out side

 少し時を遡り、トニオは村の外で夜空を眺めていた。そんな彼をリィナは少し離れた所で心配している様子で見つめている。
トニオは悔しかった。わかってしまった……今の自分では翔太に勝てないと。それが悔しくて……どうしたら勝てるかと考えてしまう。
「何をしてる?」
「あんたか……」
 そんな彼にクノーが近付いてきた。彼女はふと考え事をしたくて散歩をし、その時にトニオを見つけたのである。
「翔太のことでも考えていたか?」
「く……」
 クノーに問われて、トニオは悔しそうに顔を背ける。その通りではあるのだが、トニオとしては認めるのは癪な気がした。
「やはりか……ところでお前から見て、翔太はどう見えた?」
「……強い奴だ……そう思えた」
「強い……ね……」
 悔しそうにしながらも答えるトニオであったが、問い掛けたクノーはうなずきつつもトニオとは違う見解をしていた。
翔太はどこか自分よりも強い相手と戦うことを前提にしているように見えた。
それは翔太の目的を考えると当然なのだが、クノーとしては疑問に感じている。
ボルテクス界のサマナーは基本的に金を稼ぐ目的でなる者が多い。クノーもそんな理由でサマナーになった1人だ。
なにしろ、悪魔を倒して得た生体マグネタイトを換金して得た金額は、装備や道具代を差し引いても普通に稼ぐよりも高い収入を得ることが出来るからだ。
むろん、必ずしも収入を得られるというわけではないが、そんな理由でサマナーを目指す者は少なくない。
ただ、必要以上の危険を冒そうとする者はまずいない。そんなことで命を落とすのは本末転倒だからである。
そんなことをするのは新人かよほどの馬鹿か……なので、クノーも必要以上の危険を犯そうとはしない。
だが、翔太の場合、その危険に向かうように思えてならない。いったい、なぜ……そんな疑問がクノーにあったのだ。
 そんな疑問を考えていた時――
「です……ら……そんな……はな……」
「なんだ?」
 遠くの方で声が聞こえる。良くは聞き取れないが、口調からして言い争いにも聞こえる。
気になったクノーとトニオは互いの顔を見てから、その声がする方へと向かった。様子をうかがっていたリィナも慌てて追い掛ける。
「隠し立てをするというのですか?」
「だから、本当に無いんです!」
 その場に向かった3人がが見たのは、数人の村人と共にいるシエナが何かを言っている所だった。
そのシエナの先には4人の姿があった。先程の鎧を纏った者達である。その者達をクノーは驚きのあまり目を見開いた。
なぜなら、鎧を纏う者以外の全員が悪魔だと思われたからだ。少なくともクノーが行ける所まででは見たことは無いタイプだが――
だが、クノーは感じてしまった。その悪魔と思われる者達の存在感を……少なくとも自分が今まで感じたことの無いものだった。
「どうしたんだ?」
「あ、その……この方々が宇宙の卵を出せと……そんな物はこの町には無いとは言ってるのですが……」
「宇宙の卵?」
 何か言いづらそうにシエナは答えた。言いづらそうにしているのは、人に宇宙の卵のことを話していいかと悩んだからである。
シエナはこれでも高位の悪魔だ。その為、知識も豊富であり、宇宙の卵のことはその知識の中で知っている。
だから、悩むのだ。知識の中にある宇宙の卵の危険性を考えると――
 もっとも、これは問い掛けたクノーには別の意味に見えてしまったが。
宇宙の卵がどんな物かはわからないが、もしや隠しているのではないのかと――
「隠すと……ためにならないわよ?」
 そう言って、毛皮の女性が右手に魔力の光を生み出す。攻撃魔法……そうとわかった時、クノーの動きは速かった。
「あら?」
 クノーが即座に振るった金属繊維の鞭。だが、それは魔法を放とうとした毛皮の女性の左手にあっさりとつかまれた。
その時の反動か魔力の塊はあらぬ方向に放たれ、大きな爆発を生んでしまう。
「何のつもりかしら?」
「宇宙の卵とやらがどんな物かは知らないが……渡すとろくなことになりそうなのでな」
 こちらを睨む毛皮の女性にクノーは笑みを浮かべたまま答えた。といっても、内心は焦っていたが。
言葉通りに嫌な予感がして止めようとしたが、自分の鞭をああもあっさりとつかまれるとは思ってもいなかった。
薄々感じてはいたがこれでハッキリとしてしまう。こいつらは自分達が敵うような相手ではないと――
なんとか時間を稼いで、翔太達と合流した方が……
「やあぁぁ!?」
「な!?」
 そこまで考えた時にトニオが飛び出したことにクノーが驚いた。
時間を稼ぐといっても自分だけでは無理だ。だから、トニオと連携を組もうとしたのだが……
そのトニオがなぜ飛び出したのか? 実は彼自身もわかってはいない。ただ……あの鎧を纏う者を見た時に何かを感じた。
それはあってはいけないと感じた。だからだろうか? 気付けば自分は飛び出し――
『邪魔だ』
「ぐはぁ!?」
「兄さん!?」
 だが、鎧を纏う者にあっさりと……まるで邪魔な物を腕で振り払う仕草だけでトニオは突き飛ばされてしまった。
その光景にリィナは悲鳴を上げるものの、すぐさまトニオの元へと駆け寄っていた。
その一方で鎧を纏う者は左腰の鞘に納めていた飾り気の無い剣を引き抜くと、トニオへと向かって振り上げ――
「く!?」
『む?』
 やられると思ったトニオが顔を背けた時、金属同士がぶつかり合う音と鎧を纏う者の声が聞こえてくる。
何が起きた? そんなことを思いつつ、トニオは恐る恐る顔を向け――
『なんだ、貴様は?』
「そりゃこっちのセリフだ。なに、いきなり危ないことしてやがる」
 鎧を纏う者の剣を自分の剣で受け止める翔太の姿を見ることとなった。
「ち、まずいな……」
「何がですか?」
「あの鎧の奴はわからんが……地母神ブラックマリアに夜魔リリス……それに妖鬼ベルセルクか……」
 ミナトが問い掛けると、舌打ちしたスカアハが答える。もっとも、意味がわからず首を傾げるが――
「もしかして、ヤバイ奴らなのかい?」
「やばいどころの話じゃないな。ここにいるのはありんえん奴らばかりだよ」
 その意図に気付いた真名が問い掛けるとスカアハは鎧を纏う者達を睨みつけながら答えた。
そう、この近辺にはいないはずの悪魔……しかも、その強さは各種族の最強に迫る程である。
それが3体も……スカアハとしては今この場で会いたく無い存在だったが――
「しかし、なぜそんな奴らがここにおるのだ?」
「く……さてね? 宇宙の卵とやらがここにあるからとか言ってたみたいだけど?」
 スカアハの疑問になんとか鞭を離してもらったクノーが答えるが……それを聞いたスカアハの表情が一瞬歪む。
(まさか、こやつらがシンジが言っていた者達か? にしても、まさかこやつらまであれを求めるとは――)
 内心、そんなことを考えながらもスカアハは鎧を纏う者達を睨んだ。
宇宙の卵がどんな物でどこにあるかを知っているが故に……このまま追い払ってもまた村に来ると同時に考える。
どうすべきか……スカアハは鎧を纏う者達をどうするかで考え――
「それで、どうするんだい?」
「ん? ああ……しょうがあるまい。ブラックマリアは私が相手をする。クー・フーリンはベルセルクを頼めるか?」
「あいよ!」
 真名に聞かれ、スカアハはすかさず指示を出す。気になることはあるが、今はこの場をどうにかするしかない。
その指示にクー・フーリンは槍を構えながら返事をし――
「翔太はそいつを1人でなんとかしろ」
「ちょい待て!? こいつ、強いんですけど!? ていうか、押されてるんだけど!?」
 スカアハの指示に翔太は絶叫した。
今でこそなんとか耐えてはいるものの、良く見ればわずかずつではあるが剣が押し返されているのがわかる。
しかしながら、スカアハとしてはこうするしかない理由がある。
まず、あの鎧を纏う者の実力。見極めたわけではないので確かとは言えないが、かなり高いとスカアハは見ている。
それに翔太だけでぶつけるのは危険だが、今後のことを考えれば相手だけでもさせる必要があった。
なにしろ翔太の戦いに関する経験が圧倒的に足りない。少なくともそういう相手と戦わせる経験は必要になる。
本来なら、時間を掛けてやりたいところだが、あいにく翔太にしろ世界にしろ本当の意味で時間は無い。
それともう1つの理由があるが――
「残ったリリスはお前達に任せるが……絶対に突っ込むような真似はするなよ?」
「なぜですか?」
 スカアハの言葉に刹那は首を傾げる。確かに相手は悪魔故に油断は出来ないが……それでも数はこちらの方が多い。
それなら翔太のサポートに回った方が良さそうに思えるのだが――
「知っておいた方がいいぞ。翔太が戦う相手の片鱗だけでもな」
「え?」
 真剣な顔で話すスカアハの言葉に理華は目を丸くした。この時、理華や刹那達はわかっていなかったのだ。
自分達が戦っている相手がどんなものなのかを……
「じゃあ……頼んだぞ!」
「くっ!」
 スカアハがその言葉と共に銃剣を持つと、そのまま黒いヴェールの女性ことブラックマリアへと突っ込んでいった。
「マリア!」
「おっと。あんたの相手は俺だよ」
 スカアハに襲いかかられたマリアを助けようと獣の皮を纏った男ことベルセルクが動こうとしたが、それをクー・フーリンが槍で制した。
「貴様……邪魔をするのか?」
「まぁ、そうなるかな?」
「愚かな……」
 槍を肩に掲げつつ、鼻を指で掻くクー・フーリン。
問い掛けたベルセルクは剣を構えるが、その視線には哀れみが混じっているように見えた。
「その愚かさ。己の死を持って――」
「と……己の死を……なんだって?」
 その言葉と共に即座に間合いを詰めたベルセルクが斬りかかるが、クー・フーリンは槍で受け止め――
「おらよ!」
「く!」
 その体勢から鋭い蹴りを繰り出すが、ベルセルクは体を反らして避け、その反動でクー・フーリンから離れた。
「おお!」
「おりゃ!」
 すぐさまベルセルクが斬りかかるが、クー・フーリンは槍で受け流し――
「ぬおぉ!!」
「はぁ! でりゃあ!」
「ぬお!?」
 それでもベルセルクは斬り続けるが、クー・フーリンはそれらを受け流し時には避け、攻撃をかいくぐって挙句に槍を突いてくる。
ベルセルクはそれを身をよじらせて避けると跳び退き、着地してからクー・フーリンを睨んだ。
「なんだ……貴様は……」
「俺か? 俺はクー・フーリンってんだ。よろしくな」
 睨みつけるベルセルクにクー・フーリンはあっさりと名乗るのだが――
「クー・フーリン……だと?」
 ベルセルクは訝しげな顔をする。なぜなら、目の前の存在がクー・フーリンであるはずがないからだ。
まず、姿がありえない。クー・フーリンとは男性の姿をした悪魔のはずだ。なのに、目の前にいるのはどう見ても女性である。
そして、これが一番の理由だが……目の前の存在が”悪魔であるはずが無い”のだ。
というのも、悪魔特有の気配と言える物がクー・フーリンから感じないのである。
ボルテクス界に存在するクー・フーリンならば悪魔であり、当然それが感じられるはずなのに――
「貴様……本当にクー・フーリンか?」
「そうらしいけど……まぁ、この姿を見たらなぁ〜」
 睨むベルセルクにクー・フーリンは自分の体を見回しながら苦笑いを浮かべつつ答えていた。
確かに男であるはずのクー・フーリンが女の姿で現われたら、そのことを知る者からすれば疑って当然だろう。
「どの道……ただ者では無いということか……」
「ま、そういうこった」
 改めて剣を構えるベルセルクにクー・フーリンもまた槍を構える。
ベルセルクとしては気になることは多々あるが、今は自分の主のために目的を果たさなければならなかった。
 一方、ブラックマリアに向かったスカアハはというと――
「くっ!?」
「わかってはいたが……早々やらせてはくれんか」
 銃撃でブラックマリアを攻撃し続けていた。当てようとはしているが、ブラックマリアも魔法で攻撃などをして避け続けている。
一方でブラックマリアは混乱していた。というのも――
「貴様……本当にスカアハか!?」
「一応な」
 怒りの形相を見せるブラックマリアにスカアハは気にした風も無く答える。
だが、ブラックマリアとしてはスカアハの言葉を信じることが出来なかった。
本来、スカアハは女神という種族内ではそれほど強いというわけではない。せいぜい中位辺りといった所だろうか?
対して、ブラックマリアは地母神という種族内では上位の力を持っている。
普通に考えるならスカアハがブラックマリアに対抗出来るはずが無い。
だが、目の前のスカアハは対抗するどころか、戦いを優位に進めていた。
 それだけではない。スカアハは本来、今持っているような銃剣を使うような悪魔では無い。
いや、悪魔が銃器を持つことはまず無い。銃属性スキルは存在するが、それは針や魔力などを銃撃に見立てたものなのである。
それにこれが決定的なのだが……目の前のスカアハからは”悪魔らしい物が感じない”のだ。
ボルテクス界のスカアハとなれば当然悪魔のはずなのだが――
「ふざけるな!?」
「ふざけているつもりは無いのだが、な!」
 怒鳴りながらブラックマリアは魔法を放つが、スカアハはそれを銃で撃ち落とし、斬りかかろうとする。
「く!」
 ブラックマリアも体を反らしてなんとか避けるが……混乱と苛立ちのせいで本来の戦いが出来ずにいた。
戦いを優位に進めるスカアハとクー・フーリンだが、一方ではそうもいかなかった。
「アギラオ!」
「人間が魔法を使うとは思わなかったけど……それだけね」
 理華が魔法を放つが相手をする毛皮の女性ことリリスは片手であっさりと防いで見せた。
「嘘!」
「この程度じゃね……おっと――」
「く! まさか、避けられるとはね」
 驚く理華にリリスは笑みを浮かべつつ、襲い来る銃撃をあっさりとかわし、アサルトライフルで銃撃をした真名は思わず舌打ちしていた。
今のは隙を狙ったのだが、まるで来るのがわかっていたかのように避けられてしまった。
「マハラギ!」
「ブフーラ!」
「ガルーラ!」
 すかさずジャックフロスト、ジャックランタン、シルフが魔法を放つが――
「焦りすぎね。そんなんじゃ――」
「やぁ!!」
 しかし、それさえもリリスは防いでみせるが、そこを狙って刹那が斬りかかり――
「な!?」
「ふ〜ん……さっき銃といい……あなた達が使っている武器って普通ってわけじゃないわけね」
 あっさりと受け止められたことに刹那は驚愕し、受け止めたリリスはといえば不敵な笑みを向けていた。
今の一撃は刹那にとっては全力に等しい。神鳴流奥義を使っていないとはいえ、気も全力で使っていた。
なのに受け止められたのだ。右手だけで……
「少々厄介なことになりそうだし、ここで――」
「ジオンガ!」
「ガルーラ!」
「またなの?」
 受け止められたという事実に呆然とする刹那にリリスが左手を向けようとして、アリスとモー・ショボーが魔法を放った。
リリスはめんどくさいといった様子で左手でそれを防ぎ――
「刹那さん! 早く逃げて!」
「そうですぅ〜!」
「は!? くっ!」
 ルカとミナトの言葉で正気を取り戻した刹那は、後ろに跳んで理華達の元へと戻ることが出来たが――
「すまない……」
「礼は後にしてくれ……ともかく、参ったね……」
「私達の攻撃が……効かないなんて……」
 謝る刹那だが真名は渋い顔をし、理華は困惑といった様子だった。
刹那と真名はまだしも、理華は自分よりも遥かに高位な悪魔と直接戦ったのは実は初めてだったりする。
元々サポートがメインだったとはいえ、対処が思いつかずにいたのだ。
また、翔太がいないというのも要因となっていた。いつも矢面で戦う翔太の姿は、いつの間にか理華の精神的な支えになっていたのである。
そんな彼がいないために、理華は弱気になってしまっていたのだ。
「厄介な連中ねぇ〜……邪魔になるようなら……消しちゃおうかしら?」
 その一方でやれやれといった様子のリリスだったが、その言葉と共に理華達を睨みつけた。
その瞬間、理華達は背筋が凍ったような感覚に襲われた。睨まれただけなのに、殺されると感じてしまった。
今まで遥かに高位な悪魔と戦ってきた理華でさえもそう感じるほどに――
 でも、それは無理もなかった。刹那と真名は相手が自分達よりも高位な存在だったため……
理華は直接殺気をぶつけられたことが無い為、固まってしまったのである。
「じゃあねぇ〜、お嬢さん達〜」
 だから、気付いた時には遅かった。リリスはすでに魔法を放とうとしていた。
逃げるにはあまりにも遅すぎるタイミングで――
「メギドラ」「メギド!」
 放たれるリリスの魔法。だが、それとほぼ同時にミュウも魔法を放つ。
ミュウだけはリリスの殺気に耐え、放たれる魔法からみんなを守るために魔法を放った。
「きゃ!?」
「くぅ!?」
 ぶつかり合う2人の魔法。それは凄まじい衝撃を生み出し、理華や刹那はそれから思わず顔を背けてしまう。
「く、うぅ……」
 一方でミュウは何かに耐えるような顔をしていた。
リリスが放った魔法は凄まじく、とてもではないが自分が放った魔法では対抗出来る物では無い。
だが、皆を守るために放った魔法に魔力を送り込んで維持し続ける。あんなのをまともに喰らったらみんなは――
そんなミュウの願いが通じたのか、ミュウの魔法が炸裂すると共にリリスの魔法は拡散し――
「きゃあ!?」
「あ、危ないホ!?」
「いやぁ!?」
 理華達の周り飛び散って炸裂した。拡散したせいか威力はさほどでもなく、理華達にはそれほど被害は出なかったが――
「く、あ……う……」
「ミュウ!?」
 しかし、ミュウはよろめいたかと思うと、そのまま落ちてしまう。間一髪の所で理華が受け止めることが出来たが。
まぁ、無理もない。本来、ピクシーが使えない強力な魔法を使っただけでなく、リリスが放った魔法に対抗するために魔力を送って維持し続けた。
その負担は相当な物になり、ミュウを疲弊させてしまったのだ。空を飛んでいることも出来なくなるほどに……
「ピクシーが私の魔法に対抗した?」
 一方でリリスは呆然とその光景を見ていた。ピクシーは悪魔の中では下位クラスの悪魔と言っていい。
むろん、リリスだってサマナーによって高濃度の生体マグネタイトの供給を受ければ、悪魔も成長することは知っている。
だとしても、ミュウはあまりにも異常だった。なぜなら、いくら成長したとしても、今の魔法を使うのはまず考えられない。
メギド……あらゆる属性の特性を持つ、万能属性に属する高等魔法だ。故に悪魔であろうと習得するのは難しい。
それがピクシーであるミュウが使った。しかも、自分の方が威力が勝っていたはずなのに、ほぼ相殺という形で防がれてしまった。
「まったく、おかしな連中ね。でも、私達の脅威になる前に消した方がいいかしら?」
 しかし、リリスもすぐに気を取り直して、新たな魔法を放とうとする。それに刹那は気付いた。
また、なのか? あの時、オニが翔太をかばったように、ミュウもまた私達を守って――
「やめろぉ!!」
 この時、刹那は必死だった。あの光景をもう見たくはなかった。だから、自然と体が動き――
「え? な!?」
 この時、リリスは初めて魔力を使った防壁で防ぐしかなかった。背中に真っ白な翼を持つ刹那の斬撃を――
「え? せ、刹那さん?」
「な、なんですかあれ!?」
「なんと……」
 その刹那の姿に理華とミナトは驚き、真名もわずかながらに驚いたような表情を見せていた。
理華とミナトの場合は刹那のことをほとんど知らないが故の驚きだが、真名はまさか刹那が翼を出すとは思わなかった。
刹那の過去は聞いたことがある。だからこそ、刹那が翼を出したことに驚いたのだ。
「刹那さんも……悪魔だったのですか?」
「いや、そういうわけではないのだがな」
 仲魔達と共に呆然と刹那を見るルカの言葉に、真名は苦笑しつつ断っていた。
「な、なに……あなた?」
 一方でリリスはここに来て初めて焦っていた。なにしろ、刹那のような者を知らないからだ。
悪魔では無いは間違いない。刹那から感じられるのは間違いなく人間の気配だ。
だが、速さや威力が先程よりも遥かに上がっている。まるで別人かと思うくらいに――
「これ以上……やらせるものかぁ!!」
「くぅ!?」
 気迫と共に刹那は剣を振り落とした。その瞬間、純白だった刹那の翼は白銀に輝く。まるで刹那の今の気持ちを表すかのように――
そして、振り落とした剣が強烈な一撃となり、リリスを吹き飛ばす。もっとも、地面を数m程滑らせた程度だが……
「ほ、本当になんなのよ……あなた達は……」
「はぁ……はぁ……」
 体勢を整えつつも困惑した表情を見せるリリス。そんなリリスを睨みながら刹那は息を整え――
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
「まったく……無茶をする。その翼といい」
「え? あ……」
 いつの間にか横にいた真名に答えつつ、自分が翼を出していたことに言われて気付いた刹那。
だが、不思議と気負いは無かった。今は清々しかった。今度は守れたことに――
「どうせ、翔太さんはあの漫画でお前のことを知ってるだろうから、深くは言うまいよ。今はあいつをなんとかしないとな」
「ああ……」
 真名の言葉に刹那はうなずくと、リリスに向かって剣を構えた。そう、あの漫画には自分の翼のことも描かれていた。
でも、そのことを読んでいるはずの翔太が何かを言ってきたことは無い。真名の言うとおり、気にしてないのだろうと刹那は考えた。
「ほら、理華さん達も手伝ってくれないと。私や刹那だけではキツイからね」
「え? あ、うん! ミナトちゃん、ミュウをお願い!」
「あ、はいですぅ!」
 真名に言われて正気に戻った理華はミナトにミュウを渡すと、仲魔と共に刹那達の横へと来て――
「ち……まったく、本当に厄介な連中ね……」
「あいにくだが、私達もここで倒されるわけにもいかないのでね」
「うん、そうだね!」
 睨みつけてくるリリス。だが、今はその表情に余裕は無かった。
そんなリリスに真名は言い返し、理華はうなずく。そう、負けてなんていられない。だって、翔太は――
理華はその想いで自分を奮い立たせていく。戦いはまだ、終わりはしなかった。



 あとがき
そんなわけでバトル開始。しかしながら、スカアハとクー・フーリンにはなにやら秘密がありそうです。
そして、刹那は一皮剥けたようです(おい)
それはそれとして次回は護衛編最終回。翔太と戦う鎧を纏う者の正体が明らかに。
そして、翔太が持つ物の正体もまた明かされて? そんなお話です。お楽しみに〜



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