out side

 目の前の女性の存在にプレシアは驚かずにはいられなかった。
なぜなら、目の前の女性がアリシアのはずがないからだ。だって、アリシアは小さな女の子のはずで――
だから、プレシアは目の前の女性を否定しようとして、それが出来なかった。
出来ないのだ。否応なしに目の前の女性がアリシアだとわかってしまう。
でも、そんなはずはないのに……そう考えるプレシアは必死に否定しようとしていた。
「お母さん……見えるんだよね? 私の姿が……聞こえるんだよね? 私の声が……」
 そんなプレシアに気付いていないのか、アリシアと思われる女性は涙を浮かべながらも嬉しそうな顔をしている。
それを見たプレシアは酷く動揺する。なぜなら、その笑顔は自分が望んでいたものと一緒だったから――
「アリ……シア? 嘘……そんなはず無い……だって……アリシアは……」
 混乱しながらもプレシアは必死に否定しようとした。
ありえない。ありえるはずがない。だって、アリシアはまだ小さな女の子で――
「もう、お母さんったら……あれから何年経ったと思ってるの? 私だって成長するよ」
 と、プレシアの言葉が不服だったのか離れたアリシアは不満そうな顔を見せる。
それを聞いたプレシアはそこで思い出す。確かにアリシアが死んだあの事件から20年以上経っている。
それを考えればアリシアが成長すればこんな感じになるだろうという感じはしたのだが――
「でも、嬉しいよ……お母さんとこうして話せるのが……
今まで、私の声が聞こえて無かったみたいだから……とても……不安だったんだよ……」
 再び涙を流しながら、アリシアは悲しそうな顔を見せる。
その時になってプレシアは気付いた。アリシアは生きていたのか?と。
だが、すぐにそんなはずはないと否定する。だって、あのカプセルの中にいたアリシアには生命反応は一切無かった。
当然だが、死体が成長なんてするはずもない。けど、目の前にいる女性もアリシアにしか思えなくて――
だから、どうしても混乱してしまう。この女性は何者なのかと。
「本当に……アリシア……なの? でも、あなたは……」
「うん、私はアリシアだよ……でも、なんて言えばいいのかな……ここにいる私はお母さんには今まで見えていなかったみたい……」
 混乱のまま漏らした問い掛けに、アリシアは悲しそうな顔をしたままそのことを話し始めた。
今から二十数年前に起きた事故でアリシアは命を落とした。本来ならば彼女はそこで終わるはずだった。
だが、気が付くとアリシアはカプセルの中にいる自分を見ていた。最初は何が起きているのかわからず混乱した。
確かめようにも物に触れることが出来ない。自分の体がすり抜けてしまうからだ。
プレシアが来た時は嬉しかったものの、プレシアは自分のことが見えていないようで気付くことが無い。
アリシアが呼びかけても反応しない。アリシアが泣き叫んでもそれは変わらなかった。
ここでようやく自分の姿も声もプレシアに届いていないことに気付いたアリシアは悲しんだ。
プレシアが自分を大事にしてくれていたんだとわかったのに、プレシアがその想いを向けるのは自分ではなく自分の体。
これでは仕事で構ってもらえない時と同じ……いや、それ以上に寂しく感じたのだ。
 だから、アリシアは自分のことを伝えようと色んな事を試みてみるが、叶うことは無かった。
わかったのは自分の姿は誰にも見えず、声も誰にも聞こえていないこと。
自分は何かに触れることが出来ないこと。また、遺体となっている自分の体からあまり離れられないことなど――
悲しかった。悲しかったが最初の頃は我慢出来た。いや、逆に嬉しく感じた。
自分の死に悲しんでいたプレシアがある日を境に何かを始めようとしたのだ。
その為にリニスを使い魔として蘇らせたりと、その頃は何をしようとしていたか理解出来なかったが、本当に嬉しかった。
しかし、それは時間が経つにつれて不安と恐怖へと変わっていく。
プレシアは鬼気迫る形相で何度もどこかへ行ってしまい、戻ってきても自分のそばで何かを調べたりしていた。
たまに通信で誰かと話していたりもしたが、その時のプレシアの言葉は怖かった。
なぜなら、アリシアが知っている優しい声では無かったから――
 やがて、時の庭園にこもりきりとなったプレシアは一心不乱にあるものを創り上げようとしていた。
この頃のアリシアは成人年齢を超えており、体もそれに見合うかのように成長していた。
もっとも、色んな事を制限された状況故に精神的には幼さが強く残ってしまったが。
そんな精神状態もあったのだろう。アリシアはそんなプレシアから恐怖しか感じられなくなっていた。
自分が覚えている面影が、今のプレシアからは完全に失われていたから――
 そんなある日、フェイトが生まれる。それを見た時、アリシアはフェイトは自分の妹だと思った。
プレシアは自分との約束を覚えていて、今までのことはそれを叶えるためにやってきたんだと思ったのだ。
プレシアもフェイトが現れたことで少しばかり昔の面影を取り戻し、それを見たアリシアから不安が和らいでいた。
けど、それは間違いだった。しばらくして、プレシアはいきなり怒り狂ったのである。
この時のアリシアは知らなかったが、フェイトがアリシアと違うとプレシアが思ってしまったからだった。
それからプレシアは今まで通りに戻ってしまう。いや、それ以上にひどくなってしまった。
フェイトに何かをしたかと思えば、アリシアから見ても過酷なことをさせ――
更には使い魔だったリニスを消してしまった。あの時のリニスの顔をアリシアは忘れられない。
リニスは自分が消えていくのを納得していたようだけど、凄く悲しそうな顔をしていたのだから。
その後もプレシアはフェイトにひどいいことをしていく。そのことにアリシアはもう耐えられなかった。
やめて欲しかった。いくら自分の為でもこんなことはして欲しくなかった。
自分を忘れたっていい。こんなことはやめてフェイトと静かに暮らしてくれればいい。
そう言いたかった。これ以上、日に日に怖くなっていくプレシアを見たくなかった。
でも、それを伝えることが出来ない。出来ないから悲しくて泣いた。泣き続けた。
だから願った。自分が消えてもいいからこの想いを伝えたいと――
「おや、どうなされましたか?」
 長い年月を掛け、その願いは叶った。ついに自分の姿が見える者が現れたのだ。
その時、アリシアはその者に一心不乱にお願いした。自分はどうなってもいいから母親を止めて欲しいと。
「まぁ、落ち着いて。とりあえず、事情をお聞かせください」
 その者に言われて、ようやく落ち着きを取り戻したアリシアは今まで見てきたことを話した。
その者は話を聞くとうなずき――
「なるほど、わかりました。なんとかしてみましょう。ですから、あなたにもやって欲しいことがあるのですが」
 そう言われてわかったとうなずくと、その者は今回のことを話し始めた。
プレシアと話せるようになると聞いた時は驚いたが、それでやめさせられるならと協力することを約束したのである。
ここでアリシアはその者が何者なのか知らないことに気付き、誰なのかを聞いたのだが――
「私ですか? そうですねぇ……今は通りすがりのお節介好きな小悪党と言っておきましょう」
 などとにこやかに言われてしまったが、その者は約束通り自分を母親と会わせてくれた。
だから、この時のアリシアはその者が小悪党には見えなかったのである。
「多分だけど……この後、私は消えちゃうと思う。願いが叶ったんだから……でも、それでいいの。
だって……だって、やっとお母さんとこうして話すことが出来たから……だから、もういいよ……
もう、やめよう……私のこと、忘れていいから……やめてよ……これ以上……お母さんが……ひどいことするの……見たく、ない……
やめてよ……もう、やめて……こんなの……こんなのって……」
 涙を流しながら話すアリシアだったが、最後の方で泣き崩れてしまう。
自分が消えるのが怖くないわけではない。でも、それ以上にプレシアがひどいことをするのを見たくなかった。
その想いがあふれ出た為に泣き崩れたのである。
「あ、ああ……」
 これを見たプレシアは震えながらへたり込み、思わず自分の両手を見つめてしまう。
生まれてしばらく経ったフェイトを見た時、アリシアでは無い者を生み出してしまったと思ってひどく嫌悪した。
だって、アリシアとは仕草が違うし、使えるはずのない魔法も使って見せたのだから。
そのせいでフェイトをアリシアの姿をした小汚い人形だと見ていた。でも、それは間違いだった。
フェイトが違っていたのではない。違っていたのは自分。気付いていなかっただけなのだ。
自分があまりにも変わりすぎたことに。そのせいで自分はフェイトに――
「あ、ああ……ああっ、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
 そのことに気付いた時、今まで自分がしてきたことを思い出したプレシアは両手で頭を抱えながら悲鳴を上げた。
元々プレシアは強い女性では無い。フェイトの記憶にもあったように心優しい母親だった。
今のプレシアは昔の自分を無理矢理封じ込めていたにすぎない。しかし、自分のしたことに気付いた今、封じ込めていた物が蘇り――
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
 今まで自分がしてきた罪悪感が一気に心にのしかかり、プレシアの心は壊れたのだった。


 in side

「まぁ、私から言わせてもらうとプレシアさんは一応目的を果たしていたんですよ。
しかし、精神状態もあったんでしょうが、一応ではダメだったんでしょうね。それでこんなことをしでかしてしまったと」
 ため息混じりに話すシンジ。まぁ、何を話していたかというと、魂のみで生きていたアリシアに聞いたことなんだが。
俺はというと複雑な心境だった。他のみんなも同じらしく、悲しそうな顔をしていたり複雑そうな表情をしてたりする。
しかし、プレシアのことはアニメで見ていたんで知ってはいたが、改めて聞くと同情したくなってくる。
確かにプレシアのしたことは許されることじゃないだろう。でも、その経緯を考えると責めることが出来ないんだよな。
「なぁ……何が悪かったのかな?」
「こう言ってしまうと身も蓋もないのですが、運が悪かったとしかいいようがないですね。
アリシアさんやフェイトさんから聞く限りでは、プレシアさんは本来は心優しい方のようでしたし。
ですが、そんなことが立て続けに起きたために精神的に耐えられずに狂ってしまい、こんなことをしてしまったんだと思いますよ」
 俺の疑問にシンジは肩をすくめながら答えていたが、それを聞いてそうかもと思ってしまう。
ここら辺は詳しく描写されてなかったけど、プレシアはろくな目にあってなかったのは確かみたいだし。
そういや、stsのスカリエッティとも会ってなかったっけ?
あんなのじゃなくて、もっとまともな人と会ってりゃこんなことにはならなかったかもしれない。
そういった意味で考えると本当に運が悪かったとしか思えないな。
「それじゃあ、フェイトちゃんのお母さんをどうするんですか?」
「まぁ、アリシアさんとフェイトさんとも約束してますから、なんとかしますけど……真面目な話、どうしましょうか?」
「待てや、おい」
 なのはの疑問にシンジは首を傾げるが、それに思わずツッコミを入れてしまう。
いや、ていうかどうにかするために来たんじゃないのか?
「いや、戻ってきたプレシアさんの状態にもよるんですって。
ですから、場合によっては話していたように犯罪みたいなこともしなけりゃなりませんし」
「お前ならどうにでも出来ると思うんだが?」
「勘違いなされてるようですけど、この後を考えれば何をしてもいいわけじゃないんですよ。
いいと思っていたことが後で困った事になるなんてことも珍しいことじゃありませんしね」
 こいつならどうにでもなると思ったが、ため息混じりに話していたシンジはやれやれといった様子で答えていた。
それでもこいつならどうにでもなるんじゃ? と思ったんだけど――
「下手な干渉が後にどんな影響を及ぼすか考えて言ってます?
私だってなんとかしてあげたいですが、だからといって何をしてもいいというわけではありませんよ。
まぁ、私が言えた義理では無いのはわかってますが……下手な事をすれば、なのはさん達に迷惑が掛かりますからね。
それを避けるためにも慎重に行動しなきゃならないんですって」
 思わず聞いてしまったが、シンジからやれやれといった様子で返事が返ってきた。
そうなのかと考えてしまうが、よくよく考えるとそう都合がいいことが起きるとは限らないことに気付いた。
だってさ、リィナの時なんてそうじゃん。助けられなかった人は多かったし、リィナもあんなことになったし。
「あ、ああ……あぁ……」
 そんなことを考えていたら、プレシアの声が聞こえてきた。
顔を向けて見るとプレシアが涙を流しながらへたり込んでしまっていた。
そんなプレシアにシンジは近付き、顔の前で手を振ってみるもののプレシアは無反応。
今度は目を覗き込んでからシンジは深いため息を吐き――
「精神の喪失状態ですね。これは……」
「つまり、どういうこと?」
「まぁ、身も蓋もない話ですが……精神崩壊を起こしたようですね」
 嫌な予感しかしないが、一応問い掛けると沈痛な面持ちのシンジは静かに答えた。
その瞬間、何かが落ちる音が聞こえたので振り返ってみると、フェイトが床にへたり込んでいた。
顔を見ると今にも泣きそうになっている。プレシアが精神崩壊起こしたと聞いてショックだったんだろうな。
なのはやはやてにアルフが慰めているけど、フェイトの表情が変わることはなかった。
「で、どうするんだ?」
「まぁ、こうなってしまったのも私の責任でもありますしね」
 俺の疑問にシンジはため息混じりに答えるが、何する気なんだろうかこいつ?
洗脳まがいのことをするかもとは聞いてるけど、まさか本当にやる気じゃないだろうな?




 あとがき
そんなわけでみなさん、お待たせしました……かな?
なんか、心配してくださった方もいたみたいで申し訳ありません。
震災の方は大した被害もありませんでした。では、なんで投稿がこんなに遅れたかというと――
実は震災後から別な意味で大変になりまして……
前々から私が執筆の仕事(バリバリの18禁小説書きです)をしてたのはお話したと思います。
そのお仕事が一気に複数来ちゃいまして……それでてんてこ舞いになってる時になんやかんやと起きてしまい――
結果、投稿SSがこんなに遅れましたと……うん、なんであんなに立て続けに起きるかね?
それでしばらく燃え尽き症候群みたいな感じにもなってました。いや、立ち直るのに苦労しました^^;
なお、私の18禁が読みたい方は私が登録してるアイラブユーカンパニーで探してみてください(おい)
というか、現在もてんてこ舞い状態ですよ。
なんでだよ……3つ来て、2つ終わって残り1つだと思ったら3つも来るってありか?
それとは別に2つ程お仕事もらうためのSSも書いたし……たぶん、2ヶ月で本2・3冊出せるくらいに書いたよ。

ただ、実を言いますと……このSS以外のSSは書いてたりするんですよね。仕事以外で。
実はこのシルフェニアにも1つあったりします。これを言えば、すぐにわかると思いますが^^;
また、小説を読もうにも1つあります。興味がありましたら、探してみてください。

さて、今回はプレシアの精神崩壊で話が終わってしまいました。
本当はもう少し進めたかったのですが……実は次回でなのは編終了(予定)だったりするので……
ただまぁ、今回のお話はシンジばかり目立ってますが、翔太の成長話でもあったりします。
そうは見えないですが……うん、もうちょっとわかりやすく書こうや私――
次回はそれを踏まえて書きたいです。え? 今のは書き直さないのかって?
いや、勘弁してください。今の状態で書き直すとかツライですから……
そんなわけで次回はなのは編最終回。プレシアはどうなるのか? アリシアは?
翔太達はまた別の世界に向かうことに。そこで待っているのは? というようなお話です。
それでは次回……は、いつになるんだろうか? マジで……

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