out side

 バーサーカーとベルセルクの戦いは終結に向かおうとしていた。
「ふん!」
 宙を舞うベルセルクが振り落とした剣がバーサーカーの脳天を砕く。
そのままベルセルクが着地すると、直立不動のバーサーカーを無視する形でイリヤに顔を向けた。
「さて、バーサーカーとやらは倒させてもらった。どうするのかね?」
「つ……ふふ……まさか、それでバーサーカーを倒したつもりなの?」
 一度は顔をしかめるものの、イリヤはすぐに不敵な笑みを向けていた。
そのことに問い掛けたベルセルクは訝しげな顔をするが、直後に気付いて振り返る。
そこにはバーサーカーが立っていた。砕かれたはずの脳天は何事も無かったかのように元通りとなった状態で。
「バーサーカーの正体はヘラクレス……そのヘラクレスが持つスキルは十二の試練(ゴットハンド)……
12回殺さなければバーサーカーを倒すことは出来ないわ。しかも、その時に殺された要因に対して耐性が出来るの。
わかる? あなたにはもうバーサーカーを倒すことは出来ないのよ?」
 余裕の笑みを浮かべるイリヤ。確かにそれを聞けば大抵の者は絶望するだろう。
なにしろ、苦労して倒したと思ったら蘇り、後数回以上殺さねば倒すことが出来ない。
しかも、今までの攻撃が聞かなくなると知れば……大抵の者は心折れるかもしれない。
だから、イリヤはバーサーカーの勝利を疑ってはいなかった。自分の犯した失態に気付かずに……
「なるほどな……確かに私でも後2、3度殺せればいい方かもしれん」
「む……」
 ベルセルクの言葉にイリヤは顔をしかめた。絶望したかと思った相手が未だに余裕が感じられたからだ。
その為に少し不機嫌になったが……ちなみにベルセルクが言う後2、3度とは攻撃スキルを用いた場合である。
最初にバーサーカーを倒した攻撃は実は普通の攻撃だったりする。
なので、攻撃スキルを使えばそれくらいは出来るかもとは考えていたが――
「幼子よ。お前の敗因は口が軽すぎたことだ」
「は? 何を言って――」
「ほ〜んと。何も喋らなければ良かったのに」
 ベルセルクの言葉に訝しげな顔をするイリヤであったが、その答えは彼女の背後からであった。
「え?」
 イリヤが振り返った先にいたのはリリスであり、そのリリスはイリヤのそばで妖艶な笑みを向けていた。
「面白いわね。あなたが魔力を供給することであの子は具現化しているなんて……
でも、そのあなたがいなくなったら……あの子はどうなってしまうのかしら?」
「あ、ああ……あああ……」
 妖艶な笑みを向けるリリスだが、イリヤはその光景に震えてしまっている。
感じてしまったのだ。リリスの気配を……
 リリスに関しては諸説がいくつもある。夜の魔女や妖怪の一種ともされているものがあれば、アダムの最初の妻であったなど。
ボルテクス界のリリスはどれを示すものかはわかってはいない。だが、上位の力を持つ悪魔であるのは間違いない。
でなければ、前回の戦いで理華や刹那達や仲魔達を相手にしながら退けるといった芸当が出来るわけがないのだから……
イリヤはそんなリリスの力の一端を感じ取ってしまったのである。
それに先程言っていたとおり、リリスは夜の魔女ともされている。
そんな彼女なのだから、イリヤとバーサーカーの関係がどんなものか見抜いてしまったのだ。
イリヤの失態はその彼女の前でバーサーカーの正体から能力まで話してしまったことである。
もし、話さなければリリスはイリヤではなくバーサーカーを注意深く観察していたかもしれない。
皮肉にも相手を絶望させるために言ったことが、逆に自分達の弱点を突かれる形となってしまった。
 まぁ、イリヤの失態はそれだけではなかったりする。
この聖杯戦争においてマスターを狙うというのはある意味セオリーでもあった。
なぜなら、サーヴァントにとってマスターとは力の供給源であり、現界するためのくさびでもある。
つまりマスターを殺せば自動的にサーヴァントを無力化出来る。
といってもこれは必ずしもというわけではない。サーヴァントによってはマスターを殺しても少しの間なら現界出来るからだ。
まぁ、バーサーカーはあまりにも魔力の消費が大きすぎるという欠点を持つため、イリヤを殺せばすぐにでも消えてしまうだろう。
イリヤのもう1つの失態。それはマスターを狙うという定石忘れ、のこのことこの場に来てしまったことである。
まぁ、その辺りのことは凜や士郎なんかも人のことを言えた義理でも無かったりするが……
「やめておけ。お前が動けば、お前の主の命は無い」
 動こうとするバーサーカーをベルセルクは言葉で制した。
確かにイリヤには令呪がある。それを使えばこの状況をひっくり返せるかもしれない。
だが、リリスがそれを見逃してくれればという条件が付いてしまうが……
今、この場にいるリリスは魔導に長けた者である。そんな者が令呪の起動に気付かないはずがない。
そのことをイリヤがわかっていたかはわからない。なにしろ、今も震えた様子でリリスを見ていたのだから……
 こうして、呆気ない形でベルセルクとバーサーカーの戦いはベルセルクの勝ちという形で終結した。
正確にはイリヤを人質にされたので負けを認めざるおえなかったと言えるが……
 だが、もしまともに戦ったとしてもバーサーカーの敗北は免れなかっただろう。
なぜなら、ベルセルクも含めてリニアス達はバーサーカーを複数回殺せる力を持った者達なのだから――


 さて、翔太の方はというと……ドカン! という爆発音とも何かが激突したようにも聞こえる轟音が響き――
ゴミ箱がまるで砲弾のように撃ち出され、どこかへと飛んでいったのだった。
「へ?」
 その光景に凜は呆然と声を漏らしてしまう。いったい、何をどうすればゴミ箱が砲弾のように撃ち出されるというのだろうか?
公園にあるゴミ箱は鉄製ではあるが、そんな物を砲弾のように撃ち出すなんてことはまず出来ない。
それこそ大砲でも使わない限りは……しかし、それを人の身で行った者がいた。
翔太である。自分に覆い被さっていたゴミ箱を蹴り飛ばしたのだ。
どうやらかなり本気で蹴ったらしく、先程のような結果になったらしい。
「たくよぉ……なんでこう、こんな目に遭うかね……俺は普通の人なんだっての……
なのに、変なのに目を付けられた挙句に呪いまで掛けられてこんなことに巻き込まれて……
しかも、嫌だって言ってるのに何かと無理矢理巻き込みやがって……」
「しょ、翔太?」
 立ち上がりながらなにやらぶつぶつと言い出す翔太。そんな彼に一抹の不安を感じる理華。
で、聞いていたスカアハは沈痛な面持ちを浮かべていた。
前にも話したが、翔太は今回起きていることに巻き込まれた一般人である。
戦いを学んだわけでもなく、何かしらの力を持っているわけではない、本当にただの一般人。
それが偶然にもボルテクス界に来てしまったことで今回のことに巻き込まれてしまったのだ。
しかも、ボルテクス界やボルテクス界と繋がった世界の崩壊を防ぐというあまりにも重すぎる使命を背負わされて……
 翔太はそんなことをする気は無かった。しかし、ゴスロリの少女に脅される形で泣く泣くやるはめとなり――
その少女に呪いを掛けられ、それを解くためには今回のことを解決しなければならないと知り、逃げられなくなってしまったのである。
しかも、その呪いは翔太が行く先々で厄介ごとが起きるというもの。例えば今のようにリニアスと無理矢理戦わせられるとか……
だから、全てを投げ出して逃げることさえも出来なかった。
 逃げられない状況であったとしても、人は時としてそういうことから逃げたくなるものだ。
そういったことから考えても翔太は今まで良く耐えたと言える。
しかし、今まで耐えられたからといって、今後も耐えられるかというと話は違ってくる。
ストレスを発散させずに溜め込んでしまうとなんらかの形で爆発するのは道理である。
今の翔太も色んな事がありすぎたためにストレスを溜め込んでいる状態であった。
そう、何かあれば爆発しかねないほどに――
「ふん、もしや怖じ気づいたか?」
 翔太の様子を見て嘲笑するリニアスだが……それが決定打になってしまった。
ぶちりと……何かが切れる音が翔太から間違いなく聞こえたのだから……
「ふざけんなぁぁぁぁ!? 人をストーカーした挙句に嫌だって言ってるのにケンカふっかけやがって!?
それになに!? その勝ち誇った顔!? すっげぇむかつくんだけど!! 決めた! 今決めた! てめぇは絶対にぶっ飛ばす!!」
「え、えっと……なんだありゃ……」
「まぁ、あやつも色々とあったからな……」
 と、ひとしきり叫んだ後に翔太はGUMPを起動させていた。
そのことに顔を引きつらせるクー・フーリンと呆れた様子でため息を吐くスカアハ。
そう、翔太の場合はマジギレという形で爆発してしまったのである。
そんな翔太をリニアスは面白いものを見るかのように見ていたが……故に気付かなかった。
翔太が今何をしようとしているのかを――
 GUMPの操作が終わり、モニターから光の塊が飛び出す。
その光の塊が地面に降り立つと、それはアリスへと姿を変えた。
「アリス! 前に俺と合体したことあっただろ? あれやるぞ!」
「うん、お兄ちゃん!」
 翔太の言葉にうなずいたアリスは再び光の塊になり、翔太の体の中へと飛び込んでいった。
「む?」
「な!?」
「なんだありゃ!?」
 その光の塊が翔太の体に溶け込むと同時にリニアスは眉をしかめ、スカアハとクー・フーリンは驚きに顔を歪める。
それは声に出さなかった凜やセイバー、バゼットにメディアやアーチャーも同じように驚きに顔を歪めていた。
なぜなら、今まで翔太から感じることの無かった魔力を感じるのだ。しかも、かなり濃密な――
更には気迫ともプレッシャーとも思えるものを感じるようになったのだ。
普段の翔太を知っている者にしてみれば、こんなことは驚き以外の何者でもない。
「まさか……あれが魔人融合か?」
 だが、ここでスカアハがそのことに気付いた。以前、シンジから聞かされていたアリスが持つ能力。
アリスが融合することで翔太は魔人の力が使えるようになるが――
「いかん!? 翔太! すぐに融合を解け!?」
「うおぉぉぉぉぉぉ!?」
 スカアハがすぐさま叫ぶが、それとほぼ同時に翔太が飛び出してしまった。
しかも、止まる気配が無い。マジギレによってスカアハの言葉が届いていないのである。
「それがお前の本気か! 面白いぞ、ショウタ!」
 一方のリニアスも翔太の今の状態に喜んでいた。今まで感じたことのない力強いプレッシャー。
リニアスにとってそれは未知との遭遇であり、好奇心を刺激されたのである。
故に今の翔太と打ち合おうと剣を振り上げ――
「な!?」
 自身の剣を砕かれたことに驚くはめとなった。なぜ、こんなことが起きたのか?
リニアスの剣はブラックマリアが用意した物で、悪魔の力によって造られた剣である。
しかし、特別な力を有しているわけではなく、普通の武器より頑丈な程度であった。
その剣をリニアスは今までずっと使い続けていた。時には自分の魔力を流し込むなどして酷使することさえあった。
それこそ、いつ折れてもおかしくないほどに……それが今来てしまったのである。
 もう1つの理由としては翔太の武器と今現在の翔太の力によるものがある。
ご存じの通り、翔太の剣は精製したフォルマの合成によって造られた物である。
フォルマは悪魔の力を宿し、それを使って合成された武器は同様に悪魔の力を宿すこととなる。
故に普通の武器よりも強固となり、悪魔に対抗しうる力を持つことが出来る。
それに魔人化した翔太の力が流れ込んだことによって、更なる力を発揮出来るようになったのだ。
その2つの差がリニアスの剣を砕くという形で現われたのである。
 だが、それだけでは今の翔太は止まることは無かった。その事実を見ると共に剣を左手に持ち替えてから右手を握りしめ――
「うおおぉぉぉぉぉ!?」
「ぐぼぉ!?」
 その右手でリニアスの頬を殴り飛ばす。殴られたリニアスはよろめくが翔太はそれで止まらない。
殴った勢いのまま回転し――
「ぶっとべぇぇぇぇぇぇ!!」
「がは!?」
 そのまま、回し蹴りでリニアスを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたリニアスは転がるようにして地面に倒れ、そのまま気を失ってしまう。
「リニアス様!?」
 その光景にブラックマリアが慌てて倒れるリニアスへと駆け寄る。しかし、ベルセルクとリリスは動かない。
わかっているのだ。今、この場を動けばイリヤが命じられたバーサーカーに襲われることを。
「リニアス様……貴様、良くも!」
「やかましい! 襲ってきたのはそっちじゃねぇか! こっちは嫌だってのに無理矢理来やがって……
本当ならもう1発殴りたいんだぞ、こっちは!」
 睨みつけるブラックマリアだが、翔太はそれに叫び替えしていた。
翔太は気付いていないが、実はリニアスに勝てたのは実力ではなく精神力の差となっていた。
いくらアリスと融合して魔人の力が使えるといっても、人の身では出せる力に限界がある。
そのため、本気を出したリニアスとは互角になってしまうのである。
 しかし、自分の武器を砕かれるという事態にリニアスは驚いてしまった。それこそ動けなくなるほどに。
実はリニアスはそういった経験が無く……それどころか戦いに敗れた経験も無い。
確かにリニアスはある意味天才……いや、鬼才と言ってもいい。
人の身では得られないような魔力と力を有しているだけでなく、技においてもまさに天が与えたと言えるほどの才を持つ。
それ故に相手が悪魔であろうと負けたことは無く、だから挫折を知らずにいた。
だから、自分の武器が砕かれるという事実に動揺してしまったのである。
 では、翔太はどうなのか? 翔太が何度も重傷を負ったりするのはみなさんも知っていると思う。
それは翔太の油断というよりも格上の相手だったために手傷を負わずに戦うのは難しかったからである。
そんな相手に勝てたのは理華や仲魔達のおかげであるが、そのせいか翔太は自分を過小評価しがちになっていた。
なにしろ、自分1人の力で勝てた無いのだから、ある意味仕方なかったかもしれない。
それでも翔太は気を落とすことなく戦っている。
知り合いを死なせたくないという想いもあるが、それが日常茶飯事になってしまったために慣れてしまったというのもある。
まぁ、戦いでそんなこと気にしてたら死ねることもあるというのも身を持って経験してたりもするが……
かといって浮かれもしない。やはりというか、それで痛い目にあってるからだ。
だからこそ固まるリニアスの隙を見逃さずに行動に移れ、このような結果となったのである。
「貴様――」
「やめなさい。まさか、あの子があんな力を隠してたとは思わなかったけど……このまま戦っても勝ち目は無いわ。
わかってるはずよ? あの赤いのと戦ったあなたなら」
「く……」
 リリスの言葉に睨んでいたブラックマリアは悔しそうに顔を背ける。
確かに前回の戦いでは自分はスカアハと名乗る悪魔もどきに互角以上の戦いをされた。
ベルセルクもクー・フーリンには押さえ込まれていた。唯一、リリスだけは多数を相手にしても圧倒してはいたが――
それもリニアスを守りながらとなると難しくなる。
「許さない……お前は絶対に許さないからな! リリス! ベルセルク! この場は退くぞ!」
「その方がいいわね。じゃあね、お嬢ちゃん」
「あ……」
 それこそ般若のような顔で翔太を睨んでから、ブラックマリアは撤退を指示した。
それにため息を吐きながらも素直に従うリリス。その彼女が離れていったことでへたり込んでしまうイリヤ。
そのイリヤは震えていた。リリスが離れていったことで改めて彼女の怖さを思い知ったのである。
こうして、リニアス達は去っていったのだが――
「なんだ、勝てたじゃないか」
「いや、引き分けだ」
「どういうことですか?」
 いきなりな展開に呆気に取られるクー・フーリンだったが、ため息混じりのスカアハの言葉にセイバーが首を傾げる。
その答えはすぐにわかることとなったが……
「行きやがった……って、だぁ……」
「お兄ちゃん!?」
「翔太!?」
 リリスが抜け出ると共に倒れる翔太。それにリリスは驚き、理華も慌てて駆け寄っていた。
「え? どういうことだ?」
「翔太はただの人間だぞ。それが魔人の力を使ってただで済むはずがない」
 翔太の様子にクー・フーリンは軽く戸惑うが、スカアハはつらそうな顔で答えていた。
今回の事は自分の完全な失敗だとスカアハは考えていた。翔太に無理をさせられないのはわかっていた。
でも、この世界でのことを考えるとそうせざるおえないと考えていたのだが……今回はそれが完全に裏目に出てしまった。
これでは師匠失格だなと思いつつもスカアハは考えを巡らせる。翔太が倒れてまで手に入れたアドバンテージを活かすために。
スカアハはそのためにここにいるのだから――
「どういうことよ?」
「翔太はただの人間だ。そんな奴があんな力を使えばどうなるか……まぁ、あの様子を見ればわかるだろう?」
「待ちなさいよ。彼ってサマナーなんでしょ?」
 ため息混じりに答えるスカアハだが、問い掛けた凜はそれでは納得しなかった。
当然だ。あれだけの力を見せられてただの人間だと思う方がおかしい。少なくとも凜はそう思っていたのだが――
「サマナーといってもそれは翔太の力ことでは無く、召喚機『COMP』を用いた物だ。
まぁ、ハッキリ言ってしまえばCOMPがあれば誰だってサマナーになれる。
ただし、なれると悪魔を召喚出来るかは流石に別になるがね」
 翔太に顔を向けつつスカアハは説明するのだが、凜は納得出来なかった。
あんなおもちゃみたいなもので召喚出来る? 魔術師としての彼女から見れば信じられるものでは無い。
召喚とは非情に複雑なプロセスを用いて行われる。それが機械に出来るはずがないと考えているのだ。
確かにそれはある意味間違いではない。だが、COMPはそれを可能としていた。
もっとも、これはボルテクス界の悪魔の存在があったからこそとも言えるのだが……
 ちなみになれるのと悪魔を召喚出来るのは別というのは、召喚するためにはCOMPに悪魔を登録しなければならない。
そして、悪魔を登録するためにはその悪魔を仲魔にしなければならないのだが……
それが出来るか否かによって、本当のサマナーとなれるかが問われるのである。
「では、あの力はなんなのだ? あれがただの人間だと?」
「それに関しては……帰る時に話そう。もう1つの用事を片付けたいのでね」
 睨むアーチャーにスカアハは答えながら顔をイリヤへと向ける。
もう1つの用事……これが成功するか否かによって今後が変わってくる。
しかし、翔太に無理をさせた以上、成功しなければならない。でなければ、自分達はこの世界で苦戦を強いられるかもしれないからだ。
「さてと……イリヤだったな。すまないが、私達の話を聞く気はないかな?」
「え? あ……どういう……ことよ?」
 スカアハに声を掛けられ、イリヤは戸惑いの色を見せながらも訝しげな顔をしていた。
未だにリリスから受けた恐怖が抜けきらないものの、彼女がいなくなったことでイリヤの顔に覇気が戻ってくる。
それとほぼ同時にバーサーカーもスカアハを見ていた。イリヤの指示があれば、すぐにでも襲えるような体勢で。
「こちらにも理由があってね。君と手を組みたいのだよ」
「なんですって?」
「ちょっと!?」
 スカアハの言葉にイリヤは睨み、凜も怒った表情で声を掛けた。というのも――
「なんで、手を組まなければいけないのかしら? 私達は敵同士でしょう?」
「あいにくだが、我々は聖杯を求めてるわけではない。
というか、危険物だとわかっているのに手を出すという馬鹿げたことをするつもりもないがね」
「ちょっと待ちなさいよ!?」
 睨むイリヤにスカアハは答えるが、そこに凜が待ったを掛けた。驚きの表情を浮かべながら……
というのも聞き逃せないひと言があったからだ。
「危険物って……聖杯のこと? それってどういうことなのよ!?」
「10年前に起きた冬木の惨劇……それが聖杯のせいだと聞いたら……お前はどう思うかな?」
「え?」
 スカアハの言葉に戸惑っていた凜は最初は理解出来ずに呆然としていたが――
「ど、どういうことよ!? 10年前って、あの災害のことでしょ? それがなぜ聖杯のせいなのよ!?
10年前の聖杯戦争では結局聖杯は現われなかったんでしょ!?」
 理解出来たことで凜は慌てて問い掛ける。10年前に冬木で起きた災害は凜も知っている。
その頃は4回目となる聖杯戦争があったため、サーヴァント同士の戦いによって起きたと凜は思っていた。
理由としてはその聖杯戦争では結局聖杯は現われなかったと凜は聞いていたからだ。なのに――
「例え……そうだとしても、なぜあなたと手を組まなければならないのかしら?」
「衛宮 切嗣……」
「「え?」」
 睨むイリヤはそう答えた。イリヤは10年前に冬木で何があったかは知らない。
でも、話からして聖杯が関わっていることはわかった。しかし、それだけでは手を組むことは出来ない。
だからこそ、ふざけたことを言うスカアハを潰そうと思い……その名前が出たことで士郎とほぼ同時に声を漏らすはめとなった。
「切嗣に何があったのか……知りたくはないかな?」
「ちょ、ちょっと待ってください……なんで、ここでじいさんの名前が……」
 スカアハの言葉に士郎は戸惑いながら問い掛けた。実は士郎は聖杯が汚染されている話しか知らない。
そのため養父の名が出たことに戸惑ったのだが――
「なに、イリヤは切嗣の実の娘というだけだよ」
「へ?」
「なぜ……それを……」
 あっさりと答えるスカアハだが、士郎はその言葉が理解出来ずにポカンとし……逆にイリヤは呆然とスカアハを見ていた。
士郎はまだしもまったくの赤の他人であるスカアハがなぜその事実を知っているのか?
そのことにイリヤはスカアハにも恐怖を感じ始めていた。
「え? あ、それって……本当……なのですか?」
「ああ……ただ色々とあって、切嗣とイリヤは別離する羽目になったがね」
 ようやく理解した士郎が戸惑いがちに問い掛けると、スカアハはため息混じりに答えていた。
しかし、その言葉を聞いたイリヤは睨んでいたが……
「さて……どうするかね? まぁ、拒否したとしても無理矢理手を組んでもらうがな」
 言いながらスカアハは姿を変えた。女性スーツ姿から悪魔の姿へと――
「な……」
「え? あ……」
「なんと……」
 その光景にイリヤは一歩退きながら呆然と見つめ、凜は一瞬ポカンとしてしまうがすぐ後に軽く驚き――
アーチャーにいたっては顔をしかめていた。
何が起きたのか? 実はスカアハは姿を変えると共に押さえ込んでいる力の一部を開放したのである。
そのプレッシャーは先程魔人融合していた翔太を上回ると思えるほどのもの。
故に警戒したバーサーカーはイリヤの前に守るようにして立っていた。
「……わかったわ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
 悔しそうな顔をするイリヤにスカアハは笑顔を受けながら女性スーツ姿へと戻っていた。
イリヤはバーサーカーが負けると思っているわけではない。
だが、もし戦ったとしたら、リリスにようにまた自分が狙われるのではないかと警戒したのだ。
実際その通りで、もし戦いになったらスカアハはイリヤを人質に取るつもりでいたりするけど……
 もっとも、イリヤが了承したのは何も脅されただけではない。
確かに自分の父である切嗣のことが気にならないと言えば嘘になる。
知りたかった……なぜ、自分の元に戻ってこなかったのかを……
「さてと、大丈夫か?」
「これが大丈夫なように見えるか?」
 声を掛けるスカアハだったが、理華に肩を借りている翔太はジト目で答えていた。
魔人化の影響でひどい筋肉痛のような状態になっていたのである。おかげで体がまともに動かなかった。
そんな翔太の様子を見て、スカアハはつらそうな顔をしてしまう。
「すまない……今回は私の完全なミスだ」
「別にいいよ……もう終わったことだし……」
 うつむくようにしてそう言うスカアハに翔太はそう返した。
といっても別に深い考えがあったわけではない。翔太としては早く休みたいという思いからのひと言であった。
「そうか……では、早く戻ろう……凜達にも話さねばならないことがあるからな」
 それを知ってか知らずか、スカアハは少しばかり嬉しそうな顔をしながらそう言い放つ。
そう、話さねばならない。これからのことを考えて、出来るだけ懸念材料を減らすためにも――


「なんなんだよ、あれは……」
 一方、翔太達から離れた場所でランサーは彼らの様子をうかがっていた。
翔太達が教会から出た後、言峰の命令で偵察をしていたのだが……襲撃するタイミングを図りかねていた。
ランサーは令呪によって全てのサーヴァントと戦わなければならない。
一通りのサーヴァントとは戦い、残ったのがセイバーだったのだが……今、手を出すわけにはいかなかった。
なぜなら他の者達と一緒なため、もしかしたらその者達と同時に相手にしなければならなくなる。
下手をすればスカアハやクー・フーリンなどといった者達まで相手をするはめにもなりかねない。
それを警戒して、様子を見守るしか出来なかったのである。
 しかし、それはランサーにとって信じられない光景を目の当たりにすることとなった。
自分でも倒すのが難しいと思われたバーサーカーを異形の姿をした者が倒し――
サーヴァント以上の力を見せた少女を以前戦ったことがある青年が同じような力を発揮して倒したり――
そして、スカアハと名乗った女性の力……それにランサーは舌打ちしそうになる。
確かにあの力はスカアハの名を名乗るだけはあった……だからこそ、ランサーは納得出来ずにいた。
「で、どうするんだよ?」
 しかし、気持ちを切り替えてランサーは問い掛ける。自分の視覚を通じて今の光景を見ているであろう言峰に。
「は? なんだと?」
 だが、次に出た指示にランサーは戸惑いを見せたのだった。その指示とは――



 あとがき
そんなわけでなんとかリニアスを退けた翔太達ですが、その代償も少なく――
それを取り戻すべく、スカアハは半ば強引にイリヤと手を組みました。
うん、強引すぎたね……実はスカアハVSバーサーカーなんてのも考えたのですが……
そうするとかなりややこしくなりそうだったのでやめておきました(おい)
そして、言峰はランサーに何を命じたのか?
次回はスカアハから話される聖杯戦争の真相……それを凜とイリヤ、アーチャーはどう思うのか?
しかし、その話にはなぜか意図的に伏せられている部分もあり――
そして、ランサーはリニアスの元に向かい……なぜか、シンジと戦う羽目に?
いったい何が起きようとしているのか? 次回をお楽しみに〜



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