第四世代KMFグラスゴーはそれまでブリタニアが開発して来たKMF、その中ではじめて実戦投入された機体であり、この機体が登場したことでブリタニアの軍事力は世界を脅かす存在となった。

初めてKMFが投入された日本侵攻時においては、その圧倒的な機動力で本土防衛に当たっていた日本軍をことごとく蹂躙していった。

今でこそ他国のKMF開発を警戒し、対通常兵器としてのコンセプトが念頭にあった第四世代から、更に技術を進めてKMF同士の戦闘を意識した第五世代のKMFサザーランド、その発展型であるグロースターが軍の主力となっている。

しかし、士官学校であるこの場所では、グラスゴーはまだまだ現役で動いている。いや、正確には世代交代に伴い、出番を失ったグラスゴーの活躍場所がこのような場所に移ったのは当然なのだろう。

さて、今回の模擬戦、登場機体は当然グラスゴー、基本装備はスタントンファー、アサルトライフル、スラッシュハーケンで、希望するものは許可を取れば大型ランスを使用できる。

俺は許可を得て大型ランスを装備する事にし、シミュレーターに大型ランスのデータを入れて訓練に臨んだ。

Aチームは俺以外は基本装備のままで、Bチームは全員基本装備を選択したらしい。

俺の以前までの評価は熱くなりやすい突撃バカとの事なので、俺はこれを利用してBチームを攻める事にする。

今回の模擬戦は市街地戦を想定して行われる。

KMFは市街地でも機動力を損なうことなくその能力を発揮できる。

敵を追い込むにも、罠にかけるにも、果ては一時撤退することになっても、市街地戦では地形データは重要なものになってくる。

模擬戦開始前にこのデータを配られたのだが、今回はあくまでも基本的な構造の町並み。

均等に区画整備されたビル群が、今回の戦場。

動き回るのに苦労はなさそうだが、策を用いるにも難しい。

俺たちは当初の予定通り、行動を開始した。







訓練開始の合図が出た。

僕たちBチームは作戦を考えたが、特に良い案が出なかったので各個撃破という事でまとまった。

リンテンドの実力は厄介だが、彼が攻めあぐねて突撃して来たところを皮切りにAチームの陣形を崩せば、そのあとは芋づる式のようにずるずるとこちらに有利な状況になるはずだ。

彼は訓練の際は大型ランスを装備していることが多い、今回も教官の所に行っていたので、間違いなく装備しているだろう。

たしかにランスは当たればダメージが大きく、直撃せずともかすっただけで機体に多少のダメージが残る破壊力抜群の武器。

しかし欠点も多く、ランスは扱いづらく、基本的に突きかなぎ払いの2つしか使用法がない。

ランスを構えている時は距離をとって射撃、間合いを間違えなければこれである程度は対応出来てしまう。

もっともリンテンドの腕なら、ある程度はそんなことなどお構いなしに突破してくる。なのでこちらも相応の覚悟で対応しなければならない。だが、今回はチーム編成に細工をして、こちらのチームは全員上位に位置するメンバーで構成してある、これなら攻略に苦労する彼の突撃にも容易に対処できるだろう。

そうこうしているうちに目前にAチームの機体が現れる。

Aチームはリンテンドを先頭に、二人がその後ろからついて来ている。

リンテンドの機体はランスを構えており、その後ろの二機はアサルトライフルをこちらに向けている。

だが、それを黙ってみている僕達ではない。すぐさま前衛のリンテンドに向けてライフルを撃ちはじめる。

目前から迫る銃弾を、リンテンドは慌てることなく回避する。

その際、後ろの一機が横道に逸れて行く。恐らく回りこんで挟撃、だがそんなことはさせない。

僕達はその一機とは反対方向に機体を進める、そして僕はスラッシュハーケンを用いてビルの上に移動。

残りの二機はビルの陰に隠れてAチームを待つ。

だがモニターが示す周辺状況にはAチームの機体は映らず、ファクトスフィアを展開すると、どうやら分かれた一機と合流したらしい。

何時もみたいに突っ込んでくればいいものを、まぁそれならそれでいい。

僕は二人に指示を飛ばすと、次のポイントへと動き出す。

5分後、Aチームの側面をつくように、二人が攻撃を開始した。

上手く回りこんだようだ、さすがは成績上位者。

二人の攻撃でリンテンドは他の二機と分断される。

そう、この攻撃はAチームを狙わせたんじゃない、目的はあくまでも後ろの二機。

僕の予想通りにリンテンドは全速で戦場から離脱、ライフルでメッタ撃ちにされている二機は足を止めてビルの陰に隠れて、反撃の隙をうかがっている。しかしこちらの優位に変わりはない。

離脱か応戦か、とっさの判断が出来るかどうかで生き残るものが決まる。

今の場合なら残った二人よりも離脱したリンテンドの方が正しいのだろう。

前者はダメージを負う可能性はあるが、体勢を立て直す時間が作れる。

後者は今のように体勢を崩したまま不利な状況に陥っている。

所詮はこの場だけのチーム、意思の統一など難しいだろうし簡単に崩れる。

ところがここからが驚くところで、リンテンドはハーケンをビルに打ち込むと、ビルを足場に急転換し二機に襲いかかる。

あんなモーション見た事がない。突然のことに驚きながら、僕が慌てて指示を出すとこちらの二機も慌てて離脱する。

きっと外では今の動きでリンテンドが持て囃されているのだろう。

シミュレーターの機体は全て同じ性能のはずなのに、難しい動きを簡単に見せられて腹の奥から黒いものが沸き出てくる。

この際二人などどうでもいい、必要なのは勝利。

そのために二人には役に立って貰おう。

僕は新たな指示を送りながら、二人と合流を測ることにした。








俺は現在単独で行動中、囮役としてBチームを誘っている、焦って突撃を仕掛けた。

そして現在は上手く行かず戦場を離脱中、そう言う風に見せておいたのだ。

あわよくばダメージを与えたかったが、こちらも逃げる事を念頭においていたので、そこまで上手くはいかなかった。

そしてBチームは全員が追撃のためにライフルで弾幕を張りながら追いかけてくる。


俺はそれを何とかかわしながら目的地へと急ぐ。

俺の役目は他の2人が合流し、待機しているところに敵をおびき寄せる囮役。

囮役は危険だがこの役を他のメンバーにやらせるのは嫌だし、実際俺もやりたくはない。

最初この作戦を提案した時、

「俺がもし囮をしている最中にやられたらどうするか?」

「そもそも全員レイスの方についてくるのか?」

など不安点も有ったようだが、その場合の作戦もいくつか考えてあり、それも含めて説明すると作戦に乗ってくれた。

そして今は何とか追撃を振り切り作戦ポイントに到着し、二人に作戦の開始を伝えた。

二人はそれぞれスラッシュハーケンを使い、ビルの屋上へと上っており、そこから向かってくるBチームのナイトメアフレームにアサルトライフルで攻撃を加える役目だ。

上からの攻撃に、予測はしていたのだろう。

三機は慌てることなく回避行動を取る。

俺はビル群を回り込んで物陰に隠れた一機に背後からランスで突撃をかけ、俺の攻撃をかわしきれずその機体は戦闘不能となった。

同様にもう一機を戦闘不能にしたところで、俺は異変に気付く。

味方の2人に状況を説明をしようと通信を開くと、モニターには2人の機体が撃墜された事を示すlostという言葉が表示されている。

ファクトスフィアを使って索敵を開始すると、二人が待機していた場所にはジャックの機体が、その機体はすっと建物の影に消えるとその場で動かなくなった。

どうやら自分の方から動く気はないらしく、俺を待っているらしい。

このままでいても仕方がないので、とりあえずジャックの待つ場所へと向かう事にしよう。

ジャックが待つポイントにつくと、彼は俺が来るのを待ちわびていたらしい。

すぐに回線を開いて俺に通信してきた。

「やあリンテンド君、先ほどは残念だったね」

「お前はなんであいつらと一緒にいなかったんだ?」

俺の言葉に、意外そうな声で答えるジャック。

「彼らはキミの作戦を破るためのおとりにさせてもらったよ」

その言葉に、俺は思わず操縦桿を強く握り閉める。

「その事をあいつらは知っていたのか?」

「わざわざそんな事を言うわけないだろ、話したらあいつらが隠れてる2人を警戒してこちらの考えがばれるじゃないか」

何をバカなことを、こいつの顔はそう語っている。

こいつはどうやら人間のクズみたいだ、俺はこいつだけは許しておけない。

「クズだなお前、もういいさっさとかかって来いよ」

「クズだと! この僕が! 死ね、リンテンド!」

クズと言う言葉に反応して突撃してくると思ったが、冷静にライフルで牽制して来る。

さすがにランスを装備している俺とはまともに接近戦をしてはくれないようだ。

機体を動かして弾幕をかわすが先ほどのおとりの時に動きまわったため、KMFに残されているエネルギーが少なくなっている。

対するジャックは俺ほど派手に動いてないので、こちらと比べてまだエネルギーに余裕があるだろう。

仕掛けるなら今、俺はそう決断しペダルを踏み込む。

ランスを突撃の構えにして、機体を全速力で前進させる。

ジャックも俺の考えに気づいたのか、機体を後退させて弾幕を張ってくる。

やはりまともにやりあう気はないようだ、ここは最後の期待をかけて挑発してみる事にしよう。

「あそこまで大口叩いてやるのは俺のエネルギー切れ待ちかよ、やることが小さい奴だな」

「だまれ! そこまで言うならやってやる。いくぞリンテンド!」

この一か八かの挑発に見事に乗ってくれたジャックは機体を旋回させて、俺の方へと突撃してくる。

俺達の間は30mほど開いていて、20、15、と近づいて10mになると俺はKMFの体勢を突撃から槍投げのような体勢にして、ランスを投擲した。

突然飛んできたランスに、ジャックは機体を無理やり傾けて何とか回避するが、そこへ詰めていた俺はスタントンファーでコクピット部分を思いきり殴った。

俺の渾身をこめた一撃はみごと撃破判定を出して、俺は何とかこの模擬戦に勝利する事ができた。

シミュレーターから降りると、周りのみんなが俺を囲んで勝利を喜んでくれる。

「よくやったな」

「お前らはすげーぜ」

といいながら一緒になって喜んでくれ、最後には胴上げまでされた。

Bチームの方を見ると、ジャックがすごい形相をしながらこちらをにらんでいて、俺の視線に気づくと悪態をつきながら訓練室を後にしていった。

この次の日どうやらジャックが教官に金を渡し、不正していた事が判明したらしく、昨日の仲間をおとりにした行為も軍人になる者として、許すべき事ではないとの事で、お金を受け取った教員同様軍学校を辞めさせられたらしい。

罰ゲームをさせたかったが学校にいないんじゃ仕方なくあきらめるしかなく少し残念だった。

こうして俺の初のナイトメア・フレームでの戦いが終わった。






<教官>

今回の模擬戦の結果には正直驚いた。

リンテンドのチームの組み合わせとジャックのチームの組み合わせを見た時、ありえないと思ったが決まってしまった物は仕方がないので模擬戦中止する事もできなかった。

しかしリンテンドは今までの突撃癖を逆手に取り、自らをおとりにしてジャックのチームをおびき寄せ討ち取るという作戦を見せてくれた。

その後のジャックのふざけた行為のせいで一騎打ちとなったが、自身の持てる最高の戦い方で勝利を収めた。

今まで何回教えても作戦をたてず、突撃に頼っていたリンテンドが、はじめて俺の教えを実践し作戦を立ててくれた。

この前の事故で、ようやく突撃に頼らず、作戦をたてて相手を討ち取る事の大事さを学んでくれたようだ。

痛い目に合ってようやく自覚したようだ。

あいつはもともとその事さえ覚えれば、すぐにでも実践に出れるほどの腕を持っているのだ。

これでこんど来る彼らと会わせれば、お互いがさらに良い刺激になるだろう。

あいつが卒業してから活躍するのが今から楽しみだ。



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