「な、なんで!? どうなってるの!?」
 いきなりの事態に望は驚き、混乱していた。
気が付けば家ごと見知らぬ土地に来ていたなんてのは普通あり得ることではない。
だから、彼女の混乱はある意味当然とも言える。
一方で士は訝しげな顔をしながらもフォトショップの外に出てみた。
広がる光景はやはり変わることはなく、まったく知らない町並み。
ただ、行き交う人のほとんどが日本人だったため、日本だというのは間違いなさそうだが。
「学生が多い町だな」
 町の光景を見ていた士は、行き交う学生が多いことが疑問に思う。
近くに学校があるのかと思ったが、それらしい建物は見えないからだ。
「日本だとしても、ここどこだよ?」
「さてな」
「て、どこに行く気!?」
 未だに戸惑いを隠せない雄介に答えた士はどこかに行こうとしていた。
望が慌てて呼び止めると振り返り――
「どんな所なのか見て回るんだよ。そういうわけだから叶さん、行ってくる」
「は〜い、迷子になっちゃだめよ〜」
 答えてから声を掛けて歩き出す士に叶は笑顔で手を振っていた。
ちなみに叶も驚いてはいるが、フォトショップが無事なので何とかなるだろうと思ってるので比較的冷静であったりする。
「あ、待って、私も行く!」
「お、俺も!」
 外へと出る士の後ろ姿を見てから望と雄介は不安そうに互いの顔を向け合い、慌てるように士の後を追うのだった。


 で、町中を歩く士達はここが麻帆良(まほら)と呼ばれる都市であることを知ったのだが――
「麻帆良って……あったっけ?」
「さぁ……」
 雄介の疑問に望は首を傾げるしかない。地理に詳しいわけではないが、それでも都市名に聞き覚えが無いからだ。
一方で士はさして気にした風も無く麻帆良を歩き続けていた。
もっとも、褐色の肌をした小柄な少女が大勢の男達を殴り飛ばす光景を見た時は顔をしかめていたが。
「な、なんだ……あれ……」
「さてな……ま、とんでもない所に来たのは間違いなさそうだが」
 そんな光景を見て驚く雄介に士は肩をすくめながら答えつつ、町中を歩いていく。
「お、おっきい……」
「ああ、本当だな……」
 そして、ある場所に来た時、それを見上げる望に雄介は戸惑いながらもうなずいた。
2人が見ているのは1本の木だった。ただし、ただの木では無い。大きい……いや、巨大と言ってもいい程の樹――
というか巨大すぎる。まるで高層ビルが立っているかのような大きさで、その樹はそこに立っていたのだ。
それに圧巻される望と雄介だが、逆に士は顔をしかめていた。何かがおかしいと感じたのだ。
だが、何がおかしいのかがわからず、その場は去ることにした。
その後、しばらくあちこちを歩き回った士達は林の入口らしき場所に来ていた。どうやら、郊外に出てしまったらしい。
「へぇ、こんな所もあるのか。でもまぁ、こんな所に入っても、って入る気かよ!?」
 感心しながらも振り向く雄介だが、林に入ろうとする士の姿を見て驚いてしまう。
士はといえば、その声を聞いて振り向き――
「なんか、変な感じがしてな。それを確かめたいだけだ」
「変な感じって……」
 士の返事に望は不安そうな顔をする。確かに何か近寄りがたい雰囲気を感じる。
故に望としては生きたくなかった。なのに、士は林の奥へと行こうとしてしまう。
それを見た望は同じように不安そうな雄介の顔を見てから、意を決して士の後を追うことにしたのだった。
「あ、ちょっと待ってくれ!?」
 それを見ていた雄介も慌てて追い掛けるはめになったが――


 さて、林の中では全身を覆い隠した女性が未だに木に背を預けるようにして座り込んでいた。
唯一露わとなっている瞳も閉じられており、傍目から見ると眠っているようにも見える。
が、不意にその瞳を見開いたかと思うとある方向へと顔を向けた。
その先にいたのはサイドテールの少女。その手には竹刀袋ではなく、代わりに女性と同じ抜き身の野太刀が握られていた。
「刺客……か……ここまで来るとは、な……」
「長の命により、あなたを捕縛します」
 呟く女性を睨みながら少女は野太刀を抜き、構えた。
この時、女性は意識が朦朧としていて少女の言葉が良く聞こえなかった。
もし、聞こえていたら疑問に感じていたかもしれないのに――
「出来れば……静かに……逝きたかった、が……無理か……」
「え?」
 少女に対し女性は動きを見せず、そのことに少女は戸惑いを見せる。
というのも少女は女性が”凶悪な存在”と聞かされていたからだ。
しかし、今の女性からはそんな物は感じられない。いや、どこか諦めているようにも見えた。
少女の考えは正しい。女性は諦めていた。全てに……生きることさえも……
「殺せ……私は、もう……疲れた……」
(ああ……これでいいんだ……ただ……)
 その一言を漏らすと共に女性は瞳を閉じる。ただ、1つだけ心残りはある。
でも、それも”今の自分”では叶わないだろう。そんな諦め故に女性は死ぬことを選んだのである。
「あ、ああ……あ……」
 そのことに少女は怯えてしまう。自分を殺してくれと言われたのだから当然かもしれない。
少女は人を傷付けたことはあっても人を殺したことなど無い。故に殺してくれと言われたからといって出来るはずも無かった。
「あ、あ……くっ」
 その為だろうか? 少女は逃げた。
女性の諦めが怖くて……何をどうしたらいいのかわからなくて――
「なんだ? でも……いいか……これで……静かに、逝ける……」
 そのことに女性は瞳を開くものの、すぐに再び閉じてしまう。
女性はすでに限界だった。もう、何日も飲まず食わずだったのだから。
そして、その限界が来たのを悟ったのである。そのことを望んでいた女性は穏やかな様子を見せていた。
しかし、何かが近付いてくる気配にわずかながらに瞳を開けてしまう。
(誰だ……さっきの奴が……戻ってきたのか? だとしても――)
 誰かが近付いてくる様子を朦朧とした意識で眺めていた女性はそのまま気を失う。
その寸前にどこか心地の良い感触を感じた気がしながら――


「あ、う……あ……」
「お、ようやくお目覚めか」
 暖かな感触を感じながら女性は目を覚まし、掛けられた声に朦朧としながらも顔を向ける。
そこにいたのは女性の見知らぬ青年。その青年が向き合う形でソファーに座っていた。
そこで女性は気付く。自分がソファーに寝かされていたことに。
「お前は……誰だ……ここは……」
「俺は門矢 士。で、ここは俺の家のリビングだ」
 青年こと士は気にした風も無く答える中、女性はそれを聞きながら辺りを見回す。
そこで男女――雄介と望のことだが、その2人が自分を怯えているような困っているような目で見ていることに気付いた。
どうしたのかと思ったが、そこで新たに気付いた。自分を覆い隠していたマントやフード、包帯が取られていることに。
それによって、自分の姿が露わになっていることにも――
 女性の姿は醜悪な物だった。体は右の瞳の周り以外はどす黒い色をした無数の瘤のような物で包まれていたのである。
頭も腰まで伸びる黒髪があるが、その上からでも瘤がいびつに盛り上がっているのが見て取れた。
あの2人がこの姿を見て怯えているのは容易にわかった。だが、それでも女性はわずかに困惑していた。
士はどう見たって自分の姿を怖がっているようには見えなかった為に。
「お前……私の姿をどうも思わないのか? それになぜ私をここに連れてきた?」
「いや、前にも変なのを見たことがあってな。気にするほどでも無かっただけだ。
ここに連れてきたのはなんか行き倒れみたいだったから、ほっとくのも気が引けただけだよ。
ま、最初は病院連れていこうと思ったが、体の様子を見ようと脱がしてみたらそんな体だろ?
それでマズイと思ってな。とりあえず、ここに運んだ」
 睨む女性に士は肩をすくめながら答える。ちなみに士が言ってるのは前回戦ったグロンギのことである。
それ故か、士には今の女性の姿とグロンギの姿はどっちもどっちにも思えたのだ。
だが、そのことを知らない女性はある疑いを持って士を見てしまう。
「お前……魔法、使い……か? それとも、呪術師?」
「いや、俺は通りすがりの仮面ライダーだ」
「仮面……ライダー?」
 士の返事に訝しげに問い掛けた女性は首を傾げる。まぁ、仮面ライダーを初めて聞いたのだから当然の反応とも言える。
ともかく、自分を見る士の反応を見て女性はそう思ったのだが、今の士の様子を見ているとどちらでもないような気がしてしまう。
逆に仮面ライダーの意味がわからなくて少し困惑していた。
「それにしても魔法使いや呪術師ね……ここはそんなのがいるようには見えないが」
 その一方で士は窓の外を見ながらそんなことを呟くが、同時にある考えにいたっていた。
自分達は見知らぬ場所に来てしまったと思っていた。しかし、それが違っていたら?
そして、女性が言う魔法使いや呪術師とやらの存在やあの大きすぎる樹。もしかしたら――
 そんな事を考える士を見てか、女性は仮面ライダーの意味を考えつつも自分の推測が外れていたこと気付く。
もしかして、ただの一般人かとも思い始めていた。
「お前は……本当になんとも思わないのか?」
「なんだ、怖がって欲しかったのか?」
 思わず睨んでしまう女性だが、士は気にした風も無く顔を向けるだけ。
その様子に女性は顔をしかめてしまう。本当に気にしていないのか? と疑ってしまった為に。
そんな時だった。女性から明らかにお腹の音が響いていた。そのことに怯えていた雄介と望は顔を引きつらせ、士は呆れた様子を見せた。
女性はというとうつむいていた。顔を覆う瘤のせいでわかりにくいが、恥ずかしがってるのだろうと士は見てたりするが。
「叶さん、スープとか軽い物持ってきてくれるか?」
「は〜い」
「なにを――」
 声を大きくした士の言葉に叶が返事をすると女性は戸惑っていた。
確かに空腹だが、だからといって食べ物を望んでいるわけではない。それどころか、これからのことを考えれば不要な物だった。
しかし、士は笑みを浮かべながら顔を向け――
「何を我慢してるかは知らんが、変な無茶は自分の為にはならないぞ」
「貴様に……何がわかる……」
「そうだな。お前さんが好きでそんな姿になったんじゃないとは思ってるが?」
「な……」
 言われて睨みつける女性だが、次に出た士の言葉に思わず呆気に取られた。
士の言葉は事実ではあるが、かといって言い当てられるとは思っていなかっただけに女性は驚きを隠せなかったのだ。
「その様子だとアタリみたいだな。ま、必要以上に自分の姿を気にしてるようだし、そうなんじゃないかとは思っただけだが」
「あ、そういや士って……」
「そうだったね」
 肩をすくめる士を見て雄介はあることを思い出し、望も気付いてうなずいていた。
士は人を外見で判断したりせず、その上勘も鋭い。以前、士達が通う学校にマドンナ的な女子生徒がいた。
雄介も思わず見とれてしまう女子生徒であったが、士に「あれは問題起こすか巻き込まれるかするからやめておけ」と言われたのである。
その時雄介はまさかと思っていたが、しばらくしてその女子生徒は事件に巻き込まれたと聞いてビックリしてしまう。
詳しいことまではわからなかったが、事故に巻き込まれた理由が自業自得と聞いた時には信じられないような目で士を見てしまったものだ。
だって、ほぼ士の言ったとおりになったのだから――
そういったことがあったので、雄介や望も士の言うとおり女性が自分が思ってるほど怖い者では無いと思えるようになっていた。
「はい、どうぞ」
 しばらくして叶の手によってコーンスープとロールパンが2個出されたが、その光景に女性は戸惑いの表情を見せていた。
というのも、叶が自分の姿を見ても穏やかな表情を何1つ変えなかったことに困惑したのだ。
「あの人は……私を見て何も思わないのか?」
「叶さんは小さいことは気にしない人だからな」
 女性が漏らしたつぶやきに士は苦笑しながら答える。実際、叶は余程のことがない限り口出ししたりはしない。
その代わり士達が間違った道に行こうとすればそれを感じ取って諭したりする。そういったこともあって、士は叶に頭が上がらなかった。
 一方で女性は戸惑いながらコーンスープをスプーンですくい取り、一飲みして……それから静かに食べ始めた。
余程お腹が空いていたのだろう。コーンスープとロールパンはすぐに無くなってしまった。
「おかわりいるか?」
「え? あ、いや……すまない。助かった。私はこれで失礼する」
 答えて立ち上がる女性だが、問い掛けた士は見逃さなかった。女性の瞳が一瞬鋭さを増し、どこかを見ていたのを。
「え? あ、あの、なんというか……もう少しいてもいいのに」
「いや、これ以上世話になっても迷惑になるだけだ。すまなかったな」
 戸惑う雄介に女性は答えつつ包帯を全身に巻きフードとマントを纏い、野太刀を持って外へと出ようとしたが――
「そういや、あんたの名前を聞いていなかったな」
「必要無い。少なくともお前達にはな」
 問い掛ける士だが、女性は視線だけを向けて答えるとそのまま去ってしまう。
それを静かに見守っていた士だが――
「やれやれか」
「どこ行くの?」
「あいつを追い掛ける。なんか、気になってしょうがないしな」
 望の問い掛けに士はため息混じりに立ち上がりながら答えて外へと出た。望と雄介も互いにうなずき合ってから追い掛けるのだが――
「あれ? 追い掛けるんじゃなかったのか?」
「バイクで行く。たぶん、歩いたんじゃ追いつけないだろう」
「バイクって……士は未成年じゃないの!?」
 そのことに気付いた雄介の問い掛けに、なぜかガレージに向かう士はあっさりとした表情で答えた。
女性が外に出てから間もないのに女性の姿はもうどこにも見えない。
外に出たことでそのことに気付いた士は普通に追い掛けただけでは追いつけないと判断したので、そうしようと考えたのである。
もっとも望に待ったを掛けられるが、士は気にした様子も無くガレージのシャッターを開けた。
「ん?」
「え? 増えてる?」
 で、シャッターを開けた先には士が持ってきたバイクとは別にオフロードタイプのバイクがあった。
士のバイクと同じ、市販のバイクには無いデザイン。特にフロントはどことなくフクロウを思わせるような造りをしていた。
その見覚えの無いバイクに士は顔をしかめ、雄介はいつからあったのかと目を丸くして驚いている。
「な、なに……このバイク?」
「ふむ……どうやら、雄介のバイクみたいだな」
「へ? 俺の? おわ!? な、なんだよこれ? 免許証?」
 望が戸惑う中、士がバイクに近寄って何かを見つけるとそれを投げ渡す。
雄介はそれに驚きながらも受け取って見てみると、それは自分の免許証だった。
ただし、生まれ年が2年早くなっており、現住所も麻帆良の物となっていたが。
「なんでこんな物が?」
「さてな。ま、安全運転はしておくが。とにかく行くぞ」
「あ、待って!?」
 戸惑う雄介だが士はいつの間にかヘルメットを被り、バイクをガレージの外に出していた。
そして、バイクにまたがりゴーグルを掛けてエンジンを掛けたところで望が慌ててヘルメットを被り、士の後ろにまたがった。
それを見ながら雄介もバイクを外に出し、バイクにまたがってヘルメットを被りエンジンを掛け――
「あれ? 俺、なんでバイクの動かし方知ってるんだろ?」
 そんな疑問に首を傾げる。実は先日士に渡されたカードのおかげなのだが、そのことに雄介は気付かずに士と共に走り出すのだった。


 一方、女性は先程のいた林へと来ていた。あの時、リビングの中で感じた自分に向けられる殺気。
それは自分を追う者が向けたのだろうと感じた女性は、士達を巻き込まないためにあの場を去った。
そして、士達が自分を追い掛けないようにと普通ではありえない跳躍力でいくつもの屋根や屋上を跳び渡り、ここへと来た。
なぜ、そんなことが出来るのかは後ほど話すとして、女性としては士達を巻き込みたくはなかった。
何者なのかという疑問は残ってはいるが、少なくとも悪人の類では無いと思える。
そんな者達を自分が原因の騒動に巻き込むわけにはいかないと思った故の行動であった。
 女性がそんなことを考えていると気配を感じて顔を上げる。
その先にいたのは数名の人影。スーツ姿だったりラフな格好をしていたりするが、その手にはなぜか日本刀や棍が握られている。
そして、その中にはサイドテールの少女もいたが、それとは別の少女の姿もあった。
背は女性の腰辺りまでしかない可愛らしい姿。巫女服を纏い、膝の辺りまで伸びる黒髪。
顔立ちこそ少女相応の物だが、歳を重ねれば美しく整うであろうことをうかがわせる。
そんな少女を女性は慈しむ目で見ていたが、少女は逆に睨んでいた。まるで親の仇を見るかのように。
そのことに女性は悲しそうな目になってしまう。だが、仕方が無い。
このように醜くなってしまったのだから、そんな自分をあの子は――
天寺 麗華(あまでら れいか)。重大な裏切り行為により、貴様を処罰する!」
 そんな少女の横に立つスーツを着込んだ中肉中背の初老の男が見下すような目を向けながら、そんなことを告げた。
それと共に左右に立つ男女がそれぞれ持つ得物を構えながら前に出た。サイドテールの少女は戸惑いを見せていたが――
「長の命令……忘れたわけではあるまい」
「……はい」
 やはり見下すような目を向ける初老の男性の言葉にサイドテールの少女は困惑した表情のままうなずき、抜き身の野太刀を構える。
それに対し、麗華と呼ばれた女性は動かない。なぜなら、自分の言葉が届かないのはすでにわかっていたからだ。
出来れば、静かに逝きたかった。そう思いながら目をつぶる。そこで浮かぶのは小さな少女と士の姿だった。
最期に少女と士に会えたのは良かった……そう思った矢先――
「やれやれ、なんだか穏やかじゃないな?」
「え? な!?」
 聞き覚えがある声に麗華は思わず振り返り、驚いた。なぜなら、その先にいたのは士と雄介に望だったのだから。
「一般人? おい、”人払いの結界”を張ったのではないのか?」
「そ、そのはずです……」
 一方、士達の登場に初老の男性は苛立ちを見せるが、問い掛けられた男は戸惑っていた。
なぜなら、”人払いの結界”は間違いなく張った。だから、普通の人間がここに来ることなど出来るはずがない。
でも、士達は来た。”魔力”も”気”も感じられない普通の人間が――
「話は聞かせてもらったけど……麗華だったか? そいつがどんな裏切りをしたって言うんだ?」
 そんなやりとりを聞き逃さなかった士が視線を向けつつ問い掛ける。
一方で心の中では別なことも考えていた。何かが怪しいと。
何が怪しいかと聞かれれば困るのだが、初老の男性を見ているとそう思えてしまうのだ。
「ふん……そやつはな、禁断と言われる力に手を出し、関西呪術協会を転覆しようとしたのだ」
「禁断の力ねぇ……まるで見てきたことのように知ってるんだな?」
 なぜか自慢げに話す初老の男性に士は視線だけを向けて問い掛ける。
雄介と望は困惑した表情で麗華を見ているが、士だけは初老の男性から確信に近い何かを感じ取る。
「当然だ。この目で見たのだ。この化物が禁断の力を手に入れようとして失敗し、醜い姿になった所をな」
「ふ〜ん……じゃあ、見てたんなら止めようとはしなかったのか?」
「何が言いたい、小僧?」
 やはり自慢げに答える初老の男性だが、士の問い掛けに今度は睨み返していた。
その姿に士はある確信を得る。が、それと同時にあることにも気付いてしまう。
「大体わかった……それでだ。後ろの奴らはあんたらの知り合いか?」
「なに?」
 士の言葉に初老の男性は訝しげな顔をしながら少女達や男女達と共に振り返る。
振り返った先にいたもの。それは蟻を思わせるような姿をした群れをなす怪人達の姿であった。
「な、なんだあれは……」
「え? あ、あれって……そんな、あれは俺達が倒したはずじゃ――」
「俺達の所に来た奴らは、な」
「ど、どういうこと?」
 その光景に初老の男性は麗華や少女達、男女達と共に困惑の表情を浮かべる。
一方で雄介は驚きを隠せなかった。あの時とは姿こそ違えど、あれは怪人に間違いなかった。
まさか怪人が再び現れるとは思わなかっただけに驚いていたのだ。
逆に士は冷静だった。このことは予想していただけに雄介よりはショックはかなり低かったのである。
一方で望は雄介と同じく驚いていたが、士の言葉に疑問を感じて問い掛けていた。
「あいつらは別の所から来たようなことを言ってただろ? そこにあいつらの仲間がいたとしても不思議じゃないってことさ」
 怪人達から目を離さずに士は答えるが、今はそれよりも気に掛かることがある。それは――
「な、なに!?」
 士がそんなことを考えている間に怪人の1人が男に襲いかかった。
男はそれを日本刀で斬り掛かる形で止めるが、同時に驚いていた。
怪人が斬れないのだ。男は怪人を斬るつもりで本気で日本刀を振っていた。当然、”気”を込めて。
だが、怪人を斬るどころか腕で日本刀を受け止められるという思いがけない結果に驚いたのだ。
「う!?」
 その間に怪人が口から水を吹き出して拭きかけられ、思わず離れてしまうが――
「ぐ!? あ、がぼ!? がば!? おぶ、ぶ!?」
 なぜか、溺れたかのように苦しみだし、もがきながら地面に倒れ……動かなくなってしまう。
「ぐあ!?」「い、いやあぁぁぁ!?」「な、なんだこいつら、ぐ!? ごぼぉ!?」
「な、なんだこれは……」
 他の者達も先程の男のように襲われていく光景に初老の男性は怯えた表情を見せていた。
男女達は怪人のような存在と戦う為の力を持った者達だ。なのに大した抵抗も出来ずに倒されていく。
初老の男性としては信じられない光景に恐怖を感じ始めていた。
「な!? うわぁ!?」
「きゃ!?」
 その時、近付いてきた怪人に驚き、横にいた少女を突き飛ばしながら逃げ出してしまう。
それを見て他の者達も逃げ出してしまうが、サイドテールの少女は怪人達に囲まれていたこともあって逃げ出せずにいた。
一方、突き飛ばされた少女はそのまま地面に倒れてしまい、すぐに起き上がろうとしたが――
「え? あ……」
 怪人が近付いてくることに気付いて、その動きが止まってしまう。
「あ、ああ……」
 近付く怪人に少女は恐怖を感じていた。このままでは自分も襲われた者達のように――
麗葉(れいは)!」
 が、その間に麗華が割り込む形で立ちふさがった。
許せなかった。麗華が麗葉と呼んだ少女を傷付けられるのが。なぜなら、麗葉は――
「お姉……様?」
 私の大事な妹なのだから。そんな想いを持つ麗華を、麗葉は戸惑った表情で見つめている。
「麗葉、逃げ、く!?」
 そんな麗葉に逃げるように声を掛けるが、その間に怪人に襲われてしまう。
なんとか野太刀で受け止めるものの、麗華はこのままではやられると感じていた。
自分では怪人と戦うのはままならない。なぜなら、自分は”気も魔力”もろくに扱えないのだから。
「おい、このままじゃ――」
「わかってる。望、お前は麗華の近くにいろ」
「た、戦うの?」
 何かを言いかける雄介に答えつつ、士は望にそんなことを告げた。
言われた望は戸惑っていた。また、士が戦おうとする。それが自分を凄く不安にさせる。
だって、戦ったら士は傷付くかも……いや、いなくなってしまうかもしれなかったから――
「このままだと俺達も危ないからな。いくぞ、雄介」
「おう!」
 そんな望に答えつつ、士はベルトを装着する。
声を掛けられた雄介も返事をしながらカードを持って両手を腹部に当ててベルトを装着した。
雄介としてもこのまま見ているわけにはいかなかった。このままだと笑顔が失われることになるから――
「「変身!!」」
『仮面ライド――ディケイド!!」
 掛け声と共に士はカードをベルトにセットし、雄介もベルトのボタンを押すと2人の姿がディケイドとクウガへと変わっていく。
「え? な……」「え?」「な、なんだ?」
 その光景に麗華、麗葉、サイドテールの少女は驚いてしまう。
特に麗華の驚きは大きかった。士に何かあるとは思っていたが、このことはあまりにも予想外だったのだ。
「まったく、数ばっかりそろえやがって」
「ああ、そうだな、っと。ちょっと借ります」
 ケースを剣にして麗華に組み掛かる怪人などを切り裂く士に答えつつ、雄介は手短にいた怪人を殴ってから落ちていた棍を拾い上げた。
「超変身!!」
 そして、構えながら叫ぶとその姿が変化した。体と目の色が青くなり、肩当てが黒くなる。
更には持っていた棍も青く硬質で装飾が施された物へと変わっていた。
「てりゃあ!」
 その姿に変わった雄介が先程とは変わって素早い動きで棍を使い、怪人達を打ちのめしていく。
「まったく、どれだけいるんだ?」
『アタックライド――ブラスト!!』
 士もケースを銃に組替えカードの力で光弾を乱射するが、あまりの数の多さに思わず愚痴が出てしまう。
だが、無理もない。倒したそばから次々と同じ姿の怪人が現れるのだ。それこそ、蟻が巣穴から出てくるように。
「く、うう……」
 その間に怪人に押し倒されそうになるサイドテールの少女を見て、士はケースからカードを取り出し――
『アタックライド――イリュージョン!!』
「はぁ!?」
 5人に別れ、それぞれが怪人に向かっていく。その光景に麗華は更に驚愕した。
わかるのだ。あれの分身が全て実体だと。麗華の知識の中では”気や魔力”を使ってもそんなことはありえない。
故に驚いたのだが、逆にそれを離れた所で木の枝に腰掛けながら楽しそうに見ている者もいた。
もっとも、その存在には士達は気付いていなかったが。
「あ、く……」
「大丈夫か?」
「あ、はい……あなたは……いったい……」
「後にしてくれ」
 助けられたサイドテールの少女が問い掛けるが、怪人を殴り飛ばした士は答えつつ辺りを見回していた。
怪人達の数は減る様子が無い。このままでこちらが危ないと逃げ出すことも考える士だったが、そこであることに気付いた。
怪人達の姿は全員同じだが、1人だけ装飾品を多く身に付けている。そして、そいつはなぜか動こうとはしない。
「雄介! 露払いをしてやる! そいつをやれ!」
「え? あ、わかった!」
 まさかという思いと共に士は叫びながらケースを銃に組替え、カードを1枚取り出した。
分身していた他の士達も同じことをする中、言われた雄介は戸惑いながらもうなずいて赤の姿へと戻る。
『『『『『ファイナルアタックライド――ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』』』』』
 全ての士がベルトにカードをセットすると、セットしたカードと同じ絵柄のフィールドエネルギーが士達の前に何枚も並んでいく。
そのフィールドエネルギーへと士達が銃となったケースを向けて光弾を発射した。
光弾はフィールドエネルギーを突き破っていくごとに大きさを増し、巨大な光の塊となって放たれて怪人達を吹き飛ばしていく。
それによって怪人達は次々と倒れ、しまいには光弾が大爆発を起こしたことで吹き飛んでいった。
残ったのは士が見つけた怪人のみ。それへと向かって構えていた雄介が走り出し――
「は!」
 天高く跳び上がり、空中で一回転して――
「てりゃああぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
「ぐはぁ!?」
 右足を突き出して突っ込み、その勢いで怪人を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた怪人は吹き飛び、激突するような形で地面に倒れ――
「く、が……が、があぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 それでも立ち上がろうとする。
しかし、蹴りを受けた胸に紋章らしき物が浮かんだかと思うと共に頭に光の輪のような物も浮かび、直後に悲鳴と共に爆発したのだった。
それを見届けてか、残っていた怪人達は先程のことまでが嘘のように引き下がっていく。
離れた場所にいた爆発した怪人よりも豪華な装飾を纏い杖を持つ、まるで王と女王のような姿の怪人と共に――
「引き下がっただけか……ま、今は良しとしておくか」
 その光景に士は元の1人に戻りながら、そんなことをぼやいていた。
そんな彼の姿を麗華は呆然と見つめてしまう。ただ者では無いとは思っていたが……だけど――
「士……お前は何者なんだ……」
「言わなかったか? 俺は通りすがりの仮面ライダーだって」
「仮面……ライダー?」
 思わず出た麗華の疑問。それに士は人差し指を立てながら答えていた。
しかし、意味がわからない。サイドテールの少女もわからないために首を傾げていたのだし。
「仮面ライダーか……ふ、面白そうじゃないか」
 その様子を木の枝に座っていた者が楽しそうに呟いていた。長く伸びた金糸のように艶やかに輝くブロンドの髪。
麗葉よりも少しばかり高い背で、その顔立ちはまるで人形のように可愛らしく整っていた。そんな少女がなぜか鋭い瞳で士達を見ている。
そして、その少女の横には寄り添うように立つ少女がいた。人形のような少女よりも高い背。
その身を人形のような少女もだが、サイドテールの少女が着ているのと同じ制服を身に纏っている。
だが、その少女はどこか人形の少女よりも人形めいて見えた。
エメラルドグリーンに輝く長い髪を持つ顔立ちは整っていながらもまるで人形のように無表情だった為に。
「まったく、面倒なことになりそうだな」
 そんなこととは知らない士は変身を解きながらため息を吐いていた。
これから考えられる厄介ごとに頭を悩ませながら――




 あとがき
いきなり見知らぬ土地に来て、更には厄介ごとに巻き込まれてる士達。
彼らはいったいどうなってしまうのか? そして、麗華と麗葉はどうなる?
サイドテールの少女の正体は? それに謎の少女達の正体は?
なんていう、すでにわかりきってることですが、次回予告的なことをしてみました(おい)
そんなわけで次回は少女達と話し合い、そこである事実に気付いて――
というお話です。次回またお会いしましょう〜



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