでゲストを招くことにします。ということで主人 公のシン・アスカ君お願いします」
シン「どうも主人公のシン・アスカです。って今回は戦闘シーン無しかよ」
菩提樹「はい。一応戦闘シーンについては途中までは書いてるんですけど……此処までのお話でも20KB超えましたから止めました。」
シン「そうか。でも、このSSの俺はまだ大凶状態だな。オリキャラの女の子に従僕扱いされてるし」
菩提樹「夏月・リンデマン嬢のことですね。まあ彼女も君やロウと同様C.E.から来た人ですけど、その秘密はストーリーが進むに連れて明らかになっていき ます」
シン「夏月だけじゃねえよ。他にもオリキャラ登場してただろ」
菩提樹「アキミヤ・ユウナさんとチサメ・ハルカワさんですね。オリキャラについてはあとがきの最後の方でプロフィール書いておきます」
シン「で、俺達だがこれからどうなるんだ?この世界の戦争に首を突っ込んだことは確かだが」
菩提樹「色々な敵と戦わせる予定です。木星蜥蜴は勿論ですが連合宇宙軍やクリムゾン、そして……君のようにC.E.から来る人達とも戦わせて行くつもりで す」
シン「そんなにもかよ……しかも俺の元いた世界の人間ともか。だとしたら……。」
菩提樹「ええ。『歌姫の騎士団』とも戦わせていくつもりです」
シン「そうか。なら却って好都合だな。リベンジのチャンスができたってことだから……。」
菩提樹「ええ。チャンスは与えます。クライン派もとい『歌姫の騎士団』も君を放っておくと思えないと私自身思ってますから」
シン「なら、今度は負けられないな。ルナ達の為にも……。」
菩提樹「その意気で今後も頑張って下さい。では、今回はこの辺で失礼します」



オリキャラ設定   その1


夏月・リンデマン  年齢18歳

スカンジナビア王国出身の二世代コーディネイターの少女でユニウス条約成立に活躍したスカンジナビア王国の外相  リンデマンの養女。
シンを半ば強制的にジャンク屋組合にスカウトしたことと自分の方がシンよりも1つ年上であることから彼を「従僕」扱いするが、姉貴ぶるところもある。
戦闘能力はシン並みに高く特に剣術が得意である。
だが、ワルツやピアノが得意など気品を感じる部分も存在する。
何故かアスハ家やクライン家について詳しい。
又、彼女自身はどうやってC.E.からこの世界に来たのかも誰も知らず色々な部分で謎が多い。


アキミヤ・ユウナ  年齢18歳

ダイコウジ・ガイことヤマダ・ジロウと同様プロスにスカウトされてナデシコに乗艦した元連合宇宙軍の軍人。
見ての通りの元気娘だがかなりのミスタリーマニアで銃集めが趣味。
常に自分で改造した改造エアガンを装備しており一度ぶっ放すとその被害は計り知れない。
だが、意外としっかりしておりユリカ達とは違い生活能力は高い。
最近は思ったよりも胸が大きくなったことに頭を悩ます。


チサメ・ハルカワ  年齢19歳

シンや夏月と同様C.E.から来たプラント出身の二世代コーディネイター。
ラクスの影武者であるミーア・キャンベルとは親友であり幼馴染であった。
彼女の死後、ラクスについて調べていたがそれが仇となりクライン派によりプラントから追放される。
ラクスもといクライン派の支配する世界に失望しオーブで入水自殺を図るが、それによってこの世界に来てしまう。
コンピューターに強いことから暫くはジャンク屋組合で働くがプロスと出会いナデシコに乗ることになる。
かなりの毒舌家だが、シン達とは違いIFSを持っておりこの世界でもコンピューターの扱いでは5本の指に入る。


0(レイ)       年齢1歳
レイ・ザ・バレルの擬似人格が組み込まれたAIでC.E.時代はレイによってメサイア攻防戦の少し前にデスティニーの中に密かに入れられていた。
この世界に来てからシンと再会しゼロインパルスガンダムの操縦をサポートすることになる。
実はロウの8(ハチ)と同様ブラックボックスな箇所が多い。
その為か8と同じものではとロウは考えている。
ちなみに彼も8と同様セットすればモビルスーツの操縦は可能だが、オリジナルのレイほど上手くは無い。

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