in side

 その後、俺達は助かった者達と一緒に洞窟の外に出ることにし――
「それじゃあ、ここでお別れね」
「行くんですか?」
「ああ、あいつらを俺達の世界に連れて行かなきゃならないしな」
 レイさんの言葉に理華が問い掛けると、啓自さんが武狼の連中を親指で差しながら答えていた。
そういや、レイさん達はその為にこの世界に来たんだっけ?
「それと……これは申し訳無いんだけど……あなた達の手伝いは出来ないと思うの」
「なぜに?」
「この世界は……私達の世界ではあまりにも魅力的すぎるのよ。
だから、武狼みたいな奴らがこの世界に来て、同じようなことをしないとも限らない。
それはもちろん止めるつもりだけど……たぶん、それで手一杯になっちゃうと思うから……」
 それを聞いて首を傾げた美希に、すまなそうに話していたレイさんは、これまたすまなそうに答えていた。
ま、確かに俺達としても、こんな事がまたあったら困るだけじゃ済まないからな。
なんとかしてもらえるだけでも良かったと思うべきか……
「ごめんなさい。でも、可能な限りあなた方に負担を掛けないようにするわ。だから、あなた達もがんばってね」
「ま、やるだけやってみます」
 レイさんの言葉に、俺はため息混じりに答えた。いや、気が重いってもんじゃないもん。
本当に逃げ出したい気分です……マジで……
「ははは……ま、がんばってくれよ。俺も応援してるからさ」
「私もよ。ああ、あなた達が連れて行った連中はいずれ迎えに行くから。それじゃ……私達はこれで」
「ああ、あんたらも気を付けてな」
 手を軽く振りながら、武狼の連中と共にレイさんと啓自さんを見送る俺達。
「では、私もそろそろ……」
「行くのか?」
「はい、それが私のやるべきことですので……」
 俺の問い掛けに声を掛けたヴァルキュリアがうなずいていた。
俺としては1人で大丈夫なのかと心配なのだが――
「確かに簡単なことではありません。ですが、止めなければ兄だけでなく、多くの人達が苦しむこととなります。
私はそれを止めたいのです。ヴァルキュリアだからというわけではなく、リィナとしても……」
 胸の前で手を握りしめながら、ヴァルキュリアは強い意志を感じさせる声で話していた。
俺としては正直羨ましい。だってさぁ……とんでもないことばっかで、本気で一杯一杯なんだもん。
「ですが……もし、それを終えることが出来たら……翔太さんのお手伝いをしますから……」
 なんて、顔を赤らめながら、そんなことを言ってくれるヴァルキュリア……
ええと、喜んでいいのだろうか? それに、なんかすっげぇ視線を感じるんだけどね。
「ええと……そん時は頼むわ、ヴァルキュリア……」
「リィナでいいですよ。私はリィナであり、ヴァルキュリアでもありますから……」
 とりあえず答えておくとヴァルキュリア……リィナに微笑みながら、そんなことを言われる。
まぁ、確かにそこはかとなくリィナの面影はあるけどね。呼びづらかったというか……
「翔太さん……あなたがやろうとしていることはとてもつらく、険しいものです。
けど、私は信じています。あなたなら、やり遂げられると……」
「いや、そんなこと言われてもな……」
 胸の前で両手を組みながら、祈るように両目を閉じるリィナだけど……
いや、俺としてはそんなこと言われても困るんですけど。変な期待を掛けられるとプレッシャーというかなんというか――
「では、がんばってください。私も心から応援していますから」
 そう言い残すと、リィナは空に舞い上がり……どこかへと飛んで行ってしまうのだった。
ええと……俺にどうしろと?
「なぁ、なんで俺に期待するようなことを言うわけ?」
「今の所、お前しか動いてないからだよ。今回の事態に」
 肩を落とす俺に、スカアハはため息混じりに答えてくれましたが……
しつこいかもしれないけど、なんでこんなことになってんだろうか? 本当に逃げ出したいですよ。
「まぁ、大したことは出来へんが、わいらも手伝うさかい。がんばってぇ〜な」
 なんてことを笑いながら言ってくれるスリルさん。
それに思わずため息を吐くはめになっちゃったけど……ホント、どうなることやら――
「なら、早速お願いしようかしら。そろそろカスタマイズをお願いしようと思ってたもの」
「任せな! 流石にただには出来へんけど、特別安くやってやるからな!」
 いきなりそんなことを言い出すメディアに、スリルさんは胸を叩きつつ自信ありげに答えていた。
カスタマイズって……ああ、そういやメディアって、ある意味造魔でもあるんだったな。
確かに今の内にしておくのもいいかな? そう思ったので、スリルさんを送るついでにメディアのカスタマイズを行うことにした。
今回したのは魔法に関係するものを強化らしいのだが……あの、そこはかとなく胸が大きくなってる気がするんですけど……
 その後、スリルさんと別れた俺達は生き残ったサマナーを連れてノーディスに戻り、ギルドを訪れていた。
「ありがとう。まさか、その日の内に解決してくれるとは思わなかったよ」
「いや、まぁ……成り行きと言いますか……」
「それで、今回のことはどうするのだ?」
 今回のことを話すとジョージさんにお礼を言われるが、俺としてはただ困るばかりである。
だって、本当に成り行きだったのもあるけど……そんな時にスカアハがそんなことを聞いてた。
どうするって……どういうことよ?
「サマナー狩りをしていた悪魔がいて、多くのサマナーがそれによって犠牲になり……我々が総力を挙げてその悪魔を倒したことにする。
下手に真実を明かすのは……もしかすると、君達が避難をあびることになるかもしれないからね」
「そうか……助かる……」
 ジョージさんの話にスカアハはすまなそうに返事をしたけど……でも……それでいいんだろうか?
「すいません。俺が全員を助けられていたら――」
「いや、今回の事は君に非は無い。むしろ、私達がお礼を言わなければならないんだ。
このままだったら、被害はもっと大きくなっていたかもしれないし……もしかしたら、とんでもない事態になっていた可能性もある。
確かに全員を助けられなかったのは残念だったが……君はそれらを未然に防いだんだ。だから、あまり気に病まないで欲しい」
 頭を下げる俺にジョージさんはそう言ってくれるけど。でも、俺としては納得出来なかった。
悔しい……というわけじゃない。ただ、これでいいのかと思ってしまう。
「今日はもう遅い。帰って休みたまえ」
「……はい」
 ジョージさんにそう言われ、俺はうつむいて返事を返すしか出来なかった。


 そのまま、家に戻ってきたのだが――
「あ、翔太さん。君嶋さんから、お手紙をお預かりしております」
「君嶋さんから? なんだろ?」
 ラウルの言葉に首を傾げながらも、手紙を受け取って開いてみる。
そういや、君嶋さんは武狼の連中をノーディスに連れてきたんだよな? その後、どうしたんだろ?
後で聞かないと……ええと、何々――
翔太君、マズイ事態になった。政府にボルテクス界のことがバレたようなのだ。
それだけならまだ良かったのだが、他国の機関も気付いたらしいという情報があった。
その対処の為に香奈子と共に戻らなければならない。なので、お嬢を頼みたい。
それと……君は今回の事件が解決するまではこちらの世界に戻らない方がいい。
たぶんだが、政府の手の者か、どこかの機関の者が穴を監視しているだろう。
そこに君達が戻れば、間違いなく拘束される。そうなれば、全てがおしまいになってしまう。
ご家族の方は私達の方で誤魔化しておく。すまないとは思っている。だが、こうするしかない。
出来うる限り早く事態を収拾するつもりだ。それまでがんばって欲しい。
「……何これ?」
「まったく、次から次へと……」
 手紙を読み終えた後、思わずそんなことを漏らしてしまう。スカアハも手で顔を覆いつつ、そんなことを漏らしてたけど……
つまり、俺達は元の世界に戻れなくなった? え……っと、どうすりゃいいのさ?


 out side

「翔太はどうしてる?」
「寝室にいるけど……大丈夫かな?」
 夕食が終わってすぐに翔太は寝室に向かってしまったために、スカアハは理華に様子を見てもらいに行ったのだが――
理華の返事を聞いて、かなりの重症かとスカアハは考える。だが、それも無理はなかった。
本来なら、段階的に伝えるはずだった色んな真実。翔太はそれを一気に知ってしまったのだ。
その真実の規模の大きさに心が押し潰されてしまったとしても、おかしくはない。
故にスカアハはどうするべきかと考えてしまう。
「翔太は……大丈夫なのだろうか?」
「厳しいだろうな。サマナー達のことだけでなく、自分の世界に帰れなくなったんだ。
思い悩んでいたとしても不思議では無い」
 心配そうに問い掛ける美希に、スカアハは腕を組みながら答える。
真実を知るというだけなら、翔太もすぐに立ち直れたかもしれない。
問題なのはサマナー行方不明事件で起きてしまったことが翔太の心に影を落としてしまったことだ。
そこで起きた惨状や犠牲者達の姿。そのどれもが耐性の無い翔太には衝撃的で、だからこそ思い悩んでしまう。
更に困ったことに元の世界に帰れないという事実も、悩みに拍車を掛けてしまっている。
このことにスカアハはエヴァの別荘を借りて、考える時間を与えるべきかと考えていた。
一方で理華、美希、ミュウはある決意をしていたのだった。


 in side

「ん……あ〜……」
 朝になったせいか、俺は目を覚ました。ええと、確か……あの後はベッドに横になって――
色々と考えている内に寝ちまったか? まったく、昨日は……どうしてあんなことになったんだか……
そんなことを考えそうになって……そこでおかしなことに気付く。
いつもなら、俺の両隣に理華と美希にミュウが寝ているはず……いや、今も寝てるけどね。
うん、落ち着こうか……OK……いや、無理だって。だってね、起き上がる時に両手をベッドに付いたんだが……
その時にね……俺の両手にね……理華と美希の胸が当ってるんだって……直接……
というか、なんであんたら服着てないの!? おかげで全部見えてます!? ありがとうございました。
いや、そうじゃなくて!? 俺、何もしてないよね!? うん、下着はそのままだ。
関係無いが、俺は寝る時は下着のみで寝ている。うん、本気で関係無いな。
「お、おい、お前――」
「翔太……」
 とりあえず、起こした方がいいかと思って声を掛けようとしたんだが……
寝返りをした理華の顔を見て、その先が言えなくなってしまう。
だって、理華は泣きそうな顔をしていたから……良く見れば、美希やミュウも同じだった。
「たく、どうしろっていうんだよ……」
 これに思わず手で顔を覆いつつ、うめいてしまう。
いや、もう本当に……どうしたらいいんだろうか?
「ん、んん……」
「あ、ん……」
「ふぁ、あ……」
 なんてことを考えている内に3人が起きてしまう。さて、本格的にどうしようか?
俺は下着は着ているとはいえ、周りは裸の女性が3人。しかも、かなり魅力的です。
そんでもって、かな〜り犯罪チックですよね? うん、どうしたもんか――
「あ、翔太……ん……」
「はい?」
 で、俺に気付いたらしい理華が寝惚け眼をこすってたかと思うといきなり抱きつかれました。
しかも、美希とミュウにも……ええと、なぜ?
「大丈夫だよ……私は……私達はずっと翔太のそばにいるから……」
「そうだ……だから、1人で悩まないでくれ……」
「そうだよ、翔太……」
 理華が涙を流しながら呟くと、美希とミュウも同じく涙を流しながら呟いていたけど……
どうやら、かなり心配させていたらしい。でもまぁ……あんなことを知った身としては、本気でどうしようかと思ったけどね。


 out side

「まったく、一晩で立ち直るとはな」
「いや、立ち直ったわけじゃないからね」
 しばらくして、翔太達は装備を新しくしてから町の外で探索をしていた。
あの後、様子を見に来たスカアハに見られるまで3人に抱かれた状態になっていた翔太。
それをスカアハが羨ましそうに見ていたのは気になったが……それはともかく、そのおかげか翔太は立ち直れた……というのは語弊がある。
どういうことかというと、ある意味吹っ切れたとも言えるからだ。
「こうなりゃ、もうどうにでもなれ」なんて言っていたし……やぶれかぶれになったともいうが……
 それはともかく、その後にGUMPにメールが届き……どうやら、シンジが新たに付けた機能の1つらしい。
そのメールにここへ行けとマップ付きで指示され、今はそこへと向かっている最中であった。
「でもよ、良く立ち直れたな」
「いや、まぁ……乙女の涙は反則だなぁって思っただけだ」
「はぁ?」
 なぜか顔を背けて答える翔太に、事情を知らずに問い掛けたクー・フーリンは首を傾げるはめとなったが。
そんなこともあったものの、翔太達は無事に目的地にたどり着く。そこには新たな穴があった。
「これって、新しい世界に行けってことか?」
「たぶんな……しかし、このことを言ってないのはおかしいが……」
 問い掛ける翔太にスカアハは首を傾げながら答える。というのも、シンジから場所の指定以外は何も言われて無いのだ。
別の世界の者達が宇宙の卵を手に入れたとも言っていたので、そのことかとも思うのだが――
その時だった。
「て、なんだぁ!?」
「「きゃあ!?」」
 穴から何かが飛び出すのが見え、翔太と理華にミュウは思わず跳び退いてしまう。
他の仲魔達も同じだったが……何が起こったのか? 実は巨大な物が穴から現れたからだ。
それはどこか装甲車を思わせる形をして、上の方には戦艦の砲台のような物が取り付けられていた。
問題なのはその大きさ。なにしろ、ちょっとした屋敷ほどの大きさなのだ。
しかも、それが4台もあり……色んな意味で異様な光景となっていた。
「なに……あれ?」
「わからんが……ただ事ではなさそうだ」
 思わず漏らす翔太にスカアハも戸惑いを隠せないままに答えるが……その時、装甲車らしき物のハッチが開き――
そこから妙な形のヘルメットを被った者達が大勢現れたかと思うと、翔太達を取り囲んでアサルトライフルを向けたのである。
「ええと……何、この状況?」
「さてな……だが、良くない状況なのは間違いなさそうだが……」
 思わず両手を挙げてしまう翔太に、スカアハは呆れた様子で答えていた。
しかし、状況は最悪である。相手はどうやら訓練された人間らしく、動きに無駄が無い。
逃げるのは困難か……そう思われた時だった。
「待て!」
 同じ格好をした1人が、指示を出した後に翔太達の前に現れる。
「すまないが……君達は人間か?」
「へ? あ、ま、まぁ……俺とかは人間と言えば人間だけど……」
 翔太達の前に立つ者の問いに翔太が戸惑いながら答えると、翔太達を取り込んでいる者達がざわめき始めた。
なんだろうと不思議に思いながら、翔太達はその光景を見ていると――
「あ、隊長!? それを脱いでは――」
 翔太達の前に立つ者がヘルメットを脱ぎ始めたのである。そのことに翔太達を取り込んでいた1人が慌てるが――
「いや、問題無いようだ。すまない、この世界に来た時に君達がいたものでね。
悪魔が襲ってきたのかと警戒してしまったんだ。突然の無礼、わびさせてもらう」
 ヘルメットを脱いだ者は男性だった。翔太よりも年上……成人年齢よりも少し上といった感じを受け、凛々しい顔立ちをしている。
また、黒髪をオールバックにもしていたが……その男性が翔太達をじっと見ていた。
「あ、あの……あなた方は?」
「失礼、自己紹介がまだだったね。私はタカハシ ハヤト……シュバルツバース調査隊、総隊長を務める者だ」
 戸惑いながらも問い掛ける翔太に、男性……ハヤトは姿勢を正しながら答えるのであった。

 今ここに過去と現在が絡み合う。果たして、その先にあるのは――



 あとがき
助けられなかったつらさと真実を知ったことによるプレッシャー。
それに押し潰されそうになる翔太ですが、理華達のおかげでなんとか前に進むことは出来ました。
しかし、それがどのような影響を及ぼすのか……

それはともかく、やっと彼を出せました。短編から丸1年……彼が登場するのは連載開始頃に決まっていたのですが……
出すタイミングを今と決めてもいたので、結局時間が掛かってしまいました。
後、なのは達はいつ出るのか? というご質問ですが……後もう少しで登場しますよ。

さて、次回はハヤト達と出会った翔太達。そこでは新たな事実が明かされることとなる。
果たして、その事実とは……というような、お話です。お楽しみに〜



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