in side

 今になって思うと、自分の目的のことを良く考えていなかったのだと思う。
確かにボルテクス界とボルテクス界と繋がった世界が崩壊するとは聞いてはいた。
でも、俺としては半信半疑で……あのゴスロリボクっ娘の楽しみの為だけにやらされてるもんだと思ってた。
だから、自分が集めてる物がどんな物かなんてのも、深く考えたことはなかった。
それが……世界を救う物どころか、とんでもない代物なんて――


 out side

「やぁ!」
「やっかましいわぁ!?」
 刹那が斬りかかり、翔太が飛びかかってくる悪魔を蹴り飛ばす。その様子を悪魔と戦いながらクノーは見ていた。
現在、クノーは翔太達やトニオ達と共に商人達が乗る7台の馬車の護衛をしているのだが――
クノーが驚いていたのは2つ。まず、今回の依頼で得たフォルマと合成された武器のこと。
フォルマと合成された武器は悪魔に対して驚くほどに効果を見せた。なにしろ、今まで通じなかったものが通じるようになったのだ。
ここまで戦いやすくなるとは思わずに驚いていた。そして、もう1つは翔太の戦い方である。
「アリスはシルフと一緒に戦ってくれ! 悪魔を寄らせないだけでいい! って、スカアハさん! あんたも戦ってよ!?」
「安心しろ。やるべきことはやっている。そら、次が来るぞ」
 仲魔への指示は的確……とは言いにくいが、それでも仲魔は良く動いている。
これほど統率が取れているのも早々ないだろう。もしくは強い信頼関係によるものか――
まぁ、約一名ばかりそうでないのもいるが……それに翔太自身も強い。
無謀なように見えて、ちゃんと悪魔の動きを見ている。でなければ、悪魔の攻撃を受け止めたり避けたりなど出来ないだろう。
それにクノーは感心していたりもした。だが、どこか気になるものも感じてはいたが――
「く……」
「大丈夫かい?」
「ああ……しかし、気を抑えるのがこうもツライとは……思いもしなかったがな」
 一方、刹那は真名に返事を返すものの、その表情はつらそうにも見える。
昨夜、スカアハの指示の元、気を抑えて戦っているのだが……それが思った以上に戦いにくかった。
気を抑えるために気のコントロールも行わなければならなかったのだが、それが予想以上に難しかった。
なにしろ一瞬でも集中を切ると、いつもの調子で気を使ってしまいそうになるのだ。
最低限の気の使用による弱体化は覚悟していたが、思わぬ難題に苦労していたのである。
「はぁ!」
 一方、トニオも悪魔へと斬り込んでいく。そんな彼を援護しようとリィナもサブマシンガンで襲いくる悪魔を撃っていた。
悪魔を斬り倒したトニオはリィナの元へとすぐさま戻り、翔太の方へと顔を向ける。
彼が気にするのはフォルマと合成された武器……ではなく、翔太の方だった。
なにしろ剣と銃の両方を使いこなしている。トニオとしては自分とリィナの役割を、翔太は1人でこなしているように見えたのだ。
もっとも、これはトニオの勘違いである。剣と銃、この2つは当然ながらまったくの別物なのだ。
なので、2つ同時に使いこなすなんてのはまず出来ない。
左右の手で別々の絵を同時に描く……ニュアンスとしては少々微妙だが、それをやるような物だ。
翔太も同じで、いくら剣と銃を使って今まで戦っているとはいえ、使いこなすまでには至っていない。
では、どうしているかといえば、近付いてくる悪魔を銃で攻撃し、ひるんだり弱ったりしたところを剣でとどめという形になっている。
ただし、士がこのような形になったのもつい最近であったりするが……
 それと翔太の仲魔達もトニオは気になっていた。翔太の仲魔は多く、しかも高位な悪魔が多い。
なのに、自分は凶鳥オンモラキに夜魔ザントマン、それに魔獣カソの3体のみ。
ちなみにクノーの仲魔は天使エンジェルに妖魔コッパテングに地霊カハクと堕天使メルコムの4体である。
 仲魔の質だけでなく数さえも翔太に劣ることにトニオは悔しく思い、わずかながらもそれが表情に出ていた。
まぁ、これに関しては翔太も必要に迫られてのことであった。
翔太の目的を考えると相手はどうしても高位な悪魔、すなわち自分よりも強い者と戦うことになる。
当然ながら、そんな相手に翔太1人で勝てるわけがない。ゆえに仲魔の力を借りているのだ。
まぁ、仲魔の多くは偶然にも仲魔になったというのが多かったりするのだが……
 そんなこともあってか、トニオは翔太を睨んでいた。なぜ、トニオは翔太を目の敵にしてるのか?
トニオは悪魔に対してなにかしら思う所があった。それがなんなのかはトニオ自身いまいち理解出来てない。
そんな時、サマナーの噂を聞きつけたトニオは迷うことなくサマナーとなり、早速仲魔を作った。
もっとも、作ったというよりも、命乞いをしてきた悪魔を従えたという感じではあったが――
その時、トニオが感じたのは自分よりも強い存在を従えるという満足感であった。
仲魔となった悪魔が自分に付き従うという光景は彼を高揚させ、更に仲魔をと突き動かしていった。
 だが、そんなトニオの満足感も長続きはしなかった。ある日から、凄腕のサマナーがいるという噂が聞かれるようになった。
トニオは最初は信じなかったが、その噂は日を追うごとに何度も聞かれるようになり……
やがて、それが真実だとわかるとどんな奴なのか気になってしまう。
だから、どんな奴なのか確かめようとトニオが考えた時に、噂の元である翔太からやってきた。
初めて翔太を見た時、トニオが思ったのはこいつが凄腕のサマナーなのか? という疑いであった。
見た目からしてそうは見えなかったのだが……実際に戦う姿を見て、自分との差に思わず翔太を妬ましく感じてしまう。
自分をこうもあっさりと上を行く翔太を……だから、憎悪が表情に少しながら出てしまっていた。
 そんなトニオをリィナはサブマシンガンで援護しつつ、心配そうに見つめていた。
トニオがサマナーになると言った時、両親は喜んでいた。サマナーはボルテクス界に住む者達には一種のステータスのような物になっていたのだ。
だが、リィナは逆に心配になった。トニオがサマナーになったのは嬉しい……でも、なぜかトニオが遠くへ行ってしまいそうな気がした。
いや、もしかしたら……そんな不安をリィナはどうしてもぬぐうことが出来なかった。
その為、トニオに付いていくことにしたのである。それに関して、トニオは思う所は無い。
いや、元からリィナを気にも止めていないというべきか……
 そんなこんなで翔太達は商人達が乗る場所の護衛を続け、無事に目的の町へとたどり着いたのである。


 in side

 というわけで、やっとこさ町に着きました。時間としては夕方になるかもっていう時間だ。
まぁ、こんなに時間が掛かるんなら、ここに来たこと無いのも当然かも。俺達って、夕方にはノーディスに戻るようにしてたしな。
で、着いた町を見てみる。ふむ、大きさはノーディス程じゃないけど、それでも結構大きいかもしれないな。
「そういえば、ノーディスやここ以外にも町はあるのかな?」
「姉さんの酒場に来る人の話だと、いくつかあるみたいです。ここよりは小さいみたいですけど」
 理華の疑問にルカが答えてたけど、そうなのか……そこに宿屋とかあるかな?
そうすれば探索の時に泊まることが出来たりすると思うんだけど。
「みなさま、ご苦労様です」
 そんな時、町の人達がそんな言葉と共にやってきたんだけど……あれ?
先頭を歩く女の人の格好、ちょっと変わってるというか……もしかして――
「もしや……あなたは悪魔かな?」
「そうです。女神パールヴァティのシエナと言います」
「女神パールヴァティ!? スカアハに次ぐ高位な女神がなぜここに?」
 あ〜あの女の人、やっぱり悪魔だったのか。んで、名前はシエナさんと……聞いてたクノーさんが驚いてるけど、結構凄い悪魔だったりするのか?
「この町とは縁がありまして……にしても、今回は人が多いですね。悪魔も多いようですし――」
 なんて、にこやかに話しながらシエナさんは俺達を見回して……そこでなぜか固まった。
何だろうと思って、シエナさんが見ている先を見てみると……スカアハとクー・フーリン?
「あなた方は?」
「俺か? 俺はクー・フーリンだ」
「女神スカアハ……よろしく頼む」
「クー・フーリン? スカアハ? あなた方が……ですか?」
 聞かれてクー・フーリンとスカアハは答えるんだけど……聞いたシエナさんはなぜか怪訝そうな顔をしている。
はて、あの2人になんかあったんだろうか?
「失礼ですが……私が知っている姿と違うように思えるのですが……」
「まぁ、私達にも色々とあってな……」
 シエナさんの言うことに納得。そういや、クー・フーリンってゲームじゃ男だったしな。
スカアハは苦笑しながら誤魔化してたけど……でも、あの2人をあんな姿にした奴って何者なんだ?
ていうか、今更だけどなんでクー・フーリンを女にしたんだろうか?
「そうですか……まぁ、いいでしょう。遠い所から来られて疲れていらっしゃるでしょうし。
宿の用意はしておりますので、今日はゆっくりとお休みください」
 一瞬、怪訝そうな顔をしたけど、シエナさんはにこやかな笑みを浮かべてそう言ってくれた。
まぁ、疲れてるのは間違いないな。ここに来るまでは馬車に乗ってたけど、悪魔の群れの襲撃が何度もあったしな。
そんなわけで俺達は町へと入ったのである。ついでに宿屋の確認もしておいた。これからの探索、遠出するかもしれないしな。


 out side

 その日の夜。翔太達がいる村をあの鎧を纏っている者が見つめていた。
その横には全身をヴェールで覆う女性の他に2人の姿が見える。
『あそこにあるのか?』
「反応は確かにあそこからあります」
「けど、あそこは確か調べたと思ったのだけど?」
 鎧を纏う者の問い掛けに黒いヴェールの女性は頭を下げて答えるのだが、そこに毛皮のような物を纏う女性がそんなことを言ってきた。
そのことに黒いヴェールの女性は毛皮の女性を睨むように目を向けるのだが――
『手に入れればわかることだ』
「いかにも。今は我が主の目的を果たすのみ」
「わかりました」
 鎧を纏う者の言葉に獣の皮を頭から纏う男がうなずき、黒いヴェールの女性も静かにうなずいた。
そう、今は鎧を纏う者の願いを叶えるために……その思いゆえにこの3人は動く。
あの村にあるであろう物を手に入れるために――
 彼らはその村へと向かうのだった。


 その頃、翔太達はといえばあてがわれた宿屋の部屋で休んでいた。
「それで、どうするの?」
「そうだな。俺達もいい加減、元の世界に戻らなきゃならないけど……」
 なんてことを理華と翔太は話し合っていた。何を話しているかといえば、自分達が元の世界に戻っている間に刹那達をどうするかである。
自分達がやってることは元の世界では一部を除いて秘密にしておいた方がいいというのが翔太と理華の考えであった。
その為、どうしても元の世界に戻らなければならない。翔太と理華は学生であり、学校に行かなければならないからだ。
でなければ、色々と疑われてしまう。ずっとボルテクス界にいるというのは論外だ。
そんなことをすれば、元の世界で自分達が行方不明になったと騒ぎになるのは目に見えている。
 そんな理由で翔太と理華は元の世界に戻らねばならないが……そこで問題なのが刹那と真名とミナトである。
「あの……私達も……翔太さんの世界に行くというのは?」
「そうしたいけど、泊まる所とかなぁ……」
 刹那の提案に翔太は渋い顔をした。確かにそれも考えなかったわけではない。
ただ、泊める所が思いつかなかった。元の世界のホテルは無理である。
翔太と理華もお金が無いわけではないが、刹那達を泊めるほどとなるとギリギリか足りないかくらいにしかない。
翔太か理華の家に泊めるという手も無いわけではないが、理由をどうするかで悩んでしまう。
翔太と理華の両親は結構鋭い所があるので、下手な理由は疑いのタネになりかねない。
それに刹那達は翔太達の世界では漫画の登場人物でもある。刹那達が翔太達の世界に行って、その存在だとバレたら――
少なくとも騒ぎにはなるだろう。翔太の親友の1人は絶対にそうなるだろうし……
「わりぃ……俺達が戻ってくるまで、ノーディスの家の方で待っててくれないかな?」
「そうか……翔太さんの世界というのも気になったんだが……しかたあるまい」
 両手を合わせて謝る翔太に、真名はふむと納得したような顔を見せた。
彼女も翔太達の立場もあるのだろうと納得していたのである。反面、翔太達の世界に行けないことを残念に思っていたが。
「とにかく、明日はノーディスに戻って――」
 翔太がそのことを話そうとした時、突如爆発音が鳴り響き、翔太達は慌てて窓の方へと顔を向けた。
「翔太!? いるか!?」
「クー・フーリン! スカアハ! 今のはいったい?」
「わからんが、ただ事ではあるまい。すぐに行くぞ!」
「はい!」
 部屋に飛び込んできたクー・フーリンに翔太が問い掛けると、クー・フーリンの横にいたスカアハが答える。
その返事に刹那がうなずくと、翔太他達は部屋から飛び出すのだった。




 あとがき
そういうわけで新たな依頼をこなす翔太達ですが、なにやら不穏な動きが――
鎧を纏う者達が動き出し、何をしようというのか?
次回はその目的が明らかに……と思いきや、なにやらおかしなことも?
そんなわけで次回をお楽しみに〜



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