第一章[因果の繰り手と紅蓮の少女]
一話【日常と、切り取られた非日常】

 

僕、坂井悠二は学校からの帰り道をいつものように一人で歩いていた。
何も変哲もない日常を姿は見えないが自分と供にいるもう一人の存在と一緒に。

その時、突如自分の視界を炎が満たしていく。

レストランや飲み屋が立ち並ぶ繁華街、そこに流れ、悠二を混じらせていた雑踏、夕日が全てを染めていた夕日が強く揺らいだかのような……澄みつつも不思議と深い赤の炎が。

「"紅世の徒(グゼノトモガラ)"か?ベルどう思う?」

「うふふっ、そうさね見たところ"燐子(リンネ)"の様だよ」

その声は悠二の耳に付けられている"神器カナン"からのものであった。
彼女の真名は、"逆理の裁者"ペルペオルと名乗り、今は悠二と行動を供にする大事なパートナーでも会った。
悠二は、写真のように切り取られた静止画とも呼べる何も動かない空間のなかで、孤立していた。
周りを壁のように囲みその向こうを霞ませる陽炎の歪み。
足元で描かれる文字とも図形ともつかない奇怪な紋章。
歩みの途中、不思議な体制で瞬き一つもせず静止する人々。
これから起こるであろう非日常、を全て理解した上でこれからやってくる物の方にゆっくりと顔を向けた。

「最近このあたりで暴れている、王の燐子かな」

「おそらく、そうだろうよ」

二人は会話を終えて、悠二が一歩踏み出すと、その燐子は雑踏の真ん中に振ってきた。
その落ちる衝撃を回避するために悠二は後ろに軽く飛び、落ちてきた二体のそれは雑踏の真ん中にそびえている。

「なんかの冗談なのかな?かなり悪趣味な造形してるよアレ。」

「主の王の趣味だろうさ、正直私もあのセンスは理解に苦しむ……」

悠二は自分の契約している王と話しながら、ゆっくりと怪物達との距離を詰めていった。
その怪物たちは自分の巨体をゆっくりと揺り動かしては、はしゃぎながら、耳まで避けるように首玉がけたたましい声を幾重にも重ねて、一直線にゆっくりと口をあけた。
とたんに止まっていた人々が猛烈な勢いで燃え上がった。それは怪物達に近づいてくる悠二を妨げるように燃え上がっているはずなのに、悠二は一向に熱がった顔一つせず、炎の中を歩いていく。
非常に明るい炎の先端が、細い糸のように宙に伸び怪物達の口へと吸い込まれようとしたが……金色の炎によってその怪物は吹っ飛ばされ、細く糸のように伸ばされた炎は本来あるべき場所へと収まった。
それを近くで見ていたもう一体の三頭身の醜い人形のような容姿をした怪物は口を開いた。

「ん〜?なんだい、こいつ」

子供っぽい声が悠二を指すように言った。

「やぁ、拾い食いもそれぐらいにしといたほうがいいんじゃない?」

そう言った悠二を、三頭身の醜い人形の大きな瞳が睨んだ。

「さぁ?御"徒(トモガラ)"では……ないわね」

「それに、宝具のにおいもするよ」

「それも、とびっきり変り種のね、久しぶりにうれしいお土産ね。ご主人様もお喜びになられるわ」

「やったぁ、僕達、お手柄だ!!」

これを聞いたベルペオルは悠二、自分の契約者にだけ聞こえる声で話した。

(悠二、どうしてくれようか?)

(ここで息の根をとめとこう、町をこれ以上荒らされるのは嫌だし)

三頭身の醜い人形が悠二に向かって、地を揺るがし走りよってくる、土管ほどある腕をぬぅ〜〜と伸ばして。

「いただきまーーーす!!」

悠二は自分に触れた瞬間その燐子を燃やし尽くしてやろうと力を隠蔽し待っていたが。
凄まじい重さと勢いを持った、小さな何者かが落下していくる。

「っぎ、んごっ!?」

首玉が持つ口、全身の小さきもの、真ん中の大きなもの、それらが一斉に圧迫への絶叫があがった。あまりの踏みつけの圧力に首玉は半ば異常砕けた地面にめり込ませる。
小さな何者かは打撃と着地を兼ねた一撃を、細くしなやかな足を曲げて溜め、さらに跳躍、今度の先端は鋭く輝く刃。
その刃はそのまま悠二を狙った三頭身の人形の腕を切り落とす。
切り落とされた巨腕が薄白い火花となって散ってゆく。

(誰だろう?)

(これはこれは、世にも名だたる"炎髪灼眼"じゃないかい)

自分の人形の間に屹立する、小さな、しかし力に満ちた背中を。
焼けた鉄のように灼熱の赤を点す長い髪が、マントのように黒寂びたコートが、着地の余韻になびき、揺れていた。
コートの袖先から覗く、可憐な指が戦慄の美を流す、大きな刀を握っている。見たところ少女らしかった。

「どう、アラストール?」

不意に背中を見せたまま少女がいった。

「"徒"ではないいずれも、ただの"燐子"だ」

姿の見えない誰かの声が答えた。

(アラストール……懐かしい名前だね)

(ベル、知り合いなの?)

(いやなに、" 天壌の劫火" 炎の魔神アラストールは『紅世の世界(グゼノセカイ)』では、わりと有名な名前なのさ)

その会話をその人形が鼓膜を引っかくような悲鳴を上げ妨げた。

「うあぁぁぁぁ!よくも、よくも僕の腕を」

残った片方の腕を宙に振りかざし、握りこぶしを振るっていた。

(詰んだようだよ)

(うん、そうみたいだね)

「潰れちゃえーー!!」

その拳の軌道が予定の半分も行かない間に、少女は人形の懐まで入り込み、もう刀は振りぬかれていた。
少女はその振りぬいた勢いのまま体を九十度回し、人形の真横へと後ろ飛びに下がる。
すると、拳の軌道は反れ、腕はでたらめな方向に振られ、支えを失った体はそのままの勢いで地面に激突する。
切り落とされた足は白き火の粉となって消えた、その火の粉の向うから倒れた人形を傲然と見下していた。
火の粉を巻いて輝く長い髪と同じ灼熱の輝きを点した二つの瞳によって。

「え、えっ、炎髪と灼眼……!!」

驚愕に震える声が人形の口からもれた、自分が最悪の部類と呼ばれる敵に喧嘩を売られたのだと、ようやくになって気付き、人形の頭をものの見事に真っ二つ斬った。斬られた人形のほうは先ほどと同じように白い火の粉を撒き散らて、完全にこの場から消滅したのである。

人形が消滅してから数秒後ようやく少女は自分の方を見た。

(こっ、子供……)

ようやく少女を観察する機会をいえた悠二は素直に感想を、自分と契約を交わした王にだけ漏らした。
これに対して、ベルペオルは悠二にむかって告げた。

(なに、そんなに珍しいことじゃないさ。現に悠二も成人はしてないだろう?それにフレイムヘイズに年は関係ないさ)

そして、悠二はもう一度近づいてくる少女を観察する。少女の身長は140センチ前後自分が立てばその胸までしかないであろう。見た目の年齢もせいぜい11か2というところであった。
ただし、整った顔立ちにはあどけなさなど微塵も感じなさせない。それは無表情だが硬直の類ではなく、強い意思によって引き締められたものだとひと目でわかった。

「えーっと、その……ありがとう」

悠二も我ながら芸がないと思いつつも礼をを言った。
しかし、少女は悠二の声を全く無視して言う。

「ふぅ〜〜ん、コレ……何者?アラストール」

少女が炎の魔神に聞くように言った。

「うむ」

少女の胸元からさっきも聞こえた男の声が考えこむような返事をする。
その時、悠二の頭のなかにベルペオルの声が響いた。

(悠二、いつものやつをお願いできるかい?)

(うん、できるよベルを顕現すればいいんだろ?)

(後の話は私からしようかね)

少女は自分の胸元に下がっているペンダントに目を落とす。
銀の鎖を繋いだ、指先大の黒くよどんだ球。その周りを金色のリングが二つ、交差する形で飾られている。優美な芸術品の用でもあり、精巧な機械の用でもある。
アラストールと呼ばれた男の声はそのペンダントから出ているらしかった。

「封絶のなかで動けるとは、しかしこやつ"ミステス" でもなければ"徒" でもないならばフレイムヘイズかと思えばこやつの中には王の気配を感じぬ。おそらくは何か特殊な宝具を所持してるのだろう。あとは我にもさっぱり分からぬ」

不意に悠二の背後で轟音。
少女に蹴り潰されて、地面に埋まっていた首玉が砲弾のように彼らに向けて飛んできた。
少女はいったん間合いを取るように後ろに飛ぶが、その砲弾の如き首玉は悠二に当たることもなく空中にでピタリと動きを止めた、その光景には少女やアラストールまでもが言葉を失っている。
その動きを止めたものは宙に浮く長い鎖であった。
突如、首玉の目の前に金色の炎と揺らぎが無数に生じた、次第にその揺らぎと炎は収束していき一人の女性の体の形を成す。
封絶の光りが照らし出したその女性の姿は、色が意味を失うような灰色の、タイトなドレスを様々なアクセサリーで飾った妙齢の美女であった。
ただし、右目に眼帯があった。しかし、眼は二つ覗いている。つまり、三つ目の女性だった。
額と左、月よりぎらつく金色をした二つの瞳が笑いを含んで、眼前にある首玉を捉えた。
その手には、全長不明の宙に浮かぶ長い鎖で、所有者の意志のまま自在に動き、その能力は特定現象の切り離し及び遮断するという"逆理の裁者" ベルペオルとその契約者である坂井悠二、専用の拘鎖型宝具。『タルタロス』がピンと張った状態で左腕を首玉に伸ばした形で握られていた。
そのタルタロスの鎖をたどっていくと、首玉に巻きつきその動きを封じている。

「なっ……キッ…貴様は……"逆理の裁者" ベルペオル」

「知ってるのアラストール?」

普段は、冷静沈着なアラストールがここまで声を張り上げて驚いているのを見て、その契約者の少女が質問する。
しかし、アラストールもこの時ばかりは、かなりの焦りを見せており、少女の質問が耳にはいてないようだった。
悠二によって、顕現されたベルペオルは自分の腕から敵をギチギチに捕縛しているタルタロスの鎖をいとも簡単に引いて首玉を切断するかのごとく無数の肉片に変えた。
その肉片からは少女が先の化け物を切り落とした手足と同じように、白い火の粉が散ってゆく。

「なにを考えている。ベルペオル……」

「勘違いするでないよ、"天壌の劫火" 今はこちら側の人間、同業者ってだけさ」

ベルペオルとアラストールが会話していると、少女の真後ろから人影が飛んでくる。
人影は悠二の背を狙って、手を伸ばすが炎髪灼眼の少女がそれを一閃する。
背後で誰かが地面に落ちる音がした。
振り向いた悠二の目に切られた女性のものらしい腕が転がっていた。

「ばっさり……いってるな……痛そう」

その腕はさっきの、巨大な人形や首玉の肉片と同じく薄白い火花となって消える。
その火花の向うには斬られた腕を押さえてうめく女性がうずくまっていた。

「逃げるついでに僕の宝具を奪っていこうってことかな?」

悠二がそう聞くと腕を切られた、女性は何も言わず自分の行動を邪魔した少女に向かって。

「炎髪と灼眼……アラストールのフレイムヘイズか……この、討滅の道具め……!!」

「そうよ、だからなに?」

「私のご主人様が黙ってないわよ」

「そうね、すぐに断末魔の悲鳴をあげることになるわ、でも今は取り合えずお前のを先に聞かせて。」

少女は笑いながら片手で大きく刀をふりかぶり。

「待っ!!」

「ぎゃああっ!!」

悠二はそれをみて本体がその女性ではなくそれの内側に潜む何かに気づいて止めようとしたが間に合わない、それでもその本体を逃がすまいと走り出したが間に合わずに、斬られた女性の中から小さい人形が逃げ出した。少女はそれで終わりと思っているのか、気づいていない。
そして小さな人形は自分を斬りつけた少女の背後にまわり攻撃の態勢に移る。悠二は叫んだ。

「後ろだ」

「チッ!!」

舌打ちした小さい人形は空中を低くとび後ろに下がり攻撃をあきらめ逃げていった。
残された悠二、ベルペオルと少女、アラストールはお互いに向き合い立っていた。
最初に声を発したのは少女の胸のペンダント、アラストールだった。

「いったいどういうつもりだ。何を企んでいる。答えてもらうぞ、ベルペオル」

「なに、簡単ささっきも言ったろう?同業者になったと……つまりお前とそこのおチビちゃんと同じ関係さ」

「じゃ……じゃあコレもフレイムヘイズなの?」

少女はそういうと悠二のほうを見ながら眉を潜めた。

「コレとは、私のフレイムヘイズにひどい言いようだね」

そういうとベルペオルは悠二の後ろに歩いていき悠二の後ろから首に手を回し悠二の胸の前あたりで右手の甲を左手で掴みながら悠二を馬鹿にされたのが気に食わないのか凄まじい殺気を飛ばしながら話を続けようとしたがアラストールによってそれを遮られた。

「待てベルペオル、我等フレイムヘイズは互いに互いの存在には気付くはずだ。だが我らはその少年を見たとき何も感じなかったぞ、お前の器であるその少年の内に貴様ほどの王がいながら何故我らが感じられん。現に貴様は少年の内にいるはずなのにこうして顕現してるではないか。それに≪"仮面舞踏会"(バル・マスケ)≫はどうした。貴様は三柱臣(トリニティ)一角なのだろう。」

「慌てるでないよ、"天壌の劫火"今から一つ一つ答えてやるよ。まず一つ目は≪"仮面舞踏会"(バル・マスケ)≫は抜けてきた。今頃ヘカテーやシュドナイの奴は大慌てだろうよ。まぁ私の後釜にはフェコルーあたりが座るんじゃないかい。」

ベルペオルは実に愉快そうな声で笑いをかみ殺しながら話す。

「二つ目は、私の顕現している理由だったかい?それは簡単なことさ、悠二が私の顕現に必要な存在の力を私に注ぎ込んでるからだよ、だからお前が懸念している人を喰らい世界の歪みを拡大してるわけではないから安心おし」

これにはアラストールは口を挟んだ。

「貴様ほどの王を顕現できる存在の力の量などそう無尽蔵にあるわけがない。現に器であるこの少年が壊れていないではないか。」

「器の広さについては悠二がどのフレイムヘイズにも負けない大器だったって事だろうよ。私も契約を結んだときは、その大器に目を見張ったものさ、あと存在の力の量については"零時迷子" があるから何ら問題はないよ。」

「それは、エンゲージリングの二人の物だ、何故貴様が持っている。」

「それについては私より悠二に聞いてごらん。」

すると、いままで黙っていた悠二が語りだした。

「僕の体内にある零時迷子は、偶然手に入れたものですよ。僕がまだ人であった時に僕個人のことなので詳細は省きますけど、家族で旅行へ行った時に、ある"徒"に襲われて僕と両親以外は全てトーチになったんです。そのトーチの中に何かの運命か"零時迷子"のミステスがいました。その時をきっかけに僕はベルと契約を結んだんですけど、その契約の衝撃と余波で近くのトーチが分解されその中にはミステスがいました。そしてベルと契約を結んだ時に偶然にも"零時迷子"もベルと一緒に取り込んでしまったんですよ。」

悠二は話している間、その瞳は悲しみに満ちていた。しかしその表情までもは悲しみの色には染まらない。それを見ていたベルペオルは後ろから悠二を抱く手の力を強めた。

「そんなことが可能なの?アラストール」

「にわかに信じがたい話だが……理論上はな……実質エンゲージリングの片割れヨーハンは人の身でありながら"零時迷子" を宿していたと言う、それからミステスになったと。」

「信じる信じないはそちらの勝手さ、ただ悠二はありのままを伝えた。それだけは覚えておくといいよ」

不適に笑うベルペオルが殺気の塊のような視線を少女の胸元のペンダントに向けた。
その殺意に少女は若干ひるんだものの、それでも強くベルペオルの視線に耐えてみせる。
それには、ベルペオルもクスリと笑い最後の質問の答えを喋りだす。

「さて、最後の質問の答えを教えてやろうかね。悠二の内から私の力が感じられないだったね。"天壌の劫火"、私の宝具タルタロスを知っているだろう。もちろんそれは私の契約者である悠二も使える。その能力は特定現象の切り離し及び遮断さ、これが意味する答えは何だと思うね?」

「うむ、なるほどそういう事か」

「何?アラストールどういう事」

「それについては僕が説明してあげるよ。この場合、特定の現象っていうのは僕のフレイムヘイズとしての力と、ベルの存在、それを僕自身から切り離してその力を遮断すると、君たちフレイムヘイズが見ても普通の人間と変わらないただの人間としての力しか持ってない坂井悠二に見えるって事だね」

「分かったかい?炎髪灼眼のおチビちゃん」

このベルペオルの言葉に炎髪灼眼の少女はむッとした顔をする。ベルペオルはそれを一瞥して。

「ウフフッ、私のフレイムヘイズの悠二をコレ呼ばわりしたんだ。これぐらい勘弁しておくれ………そうさね悠二が嫌じゃなければ、お詫びといっては変だがフレイムヘイズ"因果の繰り手"(インガノクリテ)坂井悠二としての姿を見せてやってくれないかい?」

前半部分は炎髪灼眼の少女に、後半は自分の契約者の悠二に向かって言葉をつむいだ。

「えっ…あっ、うん」

「これで、紅世に名高き"天壌の劫火"アラストールの石頭でも納得せざる得ないだろうさ」

ベルペオルの言葉に少女とアラストールの二人で一人のフレイムヘイズは悠二を見つめる。
悠二はその少女の眼前に立ち目をつぶると、悠二の力を隠していた宝具タルタロスの鎖の腕輪が姿を現し浮かび上がりそして砕ける。
それと同時に隠していた坂井悠二の内なる王ベルペオルの力が目を覚まし、悠二の髪は金髪へと変わり、瞳も金にそして着ているものはベルペオルと同じく色が意味を失うような灰色の服に変わる。灰色のズボンに袖がない灰色のドレスシャツ、そしてそのむき出しの両腕には手首、手首と肘の中間、そして肘の上の辺りに鉄の輪がはまっておりその両腕の鉄の輪からのびたタルタロスの鎖は悠二の背を回って両腕の鉄の輪同士をつなげていた。
それを見たベルペオルは満足そうに微笑むと、どこからだしたか謎の悠二や自分の服と同じ色のマントを悠二の肩に羽織るような形でかけた。

「始めまして天壌の劫火アラストール、逆理の裁者ベルペオルのフレイムヘイズ"因果の繰り手"(インガノクリテ)坂井悠二です。」

「これで、満足いったかい?炎髪灼眼と天壌の劫火」

「………うむっ…」

「………………………………」

アラストールは暫くの沈黙のあと唸るような声で返事し、少女にいたっては声すら出ないようであった。
それを見たベルペオルは満足そうに含みのある笑みを二人で一人のフレイムヘイズに飛ばすと、二人に背を向け悠二の方に向き直り悠二にだけ見せる。優しげな、棘のない純粋な笑顔を見せ口を開いた。

「それでは、そろそろ帰ろうか、悠二」

「うん、そうだね。それでは天壌の劫火、炎髪灼眼の討ち手、機会があればまた会えるときまで、あっそれから封絶の後処理のほう任せますね。」

ベルペオルと悠二、二人が去ってゆくその背中をただ唖然と二人は見つめていた。
その自宅への帰路、悠二はベルペオルに話しかけた。

「ねぇ?ベルいつまで顕現してるつもりなの?」

「私も、悠二の御母上に久しぶりにこの姿で会いたくなったのさ」

 

悠二は翌朝母の声で目が覚めた。ベルペオルは今だ顕現を解いておらず金色の額の目と左目を閉じて寝ていた。

「悠ちゃん、もう起きる時間よ!?」

悠二は時計をみる。いつもなら居間に下りてる時間を10分はオーバーしていた。

「うえっ、もうこんな時間…」

「ほら悠ちゃん早く、ベルペオルさんと一緒に下に降りていらっしゃい。」

悠二の母、坂井千草は悠二がフレイムヘイズであることやこの世界の真実を知っている。
悠二が先に話したとおり、家族で旅行に行ったときに、"徒"に襲われそこで世界の真実を知ってしまった。
悠二の父、坂井貫太郎も同じ理由から世界の真実を知っている。後にベルから聞いた話によると、たまに人間のなかにも、歩いていけない隣の世界、"紅世の世界"を感じ取れる人間がいると言っていた。母と父、千草と間太郎、もちろん悠二もだったがまさにそれだった。
こういう人間達の内の数人はアウトローと呼ばれるフレイムヘイズの支援組織に属していたりするらしい、海外出張の多い父がまさかとは思ったが、聞いたことはなかった。おそらく一生聞かないかもしれない。
本来フレイムヘイズになるとその人間はいなかったことになる、しかし千草と貫太郎はこういった理由から忘れずにすんだみたいだった。クラスの友達は、自分のことを忘れてしまったみたいだったが、宝具タルタロスの能力によって、自分の存在は認知されるようであった。そのおかげで今までと同じ人間だった時となんら変わらない生活がおくれている。

「おはよう、祐ちゃん、ベルペオルさん」

「おはよう、母さん。」

「おはよう、千草」

悠二が滑り込むように食卓に着きベルペオルもそれに続いて悠二の隣に座る。
今は遅刻になりそうなため、急いでご飯を胃の中に仕舞おうと全力でかき込む。
そして、ご飯がのどに詰まったのか、むせた。

「うッ………ゲホッゲホッ」

「ほら悠二、落ち着いてお食べ、誰も取りゃしないさ」

千草は悠二の咳き込む姿をみながら、笑っていた。

「でも、急がないと遅刻するもんね?それにしてもどうしたの、悠ちゃんが寝坊なんて珍しいわね」

「うん、ちょっとねいろいろ考え事を……って母さんに隠してもしょうがないか、"紅世の徒"の活動が最近頻繁になってきてるんだ。だから母さん、夕方には家にいて。」

悠二の話を聞いている千草の顔が変わる。自分の息子がこれから戦いに向かうであろう。そんな決意の瞳を見てしまったから、千草は何もいえなくなってしまった。千草は瞳を閉じて、不安を打ち払って、笑顔で答える。

「わかったわ、しばらく夕方には家から出ない。それとね、悠ちゃん、無理だけはしないでね貴方は今までも、そしてこれからも私と貫太郎さんの大事な息子なのよ。だからベルペオルさんと一緒に絶対もどってきてね。」

自分が出来ること精一杯のことを息子の悠二にしてやる千草はそう決めていた。

「千草あんずる事はないよ、悠二の傍には私が付いている。だから無理かもしれないが安心してまってるがいいさ」

そういいながら、コーヒーを啜るベルペオルに千草はゆっくり頷いた。
そうして悠二はまた朝食を急いで口の中に放り込みだした。

「悠ちゃん、いつまで食べてるの?もう時間でしょ?」

「えっ………あ!!ごっ……ゴホゴホッ…ごちそうさま!!」

悠二は半分も食べられなかった朝食をおいて二階の自分の部屋へと駆け上がり。鞄を持って玄関まで走っていく。

「ベル、いくよ〜〜〜」

「やれやれ」

ベルペオルはそう言って自分の顕現の姿を解除して宙に消えた。

「いってきます」

「いってくるよ」

「いってらっしゃい」

軽く声を交わして、家をでた。
学校に徒歩で通っている途中にいくつかのトーチとすれ違った。
そのなかにはランドセルを背負って登校している、四人の男の子の姿もあったテレビであった。ヒーローアニメの話をしているのだろう。その四人の中で一人だけトーチであった少年は、弱々しく今にも消え入りそうな灯りをともしていた。
やはり、存在が希薄な大人しそうな子であった。
それが、ふ、と燃え尽き消えた。
周りはおろか一緒に歩いていた他の三人でさえ気にも留めない。相変わらずその三人は楽しそうに会話を続けている。

「ねぇ?ベル僕もあの時、ベルに出会わなければ、あのトーチみたいに母さんと父さんと消えていったのかな?」

「悠二、"紅世の徒" が憎いかい?今は悠二と契約してフレイムヘイズ側にいるが、私は多分この先の戦いで悠二を失ったらきっと……耐える自信はないよ。事実私はもともとフレイムヘイズ側ではなく≪"仮面舞踏会"(バル・マスケ)≫という"紅世の徒"の集団にいた………」

「ベル、大丈夫僕は死なない。それにベルが僕を護ってくれるんだろ?それに他のフレイムヘイズや"徒"になんと言われようと、僕はベルの傍にいるよ。まだ頼りないかもしれないけどね。それに昔のベルは昔のベル。今の僕の傍にいてくれるベルはもう人から存在を力を奪おうとは考えてないんだろ?だから、"紅世の徒" が憎いかって聞かたら憎くないよ、それに僕はベルを信じてる。」

この悠二の答えにベルペオルは額の目と左目、それに眼帯で隠している右目すら見開き、悠二にしか見せない笑みを器である悠二の中で見せながら言葉を紡ぎだす。

「くふふふふっ、確かに今は人から存在の力を奪おうなどとは考えておらぬよ、それに十分頼りにしているよ悠二、だから私の前からいなくなって、私を狂わせないでおくれ。」

こうして学校に続く道のりをベルペオルと二人で会話しながら悠二は歩いた。

「よもや私が、≪"仮面舞踏会"(バル・マスケ)≫と決別し、フレイムヘイズ側に付こうとわな、夢にも思わななんだよ。悠二、お前との出会いのおかげさ。」

そして学校に着く前にベルペオルは最後に一言だけ言った。

「運命とは……まったくもって、ままならぬ」

悠二はそれを聞いて学校の校門をくぐった。

 


《あとがき》
始めまして作者です。設定を先に呼んでくれた方は始めましてじゃないですね。
設定にも書きましたが、このたびは私の処女作を読んでいただきまことに、ありがとうございます。
とりあえず在り来たりですが、何故この作品を書こうと思ったかをこの場で発表しようかと(゜▽゜)まぁ読んでもらって分かるとおり、私は『灼眼のシャナ』のキャラの中じゃ、ベルペオルが一番好きです(/ω\)ええそれはもう新婚ほやほやの妻より愛してます。(;゜Д゜)ヤベッ言っちゃた……ばれないようにしないと(*゜з゜)〜♪
ちなみに、二番目はヴィルヘルミナです。(´−`*) まぁ妻はその次ぐらいでしょうか……って冗談はさて置き。
理由はですね、シャナや吉田一美は勿論ですが、"頂の座"ヘカテーさらに"愛染他"ティリエルまでもがヒロインのSSは見つけたんですがベルペオルやヴィルヘルミナがヒロインのがなぁ〜〜い。
(ノ゜Д゜)ノ====┻━┻
ならば、私が作るしか……ナイジャナイカ!!と思ってパソコンの前に座ったのが理由です。
(ティリエルファンの皆様"までも"なんていって御免なさい。) 私もどちらかと言えばスキデス(*ノノ)
どうも、話が脱線方向に反れてしまうので、話を戻しまして今後の展開等ですが、うまく話の順番などをいじってヴィルヘルミナを早めに登場させたりとかしたいと思っております。
では最後に、読みにくい表現など多々ありますが平にご容赦ください。これからも溢れんばかりの愛をベルペオルに注いでいくつもりですので、応援や感想、アドバイスなどヨロシクお願いします。




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