「せっちゃん。あの子、誰なん?」
「あ、はい! あの方は映姫様。正真正銘閻魔ですので、このちゃんや皆様も粗相の無いようにお願いいたします」
「ちょっと待てぇ!?」
 首を傾げるこのかに刹那は慌てた様子で答えるが、そこにエヴァが思わず叫んでしまう。まぁ、なんでこの場に閻魔がいるのか? 
というか、あんな小さな子供が閻魔なのかと疑問に感じて、思わず怒りが出てしまったからだが。
ちなみにネギは閻魔のことを知らないので首を傾げており、
明日菜や裕奈とアキラはどう見ても女の子にしか見えない映姫に訝しげな視線を向けてしまう。
千鶴は相変わらず「あらあら」と頬に手を当てつつ見ていたりするが。
「おい、本当に閻魔なのか!? ていうか、なんでそんなのと知り合いなんだ!?」
「え〜と……色々と複雑な事情がありまして……」
「なんで、ここにあの人がいるんだい?」
「幽々子の所であなた達のことを覗いていたんだけど、その時にちょうど良く来ちゃったのよ」
 怒りの形相を向けるエヴァに刹那は困った顔をしながら誤魔化していた。まさか、宴会の席で知り合ったなんて言えない為に。
一方、真名は横目を向けながら問い掛けると、紫はため息を吐きながら答えていた。
白玉楼を訪れていた紫はそこで幽々子と一緒に刹那達の様子をスキマを使って見ていたのだが……
そこになぜか映姫が現われた。どうやら、白玉楼と冥界の様子を見に来たようなのだが、そこでスキマが目に入り――
今現在に至るというわけである。
「さて、改めて自己紹介をさせていただきます。私は四季映輝・ヤマザナドゥ。ある地域を担当する閻魔です」
「初めての方がいるので改めて、八雲 紫様の式、八雲 藍と申します」
「西行寺 幽々子。映姫様の命で冥界の管理をさせていただいてますわ」
「魂魄 妖夢。白玉楼という幽々子様が住んでいるお屋敷の庭師をしております」
「妖夢さん、お久しぶりですね」
「ええ、刹那さんもお元気そうでなによりです」
 映姫、藍、幽々子、妖夢の自己紹介の後、声を掛ける刹那に妖夢は笑顔を向けた。
なまじ、異種族のハーフ同士なせいか刹那と妖夢は気が合い、今では親友とも言える仲となっていたのだ。
「あ、あのぉ……幽々子さんと妖夢さんでしたっけ? お二人の周りに飛んでるのって……それに藍さんのしっぽは――」
「ああ、これは私に付いてくる幽霊さん達よ〜」
「私は半人半霊というハーフでして、これは私の半身なのです」
「私は九尾の狐ですので」
「そ、そうなんだ……」
 恐る恐るといった様子で指を差しつつ問い掛けるアキラに幽々子と妖夢と藍はあっさりと答えた。
裕奈が戸惑った様子で見ていたが、怖がっているようには見えない。
幽々子と妖夢の容姿のおかげで幽霊の類にある恐怖感を感じないし、藍もしっぽを気にしなければ紛れもない美女であった。
「ほぉ……それで貴様と気があったのか」
「ごほん……さて、本来はこのような場で行うことでは無いのですが、今回は特例としてあなたをここで裁きます」
「え? ええ!?」
 妖夢の身の上を知ってエヴァは意味ありげな視線を刹那に向ける中、映姫は軽く咳払いをしてから直立不動でそんなことを言い出した。
それにさよは一瞬首を傾げるものの、意味を理解してすぐに驚いてしまうが。
「といっても、このままでは周りの方には不便でしょう……幽々子さん、お願いいたします」
「はいは〜い。それ〜」
 映姫の指示で幽々子は開いた扇子を軽く振り上げた。それと共に虹色に輝く蝶が数匹現われると、それがさよの周りを飛び――
「綺麗……」
「あ、見て! 姿が見えるよ!」
「あらあら、可愛らしい子ね」
 その光景にアキラが見とれている中、裕奈がそれに気付いて指を差した。そう、裕奈達にもさよの姿が見えるようになったのだ。
その姿に千鶴はそんな感想を漏らしていたりするけど。
「え? みなさんにも私が見えるんですか?」
「そこ! それは後にしなさい!」
「ひゃ、ひゃい!?」
 裕奈達の反応にさよは思わず嬉しくなるものの、映姫に懺悔の棒を向けながら怒られてしまい、思わずビクついてしまったが。
その光景にエヴァは舌打ちしそうなくらいに苦々しい表情をしていた。映姫からのプレッシャーを感じたからだ。
それは紫とは違い、他者に物言わせぬ圧倒感……いわゆる、カリスマのような物を映姫は放っていた。
ネギ達もそれを感じたのだろう。誰もが真剣な表情を向けている。この光景にエヴァは映姫が閻魔であると思わず納得してしまいそうになった。
「あなたはなぜ自分が死んだのか? それを覚えていますか?」
「え? あ、その……そういえばなんで私……」
 映姫に問われ、さよは思い出そうとするが……なぜか、思い出せない。
思い出そうとしているのだが、なぜか靄の中を進んでいるかのようにその記憶に至らないのだ。
「やはり、そうでしたか……あなたはなんらかの理由でその記憶を封じ込めてしまっている。その根底にあるのは恐怖。
なにがあったのかは担当地域で無い為わかりませんが……それが力ある者にもあなたが見えなかった要因になっています」
 さよを真っ直ぐと見据えながら、映姫は語りかける。その光景にさよもネギ達も何も言えずにただじっと見ていた。
余計なことが言えない……そんな空気が感じられた為に。
「普通ならば、あなたのような者は亡霊か怨霊になります。ですが、この地の特殊性とその恐怖が今のあなたという存在を創り出してしまった。
そして、その恐怖は他人に触れることさえも拒み、結果としてあなたという存在が感じられないほどに隠してしまうこととなっています」
 映姫の話にさよは思わず納得していた。自分は基本的に恐がりであり、1人でいるのも苦手だ。
かといって、人とふれ合うことも苦手で……そのせいで人がいる所にただいるだけしか出来なかった。
自分がいることを誰かに知ってもらいたくて……でも、怖くて踏み出せなかった。
「そう、あなたは周りにも自分にも恐れを抱きすぎている。それがあなたの罪なのです」
「じゃ、じゃあ……私はどうすれば……」
 映姫の言葉にさよは恐れと戸惑いを含ませながら問い掛けた。どうすればいいのか、自分では思いつかない。
だから、わらにもすがる気持ちで問い掛けていた。それに対し、映姫はさよを真っ直ぐに見据え――
「今、あなたに必要なのは周りにも自分にも向き合うこと。自分の姿が見える者に会った時、あなたはどんなことを感じましたか?」
「それは……嬉しかった……です」
 映姫の問い掛けにさよは戸惑いながらも正直に答えた。そう、嬉しかった。
自分の姿が他の人に見えるようになったのを知った時、初めに感じた感情はそれであった。
今までの暗い気持ちが嘘だったかのように晴れやかなものとなり……だから、嬉しく感じた。
「そう、それでいいのです。周りにも自分にも向き合う。それが今のあなたに出来る善行です。
そうすれば、いずれ成仏も出来るでしょう。その気持ちを忘れてはいけませんよ?」
「は、はい!」
 うなずきながら映姫の言葉にさよは笑顔で返事を返した。まだ怖い所はある。
でも、がんばっていこう。さよの笑顔はそんな決心の表れでもあった。
「みなさん、ふつつかな私ですが、これから仲良くしてください」
「うん、仲よぉしような〜」
「そうだね」
 頭を下げるさよにこのかは笑顔で答え、アキラも笑顔でうなずいていた。
ネギや明日菜、裕奈に千鶴に楓もその通りと笑顔を向けるのだが――
「でもねぇ……さよちゃんが見えるようになっているのは一時的なことなのよ。時間が経てば、普通の人には見えなくなってしまうわ」
「そ、そんな〜」
 が、幽々子の言葉に明日菜が愕然とした顔をしてしまう。せっかく、こうして仲良くなれたのに見えなくなってしまうなんて。
それでは可哀想だとネギとこのか、アキラと裕奈は心配そうにさよを見ていた。
「どうにか出来ないのですか、幽々子様?」
「力を与えれば出来なくもないけど、それはそれで問題が出ちゃうし……
今のさよちゃんなら、努力すれば普通の人にも見えるようになるけど、時間は掛かるでしょうしねぇ……」
 妖夢もこれは可哀想だと思い問い掛けてみるものの、幽々子はちょっと困った顔をしながら閉じた扇子で口元を隠しつつ答えた。
力を与えるというのは論外だろう。下手をすれば悪意ある霊として討伐される可能性もある。
となるとさよが努力して姿を見られるようにするしかないが、時間が掛かるという難点がある。
「どうにか出来ないの?」
「そうは言われてもねぇ……」
「あら、方法ならあるわよ?」
 なんとかしたいという気持ちから明日菜が問い掛けるが、幽々子はため息を吐くだけで……
その時、そんなことを言い出したのは紫であった。
「本当ですか?」
「ええ……ただし、教えて欲しかったらエヴァンジェリンの秘蔵のお酒を1本もらうことになるけどね」
「ちょっと待て!? なんで私がそんなことしなければならない!?」
 アキラの問い掛けに紫は閉じた扇子で口元を隠しつつ答えるが、これにエヴァが怒り出す。
「え〜、別にいいじゃない。ケチケチしないでよ」
「こんな奴に酒の1本も渡したくないわ!?」
 不服そうにする裕奈であったが、エヴァは逆に怒鳴り返していた。
エヴァとしては紫が気に入らないため、どんな物であろうと渡したくないという気持ちがあったのである。
ちなみに裕奈は知らないが、紫が言う秘蔵の酒とはいわゆるビンテージワインのことだ。
しかも、物によっては数百万はくだらない物まであったりする。
「そうねぇ……では、私達がどこから来たのか……それをついでに教えるというのはどうかしら?」
「なに?」
 紫の言葉にエヴァは思わず視線を向ける。一方で映姫は睨みつけるかのように紫に視線を向けていたが。
そんな中、エヴァは考えていた。紫のことは気に入らないが……だが、どこから来たのか気にはなる。
他にも気になる所はあるが……紫に言われて、それだけでも知りたいという気持ちが芽生えていた。
「いいだろう。だが、すぐには出せんぞ。なにしろ、ある場所は――」
「あら、それなら心配いりませんわ」
 少々不服はあるが、少しでも情報を得るためにエヴァは渋々ながらもOKを出した。
だが、置いてある場所が別荘だったため、すぐに戻るの無理と言おうとした所で紫が閉じた扇子を一振りする。
すると空間が裂け、そこから1本の瓶が落ちてきて、紫の腕の中に収まった。
「く、デタラメな奴め……」
「あら、私の能力は『境界を操る程度の能力』ですから、これくらいは簡単な事ですわ」
 その瓶が自分が持っていたビンテージワインの1本だとわかって睨みつけるエヴァ。
紫はといえばくすくすと笑いながら答えていたが、言葉の意味をエヴァは理解出来てはいなかった。
境界を操る……この境界という意味がいまいちつかめなかったのだ。
もし、どんな能力なのかを理解したら、エヴァは紫を恐れることとなるだろうが……
「さてと、方法ですけど……刹那ちゃんはCOMPを持ってたわよね?」
「え? ええ……ボルテクス界で修行用に……それがどうかしたのですか?」
 紫に聞かれて、刹那は思わずうなずいてしまう。
刹那がCOMPを手に入れたのはボルテクス界で修行を行う際に、可能な限り危険性を減らすためである。
ボルテクス界でネギま!のコミックスを読んだ刹那は修学旅行に備えて更なる修行を考え、その地をボルテクス界に選んだ。
だが、ボルテクス界には悪魔がいる。1体だけなら刹那でもなんとか出来るが、それ以上となると無理と言うしかない。
そんな中、COMPのエネミーソナー機能があれば、少なくとも悪魔の不意打ちされる可能性を低く出来る。
そう考えて、COMPを手に入れたのである。
「それでさよちゃんを仲魔にするのよ。そうすれば、みんなから見えるようになるかもしれないわよ?」
「あ……そうか……なるほど……」
 くすくすと笑う紫の話に刹那は考えて納得する。自分のCOMPには量的には少しだが、生体マグネタイトが込められている。
そして、生体マグネタイトは悪魔や人に影響を与える。翔太が戦い続けることで身体能力が向上したように――
それなら、さよを普通の人に見えるように出来るかもと刹那は思ったのである。
 もっとも、これは確実というわけではない。事実、紫もしれないと言っていた。藍と幽々子、映姫以外はそのことに気付いていないが。
「それじゃあ……よろしいですか、さよさん?」
「え、ええと……なんだかわからないけど、よろしくお願いいたします」
 刹那の問い掛けにさよは頭を下げながらお願いした。言葉の通り、なにが行われようとしているのか、さよはわからない。
でも、刹那のことは信じられたから……だから、こうして受け入れられたのである。
そんなさよを見てから刹那はCOMPを操作し、少しするとさよは光の塊になってCOMPへと吸い込まれていった。
「え?」「は?」「さよちゃん!?」
 ネギと楓がその光景にポカンとしてしまい、明日菜はいきなりのことに驚いていた。
というのもネギ達、COMPの操作を見たのは初めてであった。同じように裕奈、アキラ、千鶴、このかも呆然と見ていたが。
しかし、刹那が続けて操作するとCOMPから光が飛び出し、その光がさよに戻るとみなほっと胸をなで下ろした。
「良かった〜……」
「あれ? でも、なんかさっきよりハッキリと見えない?」
 安心するアキラの横で裕奈がそのことに気付いた。確かに先程よりもさよの姿がハッキリと見える。
というか、人の体その物と言ってもいい姿だった。その証拠に足もちゃんとあったりするし。
「わぁ〜……ありがとうございます〜」
「ふふ、良かったわね。それじゃあ、私達はこれでおいとまさせてもらうわね。
私達の住まう場所の話は刹那ちゃんから聞いてちょうだい。あ、そうそう。ネギちゃん」
「私が……ですか?」
「は、はい?」
 喜びながら自分の体を見回し、礼を言うさよを微笑ましく見ながら紫はそのことを伝え……思い出したかのようにネギに声を掛けた。
そのことに刹那が少し戸惑いを見せる中、ネギは紫に声を掛けられてビクついている。
まぁ、紫に対して軽いトラウマになってるのでしょうがないかもしれないが。
「あなたには術を掛けて、聞いたことを話せないようにしておくわね」
「え、な、なんでぇ!?」
「あ〜……」
 紫にそう言われて戸惑うネギであったが、明日菜としては困った顔をしつつも納得していたりもする。
というのも、ネギは前科があったりする。例えば、麻帆良に来たばかりの時とか……
実はちゃっかりネギま!のコミックスを読んでいた紫は、その辺りを危惧していたのである。
ちなみにコミックスはどうやって読んだかといえば、翔太が持っているのを借りていたりする。
紫なら、そのまま拝借しそうなものだが……まぁ、あえてそのことには触れないでおこう。
「それではみなさん。私達はこれでおいとまさせていただきますが……私達の住まう場所のことは他言無用にてお願いいたします。
もし、それを破るのでしたら……」
「ひ!?」「あぅ!?」
 くすくすと笑っていた紫であったが、視線を向けると共にあの存在感と殺気を放った。
それにさよとネギは完全に怯えてしまい、裕奈、アキラ、千鶴も表情を強張らせて戸惑っていた。
このかはわずかに怯えの色を見せ、明日菜とエヴァは悔しそうな顔をしているし、楓は睨むかのように視線を向けている。
唯一違う反応をしたのが刹那と真名で、思わず苦笑していたりする。
「では、みなさん。ごきげんよう」
 日傘を差し、開いた扇子を一振りする紫。すると空間に裂け目が現われ、紫、藍、映姫、幽々子はその中へと入っていき――
「ええと……みなさん、申し訳ありませんでした。こちらとしても色々とありまして……では、私も……
刹那さん、また会えるといいですね」
「私も……それを楽しみにしていますよ」
 頭を下げる妖夢は刹那とそんなことを笑顔で交わしてから手を振りつつ裂け目へと入ると、裂け目は閉じるように消えてしまうのだった。
「まったく……相変わらずとんでもない奴だな……さてと、刹那。奴が言っていたことを教えてもらおうか?」
「ええ、わかりました。紫さん達が住んでいる所は幻想郷と言われておりまして――」
 それを見送っていたエヴァだが、裂け目が閉じると共に舌打ちしそうになりながらも視線を向けて問い掛け、刹那はうなずいてから話し始めた。
幻想郷……幻想と呼ばれる存在が集いし所……人も妖怪も妖精も神も住まう地……多少のいざこざはあれど、それらが共存する世界……
「幻想郷……にわかには信じられんな。神や妖精ならまだしも、人や妖怪までもが共存するとは……」
「確かにね。だが、事実だよ。みんなそろって宴会なんてのもしてたしね」
「なんだそれは……」
 刹那の話を聞いてあごに手をやって考えるエヴァ。しかし、抱いている感想はありえないというものだった。
まぁ、全てというわけではないが妖怪は人を襲う者だし、人はそんな妖怪を退治する。
それを考えると共存出来るとは思えなかったのだが……真名の言葉にエヴァは思わず顔を引きつらせてしまう。
共存出来るはずの無い者達同士が宴会をするなんてのはなんの冗談だとしか思えなかった為に。
「ところでさ。さよちゃんはどうするの?」
 ふと、裕奈がさよに触れながら聞いてきた。
触れている感じは普通の人間と変わりないように思えたので、このままでいいのか? と、思ったのである。
「そうですね……どうしましょうか?」
「じじいにわけを話して、学校に通えるようにしてもらえ。それくらいなら簡単に出来るだろう」
 刹那も首を傾げながら考えていたがエヴァの考えにみんなが同意し、早速学園長の元へと行くこととなった。
で、結果的にはあっさりとOKとなった。というのも学園長、高畑もなのだが、さよの存在を知ってはいた。
もちろん、なんとかしようとはした。だが、今まで上手く行かなかったらしい。
それでもなんとかしようとしてはいたのだが……今現在にまで至ってしまったのだという。なので、学園長としても今回の事は喜んでいた。
 というわけで、あっさりとさよの編入が決まり、そのまま修学旅行に行くことも決定することとなる。
次の日、転校生として紹介されたさよだが、3−Aがそんなことに黙ってるはずが無く、ちょっとした騒ぎになるのだが……
それはあえて語らないでおこう。ただ、言えるとすれば、その時さよが笑顔であったことだろうか――


 さて、こちらはスキマの中を歩く紫達――
「紫さん……今回の事、何か考えがあってのことですね?」
「え、どういうことですか?」
 映姫の問い掛けに妖夢が首を傾げる。しかし、藍と幽々子はいつもの様子であったが。
2人とも気付いていたのだ。紫がただの興味本位で異世界を覗いていたわけではないことを。
「あなたがただの興味本位で異世界を覗いていたわけではないでしょう?」
「ええ……最善の策と次善の策……その模索の為に……」
 映姫が再び問い掛けると、紫は静かに答えた。
今、幻想郷は風前の灯火と言ってもいい。なにしろ、世界の崩壊に巻き込まれているのだから。
紫としてはそれはなんとしても避けなければならない。幻想郷を愛する者として――
 ネギま!の世界を覗いていたのはその一環であった。
「ですけど、それならなぜ刹那さんの世界を覗くような真似を?」
「私達は翔太にばかり頼ってはいられない……そういうことよ」
 妖夢の疑問に紫は遠い目をしながら答えた。
ネギま!の世界を覗いていたのはどちらかというと次善の策をどうするか模索する為のものであった。
確かに翔太を支援するのが普通であろう。しかし、それは確実とは言えない。
だからこそ、もしもの場合に備える必要があった。例えば、避難場所を創るなど――
紫としては幻想郷を形だけでも残しておきたかった。住まう地さえあれば、そこを幻想郷にすることが出来るからだ。
「で、ですけど――」
「ええ、翔太の支援も考えていないわけではないわ。でもね、私達はそれだけをするわけにはいかないのよ」
 何かを言いたそうな妖夢に紫は静かに答えた。
紫のような立場の者が人情だけで行動するわけにはいかない。時にはそれが愚策となりかねないからだ。
だから、非情に思われてもこのようなことをしなければならない。幻想郷の未来を考えるなら――
「でも、それじゃあ翔太さんはなんのために――」
「彼はまだ、そのことに気付いてはいません。その自覚の無さが困りものなのですがね」
「ええ……でも、今はその方がいいのかもしれないわ。彼が背負うものを考えるなら……」
 落ち込む妖夢であったが、映姫はため息混じりにそんなことを漏らした。
確かに翔太は未だに自分の置かれている立場を理解していない。だが、それはある意味当然である。
ただの一般人だった者がいきなり世界の命運を背負えというのは、本来ならおとぎ話もいいところなのだ。
故に翔太はその認識があまりにも薄い。しかし、紫はその方がいいと考える。翔太はまだ弱い。体ではなく心が……
だから、今は思うようにやらせた方がいいだろうと考えていた。
「翔太さんは大丈夫なのでしょうか?」
「まぁ、なんとかなるんじゃないの?」
「幽々子の言う通りね。彼、意外と侮れないもの」
 藍の疑問に幽々子は微笑みながら答え、紫も微笑みを交えてうなずいた。
翔太は今まで普通の人間ではありえないことを成してきた。確かに手助けはあった。
でも、それを差し引いたとしても普通の人間では考えられないようなことをしている。
神の名を持つ者を打ち倒すとか、魔王の一画を倒したりとか――
もしかしたら……ふと、紫はそんなことを思う。
(そうだとしたら、面白いかもしれないわね)
 それを思い、紫はまた微笑みを漏らしてしまうのであった。


 で、さよが転校してきたの日の放課後――
「ほほぉ……凄いでござるなぁ〜」
 新たな刀を構える刹那を見て、楓はそんな感想を漏らした。
ここはボルテクス界……といっても、ネギま!の世界への穴の近くだが……そこで刹那は修行をしていた。
楓がなんでいるかといえば、刹那が修行をすることを聞いていたので頼み込んで同行したのである。
 それはそれとして、楓は刹那がかなりの強さになっていることを察していた。
本編ではほとんど触れられてなかったが刹那は悪魔と戦うだけでなく、強くなるためにスカアハと相談しながら試行錯誤をしており――
そのおかげで気の制御をかなりの精度で行えるようになり、今では瞬動に頼らずに近い速さで動けるようになっていた。
「いえ、まだまだです……翔太さんのようにはいきません」
「話には聞いてたでござるが、翔太殿とはそれほどまでに強いのでござるか?」
「ああ……彼は気も魔力も使わずに刹那以上に速く動く。まぁ、私としては常識外れもいいところだけどね」
 構えを解きながら首を横に振る刹那を見て、楓は首を傾げる。翔太のことは話では聞いている。
しかし、気も使わずに刹那以上に速く動けるというのは、気を使うことが常識になっている楓にはピンと来なかったのである。
そのことに関して、アサルトライフルを持つ真名が答えるのだが――
「しかし、真名まで修行をするとは思わなかったな」
「なに、翔太さんを見ていたら、うかうか出来ないと思ってね」
 顔を向けながらそんなことを言う刹那に真名は肩をすくめながら答えていた。
その返事に刹那は納得する。真名がわずかに頬を赤らめていることに気付かずに。
「刹那さん、見てください。ガル!」
 と、なにやら喜んでいるさよがボルテクス界の魔法を使い、それを刹那と真名は呆然と見ていた。
楓だけは感心したような顔を向けてたりするけど。
 なぜ、さよがここにいるのか? まぁ、COMPに登録されている関係上、あまり離れると生体マグネタイトが供給されない。
そのため、仕方なく連れてきたのだが……刹那達はさよを戦闘に参加させるつもりはなかった。
幽霊だったとはいえ、攻撃手段が無いので当然とも言えるのだが――
「なぁ、真名……あれって、ボルテクス界の魔法だよね……なんで、さよさんが使えるの?」
「さぁ……私は専門家じゃないからわからないよ……」
 なんてやりとりをする刹那と真名。後にこれも生体マグネタイトの供給による影響とわかるのだが――
「おっと、どうやら来たようだね」
「2体か……うん、なんとか戦えるな」
 真名の言葉で悪魔が近付いてくるのを確認し、刹那はすぐさまCOMPでどんな悪魔なのかを確認する。
今の自分達では物理耐性持ちの悪魔と戦うのは不利すぎるが……どうやら、近付いてくる悪魔にはそれは無かったのでひとまず安心した。
「さてと……楓、油断するなよ? 相手はああ見えても悪魔だ。後、短期決戦で挑んでくれ。
後続が来たりしたら、ハッキリ言ってマズイ。それじゃ、修行の意味も無いからね」
「わかったでござる」
(翔太さん……修学旅行を終えたら、必ず手伝いに向かいます。それまでがんばっていてください)
 アサルトライフルを構える真名にうなずき、楓も巨大十字手裏剣を構える。
刹那もそんなことを思いながら、刀を構えるのであった。この時、刹那は思いもしなかった。
その修学旅行で翔太と再会することに――


 さて、時間は遡ってここはとある研究室。
ここに黒髪の左右におさげを結っているメガネを掛けた少女、葉加瀬 聡美ことハカセと、
同じく黒髪で頭の上の左右でお団子にして、そこからおさげを下げている少女、超 鈴音がいた。
 2人は今、モニターに釘付けになっている。なにを見ているかといえば、整備用の座席に座る茶々丸の記憶データである。
そのモニターには翔太や理華に仲魔達。それに紫やレミリアなどの姿が映し出されていた。
「異世界ですか……普通じゃ信じられませんよね」
「だけど、麻帆良の魔法使い達が何かを隠しているのは間違いないネ」
 どことなく疑いの眼差しを向けるハカセであったが、超はどことなく真剣に見つめていた。
というのも翔太が連れている仲魔の姿は超が知る悪魔とは明らかに違うし、紫のことをエヴァが警戒しているのはモニターごしに見て取れる。
それとこの世界が翔太達が来たという世界と共に崩壊するというらしいが、超は信じてはいなかった。
まぁ、いきなりそんなことを言われて信じる者は早々いないだろうが……それでも魔法使い達が何かに警戒しているのは確かであった。
 となれば、何かが起きているのは間違いない。問題はそれが自分が進めている計画に影響を与えるかどうかである。
「とりあえず、警戒しておくことに変わりはないネ」
「そうですね」
 超の意見にハカセがうなずく。自分達が行おうとしていることはいずれ大きな混乱をもたらすことになる。
だが、必要だった。誰もが笑っていられる未来を守るためには……だから、自分達は止まることは出来ないと。
少なくとも超はそんな決意を抱いていた。しかし、気付いてはいなかった。

自分達の計画が根底から崩れていることなど……



 あとがき
というわけで、刹那達の幕間はこれにて終了……ただし、修学旅行編がありますがね。
ちなみになぜか翔太×真名フラグがあったりしますが……こちらの方はいずれ幕間で触れようかと思います。
ていうか、唐突に思いついたネタでしたので^^;
さて、次回はFate編の再開です。キャスターとそのマスターと出会った翔太達。そこでスカアハが提案したのはキャスターの強奪だった?
しかし、バゼットを発見したり、ランサーと戦う羽目になったり、更にはあの人達まで出てきて翔太は大混乱に。
そんなお話です。お楽しみに〜



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