out side

「今日で修学旅行も終わりか〜」
 京都の街並みを歩きながら、裕奈は背伸びをしていた。
今日で修学旅行も最終日。せっかくだから一緒に回ろうと裕奈とアキラに千鶴が一緒に歩いていたのである。
麻帆良という以外は穏やかな日常がそこにあった。
「なんか、麻帆良と違うよね」
「そうですわね」
 ふと、アキラが漏らしたひと言に千鶴がうなずく。
ここでは麻帆良での日常が無い。それは当然なのだが、3人にはそれが珍しく思えたのである。
元気すぎる多くの者達や古菲のような武闘派達に葉加瀬のように高い技術力を持った者達――
ここには麻帆良にいたような者達がいなかった。それだけなのに、そう思えたのだ。
 どういうことなのか? これに関しては少々生体マグネタイトの説明をしておいた方が良いだろう。
生体マグネタイトでわかっていることは実はそう多くはない。
生命エネルギーの一種であり、生命体の感情によって発生する物とされている。
また、生体マグネタイトを多く含有していると超能力に目覚めるという話もあるが――
まぁ、この話はある意味納得出来るだろう。なにしろ、その典型が翔太なのだから。
超常の力にこそ目覚めてはいないが、その身体能力は悪魔に匹敵する程までに高くなっている。
それに刹那も翼が白銀になるなどの身体的な変化も起きていた。
このように生体マグネタイトは何かしらの力に目覚める切っ掛けになることも多いが、裕奈達3人にもそれが起こったのである。
といっても生体マグネタイトに触れた時間はそれほど長くなかったこともあってか、起こったのは軽い魔法抵抗力であったが。
ただ、そのおかげで記憶操作の魔法を受け付けなかったのはある意味皮肉である。
また、その魔法抵抗力はあることにも作用していた。それはなんなのか?
良く考えて欲しい。麻帆良にいる者達の中には普通の人から見れば異常に見えるのは明白である。
しかし、麻帆良にいる者達はそれを当然とばかりに見ている。
見慣れているというのもあるのだろうが、度が過ぎていることに関しても騒ぎ出した様子を見せないのは流石におかしい。
これから考えて、認識阻害の結界が麻帆良全体に施されている可能性がある。
いや、張られていると考えてもいいだろう。魔法使いもいる都市なのだから、それなりの対策がされていてもおかしくはない。
話が反れてしまったが、その認識阻害の結界が裕奈達の魔法抵抗力によって阻害され、そのようなことに気付き始めたのかもしれない。
「そういえばさ……翔太さんって、どうしてるかな?」
 ふと、裕奈がそんなことを漏らしてしまう。
あの時、もうダメだと思ってしまった時に颯爽と現われ、次々と悪魔を倒していったあの姿――
その姿が印象的で……時折、ふと気になってしまうのだ。それに翔太が何者で何をしているのかを詳しく聞いてないのも要因になっていた。
「そうだね……どうしてるのかな?」
 アキラも同意したように返事をする。本当に今はどうして――
「まったく、なんで京都観光なんてしてるのかしら……私達、聖杯戦争してたはずなのに……」
「しょうがあるまい。新幹線の時間が麻帆良の生徒が帰る時間と一緒になっているんだからな。
時間が来るまで少しくらい観光をしてもバチは当るまい。資金もあることだしな」
 なんてことを考えていた時、そんな話し声が聞こえてきた。
意味は不明だが、麻帆良の名が出たことで裕奈達は気になり、声がした方へと顔を向けると。
「ところで……いつまでしがみついてるの?」
「だ、だってぇ……」
 少女にしがみつかれている翔太の姿を見つけてしまった。
あれ?っと、3人は一瞬思考が止まる。翔太がいる。これはいい。いや、良くないけど。
だって、なんでここに翔太がいるのか? それがわからない。なので、それはひとまず置いておく。
問題なのは翔太にしがみついている少女のことで……あれ? あの子、どこかで会ったことなかったっけ?
「翔太さん……」
「ん? ああ、あんたか……て、どうしたの?」
 そんなことを裕奈とアキラが考えていた時、千鶴が声を掛けていた。
それに気付いた翔太は顔を向け、なぜか顔を引きつらせる。というのも、千鶴からものすっごい気迫を感じたからである。
千鶴の表情は間違いなく笑顔だ。笑顔なのに修羅が見える位の気迫なのである。
「いえ、まさかこんな所でお会い出来るとは思っておりませんでしたので……ところでその子はどなたで?」
「まぁ、ちょっと厄介ごとがあってな。それを片付けに……ちなみにこいつはミュウだ。見たことあるだろ?」
 表情と気迫はそのままに問い掛ける千鶴に、冷や汗を浮かべつつも少女を指差しながら翔太は答えていた。
そう、翔太にしがみついていたのはミュウだったりする。なぜ、こんなことになっているのか?
実はミュウ、歩き慣れていないのである。ピクシーの時はいつも飛びっぱなしであった。その方が移動に便利だからだ。
しかし、今は人と変わらないサイズになったために歩かなければならない。でないと、目立つどころの話ではなくなる。
ちなみにだが、今のミュウは飛ぶことも可能だ。その際にはピクシーだった頃にあった羽根が背中に現われるが。
もちろん、羽根の大きさも今の体のサイズに合わせてである。
 話が反れてしまったが、そのおかげでミュウは歩き慣れておらず、バランスを崩しやすいのだ。
それで翔太を支えにして歩いてるのだが……傍目から見るとカップルのあれである。
なので、理華や美希に仲魔達、更には真名まで翔太を睨んでいたりする。
「あれ、真名さん? なんで真名さんもここに?」
「ああ、厄介ごとを片付けるのを手伝ってね。今は付き添いという所かな?」
 彼女がいることに気付いたアキラが問い掛けに、真名はいつもの調子に戻って答えていた。
とまぁ口ではそう言ってるものの、少しでも翔太に近付きたいというのが本音だったりするが。
アスラとの戦いの最中で翔太に恋心を抱いていることを認めた真名。
それと同時にライバルが多いのもわかっていた。刹那もあの時に翔太に心奪われたのは間違いない。
だからこそ、少しでも翔太に近付きたくて同行しているのである。ミュウのことは計算外であったが……
なお、刹那は現在ネギ達と同行しているこのかの護衛の為にここにはいない。
「そう……なんですか」
 返事をしながらもどこか納得出来ないといった様子のアキラ。
裕奈も同じであり、千鶴は相変わらずの様子を見せている。これを見て真名は思った。
切っ掛けがあれば、彼女達は自分達の気持ちに気付くだろうと。そのため、それが来ないことを思わず願ってしまったが。
「ねぇ、その子達はなんなのよ?」
「ん? あ〜、前にちょっと知り合ってな」
「あ、あの……危ない所を助けてくれたんです!」
 ふと、訝しげな凜に聞かれて翔太がそう答えると、アキラが慌てた様子で付け加えていた。
で、そこで改めて気付く。人数の多さに――
「あ、あの……なんか、人が多くありませんか? その、女性ばかり……」
「ああ……色々とあったからな……本当に……色々と……」
 戸惑い気味に、それでいてなぜか咎めるような目線で問い掛けるアキラ。
それに対し、翔太はなぜか明後日を見つつ遠い目をしていた。それがなぜか哀愁を漂わせている。
気が付いたら女性ばかりに囲まれていた。翔太としてはそんな心境なのである。
なので、本当になんでこうなったんだろうなと思わず自問してしまったのだった。
なお、君嶋やアーチャー、士郎にバーサーカー……いや、今はヘラクレスと言った方がいいか……
と、男性もいるのだが……それでやはり女性の方が多いのは間違いない。
 ちなみにだが、ヘラクレスの今の姿に関して少し話しておこう。
ヘラクレスのバーサーカーとしての姿は、クラススキルによるものと考えられる。
いくら神の仔とはいえ、体格はまだしも肘の出っ張りは普通はありえない。
そこでシンジはクラススキルを一時的に封印するようにし、それが成功して今のヘラクレスの姿を得たのである。
また、クラススキルが一時的に封印されたため、今は普通に話せるようになっており、イリヤと和やかに話し合っていたりする。
 さて、話は反れたが……アキラ、裕奈、千鶴は翔太の周りにいた者達を見てみた。
そして、なぜか言いようのない焦りを感じてしまう。何か差を付けられているような、そんな気が……
「あの……良かったら一緒に回りませんか?」
「ん? いいのか?」
「はい、もう少しで集合時間ですけど、それまでなら問題無いと思いますわ」
 裕奈の言葉に翔太は問い掛けると、代わりに千鶴がにこやかに答えた。
なのだが、ミュウと理華に美希、スカアハとクー・フーリンにメディアらが、なぜか翔太にジト目を向けていたりする。
そんな様子を凜や士郎達はニヤニヤと見ていた。何人かは戸惑った様子を見ていたりするが。
そんなこんなで裕奈達と一緒に回ることにした翔太達であったが――
「ねぇねぇ、あれって大河内さんや明石さんに那波さんじゃない?」
「そだね。でも、あの男の人って誰だろ?」
「あれ? 龍宮さんもいるよ〜?」
 3−Aのまほらチアリーディングの3人組にこの様子を見られ、帰りの新幹線で色々と聞かれる4人の姿があったりする。
で、それを聞いた刹那はなぜか睨んでいたりした。真名を……
 なお、翔太達は別の車両に乗っているのだが――
「見事に寝てるわね……」
「仕方あるまい。翔太の体はボロボロだ。本来なら、長い時間を掛けて治さねばならないほどにな。
だが、今の翔太にはそんな時間すらも無い。せめて、麻帆良にいる間だけでも休ませてやらんとな」
 見事に寝こけている翔太を見て、そんなことを漏らす凜にスカアハはため息混じりに答えた。
翔太は本来戦う者では無い。ありふれた日常を過ごすどこにでもいる普通の人にすぎなかった。
だが、ボルテクス界に来てしまったという1つの偶然から、翔太はいくつもの世界の運命を握る戦いをするはめとなった。
命を簡単に落としてもおかしくないような戦いを……それは激しいというだけでは済まない。
そんな戦いを武術などを学んだこともなく、体も出来ていない者がしてきたのだ。ある意味、無謀と言っても過言ではない。
その為に翔太の体はボロボロとなっている。このまま戦い続ければ、本当の意味で体を壊すだろう。
そうなれば……故に今回の休暇は渡りに船とも言えた。
「にしても、仲良く寝てますね」
「ああ……」
 セイバーの漏らしたひと言にスカアハは静かにうなずく。翔太の左にミュウ、右に理華がいて、これまた寝ていたりする。
実を言えば、3人が一緒に寝るのは別に珍しいことではない。
というか、ボルテクス界に来てからというもの、3人はほぼ一緒に寝ていた。
アスラとの戦いを終え、その時にミュウが今の姿となっても、それは変わらない。
なぜか? 理華とミュウは翔太を心の支えにしているからだ。
最初の方こそ、理華とミュウもなんとなくという理由で翔太と一緒に寝ていたが……
その内、翔太から離れることが怖くなってきた。戦いが激しくなると、それが顕著になってきた。
不安だった。怖かったとも言える。このまま戦い続けるのは……でも、翔太は戦い続ける。
翔太としては逃げ場が無かっただけに戦うしかなかっただけなのだが、それが2人の励みにもなっていた。
それに理華は人では無くなっていく恐怖に、ミュウは自分がどうなってしまうかわからない恐怖に怯えている。
切っ掛けがあれば、簡単に壊れてしまうような恐怖にだ。それに耐えられるのは、やはり翔太がいたからだった。
「だからこそ……私は……」
 ふと、スカアハはそんなことを漏らす。考えてしまったのだ。自分にも時間が無いことを。
元より、自分はそんな存在だった。たぶん、そう遠くない未来に自分は消えることになるだろう。
そうなる前に翔太には教えていかなければならない。戦いとはどんなものなのかを――
(ああ……今となってはあんな約束をした自分が恨めしいよ……)
 それ故にスカアハはそんなことを考えてしまう。彼女も翔太から離れたくなかったのだ。
だが、それは出来ない。だって、自分は――
 そんな様々な思いを巡らせながら、翔太達は麻帆良へと向かうのであった。


 in side

「あ〜、やっと着いた……」
 駅のホームで伸びをする俺。まぁ、新幹線や列車の中ではほぼ寝てたけどな。
なので、体感的にはあんま時間が経ってるようには感じなかったけど。
で、遠くの方ではネギの生徒達や他の麻帆良の学生がにぎやかに移動している。
じゃ、俺達も……って、ちょっと待て。
「俺達、どこに行けばいいんだ?」
 思わず自問。いやね、良く考えたら麻帆良の地理ってほとんど知らないんだって。
前に来た時だってそんなに出歩いてないし、すぐに帰っちゃったしな。
「ふむ、ならばあの学生達の後を――」
「お〜い」
 なんかスカアハが言おうとした時に呼ぶような声が聞こえてきた。
なんだろうと振り返ってみると……あれ? あれって――
「高畑さん?」
「やぁ、久しぶりだね」
 右手を挙げて挨拶をする高畑さんだが……はて、なぜにここに? と、思わず首を傾げてしまう。
「ああ、お久しぶりです……でも、なんでここに?」
「なに、刹那君達から報告を受けていてね。それで学園長が君達に会いたがっているんだ。ボクはそのお迎えってわけさ」
 気になったんで聞いてみたら、高畑さんはにこやかに答えてくれました。
あ〜そっか……まぁ、普通は話しておくよな。で、学園長が会いたがってると……待てよ。
「わかりました。さてと、聞いたとおり今からここのお偉いさんと会うんだが……先に言っておく。突っ込むなよ?」
「何をよ?」
 高畑さんにうなずいてから、振り返ってそのことを忠告すると凜に呆れられました。
うん、高畑さんは苦笑してるが……いや、言っとかないとマズイと思ったんですって。
「会えばわかる。でも、突っ込むな。何があってもな。それと美綴、氷室……いや、誰でもいい。
蒔寺が突っ込もうとしたら、全力で止めろ。俺が許す」
「なんでだよ!?」
 とりあえず、そう言って誤魔化しつつ、そんなことをお願いしてみたら蒔寺が驚いてました。
いや、お前……絶対に学園長の頭に突っ込むだろ? それで話をややこしくしたくないんだって。
「あ、あの……どんな方なのですか……その……ガクエンチョウとは……」
「今は黙秘させてもらおう」
 戸惑うセイバーに対し、俺は明後日を見つつ誤魔化した。
いや、というかあの頭をどうやって説明しろと? まぁ、そのせいでセイバーや知らない奴らは戸惑ってたけど。
「ははは……じゃあ、付いて来てくれ。送迎用のバスを待たせてるから」
「了解です」
 苦笑している高畑さんに言われて付いていくことにしたが――
はてさて、何が待ち構えているやら。



 あとがき
そんなわけで麻帆良に到着した翔太達一行。学園長との話し合いでは何が起きるのか?
次回はそんな話し合いとエヴァの別荘に向かうこととなります。
しかし、その別荘に紫が現われて……というようなお話です。

拍手に感想ありがとうございます。中には厳しいご意見もありますが、がんばっていきます。
それでは次回をお楽しみに〜



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