翔太達が秋葉原などを見て回っている頃――
「以上を持って、報告を終わりたいと思います」
 榊原グループが持つ会社の中にある会議室で、君嶋は書類片手に重役達にある報告を終えた所であった。
その報告とは異世界『ボルテクス界』についてのこと。その報告は重役達を驚かせるには十分であった。
妖精や魔獣、天使など自分達が空想の産物だと思っていた者達が実際に存在し、
それらがボルテクス界では総称として『悪魔』と呼ばれているということ。
その悪魔に襲われていた所を現地の『サマナー』と呼ばれる者に助けられたこと。
サマナーとは『COMP』と呼ばれる機械を使い、悪魔を従えることが出来る者であるということ。
また、ボルテクス界では普通の人間も存在し街もあって、そこで暮らしているということ。
自分達は助けてくれたサマナーの行為で4日ほど滞在し、その間に先程のことも含めたことを調べていたことを話した。
「ふむ、ボルテクス界か……」
「その前に悪魔ですか……人を襲うのは名前の通りと言いますか――」
「しかし、あの姿は悪魔とは見えませんな」
「ですが、人を襲うというのなら、もしこちらに来てしまったら大変な事に――」
 などと話し合う重役達であるが、ここで気付いた方はいるだろうか?
君嶋が”全てを話していない”ということに――
 なぜ、全てを話さなかったのか? それは昨夜、翔太達が元の世界に戻り、みなが別れた後に遡る。


「ところで聞きたいのだが、お前達は調査も兼ねてボルテクス界に来たのだったな?」
「え、ええ、そうですけど?」
 走るバスの中で問い掛けるスカアハに京介はうなずいた。なお、本気で余談だが、ウルスラとクノーはバスをキョロキョロと見回している。
ボルテクス界ではバスのような乗り物は無かった為、本気で珍しかったからだ。
それはそれとして、確かに君嶋や香奈子、京介らがボルテクス界を訪れたのはボルテクス界の調査の為である。
もっとも、美希にしてみればそれは表向きの話であり、本当は翔太達の手助けをしたいための方便であったが。
「ということは、報告をするということだな?」
「当然だが……それがどうかしたのか?」
「なに、少しばかり内緒にして欲しいことがあるのだよ」
 何かあると感じた君嶋が答えると、スカアハは当然とばかりにうなずく。
なぜ、内緒にしなければならないのか? 君嶋らや刹那に真名にミナト、ウルスラとクノーは疑問に感じるが――
「まず、ボルテクス界とボルテクス界と繋がった世界が崩壊するという話は言わない方がいいだろう」
「なぜだ? 翔太の手助けのためにはそれは話した方がいいのではないのか?」
「そうしたいのは山々だが……それによって起きる混乱がどのようなものになるかが不安なのだよ」
 スカアハの話に疑問を感じて問い掛けた美希は首を傾げる。
美希としては翔太の手助けの為にはそれは必要なのだと感じている。それはスカアハ以外のみなも同じであった。
そうすれば協力してもらえ翔太を手助け出来ると思ったのだが、それによって混乱が起きるということが理解出来なかったのだ。
「じゃあ、聞くが……いきなりあなたは死にますと言われて、納得出来るか?」
「え?」
「む……そういうことか……」
 スカアハの言葉に美希は思わずきょとんとするが、君嶋だけは理解出来たようで顔をわずかにしかめていた。
どういうことか? あなたは今のスカアハのようなことを言われたらどう思うだろうか?
そんな馬鹿なと信じない? そうなのかと戸惑いながら受け止め、どういう事なのかを考える?
人によってそれぞれ受け止め方は違うだろう。だから、信じて大いに混乱する者も現われてもおかしくはない。
ボルテクス界とボルテクス界と繋がった世界が崩壊するという話もこれに近いのだ。
 ただ、信じなかったり、どうするかを考えるならまだいい。問題なのは大いに混乱した場合である。
皆様は火事や災害などで人々がパニックを起こすという所をテレビ番組などで見たことがあると思う。
それを見ていればわかると思うが、人は混乱したり錯乱したりすると時にはとんでもない行動を起こすこともある。
例えば、その崩壊の原因はボルテクス界にあると考えて、攻め入ってくるとか――
 もし、そうなれば翔太の世界とボルテクス界の全面戦争ともなりかねない。
それが自分達の世界の崩壊を手助けするとも知らずに。人とは時としてそういうこともやりかねないのだ。
スカアハらはそのことを危惧しており、紛争などに参加したことがある君嶋もそのことに気付いたのである。
 ただ、危惧しているのはそれだけではない。崩壊の話を聞いて対策を考えるのはいいのだが、それで翔太を閉め出されるのはまずい。
確かに自分達の世界の命運をたった1人の青年に預けるわけにはいかないのは当然だろう。
だが、そんなことをされると翔太の運命に掛けられた呪いが解けなくなってしまい、また同じような危機が世界に訪れてしまう。
説得するか世界の崩壊を止める為の部隊が組織されて、それに参加する方法もなくもないが、
それによって時間を取られて崩壊が始まったとなれば、本末転倒である。
 いずれ、ボルテクス界や崩壊のことは世界中に伝わることになるかもしれない。
だが、そうなることを遅らせることが出来れば、先程の危惧が起きる可能性を遅くすることが出来る。
それに翔太が集めている宇宙の卵と世界の羅針盤のことも知られないようにする為でもあった。
宇宙の卵と世界の羅針盤は世界を書き換えることが出来る物だ。そんな物が知られたら、まず狙われる。
それこそ世界中を敵に回しかねないほどに……だからこそ、知られない方がいい。
スカアハらはそれらも踏まえての考えだったのである。
また、翔太の呪いを知られて馬鹿なことをしでかす者を出さないようにするためでもあったりするが――
「なるほど……そうなっては困りますね……」
 スカアハからその話を聞いて京介は納得するが、逆に美希はつらそうに顔をうつむかせていた。
自分がしたことで翔太が逆に危機になったかもしれないと理解して落ち込んだのである。
ただ、これは一概に美希が悪かったとは言えない。なにしろ、事態が大きくなりすぎている。
それにいくつもの世界を巻き込んだ事件なのだ。だから、何が起るのか予想がとても困難であった。
スカアハらのように危惧のことに思い至る者は専門家とかでも無い限りは早々いないだろう。
「それとフォルマと生体マグネタイトのことも内緒にした方がいい。それで乱獲に走ってボルテクス界を敵に回したとなれば、目も当てられん」
 スカアハの話にうなずいたのは君嶋と香奈子、京介と真名であった。
フォルマは現在、武器や防具などの合成による強化やアミュレットやアイテムの製作によって効力を発揮している。
むろん、それだけではないだろうが、それだけでも魅力としては十分である。
そんな魅力的な物を欲しがる者が現われても不思議では無い。そこで問題となるのがフォルマの入手方法となる。
知っての通り、フォルマは悪魔を倒すことで手に入る。フォルマを欲しがる者達はそれを手に入れるために悪魔を倒すのは当然だろう。
そして、多くのフォルマを手に入れるために多くの悪魔を倒すことになる。それが問題なのだ。
悪魔は獣ではない。思想こそ違うが、悪魔は人と同じように意志と心をもつ。
そんな悪魔がそんな目にあったら報復なんてこともやりかねない。そうなれば、戦争にもなりかねなくなる。
今の状況でそんなことになれば、本末転倒所ではない。
 生体マグネタイトもフォルマと同じことが言えるが、もう1つは人に与える影響である。
現に翔太は生体マグネタイトの影響で身体能力が異常なまでに向上している。それこそ、高位の悪魔と戦えるほどに。
それを知られれば、ろくでもないの目的で手に入れようとする輩がいてもおかしくはなかった。
 それらを避けるために、今の段階ではフォルマと生体マグネタイトのことは話さない方がいいとスカアハらは判断したのだ。
「後、刹那達の世界のことや幻想郷のことも話さない方がいいだろう。
漫画やゲームの世界が実在したと知られれば、騒ぎ出す馬鹿共が出てくるだろうからな。それこそ、際限なく」
 フォルマのことを話す危険性を説明した後に、スカアハはそのことを話す。かなり呆れた顔で。
このことに関しては刹那や真名にミナト、美希が苦笑をしていた。
なにしろ、美希にはその手のことで騒ぎ出すであろう知り合いがいるし、刹那と真名にミナトはその知り合いのおかげで戸惑った経験を持つ。
そう、オタクとは良い意味でも悪い意味でも時としてとんでもない行動力をすることがある。
例え、命の危険があろうとその世界に行こうとするオタクがいても……それはなんら不思議では無いのである。
 もっとも、そんなことさせるわけにもいかないので、スカアハらとしては話さない方がいいと判断したのだ。
「まぁ、八雲 紫としては幻想郷のことを知られたくはないだろう。それが例え、異世界の者であろうともな」
「あら、良くわかってるじゃない?」
 腕を組みながら話すスカアハに同意する声に、バスに乗っていた者達は思わず顔を上げてしまう。
なぜなら、その声の主はこの場にはいないはずなのだから――
「覗き見か。いい趣味とは言えないぞ?」
「あら、気になる話をしていたようだから、顔を見せに来たのよ」
 気にした風も無く話しかけるスカアハに、避けた空間から上半身だけを出す紫はくすくすと笑いながら答えていた。
その光景に刹那や真名、ミナトに香奈子は顔を軽く引きつらせていた。
君嶋や京介、ウルスラにクノーらは困ったような戸惑っているような表情を見せていたが。
「じゃあ、聞くけどさ。俺達はいいのかよ?」
「あなた方はそれなりに信用していますから……もっとも、言いふらすようなことをしていたら、それなりの対処をしておりましたが」
 後頭部で腕を組むクー・フーリンに紫は閉じた扇子の先を口元に当てながら、笑みを交えて答えていた。
が、スカアハとクー・フーリン以外のみなは体を強張らせていたが……紫は話すと共に見せていたのだ。自分の存在感と殺気を……
それは紫にとってはお遊び程度のものだが、スカアハとクー・フーリン以外の者達にとっては背筋凍るものである。
現に殺気に慣れていないミナトや京介は恐怖で震えていた。
「それくらいにしておけ。それにそんなことになったとしたら、あやつが動くことになるだろうがな」
「あやつ? ああ、あのシンジとかいう男ね。信用していいの?」
「あやつは戦いでもそうだが、策士としてもとんでもない奴だ。
策のためにはあらゆる手段もいとわないということを本気で体現しているからな。策に関しては私でも恐怖を感じるほどだよ」
 スカアハに言われたことで紫の存在感と殺気が収まり、クー・フーリン以外のみなはほっとするが、
シンジという知らぬ名が出たことで首を傾げる羽目になった。
「あの、そのシンジさんというのはどんな方なのですか?」
「そうだな……今の所は私の知り合いとしか言えん。まぁ、いずれ会うかもしれんから、それまでのお楽しみにしておくといい」
 刹那の問い掛けにスカアハはなぜか明後日を見ながら答えた。その様子にクー・フーリンは首を傾げていたが。
スカアハからしてみればシンジは感謝する面はあるものの、それとは別に畏怖の対象として見ている。
一応、知り合いとは言ったが、その実シンジのことをすべて把握しているわけではない。
むしろ、知らないことが大半なのだ。なのに、なぜ感謝をしているのか? それはいずれ語ることになるだろう。
「まぁ、いいわ。私としては幻想郷のことを言いふらされなければね。じゃあ、私はおいとまさせてもらうわね」
 そう言い残し、紫は空間の裂け目に身を沈めると、その裂け目も閉じるように消えていった。
それをスカアハは見送った後にため息を吐き、他のみなは呆然と見守っていたが。
「やれやれ……まぁ、ともかくそういうことだ。頼めるか?」
「まだ、納得出来ない所もあるが……下手に状況を悪くする必要も無いだろうからな。それは私の方でなんとかしよう」
 やれやれといった様子で肩をすくめるスカアハに君嶋が答える。彼としても崩壊の話は実は半信半疑の面がある。
だが、それを抜きにしてもボルテクス界との仲を険悪にするような真似はするべきではないと判断していた。
理由としてはやはり悪魔である。実際に戦ってみてわかるのだ。普通では悪魔には敵わないと。
フォルマで強化した武器を持つ前のことを考えるとそれを思い知らされてしまう。
 もし、ボルテクス界と戦争など起れば悪魔も必ず攻めてくるだろう。そうなれば、潰されるのは自分達かもしれない。
だからこそ、それは避けるべきではある。だが、スカアハが言っていた対策は一時的なものでしかない。
いずれ、自分達以外の者がボルテクス界に行くことになるだろう。そうなれば、それらのことが知られるのは時間の問題だ。
どうするべきか……君嶋はそのことに頭を悩ませていた。
(さて、シンジの奴とて対策が一時的なものだとわかっているはずだ。どうするのかな?)
 一方でスカアハもそのことはわかっている。スカアハらと言っていたが、実際危惧のことはシンジの提案である。
だから、シンジが今後どうするのか? それがスカアハにとって気掛かりであったが――


「はい……ええ……いえいえ、こちらとしても助かっていますので……ええ……では、今後とも……はい……」
 とある一室。そこにシンジの姿があった。通話を終え、なぜかカバーにΦのマークをあしらった携帯を閉じると懐にしまう。
「さてと……下準備はこんなものでしょう。一応、あのことがバレた時に動くと想定される所には一通り手を出しましたし――」
 ふと、窓の外にある街並みを見ながら、シンジは1人つぶやく。彼とて、スカアハが気付いたことに気付いていないわけではない。
では、なぜあのような指示をしたかと言えば、時間稼ぎの為である。一企業の意図不明な動きを察知出来ぬほど、政府は無能では無い。
そうなれば、政府間でボルテクス界のことが知られるのは時間の問題だろう。だから、その対処をしなければならない。
その対処の時間を作るために、スカアハに指示を出してあのような対策を取るようにしたのである。
先程の電話もその対策の一環である。そして、今下準備が終わった所であった。
「やれやれ……悪神さんも余計なことをしてくれますよね。たった1人の青年にいくつもの世界の命運を背負わせるなんて……」
 呆れた様子でシンジはつぶやいた。
翔太はまだ気付いていないが、世界の命運は実質彼の手に掛かっている。もし、翔太がそのことに気付いた時、どうなってしまうのか? 
シンジは最悪の事態を避けるために段階的に明かしてはいるが……何かの拍子で翔太がそのことに気付いてしまう可能性もある。
そうなってもいいように、翔太への負担を出来るだけ減らすべく動いてはいるが……
「そろそろ、彼の聖杯の世界への穴が開かれますし、そちらの方もなんとかしませんと。ん? そういえば――」
 そこまで呟いた時、シンジにある考えが浮かぶ。あの世界の出来事はある理由で一通り知っている。
それを活かすことが出来ないかと考え――
「真祖……はダメですね。下手をすれば帰って混乱を起こしますか……となると……ふむ、彼の魔術師のこと調べてみますか」
 そのことを呟くと、シンジの姿は部屋から消えていた。彼が何をしようとしているのか……それはいずれ明かされることとなる。
かくして、新たなる世界への道は開かれようとしていたのだった。



 あとがき
というわけで、幕間でした〜。
裏で行われるやりとり。そして、なにやらやってるシンジ君。
話はいよいよ新たなステージに移ろうとしています。
新たな世界はどんな所なのか? まぁ、伏線出てるんで、わかりますな^^;

と、次回予告の前に拍手レスを。

>凄い投稿速度ですね。次回も楽しみです。
>メガテンの世界観の設定はいろいろと異なって大変でしょうががんばってください。

ありがとうございます。ちなみに書き溜めた状態で書き進めております。
最近、そのストックが切れかけてますが……メガテンの世界観は資料集めが大変ですね。

>更新お疲れ様です。
>次回も楽しみにしています。

ありがとうございます。次回はいよいよ新しい世界へ行きますよ〜。

>紫どんだけ落とすの好きなんだよww
>まあ落とした時の反応が面白いとかそんな理由だろうけど。

ですねぇ……そんな感じで書いてみました。

>最初は名前同じだな〜何て思ってたんだけどキャラ紹介で見たらお前かよ!?何て思いました。
>何で、二代目もとい黒い勇者であるアオイ シンジがいるんだよ(^_^;)あの姿になったらチート以外の何者でもないのにな〜(-_-;)

お、ということは私の作品、結構読まれてるのかな?
実にわかりにくいですが、シンジ君設定改変何度も行ってたりします。本気でわかりにくいですけどね^^;
なお、今回はほぼ裏方役ですよ〜

>キャラ紹介だけで終わってしまった感が…
>キャラクターが多い所為か誰の台詞か迷ってしまう箇所もありました

幻想郷に再び訪れた時の話かな? キャラ紹介はまぁしょうがないのですが、わかりにくかったのは反省ですね。
申し訳無いです。機会があったら修正しておきますね。

>仲魔が合体に使えないような感じなやつらばかりですね
>今後は進化的な幹事で強化していくんですか?

そうなるかも。だって、合体レシピって調べるの大変なんだもん;;(おい)
まぁ、まったく合体をしないというわけではありませんがね。


さて、次回は日常が終わり再び冒険へ。刹那と真名、ミナトと別れた翔太達は時間をおいて新たな世界へ。
その世界で意外な出会いをすることに……さて、次なる世界は……次回をお楽しみに〜



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

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