out side

 さて、なぜか映姫に裁かれることとなったアーチャー。
そんな彼の表情は不機嫌というのが見て取れる。両目を閉じ、両腕を組み、映姫に顔を向けていないのだから。
「あなた! 人の話を聞いているのですか!」
「あ〜、アーチャー……その人はマジで閻魔だから……」
 そんなアーチャーの態度に映姫は懺悔の棒を向けて怒鳴ってしまい、翔太も下手に怒らせまいと忠告しておく。
「え? 本当……なの?」
「まず間違いなくな。以前、私の所に来た時には見事な裁きを見せていたぞ」
 映姫のことを知らない凜は戸惑った様子で問い掛けるが、それに答えたエヴァは腕を組みつつ答えていた。
四季映輝・ヤマザナドゥ。幻想郷を主に担当する閻魔……というのは、幻想郷の実力者達には周知の事実である。
「あなたはなぜこうなっているのか……納得出来ていないようですね?」
「当然だ。私が何を――」
「あなたが理想に裏切られたのでは無く、あなたが理想を裏切った……その言葉を覚えていますか?」
 睨む映姫にアーチャーは視線を向けつつ答えるが、そこでそんなことを言い出したのは一緒に戻っていたシンジである。
言われたアーチャーはシンジを睨み――
「だから、それがどうしたと――」
「さて、ここで問題です。理想とは一体どんな意味でしょうか?」
 問い掛けようとした所でシンジは人差し指を立てながら、そんなことを聞いてきた。
アーチャーはなんのことかわからず眉をひそめるが――
「人がこうであって欲しいという思い……ではなかったか?」
「おおむね、その通りです。さて、ここで更に問題です。そんな物が人を裏切るなんて出来るでしょうか?」
 疑問に答えた氷室の話を聞いて、シンジはにこやかにうなずくと更にそんなことを問い掛ける。
アーチャーは訝しげな顔をするが、氷室とネギに夕映は気付いたようで、はっとした顔となった。
「わかった方がいるようなのでお答えすると……不可能です。理想とは人の思いであって、現実ではありません。
そんな物がどうやって人を裏切られるでしょうか?」
 先程とは変わって真剣な顔付きで答えるシンジ。逆にアーチャーはシンジを睨みつける。
そんなはずは無いと反論しようとするが――
「ちなみに理想を叶えたなんて言われることもありますが、あれは理想をより近い形でそのようにしただけです。
決して、理想が現実になったわけではありませんよ」
 シンジの言葉で遮られる形となり、そのことが言えなくなってしまった。
それでも言おうとした。違うと……そんんわけは無いと――
「そう、あなたは正義の味方という理想を裏切ったのですよ。エミヤ シロウさん」
「く、貴様ぁ!?」
 だが、シンジのその言葉で……その名を呼ばれたことで、アーチャーは……エミヤは叫び、飛び出していた。
両手に干将・莫耶を構えて……そのことに多くの者が驚く中、エミヤはシンジに斬りかかり――
シンジが持つ”大剣”の腹で防がれていた。
「な!?」
 その事実にエミヤは驚きを隠せない。なにも防がれたことに驚いたのではない。
エミヤが驚いた理由は2つ。まず、いつ大剣を出したのか? エミヤは一瞬たりともシンジから目を離してはいない。
だが、斬りかかった次の瞬間には大剣を持っていたのだ。隠し持っていたとはまず考えられない。
なにしろ、刀身はシンジの身の丈ほどあるし、刀身の幅も屈強な男の腕ほどもある。
だから、”自分のような魔術の類”か、あるいは転送と考えたのだが……そのどちらもそれらしい物は感じられなかった。
 それにこれが驚いた一番の理由なのだが……シンジの大剣が解析出来ないのである。
間違いなく剣であり、自分の魔術の特性上解析出来ないはずが無いのに――
 みなさんにはお教えしておくが、実はシンジは今持っている大剣を最初から持っていた。
光刃の剣……それがシンジが持つ剣の名前であるが、この大剣は最初からこのような形では無い。
刀身が無い状態でシンジの腰の後ろのホルダーに収められていたのである。使う際は柄の先端が開き、そこに刀身が現れるのだ。
 そして、なぜエミヤがシンジの大剣を解析出来なかったのか?
実は光刃の剣は剣であって剣では無い。今出来る範囲で説明すると光刃の剣の刀身はある物から創られている。
では、それはなんなのか? というのは、いずれ説明することとなるが――
「待ってください! 今、あなたはなんと言いましたか?」
「エミヤ シロウ……そう、アーチャーさんはそこにいる士郎さんの未来の可能性の1つなのですよ」
「なんです……って……」
 そこであることに気付いたセイバーが問い掛けると、シンジは何事も無かったかのように答えていた。
それを聞いた凜は呆然としていた。もっとも、その様子は士郎と桜とライダー、イリヤも同じであったが……
「な!?」
「さて、お話の途中でしたね」
 そこでエミヤは新たに驚くこととなる。目の前にいたシンジが消え……いや、背後にいたことに。
しつこいようだが、エミヤはシンジから目を離してはいない。いないはずなのに、気付けばシンジは背後に立っていた。
しかも、持っていたはずの大剣もすでに無い。あまりにも不可解なことにエミヤは苛立ちを隠すことが出来なかった。
「さてと……九を救うために一を切り捨てる……でしたか?
あなたが正義の味方として取った方法は……確かに間違いではありません。
人1人で救える数には限りがありますし、1つの戦いを終わらせたとしても新たな戦いが生まれる。
それもまた事実ですが……決して、絶対とは言える方法ではありませんよ」
 人差し指を立ててシンジは話すが、エミヤは苛立ちどころか憤りを感じていた。
なぜなら、シンジが言っていることは自分が今までやってきたことへの否定に近い物だったから――
「そんな、切り捨てるなんて……そんなの――」
「ネギ君、あなたはまだ幼いからわからないでしょうが……
どうしようもなくそうしなければならない状況もあるんですよ。私も何度も経験がありますしね」
 話を聞いていたネギが信じられないといった様子を見せるが、シンジは静かにそう答えるだけであった。
しかし、明日菜や高音、シャークティはシンジを睨みつけていた。
なんで、そんなことをするのかと……彼女らは知らないのだ。現実は時として非情であると――
「ま、先程も言いましたが、必ずしもというわけではありませんよ。それはともかく――
あなたはいつの日からか、どんな状況であろうとも一を切り捨てる方法を取ってきた。
それが理想を裏切る行為だとは気付かずに……」
「何が言いたい?」
 ネギにそう断っておいてから、シンジは人差し指を立てながら話すが、聞いていたエミヤは睨んでいた。
それがどうして、理想を裏切ることになるというのか? それがわからなかったためだが――
「そうですね。あなたがしてきたことをあることに例えましょう。
例えば……ある女性が柄の悪い男達に絡まれていた所をあなたが助けたとしましょう。
あなたはその後どうしますか?」
 視線を向けながら問い掛けるシンジだが、エミヤは答えずにじっと睨んでいたが――
「何もせん……ただ立ち去るだけだ」
「なるほど……では、その女性はその後どうなったでしょう?」
「え? 助かったんじゃないんですか?」
 睨みながらも答えるエミヤに対し、シンジは人差し指を立てたまま更に問い掛ける。
そのことに首を傾げたのは愛衣であるが、高音やシャークティ、ネギや明日菜なども同じく首を傾げている。
一方で高畑だけはまさかといった表情を見せていたが――
「いえ、柄の悪い男達が更に仲間を呼んで、女性の家族を殺した挙句に女性を連れ去って慰み者にしました」
「え? あ……なんですか、それは!?」
 シンジのいきなりの発言に高音は叫んでしまうが、ネギや明日菜、シャークティも表情を見ると同じことを言いたそうだった。
セイバーや凜、桜に夕映や裕奈、アキラに千鶴も同じような顔をしていた。
「言っときますが、冗談でもなんでもないんですよ?」
「確かに……そうだね」
 と、人差し指を立てながら話すシンジだが、それを肯定したのは高畑であった。
もっとも、その表情はつらそうな物ではあったが……
「え? ど、どういうことなの……タカミチ?」
「シンジ君が言ったことは最悪のケースだけど……実際にそういうのはあり得るんだ。
ボクも若い時……君のお父さんと一緒にあちこち回っていた頃にね……
ボク達にやられた報復で、なんの関係の無い人達にひどいことをする奴らがいたんだ。
あの時は参ったよ……終わったとばかり思ってそこから離れていたら、そんなことになっていたなんて思ってもいなかったからね」
 戸惑うネギに高畑は苦笑混じりに答えていたが……それをネギや明日菜達は困惑した表情で聞いていた。
これがシンジの言葉だけなら信じなかっただろう。だが、高畑が表情と相まって信憑性が増したのである。
ましてや、高畑が歴戦の勇士であることを知る高音と愛衣、シャークティは更に戸惑いを増していた。
刀子もどこか沈んだ様子を見せているため、そのことを知っていたのかもしれない。
「正義を成す。言葉にするのは簡単ですが……実際に行うとなるとそうは行きません。
何が起きるのか? 何をしなければならないのか? 何が必要で何がそうでないのか? そういった物を考えなければなりません。
そうしなかったばかりに最善と思ってやったことが最悪な形になった……なんてことも珍しくは無いんですよ?
ですが、逆を言えばそうすることによって限られた数であっても十全てを救う事も……
そして、次への戦いを遅らせることだって出来るようになるんです。まぁ、必ずしもというわけではありませんがね」
 話すシンジであったが、エミヤは何も言えず、ただうつむいていた。
わかってしまったのだ。自分が今まで何をしてきたのかを……自分は人を助けたつもりが――
「あなたは守る、救う。ただ、それだけに目が行っていて、人という物がまったく入っていません。
それどころか己という物も入っていない。そうあなたは全てにおいて疎かにしすぎている。それがあなたの罪なのです!」
 と、懺悔の棒を両手に持つ映姫がそう言い放つが……その表情はどこか不満そうに見える。
というのも――
「もしかして、言いたいこと全部言われちゃったから、不機嫌になってませんか?」
「そんなことはありません!」
「きゃん!?」
 死神の小野塚 小町に痛い所を突かれたらしく、映姫は懺悔の棒で彼女の頭をはたいていた。
一方でエミヤは拳を握りしめる。そう、だからこそ自分はあの目的を果たさなければならない。
こんなことになった自分の運命を――
「自分殺しですか? 士郎さんを殺して……それで自分の運命を変えようとしてるので?」
「は、ばっかじゃないの? そんなんで本気で運命が変わるとでも思ってるのかしら?」
「なに?」
 エミヤの心を読んださとりの言葉に、レミリアは胸を反らしながら馬鹿にしたようなことを言い出した。
そのことにエミヤは殺気を含ませて睨むのだが、レミリアにはどこ吹く風といった様子である。
「あなたは知らないでしょうけど、運命っていうのは単純でもあり複雑でもあるわ。
あなたは自分で自分を殺すことで矛盾を生じさせて、あなたの運命を無かったことにしようとしたみたいだけど……
ハッキリと言うわ。無意味よ。例え、あの坊やをあなたが殺したとしても、それはその坊やが死んだということだけ。
その坊やの運命が終わるのであって、あなたにはなんの変化ももたらさないわよ?」
「な……デタラメを言うな!?」
 不敵な笑みを浮かべながら話すレミリアに、エミヤは思わず怒鳴っていた。
そんなはずはない……そんなわけがない……でなければ、自分はなんのために――
自分という存在を無くす為に士郎を殺そうとしたエミヤ。そうすれば自分が消えると信じたから……
そうすれば、この苦しみから逃れられると思ったから……なのに、あの吸血鬼は――
「言っておきますが、お嬢様は『運命を操る程度の能力』の持ち主です。その言葉に偽りなどございません」
「ちょっと待て」
 信じられないといった様子で睨むアーチャーに咲夜がそう言い放つが、それに待ったを掛けたのはエヴァである。
まぁ、凜も表情から見るに同じ心境のようだが――
「なんだ、そのデタラメな能力は!? というか本気でそんなこと出来るのか!?」
「やって見せましょうか?」
「やめといた方が良いかと……色んな意味でシャレにならないと思いますし」
 思わず叫ぶエヴァにレミリアは不敵な笑みを崩さずにそんなことを言い出し、シンジが待ったを掛けた。
確かにレミリアがその能力を使ったら、色々とやばいことになるのは目に見えている。
ちなみに宴会の時に能力を証明するためにネギを女の子にしたりしたが……それはあえて割愛しておこう。
更に余談だが、そこで紫の能力の詳細を知って、驚くエヴァもいたりするのだが――
 一方でエミヤは何も言えずにうつむくだけであった。レミリアの言葉を信じたわけではない。
だが、なぜか反論出来なかった。レミリアから感じられる気配が真実味を高めているように思えたから――
「ちょっと、お借りしますよ」
「な……」
 いつの間にか、干将・莫耶をシンジに奪われて驚くエミヤ。
で、そのシンジはといえば、干将・莫耶を持って士郎に近付き――
「はい、持ってみてください」
「え? え? え、あ、はい……」
 シンジに言われるままに干将・莫耶を持つ士郎だが、その表情は優れない。
というのも――
「さて、持ってみてどうですか?」
「え、えっと……なんというか、しっくりこないというか……違和感があるというか……」
「なん……だと……」
 シンジに聞かれて士郎は戸惑いながらも答えるのだが、それを聞いたエミヤは驚愕する。
干将・莫耶はエミヤ シロウを象徴する物と言ってもいい。もしくは、受け継がれてきたものと言った方がいいかもしれない。
第五次聖杯戦争……そこで士郎はエミヤの干将・莫耶を見て己の剣とし、やがて士郎はエミヤとなって英霊の座に行き――
そのエミヤは第五次聖杯戦争に喚ばれて……そんな繰り返しなのだ。
だからこそ、ここにいる士郎も例え干将・莫耶を初めて持ったとしても手に馴染むはずなのに――
「ふむ、どうやら上手く行ってるみたいですね」
「どういうことよ?」
「何、前例と同じ道を辿らせるつもりは私には無かった。それだけですよ。
ま、今までスカアハさんを通じて、あれこれやってきましたがね」
 眉をひそめる凜に、あごに手をやっていたシンジはそう答えていた。
そう、君嶋に任せたり色々と話を聞かせたりしたのも、全てはこのためであった。
エミヤが辿ってきた運命はあまりにも過酷で……救いが無かった。いや、救いはあったのかもしれない。
それすらも無視してしまったのだろう。それが今のエミヤを創ってしまったのかもしれない。
だが――
「例え、始まりが同じでも、終わりも同じとは限りませんよ。
それにあってもいいと思いませんか? あなたと違う運命を辿る士郎さんがいたとしてもね」
 人差し指を立てつつにこやかに話すシンジ。エミヤはそれをただ静かに聞いていた。
だが、もしそれが本当に起こるのなら――
「本当に……出来るというのか?」
「まぁ、難しい所ではありますね。現段階ではそうでも、今後次第ではあなたになってしまう可能性もありますし。
それに凜さん達にも問題はありますしねぇ〜」
「ちょっと待ちなさい」
 どこか期待の眼差しを向けるエミヤにシンジは頬を指で掻きつつ答えた。
確かに今は良くてもこの後次第では、今ここに射る士郎もエミヤになる可能性がある。
それを避けるべく、シンジも対策は考えてはいるが――
そこで待ったを掛けたのが凜である。良く見るとセイバーに桜、ライダーとイリヤもジト目になっている。
まぁ、自分達に問題があるように言われたのだから、当然とも言えるのだが――
「それはどういうことかしら?」
「いやぁ……凜さん達の場合、理不尽な迷惑とか掛けそうな気がしますしね」
「そうだな。っと」
 ニッコリと微笑みながら問い掛ける凜。しかし、感じられる雰囲気は明らかに怒りの物であった。
あまりの怒気にネギやのどかなどが怯えているが……シンジは気にした風も無く答え、翔太も同意しながらうなづいた。
その直後に凜からガントがいくつも放たれるが、シンジと翔太は軽くかわしていく。
 その光景を微笑ましく見ている一同だが、そこでスカアハは高音とシャークティがうつむいていたことに気付いた。
現実で起きたことを聞かされて、色々と考えてしまうことがあったのだろう。それ自体は悪いことではない。
だが――
(あの目は危険だな)
 高音とシャークティの目にはどこか決意の色が浮かんでいるように思える。
このことにスカアハは2人がエミヤのような間違いを犯さないようにと考えているのではと考えた。
事実そうであったが、それは危険だとスカアハは感じていた。そこであることを思い出す。
そう、あの時――
「高音とシャークティ……ここに来る前に紫が話していたことを覚えているか?」
「え?」
「な、何を?」
 スカアハのいきなりの言葉に高音は思わず顔を向け、シャークティは戸惑いを見せる。
一方でエヴァは睨み、紫は面白い物を見つけたとばかりに笑みを見せていたが。
「なるほど……それは話して置いた方がいいでしょうね」
 スカアハの言葉で高音とシャークティの様子に気付いたシンジもうなずいている。
正義の味方に必要な物はまだあるのだから――



 あとがき
そんなわけでアーチャーことエミヤは1つの希望を見出しました。
だが、一方で高音とシャークティにスカアハは忠告をします。その真意は果たして?
次回は幻想郷編最終回……のはずだよな? いや、たぶんそのはず(おい)
それはさておき、スカアハは高音とシャークティに欠けている物があると話します。
しかし、それはエミヤの過ちを気付かせることに……果たして、欠けている物とは?
そんなお話です。次回をお楽しみに〜



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