in side

「さて、3回目の聖杯戦争の時にアインツベルンは何を召喚したかは……知っているかな?」
 士郎の家に戻る最中、スカアハは約束していた話をし出すのだが……凜もイリヤもわからないって顔をしている。
でも、それって前に士郎やセイバーに話したことだよね?
「それが何か意味があるっていうの?」
「大いにな……ちなみに奴らが喚び出したのはアンリ・マユという名を付けられ生け贄にされた、ただの青年だ。
本人達はアンリ・マユそのものを喚び出そうとしてたみたいだがな」
 イリヤの疑問にスカアハ答えつつ話を続けていたが、当の凜とイリヤは首を傾げている。
それがなんの関係があるんだと言わんばかりの顔をしてるよなぁ。
だが、そのアンリ・マユのせいで聖杯が汚染されたと聞くと途端に顔をしかめていたけどね。
「それって……本当なんでしょうね?」
「確かに証拠が無い物を信じろというのは無理だろうが……私も無いことを言うつもりは無いのでね」
 睨んでる凜にスカアハはため息混じりに答えていた。確かにその証拠なんて今の所無いしな。
なんで、凜は睨んでたけどね。逆にイリヤは何か言いたそうな顔をしてたけど。
「今、私が出せる証拠は10年前に冬木で起きた惨劇だけだ。まぁ、それで信じろというのも無理だとはわかってはいるがな」
「ねぇ……切嗣は……それで帰ってこなかったの?」
 スカアハがそんなことを言うとイリヤがそんなことを聞いてきた。そういや、Fate/zeroの方はほとんど見てないんだよな。
いや、確かにFateの方も時間が無かったもんだから、ちゃんと再確認出来なかったけどさ。
ともかく、それで切嗣がどうなったかっていうのはFateの方しか知らないんだよね。
「4回目の聖杯戦争でアインツベルン連中は切嗣が裏切った……と、思っているのだろうな。
実際は自分達がまいた種だと知らずに……それでお前と会わせてもらえなかった……かもしれないな」
 どこか遠い目をしながら話すスカアハだが、聞いたイリヤはうつむいてしまっている。
そのせいで表情が見えないんだが……複雑そうな顔をしているように見えるな。
「じゃあ、翔太がただの人間って……どういうことなのかしら?」
「いや、俺って本気で普通の人だから……」
「はぁ……我々が元々いたボルテクス界には生体マグネタイトと言われる生命エネルギーが存在する。
そのエネルギーは我々悪魔の実体化には必要不可欠な物だが……同時に人にも影響を与えてしまう。
今まで生体マグネタイトに触れたことが無い者ほどそれは顕著に表れる。翔太がいい例だ。
翔太はボルテクス界とは別の世界にいた一般人というのは凜達には話したな?
その者が悪魔を相手に戦い続けた結果、生体マグネタイトによって身体能力が強化される形で影響を受けたのだ。
だが、問題もある。強化されたのであって、翔太自身の体が成長したわけでも進化したわけでもない。
ただ、戦いに必要な力だけを強化されたのだ。そうだな……ママチャリにジェットエンジンを載せるようなものだと思ってくれればいい。
それがどんな結果をもたらすのか……想像は付くだろう?
ちなみにだが、魔人融合はその状態から更にロケットエンジンまで載せる暴挙をするようなものだがな」
 凜の問い掛けに一応突っ込んでおく。無視されたけど……
そんな凜にスカアハがため息を吐いてから説明してくれたが……ママチャリにジェットエンジンやロケットエンジンって……
それって普通に壊れるよね? ママチャリが……え? もしかして、そのママチャリが俺ってこと?
なにそれ? そんなまずいことになってたの……マジで?
「あやつの顔が青くなっているのだが?」
「一応、言い聞かせているのだが……本人はその自覚が薄かったようだな」
 こちらを見るアーチャーにスカアハは呆れたように答えていましたが……
うん、ごめん。自分のことだけど、全然気付いていませんでした。というか、俺ってどうなっちゃうの?
「聞いておきたいのだけど……あなたが言っていたこの世界が崩壊するというのと聖杯の汚染は関係があるのかしら?」
「ある……と言っておこう。今は詳しく話せないが……世界を崩壊させようとしている奴は聖杯を汚染しているものを手に入れようとしている」
「なんでまたそんな危ないもんを手に入れようとしてんだよ?」
「目的に必要だから……としか今は言えん」
 凜の問い掛けにスカアハが遠い目をして答えるんだけど、気になったんで聞いてみたら今度はため息混じりにそう言われてしまう。
いや、なんなのその目的って? すっごく気になるんだけど……
「ねぇ、イリヤと手を組むって話だけど……私も手を組ませてもらってもいいかしら?」
「凜、何を?」
 と、いきなり凜がそんなことを言い出したもんだから、アーチャーがなんか戸惑った顔をしている。
いや、確かにいきなりだよな。でも、なんでまた?
「確かにこいつらの話は信じられない点が多すぎるわ。でも、この世界の情報を持っているというのはあながち嘘でもなさそうよ。
桜のこともそうだし、綺礼のことも……あれって、あいつがああするとわかってやったんじゃないの?」
 視線を向けながら問い掛ける凜。でも、スカアハは顔は向けてるけど無言だった。
そんなスカアハを凜はじっと見てたけど――
「で、どうなの?」
「その通りだと答えておこう」
「そ……聞いての通りよ。それにイリヤのことだってそう。衛宮君も知らなかったことを知っていたし。
なんでもというわけじゃないでしょうけど、情報を持ってるのは確かみたいね。
なら、手を組んだ方がいいと思わない? そうすれば少しくらい情報を教えてもらえるし――
それに翔太の実力やスカアハの感じた魔力も侮れないもの。敵対されるよりはマシだと思わない?」
 スカアハの返事を聞いてか、問い掛けた凜はそんなことを答えていた。
まぁ、凜の言う情報ってのはゲームであったことを知っているってだけなんだがな。
それでも凜としては見逃せなかったって所かな? しかし、聖杯戦争のことがゲームになってますって聞いたらどう思うだろ?
なんとなく、怒りそうな気がしてきたのは俺の気のせいか?
「わかった……マスターの君がそういうのなら、従おう……」
 ため息混じりにアーチャーはそう言うけど……なんか見てると納得してないって顔に見えるんだけど。
それになんかスカアハを睨んでいるように見えるんだが……
「ま、そんなわけだから、なに!?」
「え?」
「なんと……」
「なんて……魔力だ……」
 で、凜が何かを言いかけた時だった。いきなり空が明るくなったかと思うと、空に向かってぶっとい一筋の光が奔ったのである。
あの〜……あの光からとんでもない力を感じるんですけど……そのせいか、凜やイリヤ、セイバーやバゼットが驚いてますよ。
クー・フーリンとメディアも表情から見るに驚いてるし、士郎とアーチャーも呆然と見てるしね。
「あやつは何をやってるのだ……」
「え? なに? あれがなんだかわかってるの?」
「ああ……先程連絡が入った。あれはシンジの仕業だ。まったく、何を考えているのか……」
 なにやら頭を抱えているスカアハに聞いてみるとそんな返事が……って、あいつが?
え? なに? あいつ、なにやってんの? いや、それ以前になにさあのとんでもない力は?
「え? なに? あいつってあんな力出せたの?」
「私も話を聞いただけだが……本分こそ策士らしいがね。ただ、その気になれば世界にもケンカを売れるそうだ」
 思わず聞いちゃったんだけど……スカアハも呆れた様子で答えるし……
ええと……どう反応しろと? ていうか、それってチートなんでしょうか?
「ちょっと、どういうことよ?」
「ああ……なんと言えばいいかわからんが……」
 凜に聞かれてスカアハは頭を抱えてるけど……いや、何がどうなってるんだろ?

 なお、この時は気付かなかったんだけど、なぜか凜には自分達が物語……
というか、ゲームになっていることをスカアハは話していなかった。
なんか、スカアハとしては考えがあったらしいんだけど……まぁ、気付いてなかったから聞けなかったけどね。
でも、なんでだろうか?


 out side

 時間は少し遡り――
「ん……ん、ここ……は?」
「ああ、リニアス様……」
 林の中……そこで横になっていたリニアスが目を覚まし、膝枕をしていたブラックマリアはほっと息を吐いていた。
治癒魔法の甲斐あってか、リニアスに傷らしい傷が見あたらなかったことに安堵していたのだ。
「私は……どうして……」
「負けたのよ。あの坊やにね」
 起き上がるリニアスにリリスはあっさりと答えた。それを聞いたリニアスは思わず顔を向け――
「負けた……私が……」
 呆然としながらつぶやき、少ししてからうつむいてしまう。
その様子にブラックマリアはリリスを睨むが、リリスは気にした様子も見せてはいなかった。
初めての敗北……それ故にリニアスはどうすればいいのかわからずにいた。
考えると出てくるのはなぜ負けたのか? という疑問だけ。しかし、リニアスにはその答えを見つけられずにいた。
その様子をリリスは笑みを浮かべながら見ていた。実を言えば、リリスがリニアスの仲魔になったのは興味からである。
人の身でありながら悪魔以上の力を持つ少女。それがどうなっていくのかを見たくて仲魔になったのだ。
しかしながら、悪魔ならともかく人間ではリニアスに勝てる者はいないだろうとリリスは思っていたのだが――
変則的とはいえ、リニアスは敗北して心を折られた。そのリニアスがどうなるのか、新たに興味が出たのである。
「して、これからどうする?」
「私としては一度帰った方がいいと思うけど? ここ、なんか生体マグネタイトがほとんど無いみたいだしね」
 ベルセルクの問い掛けにリリスは肩をすくめながら答えた。
確かにこの世界はボルテクス界のように生体マグネタイトはほとんどと言っていいほど存在しない。
知っての通り、ボルテクス界の悪魔は生体マグネタイトを糧にしている。
今はまだいいが、このままでは影響が出かねないのは目に見えていた。
同時にここはボルテクス界では無いのでは? と、リリスは考え始めている。
というのも、ボルテクス界では見られないような物がいくつも見られたからだ。
「よぉ、ちょっといいかい?」
 そんなことを考えている時だった。リリス達に声を掛ける者が現われる。
リリス達が顔を向けると、そこには彼女らに近づくランサーの姿があった。
「なに、あなた?」
「そんなに睨むなよ。俺はマスターの命令でここに来ただけなんだからな」
 睨むリリスに肩をすくめながらも挑発的な笑みを向けるランサー。
実を言えば、戦ってみたいという気持ちがある。なにしろ、あのバーサーカーを一度とはいえ倒した者がいるのだ。
それがどれほどのものなのかを確かめてみたいという思いがあったのである。
「マスター……ね……ここはどういう所なのかしら?」
「何も知らないのか? まぁ、いいや。マスターがあんたらを呼んでる。来てくれないか?」
 呆れた様子を見せるリリス。それと共にここがボルテクス界では無いという思いを強めていた。
確かにサマナーの中には仲魔にそう呼ばせている者がいるにはいるが、ランサーは悪魔には見えない。
それ故にそんなことを考えてしまっていたのである。
 そんなリリスの様子にランサーは訝しげな顔をしつつもそんなことを言い出す。
そう、ランサーがここにいるのは言峰の命令があったからだった。
翔太達やリニアス達の登場により、明らかに言峰の思惑とは違うことが起こっていた。
その為、何が起きているのかを調べようとリニアス達を呼ぼうとしたのだ。
 もし、言峰がボルテクス界の存在を知れば、更なる暴走を起こしていたかもしれない。
だからだろう――
「その前に私のお話を聞いてみませんか?」
 それを危惧したシンジがそこに現われたのは――
「なに、あなた?」
「おっと、自己紹介が遅れまして……私はアオイ シンジ……まぁ、通りすがりの人と今は言っておきましょうか」
 睨むリリスにシンジはにこやかな笑顔で答えるのが……当然の如く睨み返された。
まぁ、明らかに怪しすぎるのだ。リリス達の反応は当然とも言える。だが――
「さて、翔太さんに勝ちたいと思いませんか?」
「え?」
 シンジのそのひと言にリニアスは顔を上げる。
翔太に勝つ……ただ、それだけのことなのに……リニアスには心惹かれるひと言に思えてならなかった。
「なりませんリニアス様! あのような戯言を信じては――」
「本気を出したあなたと魔人の力を得た翔太さん。実を言えば、お二人の力に差はほとんどありませんでした」
 怪しいと感じたブラックマリアが叫ぶものの、シンジはそれを無視する形で話を続けていた。その話にリリスは思わず納得してしまう。
何をどうすれば魔人の力なんてものを持てたのかは知らないが、その力を発揮した翔太の力は本気を出したリニアスとほぼ互角。
その2人の勝敗を分けたのは精神面の差であった。
武器を砕かれたことで致命的な隙を見せたリニアスと、それを見逃さずにすかさず攻撃に移った翔太。
確かに武器を砕かれたら大抵の者はリニアスのようになってしまうかもしれないが――
それでも精神的な差が出たというのは否めない。
「しかし、今のままではあなたは翔太さんに勝つことは出来ません。
なぜなら、今のあなたは負けたという事実を受け止められてはいない」
 シンジのひと言にリニアスはうつむく。確かに未だに自分が負けたというのを否定したかった。
だが、そう考えようとすると嫌でも思い出してしまう。あの時の翔太の気迫と負けた時の記憶が……
「勝ちたいですか……翔太さんに?」
 笑みと共に問い掛けるシンジ。
そんな彼をブラックマリアとベルセルクは睨んでいたが、リリスは面白いものを見ているかのような笑みを浮かべている。
翔太と戦って勝つ。それを再認識させられたリニアスがああまで興味を惹かれている姿など、滅多に見られるものではないから。
「おい、てめぇ……人が話してる時に邪魔してんじゃねぇよ」
 そこにランサーが睨みながら割り込んできた。
まぁ、命令だったとはいえ、話している最中に邪魔されたのだ。不機嫌になってもおかしくはないが――
「おや、まだおられたのですか? もう用はありませんから、帰ってくださっても結構ですよ?」
「なんだと!?」
 シンジの挑発的なひと言にランサーはあからさまな怒りを見せた。
明らかに自分を見下した言葉。それを”ただの人間”に言われた。それがランサーは許せなかった。
「てめぇ……ふざけてんのか!?」
「いえ、まったくもって本気ですけど?」
 叫ぶランサーに何を言ってるんだと言わんばかりの顔で首を傾げるシンジ。それにランサーはキレた。
「てめぇぇぇ!?」
 槍を構え、ランサーはシンジに襲いかかる。シンジは気付いたようにも見えない。
そのまま槍で貫こうと腕に力を込めようとした――



 あとがき
約束通り聖杯戦争の真実を話し始めるスカアハ。しかし、実は全てを話していなかったりします。
その理由はなんなのか? それは次回にて。
そんでもって、なぜか勃発したシンジVSランサー。その行方はいかに?
いや、無双炸裂というのはバレてるでしょうがね……まぁ、そこはお楽しみということで(おい)

さて、次回はそんな戦いとは別に色々と動くスカアハ。
そこでアーチャーに話したことが彼を困惑させることに……それはいったい?
というようなお話です。

さて、感想&拍手に中々レスを返せずにいて大変申し訳ありません。
夏場はどうしても他のことに時間が取られてしまうので……執筆するだけで精一杯だったりします。
7月上旬までにはレスするようにいたします。うん、出来るといいなぁ……



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